負債比率とM&A戦略で企業価値向上を実現する秘訣を解説

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負債比率とM&A|売却価格・資金調達への影響を詳しく解説

負債比率の計算式と目安、D/Eレシオとの違いを整理し、売り手の譲渡価格や破談リスク、買い手の資金調達力への影響を解説します。簿外債務の確認、株式譲渡と事業譲渡の選び方、役員借入金や個人保証の整理、M&A前後の財務改善まで、経営者が押さえる実務を分かりやすく紹介します。

目次

  1. M&A判断で負債比率を読む前に確認すること
  2. 売り手の負債が譲渡価格と交渉条件をどう動かすか
  3. 買い手の負債比率が買収資金と実行可否に及ぼす影響
  4. デューデリジェンスで確認される実質的な負債
  5. 株式譲渡と事業譲渡で負債の扱いはどう変わるか
  6. M&A前後に負債比率を整える実務手順
  7. まとめ

M&A判断で負債比率を読む前に確認すること

「負債比率が100%を超えているため、会社を売却できないのではないか」と不安になる経営者は少なくありません。しかし、M&A(合併・買収)では、比率の高さだけで売却の可否や譲渡価格を決めるわけではありません。

負債の内容、返済期限、現預金、利益、キャッシュフローなどを合わせて確認します。借入が多くても、設備投資によって安定した利益を生み出している会社であれば、必ずしも悪い評価にはなりません。

総負債を使う負債比率の計算式

本記事では、負債比率を次の式で計算します。

  負債比率(%)=負債総額÷自己資本×100

負債総額が5,000万円、自己資本が1億円なら、負債比率は50%です。

計算は簡単ですが、自己資本と総資産を取り違えないよう注意が必要です。決算書では、一般に貸借対照表の負債合計と純資産の部を確認します。

なお、「負債比率」という名称を、負債÷総資産の意味で使う資料もあります。名称だけで判断せず、どの数字を使った計算式なのかを確認しましょう。

M&Aで確認されるD/Eレシオとの違い

M&A実務では、負債比率と合わせてD/Eレシオが確認されます。D/Eレシオは、一般に有利子負債を自己資本で割って計算する指標です。

有利子負債とは、銀行借入金や社債など、利息の支払と元本の返済が必要な負債を指します。

総負債を使う場合

総負債には、銀行借入金だけでなく、買掛金、未払金、未払費用なども含まれます。そのため、会社全体がどの程度、他人資本に依存しているかを確認する際に役立ちます。

有利子負債を使う場合

有利子負債に絞ったD/Eレシオは、借入金の返済負担を確認するために使われます。M&Aでは、買収後の資金繰りや金融機関への返済に直接影響するため、こちらを重視することも多くあります。

100%以下は一つの目安にすぎない

負債比率は、100%以下であれば比較的安定していると説明されることがあります。ただし、すべての会社に当てはまる基準ではありません。

製造業、不動産業、運輸業、宿泊業など、設備や不動産への投資が多い業種は、負債比率が高くなりやすい傾向があります。自社の過去3~5年の推移、同業他社の水準、借入金の使途を比較して判断することが大切です。

債務超過では通常の読み方ができない

自己資本がマイナスとなる債務超過では、負債比率が負の数になることがあります。この状態では、通常の負債比率による比較はあまり意味を持ちません。

実質的な資産と負債、今後の利益、資金繰り、買い手による資本支援の可能性などを優先して検討します。

負債比率と一緒に返済能力を見る

負債比率が低くても、赤字が続き、現預金が少なければ安心できません。反対に、負債比率が高くても、安定した営業キャッシュフローで返済できる会社は評価されることがあります。

純有利子負債、年間の元利返済額、債務償還年数、利息を負担できる利益があるかなどを合わせて確認しましょう。利益だけでなく、実際に現金が残っているかを見ることが重要です。

売り手の負債が譲渡価格と交渉条件をどう動かすか

決算書に借入金が多いと、「借金も買い手が引き継いでくれる」と考える経営者もいます。しかし、株式譲渡では、買い手が借入金を直接引き受けるのではありません。

対象会社の法人格がそのまま続くため、借入金の債務者も対象会社のままです。買い手は、負債を抱えた会社の株式を取得することになります。

企業価値と株式価値を分けて考える

負債比率が高いだけで、事業そのものの価値が機械的に下がるわけではありません。ただし、一般に企業価値から純有利子負債を差し引いて株式価値を計算する場合、借入金が多く現預金が少ないほど、経営者が受け取る株式譲渡代金は小さくなりやすくなります。

純有利子負債は、有利子負債から現預金などを差し引いた金額です。同じ利益を生み出す2社であっても、純有利子負債が多い会社は、株式価値が低くなる可能性があります。

一方、負債比率を下げるために現預金を返済へ回し過ぎると、日常の支払や仕入れに必要な運転資金が不足します。比率だけを整えるのは禁物です。

高い負債比率が破談につながる場面

買い手が警戒するのは、借入金の金額だけではありません。

赤字の補填を目的とした借入が続いている、返済原資が不足している、短期借入で長期の設備投資を賄っている、金融機関への説明と実態が異なるといった状態は、慎重に確認されます。

資料が不足していたり、経営者の説明が途中で変わったりすると、数字以上に経営管理への不信感が強まります。M&A実務では、ここで交渉が止まることがあります。

役員借入金は価格調整の対象になりやすい

中小企業では、経営者や親族が会社へ資金を貸し付けていることがあります。これが役員借入金です。

買い手から、M&Aの実行前に返済すること、譲渡代金から差し引くこと、経営者が債権を放棄することなどを求められる場合があります。

ただし、経営者が役員借入金を放棄すると、会社側に債務免除益が生じ、課税関係が発生する可能性があります。返済、放棄、譲渡価格からの調整のどれが適切か、税務と資金繰りの両面から検討しましょう。

価格以外の条件が厳しくなることもある

負債の金額や内容に不確実性がある場合、譲渡価格の減額だけでなく、契約条件にも影響します。

例えば、表明保証の範囲を広げる、売り手が損害を補償する期間を長くする、譲渡代金の一部を一定期間留保するといった条件です。

問題があること自体より、交渉の終盤で初めて発覚したことが問題になるケースは珍しくありません。把握している負債は、対応策と合わせて早めに説明する方が交渉を進めやすくなります。

買い手の負債比率が買収資金と実行可否に及ぼす影響

負債比率は、売り手だけの問題ではありません。買い手の借入金が多く、返済余力が小さい場合、魅力的な対象会社を見つけても買収資金を調達できないことがあります。

追加融資では買収後の返済余力を見られる

金融機関は、買い手単体の負債比率だけで融資を判断しません。買収後の借入残高、対象会社の利益とキャッシュフロー、返済期間、自己資金の金額などを確認します。

買収後に利益が少し下がっただけで返済できなくなる計画では、希望する金額を借りられない可能性があります。金利の引上げ、追加担保、財務制限条項などを求められることも。

財務制限条項とは、一定の利益や純資産などを維持するよう借り手に求める契約条件です。

LBOでは対象会社のキャッシュフローが重要になる

LBO(レバレッジド・バイアウト)は、借入を活用して株式を取得し、対象会社の将来キャッシュフローなどを返済原資とする手法です。

対象会社の利益が不安定である場合や、買収後に大きな設備投資が必要となる場合には、返済計画が厳しくなります。売上が計画を下回った場合でも、仕入れ、人件費、税金、借入返済を続けられるか確認しなければなりません。

買収後に信用力が低下する可能性

大きな借入を伴うM&Aでは、買い手の負債比率が上昇します。上場会社や大企業では外部の信用格付け、中小企業では金融機関の内部評価が下がる可能性があります。

その結果、M&A後の設備資金や運転資金を借りにくくなることもあります。買収代金だけでなく、PMI(M&A後の統合プロセス)に必要な資金まで含めて、十分な余力を残すことが大切です。

デューデリジェンスで確認される実質的な負債

貸借対照表に記載された銀行借入金だけを確認して安心すると、交渉の後半で問題が出ることがあります。

M&Aでは、財務デューデリジェンスを通じて、決算書に表れている負債だけでなく、将来の支出につながる可能性がある項目も調査します。

簿外債務と偶発債務を確認する

簿外債務とは、本来は負担すべき債務が決算書に十分反映されていない状態です。偶発債務とは、現時点では金額や発生が確定していないものの、将来の支払につながる可能性がある債務を指します。

人件費や退職金に関する負担

未払残業代、未加入期間の社会保険料、退職金規程に基づく将来の支給負担などが確認されます。従業員数が多い会社では、1人当たりの金額が小さくても、全体では大きな負担になることがあります。

保証や契約に関する負担

他社の借入金に対する債務保証、訴訟やクレーム、リース契約の解約違約金、長期間の購入義務なども確認対象です。

金額が確定していなくても、将来の支出可能性が高い場合は、譲渡価格や契約条件へ反映されることがあります。

売り手が先に用意したい資料

借入金一覧、返済予定表、金銭消費貸借契約書、担保と保証の一覧、金融機関別の残高証明、役員借入金の明細をそろえます。

さらに、退職金規程、残業時間の管理資料、係争案件、保証契約、リース契約なども確認しておくと、買い手からの質問に一貫して答えやすくなります。

開示の遅れは信頼を傷つける

負債やリスクを把握したら、想定金額、発生原因、解消方法、対応時期を整理して開示します。

M&A前にすべて解決できるとは限りません。解決できない項目は、価格や契約条件にどのように反映するかを準備しておきましょう。

チェンジ・オブ・コントロール条項を確認する

借入契約、賃貸借契約、取引基本契約などには、会社の支配権が変わる場合に、相手方の事前承諾を求める条項が設けられていることがあります。これをチェンジ・オブ・コントロール条項といいます。

借入契約の内容によっては、承諾を得ずにM&Aを実行すると、借入金の一括返済を求められる可能性があります。必要な金融機関や取引先との協議は、代金決済の前に進める必要があります。

株式譲渡と事業譲渡で負債の扱いはどう変わるか

「負債を引き継ぎたくないなら事業譲渡を選べばよい」と単純には決められません。

事業譲渡は負債を切り分けやすい一方、契約、従業員、許認可などを個別に移す手続が必要になるためです。

株式譲渡では会社の負債がそのまま残る

株式譲渡では、会社の株主が変わります。対象会社そのものは存続するため、資産、負債、従業員との雇用関係、取引契約などは原則として対象会社に残ります。

手続を比較的進めやすい反面、決算書に記載されていない債務や、将来発生する可能性がある負担も会社に残ります。そのため、買い手はデューデリジェンスを慎重に行います。

事業譲渡では承継する負債を選べる

事業譲渡では、買い手が取得する資産、負債、契約を個別に定めます。不要な負債を承継対象から外し、必要な事業だけを譲渡する設計も可能です。

ただし、債務、取引契約、従業員との雇用関係などを移す際には、原則として関係者の同意や個別の手続が必要です。事業に必要な許認可を買い手が取り直さなければならない場合もあります。

売り手に有利なスキームとは限らない

事業譲渡では、一般に譲渡代金を会社が受け取ります。経営者が個人で株式譲渡代金を受け取る場合とは、税金や資金の受け取り方が異なります。

事業譲渡後に会社から経営者へ資金を移す場合には、配当や清算などの方法と税負担も検討しなければなりません。

負債リスクだけでなく、税引後の手取り額、従業員、取引先、許認可、手続にかかる時間を含めて、株式譲渡と事業譲渡を比較する必要があります。

M&A前後に負債比率を整える実務手順

負債比率を下げることだけを目標にすると、必要な設備投資まで止めてしまうことがあります。

会社売却では、比率を見栄えよくすることよりも、負債が増えた理由と返済の見通しを説明できる状態にすることが重要です。

売却前は負債の棚卸しから始める

借入金を金融機関、金利、返済期限、担保、個人保証、資金使途ごとに整理します。

そのうえで、不要資産の売却、過剰在庫の圧縮、赤字事業の見直し、役員貸借の整理などを検討します。短期借入で長期の設備を賄っている場合は、金融機関と長期借入への組替えを相談する方法もあります。

負債の返済を優先し過ぎない

借入金を減らせば負債比率は改善します。しかし、現預金まで減らしてしまうと、日常の資金繰りが不安定になります。

少なくとも、仕入れ、人件費、税金、借入返済などに必要な運転資金を残したうえで、返済額を決めることが大切です。

個人保証は譲渡条件として明確にする

会社を売却しても、経営者の個人保証が自動的に解除されるとは限りません。

金融機関による保証解除や買い手への切替が必要となるため、早めに協議を始めます。最終契約では、個人保証の解除を誰が、いつまでに、どのように進めるかを明確にしましょう。

代金を受け取った後も保証だけが残る状態は避ける必要があります。

買収後は利益改善と負債管理を同時に行う

買い手企業は、販路の拡大、共同購買、重複業務の削減によって利益の改善を目指します。さらに、不要資産の売却、借入金の借換え、資本注入などを組み合わせることで、負債比率を改善できます。

ただし、M&Aによるシナジーが計画どおりに出るまでには時間がかかることがあります。売上が伸びない場合でも、借入返済と運転資金を維持できる計画が必要です。


月次で確認する指標を絞る

負債比率は年に1回だけ確認するのではなく、月次で推移を見ることが重要です。

確認する指標を増やし過ぎる必要はありません。負債比率、純有利子負債、現預金残高、営業キャッシュフロー、元利返済額など、自社の経営に重要な数字を絞って確認します。

自己資本比率や流動比率、売上高総利益率、営業利益率も合わせて見ると、財務の安全性と収益力の変化を把握しやすくなります。

意外と多い落とし穴は、決算書では利益が出ているのに、在庫や売掛金が増えて現金が不足するケースです。利益と現金の動きは、分けて確認しましょう。

まとめ

負債比率は、会社の財務安全性だけでなく、売り手の株式価値、買い手の資金調達力、M&A後の返済余力にも影響します。ただし、比率の高さだけで売却の可否は決まりません。負債の内容、簿外債務、キャッシュフロー、個人保証、契約条項を早めに整理し、株式譲渡と事業譲渡の違いも踏まえて、自社に合う条件と進め方を検討することが重要です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人