株式交換は、M&Aの手法の1つであり、組織再編や上場企業のM&Aに利用されることが多いです。本記事では、事業の継続を目指す経営者のみなさんに、株式交換によるM&Aについて、特徴やメリット・デメリット、具体的な流れなどを詳しく解説していきます。ぜひ、参考にしていただければと思います。
目次
株式交換とは、売り手が保有する全ての自社株を譲渡し、対価として買い手企業の株式を受領することで、買い手企業の100%子会社の関係を構築するM&Aの手法です。この場合、M&Aの対価は買い手企業の株式となります。
株式交換によるM&Aは、買い手企業が上場企業であることが多いです。というのも、上場企業の株式は現金化しやすく、売り手が受け取った株式を資金に変換することが比較的容易だからです。
株式交換の一種である三角株式交換は、子会社が親会社の存在下で別の会社を子会社にする手法です。M&Aの対価として、買い手企業の親会社が発行する株式を売り手に渡します。
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(株式交換)
株式交換には、簡易株式交換や略式株式交換といった手法も存在します。以下で、それぞれの特徴を説明します。
通常、株式交換を実施するには、株主総会での特別決議により株主の承認を得なければなりません。しかし、簡易株式交換は、一定の条件を満たすことで、株主総会の決議が不要となる株式交換です。
略式株式交換は、親会社が子会社の90%以上の議決権を保有している状況で実施される株式交換です。子会社は既に親会社の特別支配対象企業となっているため、改めて承認を求める必要がないのです。
株式交換に似た手法として、株式移転や株式譲渡があります。それぞれの違いについて、以下で解説していきます。
株式移転とは、新たに会社を設立し、対象企業の株式を取得させる方法です。これは主に、ホールディングスを設立する際に利用されることが多いです。一方で、株式交換は完全な親子関係を築いてグループ企業の再編や連携を強化する目的で実施されます。
株式譲渡は、株主から株式を買い取り、経営権を獲得することを目的として実施されます。株式譲渡の成立には、譲渡株主と譲受企業の合意が必要です。それに対して、株式交換は株主総会の特別決議を通じて実行され、株主個々の合意は必要ありません。
株式交換を行う際には、多くの利点が生じます。それでは具体的にどのような利点が存在するのかを説明していきます。
株式交換は、議決権の3分の2以上の賛成があれば実行可能です。そのため、少数株主からの同意を得ることが不要です。全株主からの同意が得られなくても、この手法を適用できることから、売り手と買い手企業双方にとって利点が生じます。
売り手は、M&Aの報酬として親会社の株式を受け取ります。これにより、株式保有を通じて親会社の経営に参加することができます。この点は、株式交換において売り手にとって大きな魅力となっています。
株式交換の際、売り手は買い手企業の完全子会社となります。これにより、親会社とは別個の法人として存続し、企業固有の特性を維持することができます。これが従業員の退職リスクを低減させるため、売り手にとって安心感が得られます。
株式交換によるM&Aでは、対価として現金ではなく株式が用いられるため、買い手企業は資金を準備する必要がありません。現金が十分に用意できない状況でも、株式交換に伴うM&Aが実行可能です。これは、買い手企業が株式交換を選ぶ大きな利益です。
株式交換を伴うM&Aには、免れることのできない弊害も存在します。それでは具体的にどのようなデメリットがあるかを解説していきます。
株式交換の実施には、株主総会において特別決議を通過させることが求められます。株主総会を開催するためには、費用と時間の準備が必要とされることから、売り手と買い手企業双方にとってデメリットとなります。
他のM&A施策と比較すると、株式交換は手続きが煩雑です。会社法の規定に従い、適切な手続きを行うことが必要とされます。M&A成立に関して手間がかかるため、売り手と買い手企業の両者にとって負担が大きくなります。
売り手は、株式交換の報酬として買い手企業の株式を取得します。株式は現金化が可能ですが、常に株価変動のリスクが伴います。取得した株価が下がる恐れもありますから、売り手は大きな損害のリスクを事前に考慮する必要があります。
株式交換によるM&Aが実現されれば、買い手企業の株主構成が変化することがあり、経営への影響が生じることが注目されます。従来の経営が維持できなくなることもあるため、買い手企業にとってデメリットとなる可能性があることを留意すべきです。
株式交換は、企業がどのようなプロセスを経て実行されるのでしょうか。本節では、株式交換の一連の流れについて詳しく解説していきます。
まずはじめに、売り手と買い手企業が株式交換に関する話し合いを行い、双方が合意に至った場合に株式交換契約を締結します。株式交換契約書には、交換に関する宣言や目的、条件など重要な事項が記載されますので、押さえておくべき一般的な内容については事前に十分に確認しておきましょう。
次に、株式交換の実施にあたっては、会社法に基づいて所定の日から事前開示書類を本店に備え置くことが求められます。この書類は本店に設置しなければならないと定められているため、必要なタイミングまでに書類を整えておくことが大切です。
株式交換を実行するためには、株主総会での承認を得ることが必要です。出席株主の議決権の過半数をもち、さらに3分の2以上の議決権による承認を獲得しなければならないとされています。
親会社となる買い手企業は、株式交換契約書に定められた効力発生日に子会社となる売り手の全株式を取得します。そして、効力発生日から2週間以内に変更登記を行う必要がありますので、手続きを怠らないようにしましょう。
株式交換の効力発生日を過ぎた後には、買い手企業と売り手双方がそれぞれ事後開示書類を作成し、本店に6ヶ月間保管しなければなりません。。
ここでは、実際に株式交換を活用している企業の事例をいくつか取り上げ、紹介していきます。
不動産業界で名を馳せる三菱地所は、非上場企業であったロイヤルパークホテルを株式交換を通じて完全子会社化しました。株式交換契約は2021年5月26日に締結され、効力発生日は2021年8月1日となっています。
国内の産業用ガス市場で活躍するエア・ウォーターは、日本海水を株式交換を利用して完全子会社化しました。株式交換契約の締結は2021年2月10日に行われ、効力発生日は2021年3月26日となりました。
静岡ガスは、技術やノウハウの共有を通じて効率的な事業展開を目指す目的で、中遠ガスを株式交換により完全子会社化しています。契約締結日は2019年2月6日であり、効力発生日は2019年5月1日です。
テレビ番組制作などを手がけるKeyHolderは、広告やキャスティング事業を展開するallfuzを、簡易株式交換によって完全子会社化しました。株式交換契約は2019年2月13日に結ばれ、効力発生日は2019年4月1日となっています。
株式交換にはさまざまな注意点が存在します。この記事では、特に重要な注意点について具体的に解説していきます。
株式交換の際には、売り手企業と買い手企業の株式価値算定をそれぞれ行うことが不可欠です。上場企業は株価が公表されているため、企業価値の目安がわかりやすいですが、未上場企業や株式非公開企業の場合、客観的な価格が分かりにくいことが課題となります。このため、収益性や将来性などを考慮に入れた企業価値算定を慎重に進めていくべきです。
また、株式交換では簿外債務や不要な資産なども継承しなければならないことがあります。デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を通じて、簿外債務や不要な資産がどの程度存在するかを確認し、リスクを最小限に抑えましょう。
さらに、M&Aが実施される際、売り手(業の従業員が不安を抱えて退職を検討する可能性があります。優秀な従業員が退職することは、企業価値の低下に直結するため、従業員の流出を防ぐための対策が重要です。事前の説明や協議を重ね、理解を得ることが不可欠です。
株式交換において、税務の知識も非常に重要です。本記事では、適格株式交換と非適格株式交換の税務上の特徴をそれぞれ解説します。
適格株式交換とは、一定の要件を満たす場合に、子会社となる売り手企業が所有する資産について時価評価を行わずに実施できる株式交換です。適格株式交換に対しては税制上の優遇措置が存在し、課税が免除されます。
一方、非適格株式交換は適格株式交換の要件を満たしていない株式交換のことを指します。これらの場合には、子会社となる売り手企業が所有する資産について時価評価を実施することが求められます。そのため、税制上の優遇を受けられず、子会社とその株主に課税が発生することになります。
株式交換は、手続きやルールが非常に複雑であり、会社法に則って適切に対応しなければなりません。そのため、株式交換を通じたM&Aを検討する際には、専門家への相談がおすすめです。リスク回避を図りながら、適切な手続きを進めるためのアドバイスや支援を受けることができます。
株式交換を利用したM&Aは、多くの上場企業が成功させています。さまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在するため、株式交換の特徴を十分に理解し、戦略的に取り組むことが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画