コングロマリットとは?多角経営の特徴とコンツェルンとの違い

コングロマリットとコンツェルンの違いを解説します。多角化経営の特徴やメリット・デメリットを踏まえ、企業戦略としてのコングロマリットの役割を分かりやすく解説します。経営戦略の理解に役立つ情報満載です。

目次

  1. コングロマリットの定義と特徴
  2. コングロマリット・プレミアムの概念
  3. コングロマリット・ディスカウントの問題点
  4. コングロマリットのメリットとデメリット
  5. コングロマリットと他の企業形態の比較
  6. まとめ

コングロマリットの定義と特徴

コングロマリットとは、多様な業種や事業分野にまたがる巨大な複合企業グループのことを指します。この経営形態は、シナジー効果の創出やリスク分散を目的とした戦略的な手法として知られています。

コングロマリットの特徴

コングロマリットの主な特徴は以下の通りです:

1. 異業種の組み合わせ:厳密には、異なる業種の事業を組み合わせる企業体をコングロマリットと呼びます。ただ
        し、同業種で構成されたグループ企業体を指すこともあります。

2. 多角的な事業展開:コングロマリット型の多角経営では、グループで保有しているノウハウや既に進出している市
        場との関連性が低い異業種への参入も行われます。

3. リスクヘッジ効果:多角的な事業展開により、特定の顧客や市場動向の影響を受けにくいビジネスモデルを構築
        し、リスク分散を図ることができます。

4. グローバル戦略との親和性:世界情勢の影響を受けやすい現代において、リスク分散と競争力強化を目指す企業に
        とって、コングロマリット戦略は理想的な経営手法の一つとされています。

コングロマリットの形成は、企業が成長し、一定の事業規模に達した後に、子会社を複数持つグループ企業へと発展する過程で生まれることが多いです。この組織編成方法は、経営方針、収益構造、市場戦略などを考慮して選択されます。

コングロマリット・プレミアムの概念

コングロマリット・プレミアムとは、多角的な事業展開によるシナジー効果が投資家の期待を上回る収益と株価上昇をもたらす現象を指します。この概念は、コングロマリットの形成によって生まれる付加価値を表現しています。

コングロマリット・プレミアムの発生要因

コングロマリット・プレミアムが発生する主な要因は以下の通りです:

1. グループ内での技術交流:異なる事業分野の知識や技術が共有されることで、新たなイノベーションが生まれる可
        能性が高まります。

2. 物流の効率化:複数の事業を統合することで、物流システムの最適化や規模の経済性が実現できます。

3. システム管理の一元化:グループ全体でITシステムや管理体制を共通化することで、業務効率が向上します。

4. 営業活動の促進:異なる事業分野のネットワークを活用することで、販路拡大や新規顧客の獲得が容易になりま
        す。

5. 資金調達の優位性:大規模な企業グループとなることで、より有利な条件での資金調達が可能になる場合がありま
        す。

これらのシナジー効果により、コングロマリットは個々の事業の単純な合計以上の価値を生み出すことが期待されます。そのため、多くの企業がコングロマリット化を通じて企業価値の向上を目指しています。

ただし、コングロマリット・プレミアムの実現は必ずしも保証されるものではありません。効果的なグループ経営と戦略的な事業ポートフォリオの構築が、プレミアムの創出には不可欠です。

コングロマリット・ディスカウントの問題点

コングロマリット・ディスカウントとは、多角化戦略が逆効果となり、シナジー効果が発揮されずに、グループ全体の経営に悪影響を及ぼす現象を指します。この問題は、コングロマリットの形成が必ずしも企業価値の向上につながらない場合があることを示しています。

コングロマリット・ディスカウントの発生要因

コングロマリット・ディスカウントが発生する主な要因と問題点は以下の通りです。

1. 事業間の連携不足:関連性の低い異業種に参入したものの、想定していた事業間の連携が上手く取れない場合があ
        ります。

2. 管理コストの上昇:多様な事業を抱えることで、グループ全体の管理や調整にかかるコストが増大する可能性があ
        ります。

3. 経営資源の分散:各事業への投資や資源配分が分散し、核となる事業の競争力が低下する恐れがあります。

4. 複雑な組織構造:事業の多角化に伴い、組織構造が複雑化し、意思決定の遅延や非効率性を招く可能性がありま
        す。

5. 投資家の評価低下:事業の関連性が低い場合、投資家がグループ全体の事業を理解し評価することが困難になり、
        株価が低迷する可能性があります。

6. シナジー効果の不足:異なる事業間でのシナジー創出が期待通りに実現せず、むしろ非効率性が生じる場合があり
        ます。

7. リスク管理の複雑化:多様な事業を抱えることで、各事業特有のリスクに対応する必要が生じ、リスク管理が複雑
        化する可能性があります。

コングロマリット・ディスカウントの問題を回避するためには、事業間のシナジー創出を重視した戦略立案、効果的なグループガバナンスの構築、そして定期的な事業ポートフォリオの見直しが重要です。

コングロマリットのメリットとデメリット

コングロマリット経営には、さまざまなメリットとデメリットが存在します。これらを理解し、適切に管理することが、成功するコングロマリット戦略の鍵となります。

コングロマリットの主なメリット

1. 経営リスクの分散: 

 o 多角的なビジネス展開により、特定の産業や市場の変動リスクを軽減できます。

 o 例:ソニーグループは、電子機器製造から金融、エンターテインメント部門まで多岐にわたる事業を展開し、リス
     ク分散に成功しています。

2. 中長期的なビジョンの策定が容易: 

 o 複数の異なる市場への進出により、短期的な成果にとらわれず、長期的な成長戦略を立てやすくなります。

 o 例:楽天グループは、イーバンク銀行(現楽天銀行)を子会社化し、グループ内の金融サービス部門の中心的役割
     を担わせることで、新たな経済圏の構築につなげました。

3. シナジー効果の創出: 

 o 異なる業種の企業が集まることで、ノウハウや技術の共有が可能となり、新たな価値創造につながります。

 o 例:エア・ウォーターは、産業ガス事業を核に、医療機器、食品、農業など多様な分野でサービスを展開し、グル
     ープ内でのシナジー効果を実現しています。

4. 資金調達の優位性: 

 o 大規模な企業グループとなることで、より有利な条件での資金調達が可能になる場合があります。

5. 人材の有効活用: 

 o グループ内での人材交流や異動により、従業員のスキル向上や新たな視点の獲得が期待できます。

コングロマリットの主なデメリット

1. 短期的な経営戦略には向かない: 

 o 既存の保有技術や参入市場と異なる分野への展開には時間がかかるため、短期的な成果を求めるには適していませ
   ん。

2. コミュニケーション不足が生じやすい: 

 o 異業種が混在する環境では、部門間のコミュニケーション不足が生じやすく、知識や技術の共有が困難になる可能
   性があります。

3. 企業価値低下のリスク: 

 o コングロマリット戦略が失敗した場合、グループ全体の企業価値が低下し、投資家からの評価が下がる可能性があ
   ります。

4. コーポレートガバナンスの難しさ: 

 o 多様な業種を抱えるため、各企業・事業ごとに異なる経営戦略や方針が存在し、グループ全体の統治が困難になる
   場合があります。

5. 経営資源の分散: 

 o 多角化により経営資源が分散し、核となる事業の競争力が低下する恐れがあります。

6. 複雑な組織構造: 

 o 事業の多角化に伴い、組織構造が複雑化し、意思決定の遅延や非効率性を招く可能性があります。

コングロマリット戦略を成功させるためには、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、適切なバランスを取りながら経営を行うことが重要です。また、定期的な事業ポートフォリオの見直しや、効果的なグループガバナンスの構築も不可欠です。

コングロマリットと他の企業形態の比較

コングロマリットは、企業の多角化戦略の一つですが、他にもさまざまな企業形態や戦略が存在します。

コングロマリットと他の企業形態の比較

ここでは、コングロマリットと他の主要な企業形態を比較し、その特徴を明らかにします。

1. トラスト: 

 o 定義:同業種の企業が集まってグループを形成し、市場での独占力を高める企業連合体です。

 o 特徴:市場支配力が強く、効率的な生産や価格設定が可能です。

 o コングロマリットとの違い:トラストは同業種の企業連合であるのに対し、コングロマリットは異業種の企業群で
   す。

 o 留意点:過度なトラストは独占禁止法違反のリスクがあります。

2. コンビナート: 

 o 定義:製品製造工程に関わる企業を特定地域に集結させ、効率的な生産を目指す複合企業体です。

 o 特徴:生産工程の垂直統合により、効率的な生産と物流が可能です。

 o コングロマリットとの違い:コンビナートは特定の産業チェーンに焦点を当てているのに対し、コングロマリットは多様な産業にまたがります。

3. カルテル: 

 o 定義:同業者間で価格や生産計画などを調整する協定です。

 o 特徴:市場競争を制限し、参加企業の利益を守ることを目的としています。

 o コングロマリットとの違い:カルテルは資本関係のない協定であるのに対し、コングロマリットは資本関係を伴う
   企業グループです。

 o 留意点:多くの国で違法とされています。

多角化戦略の種類と特徴

コングロマリット以外にも、企業の多角化戦略には以下のようなものがあります。

1. 水平型多角化戦略: 

 o 定義:既存の事業や技術を活用し、類似する市場で新製品を開発する手法です。

 o 例:自動車メーカーが自動二輪車を製造するケース。

 o 特徴: 

  • 既存のノウハウを最大限活用できるため、参入リスクが低いです。

  • 比較的短期間でのシナジー効果が期待できます。

  • 顧客基盤やブランド力を活用した事業展開が可能です。

2. 垂直型多角化戦略: 

 o 定義:既存の顧客やそれらに近い顧客に新製品を提供する多角化戦略です。

  • 例:家電メーカーがシステムキッチンを手掛けるケース。

  • 特徴: 

 o 顧客ニーズを把握しやすくなり、提案力の向上につながります。

 o サプライチェーンの効率化や品質管理の向上が期待できます。

 o 市場の変化に対する適応力が高まります。

3. 集中型多角化戦略: 

 o 定義:既存の技術と関連性の高い製品を新たな市場へ投入する戦略です。

 o 例:デジタルカメラで培った光学技術や画像処理技術を医療分野に応用するケース。

 o 特徴: 

  • 既存技術に関連性が高い製品を開発するため、開発費の削減が可能です。

  • 技術的なシナジー効果が高く、イノベーションを促進します。

  • 既存の強みを活かしつつ、新市場への展開が可能です。

コングロマリットとこれらの多角化戦略の主な違いは、以下の点にあります。

1. 事業間の関連性:コングロマリットは、異なる業種の事業を組み合わせるため、事業間の関連性が低い場合が多い
   です。一方、他の多角化戦略は、既存の技術や市場との関連性を重視します。

2. リスク分散の度合い:コングロマリットは、異なる業種に進出することで、より広範囲なリスク分散が可能です。
   他の戦略は、比較的関連性の高い分野での多角化のため、リスク分散の効果は限定的です。

3. シナジー効果の即効性:水平型や垂直型多角化戦略は、既存の事業との関連性が高いため、比較的短期間でシナジ
   ー効果が現れやすいです。一方、コングロマリットは、異業種間のシナジー創出に時間がかかる場合があります。

4. 経営の複雑さ:コングロマリットは、異なる業種の事業を抱えるため、経営管理が複雑になりやすいです。他の戦
   略は、既存事業との類似性が高いため、比較的管理がしやすい傾向があります。

5. 長期的な成長ポテンシャル:コングロマリットは、多様な事業ポートフォリオを持つことで、長期的な成長機会を
   多く有しています。他の戦略は、特定の分野や技術に焦点を当てているため、その分野の市場動向に影響を受けや
   すいです。

企業は、自社の強みや市場環境、長期的な目標に基づいて、これらの戦略の中から最適なものを選択する必要があります。コングロマリット戦略は、リスク分散と長期的な成長を重視する企業に適していますが、効果的な実行には高度な経営能力が求められます。

まとめ

コングロマリットは、多様な業種や事業分野にまたがる巨大な複合企業グループとして、現代のビジネス環境において重要な役割を果たしています。リスク分散、シナジー効果の創出、長期的な成長戦略の実現など、多くのメリットを持つ一方で、経営の複雑化や企業価値低下のリスクなど、課題も存在します。成功するコングロマリット戦略には、慎重な計画立案、効果的なグループガバナンス、そして継続的な事業ポートフォリオの最適化が不可欠です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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