会社分割の仕訳を整理|分割会社と承継会社の会計処理実務
会社分割の仕訳を、分割会社と承継会社・設立会社の双方から解説します。吸収分割と新設分割、分社型と分割型、共通支配下と第三者による取得、税務上の適格・非適格を整理し、簿価・時価・のれん・資本金等の処理や、会社売却前の事業切出しで注意すべき点を分かりやすく説明します。
目次

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(会社分割)
会社分割の仕訳は、吸収分割か新設分割かだけでは決まりません。同じ会社分割でも、グループ内の組織再編なのか、第三者による事業取得なのか、対価を誰が受け取るのかによって、資産・負債の評価額や損益の有無が変わります。
最初に、次の4点を確認します。
・事業を受け取る会社は既存会社か、新しく設立する会社か
・対価を分割会社が受け取るのか、分割会社の株主へ分配するのか
・会計上、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引のどれに当たるか
・税務上、適格分割か非適格分割か
会計上の分類と税務上の適格判定は、別々に行う必要があります。「適格分割だから会計も必ず簿価」「非適格分割だから会計も必ず時価」と単純に判断すると、処理を誤ることがあります。
吸収分割は、既存の会社が事業に関する権利義務を承継する方法です。新設分割は、新しく設立する会社が承継します。
どちらの場合も、分割会社では移転する資産・負債を帳簿から外し、承継会社または設立会社では受け入れる処理が基本です。ただし、実際の評価額や差額の処理は、当事会社の関係や対価の内容によって変わります。
分社型分割では、分割会社が承継会社や設立会社の株式などを受け取ります。分割会社の帳簿には、移転した事業と引き換えに取得した株式が残ります。
分割型分割では、最終的に分割会社の株主が承継会社や設立会社の株式を受け取ります。会計上は、分社型の会社分割を行った後、分割会社が受け取った株式を株主へ現物配当する2段階の取引として整理するのが一般的です。
中小企業で比較的イメージしやすいのは、親会社が100%子会社へ事業を移し、子会社株式を受け取るケースです。会社分割の前後で支配関係が変わらないため、会計上は共通支配下の取引となり、承継する資産・負債は原則として移転直前の適正な帳簿価額で処理します。
ここでは、分割会社P社が完全子会社S社へ事業を移す吸収分割を想定します。
移転する諸資産の帳簿価額 10,000
移転する諸負債の帳簿価額 4,000
移転する純資産額 6,000
対価 S社株式のみ
分割会社は、引き渡す資産・負債を帳簿から外し、受け取ったS社株式を計上します。
借方 諸負債 4,000
借方 S社株式 6,000
貸方 諸資産 10,000
この前提では、S社株式の取得原価は、移転した事業の純資産額を基礎に計算され、移転損益は生じません。固定資産に含み益があっても、共通支配下の取引では帳簿価額を引き継ぐため、単体会計で直ちに売却益を計上する処理にはなりません。
株式だけでなく現金などを併せて受け取る場合は、受取額と移転した事業の純資産額との関係によって、損益が生じることがあります。
「グループ内の会社分割なら損益は一切出ない」と決めつけないことが大切です。
承継会社は、資産・負債を分割会社の適正な帳簿価額で受け入れ、差額を払込資本として処理します。
借方 諸資産 10,000
貸方 諸負債 4,000
貸方 払込資本 6,000
実際には、払込資本を資本金、資本準備金、その他資本剰余金などに分けることがあります。どの項目をいくら増やすかは、会社計算規則、分割契約・分割計画、会計基準などに基づいて決めます。
純資産の差額をすべて自動的に資本金とするわけではありません。
完全親子会社間や、同じ親会社の下にある兄弟会社間では、株式などの対価を交付しない会社分割が行われることがあります。
ただし、親会社から子会社へ事業を移す場合と、兄弟会社間で事業を移す場合では、会計・税務上の扱いが異なります。無対価だから同じ仕訳になるわけではありません。
分割会社、承継会社、共通親会社の関係を整理したうえで、分社型か分割型か、どの株主資本を動かすかを確認します。
第三者が事業を取得する吸収分割では、会社分割の形式よりも、会計上どちらが取得企業に当たるかが重要です。
取得に該当する場合、取得企業は受け入れた資産・負債を、原則として取得日時点の時価を基礎に計上します。受け入れた資産・負債の時価純額と取得原価との差額は、のれんまたは負ののれんとして処理します。
取得原価が100、受け入れる資産・負債の時価純額が80である場合、差額20がのれんとなるイメージです。
借方 諸資産 120
借方 のれん 20
貸方 諸負債 40
貸方 交付した対価 100
負ののれんが生じた場合は、資産・負債の範囲や時価評価に誤りがないかを見直したうえで、会計基準に従って処理します。
なお、会計上ののれんと、税務上の資産調整勘定は同じ金額になるとは限りません。名称や役割は似ていますが、計算方法や償却方法が異なります。
分割会社側では、現金を受け取って事業との関係が切れる場合と、承継会社株式を受け取って投資関係が続く場合とで、移転損益の考え方が異なります。
株式を受け取るから必ず損益が出ない、現金を受け取るから必ず全額が利益になる、という単純なものではありません。
M&A(合併・買収)実務では、会社分割後の議決権比率、子会社・関連会社に該当するか、受け取った株式を売却する予定があるかまで確認します。
分割型分割は、承継会社の株式を分割会社の株主へ渡す方法です。しかし会計上は、単に株式を株主へ直接渡すだけの処理ではありません。
ここが意外と多い落とし穴です。
分割会社は、移転する資産・負債を帳簿から外し、承継会社株式を受け取ったものとして処理します。
共通支配下で株式だけを対価とする場合は、一般に受け取った株式を、移転した事業の純資産額を基礎に計上します。
続いて、分割会社が受け取った承継会社株式を株主へ分配します。
分割会社では、承継会社株式を減額するとともに、利益剰余金や資本剰余金などの株主資本を減少させます。どの株主資本を減らすかは、分割計画や会社の意思決定に基づいて確認します。
税務上は、適格要件、株主が受け取る対価、分割会社の資本金等の額などによって、株式の取得価額やみなし配当の有無が変わります。
分割会社と承継会社の仕訳を作るだけでは足りません。法人株主か個人株主かによっても税負担が異なるため、株主側の処理まで確認する必要があります。
税務上の適格分割は、資産・負債の含み損益に対する課税を将来へ繰り延べる制度です。
適格分割では、原則として移転する資産・負債を税務上の帳簿価額で承継します。非適格分割では、原則として時価で譲渡したものとして、分割会社に譲渡損益が生じます。
承継会社は、時価を基礎に税務上の取得価額を計算します。
適格要件は、完全支配関係がある場合、支配関係がある場合、資本関係のない会社同士が共同事業を行う場合などで異なります。
すべての会社分割に同じ要件を当てはめる方法は正確ではありません。
資本関係のない会社間で共同事業を行う場合などは、一般に次の事項を確認します。
・分割事業と承継会社の事業に関連性があるか
・事業規模や役員の引継ぎに関する要件を満たすか
・分割事業の主要な資産・負債が移転するか
・分割事業に従事する従業者のおおむね80%以上が承継先で働く見込みか
・移転した事業が承継会社で継続する見込みか
・必要な場合、交付された株式を継続して保有する見込みか
実際の判定では、形式だけでなく、分割後も事業を続けられる実態があるかを確認します。
非適格分割では、対価の額が、移転を受けた資産・負債の時価純額を上回る場合などに、税務上の資産調整勘定が生じることがあります。
反対に、対価の額が時価純額を下回れば、差額負債調整勘定が生じる場合もあります。
ただし、無対価分割や資産評価の内容によって計算は変わります。非適格分割だから必ず資産調整勘定が計上されるわけではありません。
会社分割による資産・負債の包括承継は、通常の事業譲渡のような個別資産の売買とは異なり、消費税の課税対象となる資産の譲渡等には当たりません。
一方、会社分割の前後に行う個別資産の売買、専門家報酬、登記関連費用などは、別途課税区分を確認します。
また、新設会社や承継会社には、会社分割があった場合の消費税の納税義務に関する特例があります。分割そのものが課税対象外だから、消費税の確認が不要になるわけではありません。
会社分割では、分割会社の繰越欠損金が、合併のように承継会社へ当然に引き継がれるわけではありません。
分割会社に残る繰越欠損金、承継会社側の欠損金利用制限、特定資産の譲渡等による損失の取扱いなどを個別に確認します。
会社分割は、事業を新会社へ切り出した後、その会社の株式を譲渡するM&Aで使われることがあります。
たとえば、経営者が残したい不動産や余剰資産を元の会社に置き、売却したい事業だけを新会社へ移す方法です。
会社分割時に移転損益が出なくても、その後に承継会社の株式を売却すれば、株式譲渡による損益と税金が生じます。
最終的な手取り額は、会社分割だけでなく、株式譲渡価格、株式の税務上の取得価額、専門家費用まで含めて計算します。
会社分割と株式譲渡を別々に判断すると、想定より手取りが少なくなることもあります。
帳簿上の仕訳が合っていても、未払残業代、退職給付、保証債務、契約の解約費用などが承継範囲から漏れると、買い手の評価は下がります。
また、本社部門の人件費、システム費用、賃借料などの共通費を、分割後にどちらの会社が負担するかも重要です。費用の切分け方によって、売却対象事業の利益が大きく変わります。
固定資産、引当金、繰延資産、のれんなどは、会計上の金額と税務上の帳簿価額が一致しないことがあります。
差額を放置すると、法人税申告や将来の株式譲渡時に、取得価額や譲渡益を誤る原因になります。
会社分割日の会計仕訳、税務上の処理、申告調整を一つの資料でつなぐことが重要です。
会社分割では、効力発生日に仕訳を入力する作業より、その前の資料整備に時間がかかります。
M&A実務では、承継する資産や負債の範囲を確定できず、ここで判断が止まることがあります。
承継資産・負債の明細には、勘定科目、会計上の帳簿価額、税務上の帳簿価額、時価、契約上の承継可否を記載します。
売掛金や買掛金だけでなく、前払費用、未払費用、引当金、リース、保証、偶発債務なども確認します。
承継会社で増加する資本金、資本準備金、その他資本剰余金の内訳は、会社計算規則、分割契約・分割計画、会計基準に基づいて確認します。
このうち資本金は、登記内容とも一致させる必要があります。資本準備金やその他資本剰余金は登記事項ではないため、帳簿や社内資料で照合します。
経理担当者だけで決めず、法務担当者や司法書士が作成する資料とも確認することが大切です。
一方が前月末の残高を使い、もう一方が効力発生日直前の残高を使うと、資産・負債の金額が一致しません。
効力発生日までの売上、仕入れ、減価償却、入出金をどちらの会社へ帰属させるか、締め処理のルールを事前に決めます。
会社分割後も、仕訳の根拠を説明できるよう、次の資料をまとめて保存します。
・分割契約または分割計画
・承継資産・負債の明細
・株価や事業価値の算定資料
・適格要件の判定資料
・取締役会・株主総会の議事録
・登記事項を確認できる資料
・分割会社と承継会社の仕訳伝票
・法人税申告書の別表や添付資料
評価額の根拠を追える形にする
固定資産台帳、債権債務明細、時価評価資料、税務上の帳簿価額一覧には、共通の管理番号を付けると確認しやすくなります。
後から担当者が変わっても、簿価、時価、資本金等の根拠を追える状態にしておきましょう。
会社分割の仕訳は、吸収分割か新設分割かだけでは決まりません。対価の受取人、会計上の取得・共通支配下の区分、税務上の適格・非適格を分けて判断する必要があります。分割会社と承継会社の処理を同時に設計し、資本金等、のれん、移転損益、税務上の帳簿価額まで照合することが重要です。会社売却前の事業切出しでは、その後の株式譲渡と手取り額も含めて検討しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人