同族会社とは何か?特徴やメリット・デメリットと税務対策を解説
同族会社とは?少数の株主が支配する会社形態で税務上どのような特徴があるのか。定義・判定方法・メリットとリスク、承継まで含め専門家がわかりやすく解説します。本記事を読めば自社が該当するかどうかのチェックポイントまで見えてきます。
目次
▶目次ページ:親族内承継(株式の譲渡)
同族会社という言葉は日常的に耳にするものの、実際に自社が該当するかどうかを正確に把握している経営者は多くありません。同族会社とは、上位三人以内の株主等とその同族関係者が発行済株式総数の過半数を所有している会社をいいます。つまり「50%をちょっとでも超えたら」同族会社となる非常にシンプルかつ厳格な基準です。法人税法に根拠があり、該当すると特有の税務規定が適用されるため、まずは定義を正しく理解することが大切です。
法人税法では、株主数ではなく「株主グループ」の保有割合で判定する点が特徴です。三人以内の株主を順不同に組み合わせたうち、最も持株比率が大きくなる組み合わせを探し、その合計が50%超であれば同族会社とされます。単に筆頭株主を中心に考えるだけでは判定を誤ることがあるため注意が必要です。
国税庁の会社標本調査(2021年分)によれば、日本の法人の96.5%が同族会社です。非上場の中小企業はもちろん、上場企業であってもオーナー色の強い企業は同族会社となる可能性があります。つまり日本企業の大多数がこのルールに従って税務申告を行っているということです。
親族経営とは、社長を中心に親族が役員や従業員として経営に深く関与している状態を指します。対して同族会社は経営への関与ではなく、持株比率のみで判断します。したがって株式は親族でない友人同士が半数超を保有していても同族会社になりますし、親族で固めた役員構成でも持株が分散していれば該当しません。
非公開会社(株式譲渡制限会社)は全株式に譲渡制限を設けているかどうかで判断されます。譲渡制限は経営権流出防止策として有効ですが、同族会社の要件ではありません。株式が譲渡制限付きでも持株が散らばっていれば同族会社ではなく、逆に譲渡制限がなくても3人以内で半数超を保有していれば同族会社となります。
同族会社に該当するかどうかは、次の3つの角度で確認します。
例えば社長Aが18%、子Bが7%、配偶者Cが5%、取引先Dが11%、Eが8%を保有している会社を考えます。A・B・Cは同族関係者として一グループにまとめられるため30%。これにDとEを加えた合計は49%で50%を下回ります。しかし基準をBに置き換えると、B・C・D・Eの親族関係が再評価され、32%+11%+8%=51%となり同族会社になります。このように「誰を起点にグループ化するか」で結果が変わるため、最も割合が高くなる組み合わせで確認する必要があります。
個人株主の配偶者、六親等内の血族、三親等内の姻族、内縁配偶者、生活を支援する者とその親族、従業員などが含まれます。たとえ形式上血縁がなくても、実態として生計を共にしていれば同族関係者となり得ます。
株主個人とその関係者が半数超を出資する他法人や、その法人と共同してさらに他社を支配している場合など複数パターンがあります。これらの法人もグループに含めるため、間接保有を通じた影響力にも注意が必要です。
同族会社に該当すると、一般の法人よりも厳格な税務チェックが入る仕組みが用意されています。ここでは代表的な3つの制度を押さえておきましょう。
同族会社の経営者は役員報酬を自由に設定できる反面、従業員に対しても実質的に経営判断を下す立場の者が存在しやすい環境です。この従業員が「みなし役員」に認定されると、その者への賞与は原則として損金に算入できません。要件は「上位三グループに属し10%超を保有」「本人と配偶者で総株式の5%以上」かつ「経営に従事していること」。賞与を経営コストにしたい場合は事前確定届出給与などの手続きを忘れず行う必要があります。
同族会社が税負担を不当に減少させる目的で経済合理性に乏しい取引を行った場合、税務署長はその行為を否認し課税額を再計算できます。低額社宅の貸与、関連会社への恣意的価格での売買、役員借入金の無償利用などが典型例です。制度が適用されると追徴課税に加え、重加算税が賦課されるリスクもあるため、取引価格の根拠を文書で残すなど透明性の高い運営が欠かせません。
特定同族会社(資本金1億円超かつ一グループが50%超保有など)の場合、一定額を上回る内部留保に10〜20%の追加法人税が課されます。「配当すると株主の所得税が重くなるから利益を全部残す」という行動に歯止めをかける制度であり、資金繰りを圧迫する恐れがあるため注意が必要です。資本金1億円以下の中小企業は対象外ですが、将来的な資本政策次第で適用される可能性がある点をおさえておきましょう。
株主が限られコミュニケーションコストが低いため、投資判断や価格改定などの意思決定を短時間で実行できます。特に競争環境が激しい業界では、このスピードが大企業に対する優位性となります。
四半期ごとの株主評価を気にする必要がないため、長期的な事業基盤強化策を落ち着いて実施できます。家業としての歴史や企業文化を大切にする姿勢は、顧客との信頼関係構築にも好影響を与えます。
株式が集中していれば後継者への譲渡手続も比較적簡潔です。早期に後継者教育を行い、経営理念や人脈を直接引き継げる点は大きなメリットといえるでしょう。
留保金課税やみなし役員制度によって、本来は経営判断として妥当な内部留保や賞与が税負担増につながる可能性があります。税務調査では同族会社ゆえの「私的流用」を疑われやすいため、帳簿や契約書を整備し、第三者にも説明可能な状態を保つことが重要です。
株式が集中しているからこそ、わずかな割合しか持たない株主の権利が軽視される傾向があります。配当方針の透明化や株主間契約の締結により、将来の訴訟リスクを下げられます。
親族内に適任者がいない場合、早めに社内幹部や第三者M&Aの道を検討する必要があります。後継者不在のまま業績が低迷すると、会社の価値は急速に下がるため注意が必要です。
上位三人グループの保有割合を50%以下に下げれば、同族会社から外れることができます。最もシンプルなのは株式譲渡による持株分散です。しかし非上場株式は市場価格が存在しないため、相続税法や法人税法に基づく株価算定が欠かせません。低額で譲渡すると贈与税や寄附金課税のリスクがあるので、必ず税理士など専門家に評価を依頼しましょう。
同族会社では株式が集中しているからこそ、少数株主の権利保護を怠ると訴訟や買収リスクが高まります。経営の安定を保つために、株主構成の確認とガバナンス整備を計画的に進めることが不可欠です。
相続や贈与によって株式が細かく分散すると、想定外の株主が議決権を行使する事態が起こり得ます。定期的に株主名簿をチェックし、誰がどれだけ保有しているかを可視化しましょう。
株主総会資料や決算概要をわかりやすく提示し、配当政策の根拠を示すことで不信感を払拭できます。透明性の高い開示は金融機関や取引先への信用向上にも直結します。
株式の譲渡先・価格・承認方法、重要議案への事前協議義務などを協定化しておくことで、将来の紛争を未然に防ぎます。
株式が社内外に散らばったままでは意思決定が遅れがちです。適正価格で買い取り、議決権を整理することでガバナンスを強化できます。
上位3人以内の株主グループの保有割合を50%以下に抑えれば、同族会社の判定から外れます。最も現実的な方法は株式譲渡です。
非上場株式は市場価格が存在しないため、相続税法や法人税法に沿った評価手法を用います。個人間譲渡では財産評価基本通達、法人が絡む場合は時価純資産額法などを適用し、税務署からの指摘を回避します。
相続税法上の評価額で個人間譲渡の妥当性を担保
純資産価額方式・類似業種比準方式・配当還元方式を組み合わせ、適正価額を算定します。
法人税法上の評価額で法人対個人・法人間譲渡に備える
時価純資産額や事業価値を織り込んだ評価で譲渡対価を設定し、寄附金課税や受贈益課税のリスクを排除します。
時価の二分の一未満で売却すると、差額が寄附金や贈与とみなされ、追加の法人税・所得税・贈与税が課税される恐れがあります。
個人が譲渡益を得れば20.315%の所得税等、法人が売却益を得れば法人税が課税されます。組み合わせごとの税負担を一覧で把握し、資金繰り計画を立てましょう。
株式評価は資産税に強い税理士のサポートが重要です。評価誤りは多額の追徴課税に直結するため、独自判断は禁物です。
専門家に依頼する3つのメリット
同族会社の株式評価は法人税務のみならず相続・贈与税の知識が不可欠です。過去案件の実績や提案書の具体性をチェックしましょう。
同族会社は株式の集中により迅速な意思決定と長期視点の経営が可能ですが、みなし役員や留保金課税など固有の税務規定と株主間リスクに直面します。定義・判定基準を正しく理解し、同族関係者の範囲や株式構成を常に把握し続けることが健全経営の第一歩です。税務面では専門家と連携し、内部統制と透明性を高めることでメリットを最大化しつつ課題を克服できます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事