M&Aのトップ面談では何をする?参加者、注意点、進行などを解説

M&Aにおけるトップ面談とは、売り手と買い手候補企業の経営者が直接顔を合わせる面談のことを言います。この記事ではM&A実施を検討している売り手・買い手の経営者の方に向けて、トップ面談の定義や目的、成功させるポイントなどを解説します。

目次

  1. トップ面談とは 
  2. トップ面談は検討の初期段階で行う
  3. トップ面談での注意点(売り手)
  4. トップ面談での注意点(買い手)
  5. トップ面談に先立って
  6. トップ面談の進行
  7. トップ面談後のM&Aの流れ
  8. まとめ

トップ面談とは

売り手と買い手の両社の経営者同士が顔合わせをする面談のことを言います。原則として、直接の条件交渉をする場ではなく、相互理解を深めるための場として実施されます。

トップ面談の目的・重要性

売り手にとっては相手側の企業文化や経営者の人間性を感じることで、自社の社員との相性を図ることができます。買い手にとっても企業文化などを把握する目的もありますが、売り手経営者から直接、相手側のビジネスの状況を聞くことで譲渡対象企業の理解を深めることも目的の一つです。

トップ面談でお互いの人間性や価値観、方向性を把握することは、M&Aの交渉過程をスムーズに進めることやクロージング(成約)後のPMI(統合プロセス)を成功に導くためには、重要なフェーズとなります。

トップ面談の参加者

売り手の主な出席者としては、譲渡対象会社の大株主(オーナー)となります。場合によっては株主でないですが、譲渡対象会社のキーマン人材(M&A後も継続する役員や従業員など)や大株主(オーナー)が信頼する顧問税理士などが同席されるケースがあります。

買い手の主な出席者としては、経営陣(社長や役員)やM&A担当責任者が出席します。その他、当該案件のマッチングを行ったM&A仲介会社の担当者やそれぞれが依頼しているアドバイザーが同席します。

トップ面談の会場

譲渡対象企業の社内で行うことが一般的です。M&Aにおいては、買い手が売り手から譲り受ける立場であることから売り手へ足を運ぶという面もありますが、譲渡対象企業の設備や会社の雰囲気などの把握を目的とする意味もあります。

例外としては、商品やサービスの秘密保持の観点や社内では落ち着いて話せる環境が準備できないなどを理由に仲介会社のオフィスやホテルの会議室などで行われる場合もあります。

トップ面談は検討の初期段階で行う

売り手から提示される企業概要書(IM)を基に検討した結果、買い手が「前向きに検討する」と判断したタイミングで実施されます。企業概要書(IM)には、譲渡対象会社の財務情報やビジネス・人材・不動産など経営に関する情報やM&A実行時の希望条件や希望M&A取引金額等がまとめられており、買い手は譲渡対象企業として選定可能と判断した上でトップ面談となりますので、譲渡対象会社のM&Aを真剣に検討をしている状況です。

トップ面談での注意点(売り手)

買い手と初対面となるトップ面談では、相手に敬意を払い丁寧な対応が求められます。真剣かつ誠実な態度で、会話を進めることが大切です。以下に、成功に向けたトップ面談で意識すべきポイントを紹介します。

具体的な条件交渉は避ける

トップ面談において、具体的な条件交渉を行うことは避けたほうが良いでしょう。それは、場の雰囲気が悪くなる可能性があるからです。M&Aはビジネスではありますが、人間関係を築いた上で条件交渉を行うことが望ましいです。トップ面談ではまずお互いを理解し、信頼関係を構築することに重点を置くことが重要です。

一方的な話しすぎに注意する

自社のことを十分に理解してもらいたいという気持ちは当然ですが、一方的に話しすぎることは避けましょう。買い手に質問や確認事項が残ることを防ぐためです。売り手と買い手の双方が経営トップ同士で面談する機会は貴重であり、お互いの理解を深める時間が限られています。売り手は買い手の懸念点を解消することを優先しましょう。

質問には誠実に応える

買い手からの質問に対しては良い面も悪い面も含めた真摯な回答が求められます。事実と異なる情報を伝えたり曖昧な回答をすることは、後にトラブルを引き起こすことがあります。不信感を与えず、M&A交渉の円滑化を図るためにも誠実な対応を心掛けましょう。

前向きで建設的な回答を心掛ける

買い手からの質問に対して、否定的な回答ばかりではM&A成功へのイメージがわきません。自社の力だけでは実現困難なことも、買い手のノウハウや経営リソースを活用すれば可能性があります。うそをつくことなく、前向きで建設的な回答を意識することが大切です。

トップ面談での注意点(買い手)

買い手も売り手と同様に、相手に対する敬意を払い丁寧な対応が必要です。売り手のオーナーは、長年経営してきた自社を他者に譲ることに対して複雑な思いを抱いていることが多いです。以下に、円滑なトップ面談を進める上で意識すべきポイントを紹介します

売り手を尊重する

多くの場合、買い手は売り手よりも企業規模や業績が大きいですが、M&Aにおいては双方が対等な立場です。売り手を見下すべきではなく、尊重し良好な関係を築くことでその後の交渉がスムーズに進行します。

将来の展望とシナジー効果を説明する

売り手は、自社に対する関心の理由やM&A実施時の展望などについて興味を持っています。相手企業の考えや方針が不明確であると不安を感じることがあります。売り手の不安を解消し、M&Aの目的やシナジーを明確に伝えるため、方針や考えを整理しておくことが重要です。

トップ面談に先立って

トップ面談は1回きりで実施しなければならないわけではないものの、複数回実施することも許されます。しかしながら、忙しい経営者たちが向かい合う機会ですし、自社と同時に他の競合企業がM&Aを検討している可能性があるため、時間を効率的に活用することが必須です。トップ面談を円滑に進めるための事前準備について説明いたします。

情報収集を行う

トップ面談に先立って、相手企業に関する情報収集をお勧めいたします。相手企業の公式ウェブサイト、東京商工リサーチや帝国データバンクなどのシンクタンクの情報も確認してみましょう。相手企業について事前に調査しておくことで、本気で検討しているというアピールにも繋がるだけでなく、余計な質問が減り、面談時間が短縮されることにも役立ちます。

自社情報を整理する

自社の創業経緯、事業内容、組織体制、経営方針など、相手側からの質問に迅速に答えられるように整理しておきましょう。また、相手に理解しやすいように回答はシンプルにまとめておくことが重要です。

質問事項をまとめる

M&Aの検討範囲が幅広いため、必要な情報を厳選し、質問事項や疑問点を整理しておくことがお勧めです。以下に一部の例を紹介いたします。

 • M&A完了後、現社長が退任された後、事業を任せることができる人材はいるか。

 • 借入金が年々増加しているようだが、その理由は何か。

 • 労務管理や経理など、バックオフィス業務の管理方法はどのようにしているのか。

このように、会話の中でしか確認できない事項をリストアップしておくと良いでしょう。

日程を調整する

検討中のM&A案件がM&A仲介会社やアドバイザリー会社を通じて検討されている場合、それらの会社が日程調整を行います。トップ面談は複数の企業と行われることがあるため、売り手からの提案されたスケジュールに合わせて調整が必要です。

トップ面談の進行

トップ面談のイメージを把握していただくために、この記事ではM&Aにおけるトップ面談の進行フローを紹介します。売り手・買い手ともに有意義なトップ面談になるよう、参考にしてください。

名刺交換

トップ面談開始の少し前に集まり、参加者同士で名刺交換を実施します。一般的には、売り手が上座に、買い手が下座に着席します。

両者から自社紹介

自社に関する資料を利用しながら、両社の代表者がそれぞれ自社を紹介します。売り手の紹介資料は、事前に企業概要書(IM)で開示されていることが多いため、買い手から自社の紹介を行いましょう。

以上の事前準備と進行フローを遵守し、効果的なトップ面談を実施してください。成功するM&Aのための重要なステップになりますので、充分な準備と取り組みが必要です。

質疑応答

企業譲渡の際、譲渡を行う側、および譲受を行う側の両者は、自社の概要を説明した後、質疑応答のセッションを実施します。この過程では、主に買い手から売り手に対して質問が行われ、譲渡対象企業の特性や現状を把握することを目的としています。ただし、調査ではなく、双方がコミュニケーションを取り合いながら、オープンかつフランクな雰囲気で進められることが一般的です。

店舗や工場の視察

譲渡対象企業が飲食業、小売業、製造業などである場合、店舗や工場の視察が行われます。これは、譲渡対象企業のビジネスの核心部分を確認するためであり、トップ面談の際に売り手に尋ねる機会が設けられます。

トップ面談後のM&Aの流れ

トップ面談が終了した後、売り手は交渉相手を1社に絞り、具体的な条件などのM&A交渉を進めていくことになります。それでは、トップ面談後のフローについて説明しましょう。

買い手から売り手へ意向表明書の提出

トップ面談において売り手から開示されたデータをもとに、買い手候補企業が現段階でのM&A検討方針を意向表明書という形式で明示します。この意向表明書には、M&A取引における金額目途や雇用条件などが記載されており、売り手はこれを基に、交渉を続ける譲受候補先を選びます。

基本合意書の締結

買い手から提出された意向表明書の内容をもとに、売り手と買い手がトップ面談までの情報を基に合意した条件を、基本合意書にまとめて書面を締結します。この基本合意書は、限定された情報に基づいた交渉事項のまとめであり、法的拘束力はありません。また、基本合意書は売り手が交渉を続ける譲受候補先1社とのみ締結されるため、独占交渉権が付与されることが特徴です。

デューデリジェンスの実施

譲渡対象企業の詳細情報を買い手に開示し、M&A後のリスク洗い出しやPMI(統合プロセス)の準備を目的としてデューデリジェンス(買収監査・企業調査)が実施されます。調査内容は財務、税務、法務、ビジネスなど幅広く、専門知識が求められるため、一般的には買い手が選定した弁護士、税理士、会計士などの専門家によってデューデリジェンスが行われます。

最終契約書の締結

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の結果を踏まえ、売り手と買い手で最終条件に関する交渉を行います。最終的な条件が決まったら、両者が合意した最終条件を最終契約書にまとめ、書面を締結します。最終契約書には法的拘束力があり、売り手がM&A実行の前提条件を満たすことで資金決済などのクロージング(成約)が行われます。

まとめ

トップ面談は、M&Aを成功させるための重要なイベントです。対面だからこそ感じ取れる互いの人間性があり、また疑問点に対して直接話を聞けることで懸念が払拭されることも多いです。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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