株式譲渡書類の作成方法と承認手続や税務まで徹底解説
株式譲渡に必要な書類と作成時の注意点を詳しく解説します。契約書、承認請求書、株主名簿など主要書類の役割や内容、税金や収入印紙の取り扱いなど、円滑な手続のために押さえるべきポイントをご紹介します。
目次
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡とは、会社の株式を現在の株主から新たな株主へ移転させる取引を指します。合併や会社分割など他のM&A手法と比べ、手続が比較的シンプルであるため、スムーズに経営権を移したい場面で多用されます。ただし、株式の譲渡が完了するまでには、会社法に基づく厳格な書類作成と承認手続が必要です。ここでは、株式譲渡で押さえるべき書類とそのポイントを順序立てて確認します。
株式譲渡の最大の特徴は、株式そのものを対価とともに売買し、名義書換を経て所有権を移す点です。このため、譲渡人と譲受人の間で交わす契約書だけでなく、会社内部で株主名簿を更新する書類も欠かせません。書類が揃っていない場合、後に株主権を巡るトラブルが生じかねませんので、各段階で必要な様式を確実に整備しましょう。
一般的な流れは次の六つのステップです。
それぞれの段階で作成・提出すべき書類が異なるため、以降の章で詳細を整理します。
株式譲渡を滞りなく完了させるには、契約当事者間の合意を示す書面と、会社内部の手続を裏付ける書面を両方そろえる必要があります。以下では主要書類と記載項目を具体的に見ていきます。
株式譲渡契約書(SPA)は、譲渡株数や一株当たりの価格、支払期日などを詳細に定める最重要書類です。無償で株式を移す場合でも、後日第三者へ説明する根拠として必ず作成しましょう。
合意内容で対象株数と対価を確定する
契約書には、どの会社の普通株式を何株譲渡するのか、総額いくらであるのかを明確にします。こうした数字が曖昧だと、譲受人が想定外の株数を取得したり、議決権割合が変動したりするおそれがあります。
対価支払方法で期日と振込先を明記する
譲渡対価の支払期日や振込先口座を具体的に記載することで、資金の動きを管理できます。一括払いか分割払いか、支払方法が口座振込か現金かなどをあらかじめ定めておくと、決済遅延を防げます。
表明保証で情報の正確性を保証する
売り手は自社の財務や訴訟リスクに関して真実かつ正確と保証し、買い手は代金支払能力や反社会的勢力に該当しないことを保証します。万一記載と異なる事実が判明した場合の補償方法も合わせて決めておくと安心です。
解除条項でトラブル時の出口を用意する
締結後に目的が果たせなくなった場合に契約を解除できるよう、解除事由と手続を設けます。たとえば、支払期日経過後も代金が入金されないときには契約を無効にできる、といった取り決めが一般的です。
譲渡制限株式の場合、売り手は株式譲渡承認請求書を会社へ提出して許可を求めます。請求書には「承認されない場合の指定買取先」の欄を設け、取締役会が拒否したときの買取主体を指定できるようにします。
株式譲渡が成立したら、譲渡人と譲受人は共同で株主名簿記載事項書換請求書を提出し、会社に名義書換を依頼します。会社は株主名簿を更新し、新株主に株主名簿記載事項証明書を交付して、新しい株主であることを正式に証明します。
譲渡制限会社では、株式売買を自由に行えないため、会社の機関構成に応じた追加書類が必要です。
取締役会設置会社の場合、代表取締役は取締役会招集通知を発し、取締役会議事録を作成して承認決議の内容を記録します。承認後には株式譲渡承認通知を売り手に交付し、次の書換手続へ進みます。
取締役会がない会社では、取締役が株主総会招集を決定し、株主総会招集通知を発送します。臨時株主総会で承認決議を行ったら、株主総会議事録を作成し、株式譲渡承認通知を発行する流れです。
株式譲渡の準備を始める前に、会社が株券発行会社であるか株券不発行会社であるかを登記簿謄本で確認しましょう。株券発行会社の場合は、株式譲渡時に現物の株券を譲受人へ引き渡す必要があります。株券の有無を誤って判断すると、交付が欠けたまま譲渡したと誤解され、後に譲渡無効を主張されるリスクがあります。逆に、株券不発行会社なら株券の印刷や管理コストが不要となり、書類面では名義書換請求書のみで足ります。事前確認が手続効率を大きく左右するため、必ず登記情報を一読してください。
株式譲渡で得た利益は、売り手が個人か法人かによって課税の種類が異なります。個人の場合は所得税と住民税、法人の場合は法人税の対象です。計算誤りや納付漏れは追徴課税の原因となるため、契約締結前に試算し、決済資金を確保しましょう。
個人が株式を売却して得た譲渡益は譲渡所得となります。確定申告で申告分離課税を選択し、所得税15%・住民税5%(復興特別所得税を除く)で納付します。申告し忘れると延滞税や加算税が発生するため、決算期や譲渡実行日を意識したスケジュール管理が欠かせません。
法人が株式を譲渡して得た益金は、他の事業収益と合算して法人税・住民税・事業税の課税所得に含まれます。譲渡損が出る場合は損金算入が可能ですが、益金との相殺に制限があるケースもあるため、税理士に確認しながら処理することが重要です。
原則として株式譲渡契約書は印紙税法の課税対象外ですが、契約書に「すでに対価を受領した」旨を明記すると課税文書となります。その場合は譲渡金額に応じた収入印紙を貼付し、印紙税を納める必要があります。貼付を怠ると過怠税が科されるため、契約書の文言を十分に確認しましょう。
対価受領の記述があると印紙税が発生する
たとえば「本契約締結時に譲渡人は対価金●円を受領した」のような文言があると、領収証の性質を帯びてしまいます。これを避けるには、受領事実を別紙の領収証に切り分けるか、決済後に受領書を発行する方法が考えられます。
印紙額は譲渡金額に応じて変動する
印紙税額は契約金額1万円以上100万円以下で200円、100万円超から200万円以下で400円、といった階段方式で定められています。実際の金額区分は国税庁の一覧表で確認し、適切な額面の印紙を貼付してください。
進行表の例としては、左列に「株式譲渡契約書」「株式譲渡承認請求書」「株主名簿記載事項書換請求書」など書類名を並べ、右列に担当者と期日を入力します。各ステップ完了時にはチェック欄に印を付けることで、手続状況を一目で把握できます。
株式譲渡は税務・法務・会計が複雑に絡むため、税理士や弁護士と分担して書類を作成するケースが一般的です。専門家へ依頼する際にも進行表を共有すれば、誰がどの書類を担当し、いつまでにレビューするのかが明確になります。結果として譲渡実行日を守りやすくなり、買い手からの信頼も高まります。
ここまでで、株式譲渡の定義から必須書類、譲渡制限会社の追加手続、株券の有無、税金と収入印紙の留意点までを確認しました。次のパートでは、これらを踏まえた書類作成時の具体的な注意事項と、スムーズに手続を完結させるコツを解説します。
株式譲渡の書類は種類が多く、ひとつでも欠けると承認プロセス全体が止まります。ここでは現場でよく起こるミスを防ぐための注意点を五つに整理しました。
最初に取締役会か株主総会か、誰が決裁権者かを確定し、承認フロー図を描いてから書類様式を整えると、決裁途中で差し戻される事態を避けられます。特に譲受企業が上場企業の場合、内部統制ルールに合わせたフォーマットが必要になることが多いため、着手前に双方で様式を共有しましょう。
議事録は法定記載事項を満たしつつ体裁をそろえると、後日のデューデリジェンスで評価が上がります。具体的には「開催日時」「議長氏名」「決議事項」「出席取締役・株主の氏名」を同じ順序で記載し、末尾に取締役全員の押印をそろえると信頼性が高まります。
株式譲渡契約書の条項中で「添付資料1 株主名簿記載事項書換請求書」のように番号を振り、各書類にも同じ番号と名称を右上に記載しておくと、レビュー時にページを探す手間が省けます。
原本書類では、譲渡企業の代表印を右側、譲受企業の代表印を左側に統一すると、どちらが当事者か一目で分かり、印影の押し間違いを防げます。電子契約でも同じ配置で署名欄を設定すると、不慣れな担当者が迷わず署名できます。
クラウドストレージを使う場合、「01_法務」「02_税務」などフォルダを分けて管理し、アクセス権限も担当部署別に設定すると、情報漏えいと誤送信のリスクを下げられます。
近年は株式譲渡契約書を電子署名で締結する方法が普及しています。ここでは電子化のメリットと実務上の注意点を整理します。
電子署名法では「署名者の真正性」「非改ざん性」「再利用可能性」の三要件を満たすことで紙文書と同等の効力が認められます。タイムスタンプを付与すれば、改ざん有無の確認も可能です。
電子署名法で満たす三要件を確認する
電子契約サービスを選ぶ際は、署名鍵の管理方法と認証局の信頼性をチェックしましょう。第三者の認証局が発行する証明書を使えば、譲受企業側の承認プロセスにもスムーズに乗ります。
タイムスタンプは長期署名オプションで更新手間を削減
長期間にわたり契約書を保管する場合、タイムスタンプの有効期限切れを防ぐ長期署名オプションを利用すると、10年を超える保管でも再タイムスタンプ作業が不要になります。
電子契約であれば、紙の課税文書に該当しないため印紙税が課税されません。たとえば1億円の株式譲渡契約書なら紙の場合6万円の印紙税がかかりますが、電子契約なら実質ゼロ円です。
紙契約と電子契約を併用する場合の留意点式
一部の株主が電子署名に対応できない場合、紙契約と電子契約を併用することがあります。その際は、同一内容で複数の原本が存在する旨を議事録に記載し、紙原本には必要な収入印紙を貼付しておきます。
株主名簿をクラウド管理すると、株主名簿記載事項書換請求が承認され次第、リアルタイムで名義が更新されます。エラーが発生した場合でも変更ログが残るため、内部統制の証憑として活用できます。
株式譲渡は書類の作成・承認・名簿更新・決済と多岐にわたりますが、実務フロー図とチェックリストを整備すれば、担当交替時でも引き継ぎが円滑に行えます。特に中小企業では書類作成を外部専門家に委託することが多いものの、社内に最低限の管理体制がないと進行が滞ります。チェックリストを使い「誰が」「いつまでに」「何を」行うか明確にしておくことで、譲渡企業・譲受企業双方の負担を軽減し、スムーズなクロージングに結びつけられます。
株式譲渡を成功させるには、契約書・承認請求書・名簿関連書類を正確に整備し、税務と印紙税の取扱を把握することが重要です。進行表とチェックリストを活用し、専門家と協力して期限内に手続を完了させましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事