M&Aにおいては成功する企業と失敗する企業が存在します。失敗しないためには、M&Aに伴う注意点を事前に理解しておくことが重要です。本記事では、事業継続を望んでいるオーナー経営者を対象に、M&Aの基本概念や注意点について解説していきますので、参考にしていただければ幸いです。
目次
• 後継者不在による事業承継問題の解決
• 経営基盤(資金・人材など)の強化
• 事業基盤(販路拡大など)の強化
• 既存事業のエリア拡大・事業規模拡大
• 新規事業への参入
• 技術力・ノウハウの獲得
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「2020年M&Aの実態調査」によれば、過去5年間の国内のM&Aに関して、約70%の企業が成果を実感しているとのデータがあります。これに対し、約30%の企業が失敗したことがあると認識しています。
実務感覚としては、成功確率70%というのは、売り手はもっと高く、買い手はもっと低い印象です。
売り手がM&Aに失敗する要因としては、自社に起因する理由が多く見られます。ほとんどのケースで、注意を払うことで問題を回避できるため、失敗を防ぐために確認しておくべきポイントを以下に述べます。
譲受候補企業は、譲渡対象企業から提供される情報や資料に基づいて検討および評価を行います。売り手が自社にとって不利な情報を開示しない、虚偽・隠蔽するなどの行為は、譲受候補企業からの信頼を失い、交渉が破綻(ブレイク)したり、損害賠償請求を受ける可能性があるため、適切な情報開示・提供に努めることが重要です。
条件交渉が進んだ段階で、予想に反して他の株主から反対があったり、M&Aを進めるにあたっての準備不足で、M&Aが破綻(失敗)する可能性があります。特に交渉が進んだ段階での準備不足による問題は、譲受候補企業からの信用を失わせる要因となるため、注意が必要です。
売り手がM&Aを検討していることが外部に漏れた場合、様々な影響が生じます。譲受候補先の印象が悪化することもありますが、取引先や従業員に情報が漏れた場合は、マイナスイメージを持たれ、業績の悪化や従業員の離職などを引き起こす可能性があります。その結果、譲受候補企業が検討を中止するなど、売却が困難になることがあります。
売り手が買い手に譲歩しすぎると、M&A取引金額や譲渡条件が当初の希望とは異なり、M&Aが期待する目的が達成できないリスクが高まります。また、クロージング(成約)後に譲渡対象企業に残る役員や従業員からの不満が生じるケースもあり、M&A完了後の統合作業(PMI)がスムーズに進まない可能性が出てくるでしょう。
M&Aでは、売り手・買い手が対等の立場にありますが、不誠実な対応はM&Aの失敗につながることがあります。
• 情報提供をためらう
• これまでの交渉で合意していた条件を頻繁に変更する
信頼関係が損なわれるような対応は避け、誠実な対応を心掛けることが重要です。不誠実な対応が続くと、M&A交渉が破断することにつながる可能性があります。
買い手におけるM&Aの失敗要因は、明確なM&Aの目的と十分な調査が重要です。以下で各要素について解説します。
M&Aにおいてクロージング(成約)がゴールではありません。クロージング後の統合作業を経て、自社のM&A戦略に沿ったシナジーが実現されることが成功のポイントです。自社のM&A戦略を明確にし、統合作業プランも考慮しながら検討を進めることが重要です。
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)とは、譲受候補企業が専門家に依頼して、譲渡対象企業の価値やリスクを調査することを指します。調査範囲は、財務・税務・法務・ビジネスなど多岐にわたります。
デューデリジェンスが不十分だと、クロージング後に予期せぬ債務やリスクが発生することがあります。また、M&A取引金額を決定する際に適切な評価ができないリスクもあります。十分な調査を行い、リスクを最小限に抑えましょう。
M&A取引金額が適切でないと、低すぎると売り手の合意が得られなくなり、高すぎると自社の投資に対する費用対効果が見合わなくなります。売り手・買い手がロジカルに合意点を見つけるために、M&A取引金額の交渉では相手に根拠を示すことが重要です。
売り手や買収経験が少ない買い手はM&Aのプロではないため、専門家のサポートを受けることが必須です。ただし、M&A専門家の報酬体系は成功報酬が大半を占めるため、売り手・買い手のM&A戦略に合わせるよりも、M&Aを成約させることに特化する担当者が稀に存在します。そのような担当者に依頼すると、M&Aを通じて獲得したシナジーや目的が達成できず、クロージング後も成功したM&Aとは言えない結果になります。信頼できる専門家に依頼し、自社のM&A戦略を実現することが大切です。
売り手企業がM&Aを成功させるために注意すべきポイントについて解説します。M&Aを検討する際に参考にしていただくことをおすすめします。
売り手企業としては、できるだけ高く譲渡したいという気持ちは当然ですが、不適切な情報開示は後のデューデリジェンス(買収監査・企業調査)で、真実が明らかになることがほとんどです。自社が認識している譲渡候補企業が抱えるリスク(未払い残業や粉飾など)がある場合は、隠さずに譲受候補企業へ開示しましょう。
M&Aの検討段階から準備を始めることが重要です。複数の株主がいる場合、一定数以上の株主の同意を得ることや、現在の実態と即していない規定や登記事項の是正などが挙げられます。クロージング(成約)に向けての準備を進めることは、譲受候補企業の印象も良いと思われますので、徐々に取り組みましょう。
M&Aで取り扱う情報は、すべてが機密事項と言っても過言ではありません。M&A交渉で得た情報や検討を進めている状況であることなど、外部に情報が漏れると売り手・買い手共に損失を被る可能性があります。また、M&A交渉が破綻することにもつながりますので、情報の取り扱いには細心の注意を払いましょう。
譲受候補企業が1社だけですと、提示された条件や合意してきた条件の良し悪しを判断することが難しいです。比較検討するためにも、複数の候補先と交渉することが望ましいです。自社と相性がより良い企業や、より高く自社を評価してくれる企業が見つかる可能性もあります。
買い手がM&Aを成功させるために注意すべきポイントについて解説します。M&Aを検討する際に参考にしていただくことをおすすめします。
自社の主業や専門分野以外の譲渡対象企業のM&Aは、事業運営が難しく失敗するケースが多いです。しかし、買い手にとってM&Aを活用した新規事業進出は、効率的な一面もあります。専門分野以外のM&Aを実施する際は、入念な調査と計画が必要です。
買い手にとってのM&Aの成功は、クロージング(成約)した後のシナジー効果獲得や目的達成の可否となります。例えば、事業エリアの拡大、自社の技術力向上、新規取引先の増加など、クロージング(成約)後の目的を明確にしておくことが大切です。
デューデリジェンス、つまり買収監査や企業調査は、M&A取引の成約(クロージング)前に行われる重要なプロセスです。その目的は、リスクや課題を事前に洗い出し、取引金額を適切に評価し、不測のリスクが発生しないようにすることです。デューデリジェンスは、専門家に依頼することで十分な調査が行われるため、その重要性を理解し、実施しましょう。
クロージング後の譲渡対象企業との統合プロセス(PMI)は、M&A戦略を実現する上で非常に重要です。PMIでは、譲渡対象企業を自社の文化や方針に染めることだけでなく、リソースや技術力の共有、管理システムの統合などが主な作業となります。このプロセスを通じて、M&Aによるシナジー効果を最大限に発揮しましょう。売り手・買い手双方の協力が前提となるため、連携して取り組むことが重要です。
M&A後の譲渡対象企業の従業員の離職は、企業の技術力や業績に悪影響を与える可能性があります。これを回避するためには、売り手との交渉段階で従業員の処遇について合意しておくことが必要です。給与水準の低下や急な転籍・転勤などを強いることは、従業員の離職につながるため、適切な対策を講じましょう。
成功するM&A取引には、以下の注意点があります。
• 契約書の内容を確認し、自社にとって大きなリスクがないかを検討する。
• 適正な価格で取引を行い、両者が納得できる金額で合意する。
• M&Aの専門家からサポートを受けることで、適切なアドバイスやサポートを得る。
数あるM&A仲介会社には、サポート内容や報酬体系などが異なります。選ぶときに重要なポイントを以下に解説していきます。
大手企業や上場企業向けの支援を行っている会社と、中小企業を主に支援している会社では、M&A仲介を行う上でのノウハウや知識が大きく異なります。中小企業に関しては、地域特性が関係してくることもあるため、自社の地域での実績を持つ会社を選ぶことが望ましいでしょう。自社の規模や地元での支援実績が豊富なM&A仲介会社を選ぶことをおすすめします。
M&Aの過程では、税務・会計・法務など専門知識が必要とされる局面がたくさんあります。したがって、公認会計士や税理士、弁護士や司法書士などの専門家が在籍しているか、連携しているかどうかが非常に重要です。これにより、M&A交渉がスムーズに進むだけでなく、安心してM&A業務を任せることができます。
各M&A仲介会社の料金体系はさまざまですので、公式サイトなどで比較検討することが重要です。しかし、公式サイトだけでは、すべてのプロセスにかかる料金がわからないこともあります。そのため、M&A仲介会社との面談時には、料金についても確認するようにしましょう。
M&Aにおいて、担当者との相性は非常に重要です。交渉には長期間を要することが多いため、相性が悪いと最終的な成約までの道のりが困難になります。話しやすさや価値観、誠実さなどを基に、担当者との相性を確認しましょう。
M&Aの成功を収めるためには、検討段階から真剣かつ誠実な取り組みが重要です。売り手は買い手に対して協力的であることが重要であり、買い手も譲渡対象会社の経営者に敬意を払って交渉を進めるべきです。
それと同時に、ビジネスであることを忘れず、自社のM&A戦略を実現するために、解説した注意点を踏まえて条件交渉やリスク調査など、必要なフローを確実に実施しましょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事