M&A注意点総まとめ!売り手買い手の失敗事例を徹底解説
M&Aの注意点とは、売り手買い手の失敗リスクを回避するために重要なポイントです。本記事では、M&Aの基本から成功事例、失敗要因や対策までを詳しく解説します。事業承継や譲渡を検討しているオーナー経営者の方は、ぜひご一読ください。
目次
1.M&Aとは
2.M&Aの主な目的
3.M&Aの成功確率
4.売り手のM&A失敗要因
5.買い手のM&A失敗要因
6.売り手・買い手共通のM&A失敗要因
7.売り手側の注意点
8.買い手側の注意点
9.M&Aの状況別の注意点
10.M&A仲介会社・支援会社の選び方
11.まとめ
合併(Merger)
二つ以上の法人が一つの法人に統合される形態を指します。法人格が統合されるため、吸収合併や新設合併など、企業の組織再編として扱われるケースが多いです。
譲受(Acquisition)
他社の株式を買い取り子会社化することで企業を取得する方法です。議決権の過半数以上の取得によって経営権を握るやり方が一般的ですが、株式の一部を取得して影響力を行使し、経営権を得るケースもあります。
このようにM&Aは、単なる株式の売買ではなく、企業経営を包括的に引き継ぐ、あるいは組織を統合する取り引きを指します。とくに中小企業では、後継者問題の解決や経営資源の獲得を目的としたM&Aが頻繁に行われるようになっており、市場でも大きな注目を集めています。
後継者不在による事業承継問題の解決
オーナー経営者が高齢化し、後継者が見つからないケースではM&Aが有効な手段となります。しっかりと譲受候補を見極めれば、従業員の雇用を守りつつ企業を存続させられます。
経営基盤(資金・人材など)の強化
企業を譲渡することで、大手グループの傘下に入って資金力や人材力を確保し、組織の安定を図るケースがあります。単独では難しかった新規投資や設備導入も可能となるでしょう。
事業基盤(販路拡大など)の強化
買い手企業が持つ販路や取引先ネットワークを活用できるため、自社単独では難しかったマーケット開拓が期待できます。
既存事業のエリア拡大・事業規模拡大
既存事業に近い業種・地域の企業を譲受することで、自社のテリトリーや顧客基盤を効率的に拡大できるメリットがあります。
新規事業への参入
既存事業とは異なる市場に参入する際、ゼロから立ち上げるよりもノウハウや取引先、技術を持った企業を譲受する方が短期間で成果を狙えます。
技術力・ノウハウの獲得
自社では開発が難しい独自技術やノウハウを取り込むためにM&Aが使われるケースは少なくありません。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、M&Aの成功確率は約70%とされています。しかし、実務感覚としては売り手の満足度は比較的高い一方、買い手の成功体験はやや低いという印象もあります。これは、売り手にとってのM&A成功とは「無事に譲渡し事業を引き継いでもらうこと」が明確であるのに対し、買い手は「買収後に想定どおりのシナジーを得ること」までを含むため、成功のハードルが上がりやすいからです。
売り手・買い手のどちらにとっても、M&Aを成功させるには「事前の準備」と「情報の透明性」が重要なカギとなります。
売り手企業のM&A失敗要因は、自社の準備不足や情報開示の問題などが大きく影響するといわれています。とくに、下記のような点が原因となって交渉が進まず、最終的に破談してしまうケースがあるため、注意が必要です。
情報開示が不足している
売り手としては、不利な情報を隠したいという思いが働きがちですが、実際のところデューデリジェンス(買収監査)などで大半は明らかになります。隠し事が発覚すれば、譲受候補企業からの信頼を失うだけでなく、損害賠償請求に発展する可能性もあります。
株主からの反対が出る
M&Aを進めるうえでは複数株主の合意が前提となります。なかには、最終段階で予想外の反対を受け、交渉が破談することもあるので、あらかじめ株主との意思疎通を図っておく必要があります。
情報漏洩が起こる
「会社が売却されるらしい」という噂が従業員や取引先に広がると、企業イメージや士気が下がり、業績悪化を招く可能性があります。その結果、譲受候補企業が交渉を中止してしまうケースもあるため、秘密保持には細心の注意を払いましょう。
買い手優位の交渉になりすぎる
譲受候補企業に条件面で大幅に譲歩しすぎると、売り手にとってのM&A目的が達成できない可能性があります。クロージング(成約)後に企業内で不満が噴出し、PMI(経営統合)もうまく進まないリスクが高まるでしょう。
対応が不誠実とみなされる
適切な情報提供をためらったり、一度合意した条件を頻繁に変更するなどの不誠実な対応は、買い手との信頼関係を損ないやすいです。こうした態度が続くと、交渉自体が破断し、M&Aが成立しない結果につながります。
準備不足で信頼を損なう
自社で管理している財務諸表や契約書などが整っていないと、譲受候補企業に「この会社は大丈夫だろうか」という不安感を与えます。さらに、デューデリジェンスに対応できないほど資料が散逸していると、交渉全体が長期化し、最悪の場合は破談につながります。
企業価値を過大評価する
自社の価値を過大に見積りすぎると、買い手候補が見つからない可能性があります。市場から見た妥当な評価がなされないまま、過度な譲渡価格を主張すると、買い手にとって投資回収が不透明な取引となり、スムーズな合意が難しくなるでしょう。
感情的・衝動的な判断
会社はオーナー経営者の大切な“財産”であるだけに、判断が感情に左右されがちです。合理的な交渉を妨げる要素となり、互いに条件面での歩み寄りが進まなくなる可能性があるため、第三者の専門家や顧問などのサポートを受けつつ、客観的に判断する姿勢が重要です。
買い手の失敗要因は、デューデリジェンス不足や目的・戦略の曖昧さなど、検討段階や統合段階の計画不足によるケースが目立ちます。以下のようなポイントに注意することで、失敗リスクを最小限に抑えられます。
M&Aの目的が不明瞭
クロージング(成約)がゴールではなく、買収後のシナジー獲得こそが真の成功です。戦略やビジョンが曖昧なままM&Aを進めると、買収企業をどう活かすべきか判断できず、結果的に経営資源を無駄にしてしまいます。
デューデリジェンスが不十分
簿外債務や偶発債務、未払い残業代などの労務リスク、または契約リスクなどが買収後に発覚すると、多大な費用や時間を要する対策が必要になります。専門家の協力を得て、財務・税務・法務・ビジネスなど各分野で綿密に調査することが重要です。
戦略性のない買収価格設定
過大な買収価格は投資コスト回収を困難にし、過小な買収価格は売り手との交渉決裂を招きやすいです。売り手・買い手が双方納得できる根拠を示しつつ、理にかなった価格交渉を行う必要があります。
買収先企業に対する理解不足
買収する企業の業務内容や文化、経営方針などをしっかり理解せずに取得を進めると、PMIの段階で大きな齟齬が発生します。せっかく獲得した技術やノウハウを活用できず、かえって経営悪化につながるケースも少なくありません。
企業文化の不一致
買収先と自社の企業文化が大きく異なると、従業員のモチベーションが低下し、離職が増える場合があります。特に中小企業ではオーナーの経営スタイルや現場の風土が色濃いため、双方の文化を尊重したすり合わせが必須です。
買収資金の調達トラブル
買収資金の調達スキームが不十分だと、想定のタイミングでクロージングに至らず、交渉が失速するケースがあります。金融機関との折衝や返済計画も踏まえ、資金面を確実に整えましょう。
売り手・買い手ともに、M&Aを進めるうえで専門家のサポートが不可欠です。しかし、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)の中には、成果報酬という報酬体系に偏り、成約を急ぐあまり当事者の本来の目的に十分寄り添わない担当者も存在します。
専門家の選定ミス
たとえば、業界特有の法規制や行政手続を熟知していない仲介会社に依頼すると、重要なリスクを見落とす恐れがあります。また、地域ごとの事情を把握していないと、譲渡先や譲受先の選定がうまくいきにくいでしょう。
契約書の内容把握不足
表明保証条項、遵守条項、補償条項など、最終譲渡契約書で合意すべき点を理解しないままサインしてしまうと、予期せぬ損害やトラブルの原因となります。双方が納得できる文言かどうか、丁寧に検討しましょう。
統合プロセス(PMI)への意識不足
「M&Aはクロージングで終わり」ではなく、そこからが始まりです。PMIの準備が不十分だと、買収企業の従業員が離職してしまったり、売り手のオーナーが急に経営から手を引いて業務知識が継承されなかったりするリスクが高まります。
売り手企業のオーナー経営者が、M&Aを成功させるために注意すべきポイントを具体的に解説します。
過不足ない情報開示
自社の状況を正しく伝えることで、買い手候補の信頼を得やすくなります。特に未払い残業代や粉飾決算などのリスクは、買い手が最も警戒するポイントです。後から不利な情報が発覚して信用を失うより、初めから誠実な情報開示を行ったほうが交渉がスムーズになります。
早めの検討・準備
譲渡には株主の合意や登記・契約書の見直しなど、多くの事前準備が必要です。締結間際に慌てて必要書類を整えようとしても時間が足りず、買い手候補に悪印象を与える可能性があります。余裕をもって進めることで、M&Aの成功率が高まるでしょう。
情報管理の徹底
M&A検討中であることが社内外に漏れると、業績や組織に大きな影響を及ぼしかねません。非開示契約(NDA)をしっかりと締結し、情報を扱うメンバーや範囲を厳格に管理しましょう。
複数の譲受候補企業を比較検討
一社だけの候補だと交渉が買い手優位になりがちです。複数の候補先を持つことで、より良い条件や自社との相性が合う相手を見つけやすくなります。
契約リスクの把握
表明保証条項や特殊な契約条件が売り手側にも影響を及ぼす可能性があります。特に、既存の取引契約の移転や、引き継がれる債務関係などを洗い出しておきましょう。売り手側がリスクを知らずに調印してしまうと、後々大きな責任を負う可能性があります。
人材リスクへの対応
従業員が大量離職すると、企業価値が下がってしまいます。できるだけ早い段階で従業員への丁寧な説明や、不安を解消する具体策(給与水準の維持、雇用条件の確認など)を用意し、キーパーソンが退職しないようにケアすることが大切です。
買い手企業としてM&Aを成功させるためには、事業全体の戦略やリスク管理が欠かせません。特に以下の点に意識を払いましょう。
知見のある事業領域かどうか
全く馴染みのない業種を買収すると、経営ノウハウが不足している分だけ事業統合が難しくなります。一方、新規事業進出というメリットもあるので、入念なデューデリジェンスを実施したうえで買収の可否や買収後の運営方針を検討してください。
買収目的の明確化
買収後に新たな顧客を獲得したいのか、技術を手に入れたいのか、あるいは経営基盤を広げたいのか。目的をはっきりさせれば、デューデリジェンスで重視すべきポイントも明確になります。
過不足ないデューデリジェンス
財務・税務・法務・ビジネス面など、幅広い観点で企業を評価する必要があります。中小企業の場合、とくに人事労務の管理が緩いケースもあり、未払い残業代や潜在的なトラブルが表面化する可能性があります。外部の専門家を活用し、抜け漏れなく調査しましょう。
経営統合(PMI)に十分な時間をかける
クロージング後の統合計画を、交渉段階からしっかり検討することが大切です。事業運営の方針やシステム統合、人材のモチベーション管理など、多方面での融合が必要となります。
リテンションプランの策定
買収先企業の重要社員が退職すると、技術力や取引先などの経営資源を失いかねません。従業員が安心して働ける処遇を明示し、急激な労働条件の変更を避けるなどの手立てを打つことが重要です。
M&Aのプロセスは、大きく分けると「M&A会社(仲介・FA)の選定」「相手企業へのアプローチ」「基本合意書と最終譲渡契約書の締結」「クロージング後の対応」に分類できます。各段階での注意点をまとめます。
専属契約か、非専属契約か
一つの仲介会社に任せるか、複数の会社から提案を受けるかによって情報漏洩リスクや検討コストが変わります。専属契約は一社とのみじっくり交渉できる反面、候補先が狭まるデメリットもあります。
専門家の在籍・連携状況
税務・法務の知識が求められるため、公認会計士や税理士、弁護士などが社内にいるか、連携しているかを確認しましょう。
料金体系の透明性
着手金や成功報酬だけでなく、月額料金や中間金などが発生する場合もあります。見積もりを事前に確認することが大切です。
担当者との相性
M&Aは交渉期間が長くなることが多いため、誠実に対応してくれる担当者かどうかが極めて重要です。
売り手側へアプローチする場合
「後継者不在か」「経営再建か」など売り手企業のニーズを理解する必要があります。なぜ売却を検討しているのかを把握しないと、交渉の軸がぶれてしまいがちです。
買い手側へアプローチする場合
買い手が何を求めているかを知ることで、譲渡金額以外の価値をアピールできます。早い段階で協議の余地を広げられるよう、自社の強みと買い手の戦略をすり合わせましょう。
秘密保持契約(NDA)
M&Aでは、事業に関する機密情報を取り扱います。契約の目的や情報共有範囲を明確に定め、デューデリジェンスが不成立に終わった場合の情報返却・破棄のルールを定めておくことが重要です。
基本合意書
株式の大まかな価格帯やデューデリジェンスの範囲などを記載し、今後の交渉方針を明文化します。ここで合意しても、最終条件はデューデリジェンスの結果によって変わる可能性があります。
最終譲渡契約書
表明保証条項や遵守条項、補償条項などを丁寧に確認し、想定外のリスクを後から負わないようにする必要があります。特に大切なのは、売り手側が提示する情報の正確性と、買い手側が引き継ぐ債務などの範囲を明確にしておくことです。
従業員への説明とケア
従業員が混乱しないように、M&Aの背景や買収後の方針を早めに共有することが大事です。売り手・買い手両社が同じタイミングで発表し、誤解を招かない説明を行うようにしましょう。
PMI(経営統合)の実行
企業文化の違いを尊重しつつ、必要な部分はスピーディーに統合するメリットがあります。組織体制やシステムを整え、従業員同士がコミュニケーションを取りやすい環境づくりをサポートしてください。
M&Aの専門家選びは、成功に直結する重要なポイントです。
自社規模や業界特性に合った会社か
中小企業の場合、地域密着で実績のある仲介会社を選ぶと、ローカルなネットワークや行政手続に精通しているためスムーズに進む場合が多いです。大企業向けの仲介会社では、小規模案件が後回しになりがちなケースがあります。
専門家が在籍・連携しているか
M&Aの過程では税務、法務、会計など多角的な知識が必要になります。公認会計士や税理士、弁護士が連携している会社であれば、手戻りが少なく安心です。
料金体系が明朗か
成果報酬型か、着手金や月額報酬が発生するのかを確認しましょう。後から追加費用が発生しないかどうかも含めて事前に検討が必要です。
担当者との相性が良いか
M&Aプロセスは長期に及ぶため、担当者が誠実に対応してくれるかは非常に重要な要素です。コミュニケーションが円滑に取れない担当者だと、不安が残るだけでなく、取引スピードにも影響します。
M&Aは単なる「企業の売り買い」ではなく、事業承継や企業戦略を実現するための手段です。成功のカギは、売り手・買い手がそれぞれ事前の準備を徹底し、目的や戦略を明確化しながら誠実な情報開示を行うことにあります。また、専門家の力をうまく活用しながら、デューデリジェンスやPMIを丁寧に進めることで、円滑な交渉と長期的な成長が期待できるでしょう。クロージング後も事業を継続・発展させる姿勢を忘れずに、双方にメリットのあるM&Aを実現してください。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事