海外M&Aとは?その手法・メリット・注意点・手順・事例を紹介

M&Aを実施する際には、海外企業をターゲットにした「海外M&A」も視野に入ります。海外M&Aならではのメリットを活用することで、自社で設定したM&Aの目的を達成できる可能性もあります。本記事では海外M&Aの基本とメリット、具体的な手法や事例を紹介します。海外企業との交渉に興味があるのなら、海外M&Aについてぜひ確認してみてください。

目次

  1. 海外M&A(クロスボーダーM&A)とは
  2. 海外M&A(クロスボーダーM&A)の種類
  3. 海外M&A(クロスボーダーM&A)の手法
  4. 海外M&A(クロスボーダーM&A)のメリット
  5. 海外M&A(クロスボーダーM&A)の注意点
  6. 海外M&A(クロスボーダーM&A)の手順
  7. 海外M&A(クロスボーダーM&A)の具体例
  8. 海外M&A(クロスボーダーM&A)のまとめ

海外M&A(クロスボーダーM&A)とは

海外M&Aの基本を把握することが、計画の立案から実践に移るためのポイントです。以下では、海外M&Aの基本について解説します。

海外M&Aとは、海外企業を対象に譲渡・譲受するM&Aのことです。海外企業との取引になるため、国内企業との取引にはないメリットを得られる可能性があります。国内では需要が見出せない事業も、海外企業からすると魅力的であるケースも多いです。国内でのM&Aに拘らず、積極的に海外企業との交渉に臨むのも、1つの方法として広まっています。海外M&Aは「クロスボーダーM&A」とも呼ばれますが、基本的な意味は同じです。

▶目次ページ:企業買収(海外M&A)

海外M&A(クロスボーダーM&A)の種類

海外M&Aには、いくつかの種類があります。以下では、海外M&Aにおける基本となる種類の特徴をそれぞれ解説します。

OUT-IN型

海外M&Aにおける「OUT-IN型」とは、譲受企業→海外企業、譲渡企業→国内企業の形式で実施されるM&Aです。国内の事業や会社を、海外に売却する方法を意味します。海外から日本市場に参戦したい企業が譲受を目指したり、国内企業よりも高く譲渡できる相手を探したりする際に、OUT-IN型のM&Aが実施されます。

IN-OUT型

「IN-OUT型」は、譲受企業→国内企業、譲渡企業→海外企業によるM&Aです。海外企業の技術やノウハウ、事業そのものを国内に取り入れる方法となります。海外ならではのアイデアは、国内でまだ浸透していないケースも多いです。M&Aを通して海外企業のアイデアや事業そのものを取り入れることで、事業展開に活かせる可能性があります。

【参考】国内の企業同士のM&Aは「IN-IN型」と呼ぶ

国内の企業同士で行われる通常のM&Aは、「IN-IN型」と呼ばれます。海外企業との交渉はせずに、国内だけで完結するM&Aです。海外M&Aだけでなく、IN-IN型によるM&Aを同時に検討する方法もあります。

海外M&A(クロスボーダーM&A)の手法

海外M&Aを実践する際には、いくつかの手法があります。以下では、海外M&Aにおける実践的な手法について解説します。

三角合併

三角合併とは、消滅する子会社に株式や現金を渡す対価として、親会社の株式を交付する方法です。国内の会社法では、日本企業と外国企業が直接合併するケースは認められていません。一方で、消滅会社へ交付できる対価の種類には、特別な制限がありません。そこで三角合併によるM&Aを実施し、海外企業との取引を成約させるケースがあります。

LBO

LBOとは、「Leveraged Buyout」の略称です。相手企業の資産や将来的な利益を担保に、金融機関から借入をしてM&Aをする方法を意味します。海外企業とのM&Aでは、多額な金額による譲渡になる可能性もあります。そのため、自己資金が少なくても大規模のM&A案件に臨めるLBOに注目する企業は多いです。

海外M&A(クロスボーダーM&A)のメリット

海外M&Aを実践することには、さまざまなメリットがあります。以下では、海外M&Aにおける具体的なメリットを解説します。

自社に高い付加価値が付くケースがある

海外企業からの視点でみると、自社の事業に高い付加価値が付くケースがあります。国内のM&Aが上手くいかなくても、海外企業を相手に譲渡が成立する可能性に期待できる点は、海外M&Aのメリットです。国内で納得のいく譲渡契約が成立しなかった場合には、海外M&Aに舵を切ることも検討されます。

海外市場への参入を画策できる

海外M&Aをきっかけに、海外市場への参入を画策することも可能です。自社の事業や商品が、海外で需要を獲得できると判断できる際には、海外M&Aが事業拡大につながり得ます。M&Aを通して海外企業と関係を築くことで、将来的に海外市場で自社のメリットを活かせるケースも考えられるでしょう。

海外M&A(クロスボーダーM&A)の注意点

海外M&Aを実施する際には、注意すべきポイントもいくつかあります。注意点を把握した上で、慎重に交渉に臨むのが海外M&Aの基本です。以下では、海外M&Aの注意点について解説します。

カントリーリスク

カントリーリスクとは、海外企業の属する国の社会情勢や経済状況の変化によって、自社が経済的な被害を被ることを意味します。カントリーリスクの規模や、相手企業の状況次第では、資金の回収ができずにM&Aが頓挫するリスクも懸念されます。カントリーリスクを防止することは難しいため、万が一に備えた対処法を事前に考えておくことがポイントです。

企業文化や風習の違いによってシナジー(相乗効果)が得られない

海外M&Aでは、企業文化や風習の違いによって、シナジー(相乗効果)が得られないケースもあります。PMI(統合プロセス)を設定する際に、海外との認識の違いによって、計画にずれが生じる可能性は考慮しておく必要があります。交渉先の国に詳しい人材を確保し、M&Aにおけるアドバイスを受けるのも1つの方法です。

海外M&A(クロスボーダーM&A)の手順

海外M&Aを実施するのなら、基本的な手順の把握も重要です。以下では、海外M&Aを実践する際の手順について解説します。

目標や利用するサービスを決める

海外M&Aにおける目標や、利用するサービスを決めます。具体的なゴールを設定し、その条件を達成できるM&Aサービスを選定することが、海外M&Aにおける最初の1歩です。海外企業とのつながりを多数保有しているサービスを探すことが、特に重要なプロセスです。

海外企業との交渉

海外企業と交渉し、譲渡までの計画を具体化します。国ごとの情勢やEUの加盟国に対する規制などを考慮し、契約後にトラブルが起きないように注意する必要があります。海外の事情に精通している人材がいない場合、M&A仲介会社などに依頼して、交渉をサポートしてもらう方法がおすすめです。

M&A契約の締結

M&Aでの条件に合意を得られたら、契約を締結します。企業文化の統合などに課題がある場合には、譲渡後も積極的に事業に関わっていくことも検討しましょう。また、事前にPMI(統合プロセス)をきちんと設定し、統合中の事業がストップしないように備える必要もあります。

海外M&A(クロスボーダーM&A)の具体例

海外M&Aを実践した事例は、多数あります。以下では、海外M&Aの参考事例を紹介します。

サッポロホールディングスの事例

サッポロホールディングスは、2022年6月にアメリカの「ストーンブリューイング」を子会社化しました。ストーンブリューイングの工場を取得し、北米での酒類事業の拡大を目指すことを表明しています。国内市場だけでなく、海外市場で自社の価値を広めていく戦略の一環として、海外M&Aを実践した事例となります。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントの事例

ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、2022年2月にゲーム開発会社「バンジー」を買収しました。ゲーム開発で得た知的財産を、エンタメ事業に活かすことを目的としたM&Aです。そのほか、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは2021年だけでも、ゲーム開発会社を5社買収しています。ゲームソフトの開発部門を強化し、事業規模の拡大を進めている事例となります。

海外M&A(クロスボーダーM&A)のまとめ

海外M&Aとは、海外企業と交渉して譲渡・譲受をするM&Aの手法です。国内企業とのM&Aにはない特徴やメリットがあるため、事業譲渡などを検討する際には、海外M&Aも1つの検討先となります。まずは海外M&Aの基本を把握し、具体的な計画の立案を始めてみてはいかがでしょうか。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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