Powered by みつき税理士法人

クロスボーダーM&A戦略で国内外シナジーを最大化する方法

クロスボーダーM&Aとは何か、どんな種類と手法があり、成功の鍵はどこにあるのか。この記事では基礎知識から交渉準備、デューデリジェンス、PMIのコツ、代表的事例までを豊富な経験に基づきやさしく解説します。

目次

  1. 海外M&AとクロスボーダーM&Aの基本を理解する
  2. クロスボーダーM&Aの種類と特徴を把握する
  3. クロスボーダーM&Aで用いられる代表的な手法
  4. クロスボーダーM&Aがもたらすメリット
  5. クロスボーダーM&Aに伴う注意点とリスクを管理する
  6. クロスボーダーM&Aの基本手順と成功のポイント
  7. 主要国別にみるクロスボーダーM&A動向と特徴

▶目次ページ:企業買収(海外M&A)

海外M&AとクロスボーダーM&Aの基本を理解する

海外企業との取引が生む新たな選択肢を把握する

海外M&Aは、譲受企業か譲渡企業のいずれか、または双方が日本国外に所在する取引です。国内で需要が伸び悩む分野でも海外企業にとっては魅力的な価値を持つ場合があり、譲渡企業は高い評価額を得る機会となります。譲受企業は新市場への足掛かりを得て、時間を買う形で成長を加速できます。このようにクロスボーダーM&Aは双方が成長機会を得る「ウィンウィン」の取引として注目されています。

クロスボーダーM&Aが拡大する市場背景を知る

日本では人口減少と内需縮小が進み、多くの企業が海外市場の潜在力に活路を求めています。クロスボーダーM&Aなら現地企業の顧客基盤やノウハウを一括で取得でき、自社単独での海外進出に比べ大幅な時間とコスト削減が可能です。2018年には取引件数・金額とも過去最高を記録し、東南アジアや欧米での案件が増加しました。

さらにクロスボーダーM&Aは取引通貨や決済方法を選べるため、為替状況に応じて対価を最適化できる利点もあります。財務設計の自由度が高く、中長期的な資本コスト抑制が期待できます。

クロスボーダーM&Aの種類と特徴を把握する

クロスボーダーM&Aは資本の流れによって大きくOUT-IN型とIN-OUT型に分類されます。

OUT-IN型は国内企業を海外に譲渡し市場参入を支援

OUT-IN型では譲渡企業が日本企業、譲受企業が海外企業となります。海外企業は既存基盤を取得して日本市場へ参入し、譲渡企業は高い譲渡価格を得やすい構図です。

IN-OUT型は海外企業を取り込み技術と市場を獲得

IN-OUT型では譲受企業が日本企業、譲渡企業が海外企業となります。高度な技術や革新的なビジネスモデルを取り込むことで新製品開発と海外売上拡大を同時に達成できます。

IN-IN型と併用して検討し取引機会を広げる

国内企業同士のM&A(IN-IN型)も併せて比較検討することで、最適な相手と条件を選ぶ余地が広がります。

OUT-IN型の成功例としては、国内で伸び悩むニッチ事業を海外大手に譲渡し、雇用と研究開発費を守ったケースがあります。IN-OUT型ではアーンアウト条項を用いて現経営陣のモチベーションを維持し、ノウハウ移転を進める事例が増えています。

クロスボーダーM&Aで用いられる代表的な手法

海外企業との取引では国内法制の制約を避けるため、独特のスキームが採用されます。

三角合併は親会社株式を対価に海外合併を実現

親会社株式を消滅会社株主に交付することで国境を越えた合併が可能です。株式と現金を組み合わせる柔軟な設計もでき、対価を段階的に支払って希薄化を抑える方法もあります。

LBOは対象企業の資産を担保に大型資金を調達

Leveraged Buyoutは対象企業のキャッシュフローを担保に融資を受け、自己資金を抑えて買収を実行する手法です。キャッシュフロー予測とカントリーリスク評価を慎重に行い、潜在債務を把握して安全域を確保します。

三角合併やLBOと併用して、少数株式から段階的に出資比率を高める「ステップ・アクイジション」を採用し、シナジー検証を行いながら完全子会社化へ移行する事例もあります。

クロスボーダーM&Aがもたらすメリット

自社事業に高い付加価値を付け譲渡機会を広げる

海外企業は日本企業の技術力や品質を高く評価しており、国内で譲渡が難しかった事業でも好条件での取引が成立するケースがあります。

海外市場への迅速な参入で新たな収益源を獲得

既に現地で事業を展開する企業を取得するため、販路・ブランド・人材をそのまま活用できます。

優秀な海外人材と拠点を一括で確保できる

現地企業を譲受することで信頼あるブランドと優秀な人材を同時に獲得でき、政府や金融機関との関係構築時間も短縮できます。

地域分散により経済変動リスクを軽減する

売上を複数の国と通貨に分散し、特定市場の景気変動リスクを低減できます。

ブランド力と技術力を同時に高め国際競争力を強化

著名ブランドや最先端技術を取り込み、開発期間を短縮しながら製品ラインアップを強化できます。

具体例が示すスピードとシナジーの実現方法

サッポロホールディングスは米国ストーンブリューイングを子会社化し、北米市場に製造拠点と販売網を獲得しました。ソニー・インタラクティブエンタテインメントはバンジー買収によりクリエイティブIPを取り込み、新たな収益源を創出しています。

ここまででクロスボーダーM&Aの概要、種類、手法、メリットを整理しました。後半では注意点となるカントリーリスクや文化的差異、デューデリジェンスの要点、具体的手順、国別動向、弊社支援事例、そしてまとめを詳しく解説します。読み進めることで、自社に最適な国・相手・タイミングを見極める目線が養われます。

クロスボーダーM&Aに伴う注意点とリスクを管理する

クロスボーダーM&Aには国内M&Aと異なる固有のリスクがあります。取引を円滑に進めるには、潜在リスクを認識し、事前に対策を講じることが不可欠です。

カントリーリスクを客観的に評価して資金保全策を講じる

政治情勢の変化や規制導入によって資金回収が難しくなる場合があります。世界銀行のガバナンス指標やリスク保険を活用し、現地通貨建て融資や段階払を組み合わせることで損失を最小化します。

企業文化と経営スタイルの違いをPMIで吸収する

文化摩擦は従業員離職やシナジー遅延の原因となります。PMI準備段階で組織診断を行い、共同プロジェクトやクロスボーダー研修を設定し、相互理解を深めることで統合を円滑化します。

会計・税制・法規制の相違をデューデリジェンスで網羅する

各国の会計基準や外資規制、環境法制を見落とすと想定外の追加コストが発生します。現地専門家と連携し、財務・税務・環境・人事・ITを含む多面的DDを実施することが成功の鍵です。

為替変動と資金調達コストをヘッジで抑制する

買収価額や配当金は為替変動の影響を受けます。クロスカレンシースワップやナチュラルヘッジを組み合わせ、長期金利の安定を図ることがグループ全体の財務健全性を守ります。

クロスボーダーM&Aの基本手順と成功のポイント

戦略立案で目的と対象国を具体的に設定する

シナジー目標や投資回収期間を数値化し、候補国をスクリーニングします。目的が明確であれば交渉中のブレを防ぎ、意思決定が迅速になります。

オリジネーションで最適な相手を発掘し信頼関係を構築する

現地ネットワークを活かし、複数案件を比較検討して適正価格を見極めます。トップ面談を早期に設定し、双方の期待値をすり合わせることが重要です。

LOI締結からデューデリジェンスで価値とリスクを精査する

秘密保持契約と基本合意書を取り交わし、本格的なDDを実施します。未払税金やオフバランス債務の有無、労務訴訟リスクなどを洗い出し、価格と契約条項に反映します。

最終契約とクロージングで条件の履行を確認する

株式譲渡契約(SPA)には表明保証と補償条項を盛り込み、エスクロー口座や分割支払を設定してリスクを最小化します。クロージング後はPMIチームが100日プランを実行し、早期シナジー創出を目指します。

主要国別にみるクロスボーダーM&A動向と特徴

クロスボーダーM&Aは国ごとに規制、税制、文化が異なり、進出戦略も変わります。

シンガポールは税制優遇とゲートウェイ機能で人気

法人実効税率17%と外資規制の少なさが魅力です。後継者不足案件が多く、譲受企業は東南アジア全域のハブを確保できます。

ベトナムは高成長市場で事業拡大ニーズが強い

人口約9,500万人、平均年齢31歳と若く消費意欲が旺盛です。二重帳簿が一般的なため、財務DDで実態収益を正確に把握する必要があります。

インドネシアは人口大国ゆえの市場規模が魅力

規制は厳格ですが、親日的で国内消費が活発です。現地パートナーと連携し、政府機関との交渉を円滑に進めることが成功のカギとなります。

タイはIT・デジタル分野の案件が急拡大

通信・メディア・テクノロジー分野で大型取引が増加中です。サービス業の外資比率制限に注意し、BOI(投資委員会)の優遇制度を活用すると効果的です。

まとめ

クロスボーダーM&Aは、時間を買い海外市場へ一気に進出できる強力な戦略です。カントリーリスクや文化差異を事前に把握し、デューデリジェンスとPMIを徹底することでシナジーを最大化し、持続的な成長を実現できます。

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

相続の教科書