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スクイーズアウトの活用でM&Aリスクを防ぐ方法の解説

スクイーズアウトとは何か、どのようにM&Aリスクを抑えられるのかご存じでしょうか。この記事では少数株主を円滑に排除する手続の流れと、譲渡企業・譲受企業それぞれが抱えるリスクを整理し、専門家の視点から対策を解説します。

目次

  1. スクイーズアウトの基礎知識
  2. スクイーズアウトの主な手続と特徴
  3. 譲渡企業が直面するリスクと対策
  4. M&A全体に共通する四つのリスク区分
  5. スクイーズアウトを活用したリスク低減のポイント
  6. 買い手が注意すべきリスクと対策
  7. M&Aリスク回避のための事前準備
  8. PMI成功のためのチェックリスト
  9. スクイーズアウト実施時の税務と価格算定
  10. スクイーズアウトに伴う情報開示と株主保護
  11. リスク管理フレームワークの実践例
  12. スクイーズアウトを成功に導く要諦
  13. まとめ

スクイーズアウトの基礎知識


スクイーズアウトは、譲受企業が少数株主の株式を強制的に取得し、株主構成を単純化する手法です。特にM&Aや上場企業の非上場化で用いられ、訴訟リスクの軽減、経営意思決定の迅速化、株主対応コストの削減などが期待できます。対価に金銭を用いる場合はキャッシュアウトと呼ばれます。

スクイーズアウトは少数株主を強制的に排除する手続

少数株主は一株でも保有していれば議決権行使、帳簿閲覧請求、代表訴訟提起などの単独株主権を行使できます。そのため、経営陣は訴訟や経営の停滞を避けるために少数株主排除を検討します。スクイーズアウトは法令に基づく手続を経て強制取得を実現するため、譲渡企業と譲受企業の双方にとって明確な解決策となります。

キャッシュアウトとの関係は対価が金銭である点

スクイーズアウトのうち、対価として金銭を交付して株式を取得する形態がキャッシュアウトです。株式を交付する場合と比べ、手続後に少数株主が完全に資本関係から離脱するため、譲受企業は迅速に100%支配を達成できます。

スクイーズアウトの主な手続と特徴

スクイーズアウトには複数の手法が存在し、それぞれ要件やメリットが異なります。

全部取得条項付種類株式は特別決議で実行可能

全部取得条項付種類株式は、定款変更により普通株式へ全部取得条項を付し、株主総会の特別決議で株式を強制取得する方法です。譲受企業が特別決議要件を満たす議決権を保有していれば実施できますが、手続が煩雑で時間を要する点が課題です。

時間と手続が煩雑になる点に注意

裁判所による価格決定申立権など、少数株主保護の枠組みが整備されています。適切な対価算定と説明がなければ訴訟に発展する可能性があるため、事前に専門家と協議し、取得価格の妥当性を確保する必要があります。

株式併合は訴訟リスクが低減し主要手段となった

株式併合は、一定の比率で株式数をまとめ、一株に満たない端数を会社が取得し金銭を交付する手法です。平成26年改正で事前事後開示や差止請求、買取請求権が整備され、訴訟リスクが抑えられました。現在では時間的にも実務的にも利用しやすい主要手段になっています。

特別支配株主の株式等売渡請求は90%超で迅速

特別支配株主の株式等売渡請求は、議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、株主総会を経ずに取締役会決議のみで残りの株式を取得できる制度です。上場企業ではTOBで90%超を取得した後に実施する例もあります。新株予約権も一括取得できるため、迅速かつ網羅的に排除が可能です。

吸収合併・株式交換によるキャッシュアウトは2/3以上で可能

譲受企業が譲渡企業株式の2/3以上を保有している場合、適格要件を満たす吸収合併や株式交換により、残りの少数株主へ金銭を交付して排除することが可能です。組織再編行為として税制上の適格・非適格判定が伴うため、実施前に税務面の検証が不可欠です。



譲渡企業が直面するリスクと対策

スクイーズアウトの実施局面で譲渡企業が直面する典型的なリスクを整理します。

情報漏洩は従業員離職や取引先離脱につながる

スクイーズアウトを含むM&A交渉の存在が外部に漏れると、従業員が不安から退職したり、取引先が条件を厳しくしたり、金融機関が融資条件を見直したりと、企業価値の低下を招きます。対策としては検討メンバーの限定、秘密保持契約、交渉相手との緊密な連絡による情報管理が重要です。

損害賠償請求リスクを抑えるには表明保証保険等が有効

譲渡後に偶発債務や簿外債務が発覚し、譲渡オーナー個人が損害賠償を請求される事例があります。デューデリジェンス段階でリスクを開示し、最終契約に表明保証条項を設けるとともに、表明保証保険への加入を検討することで賠償負担を軽減できます。

従業員同意が得られないとPMIが停滞する

従業員に十分な説明がないままスクイーズアウトが進むと、離職や非協力が発生し、統合後の事業運営が停滞します。情報漏洩を防ぎつつ条件が固まり次第速やかに誠実な説明を行い、減給や強制転勤など不利益条件を排除することで理解を得ることが大切です。

取引先関係悪化は企業価値を押し下げる

譲渡企業が長年築いてきた取引先との信頼は、現経営陣の働きかけで維持されてきました。スクイーズアウトの情報が伝わると、「経営が不安定なのでは」と懸念され、取引解除や条件悪化が生じる恐れがあります。交渉段階では外部漏洩を防ぎ、実行後は速やかに譲受企業の方針と継続的な取引の意思を伝えることで、信頼の維持につながります。

企業価値低下を防ぐには専門家の支援と改善活動が不可欠

不利な条件が重なればM&A価格は下落し、成立自体が困難になる場合があります。譲渡企業は日頃から業績改善や経営課題の解決に取り組み、譲受企業との交渉ではM&A仲介会社など専門家の助言を得て適切な価値評価を行うことが重要です。

M&A全体に共通する四つのリスク区分

M&Aを進める上では、スクイーズアウトを含むか否かにかかわらず、財務・経営・人材・法務という四つの視点からリスクを整理することが大切です。分類することで関係者が論点を共有しやすくなり、対策の漏れを防げます。

1.財務リスクは簿外債務や未払費用の発覚

財務諸表に表れていない退職給付債務や未払残業代が発覚すると、譲受価格の修正や損害賠償の対象となります。スクイーズアウト後に発生すれば負担を引き継ぐのは譲受企業のため、デューデリジェンスでのチェックと十分な開示が欠かせません。

2.経営リスクは業績悪化や経営陣の交代に伴う混乱

M&Aによる経営体制の変化は決裁フローや意思決定スピードに影響します。経営方針が曖昧なままスクイーズアウトが行われれば、従業員や取引先の戸惑いから業績が悪化する可能性があります。早期に統合後の経営方針を示し、共同で実行計画を立てることがリスク低減につながります。

3.人材リスクは重要従業員の離職

技術や営業ノウハウを持つ従業員が離職すれば、譲受企業が期待したシナジーが得られません。キーパーソン面談やインセンティブ設計を通じて継続勤務を促し、不安を払拭するコミュニケーションが求められます。

4.法務リスクは契約違反や法令違反の顕在化

譲渡企業が不利な条件で締結した長期契約や労務関連の法令違反が後に発覚すると、訴訟や是正措置のコストが発生します。専門家による契約精査、組織再編時の法務デューデリジェンスは必須です。

スクイーズアウトを活用したリスク低減のポイント

スクイーズアウトは単なる株主整理の手段ではなく、M&A全体のリスク管理を支える戦略的オプションです。ここでは譲渡企業・譲受企業が協力してリスクを抑える具体策を整理します。

手続選択は議決権構成と時間軸で判断する

全部取得条項付種類株式、株式併合、株式等売渡請求、吸収合併・株式交換のいずれを選ぶかは、譲受企業が保有する議決権割合、予定する完了時期、コスト、訴訟リスクで決まります。例えば90%超を既に保有していれば株式等売渡請求が最速で実施できます。

取得価格は公正な算定手続で妥当性を担保する

取得価格の妥当性は少数株主との紛争を防ぐ最優先事項です。公認会計士による株価算定書を用意し、根拠を丁寧に説明するとともに、裁判所への価格決定申立権が行使されるリスクを見据えた準備を行います。

PMI計画を並行して策定し早期にシナジーを実現する

PMIはM&A成功のカギを握ります。スクイーズアウトによって100%子会社化が完了するタイミングで、組織再編、人事制度統合、業務プロセス統合を着実に進めるロードマップを策定し、従業員の不安を最小化することが望まれます。

専門家ネットワークを有効活用し多面的にリスクを点検

譲渡企業と譲受企業だけでリスクを洗い出すには限界があります。公認会計士・税理士は財務と税務、弁護士は法務、M&A仲介会社は交渉とスケジュール管理の視点から助言します。専門家は第三者的立場でリスクを指摘できるため、当事者が見落としがちな問題を早期に把握できます。特に組織再編行為に該当する場合の税制適格判定や表明保証条項のドラフトは、専門家の知見なしには作成が困難です。

スクイーズアウトを適切に設計し実施することで、株主構成を単一化し、将来の紛争コストを先回りして削減できます。譲受企業は経営資源を統合後の新戦略に集中でき、譲渡企業のオーナーも対価を通じて次の人生設計を描けます。このように両者の利益を両立させる視点が、M&Aを成功へ導く第一歩です。

準備と対話を重ねるほど、スクイーズアウトは安心して実行できます。

買い手が注意すべきリスクと対策

買い手はM&A後にすべての責任を負う立場となるため、事前に潜在リスクを見落とさない姿勢が不可欠です。リスクを十分に認識し、契約書とPMIで備えることで、譲受後の損失や摩擦を最小化できます。

隠れた債務は投資回収期間を延ばす

譲渡企業の財務諸表に計上されていない退職給付債務や未払残業代、係争予備費などは、譲受後に発覚すると追加負担となります。専門家による精査と、最終契約書への表明保証・補償条項の明記で、責任範囲を明確にすることが重要です。

のれんの過大評価は費用負担を増やす

営業権として計上されるのれんは減損リスクをはらんでいます。評価が高過ぎると償却費が膨らみ、キャッシュフローが圧迫されます。複数の算定手法を比較し、市場データを活用して客観性を確保すると共に、専門家のセカンドオピニオンを活用しましょう。

期待収益未達はシナジー効果を損なう

譲受前の事業計画が楽観的すぎると、実際の利益が届かずROIを悪化させます。十分なシナリオ分析を行い、保守的な収益予測を立てることで過度な期待を抑え、統合後のギャップを小さくできます。

組織統合の難航は文化摩擦を生む

企業文化や評価制度が異なるまま統合すると、従業員の帰属意識低下や意思決定の停滞が発生します。統合計画ではガバナンス、組織図、評価制度を明文化し、移行期のサポート体制を整えることが欠かせません。

人材流出は競争力を奪う

M&Aの不透明感は従業員の離職を誘発します。キーパーソンとの面談を通じてキャリアパスと処遇を提示し、信頼を得ることが最優先です。インセンティブプランやストックオプション設計も効果的です。

M&Aリスク回避のための事前準備

譲渡企業と譲受企業が協力して事前準備を行うことが、M&Aリスク軽減の第一歩です。

相互信頼を築くための定期対話

売り手は自社の課題を隠さず開示し、買い手は過度な条件を押し付けない姿勢を示すことで、Win-Winの協力体制が築けます。定期面談や非公式の懇談会は、相手企業の価値観を理解する良い機会です。

専門家の知見活用でリスクを可視化

公認会計士・税理士は財務と税務、弁護士は法務、M&A仲介会社は交渉とスケジュール管理を担当し、多面的にリスクを点検します。専門家が第三者的視点で問題点を指摘することで、見落としを防げます。

相互理解を深めるデューデリジェンス

買い手は財務・法務・人事など多角的に調査し、売り手は買い手の経営姿勢や財務健全性を調べることで、お互いの不安を減らします。調査結果は双方で共有し、課題への対応策を協議しておくと統合後の摩擦が軽減されます。

PMIの計画策定で統合を加速

PMIに遅れが出るとシナジー効果が先送りになります。M&A契約締結前から、人事制度統合・評価体系整備・システム統合を含むロードマップを作成し、責任者と期限を明確にしておくことが望ましいです。

PMI成功のためのチェックリスト

PMIを円滑に進めるため、以下の項目を事前に確認しましょう。

  • 統合目標の共有:収益拡大、人員最適化、研究開発強化など、具体的な成果指標を設定する。
  • キーパーソンの留任策:報酬改定や役職付与でモチベーションを高める。
  • 組織図と職務分掌:重複ポジションを整理し、意思決定フローを簡素化する。
  • システム統合計画:基幹システムや会計ソフトを段階的に統合し、業務停滞を防ぐ。
  • 文化融合プログラム:ワークショップや共同研修で企業理念を共有し、相互理解を促進する。
  • 進捗モニタリング:KPIを設定し、定期的にレビューして計画を修正する。

スクイーズアウト実施時の税務と価格算定

スクイーズアウトが組織再編行為に該当する場合、税制適格要件を満たすかどうかで課税結果が大きく変わります。

組織再編行為に該当するかの判定

全部取得条項付種類株式・株式併合・株式売渡請求・株式交換のいずれも、譲受企業が法人で完全支配関係を構築する場合は、法人税法で「株式交換等」に含まれます。個人株主が買い手の場合は該当しません。

適格要件を満たすかの確認

適格組織再編となるためには、原則として金銭等不交付要件、従業者引継要件、事業継続要件を充足する必要があります。2/3以上の議決権を保有している吸収合併・株式交換では金銭交付制限が緩和される点も確認しましょう。

取得対価の公正価値算定手続

少数株主との紛争を防ぐには、公認会計士による株価算定書を作成し、DCF法や市場株価法など複数手法で検証します。裁判所価格決定申立てを受けた際に説明可能な資料を整備することが望まれます。

スクイーズアウトに伴う情報開示と株主保護

株式併合や売渡請求では、会社法に基づく事前開示や反対株主の買取請求権への対応が義務づけられています。

必要書類と事前事後開示

株主総会招集通知では併合比率や取得対価を詳細に記載し、効力発生日後にも結果を公告する必要があります。不備があると差止請求の対象となるため注意が必要です。

差止請求と買取請求権への対応

反対株主は会社に対し、公正な価格での株式買取を請求できます。買取価格は交渉や裁判所決定で確定するため、初期段階で公正な価格を提示して紛争を防ぎましょう。

裁判所価格決定申立てを視野に入れた準備

価格決定申立てが行われた場合、裁判所は算定手法の妥当性を審査します。複数手法の結果を示し、専門家の意見書を提出することで企業側の主張が通りやすくなります。

リスク管理フレームワークの実践例

リスクを網羅的に管理するため、分野別マトリクスとステークホルダー別リスクマップを活用します。

財務・法務・人材・経営の四分野マトリクス活用

各分野のリスクを重大度と発生可能性でランク付けし、優先順位を設定します。マトリクスを定期的に更新し、対策状況を可視化することで、関係者全員が危険度を共有できます。

ステークホルダー別リスクマップの作成

従業員、取引先、金融機関、株主ごとにリスクと対応策を整理すると、情報共有の漏れを防げます。例えば従業員向けには説明会、取引先向けには個別面談、金融機関向けには事業計画書提出など、具体策を明示します。

スクイーズアウトを成功に導く要諦

スクイーズアウトは株主構成を単純化し、訴訟リスクと管理コストを低減する強力な手段です。しかし、取得価格の妥当性、手続の適法性、ステークホルダーの理解が確保されて初めて真価を発揮します。専門家の助言と丁寧な対話を通じて、リスクを可視化しながら進めることがM&A全体の成功を引き寄せる近道です。

まとめ

スクイーズアウトは少数株主排除とリスク軽減を同時に実現できる有力手法です。適切な手続選択、公正価格の算定、専門家の活用、そしてPMI計画の徹底により、譲渡企業と譲受企業の双方が相乗効果を享受できます。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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