スクイーズアウトは大株主が少数株主を排除し、経営の意思決定を迅速化する手法です。本記事では、スクイーズアウトの概要、手法、株価との関係、適用状況、手続きの流れ、注意点などを詳しく解説します。株式併合を用いた具体的な手順も紹介します。
目次
スクイーズアウト(キャッシュアウト)は、大株主や経営陣が少数株主の株式を強制的に取得し、会社から排除する手法です。この手法は、企業の意思決定を迅速化し、経営の効率性を高めるために活用されます。
スクイーズアウトが必要となる主な理由は以下の通りです:
1. 株主間の意見相違による意思決定の遅延
2. 複数株主の同意取得に時間がかかる場合
3. 第三者への株式売却の複雑化リスク回避
4. 長期的な経営戦略実行や上場廃止の検討
スクイーズアウトを実施することで、大株主は経営方針の決定や事業運営に関するパワーバランスを集約し、より効率的な企業運営を目指すことができます。
スクイーズアウトは、企業経営の効率化や長期的な戦略実行のための重要なツールとなっています。しかし、少数株主の権利保護にも十分な配慮が必要であり、適切な手続きと公正な価格設定が求められます。次の節では、スクイーズアウトと株価の関係性について詳しく見ていきましょう。
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スクイーズアウトを実施する際、大株主は少数株主の株式を取得するため、対象株式の適切な価格算定が必要不可欠です。この買取価額は大株主主導で決定されますが、少数株主が納得できる「公正な価額」であることが重要です。
株価算定に関して少数株主が納得できない場合、以下のような事態が発生する可能性があります:
1. 少数株主による裁判所への価格決定申立て
2. 裁判所の介入による想定以上の高額での買取り
裁判所が算出する株価は、多くの場合、対象会社が事業を継続的に行うことを前提とした株価算定となります。
代表的な株価算定方法には以下の3つがあります:
1. インカムアプローチ
• 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価
• 代表的な手法:DCF法
2. コストアプローチ
• 事業運営に必要な資産や負債を時価評価し、再現コストを計算
• 代表的な手法:簿価純資産法、時価純資産法
3. マーケットアプローチ
• 類似する上場企業の指標を参考に相対的な評価を行う
• 代表的な手法:類似企業比較法、類似取引比較法
株価算定を行う際は、対象会社の特徴や市場環境を考慮し、最適なアプローチを選択することが重要です。公平な株価を算出することで、スクイーズアウトを円滑に進めることができます。
スクイーズアウトは様々な状況で必要となりますが、主に以下の4つのケースで検討されることが多いです。
過去の商法では会社設立時に7名の発起人が必要でした。そのため、この時代に設立された企業では、経営に関与していない株主が存在するケースが多く見られます。これらの株主は以下のようなリスクをもたらす可能性があります:
• 時間の経過による所在不明化
• 会社の乗っ取りの対象となる可能性
このようなリスクを回避し、現経営者に経営権を集中させるため、スクイーズアウトが検討されることがあります。
経営者が亡くなり、複数の相続人がいる場合、以下のような問題が生じる可能性があります:
• これまで経営に関与していなかった人物の経営参画
• 株主の増加による経営方針等での対立
• 株主間のトラブル発生
これらの問題を未然に防ぎ、スムーズな経営を継続するため、スクイーズアウトが検討されることがあります。
中小企業では、従業員のモチベーション向上や取引先との関係強化を目的として、自社株式を保有させているケースがあります。しかし、これらの株主は会社の経営方針によって利害関係が生じる可能性が高く、以下のような問題が起こり得ます:
• 意思決定の困難化
• 経営方針と株主の利害関係の対立
このような状況を回避し、円滑な経営判断を可能にするため、スクイーズアウトが検討されることがあります。
M&Aを行う際には、通常、株主総会等での会社の承認が必要となります。しかし、以下のような理由から、スクイーズアウトが検討されることがあります:
• 反対勢力となる株主の排除
• 議決権の100%保有による承認手続きの簡素化
スクイーズアウトを実施することで、M&Aをより円滑に進めることが可能になります。
スクイーズアウトには、大株主と少数株主の同意を得て実施するケースと、同意を得ずに実施するケースがあります。ここでは、大株主が株式集約のため、少数株主から同意を得た上で少数株主を排除する際の手順について解説します。
スクイーズアウトを実施するためには、大株主はまず必要な株式数を把握する必要があります。スクイーズアウトの手法によっては、以下のような要件があります:
• 議決権の3分の2以上が必要なケース
• 持株比率が9割以上を要件とするケース
必要な株式数を把握したら、どの株主と交渉を進めるかを検討します。選定の際は以下の点を考慮します:
• 大株主との関係性
• 保有株式数
次に買取方法を決定します。主な買取方法には以下のようなものがあります:
1. 経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)
2. 支配株主による株式取得
3. 特別目的会社を設立して株式取得
買取後の目的や資金状況に応じて最適な買取方法を選択することが重要です。
買取価格の決定は非常に重要なステップです。以下の要素を考慮して決定します:
• 企業価値評価
• 市場環境
• 自社の業績
最終的には大株主と少数株主の交渉で、お互いが納得した価額を決定します。注意点として:
• 過剰な買取価格では資金調達リスクがあります。
• 逆に低すぎる買取価額では少数株主からの同意が得られない可能性があります。
慎重な検討とお互いが歩み寄る姿勢での交渉が重要となります。公正な価格設定は、スムーズなスクイーズアウトの実施につながります。
スクイーズアウトを実施する際には、以下の4つの主要な手法があります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。
株式等売渡請求は、以下の特徴を持つ手法です:
• 取締役会設置会社の場合、株主総会決議不要
• 取締役会の承認手続きのみで実行可能
• 少数株主は株式の売渡を拒絶できない
• 会社が定めた価格で強制的に株式を売却
要件:
• 議決権の90%以上を持つ「特別支配株主」の存在が必要
注意点:
• 売渡価格は公平な株価設定が求められる
• 不当な株価設定は裁判所への価格決定申立てのリスクあり
株式併合は、以下のような特徴を持つ手法です:
• 複数の株式を1株にまとめ、株式を圧縮
• 少数株主の保有する株式を端株化し、議決権などの権利を消失させる
例:1,000株を1株にする株式併合を実施すると、1,000株未満の株主は端株となる
実行要件:
• 株主総会における特別決議が必要
• 議決権の過半数を有する株主が出席し、その3分の2以上の賛成が必要
株式交換は、主に上場会社が子会社の少数株主を排除する目的で使用される手法です:
• 親会社と子会社の株式交換を実施
• 子会社から少数株主を排除し、持株比率を100%に
注意点:
• 親会社の株式を対価とした場合、親会社の株主に子会社の少数株主が残る可能性がある
• 対価を親会社の現金とすることで、完全に少数株主を排除可能
全部取得条項付種類株式は、以下の特徴を持つ種類株式です:
• 会社の決議により権限が行使された場合、強制的に会社へ売却が必要
• 2014年の会社法改正以前は、スクイーズアウトの一般的な手法
注意点:
• 種類株式発行の手間や範囲を限定するなどの事前準備が必要
• 全部取得条項付種類株式の権限行使のための手続きが煩雑
これらの手法の中から、株主間の関係性や対象会社の状況、タイムスケジュールを考慮し、最適な方法を選択することが重要です。
2014年の会社法改正により、スクイーズアウトの実施方法に大きな変化がありました。主な変更点と影響は以下の通りです:
1. 新たな手法の導入
• 特別支配株主による株式等売渡請求制度の創設
• 株式併合を利用したスクイーズアウトの容易化
2. 従来の手法の位置づけ変化
• 全部取得条項付種類株式の利用頻度減少
3. 実行の簡素化
• 手続きの簡素化により、スクイーズアウトの実施がより容易に
これらの変更により、以下のようなメリットが生まれました:
• 迅速な意思決定の実現
• 会社にとって好ましくない株主の排除が容易に
• 経営の安定性向上
一方で、少数株主の権利保護も重要視されるようになりました。スクイーズアウトを実施する際の留意点は以下の通りです:
1. 少数株主への配慮
• 同意を得ずに実行可能だが、丁寧な対応が求められる
2. 適切な手続きの遵守
• 法律に則った正確な手続きの実施が不可欠
3. 公正な価格設定
• 少数株主が納得できる買取価格の設定が重要
4. 透明性の確保
• 情報開示を適切に行い、プロセスの透明性を保つ
5. リスク管理
• 少数株主からの訴訟リスクを考慮した慎重な対応
会社法改正後のスクイーズアウトは、企業にとってより使いやすいツールとなりました。しかし、その実施には十分な検討と慎重な対応が求められます。法的要件を満たすだけでなく、少数株主の利益にも配慮しながら進めることが、円滑なスクイーズアウトの実現につながります。
株式併合を利用したスクイーズアウトの手続きは、以下の順序で進められます。各ステップを適切に実施することが、円滑なスクイーズアウトの実現につながります。
1. 取締役会の開催
• 開催日の1週間前までに各取締役および各監査役に通知(会社法368条1項)
2. 決議事項
• 株式併合の実施
• 株式併合を議題とした株主総会の開催
3. 取締役会議事録の作成
• 出席取締役および監査役の署名または記名・押印が必要(会社法369条3項)
1. 備置必要書類
• 株式併合の概要
• 併合割合の相当性
• 最終年度の貸借対照表など
2. 備置期間
• 株主総会の2週間前または株主への通知・公告日のいずれか早い日から6ヶ月間
3. 備置場所
• 会社本店
1. 発送期限
• 原則:株主総会開催日の2週間前まで(会社法299条1項)
2. 例外
• 定款で株主の同意があれば招集通知を省略できる旨の定めがある場合
1. 決議要件
• 議決権を持つ株主の過半数の出席
• 出席株主の議決権の3分の2以上の賛成(会社法309条2項4号、180条2項)
2. 議事録作成
• 法定事項を含めた議事録の作成が必要
1. 通知対象
• すべての株主
2. 通知内容
• 株式併合の概要
• 併合割合など
3. 送付期限
• 端株が発生する場合:株式併合の効力発生日20日前まで
• 端株が発生しない場合:効力発生日の2週間前まで
4. 注意点
• 連絡のつかない株主がいても、株主名簿記載の住所への郵送で通知完了とみなされる
1. 効力発生日
• 株主総会で決議された日
2. 株式数の変更
• 株式併合割合による株式数に変更
3. 端株の扱い
• 議決権等の権限を失う
• 効力発生後に買取りを実施
1. 保管期間
• 株式併合の効力発生日から6ヶ月間
2. 保管場所
• 会社本店
3. 保管目的
• 株主がいつでも閲覧できるようにするため
これらの手続きを適切に行い、法律上の義務を果たすことが、円滑なスクイーズアウトの実施につながります。各ステップで必要な書類や期限を厳守し、透明性のある手続きを心がけることが重要です。
スクイーズアウトは会社にとって大きなメリットがある一方で、少数株主の権利を制限する側面もあります。そのため、実施にあたっては以下の点に注意が必要です。
1. 少数株主への配慮
• 中小企業の場合、株主が親族や知人、創業仲間であることが多い
• 人間関係を考慮した丁寧な対応が重要
2. 適正な買取価格の設定
• 不当に低い買取価格の場合、少数株主が裁判所に申し立てる可能性がある
• 裁判所が介入すると、想定以上の高額での買取りを強いられる可能性がある
3. 法的手続きの遵守
• 適法な手続きを厳密に踏むことが重要
• 手続きの瑕疵は、後のトラブルの原因になり得る
4. 透明性の確保
• 情報開示を適切に行い、プロセスの透明性を保つ
• 少数株主の理解を得やすくなる
5. リスク管理
• 裁判所の介入による企業イメージ低下のリスクを考慮
• 勝訴したとしても、評判を落とす可能性がある
6. コミュニケーションの重視
• 少数株主との丁寧な対話を心がける
• 理解と協力を得られるよう努める
7. 専門家の活用
• 法律や財務の専門家に相談し、適切なアドバイスを受ける
• 複雑な手続きを確実に進めるために有効
8. 長期的視点の維持
• スクイーズアウト後の経営戦略を見据えた判断が必要
• 短期的な利益だけでなく、会社の将来を考慮した決定を行う
これらの点に注意を払いながら、慎重にスクイーズアウトを進めることが、トラブルを回避し、円滑な実施につながります。適切な手続きと公正な価格設定、そして丁寧なコミュニケーションが、成功の鍵となります。
ここでは、日本製鉄が日鉄物産を公開買付(TOB)およびスクイーズアウト手続きによって連結子会社化・非公開化した事例を紹介します。
背景:
• 日本製鉄:世界トップクラスの鉄鋼メーカー
• 日鉄物産:鉄鋼卸を主業とする専門商社
スクイーズアウトの目的:
1. グループ化による営業力強化
2. シナジー効果の向上
3. 中長期的な経営戦略の実行
実施理由:
1. 限定的な資本関係によるシナジー効果の制約
2. 中長期的戦略と少数株主の利益相反の可能性
実施手順:
1. 公開買付(TOB)の実施
2. スクイーズアウト手続きの執行
結果:
• 日鉄物産の非公開化
• 日本製鉄の連結子会社化
スクイーズアウト後の展開:
1. 一貫したサプライチェーンの構築
2. コスト競争力の強化
3. 海外における営業力の強化
この事例は、スクイーズアウトが企業グループの競争力強化や経営戦略の実行に有効なツールとなり得ることを示しています。ただし、実施にあたっては少数株主の利益にも十分配慮し、適切な手続きと公正な価格設定が重要であることを忘れてはいけません。
スクイーズアウトは、大株主や経営者が自社を円滑に経営するための重要な手法です。しかし、少数株主の権利にも配慮が必要です。適切な手続きと公正な価格設定、丁寧なコミュニケーションを心がけることが、成功の鍵となります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画