スクイーズアウトの活用でM&Aリスクを防ぐ方法の解説

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スクイーズアウトとは?M&Aで少数株主を整理する方法

スクイーズアウトの意味、株式併合・株式等売渡請求の違い、買取価格、税務、少数株主保護を解説。M&AやMBOで完全子会社化を進める前に確認すべき実務上の注意点を整理します。

目次

  1. スクイーズアウトをM&Aで使う場面
  2. 少数株主を整理する主な手法
  3. 実行前に確認すべき株主構成と手続
  4. 買取価格と少数株主保護の注意点
  5. M&Aリスクを抑える実務上の進め方
  6. まとめ

スクイーズアウトの活用でM&Aリスクを防ぐ方法の解説

スクイーズアウトをM&Aで使う場面

少数株主が数%残っているだけなら問題ない。そう考えて会社売却の準備を始める経営者は少なくありません。しかし、買い手が100%取得を希望する場面では、その数%が交渉の大きな論点になります。

スクイーズアウトとは、多数派株主が少数株主の株式を強制的に取得し、株主構成を集約する手続です。「締め出し」と訳されることがあり、金銭を対価として株主から外れてもらうため「キャッシュ・アウト」と呼ばれることもあります。

M&A(合併・買収)では、会社を完全子会社化したいとき、MBOで経営陣が株式を集約したいとき、上場会社を非公開化したいときなどに使われます。中小企業の会社売却では、親族、元役員、取引先、従業員などに分散した株式を整理し、買い手に渡しやすい状態を作る目的で検討されます。


完全子会社化で意思決定を速くする

買い手が100%取得を求める理由は、意思決定を速くしたいからです。少数株主が残ると、株主総会の招集、議案説明、配当対応、株主名簿管理などが続きます。再編、役員変更、資金移動、事業統合を進めるたびに、少数株主への説明や手続を気にしなければなりません。

株主が1人でも残れば、権利は残ります。これは大切な株主保護である一方、買収後の経営スピードを落とす原因にもなります。そのため、M&Aの現場では「最終的に100%取得できるか」が早い段階で確認されます。

管理コストと将来トラブルを減らす

スクイーズアウトには、株主対応の管理コストを減らす効果もあります。株主名簿の更新、配当金の振込、通知書類の発送、所在不明株主への対応。1件ごとの負担は小さく見えても、長く続くと事務負担になります。

さらに、少数株主が売却価格や経営方針に不満を持つと、価格決定の申立てや差止めの検討に発展することがあります。会社売却の直前にこの問題が出ると、買い手はリスクを価格に織り込みます。つまり、経営者の手取りにも影響しやすいのです。

上場廃止やMBOでも使われる

上場会社では、TOBで一定割合の株式を取得した後、残った少数株主をスクイーズアウトで整理し、上場廃止や完全子会社化へ進む流れがあります。MBOでも、経営陣やスポンサーが株式を集めた後に、最終段階として実行されることがあります。

中小企業の場合、上場廃止そのものは通常関係しません。ただし、考え方は同じです。買い手が安定して経営できるよう、株主構成をできる限り単純にする。これがスクイーズアウトの実務上の役割です。

少数株主を整理する主な手法

スクイーズアウトには複数の方法があります。どれを選ぶかは、議決権の保有割合、会社の機関設計、少数株主との関係、M&Aのスケジュールによって変わります。名前だけで選ぶと危険です。

株式等売渡請求は90%以上で使いやすい

株式等売渡請求は、原則として総株主の議決権の90%以上を持つ特別支配株主が、少数株主に対して株式の売渡しを請求する手続です。定款でこれより高い割合を定めている場合は、その割合を満たす必要があります。

取締役会設置会社では、対象会社の取締役会承認を経て進めます。株主総会を開かずに実行できるため、スピードを重視する場面で有効です。

ただし、90%以上という高い保有割合が必要です。創業者一族や買い手がすでに大半の株式を持っている会社では使いやすい一方、株式が広く分散している会社では最初から選べないこともあります。

速い手続ほど価格説明が重要になる

株式等売渡請求は手続が速い反面、少数株主から見ると「一方的に買い取られた」と感じやすい制度です。買取価格の根拠、算定方法、通知内容が不十分だと、後から不満が強くなります。速さだけを優先しないこと。ここが実務上の落とし穴です。

株式併合は特別決議で進める

株式併合は、複数の株式を1株にまとめる手続です。例えば、10万株を1株に併合すると、10万株未満しか持たない少数株主の株式は1株未満の端数になります。この端数を金銭で処理することで、少数株主は株主ではなくなります。

株式併合を行うには、原則として株主総会の特別決議が必要です。簡単にいえば、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得る手続です。

90%に届かない場合でも使えるため、中小企業の株主整理では重要な選択肢です。

端数株の現金処理が少数株主の出口になる

株式併合では、少数株主の保有株式を端数にして終わりではありません。端数に相当する金銭を交付する必要があります。この金銭の額が不当に低いと、少数株主保護の手続に進む可能性があります。

「議決権を持っているから押し切れる」と考えるのは危険です。必要な決議を満たすことと、公正な価格を示すことは別問題です。

吸収合併・株式交換は再編目的と合わせて考える

吸収合併や株式交換を使って、結果として少数株主を整理する方法もあります。買い手企業の株式や金銭を対価として、対象会社を完全子会社化する考え方です。ただし、中小企業の単純な会社売却では、株式併合や株式等売渡請求より手続が重くなりやすいです。

組織再編を同時に行う必要があるのか。税務上の適格要件、会計処理、契約関係への影響まで確認する必要があるのか。この見極めが大切です。

全部取得条項付種類株式は現在の主流ではない

以前は、全部取得条項付種類株式を使ったスクイーズアウトも見られました。これは、一定の種類株式を会社が全部取得できるようにする仕組みです。ただし、制度改正後は株式併合や株式等売渡請求が使いやすくなり、現在の中小企業M&Aでは主流とはいえません。

過去の資料や古い記事では、この方法が大きく説明されていることがあります。実際に使うかどうかは、現行の会社法実務に照らして確認する必要があります。

実行前に確認すべき株主構成と手続

スクイーズアウトを検討する前に、まず株主構成を正確に把握します。ここを曖昧にしたまま手続に入ると、通知漏れ、決議要件不足、価格トラブルにつながります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

株主名簿と議決権割合を洗い直す

最初に見るべきものは株主名簿です。現在の株主、住所、保有株式数、議決権数、相続の有無、名義株の可能性を確認します。名義株とは、実際の出資者と名簿上の株主が一致していない株式のことです。古い会社では珍しくありません。

次に、議決権割合を確認します。原則として90%以上を確保できるなら株式等売渡請求、特別決議に必要な賛成を見込めるなら株式併合が候補になります。どちらも難しい場合は、任意買取や株主間交渉を先に進めることになります。

任意買取で済む相手かを見極める

すべてを強制手続で解決しようとすると、かえって反発を招くことがあります。少数株主と連絡が取れ、価格にも一定の納得が得られるなら、任意買取の方が早く穏やかに進むこともあります。

問題は、所在不明、強い反対、高額な要求、相続人間の対立がある場合です。このようなケースでは、任意交渉だけでは時間が読めません。会社売却の期限が決まっているなら、早めに法的手続の選択肢も並行して検討します。

買い手との基本合意前に論点化する

少数株主の存在を隠したまま交渉を進めると、買収監査で発覚したときに信頼を失います。買い手は、株主整理にかかる費用、時間、反対株主リスクを見積もり、譲渡価格や条件に反映します。

むしろ早い段階で、株主構成と整理方針を説明する方が交渉は安定します。経営者にとっては言い出しにくい話ですが、先送りしないことが大切です。

通知と開示の期限を逆算する

株式併合や株式等売渡請求には、会社法上の通知、公告、書類備置などの手続があります。株主総会が必要な場合は、招集通知、議案、決議、効力発生日までを逆算しなければなりません。

特に中小企業では、株主名簿の住所が古い、相続で株主が増えている、株券発行会社のままになっている、といった問題が出やすいです。書類作成そのものより、前提確認に時間がかかる。意外と多い落とし穴です。

売却スケジュールとは別に余裕を持たせる

M&Aの交渉、買収監査、契約締結、クロージングと並行してスクイーズアウトを進める場合、少しの遅れが全体日程に響きます。売却予定日から逆算し、株主整理だけの工程表を作っておくと安心です。

買取価格と少数株主保護の注意点

スクイーズアウトで最も揉めやすいのは、手続の名前ではなく価格です。少数株主から見れば、自分の意思と関係なく株式を手放すことになります。だからこそ、少数株主保護の仕組みが用意されています。

買取価格は公正な根拠を示す

買取価格は、公正な価額である必要があります。非上場会社では市場価格がないため、純資産、収益力、将来計画、類似会社の状況などを踏まえて算定します。単に「額面だから」「昔の出資額だから」という理由では、説明として弱くなります。

少数株主が価格に納得しない場合、裁判所に価格決定を申し立てることがあります。そうなると、時間と費用が増え、M&A全体にも影響します。価格算定の資料を残すことは、後日の防御にもなります。

安く買うほど成功とは限らない

経営者としては、少数株主からできるだけ低い価格で買い取りたいと考えるかもしれません。しかし、低すぎる価格は反発を生みます。結果として、申立て、交渉長期化、買い手からの評価引下げにつながることもあります。

M&Aでは、株式を整理する目的は「安く締め出すこと」ではありません。100%取得できる状態を作り、買い手が安心して譲渡価格を提示できるようにすることです。ここを取り違えないようにしたいところです。

少数株主には救済手続がある

少数株主には、不当な手続や不公正な価格から守られる仕組みがあります。手続に法令違反がある場合の差止請求、反対株主の買取請求、価格決定の申立てなどです。細かな要件は手法によって異なりますが、「多数派だから何でもできる」わけではありません。

そのため、通知文面、算定資料、取締役会や株主総会の議事録、株主への説明記録を整えておくことが重要です。後で争われたとき、何を根拠に判断したのかを示せる状態にします。

税務は出ていく株主の手取りにも影響する

スクイーズアウトで少数株主が金銭を受け取る場合、一般に株式の譲渡として扱われ、譲渡益に税金がかかることがあります。個人株主か法人株主か、取得価額が分かるか、同族会社株式かによって確認事項は変わります。

税務は、会社側だけの問題ではありません。少数株主が「手取りはいくらになるのか」を気にするため、価格交渉にも影響します。税金を無視して金額だけを提示すると、合意直前で話が戻ることもあります。

M&Aリスクを抑える実務上の進め方

スクイーズアウトは、少数株主を整理するための制度です。ただし、使い方を誤ると、M&Aの不安を減らすどころか新たな紛争を生みます。実務では、手続、価格、情報管理、PMI(M&A後の統合プロセス)を同時に見ます。

情報漏洩を防ぎながら株主対応を進める

会社売却の話が外部に漏れると、従業員、取引先、金融機関に不安が広がることがあります。少数株主への説明も、範囲とタイミングを誤ると情報漏洩の起点になります。

だからこそ、誰に、いつ、何を伝えるかを事前に決めておきます。通知書を送る段階、任意交渉を始める段階、株主総会を開く段階では、情報の出方が変わります。感情面にも配慮が必要です。

買収防衛策や敵対的買収との違いを整理する

スクイーズアウトは、買収防衛策そのものではありません。多数派が少数株主を整理して、支配権を集約する手続です。一方、敵対的買収への対抗策、焦土作戦、スタンドスティル条項などは、買収される側が支配権を守るために検討する論点です。

上場会社の記事では、これらが同じ文脈で語られることがあります。しかし、中小企業の会社売却では、目的が違います。会社を守るための防衛なのか、売却を円滑に進めるための株主整理なのか。ここを分けて考えると、判断を誤りにくくなります。

買収監査では株主整理の実行可能性を見られる

買い手は、買収監査で株主名簿、定款、議事録、過去の株式移動、株券の有無、名義株の可能性を確認します。ここで不備が見つかると、譲渡価格だけでなく、契約条件にも影響します。

たとえば、クロージング条件として「少数株主の整理完了」を求められることがあります。あるいは、整理費用を売り手側で負担するよう求められることもあります。株主整理は、法務だけでなく価格交渉の問題でもあります。

表明保証との関係にも注意する

株主構成に誤りがあると、株式譲渡契約の表明保証違反につながる可能性があります。表明保証とは、契約時に一定の事実が正しいと売り手が約束する条項です。株主数、発行株式数、権利関係に不明点があるなら、契約前に整理しておきます。

PMIを見据えて反発の芽を減らす

少数株主の中には、元役員、親族、従業員、取引先など、会社と長い関係を持つ人がいます。法的には整理できても、説明が乱暴だと買収後の評判や人間関係に影響します。

M&A後の統合を考えるなら、法律上の正しさだけでは足りません。なぜ株式を整理するのか、価格はどう決めたのか、今後の会社運営にどう関係するのか。伝えるべき相手には、必要な説明を尽くすことが重要です。

経営者が早めに準備したい資料

準備すべき資料は、株主名簿、定款、登記簿、過去の株主総会議事録、株式譲渡契約書、相続関係資料、株価算定資料です。これらがそろっているだけで、専門家の確認も買い手の判断も速くなります。

書類がない場合も、諦める必要はありません。いつ、誰が、どのような経緯で株式を持ったのかを整理し、残っている資料から事実関係を積み上げます。地味な作業ですが、会社売却では大きな差になります。

まとめ

スクイーズアウトは、少数株主を整理し、M&AやMBOで完全子会社化を進めやすくする手続です。株式等売渡請求や株式併合を使えますが、議決権割合、価格算定、少数株主保護、税務を誤ると紛争化します。会社売却を見据えるなら、早めに株主構成を確認し、任意買取と法的手続のどちらが適切かを検討することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人