M&Aにおける表明保証保険の仕組みと必要性、活用メリットを詳しく解説します。リスク軽減のための重要なツールとして注目される表明保証保険の基本から契約手順まで、徹底的に解説します。
目次
▶目次ページ:M&Aの流れ(最終契約/クロージング)
M&A(合併・買収)を行う際、リスク低減の手段として「表明保証保険」の活用が注目されています。この保険は、M&A取引における重要な要素となりつつあります。ここでは、表明保証保険の基本的な概念と仕組みについて解説します。
表明保証とは、M&A契約において、当事者が契約内容の真実性と正確性を保証することを意味します。具体的には、売り手と買い手の双方が、契約に関わる事実や法律関係について、その内容が真実であることを保証するものです。近年、お互いの信頼関係を築くうえで、この表明保証が重視されるケースが増えています。
表明保証保険は、M&A契約において表明保証違反が発生した場合に適用される保険です。具体的には、契約当事者や対象会社、事業に関する表明保証に違反があり、その結果として経済的な被害が生じた場合に、保険金の請求が可能となります。
この保険は、主にM&Aの買い手が、売り手の表明保証違反に備えるために利用されることが多いです。アメリカでは表明保証保険が広く活用されており、M&Aにおけるリスク対策の一般的な手段となっています。
表明保証保険の基本的な仕組みは、表明保証違反による経済的損失を保険会社が補償するというものです。M&A取引完了後に、契約内容と異なる事実が判明した場合でも、この保険によって経済的な損失を迅速にカバーすることができます。
この仕組みは、特に以下のようなケースで有効です:
1. 信頼関係が十分に構築されていない企業や個人との契約時
2. 短期間でのM&A成約を目指す場合
3. 相手について詳細な調査を行う時間的余裕がない状況
表明保証保険は、このような不確実性が高い状況下でのM&A取引において、リスクヘッジの手段として重要な役割を果たします。契約当事者双方に安心感を提供し、円滑なM&A取引の実現に貢献する保険といえるでしょう。
M&A取引において、表明保証保険の重要性が高まっています。その背景には、M&Aに伴うリスクの複雑化や取引の増加があります。ここでは、表明保証保険が必要とされる主な理由について説明します。
表明保証保険は、M&A取引の公平性を高める重要な役割を果たします。この保険により、売り手と買い手の双方が契約内容の真実性を保証できるため、より安心かつスムーズな契約締結が可能となります。
M&A取引では、当事者間に不安や不信感が生じることがあります。そのような状況下では、取引の成立そのものが危ぶまれる可能性もあります。表明保証保険を活用することで、これらの不安や不信感を払拭し、公平で円滑な取引を実現することができます。
近年、M&A取引の件数が増加傾向にあることも相まって、表明保証保険の重要性が広く認識されつつあります。特に、M&A取引に不慣れな企業にとっては、少しでもリスクを軽減したいという思いが強くなっています。
そのため、リスクヘッジの一環として表明保証保険を採用するケースが増えています。この傾向は今後も続くと予想され、M&A取引におけるリスク対策として、表明保証保険の重要性がさらに高まっていく可能性が高いと考えられます。
表明保証保険は、様々なM&A取引のシーンで効果を発揮します。ここでは、具体的にどのような場面で表明保証保険が役立つのかを紹介します。
表明保証保険の主要な役割は、契約書で取り交わした表明保証事項と異なる実態が明らかになった場合など、契約違反があった際の損害補償です。この保険の特徴は、被保険者の経済的損失がM&A契約の相手方ではなく、保険会社によって補償される点にあります。
表明保証保険には主に2種類あります:
1. 売り手向けの「売主用表明保証保険」
2. 買い手向けの「買主用表明保証保険」
通常、どちらか一方が加入するケースが多く見られます。
表明保証保険のもう一つの大きなメリットは、訴訟などの法的手続を回避できる可能性が高まることです。相手企業の違反行為によって損害が発生した場合、通常であれば訴訟などの法的手段で問題解決を図る必要があります。
しかし、訴訟には多大な時間と労力がかかり、その結果として事業展開が遅れるなどの二次的な損失が生じる可能性があります。表明保証保険を利用することで、このような訴訟の手間を省くことができ、迅速な損失補填が可能となります。
これは、訴訟に時間をかけられない状況下でも、経済的損失の問題を効率的に解決できることを意味します。
表明保証保険を検討する際、重要なポイントとなるのが補償金額の上限です。一般的に、この上限額は企業価値評価の10%から20%程度に設定されることが多いです。
ただし、この上限を超える損失が発生した場合、超過分については相手方に直接請求する必要があります。そのため、表明保証保険を利用する際には、事前に上限額の目安を立てておくことが重要です。これにより、保険でカバーできる範囲と、追加で対策が必要な部分を明確に把握することができます。
表明保証保険をM&A取引で活用することには、多くのメリットがあります。ここでは、その具体的なメリットについて詳しく解説します。
クリーンエグジットとは、M&A取引後に責任を残さず、対象事業から完全に撤退することを意味します。M&A取引では、たとえ誠実に対応したつもりでも、予想外の瑕疵が後から発見されるリスクがあります。
このようなトラブルが発生すると、その対応に追われてしまい、M&A後に計画していた新たな事業展開などが頓挫するリスクがあります。表明保証保険を利用することで、万が一問題が発生しても補償の心配がなくなるため、クリーンエグジットがより実現しやすくなります。
表明保証保険の活用は、買い手企業との信頼関係構築にも大きく貢献します。買い手が経済的損失を被る可能性が低くなるため、取引に関するトラブルを未然に防ぐことができます。
実際に、表明保証保険の利用が、M&A契約締結の決め手になるケースも少なくありません。買い手からの信頼を得るための有効な手段として、表明保証保険の活用を検討する価値は十分にあると言えるでしょう。
表明保証保険は多くのメリットがある一方で、いくつかの留意点も存在します。ここでは、表明保証保険を利用する際に注意すべきポイントについて解説します。
1. 補償対象外となるケース:
o クロージング(成約)以前に表明保証違反を把握していた場合
o 年金や退職金の積立不足によるトラブル
o 業績予想における見解の相違
2. 保険料負担の問題: 保険料をどちらの当事者が負担するかについて、交渉が難航する可能性があります。
3. 補償範囲の確認: 保険でカバーされる範囲と、されない範囲を事前に十分確認することが重要です。
4. デューデリジェンスの重要性: 表明保証保険があるからといって、デューデリジェンス(買収監査)を疎かにして
はいけません。むしろ、保険契約のためにも詳細なデューデリジェンスが求められ
ます。
5. 保険金請求のプロセス: 保険金請求の手続や必要書類について、事前に理解しておくことが大切です。
6. 保険期間の考慮: 表明保証保険の有効期間は限られているため、長期的なリスクへの対応を別途検討する必要があ
ります。
これらの点に留意しつつ、表明保証保険を活用することで、より安全かつ効果的なM&A取引の実現が可能となります。
表明保証保険を利用するためには、適切な準備と手順を踏む必要があります。ここでは、M&A実行時に表明保証保険を契約する方法について、具体的に解説します。
表明保証保険の契約プロセスの第一歩は、保険会社やM&A仲介企業への相談です。特にM&A仲介企業は、以下のような利点があります:
1. 保険会社や金融機関とのネットワークがある
2. 企業の財務状況などを確認したうえで、適切な契約先を紹介できる
3. M&A全般に関するサポートを提供できる
M&A仲介企業に依頼することで、スムーズなクロージング(成約)の実現可能性が高まります。M&Aに関する不安や悩みがある場合には、まずM&A仲介企業への相談を検討するのがよいでしょう。
保険会社との具体的な契約手順は、以下のようになります:
1. 引受審査の受審: 保険会社に対して、必要な資料を提出し、引受審査を受けます。
主な提出資料には以下のようなものがあります:
o 開示資料
o デューデリジェンス(買収監査・企業調査)レポート
o その他、保険会社が求める関連書類
2. 質問書への回答: 保険会社は提出された資料を基に質問書を作成します。この質問書に対して、正確かつ詳細に回
答する必要があります。
3. 保険契約内容の確認: 保険会社から送付される保険契約の詳細内容を慎重に確認します。補償範囲、免責事項、保
険料などの重要事項を十分に理解することが重要です。
4. 契約締結: 内容を確認し、問題がなければ契約を締結します。この時点で表明保証保険の利用が正式に開始されま
す。
このプロセスを通じて、M&A取引に適した表明保証保険を契約することができます。ただし、各段階で専門的な知識や判断が求められるため、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
表明保証保険は、M&A取引におけるリスク軽減の重要なツールとして注目されています。この保険は、契約違反による経済的損失を補償し、クリーンエグジットの実現や買い手企業との信頼関係構築に貢献します。ただし、補償対象外となるケースや保険料負担の問題など、留意点もあります。M&Aを検討する際は、表明保証保険の活用を視野に入れ、専門家のアドバイスを得ながら慎重に進めることが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画