M&A保険活用でリスク低減可能な表明保証保険の詳細を解説

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表明保証保険とは?中小企業M&Aの補償範囲と導入判断

表明保証保険は、M&A後に判明した表明保証違反による損害を補う仕組みです。買主用・売主用の違い、保険料や免責金額、補償期間、対象外となるリスク、引受審査の流れを整理し、中小企業の会社売却で導入を検討すべき場面を分かりやすく解説します。

目次

  1. 表明保証保険が補うM&A後の損失
  2. 会社売却で導入効果が出やすい場面
  3. 買主用保険と売主用保険の違い
  4. 保険料や補償条件を確認するポイント
  5. 保険金が支払われない主なリスク
  6. 引受審査から保険契約までの流れ
  7. エスクローなど他の手段との使い分け
  8. 経営者が導入前に確認すべき事項
  9. まとめ

M&A保険活用でリスク低減可能な表明保証保険の詳細を解説

表明保証保険が補うM&A後の損失

「保険に加入すれば、会社売却後の責任はすべてなくなる」と思われることがあります。しかし、表明保証保険が主に補償するのは、契約時には分からなかった表明保証違反による経済的損失です。

M&A(合併・買収)の最終契約書では、経営者が対象会社の財務、税務、法務、労務、事業運営などについて、一定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証します。

たとえば、開示した決算書に重大な誤りがないこと、未申告の税金や重要な訴訟がないこと、事業に必要な許認可を保有していることなどです。

クロージング後に表明した内容と異なる事実が判明し、買い手企業に損害が生じた場合、通常は最終契約書に基づいて売り手へ補償請求が行われます。表明保証保険は、その損害の全部または一部を保険会社へ移す仕組みです。

近年は国内のM&Aでも利用できる商品が増え、中小企業の会社売却におけるリスク分担の選択肢となっています。

表明保証は契約の前提となる事実確認

表明保証は、将来の業績を必ず達成すると約束するものではありません。契約締結時やクロージング時に、対象会社の状態が契約書に記載された内容と一致していることを確認する条項です。

買い手企業にとっては、限られた期間の調査だけでは確認し切れない情報を補う役割があります。経営者にとっては、表明した内容に誤りがあれば、譲渡後も補償責任を負う可能性がある重要な条項です。

デューデリジェンスの代わりにはならない

表明保証保険は、デューデリジェンス、つまり買収前の調査を省略するための保険ではありません。

保険会社は引受審査の際に、財務・税務・法務などの調査が合理的な範囲で行われたかを確認します。調査が不足している分野については、追加調査を求められたり、その分野が補償対象から除外されたりすることもあります。

保険に入るから調査を簡略化できるわけではありません。むしろ、十分な資料開示と調査が保険加入の前提になります。

会社売却で導入効果が出やすい場面

表明保証保険には保険料や審査費用がかかるため、すべてのM&Aで必要になるわけではありません。導入効果が出やすいのは、補償責任の条件が合わず、契約交渉が止まりそうな案件です。

経営者の補償責任を抑えたい場合

中小企業の会社売却では、売り手が個人のオーナー経営者であることが少なくありません。買い手企業から高額かつ長期間の補償責任を求められると、会社を譲渡した後も大きな不安が残ります。

買主用の表明保証保険を利用し、買い手企業が保険会社へ直接請求できる設計にすると、経営者が負う補償額や責任期間を抑えやすくなります。

ただし、経営者の故意による隠蔽や、保険の対象外とされた問題まで責任がなくなるとは限りません。保険加入後にどの責任が残るのか、最終契約書で確認する必要があります。

譲渡対価の留保を減らしたい場合

買い手企業が補償請求に備え、譲渡対価の一部をエスクロー口座に留保するよう求めることがあります。エスクローとは、第三者が代金の一部を一定期間預かる仕組みです。

表明保証保険で損害の回収手段を確保できれば、エスクローに留保する金額を減らせる可能性があります。経営者は譲渡対価を早く受け取りやすくなり、引退後の生活資金や新たな事業へ使いやすくなります。

売り手の資力が問題になる場合

売り手が複数の個人株主である場合や、譲渡後に解散を予定するSPC、つまり特別目的会社である場合、買い手企業は損害が発生しても十分に回収できないと懸念することがあります。

保険会社を主な請求先にできれば、売り手の資力に左右されにくい補償設計が可能です。複数の株主へ個別に請求する手間を減らせることもあります。

入札で条件の競争力を高めたい場合

複数の買い手候補が参加する入札では、譲渡価格だけでなく、売り手が負う補償責任も比較されます。

買い手企業が表明保証保険を利用し、売り手の補償上限を低くする条件を提示すれば、売り手にとって魅力のある提案になる場合があります。価格以外の条件で他の候補との差を付ける方法の一つです。

譲渡後も経営者が会社に残る場合

会社売却後も、経営者が会長、顧問、役員などとして残るケースは珍しくありません。

その状況で買い手企業から経営者へ直接補償請求が行われると、その後の引継ぎや経営協力に支障が出ることがあります。保険会社への請求を中心とすることで、当事者同士の対立を避けやすくなる点も実務上の利点です。

買主用保険と売主用保険の違い

表明保証保険は、誰が保険契約者や被保険者になるかによって、買主用保険と売主用保険に分かれます。実務では、請求のしやすさなどから買主用保険が多く利用されています。

買主用保険

買い手企業が加入し、表明保証違反によって受けた損害を保険会社へ直接請求する保険です。

買い手企業の主なメリット

・売り手の資力不足による回収不能リスクを抑えやすい

・売り手へ直接請求する場面を減らし、関係を保ちやすい

・売り手の契約上の補償上限を超える補償を設定できる場合がある

・入札で売り手に有利な補償条件を提示しやすい

保険の条件によっては、売り手の補償責任を低く設定しながら、買い手企業は必要な補償限度額を確保できます。

売主用保険

経営者などの売り手が加入し、買い手企業に対する補償責任が発生した後、その支払額を保険会社へ請求する保険です。

一般に、最終契約書で売り手が負う責任の範囲内で補償されます。買い手企業から売り手への請求を経たうえで保険会社へ請求するため、買主用保険よりも手続が複雑になりやすい傾向があります。

売り手の主なメリット

・譲渡後に残る補償責任を一定範囲で移せる

・譲渡対価の留保を減らし、資金を早く確定しやすい

・引退後に補償請求を受ける不安を抑えられる

ただし、被保険者自身の故意や虚偽申告などは、通常、補償対象になりません。保険を利用する場合でも、正確な情報開示が必要です。

保険料や補償条件を確認するポイント

表明保証保険は、保険料だけを見て導入を決めると、必要な損害が補償されないことがあります。

補償限度額、保険料、免責金額、補償期間を一緒に確認することが重要です。

補償限度額

補償限度額は、保険会社が支払う保険金の総額の上限です。

取引価値の10%から20%程度に設定する例もありますが、対象会社の業種、取引規模、表明保証の範囲、想定される損害額によって大きく変わります。取引価値に近い限度額を設定できる場合もありますが、保険料や審査条件は重くなります。

一般的な割合だけで判断せず、実際に起こり得る損害の大きさから限度額を決める必要があります。

保険料

保険料は、補償限度額の1%から4%程度を目安とする案件があります。

たとえば、補償限度額が10億円で保険料率が2%なら、保険料は2,000万円です。ただし、対象会社の業種、取引地域、調査の内容、免責金額、補償期間によって実際の金額は変わります。

小規模なM&A向けに最低保険料を抑えた商品もありますが、補償内容や利用条件は商品ごとに異なります。保険料の安さだけで選ばず、必要なリスクが補償されるかを確認します。

保険料を誰が負担するかに一律の決まりはありません。買い手企業が全額を負担する場合もあれば、売り手と分担したり、実質的に譲渡価格へ反映したりする場合もあります。

経営者は、譲渡価格だけでなく、保険料、エスクロー、税金を差し引いた実質的な手取り額で判断することが大切です。

免責金額

免責金額とは、損害が発生しても、一定額までは被保険者が自己負担する金額です。その金額を超えた部分から保険金が支払われる契約があります。

取引価値の0.1%から1%程度に設定する例もありますが、案件や商品によって大きく異なります。

免責金額を低くすると補償は厚くなる一方、保険料が上がる可能性があります。小さな損害を自社で負担できるかを踏まえて決めます。

補償期間

一般的な事業・財務・法務に関する表明保証は1年から3年程度、税務などに関する表明保証は6年から7年程度とする設計例があります。

ただし、最終契約書の補償期間と保険期間が必ず一致するわけではありません。契約上は売り手へ請求できても、保険期間が終了していれば保険金を受け取れない可能性があります。

期間の起算日、請求通知の期限、保険期間終了後の取扱いまで確認する必要があります。

保険金が支払われない主なリスク

「問題が起きれば保険で払われる」と考えて契約を急ぐのは危険です。

表明保証保険は、既に分かっている問題や、将来の業績悪化を補う保険ではありません。代表的な補償対象外を確認しておきましょう。

既に分かっていたリスク

デューデリジェンス報告書、開示資料、質問への回答などで判明していた問題は、通常、補償対象外です。

たとえば、未払残業代が生じている可能性や、税務調査で指摘される可能性を買い手企業が認識していた場合、その問題は未知のリスクとはいえません。

既知のリスクは、譲渡価格の減額、特別補償、エスクロー、個別の保険など、別の方法で対応します。

将来の業績予測

事業計画で見込んだ売上や利益を達成できなかったことや、期待した相乗効果が出なかったことは、通常、表明保証保険の対象ではありません。

将来業績の不確実性は、譲渡価格の設定やアーンアウトで分担します。アーンアウトとは、譲渡後の業績に応じて追加の対価を支払う仕組みです。

環境汚染やアスベストなどの特殊リスク

過去の土壌汚染、アスベスト、不動産固有の問題などは、一般的な表明保証保険では補償対象から除外されることがあります。

事前の調査が十分で、保険会社が個別に引き受ける場合や、特約・別の保険で対応できる場合もあります。環境リスクがある会社では、早い段階で保険会社へ確認する必要があります。

故意や不正確な申告

被保険者自身が故意に事実を隠した場合や、保険会社への質問に虚偽の回答をした場合は、通常、補償されません。

買主用保険では、売り手による不正の取扱いが保険契約によって異なることがあります。誰の行為が補償対象外になるのか、保険約款を個別に確認します。

除外されたリスクを放置しない

保険の対象外となった問題は、最終契約書へ戻して対応方法を決めます。

特別補償を設ける、譲渡価格を調整する、エスクローへ資金を留保するなどの対応が必要です。保険証券だけを確認し、M&A契約とのずれを見落とすのは、意外と多い落とし穴です。

引受審査から保険契約までの流れ

表明保証保険は、最終契約の直前に申し込めば必ず間に合うものではありません。

デューデリジェンス報告書や最終契約書案を使って審査するため、一般には基本合意後から準備を始めます。

1 概算条件を確認する

案件概要、取引金額、対象会社の業種、基本合意書、最終契約書のドラフトなどをもとに、保険会社や保険ブローカーへ相談します。

この段階で、保険料の概算、補償限度額、免責金額、主な除外項目を確認します。

2 引受審査の資料を提出する

財務・税務・法務などのデューデリジェンス報告書、開示資料、最終契約書案などを提出します。

調査報告書に未確認事項が多い場合は、追加調査を求められたり、該当する分野が補償対象外になったりすることがあります。

3 質問への回答と条件交渉を行う

保険会社の担当者や専門家から、調査範囲、発見された問題、契約での対応について質問を受けます。

回答内容を踏まえて、保険料、補償限度額、免責金額、補償範囲、保険期間を調整します。担当者を決め、質問へ速やかに回答できる体制を作ると進めやすくなります。

4 最終契約書と保険契約を整合させる

最終契約書の表明保証や補償条項が変われば、保険条件にも影響します。

最終契約書と保険証券を照らし合わせ、補償対象、期間、限度額、免責金額にずれがないかを確認します。一般には、最終契約の調印時やクロージングに合わせて保険契約を発効させます。

エスクローなど他の手段との使い分け

表明保証保険だけで、すべての取引リスクを処理する必要はありません。

未知の表明保証違反は保険、既に分かっている問題は特別補償、価格の変動は価格調整というように、リスクの性質に応じて手段を使い分けます。

エスクロー

エスクローは、譲渡対価の一部を第三者が預かり、補償請求が生じたときの支払原資にする方法です。

現金を確保できる点は買い手企業のメリットですが、経営者は一定期間その資金を使えません。表明保証保険と併用し、エスクローへ留保する金額を抑える設計も考えられます。

特別補償

特別補償は、既に判明している税務、労務、訴訟などの問題について、通常の表明保証とは別に売り手が補償する条項です。

既知の問題は保険の対象外になりやすいため、補償上限、責任期間、請求手続を個別に決めます。

価格調整

クロージング時の現預金、有利子負債、運転資本などが想定と異なる場合に、譲渡価格を調整する方法です。

価格調整は、会社の財務状態を譲渡価格へ反映する仕組みであり、法令違反や訴訟などによる損害を補償する表明保証保険とは目的が異なります。

アーンアウト

アーンアウトは、譲渡後に一定の売上や利益を達成した場合、買い手企業が追加の譲渡対価を支払う方法です。

将来業績の不確実性を分担するための仕組みであり、過去の事実に関する表明保証違反を補償する保険とは区別して考えます。

経営者が導入前に確認すべき事項

表明保証保険の提案を受けたときは、「保険があるから安心」という印象だけで判断しないことが大切です。


会社売却後に残る責任と、最終的な手取り額がどう変わるのかを確認します。

売り手側の確認事項

・保険を使っても自分に残る補償責任は何か

・補償上限と責任期間をどこまで抑えられるか

・故意、情報開示、税務などの例外責任はどう定められているか

・保険料とエスクローを含めた実質的な手取り額はいくらか

・保険料を負担する場合の会計・税務処理を確認したか

買い手企業側の確認事項

・重要な財務、税務、法務、労務リスクが調査されているか

・既知のリスクを価格や特別補償へ反映したか

・免責金額を超える損害が起きた場合の請求手続は明確か

・表明保証保険の期間と最終契約書の期間が整合しているか

・損害を発見した場合の社内報告先と証拠の保管方法を決めたか


表明保証保険は、交渉を終わらせるための万能な道具ではありません。

一方、補償責任の押し付け合いで交渉が止まっている案件では、未知のリスクを保険会社へ移すことで、譲渡価格、補償責任、エスクローの合意点を見つけやすくなります。

最終契約書、デューデリジェンス、保険契約を一体として検討することが重要です。

まとめ

表明保証保険は、M&A後に判明した未知の表明保証違反による損害を保険会社へ移す手段です。買い手企業の回収可能性を高め、経営者の補償責任や資金留保を抑える効果が期待できます。ただし、既知の問題、将来の業績未達、故意の不正などは原則として対象外です。保険料だけでなく、免責金額、期間、除外項目、エスクローとの組み合わせを確認し、最終契約書と整合させて判断することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人