LOIとは何か?M&A取引における意向表明書の役割と重要性

LOI(意向表明書)はM&A取引の初期段階で重要な役割を果たす文書です。本記事では、LOIの定義や役割、MOUとの違い、主要な記載項目、作成時の注意点などを詳しく解説します。

目次

  1. LOI(意向表明書)の定義と役割
  2. MOU(基本合意書)の概要と特徴
  3. LOIとMOUの主な違い
  4. LOIとMOUの目的と機能
  5. LOI(意向表明書)の提示タイミング
  6. LOI(意向表明書)に含まれる主要項目
  7. 売主側がLOIを受け取った際の確認ポイント
  8. 買主側がLOIを提示する際の留意事項
  9. まとめ

LOI(意向表明書)の定義と役割

LOI(Letter of Intent)は、M&A取引において重要な役割を果たす意向表明書のことです。この文書は、企業の合併や買収を検討する際に、取引の初期段階で使用されます。

LOIの主な特徴は以下の通りです:

1. 買い手(買収を検討している企業)から売り手(売却を検討している企業)へ交付されます。

2. 取引の基本的な枠組みや条件を示すことで、双方の理解を深めるために使用されます。

3. 一般的には法的拘束力を持ちませんが、取引の方向性を示す重要な文書となります。

LOIに記載される主な内容には、以下のようなものがあります:

取引の目的と対象

買収価格や支払方法の概要

独占交渉権に関する取り決め

秘密保持義務

その他の取引に関する条件や事項

LOIは、M&A取引の初期段階で双方の意向や条件を確認するための重要なツールとして機能します。この文書を通じて、取引の可能性や互いの期待を明確にし、今後の交渉の基礎を築くことができます。

MOU(基本合意書)の概要と特徴

MOU(Memorandum of Understanding)は、M&A取引において基本合意書として使用される重要な文書です。MOUは、LOIよりも進んだ段階で作成され、より具体的かつ確定的な内容が記載されることが特徴です。

MOUの主な特徴は以下の通りです:

1. 取引の基本的な合意事項を確認・整理する目的で使用されます。

2. 一般的には法的拘束力を持ちませんが、一部の条項(例:秘密保持義務)に法的拘束力を持たせることがあります。

3. 最終的な契約書の前段階として位置づけられます。

MOUに記載される主な内容には、以下のようなものがあります:

取引の目的と対象の詳細

より具体的な買収価格や支払方法

取引のスケジュールや期間の詳細

独占交渉権や秘密保持義務(これらは法的拘束力がある場合が多い)

その他の取引に関する具体的な条件や事項

MOUは、LOIよりも詳細な内容を含み、双方が合意した事項を明確にすることで、最終的な契約締結に向けての基盤を提供します。ただし、具体的な取引条件や条項の詳細は、最終的な契約書で定められることになります。

LOIとMOUの主な違い

LOI(意向表明書)とMOU(基本合意書)は、M&A取引において重要な役割を果たす文書ですが、いくつかの重要な違いがあります。ここでは、その主な相違点について説明します。

締結時期の比較

LOIとMOUの締結時期には、明確な違いがあります:

LOI :M&A取引の初期段階で、トップ面談を経て基本的な事項に合意した後に提出されます。通常、買い手が買収
                 意向を示すために作成します。

MOU:LOIの提出後、本格的な交渉を経て双方が合意した段階で締結されます。より詳細な条件や合意事項が含ま
                 れます。

記載内容の違い

LOIとMOUに記載される内容にも違いがあります:

LOI :希望する条件、従業員の処遇、M&Aの手法などの概要が記載されます。内容は柔軟性があり、交渉を経て変
                 更される可能性があります。

MOU:より具体的かつ詳細な内容が記載されます。最終契約に近い内容となり、取引条件や合意事項がより明確に
                  なります。

合意の性質の相違

LOIとMOUでは、合意の性質や拘束力に違いがあります:

LOI :主に買い手の意向を示す文書であり、一般的に法的拘束力はありません。売り手がこれに基づいて候補を絞
                 り込むための資料として使用されます。

MOU:双方が合意した内容を確認・整理するための文書です。一部の条項(例:秘密保持義務)に法的拘束力を持
                  たせることがあります。

これらの違いを理解することで、M&A取引のプロセスにおけるLOIとMOUの役割や重要性をより明確に把握することができます。

LOIとMOUの目的と機能

LOI(意向表明書)とMOU(基本合意書)は、それぞれM&A取引プロセスにおいて異なる目的と機能を持っています。ここでは、両者の主な目的について詳しく説明します。

LOIの主な目的

LOIの主な目的は以下の通りです:

1. 買い手がM&Aの意向を表明する: 

 o 買収や合併に対する関心を公式に示します。

 o 取引を進める意思があることを売り手に伝えます。

2. 買い手が自社の概要や希望条件を提示する: 

 o 企業の基本情報や財務状況を開示します。

 o 買収価格や支払い方法などの希望条件を提示します。

 o 取引スケジュールの案を提示します。

3. 売り手が交渉相手の候補を絞るための情報を提供する: 

 o 複数の候補がある場合、売り手が比較検討するための材料となります。

 o 買い手の概要や提示条件を把握し、最適な相手を選定する際の判断材料となります。

MOUの主な目的

MOUの主な目的は以下の通りです:

1. M&Aの方針や条件について交渉・合意した内容を整理する: 

 o より具体的な取引条件や合意事項を文書化します。

 o 双方の権利や義務を明確にします。

2. 最終成立に向けて双方の認識を共有する: 

 o 取引の基本的な枠組みや重要な条件について合意を形成します。

 o 今後の交渉や手続の基礎となる共通認識を築きます。

3. デューデリジェンスの実施や最終契約書の作成に向けた準備を整える: 

 o より詳細な調査や交渉の方向性を定めます。

 o 最終契約書の作成に向けた基本的な合意事項を確認します。

LOIは主に買い手の意向を伝えるツールであるのに対し、MOUは双方の合意内容を整理するためのものです。両者の目的と機能を理解することで、M&A取引プロセスをより効果的に進めることができます。

LOI(意向表明書)の提示タイミング

LOI(意向表明書)は、M&A取引プロセスの初期段階で提示される重要な文書です。その提示タイミングについて、
詳しく説明します。

「意向表明書(LOI)・提示タイミング」

 1. トップ面談後: 

 o LOIは通常、企業の役員間での面談が終了した後に提示されます。

 o この面談で基本的な方向性や互いの関心が確認された後、LOIの作成に移ります。

2. 初期的な情報交換の後: 

 o 基本的な企業情報や財務データなどの初期情報を交換した後にLOIを提示します。

 o この段階で、取引の可能性や互いの期待値をある程度把握できている状態です。

3. 複数候補がある場合: 

 o 売り手が複数の譲受候補を検討している場合、LOIの提出期限が設定されることがあります。

 o この場合、スケジュール管理が重要になります。

4. デューデリジェンス前: 

 o 本格的なデューデリジェンス(詳細調査)を行う前にLOIを提示します。

 o LOIの内容に基づいて、デューデリジェンスの範囲や方法が決定されることがあります。

5. 基本合意書(MOU)の締結前: 

 o LOIはMOUの前段階として位置づけられます。

 o LOIの内容を基に、より詳細な交渉が行われ、その結果がMOUに反映されます。

LOIの提示タイミングは、M&A取引の進展具合や各社の状況によって多少の違いがあります。しかし、一般的には初期段階で提示されることで、その後の交渉やプロセスの方向性を決定する重要な役割を果たします。適切なタイミングでLOIを提示することが、円滑なM&A取引の進行につながります。

LOI(意向表明書)に含まれる主要項目

LOI(意向表明書)には、M&A取引の基本的な条件や意向が記載されます。ここでは、LOIに含まれる主要な項目について詳しく説明します。

取引の基本条件

取引の基本条件には以下のような項目が含まれます:

取引の対象(株式、事業、資産など)

M&Aの手法(株式譲渡、事業譲渡、合併など)

双方の企業概要

取引の目的や背景

これらの情報により、取引の全体像を把握することができます。

買収価格の提示

買収価格に関しては、以下のような記載がされます:

概算の買収額(例:「○○円~○○円」のような範囲)

価格算出の根拠や考え方

価格の変動要因(デューデリジェンス結果による調整など)

買収価格は交渉の重要な要素であり、LOIの段階では幅を持たせた提示が一般的です。

対価の支払方法

支払方法については、以下のような選択肢が考えられます:

現金による一括払い

分割払い(条件や期間の概要)

株式交換

上記の組み合わせ

場合によっては、業績連動型の支払いなど、より複雑な方法が提案されることもあります。

取引スケジュール

今後の大まかなスケジュールが示されます:

基本合意書(MOU)の締結予定日

デューデリジェンスの実施期間

最終契約書の締結予定日

クロージング(取引完了)の予定日

これにより、双方が同じタイムラインで取引を進めることができます。

独占交渉権の設定

独占交渉権に関する記載には以下のような内容が含まれます:

独占交渉権の期間(通常1ヶ月から1ヶ月半程度)

独占交渉権の範囲(全ての交渉か、特定の条件下での交渉か)

独占交渉権の条件(デューデリジェンスの実施など)

独占交渉権は、買い手が安心して取引を進められる環境を確保するために重要です。

独占交渉権の例外事項

独占交渉権に例外を設ける場合、以下のような事項が記載されます:

特定の条件下での他社との交渉許可

独占交渉期間の延長や短縮の条件

独占交渉権の解除条件

これらの例外事項により、売り手の柔軟性を確保しつつ、公平な取引環境を維持することができます。

情報の秘密保持

秘密保持に関する記載には以下のような内容が含まれます:

秘密情報の定義

秘密保持の期間

情報の使用制限

秘密保持違反時の罰則

特に同業他社間のM&Aの場合、秘密保持は非常に重要な項目となります。

デューデリジェンスの実施

デューデリジェンスに関しては、以下のような事項が記載されます:

デューデリジェンスの範囲(財務、法務、業務など)

実施期間

実施方法(データルームの利用、現地調査など)

デューデリジェンス結果の取り扱い

デューデリジェンスは取引条件を最終決定する上で重要なプロセスであり、LOIの段階でその概要を合意しておくことが大切です。

これらの項目をLOIに適切に記載することで、M&A取引の初期段階における双方の意図や条件を明確にし、円滑な交渉の基盤を作ることができます。

売主側がLOIを受け取った際の確認ポイント

売主(売り手)がLOI(意向表明書)を受け取った際には、以下のポイントを慎重に確認することが重要です。

1. 買収金額の妥当性: 

 o 提示された買収金額が妥当かどうかを検証します。

 o 高すぎる金額提示には注意が必要です。これは、後のデューデリジェンスで価格を下げる意図がある可能性があり
   ます。

 o M&A仲介会社に依頼して、客観的な企業価値評価を行うことをお勧めします。

2. 独占交渉権の取り扱い: 

 o 独占交渉権の期間や条件を確認します。

 o 長期間の独占交渉権は、他の買収候補との交渉機会を失う可能性があるため注意が必要です。

 o 必要に応じて、例外事項(特定条件下での他社との交渉許可など)の追加を検討します。

3. 取引条件の詳細: 

 o 買収対象(株式、事業、資産など)が明確に定義されているか確認します。

 o 支払方法や支払時期が自社の希望に沿っているか確認します。

 o 条件付き支払いがある場合、その条件の妥当性を検討します。

4. スケジュールの妥当性: 

 o 提示されたスケジュールが実現可能かどうか確認します。

 o 自社の準備期間や意思決定プロセスに照らして適切かどうか検討します。

5. デューデリジェンスの範囲: 

 o 提案されているデューデリジェンスの範囲が適切かどうか確認します。

 o 過度に広範囲または詳細なデューデリジェンスは、不必要な情報開示リスクがあります。

6. 秘密保持条項: 

 o 秘密保持の範囲や期間が適切に設定されているか確認します。

 o 特に競合他社からのLOIの場合、情報漏洩リスクに十分注意を払います。

7. 条件変更の可能性: 

 o デューデリジェンス結果による条件変更の可能性について確認します。

 o 変更可能な範囲や条件が明確に示されているか確認します。

8. 自社への影響: 

 o 提案されている取引が自社の従業員、取引先、株主などにどのような影響を与えるか検討します。

 o これらのステークホルダーへの配慮が適切に示されているか確認します。

9. 法的・税務的影響: 

 o 提案されている取引構造が法的・税務的に適切かどうか専門家に確認します。

 o 必要に応じて、専門家のアドバイスを求めます。

10. 買主の資金力と信頼性: 

 o 買主の資金力や信用力を確認します。

 o 必要に応じて、買主の財務情報や資金調達計画の提出を求めます。

これらのポイントを慎重に確認することで、LOIの内容を適切に評価し、今後の交渉や意思決定の基礎とすることができます。必要に応じて、M&A専門家や法律・税務の専門家のアドバイスを求めることも重要です。

買主側がLOIを提示する際の留意事項

買主(買い手)がLOI(意向表明書)を提示する際には、以下の点に留意することが重要です。これらの事項に注意を払うことで、より効果的なLOIを作成し、M&A取引を円滑に進めることができます。

1. 取引内容と金額の妥当性: 

 o 提示する取引内容や金額が適切かつ実現可能であるか十分に検討します。

 o 過度に高い金額の提示は、後の価格交渉で信頼を損なう可能性があります。

2. 法的拘束力の明確化: 

 o LOIのどの部分に法的拘束力があるか(例:秘密保持条項)を明確にします。

 o 拘束力のある項目とない項目を区別して記載します。

3. 独占交渉権の設定: 

 o 独占交渉権の期間を適切に設定します(通常1ヶ月から1ヶ月半程度)。

 o 必要に応じて、例外事項や延長条件を明記します。

4. 提出期限の遵守: 

 o 売り手が設定したLOIの提出期限を厳守します。

 o 提出が遅れる場合は、事前に連絡し、理由を説明します。

5. 提出タイミングの見極め: 

 o 早すぎる提出は情報漏洩のリスクがあるため、適切なタイミングを見極めます。

 o 提出期限日当日の提出が最適な場合が多いです。

6. 誠実な交渉態度: 

 o LOIの内容に誠意を持って記載し、実現可能な提案をします。

 o 相手方の立場に立って考え、配慮ある表現を心がけます。

7. 詳細な情報提供: 

 o 自社の概要や財務状況について、可能な範囲で詳細な情報を提供します。

 o 取引の目的や戦略的意義を明確に説明します。

8. 柔軟性の確保: 

 o デューデリジェンス結果による条件変更の可能性を明記します。

 o ただし、大幅な条件変更の可能性がある場合は、その旨を事前に説明します。

9. スケジュールの提示: 

 o 実現可能な取引スケジュールを提示します。

 o 主要なマイルストーン(デューデリジェンス期間、最終契約締結日など)を明確にします。

10. 秘密保持の徹底: 

 o 厳格な秘密保持条項を含め、情報管理の重要性を示します。

 o 特に同業他社との取引の場合、競争法上の配慮も必要です。

11. デューデリジェンスの計画: 

 o デューデリジェンスの範囲と方法を具体的に提案します。

 o 必要な協力事項や期間を明確にします。

12. 条件付き項目の明確化: 

 o 条件付き支払いやアーンアウト条項がある場合、その条件を明確に説明します。

 o 条件達成の評価方法も可能な限り具体的に示します。

13. ステークホルダーへの配慮: 

 o 従業員の処遇や重要な取引先との関係維持など、ステークホルダーへの配慮を示します。

 o 特に従業員に関しては、可能な範囲で具体的な方針を示します。

14. 専門家の関与: 

 o 必要に応じて、法務・財務・税務の専門家の助言を得てLOIを作成します。

 o 複雑な取引構造の場合、専門家の関与を明記することで信頼性を高めます。

これらの点に注意を払いながらLOIを作成することで、売り手との信頼関係を築き、スムーズな交渉につながることが期待できます。また、LOIの提出後も、誠実かつ迅速なコミュニケーションを心がけることが重要です。

まとめ

LOI(意向表明書)は、M&A取引の初期段階で重要な役割を果たす文書です。買主が売主に対して買収意思を示し、基本的な取引条件を提案するためのツールとして機能します。LOIの適切な作成と提示は、円滑なM&A交渉の基盤となります。

主なポイントは以下の通りです:

1. LOIは法的拘束力が基本的にない文書ですが、取引の方向性を示す重要な役割があります。

2. 買収金額、支払方法、スケジュール、独占交渉権などの基本条件が記載されます。

3. 売主側は提示された条件の妥当性を慎重に検討し、必要に応じて専門家の助言を求めるべきです。

4. 買主側は誠実かつ実現可能な提案を行い、相手方への配慮を示すことが重要です。

5. 秘密保持やデューデリジェンスの範囲など、今後の交渉プロセスに関する取り決めも含まれます。

LOIは、その後のMOU(基本合意書)や最終契約へとつながる重要なステップです。双方が互いの意図や条件を明確に理解し、信頼関係を築くための重要なツールとして活用することが、成功するM&Aへの近道となります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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