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LOI意向表明書の定義と役割やMOUとの違いを解説

LOIとは何か?M&A交渉の第一歩であるLOIの意義とMOUとの違いを分かりやすく説明します。

目次

  1. LOIの定義とM&A初期段階での役割
  2. MOUの概要とLOIから進展した具体性
  3. LOIとMOUの違いと使い分け
  4. LOIとMOUが果たす目的と機能の違い
  5. LOI提示の最適タイミング
  6. LOIに必ず盛り込む主要項目
  7. 売主がLOIを受け取ったときの確認ポイント
  8. 買主がLOIを提示するときの留意事項
  9. LOIを省略できるケースと三つの形式
  10. LOI締結形式三つの違いと実務ポイント
  11. LOI締結時の共通注意点と専門家活用

LOIの定義とM&A初期段階での役割

LOI(Letter of Intent)はM&A取引を検討する買主が売主に対して「あなたの会社をこの条件で譲受したい」という意思を正式に伝える文書です。トップ面談を終えた直後のまだ契約義務が生じない段階で提示され、交渉の土台を整える役割を果たします。LOIを交わさずに詳細交渉に進めば、双方が費やす時間や費用が無駄になる恐れがあるため、まずLOIで大枠の方向性を共有することが実務上の慣行となっています。

LOIの特徴は大きく三つあります。第一に、法的拘束力を持たないのが通常であることです(秘密保持条項など例外を除く)。第二に、買収価格や支払方法、独占交渉権の長さなど「譲受条件の骨格」を一枚の紙に整理して示すことです。第三に、売主が複数の候補を比較する際の判断材料になることです。これにより、売主は候補を絞り込み、買主は独占的に交渉できる可能性を高められます。

LOIで示す三つの核心情報は価格方法独占権

LOIは自由形式ですが、必ず盛り込むべき情報は、

①想定買収価格帯

②支払方法(現金一括・分割・株式交換など)

③独占交渉権の有無と期間

の三点です。これらが欠けると売主は比較検討できず、LOIとしての機能が半減します。逆に言えば、買主はこの三点を具体的に示すことで誠意と実行力を伝えられます。

LOIの法的拘束力は原則ゼロだが例外に注意

LOI全体は「意向」を記したに過ぎないため、法的拘束力を持たないのが一般的です。ただし秘密保持義務や独占交渉権違反時の違約金など、一部条項には明確に拘束力を持たせることがあります。実務では「このLOIは法的拘束力を持たない」という一文を入れたうえで、例外条項を列挙します。

MOUの概要とLOIから進展した具体性

MOU(Memorandum of Understanding)は、日本語で基本合意書と呼ばれる文書です。LOIで大枠を確認した後、本格的なデューデリジェンスを開始する前に、双方が「ここまでの交渉事項に合意した」と整理するために締結します。MOUはLOIよりも詳細です。買収金額は範囲ではなく具体額に近づき、取引手法やスケジュール、従業員の処遇方針などが明文化されます。

MOUは合意内容を明文化し次フェーズを保証する

MOUにより、双方は最終契約書へ進む上での前提を共有し、後戻りを防げます。秘密保持や独占交渉権といった条項は引き続き拘束力を持たせ、デューデリジェンスの期間・範囲も詳細に定めるのが一般的です。

MOUでも法的拘束力は限定的で全条項ではない

MOUはLOIより踏み込んだ文書ですが、最終契約ではないため、買収義務そのものは発生しません。もっとも秘密保持や独占交渉、排他交渉違反時のペナルティなどは拘束力を持つケースがほとんどであり、ここがLOIとの重要な相違点です。

LOIとMOUの違いと使い分け

LOIとMOUは似た書類ですが、締結の順番と記載内容、拘束力、目的が異なります。締結順は必ずLOI→MOUです。LOIには買主の希望条件が中心に書かれ、柔軟に修正可能な「提案書」に近い性質があります。一方MOUは、双方が協議を重ねた結果としての「暫定合意書」であり、最終契約にかなり近い水準まで落とし込まれる点が異なります。

比較項目                                          LOI                                                             MOU

締結時期                                        トップ面談後すぐ                                             LOI受領後、交渉深化時

主な内容                                        希望条件・価格帯・独占交渉権                     具体条件・価格・DD範囲・スケジュール

法的拘束力                                        基本的に無し(一部除く)                             一部条項に拘束力

目的                                                買主の意向表明と候補絞り込み                     合意事項の整理とDD準備

LOIは意向表明MOUは暫定合意共通点は交渉を滑らかにすること

両書類の共通点は、最終契約を円滑にするための潤滑油であることです。LOIで大枠を決め、MOUで詳細を固める二段階アプローチを理解することがスムーズな承継成功の第一歩になります。

LOIとMOUが果たす目的と機能の違い

ここでは目的の違いを整理します。LOIの第一の目的は買主の意向表明、第二に売主側の候補選別、第三に大きなリスクコストを抑えることです。これに対しMOUの目的は、(1)交渉で合意済み項目を文書に整理し誤解を防ぐこと、(2)デューデリジェンス計画を確定し準備を整えること、(3)最終契約書作成のたたき台を作ることです。

LOIの目的は候補絞り込みと交渉コスト削減

買主が自社概要や価格帯を示すことで売主は比較検討しやすく、無駄な交渉を省けます。これは従業員情報や秘密情報を過度に開示せずに済むメリットでもあります。

MOUの目的は共通認識の明文化とDD準備

MOUがあることで、双方は「ここまで合意した」という共通認識を持ったままDDに進み、結果次第で契約条件を最終調整します。DDの範囲・費用負担・資料リストなどがMOUに明記されるため、担当者レベルの実務も動きやすくなります。

LOI提示の最適タイミング

LOIを出すタイミングは早過ぎても遅過ぎても効果が薄れます。

一般的には

①トップ面談直後

②初期資料の交換を終えた後

③本格DDに入る前

の三つの局面のいずれかで提示されます。複数候補がいる場合、売主はLOI提出の締切日を設け、期限後に候補を絞り込むことが多いため、買主は期限日当日に提出するのが情報漏洩リスクを抑えつつ誠意を示す適切な戦略だと言えます。



トップ面談後の提示が機会損失を防ぐ理由

面談で得た印象を熱いうちに文書化し提示することで、売主への関心度を明確に示せます。間を空けると他候補に先を越されるリスクが高まり、交渉の主導権を失いかねません。

DD開始前のLOIは調査範囲とスケジュールの起点となる

LOIを基準にDDの範囲と期間が定まるため、DD前の提示は実務担当者の作業計画に直結します。曖昧なLOIではDD計画も曖昧となり、スケジュール遅延の原因となります。

LOIに必ず盛り込む主要項目

LOIは一枚の紙にまとめるとしても、以下の項目を欠かさず記載することが専門家の間で推奨されています。

  1. 取引対象とスキーム
  2. 買収価格と算定根拠
  3. 支払方法
  4. 独占交渉権
  5. デューデリジェンス計画
  6. 秘密保持条項
  7. スケジュール
  8. 条件変更の可能性
  9. 従業員・役員の処遇
  10. 買主概要

主要十項目を網羅することで売主の安心と交渉効率を両立

項目が不足すると売主は追加質問を繰り返し、交渉速度が落ちます。逆に網羅的なLOIは売主の検討時間を短縮し、買主にポジティブな印象を与えます。

売主がLOIを受け取ったときの確認ポイント

売主にとってLOIは複数の候補から届く「ラブレター」です。内容を精査せずに独占交渉権を与えてしまうと、後で価格を下げられたり、長期独占で機会損失が生じたりします。そこで必ず確認したい七つのポイントを挙げます。

  1. 買収価格の妥当性と調整条項
  2. 独占交渉期間の長さ
  3. 取引スケジュールの現実性
  4. 支払方法と時期
  5. DD範囲の適切性
  6. 秘密保持条項の強度
  7. 買主の資金力と信頼性

確認ポイントを専門家と共有し初動を間違えない

売主が自力でLOIを読み解くのは負担が大きいものです。税理士やM&Aアドバイザーに早期に相談し、論点を洗い出すことで、後々のトラブルを未然に防げます。

買主がLOIを提示するときの留意事項

買主がLOIを作成・提示するときは、内容が売主の信頼を左右し、その後の交渉全体に影響します。ここでは観点を整理し、買主が実務で迷わないようにまとめます。

価格条件と取引スキームは実現可能性が鍵

提示額は高ければ良いわけではありません。資金調達計画が裏付けられない過大提示は信用失墜につながります。適切な企業価値評価を行い、現金一括・分割・株式交換など支払方法と併せて、実現可能なレンジで提案します。業績連動やアーンアウトを入れる場合は評価方法を具体的に示し、譲受企業に安心感を与えることが重要です。

法的拘束力を区別し透明性を確保する

LOIのほとんどは拘束力を持ちませんが、秘密保持や独占交渉違反への罰則など一部条項では拘束力を持たせることが一般的です。どの条項がbindingか、non-bindingかを明示することで誤解を防ぎ、交渉中の信頼関係を守れます。

独占交渉権の期間設定は柔軟性が評価を分ける

一般的な期間は一か月から一か月半です。延長条件や例外事項(特定条件下で他社交渉を許可するなど)を明記すると、売主は機会損失リスクを下げられ安心します。独占交渉を要求する場合は、その対価としてDD費用の全額負担や迅速なスケジュール提示など、譲受企業側のコミットメントを示すことが肝要です。

提出期限とタイミングで誠意を示す

売主が設定した期限を厳守しつつ、情報漏洩を避けるため提出は当日中が最適です。別途時間を要する場合は事前連絡を行い、提出遅延の理由と新しい提出予定を明確に伝えることで信頼を保てます。

ステークホルダー配慮と専門家活用が信頼を高める

従業員の処遇方針、重要取引先との関係維持策、統合後のガバナンスなどを可能な範囲で記載すると、売主は安心して検討できます。加えて、法務・財務・税務の専門家名と役割を記載することで、実行力を裏付けられます。

LOIを省略できるケースと三つの形式

一般にLOIは不可欠ですが、競合が存在しない案件や相互信頼が厚い取引では省略し、いきなりMOUを結ぶことがあります。省略される典型場面は

①親族間やグループ内再編

②買主が一社のみで売主との意思疎通が十分

③迅速にクロージングしたい小規模案件

の三つです。

両社同時署名形式は合意確認を重視

双方が一つの文書に署名し、「法的拘束力は持たない」旨を記載して取り交わす方式です。内容確認と意思表示を同時に行えるため外国企業間など形式を重視する場面で用いられます。

同時署名形式のメリットは双方の認識一致

双方が内容を読み合わせたうえで署名するため、読み違いが少なく、後のトラブルを未然に防げます。

手紙形式は署名済文書を往復させる

買主が署名済みLOIを送付し、売主が内容確認後に連署・コピーし返送します。両社に同内容の控えが残る点で同時署名と結果は同じですが、対面不要なため時差や距離がある場合に便利です。

一方向送付形式は意思表明に特化

競合が多い案件で「まずは買収意思を表明したい」ときに買主が送付する方法です。売主は署名・返送義務がないため迅速に候補を比較できますが、独占交渉権を得るには別途合意が必要です。

LOI締結形式三つの違いと実務ポイント

三形式には「対面か否か」「署名の有無」「交渉速度」の三軸で違いがあります。

比較項目同時署名手紙往復一方向送付
署名手順対面で即時連署郵送等で連署買主のみ署名
売主の負担
交渉速度やや遅い標準最速
独占交渉権付与文中で合意可能同左別途協議が必要

買主が最適形式を選ぶ際は、「交渉スピード」と「売主の確認ニーズ」のバランスで判断します。

形式選択は案件規模と関係性に合わせる

小規模かつ関係性が深い場合は一方向送付でスピードを優先し、上場会社の大型案件では手紙往復や同時署名で慎重さを重視する例が多いです。

LOI締結時の共通注意点と専門家活用

売主と買主双方に共通する注意点は、「内容精査」「期限遵守」「誠実交渉」「専門家相談」の四つです。特にデューデリジェンス範囲が過度に広い、独占交渉期間が長過ぎる、秘密保持条項が不十分といった場合は早めに税理士や弁護士に相談し、条項修正を依頼すると安心です。

内容精査で潜在リスクを最小化する

LOI段階で曖昧さを残すと後に大きな契約交渉コストが生じます。売主は買収価格調整条項や例外事項を必ず確認し、買主は提示条件が実現可能か再点検します。

期限遵守は信頼の土台誠実交渉は破談回避

期限遅延や一方的な条件改変は破談の最大要因です。交渉の場では相手の立場を尊重し、疑問点は早期に開示して共同で解決策を探る姿勢が重要です。

専門家相談は費用以上のリターンを生む

LOI作成・審査を専門家に依頼しても、後工程の再交渉やトラブル訴訟リスクを避けられれば総費用は低減します。特に税務構造や支払方法に工夫が必要な場合、税理士法人のアドバイスは不可欠です。

まとめ

LOIは買主の意向を短期間で売主に伝え、M&A交渉を効率化する基礎となる文書です。買主は実現可能な条件を示し、売主は内容を精査して独占交渉権の長さや価格調整条項を確認することがポイントです。適切なLOI運用と専門家の活用が、信頼ある承継成功への近道となります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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