不動産デューデリジェンスは、会社が保有・使用する土地や建物の収益性、劣化、権利関係、法令適合性を調べる手続です。M&Aで買い手が確認する項目、調査の流れ、売り手が準備すべき資料、価格や契約条件への反映方法を解説します。
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▶目次ページ:M&Aの流れ(デューデリジェンス)
不動産デューデリジェンス(DD)とは、土地や建物の価値とリスクを、経済面、物理面、法務面から詳しく調べる手続です。不動産の購入や投資、不動産証券化のほか、M&A(合併・買収)でも実施されます。
M&Aでは、買い手は会社の決算書や契約だけでなく、その会社が所有または使用する工場、倉庫、店舗、本社、賃貸物件なども確認します。不動産は事業を支える大切な資産ですが、大規模修繕、土壌汚染、境界問題、法令に合わない増築などの負担を抱えている可能性もあるためです。
株式譲渡では、不動産を直接売買しなくても、その不動産を保有する会社の株式が買い手へ移ります。そのため、不動産の経済的な価値やリスクは、会社の譲渡価格や契約条件に影響します。
例えば、帳簿上の金額が小さい土地でも、現在の市場価格が高ければ、会社の価値を押し上げる要素になります。一方、近い将来に多額の修繕費が必要であれば、価格の減額や売り手による事前修繕を求められることも。
不動産鑑定と不動産DDは、同じものではありません。不動産鑑定は、主に不動産鑑定士が土地や建物の価格を評価するものです。不動産DDでは、価格だけでなく、収益、建物の状態、権利関係、契約、法令、環境リスクなどを調べます。
不動産の時価が分かっても、将来の修繕費や利用上の問題が分からなければ、適切なM&A条件は決められません。価格評価とリスク調査を組み合わせて判断することが大切です。
「古い建物があると、会社は売れないのでは」と心配する経営者は少なくありません。しかし、建物が古いことだけでM&Aが難しくなるとは限りません。
買い手が知りたいのは、その不動産を今後も安全に利用できるか、将来いくら必要になるか、事業の収益にどのような影響を与えるかです。不動産DDでは、主に経済面、物理面、法務面の3領域を調査します。
経済面の調査では、その不動産が生み出す収益と、今後必要となる支出を確認します。対象が賃貸物件か、自社で使用する工場や店舗かによって、確認する内容は異なります。
賃貸不動産では、レントロールと呼ばれる賃貸借一覧表を確認します。レントロールには、入居者、賃料、共益費、敷金、契約期間、空室状況などが記載されます。
ただし、一覧表だけでは十分ではありません。賃貸借契約書、通帳、総勘定元帳などと照合し、記載された賃料が実際に入金されているか、滞納や賃料減額がないかを確認します。
支出についても、管理費、修繕費、保険料、固定資産税、委託費、水道光熱費などを調べます。一般に、賃料などの収入から不動産運営に必要な費用を差し引いた利益をNOIと呼び、収益性や利回りを判断する材料にします。
現在は満室でも、相場より高い賃料で入居している場合や、特定の入居者に収入の多くを依存している場合は注意が必要です。退去後に同じ条件で入居者を確保できるとは限りません。
周辺の賃料、空室率、売買事例、交通の利便性、地域の開発計画などを確認し、現在の収益が将来も続くかを検討します。
さらに、外壁、防水、空調、給排水、エレベーターなどの更新時期と費用を見積もります。表面上の利回りが高くても、購入後すぐに大規模修繕が必要であれば、実際の収益は低くなるためです。
自社利用の工場や店舗には、通常、外部からの賃料収入はありません。それでも、移転した場合の費用、代替物件の賃料、物流や顧客への影響、遊休地の売却可能性などを検討する必要があります。
物理面の調査では、建物や設備の安全性、劣化状況、環境上の問題を確認します。図面や修繕記録を見るだけでなく、建築士や技術者が現地へ出向いて確認するのが一般的です。
主な調査項目は、建物の構造、屋根、防水、外壁のひび割れ、雨漏り、給排水、電気、空調、エレベーター、防災設備などです。
過去の修繕履歴も重要です。定期的に適切な修繕が行われていれば、古い建物でも利用を継続できる場合があります。反対に、修繕記録がなく、劣化した設備を使い続けている場合は、買い手が多額の更新費用を見込むこともあります。
耐震性については、建築時期、耐震診断や耐震補強の有無を確認します。必要に応じて、建物の耐震性能を示すIs値なども調査対象になります。
地震だけでなく、洪水、内水、高潮、津波、土砂災害などの危険性も事業継続に影響します。ハザードマップと現地の状況を確認し、浸水対策や避難経路、保険の内容などを整理します。
なお、宅地建物取引業者が取り扱う土地や建物の売買・賃貸では、水害ハザードマップ上の所在地について重要事項説明が行われます。株式譲渡そのものに同じ説明義務が直接適用されるわけではありませんが、M&Aでも災害リスクは重要な確認項目です。
古い工場、倉庫、店舗などでは、アスベストを含む建材、PCBを含む機器、油や薬品による土壌・地下水汚染が問題になることがあります。
調査では、過去の土地利用、建物の設計図、設備台帳、廃棄物の処理記録、行政への届出などを確認します。汚染の可能性が高い場合は、土壌や建材の分析調査を行うこともあります。
石綿を含む建材が使われていても、建物を所有しているだけで直ちに除去が必要になるとは限りません。ただし、建物の解体や改修を行うときは、原則として石綿の事前調査が必要です。一定規模以上の工事では、調査結果を行政へ報告する必要もあります。
除去や処理に多額の費用がかかる可能性があるため、M&A後の修繕計画や建替え計画まで見ながら判断します。
法務面の調査では、誰が不動産を所有しているか、どのような担保や利用権が設定されているか、法令に合った建物かを確認します。
登記事項証明書では、所有者、抵当権、根抵当権、差押え、地役権などを確認します。借入金の担保になっている不動産は、M&A後の借入や個人保証の整理とも関係します。
公図、地積測量図、境界確認書と現地の状況が一致しているかも重要です。隣地との境界が確定していない、塀や建物の一部が境界を越えているといった問題が見つかることもあります。
境界問題があるからといって、必ずM&Aを中止するわけではありません。隣地所有者との確認、覚書の作成、価格調整など、解決方法と必要な期間を整理します。
賃貸物件では、契約期間、更新、解約、原状回復、賃料改定、敷金返還、転貸、修繕負担などを確認します。
会社が借りている工場や店舗では、株主の変更やM&Aを理由に、貸主の承諾が必要となる条項がないかも調べます。承諾を得られなければ、M&A後の事業継続に影響する可能性があるためです。
中小企業では、経営者個人が土地や建物を所有し、会社へ貸していることも珍しくありません。この場合、M&A後も同じ場所を利用できるのか、賃料や修繕負担をどうするのかを事前に決める必要があります。
用途地域、接道、建ぺい率、容積率、用途変更、増改築、消防設備なども調査対象です。
ここでは、既存不適格と違反建築を分けて考えます。既存不適格とは、建築当時は適法だったものの、その後の法改正によって現在の基準に合わなくなった建物です。これに対し、必要な確認を受けずに増築した場合などは、法令違反となっている可能性があります。
法令上の問題が見つかると、是正工事だけでなく、金融機関からの借入、火災保険、用途変更、将来の建替えに影響することがあります。
M&A実務では、問題があること自体よりも、改善方法、費用、必要期間が分からないために判断が止まることがあります。売り手は、早めに専門家へ相談し、対応の見通しを示すことが大切です。
不動産DDは、現地を一度見て終わる調査ではありません。資料の確認、現地調査、質問への回答を繰り返し、発見した問題を価格や契約条件へ反映します。
一般に、買い手候補と秘密保持契約を結んだ後、調査に必要な資料を開示します。
主な資料は、不動産一覧、登記事項証明書、固定資産税の課税明細、図面、確認済証、検査済証、賃貸借契約書、レントロール、修繕履歴、保険資料、環境調査資料などです。
資料が見つからない場合は、無理に「問題はない」と説明しないことが重要です。保管していない資料、取得できる資料、現地確認が必要な事項を分けて整理します。
買い手が警戒するのは、建物が古いことだけではありません。資料と説明が一致しないことや、質問のたびに回答が変わることが、信頼を損なう原因になります。
調査範囲は、不動産の用途、規模、件数、築年数、過去の利用方法、事業における重要性によって決めます。
弁護士、司法書士、土地家屋調査士、建築士、環境調査会社、不動産鑑定士、公認会計士、税理士などが、それぞれの専門分野を担当します。
すべての案件で同じ調査をする必要はありません。小規模な区分所有物件では、登記、管理組合資料、長期修繕計画、修繕積立金などを中心に確認する方法もあります。
一方、工場、大型店舗、商業施設、複数の賃貸物件がある会社では、建築、環境、収益、法務を横断した調査が必要になりやすいです。
現地調査では、建物や設備の状態を目視するほか、図面との違い、周辺環境、土地の利用状況などを確認します。建物の管理者や担当者への聞き取りも行われます。
工場では、稼働中の設備や立入制限のある場所もあるため、調査日時と確認範囲を事前に調整します。通常の事業に支障を与えないようにしながら、必要な情報を開示することが大切です。
資料や現地調査で疑問が見つかれば、買い手から追加質問が届きます。経営者だけで回答を抱え込まず、管理担当者や専門家と内容を確認してから答えます。
建物や設備の調査結果は、エンジニアリング・レポート(ER)にまとめられることがあります。ERには、建物の劣化、耐震性、環境リスク、修繕や設備更新の見込額などが記載されます。
ただし、ERは一般に、建物や設備などの物理面を中心に整理する報告書です。不動産の権利関係や契約、収益性については、別の専門家による調査や資料と合わせて判断します。
報告書で問題が見つかっても、直ちにM&Aを中止するとは限りません。修繕費を価格から差し引く、引渡し前に売り手が是正する、特別な補償条項を設ける、不動産を取引対象から外すといった方法を検討します。
不動産の収益や修繕費は財務DD、重要な契約や許認可は法務DD、店舗や工場の立地は事業DDとも関係します。
また、通信設備やサーバールームはITDD、作業環境や安全管理は人事・労務DDの確認事項と重なる場合があります。調査結果を分野ごとに分断せず、会社全体の価値とM&A後の計画へつなげることが重要です。
買い手から資料を求められた後に、倉庫や古い書庫から図面を探し始める。こうしたケースは珍しくありません。
早めに不動産情報を整理しておけば、調査期間を短縮できるだけでなく、価格交渉で自社の状況を説明しやすくなります。
土地や建物ごとに、所在地、用途、面積、取得時期、帳簿価額、固定資産税評価額、担保設定、利用部署、賃貸状況などを一覧にします。
そのうえで、登記事項証明書、図面、境界資料、建築関係書類、修繕記録、賃貸借契約書、保険資料、不動産鑑定書、環境調査資料などをひも付けます。
決算書の固定資産台帳と登記の内容が一致しているかも確認します。すでに売却した物件が台帳に残っている、増築した部分が登記されていない、旧社名のままになっているといった不一致が見つかることもあります。
経営者個人が会社へ土地や建物を貸している場合は、M&A後の取扱いを早めに検討します。
不動産も買い手へ売却するのか、経営者が所有したまま賃貸を続けるのか、一定期間後に移転するのか。それぞれで、譲渡価格、税金、資金調達、事業継続への影響が異なります。
賃貸を続ける場合は、賃料、契約期間、更新、解約、修繕負担、原状回復などを契約書で明確にします。口約束だけで長年使用してきた場合は、M&A後も同じ条件で利用できるとは限りません。
雨漏り、境界未確定、検査済証の不足、無許可の増築、土壌汚染の懸念などがあっても、早めに開示して対応方法を示せば、交渉を続けられる可能性があります。
専門家の見解、是正方法、概算費用、必要期間を整理しておくことが重要です。意外と多い落とし穴は、問題を小さく見せようとして説明が変わり、買い手からの信頼を失うことです。
不動産証券化やJ-REITなどでは、投資家への説明や価格評価のため、不動産鑑定評価やERを利用した詳細な調査が行われます。一般的な中小企業のM&Aでは、そこまで広い調査が必要とは限りませんが、重要度の高い不動産については十分な確認が必要です。
調査費用は、物件の規模、用途、件数、調査範囲、現地調査や分析の有無によって大きく変わります。見積りを比較するときは、金額だけでなく、確認する項目、報告書の内容、追加調査の条件も確認します。
不動産DDの目的は、欠点を並べることではありません。発見した事項を、譲渡価格、契約、実行時期、M&A後の修繕計画へ反映することです。
不動産の時価が帳簿価額を上回っている場合、その含み益は会社の価値を押し上げる要素になります。
一方、緊急修繕、設備更新、汚染物質の除去、空室増加などが見込まれる場合は、将来支出として価格へ反映されることがあります。
ただし、同じ修繕費を企業価値の計算と不動産評価の両方から差し引くと、二重に減額することになります。どの計算に何を織り込んだかを整理し、企業価値評価と整合させる必要があります。
最終契約書では、売り手が一定の事実を買い手へ表明し、その内容が正しいことを保証する条項を定めることがあります。これを表明保証といいます。
不動産については、所有権、担保、賃貸借契約、法令への適合、環境問題、未開示の工事などが対象となります。
特定の問題がすでに見つかっている場合は、一般的な表明保証だけで処理せず、誰が対応するか、費用を誰が負担するか、責任の期間や上限をどうするかを個別に決めます。
抵当権の抹消、重要な貸主からの承諾、危険箇所の修繕、境界に関する確認などを、M&A実行前に行う条件とすることがあります。
完了まで時間がかかる場合は、期限、進捗の確認方法、期限までに終わらなかった場合の取扱いを契約書に定めます。
調査を終えないままM&Aを実行し、「問題が起きたら後で考える」という進め方は避けるべきです。実行前に対応する事項と、M&A後に対応する事項を分けておきます。
遊休不動産をM&A前に売却する、事業譲渡によって必要な資産だけを移す、経営者所有の不動産を賃貸で残すといった方法もあります。
会社が不動産を売却した後も、その物件を借りて利用するセール・アンド・リースバックが選択肢になる場合もあります。
ただし、不動産を移す方法によって、登記、税金、金融機関の担保、許認可、資金繰りへの影響が異なります。不動産だけを切り離して考えず、M&Aの方法や譲渡後の事業計画と合わせて検討することが大切です。
不動産デューデリジェンスでは、収益性、建物・設備、権利関係、法令、環境を確認し、将来費用や事業継続への影響を整理します。会社売却を進める経営者は、物件一覧と根拠資料を早めにそろえ、問題があれば対応策と概算額まで示すことが重要です。調査結果を譲渡価格、表明保証、実行前の是正、取引対象の見直しへ反映することで、条件交渉を止めずに進めやすくなります。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人