M&Aや不動産取引における不動産デューデリジェンスの重要性と実施方法を解説します。調査の3つの側面、実施時期、専門家の役割など、適切な調査のポイントを詳しく説明します。
目次
▶目次ページ:M&Aの流れ(デューデリジェンス)
不動産デューデリジェンスは、M&A(合併・買収)や不動産取引において、譲受側が対象不動産の価値やリスクを詳細に調査するプロセスです。この調査は、主に3つの重要な視点から行われます。
物理的な観点からの調査では、建物の状態や性能に関する詳細な評価が行われます。主な調査項目には以下のようなものがあります。
これらの調査結果を基に、譲受側は今後の修繕計画やそれに伴う費用の見積もりを行うことができます。また、洗い出されたリスクを考慮して、取引価額の検討も可能となります。
経済的な側面の分析では、対象不動産の実勢価格や将来的な価値変動の可能性を調査します。主な調査項目には以下のようなものがあります。
これらの指標と対象不動産の継続的な収益性を確認することで、不動産の価値を適切に評価し、投資判断の材料とすることができます。
法的な観点からの確認では、不動産の権利関係や法令遵守状況を調査します。主な調査項目には以下のようなものがあります。
法的側面の調査をスムーズに進めるため、事前に簡易的な測量が行われることもあります。また、各種法令は定期的に改正・見直しが行われるため、不動産投資やM&A実行の際だけでなく、不動産所有期間中も定期的な情報収集と法令遵守の確認が重要です。
これら4つの視点から総合的に調査を行うことで、譲受側は対象不動産の現状を正確に把握し、潜在的なリスクを特定することができます。
不動産デューデリジェンスは、譲受企業にとって非常に重要な意味を持ちます。その主な意義は以下の通りです。
現状把握
不動産デューデリジェンスの実施時期と期間は、取引の性質や対象不動産の特性によって異なります。ここでは一般的な目安を説明します。
M&Aにおける不動産デューデリジェンスは、通常、他の財務や法務等のデューデリジェンスと同じタイミングで実施されます。一般的な実施時期は以下の通りです。
ただし、調査対象が複数ある場合や調査項目が多岐にわたる場合には、大きな瑕疵が検出されないことを条件として、クロージング後に不動産デューデリジェンスを実施することもあります。
一方、単独の不動産取引の場合は、通常、資金決済前に実施されます。
不動産デューデリジェンスの所要期間は、調査着手からレポート提出まで、通常1か月程度が一般的です。しかし、以下の要因によっては1か月以上の期間を要することもあります。
したがって、取引のスケジュールを立てる際には、十分な調査期間を確保することが重要です。
不動産デューデリジェンスを実施する際、専門家の関与は非常に重要です。その理由と専門家の役割は以下の通りです。
専門的知識の必要性
不動産デューデリジェンスには、不動産鑑定、建築、法律、環境など多岐にわたる専門知識が必要です。これらの分野に精通した専門家の協力なしでは、適切な調査を行うことは困難です。
主な専門家
不動産鑑定士
土地家屋調査士
弁護士
建築士
環境コンサルタント
エンジニアリング・レポートの作成
専門家チームは、調査結果を「エンジニアリング・レポート」としてまとめ、依頼主である譲受側に提出します。このレポートは、不動産の価値評価や取引判断の重要な基礎資料となります。
調査範囲と深度の決定
譲受側は、対象不動産の重要性やリスクの程度に応じて、どの程度の範囲と深度でデューデリジェンスを実施すべきかを検討する必要があります。この判断においても、専門家のアドバイスは非常に有用です。
リスクの適切な評価
専門家は、その経験と知識を活かして、発見された問題点やリスクの重要度を適切に評価し、譲受側に分かりやすく説明することができます。
客観性の確保
第三者である専門家が調査を行うことで、結果の客観性と信頼性が高まります。
以上の理由から、不動産デューデリジェンスにおける専門家の活用は、適切かつ効果的な調査を行う上で必須と言えます。譲受側は、信頼できる専門家や専門家チームを選定し、協力して調査を進めることが重要です。
不動産デューデリジェンスは、M&Aや不動産取引において重要なプロセスです。物理的、経済的、法的側面から総合的に調査を行うことで、対象不動産の現状把握とリスク評価が可能となります。適切な時期に、専門家の協力を得て実施することで、より安全で戦略的な取引を実現できます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事