2024年M&A件数と市場動向を数字で読み解く


Powered by みつき税理士法人


M&A件数の最新推移と会社売却で見るべき実務ポイント

M&A件数は2025年に過去最多を更新し、2026年も高水準で推移しています。最新統計の見方、増加の背景、会社売却・第三者承継を検討する経営者が確認すべき価格、相手探し、税務・保証、情報開示の実務ポイントを解説します。

目次

  1. M&A件数は高水準が続いている
  2. 件数増加を押し上げる3つの動き
  3. 統計の数字を読むときの注意点
  4. 会社売却を考える経営者への影響
  5. 高水準の市場で準備すべき実務
  6. まとめ

2024年M&A件数と市場動向を数字で読み解く

M&A件数は高水準が続いている

M&A(合併・買収)の件数は、過去最多圏で推移しています。単に「流行している」という話ではありません。後継者不足、上場企業の再編、海外成長投資が重なり、会社の出口戦略としてM&Aを検討しやすい環境になっています。

レコフM&Aデータベースによると、2025年の日本企業が関係するM&A件数は公表ベースで5,115件となり、2024年の4,700件から増加しました。取引金額も35.7兆円と大きく伸びています。さらに、2025年度では5,228件、取引金額は43兆334億円とされ、件数と金額の両面で過去最高水準となりました。

2026年に入っても勢いは続いています。2026年1〜3月期のM&A件数は1,295件、前年同期の1,182件から9.6%増え、取引金額も12兆3,883億円とされています。上場企業の適時開示を対象にしたM&A Onlineの集計でも、2025年は1,344件、前年比10.1%増で5年連続の過去最多、2026年1〜5月累計は622件となっており、毎月100件を超えるペースが続いています。

件数だけでなく金額の大型化も見逃せない

最近の特徴は、件数が増えているだけではありません。トヨタグループによる豊田自動織機の非公開化、ソフトバンクグループによる米OpenAIへの出資、国内企業による海外企業への大型投資、投資ファンドによるTOB(株式公開買付け)など、1件あたりの金額が大きい案件が目立ちます。

中小企業の会社売却を考える経営者にとって、大型案件は遠い話に見えるかもしれません。しかし、市場全体が活発になると、買い手企業のM&A担当者、金融機関、投資ファンド、事業会社の情報収集も増えます。その結果、中小企業にも「買い手候補が見つかりやすい時期」と「条件比較が難しくなる時期」が同時に訪れます。

2021年以降の推移は定着を示している

2021年のM&A件数は4,280件、2024年は4,700件でした。取引金額も2024年に19.6兆円、2025年に35.7兆円と拡大しています。2021年はコロナ禍からの回復とIT・デジタル投資、2024年は事業承継と大企業の選択と集中、2025年は大型案件の増加が目立ちました。コロナ禍後に一時的に戻ったというより、M&Aが企業経営の通常の選択肢として定着したと見る方が自然です。

件数増加を押し上げる3つの動き

M&A件数が増えている理由は、1つに絞れません。中小企業の承継問題、大企業の資本効率改善、海外市場への成長投資が同時に進んでいます。ここを分けて見ると、自社に関係する流れが見えやすくなります。

後継者不足で第三者承継が現実的になった

中小企業では、親族や社内に後継者がいないため、第三者に会社を引き継ぐM&Aが増えています。黒字であっても、後継者がいなければ廃業を考えざるを得ない会社は珍しくありません。

近年は、中小M&Aガイドラインの改訂やM&A支援機関登録制度、事業承継・引継ぎ補助金などにより、支援者の説明義務、手数料、利益相反、最終契約のリスクなどへの注意が強まりました。市場の健全化と公的支援が進んだことで、経営者が「会社を売る」という言葉に過度な抵抗を持たず、事業を残す手段として第三者承継を検討しやすくなっています。

経営者保証の整理も重要になっている

事業承継型M&Aでは、株式の譲渡だけで終わらないことがあります。金融機関借入に付いている経営者保証をどう外すか、担保をどう扱うか、金融機関へどの時点で説明するかが問題になります。ここは意外と多い落とし穴です。

上場企業の選択と集中が広がっている

上場企業では、資本効率や株価を意識した経営が強く求められています。そのため、非中核事業の売却、子会社の再編、親子上場の解消、MBO(経営陣による買収)による非公開化が増えています。

この流れは中小企業にも影響します。大企業が自社に合わなくなった事業を切り出す一方で、その事業と相性のよい中堅企業や地域企業が買い手になることがあります。反対に、中小企業が大企業グループの一員になることで、人材採用や設備投資の余地が広がる場合もあります。

海外成長投資と対日投資が再び活発化している

国内市場が成熟する中で、日本企業が海外企業を買収するIN-OUT案件は、大型案件を中心に底堅く続いています。また、海外企業や海外ファンドが日本企業を買収するOUT-IN案件も、円安、割安感、ガバナンス改革を背景に存在感を増しています。

ただし、中小企業が海外買い手と直接交渉する場合は、価格だけで判断しないことが大切です。言語、契約実務、雇用条件、取引先への説明、税務の取扱いが国内案件より複雑になりやすいためです。

統計の数字を読むときの注意点

M&A件数を調べると、集計機関によって数字が違うことがあります。これは誤りではなく、対象範囲が違うためです。会社売却を検討する経営者は、数字の大小よりも「何を数えているか」を確認する必要があります。

公表ベースと適時開示ベースは範囲が違う

レコフデータのような公表ベースの統計は、日本企業が関係するM&Aを広く集計します。一方、M&A Onlineのような適時開示ベースの統計は、上場企業が開示した経営権の移転を伴う案件を中心に見ます。非上場の中小企業同士の譲渡や、秘密保持のため公表されない案件は、統計に表れにくいことがあります。

そのため、5,000件台という数字を見て「自社の業界でも必ず買い手が多い」と早合点するのは危険です。業種、地域、利益水準、従業員構成、取引先依存度によって、買い手候補の数は大きく変わります。

件数増加は売却価格の上昇を保証しない

市場全体の件数が増えても、すべての会社の譲渡価格が上がるわけではありません。買い手は、売上規模だけでなく、営業利益、EBITDA、純資産、借入金、役員退職金、不要資産、簿外債務の有無を見ます。EBITDAとは、利息、税金、減価償却費などを差し引く前の利益に近い指標です。

M&A実務では、最初に高い価格の話が出ても、デューデリジェンスでリスクが見つかると条件が下がることがあります。デューデリジェンスとは、買い手が決算書、契約、労務、税務などを調べる手続です。

大型案件のニュースと中小企業M&Aは分けて考える

ニュースで目立つのは、TOB、MBO、海外買収、投資ファンドの大型案件です。一方、中小企業の会社売却では、従業員の雇用、取引先との関係、社長退任後の引継ぎ、個人保証の解除が重要になります。

大型案件の金額に引っ張られ、自社の価格感だけを先に決めてしまうと、交渉が止まることがあります。中小企業では、価格と同じくらい「誰に任せるか」「何を守るか」が大切です。

会社売却を考える経営者への影響

M&A件数が増える局面では、売り手にとって選択肢が広がりやすくなります。ただし、何も準備しないまま市場に出れば、買い手からの質問に答えられず、良い条件を逃すこともあります。

買い手候補が増えるほど比較軸が必要になる

買い手候補が複数出てきた場合、最も高い金額だけを選べばよいとは限りません。雇用を守る方針、社名や屋号の扱い、社長の残留期間、取引先への説明方法、金融機関対応を比べる必要があります。

たとえば、同じ譲渡価格でも、一方は従業員の処遇を丁寧に引き継ぎ、もう一方は早期の人員整理を予定していることがあります。経営者にとっては、手取り額だけでなく、引退後に後悔しない相手かどうかも重要です。

税金と手取り額は早い段階で試算する

会社売却では、株式譲渡か事業譲渡かによって税金や手取り額が変わります。株式譲渡は、オーナーが保有する株式を売る方法です。事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を会社から買い手へ移す方法です。

中小企業のオーナー経営者では、株式譲渡が選ばれることが多いですが、少数株主、種類株式、過去の増資、相続で分散した株式があると調整が必要です。また、役員退職金を支給する場合は、会社の損金性や個人の税負担も含めて考えます。

譲渡価格と手取り額は同じではない

買い手が提示する金額は、経営者の手元にそのまま残る金額ではありません。株式譲渡では、一般に譲渡価額から取得費や専門家費用、税金などを差し引いた金額が手取りの目安になります。一方、会社の借入金や経営者保証は、通常は個人の手取りから直接差し引くというより、株式価値の算定や保証解除の条件に影響します。事業譲渡や役員退職金を組み合わせる場合は計算が変わるため、早めの試算が必要です。

従業員と取引先への説明時期を誤らない

M&Aでは、情報を早く出し過ぎると現場に不安が広がり、遅すぎると信頼を失うことがあります。特に中小企業では、社長と従業員、主要取引先、金融機関の距離が近いため、説明の順番が重要です。

実務では、基本合意後または最終契約前後に説明計画を作ることが多いです。誰が、誰に、何を、どの順番で伝えるかを決めておくと、M&A後の混乱を減らせます。

高水準の市場で準備すべき実務

M&A件数が多い時期は、買い手も売り手も動きやすい反面、案件の比較も厳しくなります。買い手は同時に複数の候補を見ているため、資料が整っていない会社は後回しにされることがあります。

決算書と実態の差を説明できるようにする

中小企業では、決算書の利益と実態の収益力がずれることがあります。役員報酬、親族給与、交際費、保険料、車両費、遊休資産、社長個人との取引などがあるためです。

売却準備では、過去3期分の決算書、月次試算表、借入金一覧、主要取引先別の売上、従業員一覧、契約書、許認可、株主名簿を整理します。資料が早く出せる会社ほど、買い手はリスクを見積もりやすく、交渉も進みやすくなります。

自社の強みを買い手の言葉に置き換える

経営者が感じている強みと、買い手が評価する強みは同じとは限りません。地域での信用、熟練従業員、長年の取引先、特殊な許認可、安定した保守収入などは、買い手にとって事業拡大の土台になります。

一方で、社長個人への依存が強い、主要取引先が1社に偏っている、技術が特定の従業員に集中している場合は、評価上のリスクになります。弱点を隠すより、引継ぎ計画を示す方が信頼されます。

PMIまで見据えて相手を選ぶ

M&Aは契約で終わりではありません。成約後にはPMI(M&A後の統合プロセス)が始まります。会計処理、給与制度、ITシステム、社内ルール、取引先対応をどう統合するかによって、従業員の安心感や買い手の投資効果が変わります。

売り手の経営者も、一定期間は引継ぎに関わることがあります。その期間、役割、報酬、権限をあいまいにすると、成約後に不満が残ります。最終契約の前に、退任時期と引継ぎ範囲を確認しておきましょう。

専門家には価格だけでなくリスク整理を求める

相談相手を選ぶときは、買い手候補の数だけでなく、税務、会計、法務、金融機関対応をどこまで整理できるかを見ます。特に、経営者保証、少数株主、役員退職金、事業用不動産、過去の税務処理は、早い段階で確認すべき論点です。

まとめ

M&A件数は2025年に過去最多を更新し、2026年も高水準が続いています。市場が活発な時期ほど、会社売却の選択肢は広がりますが、価格、税金、保証、従業員対応を整理しなければ判断を誤ります。早めに資料を整え、譲れない条件と手取り額を確認したうえで、自社に合う承継先を冷静に見極めることが、後悔しない承継の第一歩です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

相続の教科書