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2024年M&A件数と市場動向を数字で読み解く

2024年のM&A件数は本当に増えるのでしょうか。最新統計と歴史的推移から、増加を支える背景をわかりやすく解説します。

目次

  1. M&A件数の現状と高水準維持の実態
  2. M&A件数の歴史的推移と主要な影響要因
  3. M&A件数増加の背景と要因
  4. 2024年のM&A件数予測と市場が示す新たなステージ
  5. スタートアップエコシステムとM&Aの接点
  6. クロスボーダーM&Aの地域別動向
  7. 企業再編と財務戦略の交差点としてのM&A
  8. 事業承継型M&Aの成長予測と実務課題
  9. M&Aを成功させる準備と専門家の役割
  10. 2024年以降の戦略的M&Aアクション
  11. M&A手続における企業価値評価の留意点
  12. M&A後の統合で成果を最大化するポイント
  13. まとめ

M&A件数の現状と高水準維持の実態

近年、日本のM&A市場はかつてないほどの盛り上がりを見せています。レコフM&Aデータベースによれば、2023年の日本企業によるM&A件数は4,304件と4,000件台を維持しました。前年の4,280件と比べると微減ですが、2000年代前半において1,700件前後だった水準と比較すると約2.5倍に拡大していることがわかります。件数が横ばいでも市場の勢いが衰えないのは、1件当たりの規模が大きくなっているからです。

2023年の取引額は過去を大きく上回る水準

取引額の側面から見ると、市場の熱気はさらに鮮明です。2023年の総額は前年比52.3%増と、金額ベースで過去を大きく更新しました。日本製鉄が米USスチールを約1.4兆円で譲受した案件を筆頭に、国内外を問わず1,000億円超の案件が相次いで成立しました。大型案件が相次ぐ背景には、低金利環境で豊富な手元資金を活かした攻めの投資姿勢と、企業価値向上を急ぐ経営者の意思決定スピードの向上があります。

カテゴリー別の特徴が示す企業行動の変化

2023年の案件をカテゴリー別に見ると、国内企業同士のIN-INが取引件数全体の大半を占める一方、IN-OUT(日本企業が海外企業を譲受)が661件で前年比5.8%増、OUT-IN(海外企業が日本企業を譲受)が283件で前年比15.8%減という対照的な結果となりました。日本企業が海外成長市場に活路を求める姿勢は強まる一方、海外企業から見た日本市場は円安による買収好機でありつつも、業界構造が複雑で見るべき案件が限定的になっていることが数字に表れています。

スタートアップM&Aが示すエコシステムの成熟

譲渡企業側の顔触れを見ると、スタートアップによる事業譲渡の比率が高まりました。かつてはメディアやアプリなど単体サービスの譲渡が中心でしたが、近年は事業会社がスタートアップをグループに迎え入れて経営資源を統合することで、成長を加速するケースが増えています。これは大企業とスタートアップのオープンイノベーションが定着してきた証しです。

M&A件数の歴史的推移と主要な影響要因

M&A件数は経済ショックを境に大きく変動します。ここでは2000年代以降の主な出来事と件数推移を振り返ります。

ITバブル崩壊からリーマンショック前夜までの拡大期

2000年から2003年は毎年約1,700件で推移し、制度面の整備と企業の選択と集中が進む中で徐々に裾野が広がりました。2004年以降は2,000件を超え、企業統合によるスケールメリット追求が顕在化しました。

リーマンショックが引き起こした急激な冷え込み

2008年の金融危機は資本市場を大きく揺さぶりました。倒産リスクに備えるため企業は投資を手控え、M&A件数は2011年に低水準まで落ち込みました。この時期は資金調達の難化と株価急落により、案件の継続が困難になったことが主因です。

アベノミクス以降の回復と拡大

金融緩和と円安を背景に、2012年から件数は再び増加基調となり、2019年には4,000件を突破しました。国内外での企業再編やデジタルトランスフォーメーション需要が追い風となり、積極的な投資が展開されました。

コロナ禍とその後のレジリエンス

2020年は世界的パンデミックで3,730件に減少しましたが、2021年には急速に反発して4,000件台を回復しました。遠隔デューデリジェンスやオンライン交渉の普及により、対面制約下でもM&Aを止めない環境が整備されたことが功を奏しました。

M&A件数増加の背景と要因

件数が増える背後には複数の構造的要因が錯綜しています。ここでは後継者問題、グローバル戦略、コロナ禍の影響、企業再編という四つの要因を整理します。

後継者問題が中小企業を動かす

日本では経営者の高齢化が進み、70歳以上の経営者比率が3割に迫る業種もあります。譲渡企業は黒字でも後継者不在で廃業リスクを抱えており、従業員や取引先を守るためM&Aによる承継を選択しています。事業承継税制や補助金など行政支援もこの動きを後押ししています。

海外展開を加速するためのクロスボーダー案件

国内市場が縮小する中、譲受企業は海外企業の買収を通じて市場アクセスや技術を獲得しようとしています。2023年のIN-OUT取引額58,160百万米ドル(前年比134.1%増)はその象徴です。バンコクなど海外拠点を持つ仲介会社の活躍も急増を支えています。

コロナ禍がもたらした再編とチャンス

飲食業や観光業など、需要が蒸発した業界では事業継続のためにM&Aが選択肢となりました。一方で、需要回復を見込んで積極的に譲受する企業も多く、危機が逆に再編を加速させる契機となっています。

非中核事業の切り離しによるポートフォリオ最適化

財務健全性を保つため、企業は不採算事業を譲渡し、得た資金をコア事業の強化に充てています。これにより、譲受企業は新規事業をスピーディーに取り込み、譲渡企業はバランスシートを改善するという双方に利点のある取引が生まれています。

2024年のM&A件数予測と市場が示す新たなステージ

2024年の予測値は4,700件と前年から約400件増加し過去最多となる見通しです。金額でも19兆6,964億円と前年を8%上回り、件数・金額ともにダブルで過去最高を狙う展開となっています。IN-INが3,702件と全体の約8割を占め、IN-OUTが665件、OUT-INが333件と、すべてのカテゴリーで前年超えが見込まれています。

2024年に期待される大型案件の存在感

日本生命保険とレゾリューションライフ、ルネサスエレクトロニクスとアルティウム、積水ハウスとM.D.C Holdingsなど、大型クロスボーダー案件が市場を牽引しています。国内市場の成熟を踏まえ、海外事業で成長エンジンを確保する動きが共通しています。

取引規模の大型化がもたらすインパクト

平均取引額の上昇は、M&A後の統合プロセスを成功させる難易度も高めます。複数拠点にまたがる組織文化の調整やシステム統合に必要な投資は大きく、譲受企業には高度な専門知識と慎重な計画が求められます。

スタートアップエコシステムとM&Aの接点

スタートアップにとってM&Aは「EXIT」の一形態です。サービス単位の譲渡から企業単位の譲渡へと範囲が拡大し、譲受企業は研究開発・人材・顧客基盤を一括で取り込むことができます。譲渡企業にとっては、上場以外の資本回収手段としてM&Aが選びやすくなっている点が大きな変化です。

オープンイノベーションと事業成長の加速

大企業は新規事業を自前で育てるより、成長企業を取り込むことで時間を短縮できます。2023年以降、ヘルステック、グリーンテック、AI・SaaS領域での買収が増え、2024年の件数増加見通しにも影響しています。

クロスボーダーM&Aの地域別動向

クロスボーダー取引の地域別傾向をみると、北米向け案件が依然として最多ですが、ASEAN地域への投資も増加しています。人口増加と経済成長を背景に、消費財、インフラ、金融サービス分野でのIN-OUT案件が活発です。

北米市場へのアクセス拡大

日本企業にとって最大のM&A先は依然として米国です。高い企業価値と競争の激しい市場においては、買収後のPMIでブランド維持と現地人材確保がカギとなります。

ASEAN市場の魅力度向上

ASEANでは個人消費の拡大とデジタル経済の伸長が続いています。競合が欧米企業から中韓企業まで広がる中、日本企業は品質とブランドを武器に差別化を図っています。

企業再編と財務戦略の交差点としてのM&A

財務戦略の一環としてM&Aが検討される事例が増えています。非中核事業の譲渡により負債を圧縮し、ROEを改善する取り組みは投資家からも支持されています。逆に譲受企業側は事業ポートフォリオを拡充し、市場シェアを一気に高めるチャンスを得ています。

統計数値が示すM&Aの定着

これらの統計から読み取れるのは、M&Aが特殊な経営手段ではなく、企業がごく日常的に活用する選択肢へ定着したという事実です。資本効率を高めたり、イノベーションを獲得したりするうえで、M&Aは時間を買う行為として不可欠になりつつあります。

事業承継型M&Aの成長予測と実務課題

事業承継を目的としたM&Aは、今後最も拡大が期待される分野です。原文では経営者の高齢化と後継者不足、そして事業承継税制の整備が重なることで、中小企業における承継型M&Aの需要が一段と高まると示されています。廃業を避け、雇用と地域経済を守るために第三者への株式譲渡を選ぶケースが増えていますが、相続税・贈与税への配慮や取引先への説明など、独自の課題も多く、専門家の知見が欠かせません。

経営者高齢化が承継M&Aを拡大させる

日本の中小企業では経営者の平均年齢が上昇し、70歳を超える企業も珍しくありません。黒字でも後継者不在という理由で廃業すれば、地域経済は大きな損失を被ります。第三者M&Aは従業員の雇用とブランドを守りつつ、譲受企業には安定収益をもたらす双方メリットの大きい手段です。

廃業回避で地域経済を下支えする

後継者難による廃業は雇用喪失やサプライチェーン分断を招きます。M&Aで事業を承継すればこうした社会コストを抑え、地域経済の安定に寄与します。

早期準備が成功確率を大きく高める

原文は「M&Aプロセスは複雑で時間がかかる」と指摘します。財務資料の整備や企業価値算定に加え、デューデリジェンスへの対応など多岐にわたる準備が必要です。少なくとも2~3年前から専門家と連携し、希望条件を整理しておくことで成功確率は大幅に向上します。

財務資料整備で交渉期間を短縮する

整理された財務諸表はデューデリジェンスを円滑にし、交渉期間を短縮します。追加資料のやり取りが減るため、条件悪化のリスクも抑えられます。

M&Aを成功させる準備と専門家の役割

「知識不足」「譲渡先選定」「企業価値評価の難しさ」は専門家の支援で解決できます。税理士や仲介会社は手続とスケジュール管理を支援し、情報格差を解消します。

知識不足は専門家支援で補う

手続全体を整理し資料準備を支援することで、経営者は意思決定に集中できます。

適切な譲渡先選定はネットワークが鍵

仲介会社の広範なネットワークを活用すれば、短期間でシナジーの高い相手とマッチングできます。

企業価値評価は第三者意見で公平に

DCF法など客観的手法を用いた第三者評価により、公平な価格決定が可能となり交渉後の後悔を防ぎます。

公正な評価が信頼醸成につながる

透明性の高い説明は交渉を円滑にし、統合後の信頼関係維持にも直結します。

2024年以降の戦略的M&Aアクション

市場拡大局面での成長戦略として、国内外案件の組み合わせやDX領域買収が有効と原文・参考は示唆しています。

国内外の案件選択で成長を加速

IN-OUTによる海外成長市場参入と国内再編の両立で持続的な売上拡大が期待できます。

デジタル化投資が競争力を生む

AI・SaaS企業の買収は短期間でDXを推進でき、既存事業の効率化に直結します。

危機対応力で市場変動に備える

外部ショックから素早く回復するには財務余力を確保し、いつでも買収に動ける体制を整えることが重要です。

PMIの質が大型案件の成否を決める

取引額が大型化するほど統合後の文化・IT調整が難しくなるため、十分なリソースと計画性が求められます。

M&A手続における企業価値評価の留意点

原文は「企業価値評価の難しさ→専門家による適切な評価」を課題解決策に挙げています。DCF法・類似会社比較法など複数の手法を併用し、前提の透明性を担保することが肝要です。

前提条件の透明性が交渉を円滑化

売上予測や割引率の根拠を示すことでディスカウント要求を抑えられます。


マルチプル比較で市場水準を確認

EV/EBITDAなど市場指標で妥当性を検証し、納得感の高い価格帯を導き出します。

M&A後の統合で成果を最大化するポイント

原文は「M&Aは手段であり成功には慎重な準備と適切な実行が不可欠」と強調します。適切な実行とはPMIであり、組織文化やITシステムの調整を契約前から計画することが成功への近道です。

統合初期100日で方向性を示すことが重要

初期段階でビジョンとアクションプランを提示すれば従業員の不安を軽減し、顧客離反を防げます。

シナジー効果の定量化で投資を適正化

目標と実績を数値で追跡する仕組みを設ければ、経営資源の再配分が迅速に行えます。


コミュニケーション戦略が統合成功を左右する

透明性の高い情報共有は従業員のモチベーションと顧客の信頼を守ります。


統合が順調に進めば譲受企業は想定以上のシナジーを享受できます。反対に統合が遅れると既存顧客の離反や重複コストの発生で短期的損失が拡大するため、事前に優先順位を明確にし、専任チームを配置して進捗を定期的に確認する体制が必須です。統合後報告を継続しましょう。

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まとめ

M&A市場は2024年に件数・取引額とも過去最高水準に到達見込みです。後継者難に直面する中小企業と海外成長市場を狙う大企業のニーズが重なり、事業承継型M&Aが一段と拡大します。成果を得るには早期準備と税務・財務の専門家活用が不可欠です。本記事を参考に、2025年以降の戦略を描きましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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