2024年のM&A市場は高水準を維持すると予想されています。本記事では、M&A件数の現状や歴史的推移、増加の要因、そして将来予測について詳しく解説します。事業承継や企業成長戦略に関心のある方は必見です。
目次
▶目次ページ:第三者承継(M&Aの意味)
M&A(合併・買収)の市場は近年、日本において高い活況を呈しています。2023年の動向を中心に、M&A件数の実態と取引額の推移、さらには国内外の傾向について詳しく見ていきましょう。
2023年の日本企業におけるM&A件数は、「レコフM&Aデータベース」の調査によると4,304件となりました。これは前年の4,280件と比較すると6.7%の減少となりますが、依然として高水準を維持しています。この数字は、M&Aに対する企業の関心が引き続き高いことを示しています。
M&Aの件数がやや減少傾向にある一方で、取引額は大幅に増加しています。2023年のM&A全体の取引額は、前年比で52.3%もの増加を記録しました。この背景には、大型案件の増加があると考えられます。取引額の増加は、M&A市場の活況を別の側面から示す重要な指標といえるでしょう。
近年、スタートアップ企業におけるM&Aも活発化しています。従来はサービスや媒体の譲渡が中心でしたが、最近では事業そのものを譲渡し、上場企業グループの傘下に入ることで事業拡大を目指すケースが増えています。この傾向は、スタートアップエコシステムの成熟と、大企業のオープンイノベーション戦略の融合を示唆しています。
海外とのM&A、特にクロスボーダー案件に関しては、全体的に横ばいの傾向が見られます。しかし、その内訳を見ると興味深い変化が起きています。
2023年のデータを詳しく見ると、IN-OUT案件(日本企業が海外企業を買収する案件)は661件で、前年比5.8%の増加となりました。一方、OUT-IN案件(海外企業が日本企業を買収する案件)は283件で、15.8%の減少を記録しています。この傾向は、日本企業の海外展開への意欲が依然として高いことを示しています。
海外M&Aの取引額に関しては、全体として増加傾向にあります。特にIN-OUT案件では、前年比134.1%増の58,160百万米ドルという大幅な増加を記録しました。最大の案件は日本製鉄による米USスチールの買収で、その買収額は14,324百万米ドルに達しています。一方、OUT-IN案件の取引額は14,758百万米ドルで、前年比50%の減少となりました。
このように、2023年のM&A市場は件数こそやや減少したものの、取引額の増加や大型案件の増加など、全体として活況を維持しています。特に日本企業による海外企業の買収が活発化している点が注目されます。今後も、グローバル化や事業再編の流れの中で、M&A市場の動向は企業戦略の重要な指標となるでしょう
M&A市場は、経済環境や社会情勢の変化に敏感に反応します。過去の大きな経済イベントがM&A件数にどのような影響を与えたのか、歴史的な推移を見ていきましょう。
2008年に起こったリーマンショックは、世界経済に大きな打撃を与え、M&A市場にも大きな影響を及ぼしました。
• リーマンショック以前:M&A件数は増加傾向
• 2000年~2003年:約1,700件で推移
• 2004年以降:2,000件を超える水準に到達
• リーマンショック後:M&A件数が大幅に減少
• 2011年:過去の低水準まで落ち込む
リーマンショックによる急激な経済の冷え込みは、企業の投資意欲を減退させ、M&A市場を縮小させました。多くの企業が事業の維持や債務の返済に注力せざるを得ない状況となり、新規の投資や事業拡大のためのM&Aは控えられる傾向にありました。
2020年に世界中に広がった新型コロナウイルス感染症は、経済活動に大きな制約をもたらし、M&A市場にも影響を与えました。
• コロナ禍以前:M&A件数は順調に増加
• 2012年~2019年:着実な増加傾向
• 2019年:4,000件に到達
• コロナ禍の影響:
2020年:3,730件に減少(前年比約7%減)
• 2021年、2022年:4,000件 • 以上に回復
新型コロナウイルスの影響で、一時的にM&A件数は減少しましたが、その後比較的早期に回復しました。これは、コロナ禍を契機とした事業再編や、デジタル化の加速に伴う新規事業獲得などのニーズが高まったことが要因として考えられます。
また、コロナ禍でのM&A件数の変動は、リーマンショック時ほど深刻ではありませんでした。これは、M&Aが企業戦略の重要な選択肢として定着してきたことを示唆しています。
経済危機や世界的なパンデミックなどの大きな外部要因は、確かにM&A市場に影響を与えます。しかし、それぞれの危機後の回復過程を見ると、M&A市場の回復力や、企業がM&Aを戦略的に活用する姿勢が強まっていることがわかります。
今後も様々な外部要因によってM&A市場は変動する可能性がありますが、長期的には増加傾向が続くと予想されます。企業は、これらの歴史的な推移を参考にしつつ、自社の成長戦略にM&Aをどのように組み込んでいくかを慎重に検討する必要があるでしょう。
近年のM&A件数の増加には、様々な社会経済的要因が影響しています。ここでは、その主な背景と要因について詳しく見ていきましょう。
日本の中小企業において、後継者問題は年々深刻化しています。
• 後継者不在による影響:
• 事業継続の困難
• 廃業リスクの増大
• M&Aによる解決策:
• 事業承継の選択肢としてのM&A活用
• 黒字企業の存続可能性の向上
多くの中小企業において、事業自体は健全であるにもかかわらず、後継者が見つからないために廃業を検討せざるを得ないケースが増加しています。このような状況下で、M&Aは有効な事業承継の手段として注目されています。後継者問題は短期間での解決が難しいため、今後もM&Aを通じた事業承継のニーズは高まると予想されます。
国内市場の成熟化や人口減少に伴い、多くの日本企業が海外展開を模索しています。
• 海外M&Aの目的:
• 新たな技術の獲得
• 海外市場へのアクセス拡大
• グローバルな事業基盤の構築
• クロスボーダーM&Aの増加:
• 国内需要が限られる商品・サービスの海外展開
• 海外企業の買収を通じた市場参入の加速
グローバル化が進む中、海外の技術や市場を取り込むためのM&Aは、今後も増加傾向が続くと予想されます。特に、急速な成長が見込まれる新興国市場への参入手段として、M&Aは重要な戦略的オプションとなっています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの企業の事業継続に影響を与えました。
• コロナ禍の影響を受けた業界:
• 飲食業
• イベント業
• 観光業など
• M&Aによる事業再構築:
• 事業譲渡による経営資源の有効活用
• 業界再編を通じた競争力強化
コロナ禍で事業継続が困難になった企業が、M&Aを通じて事業を譲渡するケースが増加しています。一方で、コロナ後の需要回復を見据えて事業を引き継ぐ企業も現れており、これらのマッチングがM&A件数の増加につながっています。
経済環境の変化に伴い、多くの企業が事業ポートフォリオの見直しを行っています。
• 不採算事業や非中核事業の譲渡:
• 経営資源の集中と選択
• 財務体質の改善
• M&Aを活用した企業再編:
• 事業の切り離しによる負債解消
• コア事業への経営資源の集中
特にコロナ禍の影響で負債が増大した企業にとって、不採算事業や非中核事業の譲渡は重要な選択肢となっています。このような企業再編のニーズが、M&A市場を活性化させる一因となっています。
これらの要因が複合的に作用し、M&A市場の活況を支えています。後継者問題、グローバル展開の必要性、コロナ禍の影響、そして企業再編のニーズなど、様々な社会経済的要因がM&Aの需要を高めています。今後も、これらの要因は継続すると予想され、M&A市場の拡大傾向は続くと考えられます。
M&A市場は今後も拡大が見込まれています。ここでは、M&A件数の増加予測とその背景、特に注目される事業承継型M&Aの動向について詳しく見ていきましょう。
M&A件数は今後も増加すると予測されています。その主な要因として以下が挙げられます:
1. 経済回復に伴う企業の投資意欲の高まり
2. デジタル化やグローバル化に対応するための戦略的M&A
3. 新興企業の台頭と既存企業によるイノベーション獲得
4. 事業承継問題の深刻化
過去のデータを見ても、リーマンショックや新型コロナウイルスの影響など、一時的な減少を経験しても、最終的には増加傾向に転じています。2024年以降も、この傾向は継続すると予想されます。
また、M&Aの認知度向上も重要な要因です。近年、M&Aは事業拡大や事業承継の有効な手段として広く認識されるようになりました。これにより、中小企業や個人事業主の間でもM&Aへの関心が高まっており、今後はさらに裾野が広がる可能性があります。
事業承継を目的としたM&Aは、今後特に注目される分野です。
• 事業承継型M&A増加の背景:
1.経営者の高齢化
2.後継者不足の深刻化
3.事業承継税制の整備
• 予想される傾向:
1.中小企業間のM&A増加
2.業界再編の加速
3.地域経済の維持・活性化への貢献
特に中小企業において、事業承継は喫緊の課題となっています。後継者不在による廃業を避け、事業の継続と雇用の維持を図るため、M&Aは有効な選択肢として注目されています。今後は、こうした事業承継型M&Aの割合が増加すると予想されます。
M&Aは、事業承継における課題解決の重要な手段として期待されています。
• M&Aによる事業承継のメリット:
1.経営資源の有効活用
2.従業員の雇用維持
3.取引先との関係継続
4.地域経済への貢献
• 課題と対策:
1.M&Aに関する知識・情報の不足 → M&A専門家による支援の活用
2.適切な譲渡先の選定 → M&A仲介会社のネットワーク活用
3.企業価値評価の難しさ → 専門家による適切な評価の実施
2024年以降も、事業承継のためのM&A活用は増加すると予想されます。しかし、M&Aプロセスは複雑で時間がかかるため、早期からの準備と専門家のサポートが重要となります。
M&A市場の将来展望は明るいと言えるでしょう。特に事業承継型M&Aの増加は、日本経済の持続的成長にとって重要な役割を果たすと期待されます。ただし、M&Aはあくまでも手段であり、その成功には慎重な準備と適切な実行が不可欠です。企業は自社の状況を正確に分析し、M&Aが最適な選択肢かどうかを見極める必要があります。
M&A市場は現在高水準を維持しており、今後も成長が期待されています。特に事業承継型M&Aの増加が予想され、中小企業の事業継続や経済の活性化に寄与すると考えられます。M&Aを成功させるためには、早期からの準備と専門家のサポートが重要です。企業は自社の状況を正確に分析し、M&Aが最適な選択肢かどうかを慎重に見極める必要があります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画