マイクロM&Aは、小規模事業者の事業承継問題を解決する手段として注目を集めています。本記事では、マイクロM&Aの定義や特徴、メリット・デメリット、成功のポイントなどを詳しく解説します。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(小規模会社のM&A)
マイクロM&Aは、M&A(合併・買収)の一形態であり、特に小規模な事業や個人事業主を対象としています。通常のM&Aと比較して、取引規模が小さいことが特徴です。ここでは、マイクロM&Aの定義や特徴について詳しく見ていきましょう。
マイクロM&Aは、主に小規模事業者や個人事業主を対象としています。具体的には、後継者不在や経営難に直面している事業者が、事業の存続や発展を目指して行うケースが多く見られます。このような小規模事業の承継問題に対する解決策として、マイクロM&Aの需要が年々高まっています。
マイクロM&Aと新規起業の最大の違いは、事業基盤の有無にあります。マイクロM&Aでは、既存の顧客や取引先、事業ノウハウなどが既に整った状態から事業をスタートできます。これにより、以下のようなメリットがあります:
1. 初期投資の抑制:人材採用や設備投資などの初期費用を抑えられます。
2. 即時の事業開始:既存の事業環境をそのまま引き継げるため、すぐに事業を開始できます。
3. 収益の見込み:黒字事業の場合、譲受直後から収益を得られる可能性があります。
一方、新規起業の場合は、これらの基盤をゼロから構築する必要があり、時間とコストがかかります。
マイクロM&AとスモールM&Aは、どちらも小規模なM&Aを指しますが、その規模に違いがあります。
1. マイクロM&A:
o 譲渡価格:1,000万円以下
o 対象:主に個人事業主や極小規模の企業
2. スモールM&A:
o 譲渡価格:1,000万円~3億円程度
o 対象企業の年商:数百万~3億円程度
o 対象企業の従業員数:数人~20人程度
マイクロM&Aは、スモールM&Aよりもさらに小規模な取引を指し、個人投資家でも参入しやすい市場として注目を集めています。
近年、マイクロM&Aが注目を集めている背景には、いくつかの要因があります。ここでは、その主な理由について解説します。
マイクロM&Aの需要が高まっている理由の一つに、個人投資家からの関心の増加があります。以下の要因が、この傾向を後押ししています:
1. M&Aマッチングサイトの普及:無料で手軽に探せるM&Aマッチングサイトの増加により、小規模なM&Aの成立が
容易になりました。
2. 低額での参入可能性:マイクロM&Aは1,000万円以下の取引であり、個人の自己資金でも譲受が可能です。
3. 新たな投資機会:既存の事業を取得することで、比較的リスクの低い形で事業経営に参入できる点が魅力となって
います。
これらの要因により、個人投資家にとってマイクロM&Aが魅力的な選択肢となっています。
もう一つの重要な背景として、小規模事業者の事業承継問題があります。
以下のデータがその深刻さを示しています:
1. 後継者不在率の高さ:帝国データバンクの2022年の調査によると、全国・全業種約27万社の後継者不在率は
57.2%に達しています。
2. 廃業予定企業の増加:日本政策金融公庫の2023年の調査では、中小企業のうち後継者が決定している企業はわずか
10.5%で、57.4%が廃業を予定しています。
3. 小規模事業者の課題:「廃業予定企業」の81.8%が従業者数1~4人の小規模企業です。
これらの統計から、小規模事業者の事業承継問題が深刻化していることがわかります。マイクロM&Aは、この問題に対する有効な解決策の一つとして注目されています。
マイクロM&Aには、売り手と買い手それぞれにメリットがあります。ここでは、両者のメリットについて詳しく解説します。
売り手にとってのマイクロM&Aのメリットは以下の通りです:
1. 事業承継問題の解決:後継者がいない場合でも、M&Aによって事業を継続させることができます。
2. 従業員の雇用確保:買い手に事業を引き継ぐことで、従業員の雇用先を確保できます。
3. 譲渡益の可能性:事業売却によって譲渡益が発生する可能性があります。
4. 廃業リスクの回避:事業を閉鎖せずに済むため、廃業に伴うリスクや負担を避けられます。
これらのメリットにより、マイクロM&Aは小規模事業者にとって、廃業よりも魅力的な選択肢となっています。
買い手にとってのマイクロM&Aのメリットは以下の通りです:
1. 低コストでの事業開始:1,000万円以下の取引であるため、個人でも実施可能です。
2. 即戦力の獲得:既存の顧客基盤、取引先、ノウハウなどの経営資源をすぐに活用できます。
3. 創業コストの抑制:新規創業と比べて、初期投資を大幅に抑えられます。
4. 収益の即時性:黒字事業の場合、譲受直後から収益が見込めます。
5. 事業拡大の機会:既存事業とのシナジー効果や新規事業への参入が容易になります。
これらのメリットにより、マイクロM&Aは新規創業を考えている個人や、事業拡大を目指す企業にとって魅力的な選択肢となっています。
マイクロM&Aにはメリットがある一方で、いくつかのデメリットや留意点も存在します。ここでは、売り手と買い手それぞれの観点から、これらの点について詳しく解説します。
売り手にとってのマイクロM&Aのデメリットや留意点は以下の通りです:
1. 低い譲渡価格:マイクロM&Aの取引価格は1,000万円以下であるため、売り手の期待に沿わない可能性がありま
す。
2. 手数料や税金の影響:仲介手数料や税金の支払いにより、実際に手元に残る金額が少なくなる可能性があります。
3. 候補者の少なさ:小規模な事業のため、買い手の候補が限られ、条件が合わずに失敗するケースもあります。
4. 計画性の重要性:十分な計画を立てないと、期待した成果が得られない可能性があります。
これらの点を考慮し、慎重に検討を進める必要があります。
買い手にとってのマイクロM&Aのデメリットや留意点は以下の通りです:
1. 隠れたリスクの可能性:売り手の事業が抱える負債などのリスクを引き継ぐ可能性があります。
2. デューデリジェンスの省略:取引金額が少ないため、詳細な調査を省略してしまうケースがあります。
3. 簿外債務のリスク:正式な帳簿に記載されていない債務が後から発覚する可能性があります。
4. 虚偽情報の可能性:売却側から提供された情報が不正確である可能性があります。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、可能な限り詳細な調査を行うことが重要です。
マイクロM&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、それらのポイントについて詳しく解説します。
マイクロM&A後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)は、取引の成功に大きく影響します。以下の点に注意が必要です:
1. 経営の統合:経営方針や意思決定プロセスの統一を図ります。
2. 業務の統合:業務フローや社内システムの統合を進めます。
3. 企業文化の融合:従業員の意識統合や組織文化の融合を促進します。
4. シナジー効果の創出:両社の強みを活かし、相乗効果を生み出す施策を検討します。
PMIを適切に実施することで、従業員の摩擦を最小限に抑え、スムーズな統合を実現できます。また、統合後のシナジー効果を事前に検討し、具体的な施策を計画することが重要です。
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、潜在的なリスクを洗い出すために不可欠なプロセスです。以下の点に注意して実施しましょう:
1. 財務状況の精査:簿外債務や粉飾決算などのリスクを確認します。
2. 法務関係の確認:契約関係や法令遵守状況を調査します。
3. 人事面の調査:従業員の状況や労務問題の有無を確認します。
4. 事業の実態把握:市場動向や競合状況、事業の将来性を分析します。
マイクロM&Aでは取引金額が小さいため、デューデリジェンスを省略しがちですが、可能な限り詳細な調査を行うことでリスクを最小限に抑えられます。
マイクロM&Aでは、スピーディーな対応が成功の鍵となります。以下の理由から、迅速な行動が求められます:
1. 競合の多さ:小規模な案件ほど競合が多くなりやすいため、素早い意思決定が必要です。
2. 機会損失の回避:良い案件を逃さないためにも、迅速な判断と行動が重要です。
3. モチベーションの維持:長期化すると、両者のモチベーションが低下する恐れがあります。
ただし、スピードを重視するあまり、重要な調査や検討を疎かにしないよう注意が必要です。特に契約書の内容は、専門家のチェックを受けてから慎重に締結するようにしましょう。
マイクロM&Aを成功させるためには、適切なプロセスを踏むことが重要です。ここでは、マイクロM&Aの一般的な流れについて解説します。
まず、M&A仲介会社やマッチングサイトに相談することから始めます。この段階で以下の点を明確にしていきます:
1. 売却範囲の決定:事業の一部か全部かを決めます。
2. 売却価格の設定:希望する売却価格を決定します。
3. 売却方法の選択:株式譲渡や事業譲渡など、最適な方法を選びます。
4. 条件の優先順位付け:重要度に応じて条件に優先順位をつけます。
相談の際には、直近3年分の税務申告書・決算書や勘定科目内訳明細書の写しなどの資料を準備しておくと、より具体的な相談ができます。
次に、マイクロM&Aに適した企業を選定し、交渉を進めます。以下の手順で行います:
1. ロングリストの作成:M&A仲介会社やマッチングサイトから候補企業のリストを受け取ります。
2. 秘密保持契約の締結:情報開示に先立ち、秘密保持契約を結びます。
3. ショートリストの作成:候補企業を絞り込み、具体的な交渉先を決定します。
4. 初期的な条件交渉:基本的な条件について相互理解を深めます。
この段階では、複数の候補と並行して交渉を進めることも考えられます。
交渉が進展したら、以下のステップで契約締結まで進めます:
1. 経営陣同士の面談:お互いの経営方針や将来ビジョンについて確認します。
2. 詳細な条件交渉:価格や譲渡範囲、従業員の処遇などについて詳細を詰めます。
3. 基本合意書の締結:主要な条件について合意し、基本合意書を交わします。
4. デューデリジェンスの実施:財務・法務・事業等の詳細調査を行います。
5. 最終条件の決定:デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件を決定します。
6. 最終契約書の締結:すべての条件について合意し、正式な契約を結びます。
M&Aが完了した後は、PMI(Post Merger Integration)を実施します。以下の点に注意して進めます:
1. 統合計画の策定:具体的な統合スケジュールと目標を設定します。
2. コミュニケーションの強化:従業員や顧客、取引先への適切な情報共有を行います。
3. 業務プロセスの統合:効率的な業務フローの構築を進めます。
4. 企業文化の融合:両社の良い点を活かした新たな企業文化を醸成します。
5. シナジー効果の追求:統合によるメリットを最大限に引き出す施策を実行します。
マイクロM&Aの理解を深めるために、具体的な成功事例を見ていきましょう。ここでは2つの事例を紹介します。
売り手:既存のカフェ
買い手:株式会社グローバルトレーディング(サバイバルゲームグッズやミリタリーグッズの輸入販売業)
この事例では、既存のカフェをM&Aで取得し、ミリタリーカフェとして再スタートさせました。結果として、1日の売上が以前の2倍以上に増加しました。
成功のポイント:
• 既存の店舗設備を活用しつつ、新たな特色を加えた
• 買い手の専門性(ミリタリーグッズ)を活かした業態転換を行った
• 既存の顧客基盤に新たな顧客層を加えることで売上を大幅に伸ばした
売り手:Orso Verde(オルソ・ヴェルデ)のオーナー
買い手:個人事業主
この事例では、オーナーが新たな事業を始めるために店舗の売却先を探し、条件に合う譲渡先を見つけることに成功しました。
成功のポイント:
• 売り手と買い手の条件が適切にマッチした
• 前オーナーが譲渡後もコンサルタントとしてサポートを続けた
• 既存の顧客基盤や店舗の雰囲気を維持しつつ、新オーナーの色を出した
これらの事例から、マイクロM&Aでは以下の点が重要であることがわかります:
1. 既存の強みを活かしつつ、新たな付加価値を創出すること
2. 売り手と買い手の相互理解と協力関係の構築
3. 顧客基盤や従業員の維持と、新たな展開のバランス
マイクロM&Aは、適切に実施することで双方にとって大きなメリットをもたらす可能性があります。
マイクロM&Aは、小規模事業や個人事業主を対象とした1,000万円以下のM&Aです。事業承継問題の解決策として注目を集めており、売り手・買い手双方にメリットがあります。成功のためには、適切なプロセスの遵守、リスク管理、迅速な対応が重要です。慎重に進めることで、小規模事業の存続と発展に貢献する有効な手段となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事