M&Aのメリット・デメリット|経験者の声を売り手・買い手別に紹介 

本記事では、M&Aを体験された方のコメントを紹介しつつ、M&Aのメリット・デメリットを解説します 

目次

  1. M&A目的
  2. M&A経験者の声
  3. M&A売り手のメリット・デメリット
  4. M&A買い手のメリット・デメリット
  5. まとめ

売り手側の目的

以前の日本では、M&Aに対して、ネガティブな印象を抱かれるのが一般的でした。しかし、近年では、企業の「存続」、「成長」、さらには「企業価値の向上」を目指す手段として、M&Aに対する認識が変わりつつあります。主な目的としては以下が挙げられます。 


自己成長、事業の組み替え 

企業は急速に変化する外部環境に適応しなければならず、例えば新型コロナウイルスによる経済の混乱や為替による物価高、国内の少子高齢化や人口減少など、企業経営の困難さが増していく状況に直面しています。 

これに対処するためには、時代に即した戦略の立案と経営資源(人材、物、資金)を投入し続けることが求められますが、特に中小企業や単独企業にとっては負担が大きいでしょう。そこで、自社の成長を促す手段として特定の企業による支援を受けるケースが増えています。 

M&Aにより、企業全体だけでなく、一部の事業だけを譲渡することで、本業の強化が可能になります。このような方法は、上場企業でも取り入れられており、「選択と集中」が重要視されています。 


事業承継問題の解決 

後継者不在の企業が増える背景として、親族に適切な人材がいない、業界の将来性を考慮すると継承が困難である、自社株の承継が現実的に難しいといった理由があります。こうした課題を解決するために、M&Aが選択肢として検討されることが増えています。 


起業家による出口戦略 

シリアルアントレプレナーによる会社譲渡や事業売却による資金調達が盛んになり、若手経営者や長年の経営者が新たな夢や目標に向けて早期退職するケースも増えています。これにより、M&Aが一般的で広く受け入れられるようになってきたと言えるでしょう。 

このように、売り手側にもさまざまな目的がありますが、各企業によって異なるため、M&Aの意義や効果を正確に理解し、最適な取引を行うことが求められます。 

買い手側の目的 

これまで、自社のビジネス拡大(既存事業の成長や新しい事業への進出)を目指して、企業は時間と労力をかけて取り組んできました。M&Aは一般的に大規模な企業が行う経営戦略であり、中小企業にとっては難しいとされていましたが、最近では短期間で自社事業を拡大するための効果的な手段として認識されるようになり、大企業だけでなく中小企業でもM&Aの検討が活発化しています。主な要因として、以下の点が挙げられます。 


既存事業の規模的・地理的な拡大 

事業活動における仕入、生産、販売など、さまざまな規模の拡大を通じて獲得できるバイイングパワーや生産性向上、販路拡大などの効果を追求することや、競合他社に対する優位性を得ることを目的としています。


人的リソースの獲得 

少子高齢化が進む日本では、人材確保が難しい状況にあります。特に若年層や技術者の確保は業界によって重要な課題であり、自社が必要とする人材を確保することで技術力向上やノウハウ獲得、そして組織の強化を図ります。 


新規事業への進出 

企業が新規事業を展開するためには、リソースや取り組み方が重要です。すでに完成されている事業や企業への投資を通じて、技術やノウハウの獲得や市場開拓が可能となります。 

M&A経験者の声 

前述で売り手と買い手の目的について紹介しましたが、以下では弊社が支援したM&Aにおいて、実際にクライアントからヒアリングした当事者の声を紹介します。 

M&A前

売り手の声 :

・社長の後継者がいないために譲渡を検討しており、専門的な事業内容ゆえに自社の強みを生かせる且つ主要取引先

 との関係性も良好な買い手企業を求めていた。また、希望金額は一般的な相場よりも1.4倍程度高いことを望んで

 おり、業績が良かったことがその背景にあった。 

・買い手との面談で経営方針や買収後の事業計画が説明され、自社の成長も期待できる内容だった。 

・中小企業と大企業の意思決定における決裁の違いから、時間軸が異なることに対しては、若干の不満があった。 

・簿外債務が見つかったが、買い手側も折衷案で合意し、前向きに取り組むことができた。 


買い手の声 :

・技術者の確保や自社の取引網を活かせる規模の買収先を探していた。M&Aは経営戦略の中で重要な位置づけであり、

 積極的に取り組んでいた。 

・対象会社は特殊な取引先を持っており、自社のリソースを補完することで更なる事業拡大が見込める印象だった。

 また、優秀な技術者が複数いることから、待遇面でも活躍の場を広げられると確信していた。 

・売り手側の希望金額は、のれんが加算されていたものの、足元の業績や買収後のシナジーを考慮すると想定の範囲内

 だった。 

・デューデリジェンスの際に簿外債務が発覚したものの、売り手側も真摯に受け止めてくれたため、役員会レベルでも

 説明がつき進められた。 

M&A後

売り手の声: 

・譲渡後には迅速に買い手側が挨拶や説明の機会を設けてくれたおかげで、従業員や取引先の混乱も少なく、円滑な

 移行が実現できた。 

・新たな親会社からの取引先支援を受けることで、業績も更に向上し続けている。 

・現在は引き続き社長として在任していますが、買い手から役員が派遣されたり、相談役としてサポートしてくれて

 おり、これまでにない程の心強さがある。 

・親会社ができたことにより、会計基準や管理体制を合わせる必要が生じたため、若干の手間がかかった。 


買い手の声: 

・入念なデューデリジェンスを実施したことで、問題もなく順調に進んでいる。 

・事前に想定していたシナジー効果が実現し、経済的な利益としても顕在化している。 

・従業員の離職もなく、スムーズな引き継ぎが行われている。

M&A売り手のメリット・デメリット 

メリット 

事業の存続、安定、成長 

優良な企業の傘下に加わることで、経営基盤が強化され、次世代やその先の後継者問題も解決することができます。

これにより、自社の存続と永続的な成長が期待できます。 


創業家利益の獲得、個人保証からの解放 

株式譲渡によって得られる譲渡対価や、経営者が個人的に負担している債務保証の解消が買い手企業の協力のもと行わ

れることが一般的です。これにより、債務保証からの解放が期待でき、経営者にとっては大きな負担が軽減されます。 


従業員の雇用の安定、取引先関係の維持 

経営不振や社長後継者不在によって廃業を余儀なくされる場合、従業員の雇用を守ることは困難です。

しかし、中小企業のM&Aでは、役員や従業員が引き続き雇用されることが多く、有力企業グループの一員として活躍の

場が広がることがあります。このことは、従業員の育成やモチベーション向上、周囲の安心感にも繋がります。

また、顧客や取引先との関係も継続されることが前提となりますので、新たなサービスの提供や取引量の増加、そして

企業の信用力向上につながることが期待できます。 

デメリット

良いお相手と出会えるか分からない 

M&Aでは、売り手側が想定する買い手企業を見つけることが容易ではありません。金融機関や専門会社に依頼しても、買い手企業が見つからない場合があります。特に経営不振や業界の衰退、従業員の高齢化が進む企業では、買い手企業にとって検討や評価が困難です。また、希望価格での交渉ができない可能性もあります。 


経営方針などの変化を伴う 

株式譲渡の場合、会社の議決権の大部分が買い手企業に移行します。そのため、役員構成など、譲渡前と同じ状況とは言い難いです。結果として、経営方針、予算配分、人事などについて、残留する経営者は買い手企業の方針に従わなければなりません。経営方針を含む一切が、譲渡前と殆ど変わらないケースもありますが、ケースバイケースになります。 


従業員や取引先が動揺する可能性がある 

事業内容や契約内容に大幅な変更が生じると、従業員や取引先とのトラブルが起きることが懸念されます。最悪の場合、従業員の離職や取引契約の終了などに発展する可能性があります。 

そのため、譲渡後は買い手企業と協力し、適切なタイミングで説明を行うことが重要です。時間経過に伴い、従業員や取引先も不安が杞憂であったことに気付くことが大半です。 

M&A買い手のメリット・デメリット 

メリット

ヒト・モノ・ブランド・ノウハウ等の取得 

事業の成長に必要不可欠な人材(優秀な技術者や専門家)、物品(設備、不動産)、そしてブランドやノウハウなど、自社が持っていない貴重な経営資源を獲得することで、事業の補強や拡大が期待できます。 


時間を買える 

既存事業の規模を拡大するためには、多くの時間と努力が必要です。しかし、M&Aを通じて短期間で完成されたビジネスモデルを取得することができ、既存事業とのシナジー効果も期待できます。 


事業の多様化 

自社がこれまで取り組んでいなかった事業分野への進出や、本業のリスクヘッジが容易になります。その結果、グループ全体の基盤をより強固にすることが期待できます。また、事業に必要な許認可や顧客、取引先も引き継ぐことができるため、ゼロから事業を立ち上げるよりも、はるかに時間の短縮とリスクの排除が可能です。 

デメリット 

過大投資リスク 

投資額以上の利益を得ることが難しく、回収に時間がかかることがある 。買収価額が適切でなかった場合、譲受後の利益が期待した程度に達しないことがあります。例えば、譲渡対象企業の価値算定が時価純資産価額にのれんを加算した価額で買収した際、事業統合後にのれん償却以上の利益が見込めなければ、期待した利益を上回る回収が困難になります。このため、深度ある事業デューデリジェンスや適切なM&A後の統合プロセスが求められます。 


予定されたシナジーが生じないリスク 

買収前には、双方の企業が協力し合うことで期待できるシナジー効果を検討することが一般的です。しかし、実際に買収を行った後で、業務統合に予想以上の時間がかかる、生産性が思ったほど向上せずコスト低減が困難であること、新規顧客の獲得が上手くいかないなど、シナジー効果が十分に発揮できないケースも存在します。さらに、事業規模の拡大に伴って固定費が増加し、キャッシュフローが悪化する可能性も考慮すべきです。このため、買収後の運営方針も含めた検討が重要です。 


想定外の簿外債務・責任追及リスク 

特に、株式譲渡スキームの場合、対象企業のすべてを引き継ぐことになります。そのため、貸借対照表に記載されていない簿外債務を引き継いでしまうリスクがあります。さらに、顧客とのトラブルや労働組合との係争など、将来的に自社に不利益をもたらす偶発債務の存在も考慮に入れるべきです。十分な調査と注意が必要となります。 

まとめ 

M&Aの最大のメリットは、事業成長や資金回収が短期間で可能になる点です。買い手にとっては、成熟した企業や事業を取得することで、一から立ち上げるよりも迅速に成長することができます。これは、少子高齢化が進む日本の中小企業における後継者問題や業界の将来性への不安を解決する手段としても有効です。 

本書で述べた点を参考に、適切な専門家のサポートを受けながら、慎重に検討することがお勧めです。 

著者|竹川 満  マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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