非上場株式取得の目的から評価方法、取得手続、税務上の注意点まで徹底解説。M&Aや事業承継に関わる方必見の完全ガイド。専門家の視点で非上場株式取得のすべてをカバーします。
目次
非上場株式とは、証券取引所に上場されていない企業が発行する株式のことを指します。日本の企業数を見ると、約178万社の法人企業が存在していますが、そのうち上場企業はわずか3,900社程度で、全体の約0.1%に過ぎません。つまり、日本企業のほとんどが非上場企業であり、その株式が非上場株式となります。
非上場株式の主な特徴は以下の通りです。
1. 譲渡制限:多くの非上場株式には、会社法に基づく譲渡制限が設けられています。これは、株式の譲渡時に発行会
社の承認が必要となる仕組みで、「譲渡制限株式」と呼ばれます。
2. 経営権の保護:譲渡制限は、会社が意図しない株主が経営に関与することを防ぐ役割を果たします。特に中小企業
では、この仕組みが一般的に採用されています。
3. 流動性の低さ:上場株式と比較すると、非上場株式は売買市場が確立されていないため、流動性(株式の譲渡のし
やすさ)が低くなります。
4. 評価の複雑さ:市場価格が存在しないため、非上場株式の評価には特殊な方法が必要となります。
5. 潜在的な成長性:将来的に上場する可能性を秘めた企業の株式である場合、高い成長性を期待できることがあります。
このように、非上場株式は上場株式とは異なる特徴を持っており、取得や評価に際しては専門的な知識や慎重な判断が求められます。
▶目次ページ:企業買収(買収とは)
企業が非上場株式を取得する目的は様々ですが、主に以下の3つが挙げられます。
非上場企業の中には、将来的に株式上場を目指している企業も存在します。そのような企業の株式を早い段階で取得することで、以下のメリットが期待できます。
1. 株価上昇による利益:上場時に株価が上昇すれば、大きな利益を得る可能性があります。
2. 戦略的パートナーシップ:将来有望な企業と早期に関係を構築できます。
3. 新技術や市場へのアクセス:革新的な技術や新しい市場に関する情報を得られる可能性があります。
非上場株式の取得は、自社の事業拡大を図る上で効果的な戦略となることがあります。
1. 技術やサービスの獲得:優れた技術やサービスを持つ非上場企業の株式を取得することで、それらのリソースを自
社に取り込むことができます。
2. シナジー効果の創出:自社の事業と補完関係にある企業の株式を取得することで、相乗効果を生み出せる可能性が
あります。
3. 市場シェアの拡大:同業他社や関連企業の株式を取得することで、市場での影響力を高めることができます。
中小企業の事業承継問題の解決や、成長が期待される企業への支援を目的とした株式取得も増えています。
1. 後継者問題の解決:後継者不在の企業の株式を取得することで、事業の継続を支援できます。
2. 経営資源の提供:資金や人材などの経営資源が不足している企業に対して、株式取得を通じて支援を行うことがで
きます。
3. 成長支援:優れた技術や製品を持ちながら経営面で課題を抱える企業の株式を取得し、経営に参画することで成長
を促進できます。
これらの目的を持って非上場株式を取得する際は、自社の経営戦略との整合性や、取得後のシナジー効果などを慎重に検討することが重要です。
非上場株式を取得するには、上場株式とは異なるアプローチが必要となります。以下に、主な取得方法を解説します。
M&A(合併・買収)は、非上場株式を取得する重要な手段の一つです。
1. 特徴:企業全体または一部の事業を買収することで、株式を取得します。
2. メリット:経営権の取得や事業の完全統合が可能です。
3. 注意点:デューデリジェンス(企業調査)や複雑な交渉プロセスが必要となります。
株式発行会社や既存株主と直接交渉して株式を取得する方法です。
1. 特徴:当事者間の関係性や交渉力が重要となります。
2. メリット:取引コストを抑えられる可能性があります。
3. 注意点:株式の評価や取引条件の設定に専門知識が必要です。
主にベンチャー企業で利用される、従業員や役員に対する報酬制度の一つです。
1. 特徴:将来的に株式を取得する権利(オプション)を付与します。
2. メリット:現金支出を抑えつつ、優秀な人材の確保や動機付けが可能です。
3. 注意点:権利行使条件や税務上の取り扱いに注意が必要です。
個人株主から相続や贈与によって株式を取得する方法です。
1. 特徴:主に親族間や関係の深い第三者間で行われます。
2. メリット:株式の世代間承継や経営権の移転が可能です。
3. 注意点:相続税や贈与税の課税リスクがあるため、適切な評価と税務計画が重要です。
インターネットを通じて多数の投資家から資金を募る方法です。
1. 特徴:比較的少額から投資が可能で、一般投資家にも開かれています。
2. メリット:ベンチャー企業にとっては資金調達の手段となり、投資家にとっては新しい投資機会となります。
3. 注意点:投資リスクの理解や、適切な情報開示が求められます。
これらの方法を活用する際は、それぞれの特徴とリスクを十分に理解し、自社の状況や目的に最適な方法を選択することが重要です。
非上場株式の評価は、様々な場面で必要となります。主な状況について詳しく見ていきましょう。
非上場株式を売買する際、適切な価格設定のために評価が必要となります。
1. 目的:公正な取引価格の決定
2. 重要性:
o 売主と買主の利害調整
o 税務上の適正価格の証明
3. 注意点:
o 親族間取引の場合、相場から大きく乖離した価格での取引は贈与とみなされる可能性があります
o 例えば、時価評価額5,000万円の株式を1,000万円で売買した場合、差額の4,000万円が贈与税の課税対象となり、
約1,800万円の納税義務が生じる可能性があります
非上場株式を保有する株主が逝去した場合、相続税の計算や遺産分割のために評価が必要です。
1. 目的:
o 相続税額の算定
o 公平な遺産分割
2. 重要性:
o 適切な相続税の納付
o 相続人間の争いの防止
3. 注意点:
o 株式の評価額によっては、現金がなくても多額の相続税が課される可能性があります
o 評価方法の選択や計算の複雑さから、専門家の助言が不可欠です
非上場株式を贈与する場合、贈与税の計算のために評価が必要となります。
1. 目的:贈与税額の算定
2. 重要性:
o 適切な贈与税の納付
o 税務リスクの回避
3. 注意点:
o 基礎控除額(年間110万円)を超える贈与は課税対象となります
o 株式の評価額が不適切な場合、追徴課税のリスクがあります
これらの状況において、非上場株式の評価は極めて重要です適切な評価を行うことで、不要な税負担や争いを避け、円滑な取引や承継を実現することができます。
非上場株式の評価は、上場株式とは異なり市場価格が存在しないため、特定の方法に基づいて行われます。主な評価方法について解説します。
原則的評価方法は、主に同族株主が保有する株式の評価に用いられます。企業規模によって適用される方法が異なります。
1. 類似業種比準方式(主に大会社向け):
o 概要:類似の上場企業の株価を基準に評価します。
o 計算要素:配当金額、利益金額、純資産価額(簿価)
o 特徴:上場企業との比較で客観性が高いとされます。
2. 純資産価額方式(主に小会社向け):
o 概要:会社の純資産額を基に評価します。
o 計算要素:総資産、負債、評価差額に対する法人税等相当額
o 特徴:会社の資産状況を直接反映しますが、将来の収益性は考慮されません。
3. 併用方式(中会社向け):
o 概要:上記2方式を組み合わせて評価します。
o 特徴:企業の実態をより適切に反映できる可能性があります。
配当還元方式は、主に少数株主が保有する非上場株式の評価に用いられます。
• 概要:年間配当金額を一定の利率で割り戻して株式価値を算出します。
• 計算式:1株当たりの年間配当金額 ÷ 10%
• 特徴:
1.配当実績がない場合や低配当の場合、評価額が低くなる傾向があります。
2.少数株主にとっては有利な評価方法となることが多いです。
これらの評価方法は、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいています。評価方法の選択は、株主の状況や企業規模によって決定され、納税者や評価者が任意に選択できるものではありません。
非上場株式を取得する際の取得価額は、単純に購入代金だけではなく、取得に付随する様々な費用も含めて算定されます。ここでは、取得価額の構成要素と、特に注意が必要な取得付随費用について詳しく解説します。
取得付随費用とは、株式取得に直接関連して発生する費用のことを指します。これらの費用の取り扱いは、会計上および税務上で重要な意味を持ちます。
1. 取得付随費用に含まれる主な項目:
o デューデリジェンス(企業調査)費用
o 株式価値算定のための専門家報酬
o M&A仲介会社への手数料
o 弁護士・会計士等への報酬
o 取得に関連する交通費・通信費
2. 取得付随費用の会計処理:
o 原則として、取得価額に含めて資産計上します。
o 貸借対照表上は「有価証券」等として計上されます。
3. 取得付随費用に含めない費用:
o 株式取得の意思決定前に発生した費用
o 通信費や名義書換料(少額の場合)
4. M&A関連費用の取り扱い:
o 株式取得の意思決定前後で費用の取り扱いが異なる場合があります。
o 一般的には、基本合意や意向表明後の費用を取得付随費用とする実務が多いです。
5. 注意点:
o 取得付随費用の範囲については、明確な基準がない部分もあり、判断が難しい場合があります。
o 特にM&A仲介手数料やデューデリジェンス費用など高額な費用の取り扱いには慎重な判断が必要です。
6. 税務上の取り扱い:
o 取得付随費用として資産計上された金額は、将来の株式売却時の譲渡原価に含まれます。
o 費用処理された金額は、その事業年度の損金として扱われます。
非上場株式の取得価額の正確な算定は、会計処理や税務申告に大きな影響を与えます。特に高額なM&A取引では、取得付随費用の取り扱いが財務諸表や税金に与える影響が大きくなるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
また、期末時点での非上場株式の評価についても注意が必要です。保有目的によって評価方法が異なり、「子会社及び関連会社株式」や「その他有価証券」に分類される非上場株式は、取得価額に対して時価が50%以上下落した場合に減損処理が必要となります。
非上場株式の取得は、事業拡大や投資戦略において重要な選択肢となります。しかし、その取得や評価には複雑な手続や専門的な知識が必要です。適切な取得方法の選択、正確な評価、そして慎重な取得価額の算定が、成功的な非上場株式取得の鍵となります。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事