非上場株式取得の目的別活用法と評価税務の徹底ガイド
非上場株式を取得するとき、評価や税務で困っていませんか?本記事では取得の目的から評価方法、税務まで分かりやすく解説します。この記事を読めば、譲受企業としての戦略立案や事業承継の準備に必要なポイントが短時間で理解できます。
目次
▶目次ページ:企業買収(買収とは)
非上場株式とは、証券取引所で売買されていない株式会社が発行する株式をいいます。日本には約178万社の法人企業がありますが、上場企業はわずか約3,900社、全体の0.1%程度です。つまり、ほとんどの企業は非上場であり、その株式は日々の市場価格が付いていません。価格が公表されない分、取得や評価には特別な配慮が必要です。譲受企業や事業承継を考える経営者にとっては、会社の将来価値を自分で見極める力が求められます。
譲渡制限
取締役会の承認を要する譲渡制限株式が多く、株主変更には手間が掛かります。
経営権の保護
想定外の第三者が議決権を握るリスクを防ぎ、主要株主が方針を維持しやすくなります。
流動性の低さ
公開市場がなく、買い手探しや売却時期の決定が容易でありません。
評価の複雑さ
市場価格がないため、通達に沿った専門的な評価が不可欠です。
潜在的な成長性
将来上場や事業拡大が叶えば、大幅なリターンを得られる可能性もあります。
これらの特徴はメリットにもデメリットにもなります。そこで重要なのが、自社の戦略と株式取得の目的を明確にしておくことです。
非上場株式を取得する動機は大きく三つあります。目的が違えば、評価や税務で重視すべきポイントも変わります。
成長企業の株式を早期に取得すれば、IPO時の株価上昇で大きなキャピタルゲインを期待できます。パートナーとして参画すれば、新技術や新市場の情報を先取りできる利点もあります。
補完関係にある企業に出資すると、技術や顧客基盤の取り込みによるシナジーが生まれます。同業他社株式の取得で市場シェアを高める例もあります。
後継者不在の企業株式を取得し、経営に参画して事業を継続させるケースが増加中です。地域経済や雇用を守る点でも意義深い取り組みです。
公開市場がないため、取得ルートは限定的です。代表的な五つの方法と留意点をまとめます。
M&Aは非上場株式取得の王道です。株式譲渡や会社分割で経営権と事業資産を一括取得できますが、デューデリジェンスや価格交渉が必須です。
発行会社や既存株主と直接交渉して株式を譲ってもらう方法です。取引コストは低いものの、公正価格の算定や契約条件の調整を自ら行う必要があります。
ベンチャー企業で多い手法です。現金報酬を抑えつつ、優秀な人材のモチベーションを高められますが、権利行使時の税務処理が複雑です。
親族やオーナー経営者から相続・贈与で株式を取得する際は、相続税や贈与税が大きなコストとなる可能性があります。
株式投資型クラウドファンディングなら少額から非上場企業に投資できます。ただし情報開示が限定的でリスクも高い点を認識しておく必要があります。
M&Aを選択するメリットとデメリット
メリット
デメリット
直接交渉を成功させる三つのコツ
ストックオプション活用時の注意点
相続・贈与で株式を移転するときの落とし穴
クラウドファンディングのリスクとリターンを見極める
株式価値を正しく測らなければ、想定外の税負担やトラブルにつながります。
親族間などで安値取引をすると差額が贈与と見なされる可能性があり、贈与税負担が発生します。
評価額が高ければ現金不足でも多額の納税義務が生じるため、納税資金の準備が重要です。
年間110万円を超える贈与には贈与税が課されます。評価額の算定ミスは追徴課税につながるため注意が必要です。
非上場株式の価格は市場で決まらないため、国税庁通達に基づく計算が求められます。
類似業種比準方式
配当・利益・純資産を使い、大会社で多用。
純資産価額方式
貸借対照表を時価修正し、小会社で適用。
配当還元方式
年間配当を10%で割り戻す簡便法で、少数株主に有利。
専門家が財務DDと税効果を同時に検討し、最適な取得スキームを描きます。
表明保証や競業避止義務の欠落は損害賠償リスクを高めます。
取得価額への付随費用計上や減損テストなど、会計基準に沿った処理が欠かせません。
非上場株式を購入するときの取得価額は、支払った株式代金だけでは完結しません。デューデリジェンス費用、専門家報酬、M&A仲介手数料など、取得に直接結び付く支出はすべて「取得付随費用」として資産計上するのが原則です。たとえば、株式代金5,000万円に対して仲介手数料300万円、弁護士費用100万円、財務DD費用200万円が発生した場合、取得価額は合計5,600万円となります。
1.譲渡原価の把握
将来株式を売却するとき、付随費用を含めた全額が譲渡原価として控除可能になります。
2.損益の一時的なぶれを防止
取得年度に一括費用処理すると当期損益が大きく変動し、決算書の比較可能性が損なわれます。
3.税務リスクの回避
税務署は取得付随費用の取扱いに厳格です。誤って経費処理すると申告是正を求められる恐れがあります。
取得付随費用に含めない支出を見極める
非上場株式は時価を把握しにくいため、取得後の評価にも細心の注意が必要です。決算日における保有目的区分で処理が変わります。
持分法適用会社や子会社株式は、事業継続を前提に保有するため、取得価額で計上し続けます。ただし、時価が取得価額の50%未満に下落した場合は減損処理が求められます。
市場取引がない株式は時価を概算するしかありませんが、直近の第三者取引や財務指標をもとに減損の兆候有無を判定します。
減損の判断プロセスを社内規程に落とし込む
株式取得後の税務はキャピタルゲイン課税とインカムゲイン課税の二本立てです。さらに相続・贈与時には別の税金が発生しますので、一つずつ整理しましょう。
個人が売却
所得税・住民税合わせて20.315%
法人が売却
法人税率に応じ29〜42%の実効税率
非上場株式は配当控除が使えず、住民税は徴収されないため税負担率が上場株と微妙に異なります。
類似業種比準方式と純資産価額方式の差が大きいと、数千万円単位で相続税額が動くケースがあります。早めに株価を試算し、納税資金プランを作成しましょう。
贈与税より相続税が有利になる場合もある
贈与は分割しやすい半面、税率が累進構造で高めです。生前贈与を活用するときは、毎年110万円の基礎控除内で計画的に行うことが肝要です。
適正価格を無視した安値譲渡は、税務署から贈与認定されるリスクがありますし、高値掴みは投資回収を困難にします。
売買市場がないため、売却先を事前にリスト化し、譲渡制限の承認プロセスも確認しておく必要があります。
財務・税務・法務の隠れ負債を見逃すと、取得後に巨額の修繕費や訴訟費用が発生する恐れがあります。
リスクチェックリスト
直近3期分の決算書、株主名簿、固定資産明細、取引先シェア表などが基本です。
譲渡制限株式の場合でも、名義書換が完了すれば配当請求権は発生します。ただし配当実施は株主総会決議が前提です。
従業員のエンゲージメント向上と株式外部流出の抑止が図れますが、議決権分散への対策として議決権制限株式を発行する方法も考えられます。
非上場株式取得は、評価・税務・契約・会計が密接に絡み合う複合テーマです。取得目的を明確にし、適正価格と取得付随費用を的確に把握しながら税務対策を講じれば、事業拡大や承継の強力な手段となります。専門家と連携し、デューデリジェンスとリスク管理を徹底することが成功への近道です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事