みなし配当とは?発生場面と税金・M&A実務上の注意点

みなし配当は、自社株買い、減資、会社解散、合併・会社分割などで、受取額の一部が税務上の配当と扱われる仕組みです。個人株主と法人株主の課税差、基本的な計算、源泉徴収、相続株式の特例、M&Aや事業承継で手取りを守るための確認事項を解説します。

目次

  1. みなし配当は取引の形ではなく資金の中身で決まる
  2. 自社株買いでは受取額が配当部分と譲渡部分に分かれる
  3. 減資・解散・組織再編でもみなし配当を確認する
  4. 受取人の属性によって申告方法と手取りが変わる
  5. 取引順序を決める前に税引後の金額を比較する
  6. まとめ

みなし配当の発生ケース別課税リスク対策と税務処理の解説

みなし配当は取引の形ではなく資金の中身で決まる

株式を売ったのだから、受け取った金額はすべて株式の譲渡代金になる。そう思いやすいところですが、相手が発行会社自身である場合や、減資・解散・組織再編に伴う支払では、受取額の一部が税務上の配当へ振り替わることがあります。これが、みなし配当です。

みなし配当とは、会社法上の通常の配当ではないものの、税務上は配当と同じ経済的な利益があるとして、配当所得または受取配当として扱われる金額をいいます。

契約書に「株式譲渡代金」「資本の払い戻し」と書かれていても、それだけでは税務上の取扱いは決まりません。会社から株主へ渡る金銭等のうち、発行会社の税務上の資本金等の額に対応する部分と、それを超える部分とに分けて判断します。

株主へ交付される金銭等を2つに分けて考える

会社から株主へ交付される金銭等は、一般に次の2つに分けて考えます。

1つは、発行会社の税務上の資本金等の額に対応する部分です。もう1つは、それを超える部分で、原則としてこの超過部分がみなし配当となります。

経済的には、会社に蓄積された利益が株主へ戻る部分を配当として扱う仕組みと理解すると分かりやすいでしょう。ただし、実際の判定額が決算書の利益剰余金とそのまま一致するわけではありません。

基本的な計算イメージ

みなし配当額の基本イメージは、次のとおりです。


  みなし配当額 = 株主が受け取った金銭等の価額 - その株式に対応する資本金等の額


ここでいう資本金等の額は、法人税法に基づいて計算する税務上の金額です。決算書に表示された資本金と資本剰余金を、単純に合計した金額とは限りません。

増資、減資、自己株式の取得や消却、過去の合併・会社分割などがあると、会計上の残高と税務上の資本金等の額がずれることがあります。

実際の計算方法は取引ごとに異なる

上の式は、仕組みを理解するための基本形です。自己株式の取得、資本の払い戻し、残余財産の分配、合併、会社分割では、それぞれ資本金等の額の割り振り方が異なります。

そのため、直近の決算書だけでなく、法人税申告書、株式数、過去の資本異動まで確認することが重要です。決算書だけから概算すると、税額を大きく見誤ることがあります。

自社株買いでは受取額が配当部分と譲渡部分に分かれる

中小企業で特に注意したいのが、会社が株主から自社株を買い取る自己株式の取得です。少数株主の整理、相続人からの株式買取り、事業承継前の株主構成の見直しなどで利用されます。

見た目は株式の売買です。しかし、通常の第三者への株式譲渡とは課税の仕組みが異なります。

発行会社への売却は全額が譲渡所得にならない

個人株主が非上場株式を発行会社へ譲渡した場合、受取対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、原則として配当所得とみなされます。

みなし配当に当たらない部分は、株式譲渡所得の収入金額として扱われます。そこから株主がその株式を取得したときの取得費などを差し引き、譲渡損益を計算する流れです。

会社と株主の間では「株式の売買」と理解していても、税務申告では配当部分と譲渡部分の2つに分かれます。意外と多い落とし穴です。

簡単な数字で計算の流れを確認する

例えば、会社が株主から自社株を1,000万円で買い取り、その株式に対応する税務上の資本金等の額が200万円だったとします。

この場合、基本的な考え方は次のとおりです。


  みなし配当額 800万円

  譲渡所得の収入金額となる部分 200万円


株式の取得費が150万円であれば、譲渡所得の計算上の利益は50万円です。800万円の配当所得と、50万円の株式譲渡益を分けて申告することになります。

実際には、資本金等の額の按分計算や源泉徴収が必要になるため、契約前の試算が欠かせません。

会社側には源泉徴収の事務が生じる

みなし配当を支払う会社には、株主の属性や取引内容に応じて源泉徴収が必要となります。徴収した源泉所得税は、原則として支払月の翌月10日までに納付します。

支払調書などの法定調書についても、提出対象や記載内容を確認しなければなりません。

契約書に記載された買取価格をそのまま株主へ振り込んだ後で、源泉徴収漏れに気付くケースもあります。会社が源泉所得税を立て替えると、株主との追加精算が必要になり、手続が複雑になりやすいところです。

減資・解散・組織再編でもみなし配当を確認する

みなし配当は、自社株買いだけの問題ではありません。株主が会社から金銭や資産を受け取る取引では、税務上の資本部分と、その部分を超える金額を分ける必要があります。

資本の払い戻しや有償減資

資本剰余金を原資とする分配や有償減資では、会社法上は資本を株主へ返しているように見えても、税務上は受取額の一部がみなし配当となる場合があります。

資本の払い戻しに対応する金額は、会社の純資産の減少割合などを用いて計算します。そのため、減少した資本金や資本剰余金だけを見て、みなし配当の有無を判断することはできません。

資金を株主へ返す前に、税務上の資本金等の額、利益積立金額、純資産の内訳を整理する必要があります。増資による資本政策との違いも確認すると、目的に合った手法を比較しやすくなります。

会社を解散・清算し、債務を支払った後の財産を株主へ分配する場合も、みなし配当が生じることがあります。

株主が受け取った残余財産のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分が、原則としてみなし配当です。残りの部分については、株式の譲渡損益に相当する計算を行います。

廃業して会社の現預金を株主へ移せば終わり、というわけではありません。会社側では、資産の売却益などに法人税が課されることもあります。

会社売却と清算を比較するときは、売却価格や残余財産の額だけでなく、会社側と株主側の税金を合わせた税引後手取りで判断することが大切です。

合併・会社分割などの組織再編

M&A(合併・買収)の手法として合併や会社分割を行う場合も、みなし配当が問題になることがあります。

税制上の非適格合併や非適格の分割型会社分割では、株主が受け取る株式や金銭等の対価と、消滅会社または分割会社の資本金等の額との関係によって、みなし配当が生じる場合があります。

株主側では、みなし配当と株式譲渡損益の両方を計算することも。対価の設計によって税負担が変わるため、組織再編の契約を固める前に確認します。

適格か非適格かを先に判定する

税制適格の要件を満たす合併や分割型会社分割では、一般に課税が繰り延べられ、株主にみなし配当が生じない取扱いとなります。

一方、非適格の組織再編では、会社側の資産に対する課税と株主側の課税が表面化しやすくなります。

ただし、金銭を交付しなければ必ず税制適格になるわけではありません。資本関係、事業の継続、従業員や経営者の引継ぎなど、取引に応じた要件を確認する必要があります。

受取人の属性によって申告方法と手取りが変わる

同じ金額のみなし配当でも、受け取る株主が個人か法人かによって税負担は大きく変わります。株主の属性と持株比率を確認することが、税額試算の出発点です。

個人株主は非上場株式なら総合課税が原則

個人が受け取る非上場株式のみなし配当は、原則として配当所得の総合課税です。給与所得や事業所得などと合算され、所得が大きいほど所得税率が上がります。

所得税、復興特別所得税、住民税を合わせると、配当控除などを考慮する前の最高税率は約55%です。非上場株式の配当は、上場株式の配当のように申告分離課税を選択することはできません。

一方、個人が買い手企業へ非上場株式を直接譲渡する場合、譲渡益には原則として20.315%の申告分離課税が適用されます。

自社株買いを取引の途中に挟むだけで、同じ会社売却でも税引後手取りが変わる可能性があります。

法人株主は受取配当等の益金不算入を検討する

法人株主が受け取るみなし配当は、受取配当等の益金不算入の対象となることがあります。

益金不算入とは、受け取った配当の全部または一部を、法人税を計算する際の利益から除く制度です。不算入となる割合は、株式の保有割合などによって異なります。

完全子法人株式等は原則として全額、関連法人株式等は一定の負債利子を控除した金額が益金不算入となります。その他の株式等は50%、非支配目的株式等は20%が基本です。

ただし、みなし配当部分だけを見て、有利か不利かを判断するのは危険です。株式の帳簿価額、譲渡損益、グループ内取引に関する税制、源泉徴収まで含めて試算する必要があります。

取引順序を決める前に税引後の金額を比較する

みなし配当は、取引を実行した後に申告方法を工夫しても避けにくい税金です。契約条件や取引順序を決める前に、複数の方法を比較しなければなりません。

第三者への株式譲渡との違いを確認する

買い手企業へ株式を直接譲渡する一般的な会社売却では、発行会社から株主へ資金が戻る取引ではないため、通常はみなし配当が生じません。

個人株主には、原則として株式譲渡所得の申告分離課税が適用されます。

一方、M&Aの前に会社が少数株主から自社株を買い取る場合、その買取部分にはみなし配当が生じる可能性があります。本体の会社売却だけを試算し、事前の株主整理を計算に入れていないと、想定していた手取りとの差が生じます。

株主整理を先に行うか、買い手企業へ直接譲渡するか。順番を変えるだけで課税関係が変わることもあるため、基本合意前に確認するのが安全です。

相続した非上場株式には特例がある

相続または遺贈で取得した非上場株式を発行会社へ譲渡する場合、一定の要件と手続を満たせば、みなし配当課税を行わず、受取対価の全額を株式譲渡所得の収入金額とする特例があります。

対象期間は、相続開始の日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。

相続税額があること、その株式が相続税の課税価格に含まれていること、所定の届出を行うことなどが主な要件となります。

期限だけでなく届出まで確認する

特例の期限内に売買契約を結ぶだけでは足りません。会社側と株主側で必要書類、株式の取得経緯、相続税申告書との一致を確認し、譲渡時までに所定の手続を整えます。

相続直後の納税資金を確保する方法として有効ですが、期限や手続の要件を満たさなければ、原則どおりみなし配当課税となります。

取引前にそろえる資料

実務では、少なくとも次の資料を使って、みなし配当額と税引後手取りを確認します。


・取引直前の株主名簿と発行済株式数

・法人税申告書に記載された資本金等の額と利益積立金額の明細

・設立から現在までの増資、減資、自己株式、合併などの履歴

・株式の取得価額が分かる契約書や相続税申告書

・自己株式取得、減資、合併、会社分割に関する契約書案

・株主が個人か法人か、法人の場合は持株比率

・源泉徴収税額、確定申告税額、納税時期を反映した資金繰り資料


書類が不足している場合は、計算を急がないことです。資本金等の額を決算書だけから推測すると、後から税額が変わるおそれがあります。

税率ではなく税引後手取りで比較する

比較すべきなのは、みなし配当額や表面上の税率だけではありません。

株式譲渡益、配当控除、受取配当等の益金不算入、会社側の法人税、源泉徴収、専門家費用まで含めた最終的な手取りを比較します。

法務上は実行できる取引でも、税引後で見ると別の順序が有利になることがあります。自社株買い、第三者への直接譲渡、組織再編、清算の各案を同じ前提で比べ、会社と株主の双方に残る金額を確認することが重要です。

まとめ

みなし配当は、自社株買い、減資、解散、組織再編などで、受取額の一部が税務上の配当として扱われる仕組みです。個人と法人では課税方法が異なり、会社売却や事業承継では取引順序によって手取りも変わります。契約前に株主属性、資本金等の額、源泉徴収、相続株式の特例を確認し、複数案を税引後の金額で比較することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人