みなし配当の発生ケース別課税リスク対策と税務処理の解説
「みなし配当」とは、会社法上は配当でない取引でも税務上は配当と扱われる支払いです。自己株式の取得や組織再編で突然発生し、高率課税や複雑な手続につながることがあります。本記事ではみなし配当の基本概念から発生ケース、税務処理、計算方法までを一つずつ丁寧に確認し、注意点と対策を整理します。難しい専門用語をできるだけ平易に置き換えていますので、これを読めばみなし配当によるトラブルを未然に防ぐ準備が整います。
目次
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(増資)
ここでは「そもそもみなし配当とは何か」を整理します。税法上のみなし配当は、会社法で定める配当手続を経ずに株主へ利益が還流する取引を広く捉え、配当所得として課税する考え方です。
みなし配当とは、法人税法23条で配当と同じく課税対象とされる株主への払戻しを指します。自己株式の取得や組織再編で会社から株主へ戻るお金のうち、利益剰余金が原資と考えられる部分が該当します。形式上は配当手続を行っていなくても、実質的に利益を分配している点がポイントです。
ここでは、税務上配当と認定される背景を整理します。
1. 実質的な利益分配
払い戻しの一部は利益剰余金から株主に戻るため、実態としては配当と同様です。
2. 課税の公平性確保
配当ではない形で利益を渡すと税負担が軽減される恐れがあります。形式にかかわらず実質で課税することで公平さを保ちます。
3. 租税回避の防止
配当課税を逃れる目的で他の取引名目を使うことを抑止する意図があります。
みなし配当は受け取る側の属性で課税方法が変わります。法人株主は受取配当等益金不算入の対象となり、保有割合によって不算入割合が0〜100%に分かれます。個人株主は配当所得とされ、上場株式なら申告分離課税も選択できますが、非上場株式は総合課税が原則です。また、支払法人には源泉徴収義務が課される場合があります。
取引の種類によってみなし配当が発生するかどうかが決まります。代表的なケースを見ていきましょう。
会社が自社株式を買い取る場面では、株主が受け取る対価のうち「資本金等の額」を超える部分がみなし配当となります。
自己株式取得計算例で具体的に理解
例として、資本金1,000万円・発行済100株の会社が1株24万円で10株を取得した場合を考えます。交付総額240万円から資本払戻し相当額100万円(1,000万円×10/100)を差し引いた140万円がみなし配当です。会社は140万円に対し源泉徴収を行い、株主は配当所得として申告します。
資本剰余金から配当を出すと税務上は資本剰余金だけでなく利益剰余金も支払い原資と評価され、分配額の一部がみなし配当になります。
解散・清算で残余財産を株主に渡す際も、利益剰余金部分は配当性質と判断されます。
自己株式取得は中小企業でも行われる頻度が高く、発行法人と株主双方に影響が及びます。
発行法人はみなし配当額について源泉徴収を行い、翌月10日までに納付します。また、「配当等とみなす金額に関する支払調書」を株主と税務署へ提出し、会計上は資本払戻しとして処理する一方、みなし配当分は利益剰余金を減額します。
法人株主が株式を譲渡した場合、みなし配当の一定割合が益金に含まれません。完全子法人株式等なら全額不算入、関連法人株式等は負債利子控除後に不算入、そのほかの株式は保有割合に応じ50%または20%が不算入です。帳簿価額との差額は譲渡損益として計算します。
個人株主が受け取るみなし配当は配当所得として扱われます。上場株式なら税率20.315%での申告分離課税と総合課税を選択可。非上場株式は総合課税で最高55%が適用される場合があります。相続税課税済み株式を発行会社へ譲渡したケースでは一定の要件下で株式譲渡所得課税へ切替えられる特例があるため、事前確認が欠かせません。
組織再編の一環である合併は、形態によってみなし配当の有無が分かれます。特に対価に金銭を含む非適格合併では、超過部分がみなし配当となります。
非適格合併における算定方法
みなし配当額=受取対価-(合併直前資本金等×交付株式数÷合併直前発行済株式総数)。株主ごとの対価配分を把握して正確な税額を計算します。
分割法人株主が承継法人から受け取る対価が資本金等超過の場合、その超過部分がみなし配当となります。資本区分の算定は複雑なため、分割計算書をもとに慎重に判断します。
補足:高額課税リスクを避けるために前もって検討すべきこと
みなし配当はタイミングや対価設計次第で数千万円規模の税負担差を生むことがあります。特に非上場株式の株主が個人の場合、総合課税により最高55%の税率が適用されるおそれがあります。取引を計画する段階で「みなし配当額はいくらか」「適格要件を満たせるか」「複数年に分けるなど負担を平準化できないか」を検討し、専門家に試算を依頼することが重要です。次のセクションでは、みなし配当額の具体的な計算手順や非上場株式の株価評価方法を詳しく解説し、誤った算定による追徴リスクを回避するポイントを提示します。
みなし配当は「交付を受けた金銭等の価額」から「資本の払い戻し額」を差し引いて求める、というシンプルな公式に見えますが、実務では取引形態や会社の属性によって計算手順が変わります。ここでは基本式の意味、非上場株式を含むケース、組織再編での特殊計算を順に確認します。
みなし配当の額=交付を受けた金銭等-資本の払い戻し額
資本の払い戻し額=資本金等×取得株式数÷発行済株式等総数
この式は「株主へ返した本来の出資(資本金等)」と「それを超える利益配分」を切り分ける考え方です。「資本金等」は出資額と資本剰余金の合計を指し、払い戻し部分は譲渡された株数に応じて按分します。
数値を当てはめやすいので、まずは自己株式取得で試算し、他の取引へ応用するのが実務上わかりやすい流れです。
非上場株式では市場価格がなく、取得価額や対価株式の価値を自ら評価します。一般的な手法は次の3つです。
貸借対照表の純資産をベースに計算
上場類似会社の株価指標から推定
将来収益を現在価値に割り引く
評価方法を誤るとみなし配当額が過大・過少となり、追徴や訴訟の火種になるため、税理士や公認会計士のレビューが不可欠です。
非適格合併では、被合併法人の資本金等を合併直前の株式数で割り、交付株式への按分額を算定します。分割型分割では「分割部分の純資産比率」で資本金等を切り出す計算が加わり、分割対価との比較でみなし配当額を求めます。取引スキームごとに算定根拠が条文で細かく定められているため、事前に合併契約書・分割計算書をそろえ、条文のどこを参照すべきかを整理しておくことが重要です。
分割型分割の簡易例
→分割部分資本金等=1億円×30%=3,000万円
→みなし配当額=4,500万円-3,000万円=1,500万円
みなし配当が絡む取引は「高率課税」「計算誤り」「納税資金不足」という3つの落とし穴があります。ここではそれぞれを防ぐ具体策を示します。
個人株主が非上場株式のみなし配当を受ける場合、総合課税で最高55%課税される可能性があります。対策として、
などのシミュレーションを早期に行い、納税資金計画を立てます。
1. 資本金等の額確認
直近決算値ではなく、取引直前の資本異動を反映した数値を使用
2. 株式数の整合性
自己株消却後やストックオプション行使後など、発行済株式数の変動を網羅
3. 評価方法の妥当性
非上場株式は複数手法でクロスチェックし、第三者評価書を保管
発行法人は源泉徴収を翌月10日に納付しますが、株主が負担する所得税・住民税は翌年申告時に一括納付となるケースが多いです。みなし配当額が大きい場合は、株主と協議して「納税用預り金」を源泉徴収時に留保するなど、資金計画を共有しておくとトラブルを防げます。
みなし配当の税務処理が不要となる代表例を押さえておくと、スキーム設計の幅が広がります。
適格要件(事業継続性、株式交付割合など)を満たすと、利益積立金が存続会社・承継会社にそのまま引き継がれ、株主への金銭対価が発生しません。結果としてみなし配当は生じません。
証券取引所での市場買付や事業全部譲受による株式取得、合併反対株主の買取請求など、税法上みなし配当に該当しないケースがあります。スキームを選択する際は「市場買付なら配当課税が生じない」点を踏まえ、コストとスピードを天秤にかけて判断します。
締めくくりに、経営者と経理担当者が事前確認すべきポイントを一覧で示します。
このチェックリストを運用することで、みなし配当を原因とする後日の追徴課税や株主紛争を大幅に抑制できます。
みなし配当は、自己株式取得や非適格組織再編で発生し、その計算と税務処理は複雑です。特に非上場株式では株価評価と高率課税が大きな課題となります。取引前の試算、専門家のレビュー、納税資金計画を通じてリスクを可視化し、適切なスキーム設計と手続を実行しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画