M&Aの税金を手法別に解説|会社売却の手取り対策と注意点
M&Aの税金は、株式譲渡・事業譲渡などの手法と、売主が個人か法人かで大きく変わります。税率、消費税、役員退職金、2027年以降の高所得者課税まで、会社売却の手取り判断に必要な実務ポイントを解説します。
目次

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(M&Aスキームの概要)
M&A(合併・買収)の税金は、売却価格だけで決まりません。同じ1億円の譲渡でも、株式譲渡か事業譲渡か、売主が個人株主か法人株主かによって、税金の種類も税率も変わります。
会社売却を検討する経営者にとって大切なのは、「いくらで売れるか」と同時に「税金を差し引いていくら手元に残るか」です。ここを後回しにすると、基本合意後に手取り額が想定より少ないと分かり、交渉が止まることがあります。
M&Aの税金は、次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
1つ目は、売主にかかる税金です。個人オーナーが自社株を売る場合は、株式の譲渡所得に対する所得税、復興特別所得税、住民税が中心になります。法人が子会社株式や事業を売る場合は、法人税等が中心です。
2つ目は、買い手にかかる税金です。株式を買うだけであれば、買い手に消費税はかかりません。一方、事業譲渡で建物、設備、営業権などを取得する場合は、消費税、不動産取得税、登録免許税が問題になります。
3つ目は、取引後の税金です。のれんの償却、取得資産の減価償却、過去の税務リスク、納税時期のズレなどです。M&A実務では、ここで資金繰りの見落としが起きやすくなります。
代表的な手法では、課税関係は次のように変わります。
株式譲渡では、個人株主の譲渡所得に対して、原則として20.315%の税率がかかります。法人株主が株式を売る場合は、譲渡益が他の利益や損失と合算され、法人税等の対象になります。
事業譲渡では、売主である法人に事業譲渡益が生じると、法人税等の対象になります。さらに、買い手が取得する資産に課税資産が含まれる場合は、消費税がかかります。土地や債権などは非課税ですが、建物、機械、営業権などは課税対象です。
組織再編では、税制適格か非適格かが重要です。税制適格とは、一定の要件を満たすことで、資産の移転に伴う課税を将来に繰り延べる仕組みです。要件を外すと、時価で移転したものとして課税が生じることがあります。
中小企業の会社売却では、株式譲渡が多く使われます。会社の株式を買い手に移すことで、会社そのものを承継できるため、契約関係や許認可をそのまま引き継ぎやすいからです。
ただし、税金は「誰が株主か」で変わります。オーナー個人が株主なのか、親会社などの法人が株主なのかを最初に確認する必要があります。
個人株主が自社株を譲渡した場合、税金の対象になるのは譲渡所得です。計算の基本は、次の考え方です。
譲渡所得 = 株式の売却価格 - 株式の取得費 - 仲介手数料などの譲渡費用
この譲渡所得に対して、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせた20.315%が課税されます。給与所得や不動産所得とは合算せず、株式の譲渡所得だけを分けて計算する申告分離課税です。
古い会社では、創業時の出資額や過去の株式移動の資料が残っていないことがあります。取得費が分からない場合、概算取得費として譲渡収入の5%を使うケースがありますが、実際の取得費がもっと高い可能性もあります。
資料を探すだけで税額が変わることがあります。株主名簿、設立時の定款、過去の贈与契約書、相続税申告書、株式譲渡契約書などを早めに確認しましょう。
法人が株主として株式を売却する場合、譲渡益は法人の利益として扱われます。個人株主のように一律20.315%で終わるわけではありません。本業の利益、損失、過去の繰越欠損金などと合算したうえで法人税等が計算されます。
そのため、同じ株式譲渡でも、法人株主の業績によって税負担は変わります。本業で大きな損失がある年度に譲渡益が出ると、税負担が軽くなることがあります。一方で、黒字が大きい年度に譲渡益が重なると、納税額も大きくなります。
株式譲渡では、買い手が株式を取得しても、株式そのものに消費税はかかりません。この点は、事業譲渡との大きな違いです。
ただし、税金がまったく問題にならないわけではありません。著しく低い価格で株式を譲渡した場合、個人間では贈与税、法人では受贈益課税などが問題になることがあります。親族、役員、関連会社との取引では特に注意が必要です。
会社が自社株を買い取る自己株式取得では、通常の株式譲渡とは異なる課税が生じることがあります。受け取った金額のうち、資本金等の払戻しを超える部分が「みなし配当」とされるためです。
みなし配当になると、個人株主では配当所得として扱われ、株式譲渡所得とは税率や計算方法が変わります。法人株主では受取配当等の益金不算入が関係する場合があります。株式を第三者に売るのか、会社に買い取ってもらうのかで手取り額が変わるため、事前試算が必要です。
事業譲渡は、会社そのものではなく、特定の事業、資産、契約、従業員などを選んで譲渡する手法です。不要な資産や簿外リスクを切り離しやすい一方で、税金の計算は株式譲渡より複雑になります。
意外と多い落とし穴は、売主側の法人税だけを見て、買い手側の消費税や不動産関連税を見落とすことです。契約上の価格が同じでも、課税資産の内訳によって資金繰りが変わります。
事業譲渡では、譲渡価額から譲渡する資産・負債の簿価を差し引いて、事業譲渡益または譲渡損を計算します。譲渡益が出た場合、その利益は法人の他の損益と合算され、法人税等の対象になります。
たとえば、簿価3,000万円の事業を1億円で譲渡すれば、単純には7,000万円の譲渡益が生じます。ただし、実際には譲渡資産、引き継ぐ負債、譲渡費用、未払費用などを確認して計算します。
事業譲渡の売却代金は、原則として会社に入ります。個人オーナーが直接受け取るわけではありません。会社に残った資金をオーナー個人へ移すには、役員退職金、配当、清算など別の手続が必要です。
ここを誤解すると、「会社は売れたのに、個人の手取りが思ったより少ない」という結果になります。株式譲渡と事業譲渡では、税率だけでなく、資金が誰に入るかも比べる必要があります。
事業譲渡では、譲渡対象に課税資産が含まれる場合、その部分に消費税がかかります。課税資産には、建物、機械装置、車両、工具器具備品、営業権などがあります。一方、土地や債権は非課税です。
たとえば、事業譲渡価格が1億円でも、そのすべてに消費税がかかるわけではありません。土地部分、債権部分、課税資産部分を合理的に分け、消費税額を計算します。買い手はクロージング時に消費税分も含めた資金を用意する必要があります。
事業譲渡で土地や建物を取得する場合、買い手には不動産取得税や登録免許税が発生することがあります。不動産取得税は、不動産を取得した人に課される地方税です。登録免許税は、不動産の所有権移転登記などにかかる税金です。
M&A価格の交渉では、これらの税金を誰が実質的に負担するかが論点になります。売主は「価格だけ」を見がちですが、買い手は税金や登記費用も含めた総投資額で判断します。
M&Aでは、株式譲渡と事業譲渡だけでなく、合併、会社分割、株式交換、株式交付、第三者割当増資などを使うことがあります。これらは税金をなくす魔法ではありません。課税の時期や対象を変える手法です。
使い方を誤ると、想定外の課税、少数株主との紛争、許認可の引継ぎ不備が起こります。M&A実務では、税務だけでなく会社法、契約、金融機関対応を合わせて検討します。
組織再編では、税制適格要件を満たすかどうかが重要です。税制適格とは、資産や負債を時価ではなく帳簿価額で引き継ぐことができ、移転時の譲渡損益を認識しない扱いです。
代表例は、適格合併、適格分割、適格株式交換、適格株式移転などです。対価の内容、支配関係、事業継続、従業員の継続、主要資産の引継ぎなど、複数の要件を確認します。
税制適格要件を満たさない場合、資産を時価で移転したものとして課税が生じることがあります。特に含み益のある不動産、設備、営業権がある会社では、税額が大きくなる可能性があります。
「グループ内再編だから税金は出ない」と決めつけるのは危険です。親族会社間や関連会社間の再編でも、要件確認を省くと想定外の課税につながります。
第三者割当増資は、買い手に新株を引き受けてもらい、経営権を移す方法です。既存株主が株式を売るわけではないため、既存株主に株式譲渡益は発生しません。
一方で、既存株主の手元には売却代金が入りません。資金は会社に入ります。また、既存株主の議決権割合は下がり、少数株主として残ることがあります。税金だけを見ると有利に見えても、オーナーの引退資金を確保したい場合には合わないことがあります。
第三者割当増資では、発行価額が適正かどうかも問題になります。発行価額が低すぎると、既存株主から新株引受人へ経済的利益が移ったとして、贈与税や受贈益課税が問題になることがあります。
そのため、株価算定書、株主総会決議、株主間契約などを整え、税務と会社法の両面から説明できる形にしておくことが大切です。
節税というと、税金を減らすことだけに目が向きます。しかし、会社売却では「税金を減らした結果、交渉が不利になる」「会社に資金が残り過ぎて個人の手取りが増えない」ということもあります。
大切なのは、税額、譲渡価格、買い手の条件、オーナーの引退後資金を合わせて見ることです。ここでは、実務でよく検討される対策を整理します。
オーナー経営者が長年役員を務めている場合、M&A実行前後に役員退職金を支給することがあります。退職所得は、原則として退職所得控除を差し引いた後、2分の1にして所得を計算します。そのため、同じ金額を株式譲渡対価として受け取るより税負担が軽くなるケースがあります。
ただし、役員退職金は会社から支給されるため、会社の資金繰りや株価に影響します。支給額が不相当に高いと判断されると、会社側で損金にできない部分が出ることがあります。
役員退職金は、勤続年数、最終報酬月額、功績倍率などを参考に検討します。過去の役員報酬が低い会社では、希望する金額をそのまま退職金にできないことがあります。
また、短期間だけ役員だった人への退職金や、5年以下の役員退職金では、2分の1課税が使えない場合があります。M&A直前に形式だけ整えても、税務上は認められにくい点に注意が必要です。
会社に不要な不動産、過大な現預金、オーナー個人に近い資産が残っていると、買い手が評価しにくくなります。買い手が不要と考える資産まで株式譲渡で引き継ぐと、価格交渉が難航することがあります。
この場合、事前に配当、役員退職金、資産売却、会社分割などで整理する方法があります。会社分割を使えば、買い手が必要とする事業と、オーナー側に残したい資産を分けられることがあります。
譲渡価格を下げると税額も下がります。しかし、税金が減っても手取り額まで減ってしまえば意味がありません。買い手が不要資産を嫌がっているのか、単に価格を下げたいだけなのかを見極める必要があります。
会社売却では、税額だけでなく、譲渡対価、残す資産、個人への資金移転を一体で試算しましょう。
法人株主が株式や事業を売却する場合、譲渡益は他の損益と合算されます。そのため、設備投資、修繕、退職金、広告宣伝、事業整理費用などの発生時期によって課税所得が変わります。
ただし、税金を減らすためだけに不要な支出を増やすのは本末転倒です。現金が減れば、M&A後の事業運営や金融機関対応に影響します。税務上の効果と資金繰りを並べて判断することが大切です。
事業譲渡では、買い手が営業権、いわゆるのれんを取得することがあります。税務上、のれんは一定期間で償却され、買い手の将来の損金になります。
そのため、買い手は「支払った価格のうち、どの部分が資産で、どの部分がのれんか」を気にします。売主と買い手で資産配分の考え方がずれると、価格交渉や契約書の調整が長引くことがあります。
税制は固定されたものではありません。会社売却の検討期間が長い場合、検討開始時とクロージング時で税制が変わることがあります。特に、個人オーナーが大きな株式譲渡益を得る案件では、2027年以降の高額所得者課税の見直しに注意が必要です。
「まだ先の話」と思っていても、M&Aは買い手探索から成約まで半年から1年以上かかることがあります。売却希望時期と税制改正の適用時期を重ねて確認しましょう。
令和8年度税制改正大綱では、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について、対象となる基準所得金額の特別控除額を1億6,500万円へ引き下げ、税率を30%へ引き上げる見直しが示されています。適用は令和9年分以後の所得税です。
個人オーナーが多額の株式譲渡益を得る場合、従来の20.315%だけで手取りを見積もると、実際の負担とずれる可能性があります。特に、譲渡益が数億円規模になる会社売却では、追加課税の有無を試算に入れるべきです。
2027年分以後の所得税に影響するため、2027年中に株式譲渡を行う場合は要注意です。基本合意、デューデリジェンス、最終契約、クロージングの時期によって、どの年の所得になるかが変わります。
売却希望がある場合は、価格交渉より前に「今年売った場合」と「来年売った場合」の税額を比べておきましょう。スケジュールを税務だけで決めることはできませんが、知らずに遅れるより、選択肢を持って交渉するほうが安全です。
買い手側では、中小企業事業再編投資損失準備金を利用できる場合があります。これは、一定の中小企業者等が経営力向上計画の認定を受け、株式取得によるM&Aを行う場合に、取得価額等の70%を準備金として積み立て、損金算入できる制度です。
対象は、2027年3月31日までに、事業承継等事前調査の内容を記載した経営力向上計画の認定を受ける場合などです。取得価額10億円以下の株式取得が前提になるため、事業譲渡ではなく株式取得である点も確認しましょう。
この制度は、税金が永久になくなる制度ではありません。一定期間の据置き後、準備金を取り崩して益金に算入します。つまり、税負担を将来へ送る課税の繰延べです。
買い手にとっては、M&A直後の資金負担を平準化できるメリットがあります。売主にとっても、買い手がこの制度を使えるかどうかで、買収意欲や価格交渉に影響する場合があります。
M&Aの税金で怖いのは、申告時だけではありません。買収後に過去の税務処理が問題になり、追徴課税や契約上の補償請求につながることがあります。
売却を検討する経営者は、買い手から見られる前に、自社の税務リスクを整理しておくべきです。特別なことではありません。決算書、申告書、契約書、資産台帳をそろえることから始まります。
税務デューデリジェンスとは、買い手や専門家が、対象会社の過去の税務処理を確認する調査です。法人税、消費税、源泉所得税、役員報酬、交際費、在庫、不動産、グループ会社取引などが確認対象になります。
中小企業では、役員借入金、役員貸付金、社宅、車両、保険、親族への給与などが論点になりやすいです。これらは必ずしも違法ではありませんが、説明できないと価格調整や表明保証の対象になります。
M&A契約では、売主が「過去の税務申告は適正である」といった表明保証を行うことがあります。後日、その内容と違う事実が見つかった場合、売主が補償を求められることがあります。
税務リスクを完全になくすことは難しいです。ただし、事前にリスクを開示し、価格や契約条件に反映しておけば、後日の紛争を減らせます。隠すより、整理して説明するほうが結果的に有利です。
株式譲渡で個人株主に譲渡益が出た場合、所得税等は原則として翌年の確定申告で納付します。住民税はその後に発生します。法人の場合は、事業年度終了後、原則として2か月以内に法人税等を申告・納付します。
クロージングで資金が入ると、借入返済、個人資産の運用、相続対策、不動産購入などに使いたくなるものです。しかし、納税資金を残していないと、後から資金不足になります。
納税主体 税目 申告・納付時期 留意点
個人株主 所得税・復興特別所得税 3月15日まで 住民税との時差に注意
個人株主 住民税 6月・8月・10月・翌1月 特別徴収なら給与天引き
法人 法人税等 決算後2か月以内 延長特例でも納付期限は変わらず
法人 消費税(事業譲渡) 決算後2か月以内 課税資産のみ課税
会社売却を検討する段階では、少なくとも3つの金額を試算しましょう。
1つ目は、譲渡価格です。買い手が支払う金額です。
2つ目は、税引後の手取り額です。所得税、住民税、法人税、消費税、役員退職金、費用を反映した後の金額です。
3つ目は、納税まで手元に残しておく資金です。税金の納付時期は、入金時期とずれることがあります。別口座で管理するだけでも、資金不足の予防になります。
相談前には、直近3期分の決算書、法人税申告書、消費税申告書、固定資産台帳、株主名簿、役員報酬の推移、借入金明細、主要契約書をそろえておくと話が早く進みます。
すべて完璧でなくても構いません。資料が不足している場合は、不足していること自体を早めに共有することが大切です。M&A実務では、資料の有無が買い手の信頼感に直結します。
M&Aの税金は、通常の決算申告とは違います。株価算定、スキーム選定、役員退職金、会社分割、消費税、契約書上の補償などが同時に関係します。
税務だけに詳しくても、M&Aの流れを知らないとタイミングを誤ります。反対に、M&A交渉だけに詳しくても、手取り額の試算が甘いと意思決定を誤ります。税務、会計、法務、交渉をつなげて見られる体制を早めに整えることが、無理のない会社売却につながります。
M&Aの税金は、株式譲渡か事業譲渡か、売主が個人か法人かで大きく変わります。税率だけで判断すると、消費税、役員退職金、高額所得者課税、納税時期を見落とします。買い手側の税制優遇も含めて早い段階で手取り額を試算し、譲渡価格とスケジュールを合わせて検討することが、後悔しない会社売却につながります。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人