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M&Aの最新トレンドで見る業界別の現状と将来展望を解説

「M&Aトレンドの最新動向は?」と疑問に思う経営者へ—本記事では業界別の現状と将来展望をやさしく解説し、適切な承継・譲受戦略への第一歩を示します。

目次

  1. M&A業界の長期的な成長傾向
  2. M&A市場が活発化している背景
  3. 業種別にみるM&Aの現状
  4. M&Aの将来展望
  5. まとめ

M&A業界の長期的な成長傾向

企業の合併・譲受(M&A)は1985年以降、長期的には着実に件数を伸ばしています。リーマンショックや東日本大震災など経済環境の激変で一時的な減少期があったものの、全体の流れは増加です。特に1993年から2006年には急増が見られ、2017年以降は年間3,000〜4,000件で安定しています。M&Aは経営課題を解決し成長を加速する手段として、日本企業に定着したと言えるでしょう。

一時的減少でも増加基調が続く理由

景気後退期でもM&Aが根強く行われる背景には、事業承継や構造改革の必要性があります。大きな経済ショックが起きても、企業は新たな販路や技術を得るために譲受を選択するため、件数全体は回復しやすいのです。

1993年から2006年の急増が示す教訓

バブル崩壊後の資金難と競争激化の中、多くの企業が存続と再成長を目的にM&Aを積極的に実施しました。この期間は「守り」ではなく「攻め」の承継が増え、M&A文化が根付く大きな契機となりました。

2017年以降の安定期が示すもの

直近数年は3,000件台で横ばいですが、これはM&Aが経営戦略の標準手段となった証しです。規模を問わず企業が事業承継、海外進出、事業多角化にM&Aを活用し続けているため、安定した高水準が維持されています。

M&A市場が活発化している背景

M&Aの活性化は複数の社会的・経済的要因が重なった結果です。大きくは「後継者不足」と「大企業の海外展開」の二つが挙げられます。

後継者問題が招く第三者承継の拡大

経営者の高齢化が進む一方、親族内承継を望まない、もしくは望んでも適任者がいない企業が増えています。こうした企業は譲渡企業となり、親族外の譲受企業や投資家へ事業を移す動きが活発です。結果としてM&Aは中小企業でも一般的な選択肢となりました。

大企業の海外展開を支えるM&A活用

国内市場縮小への備えとして、大企業は海外拠点の確立を急ぎます。ゼロから新会社を設立するより、現地企業を譲受したほうが既存顧客や人材、ノウハウを一括で獲得できるため、短期間で成果を上げやすいのです。この傾向は今後も続くと見込まれます。

業種別にみるM&Aの現状

業界ごとに課題と目的が異なるため、M&Aの進み方もさまざまです。以下では主要業界の動向を見ていきます。

薬局業界は薬剤師不足と規模拡大が再編を加速

調剤薬局数はコンビニを上回る水準に達していますが、薬剤師不足が深刻です。大手チェーンは中小薬局を譲受し、採用力と店舗網を一体で強化しています。異業種からの参入も増え、再編は今後も進行するでしょう。

医療・介護分野は需要増でも人材難と後継者不在が課題

高齢化で需要は右肩上がりですが、長時間労働と賃金の低さで人材確保が難しい現状があります。M&Aは医療・介護施設の統合と設備更新を可能にし、サービス品質を維持する重要手段として選ばれています。

運送・物流業界はEコマース拡大と2024年問題への対策

ネット通販の伸びで荷量は増加する一方、ドライバー不足と時間外労働規制への対応が経営を圧迫しています。大手企業への傘下入りや同業間統合により車両・人員をまとめ、効率的配送網を構築する動きが盛んです。

建設業界は慢性的な人材不足と技術承継を補完

建設需要は安定していますが、高齢化による廃業リスクが顕在化しています。大手建設会社は地域密着の中小企業を譲受し、技術と職人を確保することで施工能力を広げています。労働時間管理強化にもM&Aで組織力を高める取り組みが見られます。

不動産業界は市場変化に備え事業再編が進む

人口減少と地方過疎化で空き家が増え、不動産需要は地域ごとに二極化しています。都市部集中と地方縮小のギャップを埋めるため、都市部で強い企業が地方企業を譲受し、物件管理と仲介網を広げる動きが本格化しています。海外資本が日本の不動産を評価し参入するケースも見られ、国際資金も交えた再編が今後も続くでしょう。

IT業界はDX人材と技術獲得を狙う

新技術の誕生ペースが速く、自社開発だけでは人材とノウハウを確保し切れません。そこで大手企業はAI・クラウド・セキュリティ分野のベンチャーを譲受し、開発体制を一気に強化しています。買収は国内外を問わず増加傾向で、クロスボーダーM&Aも一般化しました。

製造業は技術承継と規模拡大で譲受が拡大

熟練技能者の高齢化と海外競合の台頭により、技術流出を防ぎながら規模を確保する必要があります。大手メーカーは部品加工の中小企業を譲受し、グループ内で設計から量産まで一気通貫化。IoTやAIを取り入れるためIT企業を買収する動きも顕著です。

サービス業は人材確保と顧客満足向上を目的

外食・宿泊・人材派遣など幅広いサービス業では、接客人材の不足が深刻です。大手チェーンは地方の優良店舗を譲受して採用基盤を広げ、同時に教育システムを横展開して品質を向上。フランチャイズを含む多店舗化でスケールメリットを生かす戦略が進んでいます。

食品業界はコスト高と海外展開で再編加速

原料費高騰と価格競争で利益率が圧迫されるなか、国内メーカーは海外市場への販路拡大を急ぎます。現地ブランドを譲受することで販売網と製造技術をまとめて取得し、グローバルな生産体制を構築。卸売分野でも流通コスト削減を目的に同業統合が進行中です。

エネルギー業界は需要縮小で海外M&A注視

LPガス需要の減少や再生可能エネルギーの普及により、国内市場は縮小傾向です。大手事業者は海外の成長市場に活路を求め、発電・供給インフラを持つ企業を譲受して事業ポートフォリオを転換しています。規模の小さい地域事業者は生き残り策として系列再編を選択する例が増えています。

広告業界はデジタル化でインターネット広告企業を譲受

スマートフォンの普及でインターネット広告費が過去最高を更新し続けています。従来型メディアに強い大手代理店は、SNS運用や動画制作を得意とする専門企業を譲受し、フルサービス体制を整備。デジタルプロモーションの需要拡大を追い風に、国際拠点づくりも加速中です。

小売卸売業は市場縮小に対応し規模拡大

消費税負担や人口減少で店舗売上は頭打ちですが、ECとの相乗効果を求めた同業統合が活発です。大手スーパーが地域スーパーを譲受し、生鮮物流網を一体化。卸売では流通コスト上昇に対抗するため、同業合併で仕入れ量を増やし価格競争力を確保しています。

美容業界は過当競争と後継者不足で統合進行

美容所数は過去最高を更新する一方、人口減少で顧客の取り合いが激化しています。低価格特化やメニュー特化など二極化が進み、競争に遅れた店舗は大手チェーンに譲渡する例が増加。異業種からの参入もあり、市場再編が今後さらに進むと見られます。

ゲーム業界は海外プラットフォーム向け大型M&A

国内家庭用ゲーム市場が伸びるなか、アプリとオンラインプラットフォームの世界展開が鍵です。開発力とIP(知的財産)を持つ中堅スタジオが、大手パブリッシャーの下でグローバル配信網を獲得し、収益機会を広げています。

M&Aの将来展望

今後のM&Aは件数だけでなく形態も多様化し、企業戦略の中心であり続けると予想されます。

スタートアップM&Aは出口戦略として一般化

投資を受けたベンチャーが早期に株式譲渡して資金回収を図る流れが強まっています。日本でも米国同様、M&Aを「成長とイグジットの両立手段」とする文化が浸透しつつあります。

クロスボーダー取引は東南アジア中心に活発化

人口増と経済成長が続く東南アジアは、日本企業にとって重要市場です。現地企業の譲受で流通チャネルを確保し、現地資本も日本市場に参入するなど双方向で動きが拡大しています。

AIとビッグデータでマッチング効率が向上

M&AマッチングプラットフォームがAIで業種・規模・財務指標を分析し、最適な譲渡先・譲受先を自動提案する仕組みが普及中です。専門家の工数を減らし、小規模M&Aの成約を後押しすると期待されています。

ESG重視と業界再編が同時進行

環境負荷低減や社会的責任を果たす企業への評価が高まり、ESG観点で補完関係を持つ企業同士のM&Aが増えています。また少子高齢化・技術革新に対応するため、業界再編が加速し、地域企業の存続を支える動きも活発です。

多様なM&A形態が企業成長を後押し

合併や株式譲受だけでなく、合弁会社設立や資本業務提携など柔軟な形態が選ばれています。特定事業部門だけを切り出すスピンオフ型M&Aも注目され、戦略オプションはさらに増えるでしょう。

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まとめ

M&Aは後継者不足や海外展開などの課題を同時に解決できる有力策です。業界ごとの動向を把握し、AI活用やESG重視など新トレンドも視野に入れながら、最適な承継・譲受戦略を検討しましょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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