M&A市場の長期的な動向と業界別のトレンドを詳しく解説します。後継者問題や海外展開など、M&Aが活発化している背景や今後の予測についても触れていきます。M&Aを検討する企業必見の情報です。
目次
▶目次ページ:第三者承継(M&Aの意味)
M&A(企業の合併・買収)業界は、長期的に見ると着実な成長を遂げています。株式会社レコフの調査によると、1985年以降、日本企業によるM&Aの件数は増加傾向にあります。
この傾向には、いくつかの特徴があります:
1. 一時的な減少:リーマンショックや東日本大震災などの影響で、一時的にM&Aの件数が減少した時期もありまし
た。
2. 全体的な増加:しかし、長期的には増加傾向が続いています。
3. 1993年~2006年の急増:特にこの期間は、M&Aの増加が顕著でした。バブル経済崩壊後、多くの企業が事業存続
や成長のためにM&Aを選択しました。
4. 2017年以降の安定:近年は年間3,000~4,000件程度でM&Aの件数が推移しています。
このようなM&A業界の長期的な傾向は、日本の経済状況や企業の戦略変化を反映しているといえます。M&Aは企業の重要な選択肢として定着し、今後もその重要性は増していくと予想されます。
M&A市場が活発化している背景には、複数の要因があります。ここでは、その主な理由について詳しく見ていきます。
中小企業における後継者不足は、M&A市場活性化の大きな要因の一つです。
この問題には以下のような特徴があります:
1. 経営者の高齢化:多くの中小企業で、現経営者の高齢化が進んでいます。
2. 後継者の不在:経営者に子どもがいても、事業を継がないケースが増えています。
3. 第三者への事業譲渡:親族以外の人物に事業を譲渡するケースが増加しています。
4. M&Aの活用:後継者問題の解決策として、M&Aが頻繁に利用されるようになりました。
5. 中小企業のM&A参加:大企業だけでなく、中小企業も積極的にM&Aに取り組むようになっています。
このような状況下で、M&Aは事業継続の有効な手段として注目を集めています。後継者不在による廃業を回避し、長年培ってきた技術やノウハウを次世代に引き継ぐ方法として、M&Aの重要性が高まっているのです。
大企業によるM&Aを活用した海外展開も、市場活性化の重要な要因です。
1. 国内市場の縮小:人口減少に伴い、国内市場の縮小が予測されています。
2. 海外進出の必要性:市場縮小への対策として、多くの大企業が海外進出を検討しています。
3. M&Aの利点:
o 既存の事業基盤の活用:ゼロからの事業立ち上げを回避できます。
o 知見や実績の獲得:買収先企業の経験やノウハウを活用できます。
o スピーディな展開:M&Aにより、比較的短期間で海外市場に参入できます。
4. 今後の予測:大企業によるM&Aを通じた海外進出は、今後さらに増加すると予測されています。
このように、国内市場の限界を見据えた大企業の戦略的な動きが、M&A市場の活性化につながっています。海外企業の買収や合併を通じて、日本企業のグローバル化が加速することが期待されます。
M&Aの動向は業種によって異なる特徴を持っています。ここでは、主要な業界におけるM&Aの現状について詳しく見ていきます。
薬局業界では、以下のような特徴的なM&Aの動きが見られます:
1. 薬剤師不足への対応:人材確保が大きな課題となっています。
2. 規模拡大の動き:中小規模の薬局が大手薬局の傘下に入るケースが増加しています。
3. 大手薬局のメリット:
o 薬剤師の一括確保が可能になります。
o 店舗拡大が容易になります。
4. 異業種からの参入:薬局業界の成長性に着目し、異業種からのM&Aによる参入も増加しています。
このように、人材確保と規模の経済を目指す動きが、薬局業界のM&Aを活性化させています。
医療・介護分野でのM&Aには、以下のような特徴があります:
1. 需要の増加:高齢化社会の進展に伴い、今後も需要の増加が見込まれています。
2. 課題:
o 長時間労働や低賃金による人材不足
o 後継者不在の開業医の増加
3. M&Aの目的:
o 人材不足や後継者問題の解決
o 施設や設備の強化
4. 大規模化の傾向:複数の医療機関や介護施設を統合するM&Aが増加しています。
医療・介護分野では、サービスの質を維持・向上させながら経営の効率化を図るため、M&Aが重要な選択肢となっています。
運送・物流業界におけるM&Aの特徴は以下の通りです:
1. 需要の増加:Eコマースの発展などにより、今後も需要の増加が期待されています。
2. 業界の課題:
o 規制緩和による競争激化
o ドライバーの人手不足
3. M&Aの傾向:中小規模の運送会社が大手企業の傘下に入るケースが増加しています。
4. 2024年問題への対応:時間外労働の規制強化に備え、M&Aによる体制強化を図る企業が増えています。
5. 今後の予測:運送・物流業界におけるM&Aは、さらに増加する可能性が高いと考えられています。
このように、人材確保と競争力強化を目的としたM&Aが、運送・物流業界で活発化しています。
建設業界のM&A動向には、以下のような特徴があります:
1. 業界の特徴:
o 規模が大きく、安定した需要がある
o 慢性的な人材不足に悩まされている
o 高齢化による廃業が相次いでいる
2. M&Aの目的:
o 人手不足の解消
o 後継者不在による廃業の回避
o 技術やノウハウの承継
3. 2024年問題への対策:労働時間管理の厳格化に備え、M&Aによる体制強化を図る企業が増加しています。
4. 大手企業の動き:中小建設会社の買収を通じて、地域ごとの施工能力を強化する傾向が見られます。
建設業界では、人材確保と技術継承を主な目的として、M&Aが積極的に活用されています。
不動産業界におけるM&Aの特徴は以下の通りです:
1. 業界の課題:
o 人口減少の影響を受けやすい
o 地方の過疎化による空き家の増加
o 高齢単身世帯の増加
2. 経営者の高齢化:後継者不在に悩む企業が多く存在します。
3. M&Aの目的:
o 規模の拡大
o 都市部への進出
o 新たな事業領域への参入
4. 異業種からの参入:不動産テックなど、ITを活用した新しいビジネスモデルを持つ企業の参入が増加しています。
5. 海外企業の動き:日本の不動産に関心を持つ海外企業によるM&Aも増加傾向にあります。
不動産業界では、市場環境の変化に対応するため、M&Aを通じた事業再編や新規参入が活発化しています。
IT業界におけるM&Aの特徴は以下の通りです:
1. 業界の特徴:
o 技術革新のスピードが速い
o 慢性的な人材不足がある
o 比較的若い経営者が多い
2. M&Aの目的:
o 人材の確保
o 新技術の獲得
o 市場シェアの拡大
3. ベンチャー企業の動き:大手企業による買収を出口戦略として考えるベンチャー企業が増加しています。
4. 大手企業の戦略:新しい技術や知見を獲得するため、ベンチャー企業のM&Aを積極的に行っています。
5. クロスボーダーM&A:海外のIT企業との合併や買収も増加傾向にあります。
IT業界では、技術力の強化と市場競争力の維持を目的としたM&Aが活発に行われています。
製造業におけるM&Aの動向は以下の通りです:
1. 業界の課題:
o 他国の製造業台頭による競争力低下
o 後継者不在に悩む中小企業の増加
o 技術継承の必要性
2. M&Aの傾向:中小企業が大手企業の傘下に入るケースが増加しています。
3. M&Aの目的:
o 中小企業の廃業防止
o 長年培ってきた技術の承継
o 生産規模の拡大
o 新技術の獲得
4. 海外展開:海外企業とのM&Aを通じて、グローバル市場での競争力強化を図る企業が増加しています。
5. 異業種との融合:IoTやAIなど、新技術を取り入れるためのM&Aも増加傾向にあります。
製造業では、技術力の維持・向上と国際競争力の強化を目指し、M&Aが積極的に活用されています。
サービス業におけるM&Aの特徴は以下の通りです:
1. 業界の範囲:宿泊施設、外食産業、人材派遣、教育など、幅広い分野が含まれます。
2. 市場の特徴:
o 需要が高く、今後も成長が見込まれる
o 人材不足が大きな課題となっている
3. M&Aの傾向:人材不足に悩む中小企業が大手企業の傘下に入るケースが増加しています。
4. M&Aの目的:
o サービスの品質維持・向上
o 経営効率の改善
o 事業規模の拡大
o ブランド力の強化
5. 異業種からの参入:テクノロジーを活用した新しいサービスモデルを持つ企業の参入が増加しています。
6. フランチャイズ展開:M&Aを通じてフランチャイズ展開を加速させる企業も見られます。
7. 国際展開:インバウンド需要の増加を見込み、海外企業とのM&Aも増加傾向にあります。
サービス業では、人材確保と顧客満足度の向上を主な目的として、M&Aが活発に行われています。業界の多様性を反映し、M&Aの形態も様々です。
M&Aの市場は今後も拡大が予想されており、以下のような傾向が見られます:
1. スタートアップ企業の動向:
o 設立間もない企業がM&Aを通じて株式を譲渡し、投資資金を回収するケースが増加すると予測されます。
o 日本でも、アメリカのようにスタートアップ企業がM&Aを成長戦略の一つとして活用する傾向が強まると考えられ
ます。
2. クロスボーダーM&Aの活発化:
o 特に東南アジアでのM&Aが注目されています。
o 日本企業の海外進出戦略として、東南アジア企業とのM&Aがさらに増加すると予想されます。
3. テクノロジーの活用:
o AIやビッグデータを活用したM&Aマッチングサービスの普及が期待されます。
o オンラインプラットフォームを通じたM&A仲介サービスも増加すると見られています。
4. 業界再編の加速:
o 少子高齢化や技術革新により、様々な業界で再編が進むと予想されます。
o 特に、地方の中小企業を中心に、M&Aによる事業承継が増加すると考えられます。
5. ESG(環境・社会・ガバナンス)の重視:
o 環境問題や社会的責任を重視する企業間のM&Aが増加すると予想されます。
o SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた戦略的M&Aも注目されています。
6. 新しい形態のM&A:
o 合弁会社の設立や資本業務提携など、従来の買収や合併以外の形態のM&Aも増加すると考えられます。
o 特定の事業部門や機能に特化したM&Aも増えると予想されます。
これらの傾向を踏まえると、M&Aは今後ますます企業戦略の重要な選択肢となり、その形態も多様化していくと考えられます。企業は、これらの動向を注視しながら、自社の成長戦略に最適なM&Aの方法を検討していく必要があるでしょう。
M&A市場は長期的に成長を続けており、今後もその傾向は続くと予想されます。業界ごとに異なる課題や目的を持ちながら、多くの企業がM&Aを重要な戦略として位置づけています。後継者問題の解決や海外展開の加速など、M&Aは様々な経営課題に対する有効な手段となっています。今後は、テクノロジーの活用やクロスボーダー取引の増加など、新たな展開も期待されます。M&Aを成功させるには専門的なサポートが不可欠であり、適切なアドバイザーの選択が重要となるでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画