吸収合併契約書の作成方法と法定記載事項を詳しく解説します。契約書の基本構成から、合併対価の設定、効力発生日の取り決めまで、重要ポイントをわかりやすく説明します。
目次
▶目次ページ:M&Aの種類・方法(合併)
吸収合併契約書は、会社法で定められた手続に従って行われる吸収合併を正式に行うための重要な文書です。この契約書には、合併の当事者である存続会社と消滅会社の間で合意された合併の条件や手続が詳細に記載されます。
吸収合併契約書の作成は、合併プロセスにおいて欠かせない段階であり、法律に基づいて正確に作成する必要があります。契約書には法定記載事項と呼ばれる必須の項目があり、これらを適切に記載しないと契約自体が無効となる可能性があるため、十分な注意が必要です。
吸収合併を進める際には、会社法第748条に基づいて合併契約を締結することが義務付けられています。この契約締結は、合併プロセスの公正性と透明性を確保し、株主や債権者の利益を保護するために重要な役割を果たします。
契約締結の手続は、会社の形態によって異なります。
いずれの場合も、代表取締役または代表執行役が各会社を代表して契約を締結します。さらに、原則として株主総会における特別決議による承認が必要となります。
吸収合併契約の締結は、通常、以下の順序で行われます。
契約締結のタイミングは、株主総会での承認を得る必要があるため、株主総会の開催前に行われます。これにより、株主が合併の内容を十分に検討し、適切な判断を下すための時間が確保されます。
吸収合併契約書には、会社法第749条第1項に基づいて定められた法定記載事項を必ず含める必要があります。これらの記載事項に不備があると、契約が無効となる可能性があります。
法定記載事項に瑕疵がある場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
したがって、吸収合併契約書の作成には細心の注意を払い、法律の要件を満たす正確な内容を記載することが極めて重要です。
▶関連:吸収合併とは
吸収合併契約書の作成は、法的要件を満たしつつ、当事者間の合意事項を明確に記載する必要があります。以下に、契約書作成の基本的な手順を説明します。
タイトルの決定
「吸収合併契約書」や「合併契約書」といった一般的な表記を使用します。
会社法では特別な規定がないため、わかりやすい表現を選択します。
前文の作成
存続会社と消滅会社の社名を記載します。
一般的に、存続会社を「甲」、消滅会社を「乙」と表記します。
契約内容の定義
会社法で定められた法定記載事項を必ず含めます。以下の内容を含めることが推奨されます
締結に関する事項の記載
これらの要素を適切に組み合わせることで、法的要件を満たし、当事者間の合意内容を明確に示す吸収合併契約書を作成することができます。
吸収合併契約書を作成する際には、契約書本体に加えて、いくつかの添付書類を準備する必要があります。これらの書類は、吸収合併登記申請の際に提出が求められます。
収入印紙
2枚分の印紙代が必要となる可能性があります。
株式会社合併による変更登記申請書
これらの添付書類を適切に準備することで、スムーズな登記申請手続が可能となります。また、事前に必要書類を確認し、準備しておくことで、合併手続全体の遅延を防ぐことができます。
吸収合併契約書には、会社法第749条で定められた法定記載事項を必ず含める必要があります。これらの事項が適切に記載されていない場合、契約書は法的に無効となる可能性があるため、細心の注意を払って作成することが求められます。
主要な法定記載事項は以下の通りです。
これらの事項について、詳しく見ていきましょう。
吸収合併契約書には、会社法第749条に従い、存続会社および消滅会社それぞれの以下の情報を明記する必要があります。
これらの情報は、合併の当事者を明確に特定するために不可欠です。正確な情報を記載することで、合併手続の透明性が確保され、利害関係者に対する適切な情報開示が可能となります。
合併条件、特に「消滅会社への合併対価」は、吸収合併契約書の中核を成す重要な記載事項です。以下の事項を具体的に記載する必要があります。
なお、特定の状況下では「無対価合併」という形式も存在します。これは、同じグループ内での組織再編で消滅会社が
100%子会社である場合や、消滅会社が債務超過であるケースなどで採用されることがあります。
吸収合併契約書には、以下の2つの日付を明確に記載する必要があります。
これらの日付を明記することで、合併プロセスの各段階が明確になり、関係者全員が同じタイムラインに沿って準備や対応を進めることができます。
吸収合併契約書には、法定記載事項以外にも、当事者間で合意した事項を任意で記載することができます。これらは任意的記載事項と呼ばれ、合併の具体的な実施方法や、合併後の会社運営に関する重要な取り決めを含むことができます。
以下に、任意的記載事項の主な例を挙げます。
これらの任意的記載事項を適切に盛り込むことで、合併後の円滑な事業運営や、潜在的な紛争の予防に役立ちます。ただし、これらの事項を記載する際は、吸収合併のルールに違反していないか十分に注意する必要があります。法的な観点からの確認が不可欠であり、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
吸収合併契約書を締結する際には、いくつかの重要なポイントに注意を払う必要があります。これらのポイントを適切に考慮することで、合併後のスムーズな事業運営や潜在的な問題の回避につながります。
吸収合併により、消滅会社が合併前に締結した既存の契約は、原則として存続会社に包括承継されます。これには以下の点に注意が必要です。
支配権変更条項(Change of Control条項、通称COC条項)は、会社の支配権が変更された場合に契約の取り扱いが変わる可能性を定めた条項です。吸収合併の際には、この条項に特に注意を払う必要があります。
これらのポイントに注意を払うことで、吸収合併後の事業運営におけるリスクを最小限に抑え、円滑な統合を実現することができます。
吸収合併契約書の作成にあたっては、法定記載事項を適切に盛り込みつつ、当事者間の合意事項を明確に記載することが重要です。以下に、吸収合併契約書の基本的な構成と主要な記載事項の例を示します。
契約書タイトル
例)「吸収合併契約書」
前文
例)「○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)とは、甲を存続会社、乙を消滅会社とする吸収合併(以下「本合併」という。)に関し、以下のとおり合併契約(以下「本契約」という。)を締結する。」
第1条 合併の方法
例)「甲は、本契約の定めるところに従い、乙を吸収合併し、甲は存続し、乙は解散する。」
第2条 存続会社の商号及び住所
例)「存続会社の商号及び住所は次のとおりとする。 商号 ○○株式会社 住所 東京都千代田区○○町1-1-1」
第3条 消滅会社の商号及び住所
例)「消滅会社の商号及び住所は次のとおりとする。 商号 △△株式会社 住所 大阪府大阪市○○区△△町2-2-2」
第4条 合併に際して交付する株式及びその割当て
例)「甲は、本合併に際して、本合併の効力発生日の前日の最終の乙の株主名簿に記載又は記録された乙の株主に対し、その所有する乙の普通株式1株につき、甲の普通株式2株の割合をもって割り当てる。」
第5条 増加する資本金及び準備金
例)「本合併により増加する甲の資本金、資本準備金及び利益準備金の額は、次のとおりとする。 (1) 資本金 0円 (2) 資本準備金 会社計算規則第39条の規定に従い甲が定める額 (3) 利益準備金 0円」
第6条 効力発生日
例)「本合併の効力発生日は、2025年4月1日とする。ただし、本合併の手続進行上の必要性その他の事由により、甲乙協議のうえ、これを変更することができる。」
第7条 株主総会の承認
例)「甲及び乙は、本契約につき、2024年6月30日までに、それぞれ株主総会の承認を受けるものとする。」
第8条 会社財産の管理等
例)「甲及び乙は、本契約締結後、本合併の効力発生日に至るまで、それぞれ善良なる管理者の注意をもってその業務の執行及び財産の管理、運営を行い、その財産又は権利義務に重大な影響を及ぼす行為については、あらかじめ甲乙協議し合意の上、これを行うものとする。」
第9条 本契約の変更及び解除
例)「本契約締結後、本合併の効力発生日に至るまでの間において、甲又は乙の財産状態若しくは経営状態に重大な変動が生じた場合、本合併の実行に重大な支障となる事態が生じ又は明らかとなった場合その他本契約の目的の達成が困難となった場合には、甲乙協議の上、本契約を変更し、又は解除することができる。」
締結文言と署名欄
例)「本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。 2024年5月1日 (甲)東京都千代田区○○町1-1-1 ○○株式会社 代表取締役 □□ □□ 印 (乙)大阪府大阪市○○区△△町2-2-2 △△株式会社 代表取締役 ◇◇ ◇◇ 印」
この例は基本的な構成を示したものです。実際の契約書では、各社の状況や合併の詳細に応じて、さらに詳細な条項や特別な取り決めが追加されることがあります。また、法律の改正や個別の状況により、記載内容が変更される可能性もあるため、最新の法令に基づいて作成し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
吸収合併契約書は、企業の吸収合併プロセスにおいて極めて重要な法的文書です。会社法に基づく法定記載事項を適切に盛り込み、当事者間の合意事項を明確に記載することで、円滑な合併手続と合併後の安定した事業運営が可能となります。契約書の作成にあたっては、法的要件を満たしつつ、個別の状況に応じた詳細な取り決めを含めることが重要です。また、既存契約の承継やCOC条項の確認など、契約締結時の重要ポイントに注意を払うことで、潜在的なリスクを最小限に抑えることができます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画