スタンドスティル条項はM&A取引において重要な役割を果たします。その定義、効果、役割、実例を詳しく解説し、M&Aの成功確率を高めるための重要性について解説します。
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スタンドスティル条項は、M&A(合併・買収)取引において非常に重要な役割を果たす契約条項です。この条項は、主に秘密保持契約を締結する際に規定されることが多く、売り手から情報を受け取った買い手の行動を一定期間制限するものです。
具体的には、スタンドスティル条項には以下のような制限が含まれます。
これらの行為を、売り手の同意なしに行うことを禁止するのがスタンドスティル条項の主な目的です。
スタンドスティル条項は、英語では「Stand Still Provision」「Stand Still Agreement」「Stand Still Clauses」などと表現されることがありますが、いずれも同じ意味を指します。
なお、スタンドスティル条項はM&A以外の分野でも使用されることがあります。例えば、貿易協定や関税分野では、現行の関税レベルを維持する目的で採用されることがあります。
このように、スタンドスティル条項は、M&A取引における重要な保護措置として機能し、両当事者間の信頼関係を構築する上で欠かせない要素となっています。
スタンドスティル条項は、M&A取引において売り手側と買い手側の双方に重要な効果をもたらします。それぞれの立場から見た効果について詳しく見ていきましょう。
売り手にとって、スタンドスティル条項を規定することで得られる最大のメリットは、敵対的買収のリスクを軽減できることです。具体的には以下のような効果があります。
スタンドスティル条項がない場合、売り手は突如として一方的に買収されるリスクにさらされることになります。このような状況では、買収完了後の統合作業が円滑に進まない可能性が高くなります。
一方、買い手にとってもスタンドスティル条項を受け入れることには重要なメリットがあります。
このように、スタンドスティル条項は売り手と買い手の双方にとってメリットがあり、M&Aの成功確率を高める重要な要素となります。企業の経営者や関係者は、適切なスタンドスティル条項を組み入れることで、M&Aを円滑かつ効果的に進めることができるのです。
スタンドスティル条項は、M&A取引において多くの重要な役割を果たします。その主な役割は以下の通りです。
売り手と買い手の信頼関係構築
公平な競争環境の維持
デューデリジェンスの円滑な実施
不正な情報利用の防止
適切な価値評価の促進
統合プロセスの円滑化
このように、スタンドスティル条項は単なる制限条項ではなく、M&A取引の公正性と効率性を高める重要なツールとして機能します。適切に設計されたスタンドスティル条項は、M&Aプロセス全体の質を向上させ、取引の成功確率を高める役割を果たすのです。
スタンドスティル条項の重要性を理解するために、実際のM&A事例を見てみましょう。ここでは、DCMホールディングスとニトリホールディングスによる島忠の争奪戦を取り上げます。この事例は、スタンドスティル条項が存在しない状態でM&Aが複雑化する典型的な例として知られています。
事例の概要
この事例から学べる教訓
突然の競合出現により、株価が乱高下し、市場に混乱をもたらしました。
スタンドスティル条項があれば、より秩序だった形でM&Aプロセスを進められた可能性があります。
この事例は、スタンドスティル条項の不在がM&A取引にもたらすリスクと複雑性を明確に示しています。適切なスタンドスティル条項を設けることで、売り手は自社の将来を慎重に検討する時間を確保し、買い手は信頼関係を築きながら交渉を進める機会を得ることができます。結果として、より安定的で成功確率の高いM&Aプロセスを実現できる可能性が高まるのです。
スタンドスティル条項は、M&A取引において売り手と買い手の双方に重要な効果をもたらします。敵対的買収のリスク軽減、信頼関係の構築、公平な競争環境の維持など、多岐にわたる役割を果たします。実例からも、その重要性が明確に示されており、適切なスタンドスティル条項の設定がM&Aの成功確率を高める鍵となることがわかります。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画