企業価値・事業価値・株式価値の基礎から要点を総まとめ

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企業価値・事業価値・株式価値の違いとM&Aの評価実務

企業価値・事業価値・株式価値の違いを、帰属先、計算式、貸借対照表、M&Aでの譲渡価格の関係から解説します。会社売却前に確認すべき資産・負債・評価手法も整理します。

目次

  1. 3つの価値は帰属先で区別する
  2. 関係式で見る企業価値と株式価値
  3. 貸借対照表で価値の構成をつかむ
  4. M&Aで評価額を算定する流れ
  5. 譲渡価格を左右する資産と負債
  6. 会社売却前に価値を高める準備
  7. まとめ

企業価値・事業価値・株式価値の基礎から要点を総まとめ

3つの価値は帰属先で区別する

企業価値、事業価値、株式価値は、似た言葉ですが同じ意味ではありません。違いを一言でいえば、「誰に帰属する、何の価値か」です。

M&A(合併・買収)の相談では、「企業価値が高いなら、その金額がすべて株主に入る」と考えている経営者もいます。これは意外と多い誤解です。実際には、会社全体の価値から借入金などを差し引いた後の金額が、株主の取り分に近づきます。

事業価値は本業が稼ぐ力の価値

事業価値は、会社の本業が将来生み出す価値です。製造業であれば工場、機械、技術、取引先、従業員が回している業務プロセスなどが、事業価値を生む土台になります。小売業であれば店舗、商品力、立地、顧客基盤などが中心です。

大切なのは、本業に直接使われているものを評価する点です。余剰資金、投資用不動産、長期保有の有価証券など、本業の収益に直接関係しない資産は、通常は事業価値とは分けて考えます。

M&A実務では、買い手企業が最も注目するのは「この事業は今後も利益とキャッシュを生むか」です。したがって、事業価値は単なる資産の合計ではなく、稼ぐ力の評価だと理解すると分かりやすくなります。

企業価値は会社全体の価値

企業価値は、事業価値に非事業用資産を加えた会社全体の価値です。非事業用資産とは、本業には直接使っていないが、会社が保有している価値ある資産をいいます。たとえば余剰現金、遊休不動産、投資有価証券、保険積立金などです。

つまり、企業価値は「本業の価値」と「本業以外の資産価値」を合わせたものです。会社を外から見たときの総合的な価値に近い考え方です。

ただし、企業価値は株主だけのものではありません。会社には銀行借入などの債権者に帰属する部分もあります。ここを飛ばしてしまうと、譲渡価格の理解がずれます。

株式価値は株主に帰属する価値

株式価値は、企業価値のうち株主に帰属する価値です。株式譲渡で会社を売却する場合、経営者が受け取る譲渡対価のベースになるのは、通常この株式価値です。

計算の考え方は、企業価値から有利子負債を差し引くことです。有利子負債とは、銀行借入や社債など、利息を伴って返済する負債をいいます。実務では、手元の余剰現金を有利子負債から控除した「純有利子負債」または「ネットデット」という考え方を使うこともあります。

上場会社では、株価に発行済株式数を掛けた時価総額が、株式価値に近い指標として使われます。一方、非上場会社には市場株価がないため、評価手法を使って株式価値を算定します。

EVとEQVの意味も確認する

資料では、事業価値や企業価値をEVと表すことがあります。EVはEnterprise Valueの略です。実務では、文脈によって事業価値を指す場合と、企業価値に近い意味で使われる場合があります。

株式価値は、Equity ValueまたはShareholder Valueと表されます。EQVと略されることもあります。英語表記を丸暗記する必要はありませんが、EVと書かれた数字が何を含んでいるかは必ず確認すべきです。ここを曖昧にしたまま意向表明書を読むと、後で価格交渉がかみ合わないことがあります。

関係式で見る企業価値と株式価値

3つの価値は、別々に存在しているわけではありません。順番に積み上げ、または差し引くことでつながっています。

基本式は次のように整理できます。


企業価値 = 事業価値 + 非事業用資産

株式価値 = 企業価値 - 有利子負債


実務上は、余剰現金を「非事業用資産」として企業価値に足す方法と、ネットデット計算で有利子負債から控除する方法があります。どちらの整理でも、同じ資産を二重に加算しないことが重要です。

事業価値から企業価値を計算する

事業価値は、会社の本業が生み出す価値です。ここに余剰現金や遊休不動産などを加えると、企業価値になります。

たとえば、本業の価値が3億円、遊休不動産や余剰現金などの非事業用資産が5,000万円あれば、企業価値は3億5,000万円という整理になります。もちろん、実際のM&Aでは税金、簿外債務、資産の換金可能性なども確認します。式だけでは決まりません。

企業価値から株式価値を計算する

株式価値は、企業価値から有利子負債を差し引いて考えます。会社全体に価値があっても、借入金が大きければ株主の取り分は小さくなります。

ここで経営者が見落としやすいのは、借入金の額面だけで判断しないことです。手元に十分な余剰現金があれば、実質的な負担は小さく見られる場合があります。一方で、運転資金として必要な現金まで余剰現金と見ると、買い手との認識がずれます。

M&A実務では、運転資金として必要な現金、返済予定の借入、役員借入金、リース債務、未払税金などを分けて確認します。地味な作業ですが、ここで株式価値が動きます。

株式譲渡と事業譲渡で注目する価値が変わる

株式譲渡では、会社の株式を買い手に譲渡します。そのため、譲渡価格の中心になるのは株式価値です。会社に資産も負債も残ったまま、株主が変わるイメージです。

一方、事業譲渡では、特定の事業や資産・負債を選んで譲渡します。この場合は、対象となる事業そのものの価値、つまり事業価値が出発点になります。不要な不動産や過大な借入を譲渡対象から外せる一方、契約や許認可、従業員対応などの手続が重くなることもあります。

同じ会社売却でも、どのスキームを選ぶかで評価の見方は変わります。M&A実務では、価値評価とスキーム選定を別々に考えないことが大切です。

貸借対照表で価値の構成をつかむ

数字の関係が分かりにくいときは、貸借対照表を時価ベースで見ると理解しやすくなります。左側には、会社がどのような資産で価値を生んでいるかが並びます。右側には、その価値が誰に帰属するかが並びます。

左側には、事業価値と非事業用資産があります。右側には、有利子負債と株式価値があります。左右の合計が企業価値になる、と考えると全体像が見えてきます。


企業価値・事業価値・株式価値の関係

資産側は事業用と非事業用に分ける

資産側では、まず事業に使っている資産と、使っていない資産を分けます。事業用資産には、設備、在庫、営業用車両、特許、ソフトウェア、顧客基盤などが含まれます。顧客基盤やノウハウは決算書に直接載らないこともありますが、買い手にとっては重要な価値です。

非事業用資産には、余剰現金、遊休地、投資不動産、満期保有の有価証券などがあります。これらは本業の稼ぐ力とは別に評価されます。買い手がその資産を必要としない場合、譲渡前に処分する、オーナー側に残す、価格調整で扱うなどの選択肢が出ます。

負債・純資産側は債権者と株主に分ける

負債・純資産側では、まず債権者の取り分を確認します。銀行借入や社債などは、会社が返済すべきものです。したがって、企業価値から差し引いて株式価値を考えます。

その残りが株主の取り分です。ただし、決算書の純資産と株式価値は一致するとは限りません。純資産は会計上の帳簿価額をもとにした数字であり、株式価値は将来の収益力、資産の時価、買い手との相性、リスクなどを反映して決まるためです。

純資産だけで売却価格を決めない

中小企業では、「純資産が1億円だから会社も1億円」と考えてしまうことがあります。これは分かりやすい反面、将来の利益や強みを反映しにくい考え方です。

逆に、純資産が小さくても、安定した顧客基盤や高い利益率、買い手との相性があれば、株式価値が純資産を上回ることがあります。M&Aでは、決算書に載る数字と、決算書に載らない強みの両方を説明できる状態にしておく必要があります。

M&Aで評価額を算定する流れ

M&Aの価値評価は、いきなり株式価値を決める作業ではありません。通常は、事業価値を見積もり、非事業用資産を加え、有利子負債を差し引き、株式価値に近づけていきます。

この流れを知っておくと、買い手から提示された価格がどの段階の数字なのかを確認しやすくなります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。提示額の見た目だけを見て、企業価値なのか株式価値なのかを確認しないまま交渉に入ってしまうためです。

ステップ1 事業価値を算定する

最初に、本業がどれだけの価値を生むかを見ます。代表的な方法として、将来のキャッシュフローを現在価値に直すDCF法があります。DCF法は、将来の事業計画をもとにするため、成長性や投資計画を反映しやすい一方、前提条件によって結果が大きく変わります。

中小企業では、DCF法だけでなく、時価純資産法や類似会社比較法、年買法のような実務上の目安も併用されます。1つの方法だけで決めるのではなく、複数の角度から価格帯を確認するのが一般的です。

ステップ2 非事業用資産を加える

次に、事業価値に非事業用資産を加えます。余剰現金、遊休不動産、投資有価証券などがある場合は、事業価値とは別に評価します。

ただし、すべての現金が余剰とは限りません。仕入代金、賞与、税金、借入返済など、会社を回すために必要な現金もあります。買い手は、買収後に事業を継続するために必要な運転資金を重視します。売り手側が「現金はすべて余剰」と考えていても、買い手が同じ見方をするとは限りません。

ステップ3 有利子負債を差し引く

最後に、有利子負債やネットデットを差し引き、株式価値を算定します。ここで株主に帰属する価値が見えてきます。

注意したいのは、負債の範囲です。銀行借入だけでなく、役員借入金、リース債務、退職給付債務、未払税金、保証債務の可能性などが論点になる場合があります。全部を機械的に差し引くわけではありませんが、買い手がリスクとして見れば価格交渉に影響します。

提示額の前提を必ず確認する

買い手から「評価額は3億円です」と言われたとき、その3億円が事業価値なのか、企業価値なのか、株式価値なのかを確認する必要があります。言葉が同じでも、受け取れる金額は大きく変わります。

確認すべき点は、現金を含むのか、借入金を差し引いた後なのか、役員借入金をどう扱うのか、譲渡時点の運転資金をいくら見込んでいるのかです。細かく見えますが、最終条件では大きな差になります。

譲渡価格を左右する資産と負債

企業価値、事業価値、株式価値の違いを理解した後は、自社のどの項目が価格に影響するかを見ます。ここを整理しておくと、買い手との面談や資料提出で説明がしやすくなります。

余剰現金は扱いを誤ると認識がずれる

余剰現金は、企業価値を高める要素にもなりますが、ネットデットの計算で有利子負債から控除されることもあります。どちらの方法を使うかは、評価資料の前提次第です。

問題は、同じ現金を二重に評価してしまうことです。非事業用資産として加算し、さらにネットデットでも控除すれば、株式価値が過大になります。逆に、必要な運転資金まで余剰現金として扱うと、買収後の資金繰りに不安が残ります。

遊休不動産や投資資産は売却前に方針を決める

遊休不動産や投資有価証券は、本業に必要なければ非事業用資産として扱います。買い手が必要としない資産を会社に残したまま売却すると、価格交渉が複雑になります。

売却前に処分する、会社分割などで切り離す、オーナー側が買い取る、価格に反映するなど、方法はいくつかあります。ただし、税務や資金繰りに影響するため、思いつきで動かないことが大切です。特に含み益のある不動産を処分する場合は、税負担まで見た手取り額を確認する必要があります。

役員借入金と個人保証は早めに整理する

中小企業では、社長個人から会社への役員借入金が残っていることがあります。これを負債として扱うのか、返済してから譲渡するのか、資本に近いものとして整理するのかで、株式価値の見え方が変わります。

また、銀行借入に個人保証が付いている場合、M&A後に保証が解除されるかも大きな関心事です。株式価値だけを見ていても、保証が残れば経営者の不安は消えません。価格とあわせて、金融機関対応も早めに確認しましょう。

帳簿にないリスクも価格調整の対象になる

未払残業代、未払税金、訴訟リスク、環境対応、古い契約の解除条件など、決算書だけでは見えないリスクもあります。買い手がデューデリジェンスでこれらを見つけると、価格引下げや表明保証の追加を求めることがあります。

デューデリジェンスとは、買い手が買収前に行う調査のことです。売り手側は、問題を隠すよりも、早めに整理して説明できる状態にしておくほうが交渉を進めやすくなります。

会社売却前に価値を高める準備

価値評価は、売却直前に数字を出して終わりではありません。準備の仕方によって、買い手の見方は変わります。高く見せるという意味ではなく、本来の強みを誤解なく伝える準備です。

利益とキャッシュフローを安定させる

買い手は、過去の利益だけでなく、今後も利益が続くかを見ます。売上が一時的に伸びていても、特定の取引先に依存している、粗利率が下がっている、在庫が膨らんでいるといった事情があれば、評価は慎重になります。

利益の安定性を示すには、月次試算表、部門別損益、主要取引先別の売上推移、粗利率の変化などを整理しておくと効果的です。数字で説明できる会社は、買い手の不安を減らせます。

決算書に載らない強みを言語化する

特許、ノウハウ、従業員の技能、顧客基盤、地域での信用、許認可、業務マニュアルなどは、決算書にそのまま載らないことがあります。しかし、買い手にとっては価値の源泉です。

たとえば、社長の頭の中だけにある営業ノウハウを、顧客別の提案資料や引継ぎ資料に落とし込むだけでも、買い手の安心感は変わります。属人化している強みを、仕組みとして説明できるようにする。これが評価を上げる準備になります。

評価基準日を意識して資料を整える

企業価値や株式価値は、いつの時点で評価するかによって変わります。決算直後、繁忙期後、借入返済後、大口入金後など、タイミングによって現金残高や利益見通しが変わるためです。

売却を考え始めたら、少なくとも直近3期分の決算書、月次試算表、借入明細、固定資産台帳、主要契約、株主名簿、役員借入金の明細を整えておきましょう。資料が揃っている会社は、買い手から見ても信頼しやすくなります。

専門家に相談する前に決めておきたいこと

相談前に完璧な評価額を出す必要はありません。ただし、経営者として何を優先したいかは整理しておくとよいでしょう。譲渡価格を最優先するのか、従業員の雇用を守りたいのか、取引先への影響を抑えたいのか、個人保証を外したいのか。優先順位によって、選ぶスキームや交渉の進め方が変わります。

企業価値、事業価値、株式価値の違いを理解しておくと、専門家との会話も具体的になります。「自社はいくらか」だけでなく、「どの価値を、どの前提で見ているのか」を確認できるようになります。

まとめ

企業価値は会社全体、事業価値は本業の稼ぐ力、株式価値は株主の取り分を示します。会社売却では、企業価値から負債や余剰資産の扱いを調整した株式価値が重要です。早めに資産・負債・強みを整理し、価格交渉の前提を確認しましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人