企業価値、事業価値、株式価値の違いと関連性を解説します。これらの概念の理解はM&Aや企業評価に不可欠です。英語表記や評価方法、企業価値向上のポイントも紹介します。
目次
▶目次ページ:企業価値評価(価値評価の概要)
企業価値とは、企業全体の価値を表す重要な指標です。この概念は、M&A(合併・買収)の検討時に特に重要となります。企業価値は主に事業価値で構成されますが、非事業資産も含まれるため、これらを合計して算出されます。
企業価値は時に株式価値(時価総額)と混同されがちですが、両者は異なる概念です。株式価値は企業価値の一部であり、株主に帰属する部分を指します。貸借対照表で言えば、純資産額にほぼ相当します。
M&Aの交渉過程において、企業価値は取引価額を決定する上で重要な数値となります。そのため、売り手と買い手の双方が納得できる形で算出することが不可欠です。
企業価値と密接に関連する「事業価値」と「株式価値」について、簡潔に説明します。
事業価値は、その事業が将来生み出すと予想されるフリー・キャッシュ・フローの現在価値を指します。この価値には、以下の要素が含まれます。
• 貸借対照表上の純資産(資産から負債を差し引いた額)
• 超過収益力(のれん)
• 無形資産
• 知的財産価値
ただし、事業に直接関係のない資産(例:現金預金、遊休資産、投資用有価証券)は事業価値に含まれません。
M&Aの手法として「事業譲渡」を選択する場合、この事業価値が譲渡価格算出の基礎となります。
株式価値は、企業価値のうち株主に帰属する部分を指します。上場企業の場合、一般的に時価総額(株価×発行済株式数)として表されます。
M&Aで「株式譲渡」を選択する場合、この株式価値が譲渡価格交渉のベースとなります。多くのM&Aが株式譲渡の形で行われるため、売り手のオーナー経営者と買い手の双方にとって、最も関心の高い価値評価となります。
企業財務やM&A取引の現場では、英語の略語が頻繁に使用されます。企業価値、事業価値、株式価値のそれぞれの英語表記を理解しておくことは重要です。また、価値評価を行う行為はバリュエーション(valuation)と呼ばれます。
各用語の一般的な英語表記は以下の通りです。
• 企業価値:EV(Enterprise Value、またはCorporate Value)
• 事業価値:EV(Enterprise Value、またはBusiness Enterprise Value)
• 株式価値:EQV(Equity Value、またはShareholder Value)
EV(Enterprise Value)は、企業価値と事業価値の両方の意味で使用されることがあります。本来、EVは事業価値を指しますが、実務上では企業価値としても表現されることが慣習化しています。
そのため、EVという略語を目にした際には、文脈に応じてそれが企業価値を指しているのか、事業価値を指しているのかを判断する必要があります。
企業価値、事業価値、株式価値は密接に関連していますが、それぞれ異なる概念です。これらの関係性を理解することは、M&Aや企業評価において非常に重要です。
企業価値・事業価値・株式価値の関係
前述の通り、企業価値には非事業用資産も含まれるため、企業価値と事業価値は異なる概念です。両者の関係は以下の式で表すことができます。
事業価値 = 企業価値 - 非事業用資産
ここで、非事業用資産とは事業に直接利用されていない資産の価値を指します。例えば、以下のようなものが該当します。
• 余剰キャッシュ
• 収益物件・遊休不動産(時価)
• 保険積立金(時価)
株式価値は、企業全体の価値である企業価値から有利子負債を差し引いたものとして定義されます。この関係は以下の式で表すことができます。
株式価値 = 企業価値 - 純有利子負債
ここで、純有利子負債は以下のように計算されます。
純有利子負債 = 有利子負債 - (余剰キャッシュ + 短期売買有価証券(時価))
この関係性を理解することで、企業価値と株式価値の違いをより明確に把握することができます。
企業価値、事業価値、株式価値の評価は、M&Aや投資判断において非常に重要です。これらの価値を適切に評価するためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
企業価値・事業価値を評価する方法には、主に以下の3つのアプローチがあります。
1. コストアプローチ
o 評価対象会社の保有する資産や負債を評価する方法
o 貸借対照表の純資産に焦点を当てる
o 主な手法:簿価純資産法、時価純資産法
o メリット:算出根拠が明確
o デメリット:収益状況や将来性の反映が難しい
2. マーケットアプローチ
o 同業や類似事業の指標を比較・分析して企業価値を評価する手法
o 主な手法:類似企業比較法、類似業種比較法など
o メリット:客観的な評価が可能
o デメリット:未上場企業やスタートアップの評価が難しい場合がある
3. インカムアプローチ
o 将来的に生み出す予想キャッシュフローや収益を現在価値に割り引いて算出する方法
o 主な手法:DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)、収益還元法、配当還元法
o メリット:将来性やシナジーを評価に反映できる
o デメリット:主観的になりやすい
これらの手法を適切に組み合わせることで、より精度の高い価値評価が可能になります。業界特性やM&Aの目的に応じて、最適な評価方法を選択することが重要です。
M&Aにおいて企業価値を向上させるためには、以下の3つのポイントに重点を置いて取り組むことが効果的です。
1. 収益力の向上
o 営業力強化による売上高の増加
o コスト削減による利益率の改善
o 具体的な施策例:
・提携先の拡大
・事業エリアの拡大
・業務の外注切り替え
・生産管理の精度向上
2. 投資効率の改善
o 遊休資産の整理・処分
o 未使用の倉庫や不良在庫の見直し
o 注意点:遊休資産の放置はコスト増加や企業価値低下につながる
3. 財務の健全化
o 不良資産への適切な対応
o 借入金の計画的な返済
o 健全な財務構造の構築
これらのポイントに注力することで、企業価値の向上が期待できます。特に、事業価値を高めつつ健全な財務を構築することが、企業価値向上に直結する重要な戦略となります。
企業価値、事業価値、株式価値は密接に関連しながらも異なる概念です。これらの価値は、M&Aや市場取引において重要な指標となります。日々の企業活動においてこれらの価値を意識することで、より健全な会社運営が可能となります。また、M&Aを検討する際の交渉条件の基礎としても重要な役割を果たします。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事