不動産を活用した事業承継対策のポイントと効果的な進め方を解説

法人所有と個人所有の違い、株価の引下げや小規模宅地等の特例など4つの主な対策と3つのリスクを交えて、不動産を活用した事業承継の進め方を詳しく解説します。生前贈与や負債の引継ぎなどに伴う問題点も押さえ、後継者へのスムーズな承継を支援するポイントを分かりやすく紹介します。

目次

  1. 事業承継と不動産の基本
  2. 不動産の所有形態による2つの承継パターン
  3. 不動産を活用した事業承継対策の4つの方法
  4. 不動産活用による3つのリスクと注意点
  5. その他の事業承継対策
  6. 事業承継を成功させるためのポイント
  7. まとめ

事業承継と不動産の基本

事業承継とは、会社の経営権や事業に不可欠な資産を後継者に引き継ぐことです。中小企業の場合、経営者個人が保有する土地や建物を会社に貸与しているケースも多く、事業用資産としての不動産は大きなウェイトを占めます。

一方で、後継者が会社株式を承継しても、経営者個人の不動産はそのままでは承継されません。事業運営に必要な設備や資金はもちろん、会社所有か個人所有かによって承継方法が異なるため、早い段階で現状を整理し、適切な対策を検討することが重要です。

また、不動産はノウハウや機械装置などと同様に、税負担面でも見逃せないポイントです。相続税や贈与税が発生する場合でも、不動産を上手に活用することで評価額の引下げなどの節税効果が期待できます。しかし、不動産価格変動によるリスクや、借入を伴う不動産購入の是非など、注意すべき課題も少なくありません。

不動産の所有形態による2つの承継パターン

不動産の承継方法を考える際には、所有者が会社か個人かで大きく二つのパターンに分けられます。

会社が不動産を保有している場合

会社名義で不動産を保有している場合、事業承継時は基本的に「株式の承継」によって不動産も合わせて後継者に引き渡されます。会社の預貯金や設備投資に用いる機械類などと同様、法人所有の不動産は株式を通じて一括して承継される仕組みです。

そのため、あらためて不動産の移転手続を行う必要はありません。ただし、会社が保有する不動産が高額であると、その分だけ株価が上昇する場合があります。事業承継の株価算定においては、会社が保有する不動産評価を含めた純資産をもとに計算されることが一般的です。よって、いかに不動産評価を見直し、適切に引き下げられるかが重要な検討ポイントとなります。

経営者個人が不動産を保有している場合

会社ではなく経営者個人が不動産を所有している場合、株式を後継者に譲っただけでは、その不動産の所有権は自動的に引き継がれません。経営者個人が所有する土地や建物を会社に貸し出し、賃料を得ているケースなどでは、改めて個人資産としての不動産承継についても対策を立てる必要があります。

さらに、相続時に不動産をどのように分配するのか、または生前贈与を使うのかなど、資産の承継方法によって税負担や手続の手間が大きく変わります。特に、事業に必要な不動産だけを後継者が継ぐ場合、他の相続人とのバランスも考慮しなければ、相続トラブルに発展するリスクがあります。

不動産を活用した事業承継対策の4つの方法

不動産は、事業承継対策として節税や資金対策に大いに役立つ一方、具体的な進め方を誤ると逆効果になる恐れもあります。ここでは、不動産を活用した代表的な4つの方法について解説します。

1. 不動産購入による株価や評価額の引き下げ

相続税や贈与税では、現金よりも不動産の評価額が低く算定される傾向があります。とくに路線価や固定資産税評価額による算定は、実勢価格(時価)よりも低くなるため、会社や個人が現金を不動産に変えて保有することで、株価や相続税評価額の引き下げを狙うことが可能です。

ただし、取得から3年以内に株式評価のタイミングが来る場合は、「購入価格」に近い額で評価されることがあり、必ずしも評価減が期待できないことがあります。さらに、必要のない不動産をむやみに購入すれば、返済負担や維持費が大きくなり、資金繰りを圧迫するリスクも否めません。

2. 不動産評価の見直し

会社が所有している不動産の帳簿価格と、実際の相場が大きく異なるケースも珍しくありません。地価の下落や土壌汚染の影響などを考慮すると、現状の帳簿価格が過大評価となっている場合があります。

このようなときは、不動産鑑定士などの専門家に依頼し適切な評価額を算定してもらうことで、株価を含む会社全体の評価を適正に下げられる可能性があります。特に、以前のバブル期に高値で購入した不動産などを保有している場合は、一度評価を見直すことで事業承継時の税負担軽減につながります。

3. 生前贈与の活用

不動産に限らず、事業承継では生前贈与を計画的に行うことが有効な対策の一つです。生前贈与を利用すれば、相続時の課税財産を減らすことができ、さらに年間110万円の基礎控除もあるため、贈与税をかけずに財産を移転できる可能性があります。

また、後継者となる人物に不動産をあらかじめ贈与しておけば、相続が開始してからトラブルになるリスクを下げられるメリットもあります。ただし、いきなり大きな財産を贈与すると高額の贈与税が発生する恐れがあるため、税理士など専門家のアドバイスを受けながら最適なタイミングを検討することが重要です。

4. 小規模宅地等の特例を活用

経営者個人が所有する土地を、相続を機に後継者へ承継する場合、小規模宅地等の特例が使える可能性があります。要件を満たせば、事業用宅地として評価額を80%減額できるため、課税額の大幅な引下げが期待できます。

ただし、適用条件や限度面積、継続要件があり、土地の使用状況によっては評価減率が異なる場合があります。事業承継で適用を受けるには慎重な判断が必要なので、早期に検討し、専門家に相談することが望ましいです。

不動産活用による3つのリスクと注意点

不動産を活用した事業承継には、評価額の引下げなどのメリットがある一方、以下のようなリスクにも留意する必要があります。

1. 不動産価格下落のリスク

事業承継対策の一環として取得した不動産を売却する前提がある場合、価格が下落すると想定していたほどの利益が得られない可能性があります。むしろ損失が生じてしまうと、税負担軽減策の効果を大きく損ねる結果につながります。景気や立地条件を考慮しながら、慎重に物件を選定する必要があります。

2. 不動産価格上昇による課税リスク

価格下落だけでなく、急激な上昇も要注意です。取得後3年以内に事業承継を行う際は、不動産の評価が購入価格(時価)に近い金額とみなされるケースがあります。結果として株式や資産評価が高くなり、相続税・贈与税が増える可能性があります。

3. 借入金や個人保証の負担

不動産を購入する際に金融機関からの借入を利用すると、その債務は後継者に引き継がれます。借入金の返済や個人保証の負担を敬遠して、後継者が事業承継を断るケースも少なくありません。対策としては、当初から返済計画と資金繰りの見通しを明確にし、後継者の理解を得ることが必須です。

その他の事業承継対策

不動産の活用以外にも、以下のような方法で税負担やトラブルを抑え、スムーズな承継を実現することが可能です。

生前贈与以外の遺言書作成

株式や不動産などを確実に後継者へ承継するには、遺言書を用意しておくと有利です。遺留分に配慮しながら、必要な資産を誰にどの程度渡すのかを明確に定めておくことで、後継者以外の相続人との摩擦を軽減できます。

生命保険の活用

生命保険を活用すれば、万一の際に後継者が受け取った保険金は原則として遺留分の対象外とされるため、他の相続人との公平性を保ちつつ後継者に資金を集中的に残せる可能性があります。ただし、極端に高額な保険金を設定すると例外的に遺留分計算に含まれるケースもあり、専門家の判断が欠かせません。

事業承継税制の活用

後継者が取得した自社株に対して、一定の要件を満たすことで贈与税や相続税の納税を猶予・免除する制度があります。特に、会社を手放さずに継続経営することが前提の株式では、この制度が極めて有用です。ただし、雇用維持要件などを満たす必要があるため、将来的な経営計画と併せて慎重に検討することが求められます。

事業承継を成功させるためのポイント

  • 早期の計画立案

     早めに取り組むほど対策の幅が広がり、必要に応じて贈与や評価額引下げのタイミングを調整できます。

  • 専門家への相談

     税理士や会計士、場合によっては弁護士などの力を借りることで、株価の算定やスキーム設計を正確に行えます。

  • 後継者以外の家族との連携

     経営に関わらない相続人の納得を得ておかないと、遺留分請求などの問題が起こりやすくなります。

まとめ

不動産を活用した事業承継対策は、株価や所有資産の評価を下げる効果が期待できる一方、価格変動や債務承継などのリスクも伴います。早期から方針を検討し、専門家の助言を受けて複数の方法を組み合わせることが大切です。後継者と十分に話し合い、家族全体の理解を得ながら実行することで、スムーズな承継と経営の安定が実現しやすくなります。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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