事業承継対策における不動産活用の重要性と具体的な方法を解説します。4つの活用方法と3つの注意点を詳しく紹介し、効果的な事業承継戦略の立案に役立つ情報を提供します。
事業承継において、会社の株式取得と経営権掌握が最重要課題ですが、同時に会社が保有する様々な資産も引き継ぐ必要があります。これらの資産には、ノウハウや設備、事業用不動産などが含まれます。資産の状況によっては、相続税や贈与税の負担が大きくなる可能性がありますが、不動産は事業承継対策において税負担を軽減する重要なアイテムの一つとなります。
具体的には、以下のような方法で不動産を活用することができます:
1. 不動産購入による所有不動産の評価減
2. 各種税制優遇措置の適用
これらの方法を適切に活用することで、事業承継時の税負担軽減に効果を発揮することができます。
ただし、不動産を活用した事業承継対策には注意すべき点もあります:
• 不動産価格の変動リスク
• 税制優遇措置適用のための要件クリア
• 対策実施のタイミング
これらの点を考慮しながら、事業承継対策を検討することが重要です。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継とは)
不動産を活用した事業承継対策には、主に4つの方法があります。これらの方法を適切に組み合わせることで、事業承継時の準備資金の減額や税負担の軽減を図ることができます。
事業承継の実行前に新たな不動産を購入しておくことで、所有不動産の評価額や自社株評価額を引き下げる効果が期待できます。この方法が有効な理由は、不動産の評価方法にあります。
一般的に、不動産の評価は「時価」を基準としますが、相続税や贈与税などの税務上の評価では、時価よりも低い価格で評価される場合があります。具体的には、以下の評価方法が用いられます:
• 国税庁が発表する「路線価」
• 市区町村が決定する「固定資産税評価額」
これらの評価額は、通常、時価の7〜8割程度の価格で設定されているため、所有不動産評価額や自社株評価額を下げる効果があります。
例えば、時価1億円の不動産(土地)を購入した場合、路線価での土地の評価は7,000〜8,000万円程度となります。現金で1億円を保有するよりも評価額が低くなるため、所有不動産や自社株評価額が低くなる可能性があります。
会社が所有する不動産の評価額を見直すことで、所有不動産や自社株の評価額を下げることができる場合があります。
通常、会社が不動産を購入した場合、その購入金額が不動産の評価額として貸借対照表に記載されます。しかし、以下のような状況では、不動産の評価額の見直しが可能です:
• バブル期の最高値で購入した不動産で、現在の相場と大きく乖離がある場合
• 土地の状況が荒廃している場合
• 土壌汚染が確認された場合
このような状況下で不動産の評価額を見直すことで、所有不動産や自社株の評価額を下げることができます。事業承継前にこの評価額の見直しを行うことは、効果的な事業承継対策の一つと言えます。
生前贈与は、事業承継の税負担対策として有効な方法の一つです。この方法には以下のようなメリットがあります:
1. 法定相続人以外の人物を相続人とすることが可能
2. 希望する相手に確実に不動産を引き継ぐことができる
3. 年間110万円までの基礎控除があり、贈与税がかからない
計画的に生前贈与を活用することで、税負担を軽減できる可能性があります。また、生前贈与を利用することで相続対象資産そのものを減らすことができるため、相続時の税負担軽減効果も期待できます。
特定事業用の小規模宅地等の特例は、事業用の土地を相続し事業を継続する場合に適用できる税制優遇措置です。この特例を利用すると、一定の面積以下の土地について、評価額を80%減額することができます。
つまり、相続時には土地の評価額の20%部分のみが相続の対象となるため、事業承継対策として非常に有効な方法と言えます。
ただし、この特例の適用には注意点があります:
• 相続時の場合:相続人が相続税の確定申告まで土地を所有し事業を継続していれば問題ありません。
• 生前に事業を承継した場合:一定の要件を満たす必要があります。
• 不動産の使用状況によっては、別の小規模宅地等の特例が適用され、評価減率が低くなる可能性があります。
これらの点に注意しながら、小規模宅地等の特例を活用することで、効果的な事業承継対策を行うことができます。
不動産を活用した事業承継対策には、いくつかの注意点があります。主要な3つのリスクについて解説します。
事業承継対策の一環として不動産を購入し、事業承継後に売却を前提としている場合、不動産価格の下落リスクに注意する必要があります。購入した不動産の価格が下落すると、以下のようなデメリットが生じる可能性があります:
• 事業承継対策として得られるメリットよりも、不動産売却時の損失が上回る
• 税負担軽減効果が期待通りに得られない
このリスクを回避するためには、以下のような対策が考えられます:
1. 価格が下落しにくい優良な不動産を選定する
2. 事業に関連する不動産(新しい拠点や倉庫など)を購入し、事業拡大や業務効率化を図りつつ事業承継対策を講じる
不動産価格の下落だけでなく、急激な上昇にも注意が必要です。購入後3年以内の不動産の評価は、評価時における通常の「取引価額相当額」で評価されるため、購入した不動産価格が急激に上昇した場合、税務上の不利益となる可能性があります。
具体的には以下のようなデメリットが生じる可能性があります:
• 土地の評価額上昇により、事業承継時の評価額も上昇
• 事業承継時の準備資金や税負担が増加
• 事業承継対策としての本来の目的を達成できない
そのため、事業承継対策として不動産を購入する場合は、購入後の急激な価格上昇が見込まれる要因がないか、慎重に見極める必要があります。
不動産購入資金を金融機関等からの借入で調達した場合、節税効果が得られることがあります。しかし、この借入金はそのまま後継者に引き継がれるため、以下のような問題が生じる可能性があります:
• 後継候補者が事業承継を敬遠する
• 「借入金や個人保証の引き継ぎ」が理由で事業承継を断られる
実際に、後継者が事業承継を断る理由として、借入金や個人保証の引き継ぎが挙げられることが多いのが現状です。
事業承継対策として不動産の購入を検討する際は、以下の点を十分に考慮する必要があります:
1. 借入を行ってまで実施すべき対策なのか
2. 後継者候補と十分に議論を行う
3. 借入金の返済計画を明確にする
これらの点を慎重に検討することで、債務承継に関するリスクを最小限に抑えることができます。
不動産を活用した事業承継対策は、後継者にとって非常に有効な手段の一つです。適切な対策を講じることで、準備資金や税負担を大きく軽減することが可能です。ただし、これらの対策は会社の評価や税金に関わる専門的な知識が必要となります。そのため、税理士や会計士などの専門家に相談しながら、慎重に事業承継対策を進めていくことが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事