中国企業とのM&Aの特徴や現状、メリット・デメリットを詳しく解説します。また、具体的な成約事例や実施時の注意点も紹介します。中国企業とのM&Aを検討している方は必見です。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(様々なM&A)
中国企業とのM&Aには、いくつかの特徴的な要素があります。まず、中国が世界第2位の経済大国へと成長したことが、M&A市場にも大きな影響を与えています。中国企業は、自社製品の信頼性や安全性に関する課題を抱えており、これらの問題を解決するためにM&Aを活用しています。
中国企業によるM&Aの主な目的には、以下のようなものがあります:
1. 高度な技術力の獲得
2. 信頼性の高いブランドの取得
3. グローバル市場への進出
4. 事業規模の拡大
一方、日本企業が中国企業を買収する場合は、主に中国市場への進出や事業拡大を目的としています。
日本市場における中国企業のM&A活動は、以下のような変遷を辿っています:
1. 2012年以前:日本企業の中国進出を目的としたM&Aが活発
2. 2010年以降:尖閣諸島問題により一時的にM&Aが減少
3. 近年の傾向:
o 中国の経済力増大に伴い、M&Aが再び増加
o 日本企業の経営難を背景に、中国企業による買収が増加
世界規模での中国企業によるM&A活動は、以下のような影響を受けています:
1. 米中貿易摩擦の影響
2. 欧米諸国による規制強化
o 技術流出への懸念
o 知的財産保護の問題
3. 中国政府による海外投資規制
o 資本流出への懸念から投資事業に制限
これらの要因により、グローバル市場での中国企業のM&A活動は複雑化しています。各国の規制や政治的要因を考慮しながら、戦略的にM&Aを進める必要があります。
中国企業に事業を譲渡する際には、様々なメリットとデメリットがあります。これらを十分に理解し、自社の状況に照らし合わせて判断することが重要です。
中国企業に事業を譲渡するメリットには、以下のようなものがあります:
1. 最先端技術の取得:IT・通信・AI分野など、日本を上回る技術を獲得できる可能性があります。
2. グローバル化の実現:中国市場への参入や、世界市場への展開が容易になります。
3. 経営危機からの脱出:経営難に陥っている企業にとって、中国企業からの資金調達は有効な選択肢となります。
4. 利益拡大の期待:中国の巨大市場を活用することで、収益の向上が見込めます。
5. 高額な譲渡対価:中国企業は比較的高い譲渡価格を提示する傾向があります。
これらのメリットにより、日本企業は新たな成長機会を得られる可能性があります。
一方で、中国企業への事業譲渡には以下のようなデメリットも存在します:
1. 言語の壁:社内の公用語が中国語になる可能性があり、コミュニケーションに支障をきたす恐れがあります。
2. 従業員の理解と適応:従業員の理解を得ることが必要で、新しい環境への適応に時間がかかる場合があります。
3. 文化の違い:中国の文化や慣習に慣れるまでに時間を要する可能性があります。
4. メンタリティーの相違:日本人と中国人の考え方の違いから、組織内でのハレーション(悪影響)が起こる可能性があります。
これらのデメリットを最小限に抑えるためには、事前の十分な準備と、継続的なコミュニケーションが必要です。
日本企業が中国企業を買収する場合にも、様々なメリットとデメリットがあります。これらを慎重に検討し、自社の戦略に合致するかを見極める必要があります。
中国企業を買収するメリットには、以下のようなものがあります:
1. 巨大市場での事業展開:中国の巨大な消費市場にアクセスできます。
2. グローバル展開の足がかり:中国進出を契機に、世界市場への展開を目指すことができます。
3. 豊富な労働力の確保:中国の豊富な人材を活用できます。
4. 規制緩和の恩恵:2025年までの5か年計画で外国企業の規制緩和が進んでおり、参入しやすい環境が整っていま
す。
これらのメリットを活かすことで、日本企業は新たな成長機会を得られる可能性があります。
中国企業を買収する際のデメリットには、以下のようなものがあります:
1. 法規制の変更リスク:現行の法律や規制、法解釈が変更されることで、経営方法の変更を余儀なくされる可能性が
あります。
2. 世界経済の影響:米中の貿易摩擦など、世界の経済状況の変化による影響を受けやすくなります。
3. 柔軟な経営対応の必要性:中国市場の特性に合わせて、経営方針を臨機応変に変更する必要が生じる可能性があり
ます。
これらのリスクを軽減するためには、常に最新の情報を収集し、迅速な意思決定ができる体制を整えることが重要です。
中国企業が関与したM&A事例を分析することで、実際の取引の特徴や傾向を把握することができます。ここでは、日本企業から中国企業への譲渡事例、日本企業による中国企業買収の事例、そして中国企業による海外企業買収の事例を紹介します。
1. NECと富士通のパソコン事業
o 買収企業:Lenovo(聯想集団)
o 年:2011年(NEC)、2018年(富士通)
o 結果:NECレノボ・ジャパングループとして経営一体化、富士通は独立運営
2. 三洋アクア
o 買収企業:Haier(海爾集団)
o 年:2011年
o 背景:三洋アクアの経営難、パナソニック子会社化後の部門重複
3. 東芝ライフスタイル
o 買収企業:Midea(美的集団)
o 年:2016年
o 目的:グローバル化、ブランド力獲得
4. 東芝映像ソリューション株式会社
o 買収企業:ハイセンスグループ(海信電器株式会社)
o 年:2018年
o 背景:東芝の経営難
5. タカタ
o 買収企業:ジョイソン・エレクトロニクス(寧波均勝電子)
o 年:2018年
o 背景:欠陥エアバッグのリコールによる経営破綻
6. 本間ゴルフ
o 買収企業:マーライオン・ホールディングス
o 年:2012年
o 目的:技術力と品質の高さによる信頼性獲得
7. ホテルみかわ
o 買収企業:日本山嶼海(さんよかい)株式会社
o 年:2017年
o 背景:6期連続赤字による経営難
8. 池貝
o 買収企業:上海電気(集団)総公司、後に台湾の友嘉実業集団
o 年:2004年
o 目的:大型工作機械分野の技術取得
これらの事例から、中国企業による日本企業買収の主な目的が、技術力の獲得、ブランド力の向上、グローバル展開の促進であることがわかります。
1. 小林製薬株式会社
o 買収企業:江蘇中丹製薬有限公司
o 年:2017年
o 目的:中国での医薬品販売拡大
2. 国分グループ本社株式会社
o 買収企業:上海恒孚物流有限公司
o 年:2021年
o 目的:中国における事業展開の加速
3. 戸田工業
o 買収企業:江門協立磁業高科技有限公司
o 年:2021年
o 目的:サプライチェーンの安定化、事業承継
4. 株式会社マーベラス
o 提携企業:中国テンセントの香港子会社Image Frame Investment (HK) Limited
o 年:2020年
o 目的:知的財産の育成、グローバル展開
5. 小倉クラッチ株式会社
o 買収企業:砂永精工電子有限公司
o 年:2019年
o 目的:機器用クラッチの生産拡大、コスト削減
これらの事例から、日本企業による中国企業買収の主な目的が、中国市場での事業拡大、生産能力の向上、コスト削減であることがわかります。
1. IBMのパソコン部門(アメリカ)
o 買収企業:Lenovo(聯想集団)
o 年:2004年
o 結果:パソコン業界におけるシェア世界1位獲得
2. クーカ社(ドイツ)
o 買収企業:マイティアグループ(美的集団)
o 年:2016年
o 特徴:承認に時間を要した、ドイツでの規制強化につながった
3. ゼネラル・エレクトリック社の家電部門(アメリカ)
o 買収企業:ハイアール(海爾集団)
o 年:2016年
o 背景:ゼネラル・エレクトリック社の非中核事業売却、ハイアールの先進国市場開拓
4. ブリティッシュ・スチール(イギリス)
o 買収企業:敬業集団
o 年:2020年
o 目的:製品の幅の拡張、新市場獲得、ブランド力獲得
5. ボルボ社(スウェーデン)
o 買収企業:ジーリーホールディンググループ(浙江吉利控股集団)
o 年:2010年
o 結果:開発資金提供により質と安全性が向上、最高利益を達成
これらの事例から、中国企業による海外企業買収の主な目的が、先進技術の獲得、ブランド力の向上、グローバル市場でのプレゼンス拡大であることがわかります。また、買収後の積極的な投資や経営改善により、多くの企業で業績向上が見られています。
中国企業とのM&Aを成功させるためには、特有の留意点があります。法律や商慣習の違いを十分に理解し、適切な対応を取ることが重要です。
中国の法律や規制は、以下のような特徴があります:
• 法律が都合良く整備・運用される傾向がある
• 法整備が不十分な場合、政府が介入する可能性がある
• M&A時の計画が円滑に進まないケースがある
これらの特徴を踏まえ、以下のような対策を講じることが重要です:
• 法律や規制の変更に柔軟に対応できる体制を整える
• 現地の法律専門家や顧問を活用し、最新の法規制情報を常に把握する
• 契約書に法規制変更時の対応条項を盛り込む
M&Aを成功させるためには、中国に関する幅広い情報収集が不可欠です。以下のような情報を十分に調査する必要があります:
1. 中国市場の動向
2. 中国と諸外国との関係
3. 中国政府の政策や方針
4. 対象となる中国企業の経営状況
情報収集の際は、以下の点に注意してください:
• メディアの取材を受けない企業も存在するため、多角的な情報収集が必要
• 中国内部の情報に精通した専門家の活用
• 複数の情報ルートを確保し、情報の信頼性を確認
これらの留意点を踏まえ、十分な準備と慎重な判断を行うことで、中国企業とのM&Aを成功に導くことができます。
中国企業とのM&Aは、中国の経済大国としての成長を背景に、多くの可能性を秘めています。最先端技術の獲得や巨大市場への参入など、大きなメリットがある一方で、法規制の違いや文化的な障壁など、注意すべき点も多くあります。成功するためには、中国の市場動向や法規制に関する徹底的な情報収集と、適切なリスク管理が不可欠です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事