同族会社株式譲渡で失敗しない税務手続と注意点を解説
同族会社株式譲渡とは何か、どの方法を選べば良いのか、税金はいくらかかるのか。今回は株式譲渡・贈与・相続の特徴と最新税率、手続の流れまでを専門家目線でやさしく解説します。
目次
▶目次ページ:親族内承継(株式の譲渡)
同族会社は、特定の少数株主—多くはオーナー一族—が経営権を握る会社です。税法上では「主要株主3名(または3グループ)とその親族や関連法人が議決権の50%超を保有している会社」と定義されます。上場・非上場を問わずこの条件を満たせば同族会社となりますが、実際には非上場の中小企業に多い点が特徴です。議決権が集中しているため意思決定が速い一方、外部株主の視点が入りにくくガバナンスが偏るリスクもあります。
税務上は、オーナー本人と家族、特殊関係法人を合わせた議決権割合が50%を超えるかどうかで同族会社か否かが判定されます。議決権が30%超の個人またはグループも重要視され、30%基準は国税が利益操作を防ぐ目的で設けた指標です。ただし税務計算上の特例や留保金課税は「50%超」の特定同族会社に適用されるため、実務では50%ラインがより重視されます。
同族会社は株式を市場で自由に売買できないため、株価が日々形成されません。その結果、会社価値が外部評価にさらされにくい一方、後継者が株式を買い取りたい場合に時価の算定が難しくなります。こうした特徴は、中小企業の事業承継を語る上で不可欠な論点です。
同族会社が発行する株式(以下、同族会社株式)は、オーナー家や関係会社が大部分を保有します。非上場ゆえに流動性が乏しく、買手が限られることから「将来価値の予測が難しい」「時価が把握しづらい」という課題が生じます。加えて、株式譲渡に会社の承認が必要な譲渡制限が設けられているケースも多く、相対取引が前提となります。
非上場株式の価格は、公開市場で形成されるわけではなく、財務内容や業績見通しを基に個別算定します。そのため事業計画や経営環境が変動すれば株価も大きく揺れ動く可能性があります。買手は情報入手に時間とコストがかかり、売手も客観的な価格を提示しづらい点がハードルになります。
同族会社株式は市場性がないことから換金性が低く、経営支配権と結び付いて取引される傾向にあります。さらに会社法の譲渡制限規定により、譲渡には取締役会や株主総会の承認が必要です。これにより外部株主の無秩序な流入を防げますが、譲渡スキームが複雑になる面もあります。
同族会社株式を次世代に引き継ぐ方法は、大きく分けて「株式譲渡」「贈与」「相続」の3つです。それぞれ仕組みと税務が異なるため、目的や資金状況に合った選択が重要です。
株式譲渡は譲渡契約を結び、譲渡者が株式を移転し、譲受者が対価を支払う取引です。対価を得た譲渡者は創業者利益を実現でき、得た資金を新規事業や老後資金に充当できます。一方で譲渡益には所得税または法人税が課税される点に留意が必要です。
贈与はオーナーが生前に無償で株式を渡す手法で、年間110万円までは贈与税が非課税となります。相続時精算課税制度を活用すれば累計2,500万円まで贈与税を繰延できるため、早期の承継で税負担を抑える選択肢となります。ただし受贈者に資金力がなくても可能な一方、高額贈与になれば贈与税の超過累進課税が重くのしかかるため、専門家の試算が欠かせません。
相続は経営者が死亡した時点で法定相続人に株式が移転します。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、一定額までは相続税が課されません。しかし相続人が複数いる場合、株式が分散して経営権が不安定化するリスクがあります。生前に遺言書や贈与を組み合わせて承継先を明確にしておくことが望まれます。
同族会社株式の取引では、譲渡形態や譲受者の属性によって課税関係が変わります。ここでは代表的な税目を整理します。
個人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡所得に対して所得税15%と住民税5%、復興特別所得税2.1%が課され、合計税率は20.315%です。譲渡所得は「譲渡価額−(取得費+手数料等)」で計算し、取得費が不明な際は概算5%を取得費とすることも認められています。
法人が株式を譲渡した場合、益金と損金の差額である所得金額に法人税が課税されます。資本金1億円以下の普通法人などは年間800万円以下の所得部分に19%の軽減税率が適用されます。譲渡先が同族であっても基本的な税率構造は変わりません。
時価より著しく低い価額で譲渡した場合、その差額は贈与とみなされ受贈者に贈与税が課されます。税率は基礎控除後の課税価格に応じて一般税率または特例税率が適用されます。贈与税は超過累進課税で負担が大きくなるため、適正価格の設定が重要です。
個人から法人へ時価より高い価格で株式を売却すると、譲受法人では差額が寄付金とされ損金算入額に制限が設けられます。また、法人から役員へ低額で株式を譲渡した場合、差額は役員賞与とみなされ損金不算入となる点にも注意しましょう。
譲渡当事者の組み合わせごとに課税区分が変わります。代表的な4パターンを整理し、税負担のポイントを確認します。
個人が別の個人へ株式を譲渡する場合、適正価格であれば譲渡益に所得税・住民税が課されます。譲渡価額が時価より低ければ差額が贈与とみなされ受贈者に贈与税、高ければ譲渡者に所得税、受贈者に贈与税が生じる可能性があります。
個人が法人へ譲渡する場合も基本は所得税課税ですが、時価を下回る場合には総収入金額が時価で置き換えられることがあり、みなし譲渡所得が発生します。
法人から個人、特に役員や従業員へ譲渡する際は法人税が課され、譲渡価額が時価を下回ると個人側で給与所得課税が行われます。法人側は損金算入が認められる一方、個人の税負担が増える点に留意が必要です。
法人から法人へ株式を譲渡する場合、譲渡価額と時価の差額は寄付金として扱われ、受贈法人で損金算入制限がかかるケースがあります。グループ会社間であっても適正時価を意識した価格設定が不可欠です。
補足 復興特別所得税の計算例
たとえば非上場株式を1,000万円で譲渡し、取得費と手数料の合計が200万円だった場合、譲渡所得は800万円です。800万円に対して所得税15%(120万円)、復興特別所得税(120万円×2.1%=2万5,200円)、住民税5%(40万円)がかかり、合計162万5,200円の税負担になります。数字で確認すると、譲渡益の約20%が税金として差し引かれることが分かります。
補足 贈与税の超過累進税率のイメージ
贈与税は基礎控除110万円を差し引いた課税価格に応じて10%〜55%の税率が段階適用されます。同族会社株式は評価額が高額になりやすく、1,000万円を超えれば30%超の税率帯に入るため、専門家と共に複数年に分けた贈与計画を立てることが一般的です。
補足 法人税の軽減税率の使い分け
資本金1億円以下の普通法人は、年800万円以下の部分に19%が適用されるため、事業規模が小さい法人が株式を売却してキャッシュを得ても、一定範囲内なら税負担を抑えられます。ただし利益計上時期の調整や留保課税の対象となる特定同族会社かどうかによっても手取り額が変動するため注意が必要です。
事例で学ぶ譲渡パターン別の課税
ケーススタディとして、オーナー個人が役員個人へ時価1,200万円の株式を600万円で譲渡した場合を考えます。譲渡者は取得費200万円とすると譲渡所得400万円に対する所得税等約81万円を納税します。一方、受贈者は時価と譲渡価額の差額600万円が贈与とみなされ、基礎控除後490万円に対して贈与税195万円(概算)が課されます。このように譲渡価額の設定次第で双方の税負担が大きく変わるため、事前にシミュレーションを行うことが重要です。
まとめまでの前半のポイント
ここまで同族会社と株式譲渡の基礎、代表的な税目、譲渡主体の組み合わせ別の課税関係を整理しました。最も重要なのは「時価を適正に把握し、譲渡価額を決定すること」と「譲渡形態に応じた税務シミュレーションを行うこと」です。後半では、株式承継のメリット・デメリット、留意点、みなし贈与税や譲渡の具体的な流れ、そして全体のまとめまでを詳しく解説します。
同族会社の株式を次世代に承継する方法は三つあり、それぞれが税負担や資金調達など異なる利点を持ちます。自社の状況に合わせた活用が、円滑な事業承継の第一歩となります。
生前贈与では年間110万円の基礎控除を活用すれば、少額を毎年移転するだけで贈与税がかかりません。さらに相続時精算課税制度を選択すれば累計2,500万円まで非課税枠が拡大します。早期に承継を進め、相続開始時の評価額上昇リスクも抑えられる点が最大の魅力です。
株式譲渡は対価を受け取るため、譲渡者は創業者利益を確定できます。得た資金を他事業へ再投資したり、相続発生前に資金需要へ備えることが可能です。遺留分侵害のトラブルを避けやすいのも大きなメリットです。
相続では高額な基礎控除が設けられているため、大規模な株式でも非課税範囲内で承継できるケースがあります。贈与や譲渡が難しいときでも、適切な遺言書を残せば円滑な承継につながります。
利点の裏には負担やリスクも存在します。以下のポイントを理解し、最適な手段を選択しましょう。
同族会社は租税回避を防ぐため、留保金課税や役員賞与認定など特別規定が設けられています。想定外の課税が生じると、手取り資金が大幅に減少する恐れがあります。
株式譲渡では株式とともに不動産・機械設備など全資産が譲受側へ移転します。特定資産を残したい場合は株式譲渡以外の手法を検討しなければなりません。
非上場株式は情報が外部に開示されにくく、重要事項を伏せたまま譲渡すると後日契約解除や訴訟に発展するリスクがあります。デューデリジェンスで十分な説明責任を果たすことが不可欠です。
正しい価格設定と専門家の関与が、税務リスクの最小化と手続の円滑化につながります。
譲渡価額が時価より著しく低い場合、その差額が贈与とみなされ受贈者に贈与税が課されます。時価の算定には専門的手法が必要であり、第三者評価を受けると安全です。
税金計算、契約書の表明保証条項、株価評価方式の選択などは高度な判断を伴います。専門家の試算でシナリオを比較し、最適な承継計画を策定しましょう。
会社法の譲渡制限規定により、譲渡制限株式は取締役会または株主総会の承認が必要です。承認請求から決議までの手順を守らなければ譲渡は無効となります。
時価を無視した低額譲渡は、税務上「贈与」と評価され贈与税が発生します。
価格差が大きいほど贈与認定の可能性が高まります。特に親族間取引は税務署が注視しており、適正時価の証明書類を備えることが重要です。
個人間なら受贈者に贈与税、法人が受贈者の場合は受贈益の計上が必要です。取引主体の組み合わせにより課税区分が変わるため、事前に具体的な税負担を確認しましょう。
適正時価を把握するには公的指針に従った評価が欠かせません。
会社が解散した場合に株主へ分配できる金額を理論的に計算する手法です。資産が多い企業ほど評価額が高くなります。
事業内容が近い上場会社の株価や利益を指標に自社株価を算出します。業績が好調な同業他社が多い場合、評価額が上振れする傾向があります。
過去の配当実績から投資利回りを逆算し株価を求める方法で、少数株主の評価に用いられます。配当が少ない企業では低い評価額になります。
承継スケジュールを明確にし、書類不備や承認漏れを防ぐことが成功への近道です。
譲渡株数・譲渡先・希望日を明示した承認請求書を作成し、会社に提出します。内容が曖昧だと後工程で差し戻されるため詳細記載がポイントです。
会社は請求受領日から2週間以内に可否を通知する義務があります。通知が無い場合、承認されたものとみなされるため期日管理が重要です。
譲渡者と譲受者が合意した価格、支払方法、表明保証、補償条項などを契約書に落とし込み、両者が署名押印します。贈与であれば対価の項目を0円と明示します。
契約締結後、譲渡当事者連名で株主名簿書換請求を行います。会社が株主名簿を更新した時点で第三者対抗要件が備わり、株式譲渡は完了です。念のため名簿記載事項証明書を取得すると安心です。
同族会社の株式譲渡は、方法ごとに税負担と資金効果が大きく異なります。適正時価の把握、専門家の関与、会社承認の手順を徹底し、メリットを最大化しつつ贈与税や留保課税のリスクを回避しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画