同族会社とは、ある個人やその同族が企業の議決権の30%以上を保有する会社を意味します。この記事では、同族会社間で株式譲渡を行う際の税金やメリット、注意点について解説します。株式譲渡を検討している方々に、ぜひ参考にしていただきたいです。
目次
同族会社とは、いわゆるオーナー一族が会社の株式の大部分を所有している会社をいいます。民法にはない概念ですが、税法上では定義されており、主要株主3名(3グループ)で議決権の50%を保有している会社を指します。(グループには、その株主の親族やグループ会社などが含まれます。)
同族会社が発行する株式を同族会社株式といいます。これらの株式の多くは同族株主が保有しており、一般的に個人や一族によって経営されることが多いため、株式の将来価値を予測することが難しいというデメリットが存在します。
▶目次ページ:親族内承継(株式の譲渡)
同族会社間で株式譲渡を実施する際には、株式譲渡、相続、贈与のいずれかが利用されます。それぞれの特徴は以下の通りです。
• 株式譲渡:株式譲渡契約を締結し、譲渡側が株式譲渡、譲受側がその対価を支払う方法
• 相続:現在株式を保有している経営者が死亡した際に、自動的に相続人が相続する方法
• 贈与:保有している財産を生きている間に無償で贈与する方法
同族会社間で非上場株式譲渡を行う際にかかる税金の種類について解説します。
非上場株式の同族会社間での譲渡に際して発生する税金に、株式譲渡所得課税があります。この課税は、個人が非上場会社の株式を譲渡する場合に適用され、所得税と住民税が譲渡によって得られた所得に対して課されます。この株式譲渡所得課税の税率は、所得税が15%、住民税が5%の合計で20%です。また、2037年度までは、各年分の基準所得税額の2.1%が復興特別所得税として徴収されることになっています。
法人が非上場株式を譲渡する場合には、法人税が適用されます。この際、非上場株式がその法人にとって同族会社であると判断される場合、その法人は「子会社」として扱われます。株式譲渡後の関係性が、その会社が同族会社であるかどうかの判断基準となります。
法人税は、益金の額から損金の額を引いた所得金額に、原則として23.2%の税率が適用されます。ただし、各事業年度終了時における資本金の額などが1億円以下である普通法人などの場合、所得金額のうち年800万円以下の部分には19%の税率が適用されます。
個人が株式を譲渡して得た利益の場合、市場価格と取得価格の差額が株式譲渡所得として認識されます。この譲渡所得に対して所得税が課税されることになります。一般株式などに関する譲渡所得の金額の計算方法は、総収入金額(譲渡価額)から必要経費(取得費+委託手数料など)を引いたものです。その上で、譲渡所得に15%をかけたものが所得税となります。
時価よりも著しく低い価額で株式譲渡を行うなどの場合には、時価と譲渡価格の差額に対して贈与税が課税されることがあります。贈与税は、基礎控除後の課税価格に税率をかけることで算出されます。税率は、一般税率と特例税率があり、基礎控除後の課税価格によって適用税率が変わります。
個人から法人に対して、時価よりも高い価額で非上場株式譲渡をした場合、譲受側の法人において、譲渡価額と時価の差額は寄付金とみなされます。そのため、この寄付金は寄付金課税の適用を受けます。
寄付金として扱われた場合、法人側は損金として扱える点も把握しておきましょう。損金とは法人税法上、資産の減少の原因となる原価や費用、損失などのことです。
法人から役員に株式を低額で譲渡する場合、譲渡価額が時価を下回る部分は税務上の役員賞与とみなされ、損金不算入の取り扱いを受けることになります。損金不算入とは、会計上は費用で処理できても、税金の計算上は費用として認められないものを指す言葉です。
同族会社間で非上場株式を譲渡する際にかかる税金の一つに、みなし贈与税が存在します。個人が非上場株式を取引する際、時価よりも著しく低い価格で売買されることがあります。このようなケースでは、実際の取引価格と時価の差額が贈与として扱われ、みなし贈与税が適用されることがあります。
所得税法においては、個人間で株式が譲渡される場合の時価に関する具体的な規定は存在しません。しかしながら、個人から個人への株式譲渡では、相続税法に基づく株価が基準とされています。それにより、相続税法の適用によって贈与税が課されることになります。
同族会社の株式譲渡にかかる税金をパターン別に解説いたします。
同族会社において個人が別の個人に株式を譲渡する際、譲渡益に対して所得税が課されます。譲渡益とは、譲渡価格と取得原価の差額を指します。このケースは、譲渡金額が適正価格である場合に適用されます。
一方、譲渡金額が時価を下回る場合、取引価格と時価の差額に対して贈与税が課されます。逆に譲渡金額が時価を上回る場合、譲渡としての性質をもたないため、贈与と見なされ、贈与税が課されます。
同族会社において個人から法人へ株式を譲渡する場合、所得税が課されます。これは譲渡金額が適正価格である場合と、譲渡金額が時価を上回る場合のいずれにも該当します。譲渡金額が時価を下回る場合には、時価相当額を総収入金額として譲渡所得を算出されるケースがあります。
同族会社において法人から個人へ株式を譲渡する場合、法人税が課されます。これは譲渡金額が適正価格である場合と、譲渡金額が時価を上回る場合のいずれにも該当します。譲渡金額が時価を下回る場合、個人が法人の従業員や役員であると、差額が給与所得として所得税が課されます。また、譲渡側の法人同族会社は損金算入が可能です。
同族会社において法人から法人へ株式を譲渡する場合、法人税が課されます。これは譲渡金額が適正価格である場合、譲渡金額が時価を上回る場合、譲渡金額が時価を下回る場合のいずれにも該当します。譲受側の法人としては、時価と譲渡価額との差額は譲渡側への寄付金の扱いとなります。
同族会社間で株式譲渡を行う方法には、贈与、株式譲渡、相続の3つがあります。それぞれのメリットについて説明します。
同族会社間で株式を生前贈与する際のメリットとして、年間110万円の基礎控除が適用されることが挙げられます。このため、年間110万円以内の贈与であれば贈与税が課税されません。さらに、相続税精算課税制度を利用すると、累計2,500万円の特別控除が適用されることも魅力的です。
同族会社間で株式を譲渡する場合のメリットは、譲渡する側が譲渡益を得られることです。これにより、得た利益を他の事業へ投資することが可能です。また、他の相続人から遺留分を主張されることなく、円滑な事業承継を実現できる点も大きな利点でしょう。
同族会社間で株式を相続する場合のメリットは、基礎控除額が高額であることです。具体的には、基礎控除3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)までの額は相続税が課税されません。
同族会社間で株式譲渡を行う際のデメリットとして、税法上特別規定が設けられている点が挙げられます。
同族会社はその性格上、租税回避行為が容易なので、不正を防ぐために以下の特別規定が設けられています。
• 行為または計算の否認:税務署長が法人税の課税所得や法人税額を決定することがある
• 役員または使用人兼務役員の範囲の特例:みなし役員と認められる従業員への賞与は必要経費にならない
• 特定同族会社の留保課税:一定の控除額を超える金額を留保した場合には、通常の法人税とは別のものとして課税さ
れることがある
同族会社間で株式譲渡を行う際の注意点として、十分な専門知識がない場合は自分たちだけで進めず、外部の専門家に相談することが重要です。
同族会社間の株式譲渡は、金銭的な事情や断ったときの今後の付き合い、事業承継の予定などが複雑に絡み合い、判断が難しいことがあります。また、同族会社の判定や時価の算定なども複雑です。適切な手続きを進めるためにも、専門家に相談することがおすすめです。
同族会社間で株式を譲渡する際には、価格設定が非常に重要で、譲渡価格によっては贈与とみなされるケースも存在します。特に、時価よりも低い金額で株式を譲渡した場合、税務上の問題が生じる可能性があります。
時価は、不特定多数の当事者間で自由な取引が成立する際の、一般的に認められる価格のことを指します。親族間で行われる株式譲渡の場合、その金額は時価とは認められません。このため、時価と実際の譲渡価格との差額が贈与として認識され、贈与税が課されることがあります。
時価よりも著しく低い価額で株式を譲渡すると、時価との差額が「みなし贈与」と見なされることがあります。これは、贈与税を逃れるために故意に低い価格で株式を譲渡したとみなされるためです。
株式譲渡の手続き方法について、以下に説明します。
株式譲渡を行うためには、まず株式譲渡許可の請求を行います。許可請求の際には、株式譲渡承諾請求書を作成し、譲渡先や譲渡する株式の数、種類などの必要事項を記載します。
株式譲渡許可の請求を行った後、取締役会を開催するか、取締役会非設置会社であれば株主総会を開催し、譲渡の承認を得ます。
譲渡が承認されたら、譲渡者と譲受者が共に合意した内容を書面に記した株式譲渡契約を締結します。契約書には、基本的な合意事項や表明保証事項を記載し、双方で署名捺印を行います。
株式譲渡契約が締結されたら、譲渡者と譲受者が協力して、会社に対して株主名簿の書き換えを請求します。この書き換えにより、株式譲渡が正式に完了し、第三者にも譲受者が新たな株主であることが主張できるようになります。
同族会社間の株式譲渡を行う際には、税金や利益面に関する知識を十分に理解しておくことが重要です。知識を持って計画を進めることで、スムーズな譲渡が可能となります。不安がある場合には、専門家への相談もおすすめです。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画