同族会社の株式譲渡で問われる時価と税務手続を実務目線で解説

同族会社の株式譲渡では、親族間の安易な価格設定がみなし贈与や法人課税につながります。非上場株式の時価の考え方、個人・法人の組み合わせ別の税務、自社株買い、譲渡承認から確定申告までの手続を整理し、親族内承継と第三者承継を判断するポイントを解説します。

目次

  1. 同族会社の株式譲渡は取引設計から始める
  2. 税務上の時価は株主の立場で変わる
  3. 低額譲渡と高額譲渡の課税リスク
  4. 発行会社以外への株式譲渡を進める5つの手続
  5. 親族内譲渡と第三者承継をどう選ぶか
  6. まとめ

同族会社の株式譲渡は取引設計から始める

「親子だから、額面どおりに売ればよい」と考える経営者は少なくありません。しかし、同族会社の株式には上場株式のような市場価格がなく、売る人、買う人、譲渡後の持株割合によって税務上の扱いが変わります。契約書を作る前に、誰から誰へ、何のために、何株を移すのかを固めることが出発点です。

M&A(合併・買収)による第三者への会社売却でも株式譲渡は使われますが、親族内の取引とは価格の決まり方が異なります。親族間では利益を移す意図がないかを税務上確認されやすく、第三者間では将来の収益力や買収後の相乗効果を含めて交渉します。同じ株式でも、税務上の評価額と第三者との交渉価格が一致するとは限りません。

同族会社と同族株主は分けて確認する

税務上の同族会社は、上位3つの株主グループとその特殊関係者で、議決権などの50%超を保有する会社です。一方、非上場株式の評価で使う「同族株主」は別の判定です。一般に、1つの株主グループが議決権の30%以上を持つ場合などに該当し、最上位グループが50%超を持つ会社では、そのグループが中心になります。

言葉が似ているため、ここを混同すると評価方式の選択を誤りやすくなります。株主本人だけでなく、親族や関係会社の保有分も含めて確認することが大切です。

譲渡・贈与・相続では資金と税目が異なる

対価を受け取る株式譲渡では、個人の譲渡人に譲渡益があれば、一般株式等の譲渡所得として原則20.315%の申告分離課税です。譲渡益は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。

贈与では受贈者の贈与税、相続では相続人の相続税が中心です。後継者に買取資金があるか、経営権をいつ移すか、経営者の手元資金を確保するかによって、適切な方法は変わります。

税務上の時価は株主の立場で変わる

決算書の純資産を発行済株式数で割るだけでは、税務上の時価を説明できないことがあります。非上場株式の評価では、会社規模、資産構成、利益、配当、株主の支配力などを組み合わせて判定するためです。

評価日の直前に増資や自己株式の取得があった場合、含み益のある不動産や保険積立金を持つ場合などは、株価が想定より大きく動くことがあります。株価算定は、直近の決算書だけで終わらせないことが重要です。

経営支配力を持つ株主には原則的評価方式を使う

贈与税や相続税の計算で、取得者が同族株主など経営支配力を持つ側に該当する場合、原則的評価方式を使います。一般に、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式が基本となり、中会社は両方式を組み合わせます。

類似業種比準方式

類似業種比準方式は、事業内容が近い上場会社の株価を基に、配当、利益、簿価純資産を比べる方法です。利益が大きい会社では評価額が上がりやすく、業績の変動が株価へ反映されます。

純資産価額方式

純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価に置き換え、法人税等相当額を調整して1株当たりの価額を求める方法です。不動産や有価証券に多額の含み益がある会社では、帳簿上の純資産より高い評価になることがあります。

特定の評価会社は純資産価額が重くなる

土地や株式を多く持つ会社、開業後間もない会社、休業中の会社などは、通常の事業会社と異なる評価になることがあります。利益が小さくても不動産の含み益が大きければ、株価が高くなることも。意外と多い落とし穴です。

少数株主には配当還元方式が使われることがある

経営に関与せず、配当を受け取る立場に近い少数株主が株式を取得する場合、特例的評価方式である配当還元方式が適用されることがあります。過去の配当実績を基に評価するため、原則的評価方式より低い価額になる傾向があります。

ただし、「親族だから配当還元方式」という判断ではありません。取得後の議決権割合や同族関係者の保有分まで含めて判定します。

売買価格は相続税評価額だけで決めない

個人間の低額譲渡に伴う贈与税、個人から法人へのみなし譲渡、法人税上の時価では、確認すべき税法や通達が異なります。相続税評価額を機械的に売買価格へ転用するのは危険です。

直近の第三者取引、会社の収益力、純資産、支配権の有無を合わせて検討し、算定日、採用した方式、前提資料を株価算定書などに残します。税務調査で重要なのは、結果の金額だけでなく、その価格を決めた理由を説明できることです。

低額譲渡と高額譲渡の課税リスク

価格を低くすれば税金も減る、とは限りません。時価との差額が別の所得や贈与として課税され、売り手と買い手の双方に税負担が生じることがあります。

税務調査では、契約書の金額だけでなく、株価算定書、決算書、議事録、資金の流れまで確認されます。親族間だからこそ、第三者にも説明できる資料を残しておく必要があります。

個人から個人への譲渡

父から子へ時価より著しく低い価額で売ると、子が得た時価との差額は、贈与により取得したものとみなされる可能性があります。父には実際の譲渡価額を基にした譲渡所得税、子には差額に対する贈与税が生じ、家族全体では負担が増えることもあります。

反対に、子が父から時価より著しく高く買い取れば、時価を超える部分について、子から父への贈与と判断される可能性があります。高い価格なら安全というわけでもありません。経済的利益がどちらへ移ったかという実質で判断されます。

個人から法人への譲渡

個人が法人へ株式を低額で譲渡し、その価額が時価の2分の1未満である場合、個人側は時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算する取扱いがあります。実際には受け取っていない金額にも課税され得るため、資金繰りへの影響が大きくなります。

法人側では、時価と支払額との差額が受贈益として法人税の対象になることがあります。さらに、その利益移転によって既存株主の株式価値が上がれば、株主間のみなし贈与が問題になる場合もあります。個人と法人の税負担を一体で試算することが必要です。

会社が自社株を買い取る場合

会社がオーナーから自社株を買い取る取引は、一般の個人や法人へ売る場合と課税が異なります。受取額のうち、資本金等に対応する部分を超える一定額はみなし配当となり、残りが株式の譲渡収入になります。

非上場株式のみなし配当は原則として総合課税であるため、所得水準によって税率が高くなることがあります。会社側では、分配可能額、株主総会決議、他の株主への通知、源泉徴収なども確認が必要です。通常の譲渡承認請求とは別の会社法上の手続となる点に注意します。

法人が譲渡人または譲受人になる場合

法人が役員や従業員へ時価より安く譲渡したときは、時価との差額が給与として扱われることがあります。法人側では役員給与の損金算入が制限され、個人側では給与所得として所得税がかかる可能性があります。

法人間の低額譲渡では、譲渡法人の寄附金と譲受法人の受贈益が論点です。グループ会社や親族が経営する会社同士でも、自由な価格で取引できるわけではありません。

株価が妥当でも取得資金を確認する

後継者が数千万円の株式を取得したのに、預金や借入の記録が見当たらない。このような場合、購入資金そのものの贈与を疑われます。

売買代金は金融機関を通じて決済し、借入契約、返済計画、通帳の記録を残すことが大切です。形式だけ売買にして、代金を返していない状態も避けなければなりません。

発行会社以外への株式譲渡を進める5つの手続

ここで説明するのは、親族や第三者など、株式の発行会社以外へ譲渡する場合の基本手続です。会社自身が自社株を買い取る場合は、株主総会決議など別の手続が必要になります。

身内だけの会社では、口頭合意だけで株主を入れ替えてしまうことがあります。しかし、後の相続やM&Aで株主名簿と実態が合わないと、経営権の確認に時間がかかります。書類と資金の流れを連続させて残すことが大切です。

1.株式譲渡の承認を請求する

定款と登記事項証明書を確認し、対象株式が譲渡制限株式であれば、譲渡する株式の種類・数、譲受人の氏名または名称などを記載した承認請求書を会社へ提出します。

株券発行会社では、株券が実際に発行されているか、誰が保管しているかも確認します。紛失している場合は、その対応を先に進めなければならないことがあります。

2.会社が承認決議を行う

承認機関は定款で確認します。定款に別段の定めがなければ、取締役会設置会社は取締役会、それ以外の会社は株主総会が原則です。決議内容は議事録に残します。

会社が承認するか否かを請求者へ通知しないまま原則2週間が経過すると、承認したものとみなされる場合があります。請求日、決議日、通知日を記録し、期限を管理します。

3.株式譲渡契約を締結して決済する

契約書には、譲渡株数、1株当たりの価額、総額、支払日、株主権の移転日、表明保証、税金の負担、契約違反時の対応を記載します。承認前に契約する場合は、会社の承認を効力発生の条件とする設計もあります。

代金は振込で支払い、記録を残します。株券発行会社で株券が実際に発行されている場合は、原則として株券の交付も必要です。

4.株主名簿を書き換える

一般に、譲渡人と譲受人が共同で名義書換を請求し、会社が株主名簿を更新します。株券不発行会社では、株主名簿への記載または記録が、会社や第三者へ株式の取得を主張するために重要です。

株券発行会社では、株主名簿への記載は会社に対して株主であることを主張するために必要であり、第三者との関係では株券の交付や保有状況も重要になります。会社の株券発行の有無に応じて手続を確認します。

新しい株主名簿、名義書換請求書、承認議事録、契約書、振込記録を一式で保管します。

5.譲渡人が確定申告を行う

個人の譲渡人に譲渡益がある場合、譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告するのが原則です。税額は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を引いた譲渡益に20.315%を乗じて計算します。

取得費が分からない場合は、譲渡価額の5%を概算取得費とすることも認められています。ただし、実際の取得費より不利になることがあるため、設立時の払込資料、過去の売買契約書、相続時の資料などを先に探します。

自社株買いのみなし配当がある場合は、譲渡所得だけでなく配当所得と源泉徴収も処理します。法人が当事者なら、受贈益、寄附金、役員給与などの税務調整も必要です。

親族内譲渡と第三者承継をどう選ぶか

親族への株式譲渡が有力でも、後継者の資金調達が難しい、兄弟間で株式が分散する、個人保証を引き継げないといった問題で計画が止まることがあります。

株価だけでなく、経営者の生活資金、後継者の返済能力、従業員の雇用、取引先や金融機関との関係まで確認する必要があります。税金が低い方法と、実行しやすい方法が同じとは限りません。

親族内譲渡が向く場面

後継者が明確で、経営能力と買取資金があり、親族間の合意も得られる場合は、株式譲渡で経営権を計画的に移しやすくなります。

贈与や相続と組み合わせるなら、方法ごとの税負担だけでなく、遺留分、議決権の集中、将来の株価上昇も比較します。株式を少しずつ移した結果、前経営者と後継者のどちらにも十分な議決権がなくなる設計は避けるべきです。

第三者承継を並行して検討する場面

後継者がいない場合だけでなく、候補者がいても多額の株式取得資金を用意できない場合、第三者承継が現実的な選択肢になります。

M&Aの譲渡価格は税務上の株価だけでなく、収益力、顧客基盤、技術、人材などを反映して交渉されます。その結果、親族内の税務評価より高い価額で売却できることもあります。

ただし、提示価格だけで決めるのは危険です。役員退職金との配分、個人保証の解除、少数株主の整理、表明保証、譲渡後の経営者の関与期間を含め、手取りと将来負担を比較します。株式譲渡を始める前に、親族内承継と第三者承継の両方を同じ前提で試算すると、後戻りを減らせます。

まとめ

同族会社の株式譲渡では、親族間で合意した価格がそのまま税務上の時価になるとは限りません。株主区分に応じた評価、当事者別の課税、自社株買いの別手続、譲渡承認と株主名簿の更新を一体で確認することが重要です。承継先を決め切る前に、親族内譲渡と第三者承継の手取りや実行可能性を比べ、価格の根拠と資金の流れを残して進めましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人