企業経営において、M&A(合併・買収)が検討される際に、「IPO」という選択肢も同様に考慮されるでしょう。どちらの選択肢にもそれぞれの特徴やメリット・デメリットが存在するため、自社にとって最適な選択を行うことが求められます。
本記事では、M&AとIPOの違いについて、それぞれのメリットとデメリット、さらに現在主流となっているハイブリッド型のイグジット(出口戦略)について詳しく述べます。
目次
IPOとは、英語で「Initial Public Offering」の略であり、「新規株式公開」を指します。これは、株式市場に自社の株式を公開し、一般投資家に株を売却することができる方法の一つです。証券取引所に上場することを通じて、以降は誰もが市場で自社株の売買が可能になります。IPOは資金調達手段としての有効性だけではなく、ベンチャー企業やスタートアップ企業においての成長戦略としても役立てられています。
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企業にとってIPOを行うことには、多くのメリットがあります。以下では、IPOに関連する主要な利点をいくつか紹介します。
IPOを行うことで、企業は資金調達が容易に実現できます。市場からの投資が可能となることで、資金調達の選択肢が増加し、事業運営に必要な資金の確保がしやすくなります。さらに、上場後は金融機関からの借入で経営者が個人保証を付ける必要もなくなります。
IPOを行うことで、企業の社会的信用度が向上することも大きなメリットです。資金調達力と信用度が高まることで、融資を受けやすくなり、取引先の増加などの成果も期待できます。これによってさらなる事業拡大が見込めるでしょう。
社会的な信用度が向上することで、人材採用が円滑に進むことも期待できます。人材確保が困難な現在の社会において、雇用の充実が期待される点はメリットです。従業員の増加により、新事業立ち上げや様々な計画を立案し、企業の可能性を広げることができます。
一方で、IPOには数々のメリットがあるものの、いくつかのデメリットも存在します。以下では、IPOの主なデメリットについて説明します。
IPOによる資金調達を実現させるためには、非常に長い準備期間が求められます。多くの場合、最低でも3年程度の期間が必要であり、場合によっては10年にも及ぶ時間がかかることがあります。このような長期的な視点が必要なため、短期的な効果を期待できないという点がデメリットとして挙げられます。早急に資金調達が求められる状況や、事業拡大のチャンスをつかみたいと考えている場合には、IPOを選択することが難しいと言えるでしょう。
IPOに関わるプロセスが複雑かつ長期間にわたることから、その間に市場の動向や商品・サービスの需要が変化してしまうことも考えられます。IPOの準備が整った段階で市況が悪化してしまった場合など、IPO自体が中止になるケースもあります。このような状況では、IPOにかかったコストが無駄になるリスクがあることが大きなデメリットです。なお、一般的には上場コストとして5,000万円/年程度が必要とされるため、企業にとっては大きな損失となります。
IPOを実行することにより、投資家から資金を調達し運用する形になるため、経営者の責任が大幅に増加します。責任説明を行う必要があったり、ディスクロージャー(経営内容の開示)に対応するための体制を整備する必要があったりと、様々な負担が生じます。この結果として、経営方針や事業活動の自由度がIPO前と比べて制約されることもデメリットの一つです。
M&AとIPOの間には、いくつかの主な違いが存在します。
• 売却額:M&Aでは売却額が確定するが、IPOでは公開市場に参加するまで具体的な金額が明らかにならない。
• 必要な期間:M&Aは交渉次第で比較的スムーズに進行することが多い一方で、IPOは数年単位の準備期間が必要とな
る。
• 売却のしやすさ:M&Aは、IPOと異なり証券取引所の審査や内部管理体制の構築が不要であるため、事業の売却がし
やすいと言える。
上記の点について理解し、自社にとって最適な選択肢を選択することが重要です。
IPOとは異なる観点から、M&Aにはさまざまなメリットが存在します。以下では、M&Aならではのメリットをいくつか紹介します。
M&Aは、交渉が円滑に進めば、事業のバイアウト(譲渡)を容易に実現できる手段です。特に、現金が迅速に手に入ることが大きなメリットとなっています。売却までの時間や手間を最小限に抑えるため、信頼できるM&A仲介会社に依頼し、サポートを受けることが推奨されています。
IPOと比較して、M&Aでは事前準備にかかる時間が短いという利点があります。多くの場合、数か月程度の準備期間で十分であり、コスト(費用)もそれほどかかりません。資金を速やかに確保したい場合でも、M&Aの利点を活かすことができます。
M&Aを利用すれば、小規模な事業であってもバイアウト(譲渡)が可能な場合があります。M&Aの譲渡額には幅があり、個人が少額で譲受するケースも決して珍しくないのです。小規模事業でも計画を立てやすい点が、M&Aの魅力の一つと言えるでしょう。
もちろん、M&Aにはメリットだけでなくデメリットも存在します。ここでは、M&Aにおけるデメリットをいくつかご紹介します。
M&Aを行うと、事業のバイアウト(譲渡)が行われるため、経営から離れることになることもあります。そのため、事業に強い思い入れがある場合は、M&Aを決断することが難しいこともあります。なお、M&A後も経営に関与したい場合は、交渉時にその旨を伝える必要があります。交渉を成功させるためには、経営に携わることに相手にとってのメリットを具体的に提示すると良いでしょう。
M&Aによる事業統合では、既存の従業員の雇用に影響が出る可能性があります。従業員がM&Aに納得できない場合、退職という選択肢を取ることも考えられます。そのため、従業員の雇用に関する取り決めを適切に行い、雇用が維持できるよう努力することが重要です。また、従業員とM&Aについて話し合うことで、メリットや今後の展望を確認しておくことも大切です。
M&Aにおいては、条件にピッタリ合う交渉相手が見つからないケースが存在することがあります。その結果、適切なタイミングを逃してしまい、事業の拡大や利益の最大化に至らない場合があります。交渉相手を見つけるためには、M&AマッチングサービスやM&A仲介会社を活用することが有効です。
経済産業省が発表した「大企業XスタートアップのM&Aに関する報告書」を参照すると、アメリカにおけるIPOとM&Aの割合は、約1:9であり、M&Aが圧倒的に多いことが分かります。多くの企業がM&Aを活用し、事業拡大や利益増加に繋げていると考えられます。一方、日本ではIPOとM&Aの割合は約7:3で、IPOが多い結果になっています。
ハイブリッド型イグジット戦略とは、M&Aの後にIPOを目指すアプローチのことを指します。具体的には、自社の持分を一部継続して保有し、その大部分を投資会社などにM&Aでバイアウト(譲渡)する方法をとります。企業価値を高めつつ、IPOに向けて準備を進めることが可能です。ハイブリッド型イグジット戦略の特徴は、利益を確保しつつIPO準備ができる点にあります。
• M&AとIPOは、企業の資金調達や成長戦略の一部であり、重要な施策とされています。
• 各方法の特徴を理解し、適切な計画を立案することで大きな成果が期待できます。
• この機会にM&AとIPOの違いを再確認し、それぞれの戦略について具体的に検討してみましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画