譲渡制限株式とは?メリット・デメリットから手続まで徹底解説

譲渡制限株式の基本概念から導入効果、譲渡手続まで詳しく解説します。メリット・デメリットを理解し、専門家への相談オプションも紹介。企業経営者や株主の方々に役立つ情報が満載です。 

目次

  1. 譲渡制限株式の基本概念
  2. 譲渡制限株式の導入効果と課題
  3. 譲渡制限株式の譲渡手続
  4. 専門家への相談オプション
  5. まとめ

譲渡制限株式の基本概念

譲渡制限株式とは、その名の通り、株式の譲渡に制限が設けられている特殊な株式のことを指します。通常、株式会社の株式は自由に譲渡することができますが、譲渡制限株式の場合は、株式を譲渡する際に会社の承認が必要となります。

この株式は英語で「Share with Restriction on Transfer」と呼ばれ、会社が意図しない第三者への株式譲渡を防ぐ目的で活用されています。

株式譲渡自由の原則との関連性

株式会社の基本原則の一つに「株式譲渡自由の原則」があります。これは会社法第127条に規定されており、株主は原則として自由に株式を譲渡できることを意味します。

この原則が存在する理由は、株主が投資した資本を回収する方法として、以下の3つの選択肢があるためです。

1. 残余財産の分配

2. 配当金の受取

3. 株式譲渡

しかし、会社によっては株式譲渡を制限したほうが望ましい場合もあります。そこで、株式譲渡自由の原則の例外として、譲渡制限株式が認められているのです。

株式譲渡制限会社について

すべての発行済株式が譲渡制限株式である会社を「株式譲渡制限会社」と呼びます。この種の会社は、一般的に「非公開会社」や「閉鎖会社」とも呼ばれています。

一方、発行済株式の一部または全部が譲渡制限株式でない会社は「公開会社」と呼ばれます。公開会社は、株式の自由な譲渡が可能であり、より開かれた形態の会社と言えます。

種類株式としての特徴

譲渡制限株式は、種類株式の一つとして位置づけられています。このため、会社は以下のような柔軟な対応が可能です。

すべての発行済株式に譲渡制限を付す

一部の発行済株式のみを譲渡制限株式とする

また、種類株式であるため、株式の種類ごとに異なる条件を設定することができます。

例えば:

特定の条件下では承認を要しない

不承認の場合の指定買取人を定款で定める

これらの条件を定款に明記することで、会社の状況に応じた柔軟な株式管理が可能となります。

譲渡制限付株式(RS)との相違点

譲渡制限株式と似た名称に「譲渡制限付株式」があります。これはRS(リストリクテッド・ストック)とも呼ばれ、一般的に「譲渡制限付株式報酬」として知られています。

譲渡制限付株式報酬の主な特徴は以下の通りです。

1. 目的:役員や従業員に対する動機付け

2. 付与方法:一定期間、譲渡が制限された株式を付与

3. 期待効果:中長期的な視点での経営改善や企業価値向上への貢献

譲渡制限付株式を受け取った役員や従業員は、一定の条件(多くの場合、特定期間の勤務継続)を満たすまで、その株式を自由に売却することができません。条件を満たせなかった場合、付与された株式は会社に返還されることになります。

このような仕組みにより、長期的な企業価値向上への貢献を促す効果が期待されています。

定款への記載事項

譲渡制限株式を発行する場合、その内容を定款に明記する必要があります。定款は会社設立時に発起人全員の同意のもとで定められる重要書類で、企業の根本原則が記載されています。

譲渡制限株式に関して定款に記載すべき主な内容は以下の通りです。

1. 株式の譲渡には承認が必要であること

2. 株式譲渡の可否を決定する承認機関(取締役会や株主総会など)

3. 登記が必要であること

実際の定款には、例えば以下のような文言で記載されます。

「(株式の譲渡制限) 第〇条 当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」

また、相続対策のための規定として、相続人などに対する株式の売渡請求の規定を設けるかどうかの検討も必要です。この規定を設けることで、株主に相続が発生した際に、会社が相続人から株式を買い取ることが可能になります。

ただし、この規定には注意点もあります。例えば、筆頭株主である社長が急死した場合、売渡請求権により会社が乗っ取られるリスクが生じる可能性があります。そのため、会社の状況や将来的なリスクを十分に考慮した上で、定款の内容を決定することが重要です。

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)

譲渡制限株式の導入効果と課題

譲渡制限株式の導入には、様々なメリットとデメリットが存在します。会社の状況や目的に応じて、これらを慎重に検討する必要があります。

導入のメリット

譲渡制限株式を導入することで、以下のようなメリットが期待できます。

1. 意図しない第三者への株式譲渡の防止 

o 会社の承認が必要となるため、望まない相手への株式譲渡を防ぐことができます。

o 会社の乗っ取りなどのリスクを軽減できます。

o 譲渡先を会社が見極めることが可能になります。

2. 役員の任期延長 

o 通常、取締役および会計参与の任期は2年、監査役は4年と会社法で定められています。

o しかし、発行するすべての株式が譲渡制限株式である会社の場合、定款によってそれぞれの任期を10年まで延長できます。

o これにより、非公開会社では経営の安定化を図ることができます。

3. 監査役や取締役会の設置が不要 

o 公開会社の場合、監査役1名以上、取締役3名以上が必要です。

o 株式譲渡制限会社では、取締役会や監査役の設置が必須ではありません。

o これにより、役員報酬や取締役会の運用費用を抑えることができます。

4. 株主総会手続の簡略化 

o 公開会社では、株主総会開催の通知を2週間前までに書面またはメールで行う必要があります。

o 株式譲渡制限会社の場合、1週間前に書面通知もしくは口頭で招集することが可能です。

o これにより、株主総会の準備にかかる時間と労力を削減できます。

導入のデメリット

一方で、譲渡制限株式の導入には以下のようなデメリットも存在します。

1. 売渡請求権のリスク 

o 株式を相続した後継者に対して売渡請求権が行使された場合、経営権を失う可能性があります。

o ただし、株主が経営者のみである場合や、信頼できる関係者のみで構成されている場合は、このリスクは低くなります。

2. 株式買取請求権のリスク 

o 譲渡の承認が得られなかった場合、株主は会社に対して買取請求を行うことができます。

o 会社は公正な価格で買い取る必要があるため、財務的な負担が生じる可能性があります。

o ただし、株主が経営者のみである場合、大きな問題にはならないケースが多いです。

これらのデメリットは、会社の状況や株主構成によって影響の度合いが異なります。そのため、導入を検討する際には、自社の特性を十分に考慮し、メリットとデメリットを慎重に比較検討することが重要です。

譲渡制限株式の譲渡手続

譲渡制限株式を譲渡する場合、通常の株式とは異なる手続が必要となります。ここでは、その具体的な流れについて説明します。

譲渡承認請求のプロセス

譲渡制限株式の譲渡を希望する株主は、以下の手順で譲渡承認請求を行います。

1. 株式譲渡承認請求書の提出 

o 請求書の冒頭に譲渡の承認を請求する旨を記載します。

o 譲渡を希望する株式の数、譲渡相手の氏名または名称、譲渡人の名前・住所を記載します。

o 押印して会社に提出します。

2. 会社による審査 

o 会社は所定の承認機関(取締役会や株主総会など)で譲渡請求を審査します。

3. 承認機関による決議 

o 承認機関の種類により、以下のような決議が必要となります: a) 取締役会設置会社の場合: 

取締役の過半数の出席

出席した取締役の過半数の賛成 b) 取締役会非設置会社の場合:

議決権の過半数を持つ株主の出席

出席した株主が持つ議決権の過半数の賛成

4. 決議結果の通知 

o 承認請求の日から2週間以内に結果を通知する必要があります。

o 2週間以内に通知がない場合、譲渡の承認が決定されたとみなされます。

なお、定款の定めにより、これらの手続に変更を加えることも可能です。例えば、以下のようなケースが考えられます。

株主間の譲渡であれば承認を不要とする

特定の属性を持つ者への譲渡に関しては、承認機関を代表取締役とする(または承認を不要とする)

譲渡を承認しない場合の指定買取人を、あらかじめ指定しておく

承認・不承認の決定方法

譲渡承認請求に対する会社の対応は、承認と不承認の2つに分かれます。それぞれの場合の手続は以下の通りです。

1. 承認の場合 a) 承認通知の送付(請求日から2週間以内) b) 株式譲渡契約書の作成・締結 c) 株主名義の書換請求
    d) 株主名簿記載事項証明書の交付

2. 不承認の場合 a) 不承認通知の送付(請求日から2週間以内) b) 譲受先の決定(会社または指定買取人による譲
        受) c) 譲渡価格の決定

譲渡価格の決定方法には、以下の3つのオプションがあります。

1. 承認時に協議により決定

2. 裁判所への申立で決定

3. 裁判所への申立をしないで価格を決定(供託額が譲渡価格となる)

これらの手続は細かく規定されているため、誤りのないよう慎重に進める必要があります。特に、期限や通知方法などに注意が必要です。

専門家への相談オプション

譲渡制限株式に関する手続は複雑で、専門的な知識が必要となる場合があります。

専門家に相談すること

そのため、以下のような専門家に相談することをおすすめします。

1. 税理士 

o 株式譲渡に伴う税務上の影響や対策について助言を受けられます。

2. 会計士 

o 株式価値の評価や財務面での影響について専門的なアドバイスが得られます。

3. 弁護士 

o 法的な観点から、譲渡制限株式に関する手続や契約書の作成などについてサポートを受けられます。

4. 金融機関 

o 株式譲渡に関連する資金調達や財務戦略について相談できます。

5. 公的機関 

o 中小企業庁や商工会議所などで、一般的な情報や支援策について知ることができます。

6. M&Aアドバイザリー会社 

o 株式譲渡を含む会社の事業承継や組織再編について、総合的なアドバイスを受けられます。

これらの専門家に相談することで、自社の状況に適した最適な対応を検討することができます。特に、初めて譲渡制限株式の導入や譲渡を検討する場合は、専門家のサポートを受けることで、リスクを最小限に抑えつつ、効果的な対応が可能となります。

まとめ

譲渡制限株式は、株式の譲渡に制限を設けることで会社の意図しない第三者への株式移転を防ぐ仕組みです。導入には様々なメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。譲渡手続は通常の株式よりも複雑であり、専門家への相談が有効です。会社の状況を十分に考慮し、慎重に検討することが重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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