アーンアウト条項の活用でM&Aの成功率を最大化する方法を解説


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アーンアウトとは?M&A価格交渉で使う仕組みと注意点

アーンアウトとは、M&A後の業績や目標達成に応じて追加対価を支払う仕組みです。初期対価と追加対価の分け方、KPI設計、買い手・売り手の注意点、税務会計の落とし穴を解説します。

目次

  1. アーンアウトは価格差を後日調整する仕組み
  2. 会社売却で検討しやすい場面
  3. KPI設計で追加対価の成否が決まる
  4. 買い手と売り手で利害がずれる点
  5. 契約条件は事後の紛争を想定して決める
  6. 税務と会計で手取り額が変わる
  7. 導入前に確認したい判断基準
  8. まとめ

アーンアウト条項の活用でM&Aの成功率を最大化する方法を解説

アーンアウトは価格差を後日調整する仕組み

アーンアウトとは、M&A(合併・買収)の買収対価を、クロージング時に支払う部分と、買収後の業績や目標達成に応じて支払う部分に分ける仕組みです。英語ではEarn-outと表記されます。

会社売却では、経営者が「将来はもっと伸びる」と考える一方で、買い手は「まだ実績が出ていない部分まで先に払うのは不安」と考えることがあります。この価格差を埋めるために使われるのが、アーンアウトです。

初期対価と追加対価に分けて考える

1つ目は、クロージング時に支払われる初期対価です。これは、現時点で確認できる業績、資産、顧客基盤、技術、人材などをもとに決まる金額です。

2つ目は、買収後の一定期間に目標を達成した場合に支払われる追加対価です。たとえば、買収後2年間で売上高やEBITDAが一定水準を超えた場合に、あらかじめ決めた算定式で追加支払いを行う、という設計が考えられます。

追加対価は必ず受け取れるものではない

経営者にとって注意すべき点は、アーンアウト対価は「将来受け取れるかもしれない金額」であり、確定した譲渡代金ではないことです。目標を達成できなければゼロになる場合もあります。

買い手から見れば、事業計画どおりに成果が出たときだけ追加で支払えばよいため、過払いリスクを抑えられます。便利な仕組みに見えますが、条件の作り方が曖昧だと、あとで「達成した」「していない」の争いになりやすい点に注意が必要です。

会社売却で検討しやすい場面

アーンアウトは、すべてのM&Aに向いているわけではありません。安定した利益が長く続いており、買い手と売り手の価格目線が大きくずれていない会社では、あえて複雑な条件を入れない方がよい場合もあります。

一方で、将来の伸びしろが大きい会社や、買収後の経営関与が重要な会社では、アーンアウトが交渉を進めるきっかけになります。こういうケースは珍しくありません。

成長性は高いが現在利益が小さい会社

スタートアップ、新規事業、SaaSなどのサブスクリプション型事業、研究開発型企業では、現時点の利益だけでは企業価値を評価しにくいことがあります。売上は伸びているものの、先行投資の影響で利益が小さい会社もあります。

このような会社では、買い手が現時点の利益を基準に低い価格を提示し、経営者が将来価値を主張する場面が出やすくなります。そこで、初期対価は抑えつつ、買収後に売上高や契約数などが伸びた場合に追加対価を払う設計が検討されます。

再生中の会社や業績回復局面の会社

業績が一時的に悪化している会社でも、主要取引先との契約更新、採算改善、不採算事業の整理などにより、数年後に回復が見込まれる場合があります。

このとき、買い手は「本当に回復するか分からない」と考えます。経営者は「回復後の価値も価格に入れてほしい」と考えます。アーンアウトを使えば、回復が実現した場合に追加対価で調整できるため、双方が歩み寄りやすくなります。

旧経営者が買収後も残る会社

中小企業M&Aでは、譲渡後すぐに経営者が退任すると、顧客、従業員、仕入先との関係が不安定になることがあります。そのため、旧経営者が一定期間残り、引継ぎや営業活動を支えることがあります。

この場合、アーンアウトは旧経営者のモチベーション維持に使われることがあります。ただし、追加対価が実質的に勤務への報酬と見られるような設計にすると、税務上の扱いが変わる可能性があるため、契約段階で慎重に整理する必要があります。

KPI設計で追加対価の成否が決まる

アーンアウトで最も重要なのは、どの指標を達成したら追加対価を支払うかです。この指標をKPIといいます。KPIとは、目標達成を判断するための数値や条件のことです。

KPIを曖昧にすると、買収後に双方の認識がずれます。経営者は「実質的には達成した」と考え、買い手は「契約上は未達だ」と判断することがあります。ここで揉めると、M&A後の関係が悪化します。

売上高は分かりやすいが利益を見落としやすい

売上高は、最も分かりやすいKPIです。成長初期の会社では、まず市場シェアや顧客数を拡大することが重要なため、売上高を基準にすることがあります。

ただし、売上高だけを基準にすると、値引き販売や採算の悪い受注で目標を達成してしまうおそれがあります。買い手から見れば、売上は伸びたのに利益が残らない、という結果になりかねません。

営業利益やEBITDAは収益力を見やすい

営業利益やEBITDAは、事業の稼ぐ力を見やすい指標です。EBITDAとは、営業利益に減価償却費などを足し戻した指標で、現金を生む力を大まかに見るために使われます。

一方で、利益指標は会計処理の影響を受けます。買収後に本社費を対象会社へ配賦する、役員報酬や人件費の負担を変える、会計方針を変更するなどの影響で、アーンアウトの達成可否が変わることがあります。意外と多い落とし穴です。

会計方針と共通費の扱いを契約に入れる

利益指標を使う場合は、会計方針、共通費の配賦、役員報酬、買収関連費用、一時的な投資費用をどう扱うかを契約書で明確にする必要があります。

「従前の会計方針を継続する」「買い手都合の一時費用は除外する」「非合理な本社費配賦は控除する」など、算定方法を具体化しておくことで、買収後の争いを減らせます。

指標 売却側メリット 買収側メリット 典型的リスク
売上高 達成しやすい 規模拡大効果 無理な値引き受注
EBITDA キャッシュ創出を強調 実質収益を把握 会計方針差異
純利益 最終利益を反映 企業価値と連動 税効果で変動
フリーCF 借入返済能力を示す 財務負担を把握 設備投資影響

非財務指標が向く場合もある

アーンアウトでは、売上高や利益だけでなく、非財務指標を使うこともあります。たとえば、バイオベンチャーであれば治験の進捗、IT企業であれば重要契約の締結、BtoB企業であれば主要顧客の継続、組織依存度が高い会社であれば主要人員の残留などです。

非財務指標は、会社の実力をより正確に反映できる場合があります。ただし、測定方法が曖昧になりやすいため、どの資料で判定するのか、誰が確認するのか、異議がある場合にどう解決するのかを決めておくことが大切です。

買い手と売り手で利害がずれる点

アーンアウトは、買い手と経営者のリスクを分け合う仕組みです。ただし、同じ条件でも、立場によって見え方が変わります。

経営者は、将来価値を価格に反映できる可能性があります。買い手は、実績を確認してから追加で支払えます。ここまでは双方にメリットがあります。しかし、買収後の経営権は買い手に移るため、経営者が追加対価を受け取れるかどうかは、自分だけではコントロールできなくなります。

買い手のメリットと負担

買い手にとってのメリットは、初期の資金負担を抑えられることです。買収時点で全額を支払うのではなく、成果が出た分だけ後から支払うため、資金繰りや投資回収の見通しを立てやすくなります。

また、旧経営者が買収後も残る場合、追加対価が目標達成への動機になります。PMI(M&A後の統合プロセス)では、旧経営者や主要社員の協力が重要になるため、アーンアウトが統合を支えることがあります。

一方で、業績が想定以上に伸びれば、買収総額は高くなります。さらに、目標判定、資料作成、経営者への説明、異議対応などの事務負担も発生します。単なる支払い延期ではありません。

経営者の期待とリスク

経営者にとっての魅力は、初回提示額よりも高い売却総額を狙えることです。自社の将来性に自信がある場合、アーンアウトを受け入れることで、買い手の不安を和らげながら交渉を前に進められます。

ただし、追加対価は不確実です。景気悪化、主要顧客の方針変更、買い手グループの再編、投資判断の変更などにより、目標が未達になることがあります。経営者から見ると、「買収後の経営方針で達成できなかったのに、追加対価が支払われない」という不満につながりやすい部分です。

初期対価が低すぎる提案には注意する

経営者は、初期対価と追加対価を分けて考える必要があります。初期対価が本来の価値より低く、追加対価を受け取らないと納得できない条件であれば、リスクが大きいといえます。

アーンアウトは、妥当な初期対価に将来価値を上乗せするための仕組みとして使うのが基本です。初期対価の不足を補うだけの設計になっていないか、冷静に確認しましょう。

契約条件は事後の紛争を想定して決める

アーンアウトで揉める原因の多くは、契約書の曖昧さです。契約締結時には関係が良好でも、買収後に業績が悪化したり、追加対価の支払いが近づいたりすると、解釈の違いが表面化します。

契約書は、信頼関係が崩れたときにも機能するように作る必要があります。ここを軽く見ると、後で大きな負担になります。

評価期間は短すぎても長すぎても問題になる

アーンアウトの評価期間は、一般に1〜3年程度で設計されることが多いです。ただし、業種や事業計画によって適切な期間は変わります。

評価期間が短すぎると、一時的な要因で未達になるおそれがあります。反対に長すぎると、買収後の経営方針、景気、競合環境、組織再編の影響を受けやすくなります。経営者が努力しても、外部要因で結果が変わってしまうのです。

累計判定や段階支払いも検討する

1年ごとの単年度判定にすると、ある年だけ未達になった場合に不公平感が出ることがあります。そのため、2年または3年の累計で判定する方法や、達成率に応じて段階的に支払う方法も考えられます。

たとえば、目標の90%を達成したら一部支払い、100%を超えたら満額支払い、一定額を超えたら上限を設ける、という設計です。上限を置くことで、買い手は総支払額を予測しやすくなります。

買収後の経営権と監査権を調整する

買収後は、通常、買い手が対象会社を支配します。そのため、経営者は追加対価の算定に必要な情報を自由に見られなくなることがあります。

この問題を防ぐには、月次試算表、KPI資料、契約更新状況などを経営者に開示するルールを決めておく必要があります。また、確認権や異議申立権を設け、争いが解決しない場合は独立した公認会計士などに判断を委ねる仕組みも検討されます。

再売却や組織再編時の扱いを決める

アーンアウト期間中に、買い手が対象会社を再売却したり、グループ内で合併・事業移管を行ったりすると、当初のKPIが測定できなくなることがあります。

そのため、再売却時には未経過期間分をどう扱うか、組織再編でKPIが変わる場合に調整するか、追加対価を前倒しで支払うかを決めておく必要があります。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

税務と会計で手取り額が変わる

アーンアウトでは、契約上の買収総額だけで判断してはいけません。経営者の手取り額や、買い手の会計処理に大きな影響が出るからです。

特に、売り手が個人株主である中小企業M&Aでは、追加対価がどの所得区分になるかが重要です。税率が変われば、同じ金額を受け取っても手元に残る金額は大きく変わります。

個人株主は所得区分に注意する

通常、個人が株式を譲渡した場合の譲渡益は、申告分離課税の対象となり、所得税、復興特別所得税、住民税を合わせて約20%の税率で課税されます。

一方、アーンアウトによる追加対価は、クロージング時点で支払いが確定していないことがあります。そのため、個別事情によっては、株式譲渡所得ではなく雑所得や給与所得に近い扱いが問題になる可能性があります。総合課税になると、他の所得と合算され、住民税を含めて最高で約55%前後の税負担になることがあります。

役員として残る場合は特に慎重に設計する

経営者がM&A後も役員や従業員として残る場合、追加対価が「株式の譲渡代金」なのか、「働いたことへの報酬」なのかが問題になりやすくなります。

契約書では、追加対価が譲渡対価の一部であること、算定指標が株式価値や事業価値に関係すること、役員報酬とは別に整理されていることを明確にする必要があります。それでも税務判断は個別事情に左右されるため、契約締結前に手取り額のシミュレーションを行うことが重要です。

買い手は会計基準による違いを見る

買い手側では、アーンアウトは会計上「条件付取得対価」として扱われます。日本基準では、将来の業績に応じた追加支払いが確実となり、金額を合理的に算定できるようになった時点で、取得原価やのれんの調整を行う考え方が基本になります。

IFRSでは、取得日時点の公正価値で条件付対価を認識し、その後の公正価値の変動を損益に反映する場合があります。上場会社やIFRS適用会社が買い手になる場合は、買収後の損益や開示にも影響するため、会計処理を早い段階で確認しておく必要があります。

買収価格だけでなく損益影響も確認する

買い手にとって、アーンアウトは資金流出だけの問題ではありません。追加対価の見積りや変動が、連結決算、のれん、損益、金融機関への説明に影響することがあります。

中小企業の会社売却では、買い手が金融機関から借入を行うことも多いため、追加対価の支払時期と資金繰りも重要です。経営者も、買い手の支払能力や資金調達計画を確認しておくと安心です。

導入前に確認したい判断基準

アーンアウトを提案されたとき、経営者は「総額が高く見えるか」だけで判断しない方がよいです。大切なのは、実際に受け取れる可能性と、受け取れなかった場合に納得できるかです。

買い手も、支払いを先送りできるという理由だけで使うと、買収後の関係を悪化させるおそれがあります。アーンアウトは、相手にリスクを押し付ける条項ではなく、将来価値の不確実性を分け合う条項として設計すべきです。

経営者が確認したいこと

経営者は、少なくとも次の点を確認します。


  • 初期対価だけで、現時点の企業価値として納得できるか。
  • 追加対価のKPIは、自社の努力で一定程度コントロールできるか。
  • 買い手の経営判断により、KPI達成が妨げられない仕組みになっているか。
  • 追加対価の計算資料を確認できるか。
  • 税引後の手取り額を試算しているか。


特に重要なのは、初期対価です。追加対価を受け取れる前提で生活設計や相続対策を組むと、目標未達時に資金計画が崩れることがあります。

買い手が確認したいこと

買い手は、アーンアウトを入れることで本当にリスクが下がるのかを確認します。


  • KPIが事業価値の向上とつながっているか。
  • 旧経営者や主要人員が買収後も協力する設計になっているか。
  • 追加対価の上限、支払時期、資金手当が明確か。
  • 算定方法を社内の経理・財務部門が運用できるか。
  • 紛争時の解決手続が決まっているか。


KPIが複雑すぎると、買収後の管理コストが増えます。シンプルで測定しやすく、かつ事業価値を反映する指標を選ぶことが大切です。

専門家に相談するタイミング

アーンアウトは、基本合意書の段階から検討すべきです。最終契約の直前に条件を詰めようとすると、税務、会計、法務、資金繰りの確認が追いつかないことがあります。

経営者は、意向表明書や基本合意書にアーンアウトが含まれる時点で、税務と手取り額を確認しましょう。買い手は、デューデリジェンスの段階でKPIの根拠、過去の会計方針、買収後の管理体制を確認する必要があります。

まとめ

アーンアウトは、将来価値を価格に反映しつつ、買い手の過払いリスクを抑える有効な仕組みです。ただし、KPI、評価期間、会計方針、監査権、税務区分が曖昧なままでは、追加対価を巡る紛争や手取り額の誤算につながります。導入する場合は、初期対価の妥当性と追加対価の実現可能性を分けて確認し、契約前に専門家と条件を固めることが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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