黄金株の基礎知識と活用法:企業防衛と事業承継のカギ

黄金株(拒否権付種類株式)の定義から活用方法、メリット・デメリット、発行手続、評価方法まで詳しく解説します。事業承継や企業防衛に役立つ黄金株の特徴と注意点を押さえましょう。 

目次

  1. 黄金株(拒否権付種類株式)の定義と特徴
  2. 黄金株の主な活用シーン
  3. 黄金株発行のメリットとデメリット
  4. 黄金株の発行手続
  5. 黄金株の評価方法
  6. 黄金株の実際の活用例
  7. まとめ

黄金株(拒否権付種類株式)の定義と特徴

黄金株(拒否権付種類株式)は、会社法で認められている種類株式の一つです。この株式は、非常に強力な権限を持つことから「黄金株」とも呼ばれています。黄金株の特徴や仕組みについて、詳しく見ていきましょう。

黄金株(拒否権付株式)の概要

黄金株(拒否権付株式)は、株主総会や取締役会の特定の決議事項に対して拒否権を行使できる特別な株式です。この株式を保有する株主は、たとえ1株しか所有していなくても、事前に定款で定められた決議事項に対して拒否権を行使することができます。

具体的には、以下のような権限を持ちます。

1. 株主総会の特定の決議事項を否決する権利

2. 取締役会の特定の決議事項を否決する権利

3. その他、定款で定められた事項に対する拒否権

このように、黄金株は非常に強力な権限を持つため、発行には慎重な検討が必要です。

種類株式の基本

黄金株を理解するためには、まず種類株式について知る必要があります。種類株式とは、通常の株式(普通株式)とは権利の内容が異なる株式のことを指します。

種類株式の主な特徴は以下の通りです。

1. 会社法で認められた制度

2. 普通株式とは異なる権利内容を持つ

3. 定款に具体的な権利内容を記載する必要がある

黄金株(拒否権付種類株式)は、この種類株式の一種です。会社法108条に基づき、会社は株主総会決議事項などに対して、別途、種類株主総会を開催して決議することを定款に定めることができます。

拒否権付株式と普通株式の主な違い

株式の基本原則は、すべての株主が平等の権利を持つことです。普通株式は、この原則に従い、主に以下の権利を有しています。

1. 株主総会での議決権

2. 配当金の受領権

3. 残余財産の配分権

一方、拒否権付株式(黄金株)は、これらの権利に加えて、会社の決議事項に反対できる特別な権利を持ちます。この拒否権こそが、黄金株の最大の特徴であり、普通株式との大きな違いとなっています。

黄金株の保有者は、たとえ少数株主であっても、特定の決議事項に対して強力な影響力を持つことができるのです。

黄金株の主な活用シーン

黄金株(拒否権付種類株式)は、主に二つのシーンで活用されます。一つは段階的な事業承継、もう一つは敵対的買収への対抗策としてです。それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。

段階的な事業承継への応用

事業承継を進める際、黄金株は非常に有効なツールとなります。通常、早い段階で後継者に自社株を引き継ぐと、現経営者は経営権を失い、会社への発言権もなくなってしまいます。しかし、黄金株を活用することで、以下のようなメリットが得られます。

1. 経営権を移譲しつつ、重要な決定に対する拒否権を保持できる

2. 後継者の判断が会社にとってマイナスと考えられる場合、拒否権を行使できる

3. 段階的な権限移譲が可能となり、スムーズな事業承継を実現できる

ただし、現経営者が長期間にわたって黄金株を保有し続けると、「事業承継は形式のみで実質的な発言権は現経営者にある」と周囲に判断される可能性があるため、注意が必要です。

敵対的買収に対する防衛策

黄金株は、敵対的買収への有効な対抗策としても知られています。敵対的買収とは、対象会社の同意を得ずに株式を大量に取得し、経営権を奪取しようとする行為を指します。

黄金株による防衛策の特徴は以下の通りです。

1. 経営者が1株でも黄金株を保有していれば、重要な議決事項を否決できる

2. 議決権の過半数を取得されても、経営の根幹に関わる決定を阻止できる

3. 会社の自主性を守り、長期的な視点での経営を継続できる

このように、黄金株は敵対的買収に対する強力な防衛手段となりますが、その使用には慎重な判断が求められます。

黄金株発行のメリットとデメリット

黄金株(拒否権付種類株式)の発行には、さまざまなメリットとデメリットがあります。企業がこの特殊な株式を発行する際は、これらを十分に検討する必要があります。

黄金株発行によるメリット

黄金株を発行することで、企業は以下のようなメリットを得ることができます。

1. 企業の自主性を守ることができる 

  • 重要な経営判断に対して拒否権を行使できるため、企業の理念や方針を守りやすくなります。

2. 敵対的買収からの防衛手段として効果的 

  • 議決権の過半数を取得されても、重要事項の決定を阻止できるため、強力な買収防衛策となります。

3. 事業承継を円滑に進められる 

  • 段階的な権限移譲が可能となり、現経営者の意向を反映しつつ、スムーズな事業承継を実現できます。

4. 早期の事業承継に取り組みやすくなる 

  • 経営権を移譲しても重要な決定権を保持できるため、早い段階での事業承継計画が立てやすくなります。

黄金株発行に伴うデメリット

一方で、黄金株の発行には以下のようなデメリットも存在します。

1. 特定株主への権限の過度な集中 

  • 黄金株を保有する株主に強大な権限が集中し、他の株主の利益が損なわれる可能性があります。

2. 拒否権の不合理な乱用のリスク 

  • 黄金株保有者が拒否権を濫用すると、会社の経営に悪影響を及ぼす可能性があります。

3. 企業ガバナンスの問題 

  • 黄金株の存在により、経営の透明性が低下し、適切なガバナンスが阻害されるリスクがあります。

4. 敵対者に逆利用されるリスク 

  • 黄金株が敵対する相手の手に渡った場合、逆に会社の経営を妨害される可能性があります。

5. 事業承継税制の利用制限 

  • 黄金株の発行により、事業承継税制の適用が受けられなくなる可能性があります。

6. 相続人間でのトラブルの可能性 

  • 黄金株の相続をめぐって、相続人間でトラブルが発生するリスクがあります。

これらのメリットとデメリットを十分に検討した上で、黄金株の発行を決定することが重要です。

黄金株の発行手続

黄金株(拒否権付種類株式)を発行する際には、適切な手続を踏む必要があります。主に二つの方法がありますので、それぞれの手順を詳しく見ていきましょう。

既存の普通株式を黄金株に変更する方法

既存の普通株式を黄金株に変更する場合、以下の手順で進めます。

1. 株主総会の招集と定款変更 

  • 株主総会を招集し、定款の変更を行います。
  • 定款変更では以下の点を決定します:
    a) 黄金株の発行可能株式の総数 b) 黄金株に付与する拒否権の内容

2. 株主との合意書作成 

  • 普通株式を黄金株に変更することについて、該当する株主と会社の間で合意書を作成します。

3. 変更登記の実施 

  • 以下の点について変更登記を行います: 
    a) 黄金株の発行可能株式総数と内容 b) 発行済株式の総数およびその種類別の数

新規に黄金株を発行する方法

新たに黄金株を発行する場合は、以下の手順で進めます。

1. 株主総会の招集、定款変更、募集要項の決定 

  • 株主総会を招集し、定款変更と募集要項の決定を行います。
  • 定款変更では、黄金株の発行可能株式総数と権利内容を決定します。
  • 募集要項では以下の点を決議します:
    a) 発行する株式の種類および数 b) 払込金額 c) 払込期日 d) 増加する資本金および資本準備金に関する事項

2. 黄金株の引受申込 

  • 決定した募集要項を黄金株引受者に通知し、申込を受け付けます。

3. 黄金株の割当てと払込み 

  • 申込者に割り当てる株式数を通知し、黄金株を割り当てます。
  • 払込期日に払込みを受けます。

4. 変更登記の実施 

  • 以下の点について変更登記を行います: 
    a) 資本金の額 b) 黄金株の発行可能株式総数と内容 c) 発行済株式の総数及びその種類別の数

これらの手続を適切に行うことで、法的に有効な黄金株を発行することができます。

黄金株の評価方法

黄金株(拒否権付種類株式)の評価方法は、特に事業承継の場面で重要になります。

黄金株の評価

主に相続税評価額に関心が集まりますが、黄金株の評価には以下のような特徴があります。

1. 通常の株式と同じ評価方法 

  • 黄金株の相続税評価は、一般の株式と同様の方法で行われます。
  • 拒否権があることによって、特別に評価額が上昇することはありません。

2. 会社の規模による評価方法の違い 

  • 大会社:類似業種比準方式
  • 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式
  • 小会社:純資産価額方式

3. 配当還元方式の適用 

  • 黄金株が配当還元方式の要件を満たす場合、この方式で評価することも可能です。

4. M&A時の価値評価 

  • M&Aの場面では、黄金株の持つ拒否権の価値を考慮する必要があります。
  • 通常の株式価値に加えて、拒否権によるプレミアムを加算することがあります。

5. 企業価値評価への影響 

  • 黄金株の存在が企業のガバナンスや経営の柔軟性に影響を与える可能性があるため、企業価値評価の際にはこれらの要素も考慮されます。

6. 流動性の低さ 

  • 黄金株は一般的に譲渡制限が付されていることが多く、流動性が低いため、評価額にディスカウントが適用されることがあります。

7. 定期的な再評価の必要性 

  • 企業の状況や経済環境の変化に応じて、黄金株の価値も変動する可能性があるため、定期的な再評価が推奨されます。

黄金株の評価は、通常の株式評価と基本的には同じですが、その特殊な性質を考慮することが重要です。

黄金株の実際の活用例

黄金株(拒否権付種類株式)の実際の活用例を見ることで、その実務的な意義をより深く理解することができます。

代表的な事例

日本国内での代表的な事例を紹介します。

1. INPEX(旧社名:国際石油開発帝石)の事例 

  • 日本国内の上場企業で黄金株を発行している唯一の企業です。
  • 目的:海外企業からの買収を防ぐこと
  • 黄金株の保有者:経済産業大臣
  • 特徴: a) 国家の重要な資源開発企業を守るための措置 b) 経営の安定性と国益の保護を両立

2. 地方空港の民営化における活用 

  • 一部の地方空港の民営化において、地方自治体が黄金株を保有するケースがあります。
  • 目的:地域の利益を守りつつ、民間の経営ノウハウを活用すること
  • 特徴: a) 重要な意思決定に地域の意向を反映できる b) 民間企業の自由な経営と公共性の確保を両立

3. 中小企業の事業承継での活用 

  • 具体的な企業名は公表されていませんが、中小企業の事業承継において黄金株が活用されるケースがあります。
  • 目的:円滑な事業承継と経営の安定性確保
  • 特徴: a) 創業者が一部の拒否権を保持しつつ、後継者に経営権を移譲 b) 急激な経営方針の変更を防ぎ、段階的な承継を実現

4. ベンチャー企業の資金調達における活用 

  • 創業者が経営権を維持しつつ、大規模な資金調達を行う際に黄金株を活用するケースがあります。
  • 目的:創業者の経営方針を守りつつ、外部からの資金調達を実現すること
  • 特徴: a) 創業者が少数株主となっても重要な意思決定権を保持 b) 投資家の利益と創業者の経営方針のバランスを取る

これらの事例から、黄金株が様々な場面で活用され、経営の安定性や特定の利益の保護に役立っていることがわかります。ただし、その強力な権限ゆえに、使用には慎重な判断が求められます。

まとめ

黄金株(拒否権付種類株式)は、特定の決議事項に対する拒否権を持つ強力な種類株式です。事業承継や敵対的買収防衛など、様々な場面で活用されますが、その強力な権限ゆえに慎重な運用が求められます。発行には適切な手続が必要で、評価方法も通常株式と異なる点があります。活用例を参考に、自社の状況に応じた適切な判断が重要です。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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