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黄金株とはなにか?企業買収防衛策と円滑な承継方法を解説

「黄金株とは何か」とお悩みですか? 本記事では黄金株の定義から活用シーン、発行や評価の手続までやさしく説明し、企業防衛と事業承継を成功へ導く具体策をお伝えします。

目次

  1. 黄金株とは拒否権を持つ特別な株式
  2. 黄金株が活躍する2大シーン
  3. 黄金株発行の利点と課題を整理
  4. 黄金株発行の基本手続と2つの方法
  5. 黄金株の評価方法と相続税・M&Aへの影響
  6. 黄金株の活用事例で学ぶ実務ポイント
  7. 黄金株を導入する際の7つの実務チェックリスト
  8. まとめ

黄金株とは拒否権を持つ特別な株式

黄金株は会社法で定められた「拒否権付種類株式」の通称です。定款で定めた重要な決議に対し、たった一株でも否決できる強力な権限を持ちます。普通株式の大原則は「一株一議決権」で株主平等ですが、黄金株はその原則に例外を設け、株主や取締役会の決議をストップさせるブレーキ役を果たします。企業理念を守りたい創業者や、公的性質の強い事業を抱える企業が、経営の方向性を急激に変えない保険として発行するケースが増えています。

拒否権付種類株式が持つ権限と仕組み

黄金株の核心は「拒否権」です。定款で対象となる議題を具体的に列挙し、その議題については黄金株主の同意がない限り可決できません。例えば、取締役の選解任、事業譲渡、大規模な資本政策などが典型です。あらかじめ定款に盛り込むことで、通常の議決権の過半数を取られても会社の根幹部分を守れます。黄金株主が行使する権限は、「対象決議を否決する」というシンプルな行動だけですが、その一手で経営の進路を大きく変えられる点が特徴です。

普通株式との違いは決議を止める力

普通株式は議決に参加し賛成多数で物事を決めますが、黄金株は「拒否するだけ」で絶大な影響を発揮します。仮に取締役会が全会一致で賛成しても、黄金株主がノーと言えば議案は不成立です。議案によっては株主総会と種類株主総会の双方承認が必要になり、手続が複雑化しますが、それでも企業が採用するのは「最後の砦」としての価値が高いからです。

黄金株が活躍する2大シーン

黄金株が最も効果を発揮するのは「段階的な事業承継」と「敵対的買収防衛」の2場面です。どちらも経営権が大きく動く局面であり、企業の長期方針や独立性を守るために強いブレーキが求められます。

段階的な事業承継で経営を見守る

オーナー経営者が後継者へ議決権全体を早期に譲ると、引退後の会社方針に口を出せなくなります。黄金株を残せば、後継者へ大半の株式を移しても重要議案をチェック可能です。経営のバトンタッチは進めつつ、思わぬリスクを回避できるため、税負担の低いタイミングで株式を移転する“早期承継”とも相性が良い手法です。

拒否権が後継者の暴走を防止

後継者が経験不足で拙速な投資や事業撤退を決めようとしても、黄金株主である先代が拒否権を行使すれば実行されません。これにより経営判断の質を担保し、従業員や取引先の不安を和らげられます。ただし、いつまでも拒否権を握り続けると「承継が見せかけ」だと評価されるので、期限や条件を設ける運用が望ましいです。

敵対的買収を阻む企業防衛策

買収者が市場で株式を買い集め、議決権の過半数を奪えば経営権も奪取されます。しかし経営陣や国・自治体が黄金株を保有していれば、経営統合や定款変更など要害となる議案を拒否できます。INPEXの例では、経済産業大臣が黄金株を持つことで国家資源を守っています。少数株主でも経営の基軸を守れる点が、ポイズンピルなど他の防衛策と異なる強みです。

一株でも経営の根幹を守れる

議決権割合が1%未満でも、黄金株に拒否権が付いていれば経営権の逆転は起こりません。大規模買収に要するコストを押し上げ、敵対的買収自体を思いとどまらせる抑止力として機能します。ただし、黄金株を第三者に譲渡制限付きで保有させる場合は、譲渡先や譲渡制限の内容を慎重に設計しないと、逆に敵対者へ渡るリスクがあるため注意が必要です。

黄金株発行の利点と課題を整理

黄金株は強力な武器ですが、諸刃の剣でもあります。利点と課題を両面から把握し、導入するかどうかを判断しましょう。

企業の自主性確保と早期承継支援

メリットとして、①企業理念や長期ビジョンを守れる、②敵対的買収を防ぎやすい、③現経営者が拒否権を残せるため早期に株式を後継者へ移しやすい、の三点が挙げられます。特に中小企業では、後継者への株式譲渡を早めに行うと贈与税評価額が低い時点で移転でき、税負担の軽減にもつながります。

ガバナンス悪化や権限濫用の懸念

一方で、①特定株主に権限が集中し他の株主の発言力が低下する、②拒否権の乱発で経営が停滞する、③透明性が下がりコーポレートガバナンスに負の影響が出る、④黄金株が敵対者に渡れば防衛策が逆手に取られる、といったリスクがあります。また、事業承継税制の適用要件を満たせなくなる恐れがあるため、税理士と事前にシミュレーションすることが欠かせません。

黄金株発行の基本手続と2つの方法

黄金株を発行するには、会社法に沿った厳格な手続が求められます。大きく分けて「既存株式の一部を黄金株へ変更する方法」と「新株として黄金株を発行する方法」の二通りがあり、それぞれ株主総会の特別決議と定款変更、さらに登記が必要です。ここでは流れを押さえ、後半で具体的なステップを詳説します。

既存株式を変更して黄金株化する流れ

まず株主総会を招集し、定款に①黄金株発行可能株式総数、②拒否権の範囲を明記します。続いて普通株主との合意書を交わし、変更登記で株式種類と数を登記簿へ反映させます。

新たに黄金株を発行する流れ

新規発行では、株主総会で定款変更と募集要項を決定し、引受人へ通知して申込を受け、払込み後に資本金増加と株式種類別内訳を登記します。募集要項には発行数や払込期日を明示することが必須です。

既存株を黄金株へ変更する際の注意点

既存株式を黄金株へ転換する場合、普通株主の理解を得るプロセスが欠かせません。株主総会に先立って説明資料を配布し、⼗分な質疑応答の時間を設けると、定款変更への同意が得やすくなります。特に拒否権を付す議題の範囲については、「事業譲渡」「組織再編」「株式併合」など具体的に列挙し、漫然とした条文にしないことが肝要です。細部を曖昧にすると、後日「黄金株行使の可否」を巡り紛争化しやすいため、条文例を示しつつ慎重に策定しましょう。

新株発行時の払込と登記で気を付ける点

新規発行方式では払込期日と資本金計上額を誤ると、商業登記で補正が生じ手続が長期化します。定款変更議事録、払込取締役会決議、銀行払込証明書を整え、払込期日から2週間以内に登記申請するのが原則です。また、黄金株が譲渡制限株式である場合は、登記事項に「譲渡制限に関する定め」を記載する必要があります。ここが漏れると第三者への対抗要件を失い、買収者に株式が移転するリスクが高まるため、書式を二重三重に確認しましょう。

黄金株の評価方法と相続税・M&Aへの影響

黄金株は「拒否権」という特殊性を持ちますが、税務上の相続評価は通常株式と同じ枠組みで行います。もっとも、M&A価格や企業価値を算定する場面では、拒否権プレミアムの有無が論点となり、交渉に影響を与えます。

相続税評価は通常株と同じ方式

会社の規模が大会社なら「類似業種比準方式」、中会社なら「比準+純資産折衷方式」、小会社なら「純資産方式」で評価します。拒否権の存在自体が評価額を押し上げることはなく、配当還元方式の要件(議決権の5%未満など)を満たせば、その方式も選択可能です。つまり黄金株だからといって即座に高額評価になるわけではなく、法定方式が優先されます。

配当還元方式適用時の注意

黄金株は譲渡制限付きであることが多く、上場株のように配当利回りが安定せず、配当還元方式の利点が小さい場合があります。配当実績が乏しいと評価額が想定以上に低くなるケースもあるため、税務リスクとバランスを取った株主構成を検討しましょう。

M&Aでのプレミアムとディスカウントの考え方

M&A交渉では拒否権が企業価値に与える影響を定量化します。具体的には、①拒否権により経営方針を縛る弊害(ディスカウント)、②買収防衛力が高いという安心感(プレミアム)、の双方を勘案します。譲渡制限により流動性が低い場合は、一般株より10〜30%程度のディスカウントが生じることもあります。

拒否権価値・ガバナンス影響の評価方法

DD(デューデリジェンス)では、定款や株主間契約を精査し、拒否権行使の範囲と過去行使実績をチェックします。ガバナンス上の制約が過度なら、買い手側は将来の事業展開リスクとして評価減を求める傾向があります。逆に、黄金株保有者が公的機関なら国策案件として評価が高まる場合もあり、ケースバイケースで調整が必要です。

黄金株の活用事例で学ぶ実務ポイント

実際に黄金株を用いた企業を⾒ると、導入の狙いと運用のコツが浮き彫りになります。

INPEXにおける国家的資源確保策

INPEXは経済産業大臣が黄金株を保有し、海外買収による経営支配を防いでいます。拒否対象は合併・事業譲渡など経営の根幹行為に限定され、通常の事業運営には口を出さない設計です。これにより国益を守りつつ市場の資金調達も両立させています。

国家的案件でのバランス設計

黄金株を国が持つことで市場信頼性が毀損しないよう、拒否権範囲を最小限に止め、取締役会の日常的な意思決定には介入しない点が参考になります。

地方空港民営化での自治体保護

地方空港では自治体が黄金株を保有し、運営会社が滑走路統合や運営権譲渡を行う際に拒否権を行使できます。地域住民の利便性と民間経営のスピード感を両立しており、公的インフラの民営化モデルとして注目されています。

中小企業承継で段階的移譲に成功

非公開中小企業A社では、創業者が黄金株1株を保持し、全部株式の90%を長男に、残り普通株を役員に譲渡しました。長男が新規事業へ大規模投資を提案した際、創業者が拒否権を行使し計画を再検討。結果として投資規模を縮小し、財務リスクを低減できました。

ベンチャー企業の創業者保護と資金調達

B社はVCからの出資時に黄金株を創業者に残しました。VCは経営陣刷新が必要な場合のみ黄金株放棄を求める条項を盛り込み、創業者のビジョン尊重とEXIT戦略の両立を図りました。この仕組みにより大型シリーズBラウンドを実現しつつ、創業者の経営哲学を維持できています。

黄金株を導入する際の7つの実務チェックリスト

  1. 導入目的の明確化
    事業承継か買収防衛か、狙いを具体化する。

  2. 拒否権範囲の限定
    対象議案を特定し乱用防止策を条文化する。

  3. 株主説明と合意形成
    資料配布と十分な対話で議案可決リスクを下げる。

  4. 譲渡制限の設計
    敵対者流出防止と流動性確保のバランスを取る。

  5. 登記・定款整備
    譲渡制限や発行可能株式数を漏れなく記載する。

  6. 税務・評価シミュレーション
    事業承継税制の適用可否やM&A時の評価影響を確認する。

  7. 定期的な運用見直し
    経営環境変化に応じ拒否権範囲や株主構成をアップデートする。

まとめ

黄金株は一株でも経営の根幹決議を止める強力な武器です。段階的事業承継や敵対的買収防衛に有効ですが、権限乱用やガバナンス低下のリスクも伴います。導入目的を明確にし、拒否権範囲を限定した定款整備、株主合意、適切な評価と定期見直しを行えば、自社の価値と理念を守りつつ円滑な承継・成長を実現できます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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