零細企業の定義や特徴、中小企業との違い、そしてM&Aの可能性について詳しく解説します。零細企業が直面する課題や将来の展望、M&Aを検討する際の留意点なども含め、零細企業の全体像を把握できる内容となっています。
零細企業には明確な法的定義はありませんが、一般的に中小企業基本法で定義されている「小規模企業者」に近い概念と考えられています。具体的には、以下のような規模の企業を指します:
• 卸売業、サービス業、小売業:従業員5人以下
• 製造業、建設業、運輸業、その他の業種:従業員20人以下
つまり、従業員がごく少数の家族経営の商店や町工場のような、非常に小規模な企業が零細企業と呼ばれています。
零細企業は、その規模は小さいものの、日本の企業数の大半を占める重要な存在です。以下のような社会的役割を果たしています:
1. 地域社会の支援:
2. 多様な雇用機会の創出:
3. 地域経済の活性化:
4. 伝統技術や文化の継承:
このように、零細企業は日本の社会経済において、きめ細かなサービスの提供や地域に密着した事業展開を通じて、重要な役割を果たしています。その存在は、地域社会の維持と発展に不可欠であると言えるでしょう。
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の問題・課題)
零細企業は、ベンチャー企業、中小企業、大企業とは異なる特徴を持っています。ここでは、それぞれの企業形態の特徴を比較し、零細企業の位置づけをより明確にしていきます。
ベンチャー企業は、以下のような特徴を持っています:
1. 革新性:新しい技術やビジネスモデルを展開
2. 成長志向:急成長を目指す
3. 設立年数:比較的若い企業が多い(設立から数年程度)
4. 資金調達:ベンチャーキャピタルなどからの投資を受けることが多い
零細企業との共通点:
• 従業員数が少なく、会社の規模が小さい
零細企業との相違点:
• 零細企業は必ずしも革新的なビジネスモデルや急成長を目指すわけではない
• 零細企業は長年同じ事業を継続している場合も多い
中小企業基本法における中小企業の定義は以下の通りです:
業種 |
資本金の額または出資金の総額 |
常時使用する従業員の数 |
卸売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
小売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
製造業、建設業、運輸業、その他の業種 |
3億円以下 |
300人以下 |
零細企業との主な違い:
• 規模:零細企業は中小企業の中でも特に小規模な企業を指す
• 経営体制:零細企業は家族経営や個人事業主が多い傾向がある
• 事業範囲:零細企業は地域密着型の事業が多い
大企業の定義は明確ではありませんが、会社法で定義されている「大会社」を参考にすると、以下のいずれかに該当する会社を指します:
1. 最終事業年度の貸借対照表上の資本金が5億円以上
2. 最終事業年度の貸借対照表上の負債の部の合計額が200億円以上
零細企業との主な違い:
• 規模:従業員数、資本金、売上高などあらゆる面で大きな差がある
• 経営体制:大企業は組織化された経営体制を持つが、零細企業は経営者が直接管理することが多い
• 事業範囲:大企業は全国や海外展開をしていることが多いが、零細企業は地域密着型が多い
• 資金調達:大企業は株式市場からの調達が可能だが、零細企業は難しい
このように、零細企業は他の企業形態と比べて、規模が小さく、地域に密着した事業展開を特徴としています。しかし、その小ささゆえの機動性や、地域社会との密接な関係など、独自の強みも持ち合わせています。
零細企業には、その規模ゆえの強みと弱みがあります。ここでは、零細企業が事業を展開する上でのメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。
1. 地域密着型の事業展開
2. 迅速な意思決定と柔軟な対応
3. 顧客との近い距離感
4. 固定客の獲得とリピート率の高さ
5. 低コスト運営
6. 特定分野での専門性
1. 事業拡大の難しさ
2. 経営資源の制約
3. ブランド力の弱さ
4. 景気変動の影響を受けやすい
5. 技術革新への対応の遅れ
6. 事業承継の難しさ
7. 資金繰りの不安定さ
零細企業は、これらのメリットとデメリットを十分に理解した上で、自社の強みを活かし、弱みを補完する戦略を立てることが重要です。地域に根ざした事業展開や、特定分野での専門性を活かすことで、独自の競争力を築くことができるでしょう。また、デメリットを克服するために、デジタル化の推進や外部リソースの活用、事業承継の計画的な準備などに取り組むことも必要です。
日本経済を支える重要な役割を担う零細企業ですが、現在様々な課題に直面しています。一方で、事業環境の変化を捉えた新たな取り組みにチャレンジする零細企業も現れつつあります。ここでは、零細企業の現状と将来展望について詳しく見ていきましょう。
新型コロナウイルス感染症の流行は、零細企業に大きな影響を与えました:
• 中小企業庁の調査によると、70%以上の中小企業・小規模事業者が企業活動にマイナスの影響を受けたと回答
• 特に、対面サービスを提供する業種の零細企業が大きな打撃を受けた
• 一方で、コロナ禍をきっかけに新しい事業モデルに取り組む零細企業も登場
オンライン販売の開始
テイクアウトサービスの導入
リモートワークの導入による業務効率化
少子高齢化に伴う人手不足が深刻化する中、零細企業にとって働き方改革への対応は喫緊の課題となっています:
• 長時間労働の是正
• 有給休暇の取得促進
• 非正規雇用の処遇改善
• ITツールの導入による業務効率化
• 柔軟な勤務形態の導入(フレックスタイム制、テレワークなど)
これらの取り組みを通じて、職場環境を整備し、人材確保・定着を図ることが求められています。
人手不足解消の選択肢の一つとして、外国人材の活用が注目されています:
• 2019年4月に創設された特定技能制度により、一定の専門性・技能を有する外国人材の受け入れが可能に
• 零細企業でも、外国人材の採用を検討するケースが増加
• 課題として、言語や文化の違いへの対応、適切な労務管理などが挙げられる
副業を解禁する企業が増える中、零細企業でも副業人材の活用を検討する動きが見られます:
メリット:
• 専門的なスキルを持つ人材の確保
• 従業員のスキルアップや視野拡大
• 人件費の抑制
デメリット:
• 情報漏洩のリスク
• 労務管理の複雑化
• 本業への影響
副業の受け入れは、各社の事情に合わせて慎重に検討する必要があります。
新型コロナウイルス感染症をきっかけに、零細企業でもデジタル化の動きが加速しています:
• テレワークの導入
• オンラインでの営業活動や顧客対応の開始
• クラウドサービスの活用による業務効率化
• ECサイトの立ち上げによる販路拡大
これらのDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みは、零細企業の生産性向上や競争力強化につながることが期待されます。
持続可能な開発目標(SDGs)への関心の高まりを受けて、零細企業でもSDGsに取り組む動きが出てきています:
• 環境に配慮した商品・サービスの開発
• 地域社会の課題解決につながる事業展開
• 多様な人材の活用(女性、高齢者、障害者など)
• エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入
SDGsへの取り組みは、新たな顧客価値の創出や企業イメージの向上につながる可能性があります。
経営者の高齢化と後継者不足は、零細企業にとって深刻な問題となっています:
• 早期からの事業承継計画の策定
• 親族外承継や従業員承継の検討
• M&Aによる第三者への事業引継ぎ
• 事業承継税制の活用
円滑な事業承継を実現することで、零細企業の技術やノウハウを次世代に引き継ぎ、地域経済の維持・発展につなげることが重要です。
零細企業は、これらの課題に直面しながらも、その機動性や地域との密接な関係を活かして、新たな事業機会を見出し、成長を続けることが期待されています。デジタル化やSDGsへの取り組み、多様な人材の活用など、時代の変化に柔軟に対応しながら、独自の強みを発揮していくことが、零細企業の将来の発展につながるでしょう。
事業承継問題の解決策の一つとして、M&A(合併・買収)に注目が集まっています。ここでは、零細企業を対象とするM&Aの現状と、M&Aのメリットについて詳しく見ていきましょう。
近年、国内のM&A件数は増加傾向にあり、零細企業を含む中小企業のM&Aも活発化しています:
• 2021年のM&A件数:4,280件(過去最高)
• 2022年のM&A件数:4,304件(さらに過去最高を更新)
この背景には、以下のような要因があると考えられます:
1. 経営者の高齢化と後継者不足
2. M&Aに対する経営者の意識変化(タブー視からの脱却)
3. 零細企業でも利用しやすいM&Aサービスの普及
4. 事業拡大や新規事業参入を目指す企業の増加
5. 新型コロナウイルスの影響による事業再編の必要性
今後も少子高齢化に伴う後継者不足が続く中、零細企業のM&Aは高い水準で推移すると予想されます。
零細企業を買収することで、譲受企業(買収する側)は以下のようなメリットを得ることができます:
1. 新たな顧客基盤の獲得
2. 即戦力となる人材の確保
3. 参入障壁の高い市場への進出
4. シナジー効果の創出
5. 時間とコストの節約
6. ブランドや知的財産の獲得
7. 競合の排除
8. 税制上のメリット
一方、零細企業の経営者にとって、M&Aによる事業売却のメリットは以下の通りです:
1. 後継者問題の解決
2. 事業の存続と発展
3. 経営者の引退後の生活資金確保
4. 従業員の雇用維持
5. 取引先や地域社会への貢献継続
6. 経営者の精神的負担軽減
7. 新たなビジネスチャンスの創出
8. 企業価値の最大化
零細企業のM&Aは、譲渡側と譲受側の双方にメリットをもたらす可能性があります。ただし、M&Aを成功させるためには、自社の価値を正確に評価し、適切な相手を見つけることが重要です。また、M&Aの目的や条件について十分な検討と交渉を行い、従業員や取引先への配慮も忘れないようにしましょう。
M&Aは、譲受企業と譲渡企業双方にメリットをもたらす一方で、リスクも伴う取引です。零細企業がM&Aを円滑に行うためには、譲受側と譲渡側それぞれが留意すべき点があります。ここでは、その具体的な留意点について詳しく見ていきましょう。
零細企業を買収する側(譲受側)は、以下の点に注意する必要があります:
1. 適正な企業価値評価
2. デューデリジェンス(企業調査)の徹底
3. シナジー効果の具体的検討
4. 従業員の処遇と組織統合
5. 企業文化の違いへの対応
6. ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)の計画
7. 法的手続の理解
8. 資金調達
9. 情報管理とコミュニケーション
零細企業を売却する側(譲渡側)は、次の点に留意しましょう:
1. 適切な企業価値のアピール
2. 譲渡価格の適正な設定
3. 譲渡の目的の明確化
4. 従業員への配慮
5. 情報開示の準備
6. 取引先との関係維持
7. 税務上の影響の把握
8. 個人保証の解除
9. 譲渡後の役割の明確化
10. 秘密保持の徹底
11. 譲渡後の生活設計
12. 専門家の活用
零細企業のM&Aを成功させるためには、譲受側と譲渡側の双方が、これらの留意点を十分に理解し、慎重に準備を進めることが重要です。また、お互いの立場を尊重し、win-winの関係を構築することを目指すべきです。
零細企業は、日本経済を支える重要な存在であり、地域社会に欠かせない役割を果たしています。一方で、少子高齢化や後継者不在など、様々な課題に直面しています。M&Aは、こうした課題を解決し、零細企業の事業を存続させるための有力な選択肢の一つです。
零細企業の特徴や現状を理解し、その強みを活かしながら、時代の変化に柔軟に対応していくことが重要です。デジタル化やSDGsへの取り組み、多様な人材の活用など、新たな挑戦を続けることで、零細企業は持続的な発展を遂げることができるでしょう。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事