株式譲渡における議事録の重要性と適切な作成方法を解説します。株主総会議事録と取締役会議事録の違い、作成時の注意点、必要な記載事項などを詳しく紹介し、円滑な株式譲渡手続をサポートします。
目次
株式譲渡を行う際、議事録は取引の成否を左右する極めて重要な文書です。議事録は、株式譲渡に関する意思決定プロセスを記録し、その適法性を証明する役割を果たします。
議事録には主に以下の2種類があります:
株主総会議事録は、取締役会が設置されていない企業において特に重要です。株式譲渡の承認決議だけでなく、株主総会が開催されるたびに作成が必要となります。会社法により、記載すべき事項が明確に定められており、これを遵守することが求められます。
株主総会議事録の主な役割:
• 株主総会の開催日時や場所の証明
• 決議内容の正確な記録
• 株主の意思決定プロセスの透明性確保
取締役会が設置されている企業では、取締役会での承認決議が必要となり、その内容を記録した取締役会議事録を作成します。一方、取締役会が設置されていない会社でも、1人または複数の取締役による決議承認が必要な場合があります。
取締役会議事録と取締役決定書の特徴:
1. 取締役会議事録:
o 取締役会設置会社で作成
o 決められた記載事項を盛り込む必要がある
o 出席した取締役や監査役の記名と押印が必要
2. 取締役決定書:
o 取締役会非設置会社で作成
o 「取締役決定書」や「取締役決議書」というタイトルで作成
o 取締役会議事録に相当する内容を記録
両者とも、書面で作成する場合は出席した取締役や監査役の記名と押印が必要です。電磁的記録の場合は、電子署名によって代替することができます。
議事録は、株式譲渡の適法性を証明する重要な文書であり、後々のトラブル防止や、登記申請、さらには裁判での証拠資料としても活用される可能性があります。そのため、正確かつ詳細な記録を心がけ、法令に準拠した作成と保管が求められます。
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡の承認手続は、以下のステップで進められます。各段階で、必要に応じて取締役会議事録や株主総会議事録を作成します。
1. 株式譲渡の承認請求:
o 株式の譲渡を希望する株主が、会社に譲渡承認請求書を提出します。
o 譲渡制限株式の場合、売り手と買い手が共同で請求書を作成します。
o 請求書には、譲渡する株式数、種類、譲受人の情報などを記載します。
2. 承認決議の実施:
o 譲渡承認請求書を受領した会社は、承認または不承認の手続を行います。
o 取締役会設置会社の場合は取締役会が、非設置会社の場合は株主総会が決議を行います。
3. 議決内容の通知と契約実行:
o 承認請求から2週間以内に、取引当事者へ決議内容を通知します。
o 通知を受けた当事者は、株式譲渡を実行します。
4. 株式譲渡契約書の締結:
o 譲渡の当事者間で、株式譲渡契約書を作成・締結します。
o トラブル防止のため、書面での契約締結が推奨されます。
5. 株主名簿の書き換え:
o 譲渡当事者が共同で、会社に対して株主名簿の書き換えを請求します。
o 会社は株主名簿の書き換えを実行し、必要に応じて株主名簿記載事項証明書を交付します。
各ステップにおいて、適切な議事録の作成と保管が重要です。これにより、株式譲渡の適法性と透明性が確保されます。
株式譲渡に関連して議事録の作成や提出が必要となる主なケースは以下の通りです。
株式譲渡契約の締結に先立ち、株式譲渡承認の手続の中で、取締役会議事録や株主総会議事録が作成されます。これらの議事録は、株式譲渡の承認プロセスが適切に行われたことを証明する重要な文書となります。
株式譲渡自体は登記事項ではありませんが、多くの場合、M&A等で株式譲渡を行う際に定款や役員の変更が伴います。その際の変更登記申請には、以下の議事録の添付が必要となります:
• 定款変更を承認した株主総会議事録
• 役員変更を承認した株主総会議事録
これらの議事録は、変更内容の正当性を証明する役割を果たします。
1. 裁判での証拠書類として:
o 株式譲渡に関する紛争が裁判に発展した場合、議事録が重要な証拠となります。
o 決議内容や決議の成立過程を示す資料として提出が求められることがあります。
2. 株主からの閲覧謄写請求への対応:
o 株主から議事録の閲覧や謄写の請求があった場合、応じる必要があります。
o 正当な理由なく閲覧を拒否すると、100万円以下の過料が課される可能性があります。
これらのケースに備え、議事録を適切に作成し、法定期間内で保管することが重要です。また、機密情報の取り扱いには十分注意を払い、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
株式譲渡に関する議事録を作成する際は、以下の6つの点に特に注意が必要です。
1. 開催日時の正確な記載:
o 株主総会や取締役会の開催日時を正確に記録します。
o 誤った日付の記載は、議事録の信頼性を損なう可能性があります。
2. 記載内容の正確性確保:
o 商業登記や裁判の証拠資料となる可能性を考慮し、内容の正確性を徹底します。
o 決定事項と議事録の記載内容に相違がないよう注意します。
3. 署名・押印の要否確認:
o 会社法上、株主総会議事録への署名・押印は義務ではありませんが、定款の規定を確認します。
o 取締役会議事録は、原則として議長・参加者の署名・押印が必要です。
4. 作成者の署名確認:
o 株主総会議事録の作成者(通常は取締役)の署名・押印が必要か確認します。
o 定款の規定に従って適切に対応します。
5. 迅速な作成:
o 登記変更を伴う決議の場合、2週間以内に変更登記申請が必要です。
o 取締役会議事録も、通常2週間以内に作成されることが多いため、迅速な対応が求められます。
6. 適切な保管期間の遵守:
o 株主総会議事録は、本店で原本を10年間、支店で写しを5年間保管します。
o 法定の保管期間を満たさない廃棄や、支店への送付漏れは法令違反となるため注意が必要です。
これらの点に留意して議事録を作成・管理することで、法的要件を満たし、将来的なリスクを軽減することができます。特に重要な取引や複雑な株式譲渡の場合は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
株主総会議事録は、株式譲渡の承認を含む重要な意思決定を記録する文書です。以下、その作成ガイドを示します。
株主総会議事録には、以下の項目を必ず記載する必要があります:
1. 株主総会の開催日時と場所
2. 出席役員および株主の氏名または名称
3. 議長の役職と氏名
4. 議案の概要と審議経過の要点
5. 会計参与、監査役等の発言の概要(該当する場合)
6. 株式譲渡承認に関する決議事項
これらの項目を漏れなく記載することで、株主総会の適法性と決議の有効性を担保します。
以下に、基本的な株主総会議事録のひな形を示します:
株主総会議事録
開催日時:20XX年MM月DD日(○曜日)XX時XX分~XX時XX分
開催場所:○○県○○市○○区○○町X-X-X(当社第X会議室)
出席株主および議決権の状況:
株主総数:XX名
発行済株式総数:XX,XXX株
議決権を行使できる株主数:XX名
議決権を行使できる株主の議決権の総数:XX,XXX個
出席株主数(委任状による出席含む):XX名
出席株主の議決権数:XX,XXX個
議長および議事録作成者:代表取締役 ○○○○
出席取締役および監査役:取締役 ○○○○、監査役 ○○○○
議事の経過および結果:
定刻に、代表取締役○○○○が議長席より開会を宣言し、上記のとおり定足数を満たす株主の出席があったため、本総会が適法に成立した旨を述べ、議案の審議に入った。
議長は、当社株主より以下の株式譲渡承認請求書が提出された旨を説明し、株式譲渡の承認について審議を求めた。慎重審議の結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。
株式譲渡承認請求株主
住所:○○県○○市○○町X-X-X
氏名:○○○○
譲渡株数:X,XXX株
譲渡の相手方
住所:○○県○○市○○町X-X-X
氏名:○○○○
以上をもって本日の議事が終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、議長および出席取締役がこれに記名押印する。
20XX年MM月DD日
○○株式会社 株主総会
議長・代表取締役:○○○○ 印
出席取締役:□□□□ 印
このひな形を活用する際は、以下の点に注意してください:
1. 日時や場所、参加者の情報を正確に記入する
2. 議事の経過を簡潔かつ明確に記載する
3. 株式譲渡に関する決議内容を詳細に記録する
4. 必要に応じて、出席者の署名・押印を忘れずに行う
株主総会を適切に招集することは、議事録の有効性を確保する上で重要です。以下、会社の形態別に招集手順を説明します。
1. 取締役会設置会社の場合:
o 取締役会が株主総会の日時、場所、議題を決定
o 代表取締役が株主総会を招集
o 原則として、株主総会の1週間前までに書面で通知
o 株主の承諾があれば、電磁的方法による招集も可能
o 定款の定めにより、2週間前までの通知が必要な場合もある
2. 取締役会非設置会社の場合:
o 取締役が株主総会の日時、場所、議題を決定
o 代表取締役が株主総会を招集
o 招集通知の方法に特段の定めはなく、書面以外の方法も可能
o 原則として、株主総会の1週間前までに通知
o 定款の定めにより、通知期間を短縮できる場合もある
適切な招集手順を踏むことで、株主総会の決議の有効性が確保され、結果として作成される議事録の法的価値も高まります。
取締役会議事録は、株式譲渡に関する重要な意思決定を記録する文書です。以下、その作成ポイントを解説します。
取締役会議事録には、以下の項目を必ず記載する必要があります:
1. 取締役会の開催日時と場所
2. 出席した取締役および監査役の氏名
3. 議長の役職と氏名
4. 議案の概要と審議経過の要点
5. 監査役の発言の概要(該当する場合)
6. 株式譲渡承認に関する決議事項
これらの項目を漏れなく記載することで、取締役会の適法性と決議の有効性を担保します。
以下に、基本的な取締役会議事録のひな形を示します:
取締役会議事録
開催日時:20XX年MM月DD日(○曜日)XX時XX分~XX時XX分
開催場所:当社本社X階 第X会議室
出席者:
取締役X名(取締役総数X名)
○○○○、□□□□、△△△△、◇◇◇◇
監査役X名(監査役総数X名)
○○○○、□□□□、△△△△、◇◇◇◇
以上の出席があり、本取締役会は適法に成立した。代表取締役○○○○が議長を務め、定刻に開会を宣し、直ちに議案の審議を開始した。
議案:株式譲渡承認の件
議長は、株主□□□□氏より提出された株式譲渡承認請求について説明し、承認の可否について諮ったところ、全会一致で下記のとおり可決承認された。
記
□□□□氏が所有する当社株式X,XXX株を、◇◇◇◇氏に譲渡する。
以上をもって本取締役会の議案審議を終了したため、議長が閉会を宣し、散会した。
上記の決議を明確にするため、ここに議事録を作成し、議長および出席取締役と監査役がこれに記名押印する。
20XX年MM月DD日
○○株式会社取締役会
議長 代表取締役 ○○○○ 印
取締役 □□□□ 印
取締役 △△△△ 印
監査役 ◇◇◇◇ 印
このひな形を活用する際は、以下の点に注意してください:
1. 日時や場所、参加者の情報を正確に記入する
2. 議事の経過を簡潔かつ明確に記載する
3. 株式譲渡に関する決議内容を詳細に記録する
4. 出席した取締役および監査役全員の署名・押印を忘れずに行う
取締役会議事録は、株式譲渡の適法性を証明する重要な文書です。正確かつ詳細な記録を心がけ、法令に準拠した作成と保管が求められます。特に重要な取引や複雑な株式譲渡の場合は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
株式譲渡における議事録は、取引の適法性と透明性を確保する上で極めて重要な文書です。株主総会議事録と取締役会議事録の適切な作成と管理は、法的要件を満たすだけでなく、将来的なリスク軽減にも繋がります。議事録作成時は、開催日時の正確な記載、内容の正確性確保、署名・押印の要否確認、迅速な作成、適切な保管期間の遵守などに注意が必要です。また、株式譲渡の承認手続の各ステップにおいて、適切な議事録の作成が求められます。これらの点に留意し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることで、円滑な株式譲渡プロセスを実現できるでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画