株式譲渡における議事録の重要性と適切な作成方法を解説します。株主総会議事録と取締役会議事録の違い、作成時の注意点、必要な記載事項などを詳しく紹介し、円滑な株式譲渡手続をサポートします。
目次
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡を行う際、議事録は取引の成否を左右する極めて重要な文書です。議事録は、株式譲渡に関する意思決定プロセスを記録し、その適法性を証明する役割を果たします。
議事録には主に以下の2種類があります。
株主総会議事録は、取締役会が設置されていない企業において特に重要です。株式譲渡の承認決議だけでなく、株主総会が開催されるたびに作成が必要となります。会社法により、記載すべき事項が明確に定められており、これを遵守することが求められます。
株主総会議事録の主な役割
取締役会が設置されている企業では、取締役会での承認決議が必要となり、その内容を記録した取締役会議事録を作成します。一方、取締役会が設置されていない会社でも、1人または複数の取締役による決議承認が必要な場合があります。
取締役会議事録と取締役決定書の特徴
取締役会議事録
取締役決定書
両者とも、書面で作成する場合は出席した取締役や監査役の記名と押印が必要です。電磁的記録の場合は、電子署名によって代替することができます。
議事録は、株式譲渡の適法性を証明する重要な文書であり、後々のトラブル防止や、登記申請、さらには裁判での証拠資料としても活用される可能性があります。そのため、正確かつ詳細な記録を心がけ、法令に準拠した作成と保管が求められます。
株式譲渡の承認手続は、以下のステップで進められます。各段階で、必要に応じて取締役会議事録や株主総会議事録を作成します。
株式譲渡の承認請求
承認決議の実施
議決内容の通知と契約実行
株式譲渡契約書の締結
株主名簿の書き換え
各ステップにおいて、適切な議事録の作成と保管が重要です。これにより、株式譲渡の適法性と透明性が確保されます。
株式譲渡に関連して議事録の作成や提出が必要となる主なケースは以下の通りです。
株式譲渡契約の締結に先立ち、株式譲渡承認の手続の中で、取締役会議事録や株主総会議事録が作成されます。これらの議事録は、株式譲渡の承認プロセスが適切に行われたことを証明する重要な文書となります。
株式譲渡自体は登記事項ではありませんが、多くの場合、M&A等で株式譲渡を行う際に定款や役員の変更が伴います。その際の変更登記申請には、以下の議事録の添付が必要となります。
これらの議事録は、変更内容の正当性を証明する役割を果たします。
裁判での証拠書類として
株主からの閲覧謄写請求への対応
これらのケースに備え、議事録を適切に作成し、法定期間内で保管することが重要です。また、機密情報の取り扱いには十分注意を払い、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
株式譲渡に関する議事録を作成する際は、以下の6つの点に特に注意が必要です。
これらの点に留意して議事録を作成・管理することで、法的要件を満たし、将来的なリスクを軽減することができます。特に重要な取引や複雑な株式譲渡の場合は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
株主総会議事録は、株式譲渡の承認を含む重要な意思決定を記録する文書です。以下、その作成ガイドを示します。
株主総会議事録には、以下の項目を必ず記載する必要があります。
これらの項目を漏れなく記載することで、株主総会の適法性と決議の有効性を担保します。
以下に、基本的な株主総会議事録のひな形を示します。
株主総会議事録
開催日時:20XX年MM月DD日(○曜日)XX時XX分~XX時XX分
開催場所:○○県○○市○○区○○町X-X-X(当社第X会議室)
出席株主および議決権の状況
株主総数:XX名
発行済株式総数:XX,XXX株
議決権を行使できる株主数:XX名
議決権を行使できる株主の議決権の総数:XX,XXX個
出席株主数(委任状による出席含む):XX名
出席株主の議決権数:XX,XXX個
議長および議事録作成者:代表取締役 ○○○○
出席取締役および監査役:取締役 ○○○○、監査役 ○○○○
議事の経過および結果
定刻に、代表取締役○○○○が議長席より開会を宣言し、上記のとおり定足数を満たす株主の出席があったため、本総会が適法に成立した旨を述べ、議案の審議に入った。
議長は、当社株主より以下の株式譲渡承認請求書が提出された旨を説明し、株式譲渡の承認について審議を求めた。慎重審議の結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。
株式譲渡承認請求株主
住所:○○県○○市○○町X-X-X
氏名:○○○○
譲渡株数:X,XXX株
譲渡の相手方
住所:○○県○○市○○町X-X-X
氏名:○○○○
以上をもって本日の議事が終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、議長および出席取締役がこれに記名押印する。
20XX年MM月DD日
○○株式会社 株主総会
議長・代表取締役:○○○○ 印
出席取締役:□□□□ 印
このひな形を活用する際は、以下の点に注意してください。
株主総会を適切に招集することは、議事録の有効性を確保する上で重要です。以下、会社の形態別に招集手順を説明します。
取締役会設置会社の場合
取締役会非設置会社の場合
適切な招集手順を踏むことで、株主総会の決議の有効性が確保され、結果として作成される議事録の法的価値も高まります。
取締役会議事録は、株式譲渡に関する重要な意思決定を記録する文書です。以下、その作成ポイントを解説します。
取締役会議事録には、以下の項目を必ず記載する必要があります。
これらの項目を漏れなく記載することで、取締役会の適法性と決議の有効性を担保します。
以下に、基本的な取締役会議事録のひな形を示します。
取締役会議事録
開催日時:20XX年MM月DD日(○曜日)XX時XX分~XX時XX分
開催場所:当社本社X階 第X会議室
出席者:
取締役X名(取締役総数X名)
○○○○、□□□□、△△△△、◇◇◇◇
監査役X名(監査役総数X名)
○○○○、□□□□、△△△△、◇◇◇◇
以上の出席があり、本取締役会は適法に成立した。代表取締役○○○○が議長を務め、定刻に開会を宣し、直ちに議案の審議を開始した。
議案:株式譲渡承認の件
議長は、株主□□□□氏より提出された株式譲渡承認請求について説明し、承認の可否について諮ったところ、全会一致で下記のとおり可決承認された。
記
□□□□氏が所有する当社株式X,XXX株を、◇◇◇◇氏に譲渡する。
以上をもって本取締役会の議案審議を終了したため、議長が閉会を宣し、散会した。
上記の決議を明確にするため、ここに議事録を作成し、議長および出席取締役と監査役がこれに記名押印する。
20XX年MM月DD日
○○株式会社取締役会
議長 代表取締役 ○○○○ 印
取締役 □□□□ 印
取締役 △△△△ 印
監査役 ◇◇◇◇ 印
このひな形を活用する際は、以下の点に注意してください。
取締役会議事録は、株式譲渡の適法性を証明する重要な文書です。正確かつ詳細な記録を心がけ、法令に準拠した作成と保管が求められます。特に重要な取引や複雑な株式譲渡の場合は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
株式譲渡における議事録は、取引の適法性と透明性を確保する上で極めて重要な文書です。株主総会議事録と取締役会議事録の適切な作成と管理は、法的要件を満たすだけでなく、将来的なリスク軽減にも繋がります。議事録作成時は、開催日時の正確な記載、内容の正確性確保、署名・押印の要否確認、迅速な作成、適切な保管期間の遵守などに注意が必要です。また、株式譲渡の承認手続の各ステップにおいて、適切な議事録の作成が求められます。これらの点に留意し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることで、円滑な株式譲渡プロセスを実現できるでしょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー/M&Aアドバイザー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画