株式譲渡議事録の作成方法を、承認機関の判定、必須記載事項、取締役会・株主総会のひな形、承認通知、株式譲渡契約、名義書換までの流れに沿って解説します。会社売却や事業承継型M&Aで決済直前の手戻りを防ぎたい経営者向けに、押印・保管・登記との関係も整理します。
目次

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡の議事録は、ひな形を埋める前に「どの機関で承認するのか」を確認することが出発点です。ここを誤ると、内容が正しくても、承認決議そのものをやり直すことがあります。
中小企業の多くは、定款で株式の譲渡に会社の承認が必要とされています。このような株式を譲渡制限株式といいます。譲渡制限株式を大株主や経営者が第三者へ譲渡する場合、会社法上、会社の承認を受ける手続が必要です。
承認機関は、会社の機関設計で変わります。
取締役会を置いている会社では、原則として取締役会で株式譲渡を承認します。この場合、作成する書類は取締役会議事録です。
取締役会では、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で決議します。ただし、定款でより厳しい要件を定めている会社もあるため、実際には定款確認が欠かせません。
取締役会を置いていない会社では、原則として株主総会で承認します。この場合に作成するのは株主総会議事録です。
小規模な同族会社では、取締役会を置いていないことが少なくありません。社長が「うちは取締役会で承認すればよい」と思い込んでいても、登記簿や定款を確認すると取締役会非設置会社だった、というケースは実務で見られます。
会社法上の原則と異なる承認機関を、定款で定めている場合があります。たとえば、株主総会ではなく代表取締役の承認とする定めや、取締役の決定とする定めです。
そのため、議事録作成前には次の順で確認します。
議事録は、単に「株式譲渡を承認した」と書けば足りるわけではありません。誰の株式を、誰へ、何株、どのように承認したのかが読み取れる必要があります。
譲渡人とは、株式を手放す人です。経営者が自社株を譲渡する場合は、その経営者本人が譲渡人になります。氏名だけでなく、住所も記載しておくと、同姓同名の株主がいる場合や相続をはさんだ場合にも確認しやすくなります。
法人株主が譲渡人になる場合は、法人名、本店所在地、代表者名を確認します。株主名簿の記載と一致しているかも重要です。
譲受人とは、株式を譲り受ける人または会社です。M&A(合併・買収)では、買い手企業やそのグループ会社が譲受人になることがあります。
第三者承継では、譲受人が会社の外部者になるため、定款上の承認手続が特に重視されます。親族間や役員間の譲渡であっても、譲渡制限株式であれば承認手続を省略できるとは限りません。
議事録には、譲渡する株式の種類と数を記載します。普通株式だけの会社であっても、「当社普通株式〇株」と書くのが実務上は安全です。
種類株式を発行している会社では、普通株式、A種優先株式など、株式の種類を取り違えないよう注意します。株式数は、株主名簿、譲渡承認請求書、株式譲渡契約書と一致させます
議事録には、承認した事実を明確に書きます。たとえば、次のような文言です。
「慎重に審議した結果、出席取締役の全員一致をもって、本件株式譲渡を承認することに決議した。」
「満場一致」や「過半数の賛成」など、決議結果が分かる表現を入れます。反対者がいた場合は、実際の議決結果に合わせて記録します。実際の決議と異なる記載をしてはいけません。
株式譲渡では、譲渡承認請求書、議事録、承認通知書、株式譲渡契約書、株主名簿が連動します。どれか一つでも氏名、株数、日付がずれると、買い手側の確認で止まることがあります。
細かな誤記に見えても、決済直前では大きな手戻りになります。意外と多い落とし穴です。
取締役会議事録には、少なくとも次の内容を入れます。
取締役会議事録を書面で作成する場合、出席した取締役と監査役は、署名または記名押印を行います。電磁的記録で作成する場合は、電子署名など、法令で求められる代替措置を確認します。
以下は、取締役会議事録の文面例です。会社の機関設計、定款、実際の出席状況に合わせて修正してください。
取締役会議事録
1.日時
20XX年〇月〇日 午前〇時〇分から午前〇時〇分まで
2.場所
当社本店会議室
3.出席者
出席取締役 〇名
総取締役数 〇名
出席監査役 〇名
総監査役数 〇名
4.議長
代表取締役 〇〇〇〇
議長は、上記のとおり定足数を満たす取締役の出席があることを確認し、開会を宣言した。
決議事項
株式譲渡承認の件
議長は、当社株主〇〇〇〇から、同人が保有する当社普通株式〇株を〇〇〇〇へ譲渡することについて、会社法および当社定款に基づき承認を求める請求があった旨を説明した。
これについて審議した結果、出席取締役の全員一致をもって、本件株式譲渡を承認することに決議した。
以上をもって本日の議案を終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、本議事録を作成し、出席取締役および出席監査役が次に署名または記名押印する。
20XX年〇月〇日
〇〇株式会社 取締役会
議長 代表取締役 〇〇〇〇 印
取締役 〇〇〇〇 印
取締役 〇〇〇〇 印
監査役 〇〇〇〇 印
取締役会で注意したいのは、譲渡人または譲受人である取締役の扱いです。取締役会決議では、特別の利害関係を持つ取締役は議決に加われません。
たとえば、代表取締役が自分の株式を買い手企業へ譲渡する場合、その代表取締役は承認決議で利害関係を持つ可能性があります。誰が議決に参加できるかを先に整理しておかないと、決議の有効性に疑義が出ることがあります。
議事録には参加しない理由も残す
特別利害関係のある取締役を議決から外す場合は、議事録上も分かるように記載します。たとえば、「本議案について特別の利害関係を有する取締役〇〇〇〇は、審議および決議に参加しなかった」と記録します。
この一文があるだけで、買い手側の法務確認は進めやすくなります。
取締役会議事録だけが、株式譲渡の承認書類ではありません。取締役会を置いていない会社では、株主総会議事録や取締役決定書を使うことがあります。
取締役会非設置会社で、定款に別段の定めがない場合は、株主総会で株式譲渡を承認します。このとき作成するのが株主総会議事録です。
株主総会議事録には、開催日時、場所、出席株主、議決権数、議長、議案、審議の内容、決議結果を記載します。会社法上、株主総会議事録そのものに署名押印が常に必要とは限りませんが、定款や登記手続で求められることがあります。
株主総会議事録の文面例は、次のように整理できます。
臨時株主総会議事録
1.開催日時
20XX年〇月〇日 午後〇時〇分から午後〇時〇分まで
2.開催場所
当社本店会議室
3.出席状況
株主総数 〇名
発行済株式総数 〇株
議決権を行使できる株主数 〇名
議決権を行使できる株主の議決権数 〇個
出席株主数 〇名
出席株主の議決権数 〇個
4.議長
代表取締役 〇〇〇〇
議長は、定足数を満たす株主の出席があることを確認し、本総会が適法に成立した旨を述べ、開会を宣言した。
決議事項
株式譲渡承認の件
議長は、当社株主〇〇〇〇から、同人が保有する当社普通株式〇株を〇〇〇〇へ譲渡することについて、会社法および当社定款に基づき承認を求める請求があった旨を説明した。
審議の結果、出席株主の議決権の過半数の賛成により、本件株式譲渡を承認することに決議した。
以上をもって本日の議事を終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、本議事録を作成する。
20XX年〇月〇日
〇〇株式会社 臨時株主総会
議長 代表取締役 〇〇〇〇 印
取締役会を置いていない会社でも、定款で取締役を承認機関としている場合があります。その場合は、株主総会議事録ではなく、取締役決定書や取締役決議書を作成します。
名称よりも大切なのは、定款に合う機関で承認したこと、譲渡内容が特定されていること、決議日や承認者が明確であることです。ひな形の表題だけを見て判断せず、自社の定款に合わせて整えます。
親族間の譲渡では、税務上の時価や贈与認定が問題になることがあります。役員間の譲渡では、会社支配や議決権の移動が論点になります。第三者への譲渡では、M&Aのクロージング条件として承認議事録が重視されます。
同じ株式譲渡でも、誰から誰へ移るかで確認すべき点は変わります。議事録だけで完結させず、株価、税金、契約条件まで合わせて確認することが重要です。
議事録は、株式譲渡手続の中盤で作成される書類です。前後の手続とつなげて考えると、作成すべきタイミングが分かりやすくなります。
最初に、譲渡人が会社に対して株式譲渡の承認を求めます。実務では、譲渡承認請求書を作成し、譲渡する株式の種類と数、譲受人の氏名または名称、住所などを記載します。
譲受人側も関係するため、譲渡人と譲受人の双方で内容を確認してから会社に提出するのが安全です。
承認請求を受けた会社は、取締役会、株主総会、または定款で定めた機関で承認の可否を決議します。この段階で、取締役会議事録、株主総会議事録、取締役決定書などを作成します。
ここで重要なのは、実際の会議や決定の内容と、議事録の記載を一致させることです。後から都合よく書き直すことはできません。
会社は、承認するかどうかを請求者に通知します。会社法上、一定期間内に通知しない場合は、承認したものとみなされることがあります。
実務では、承認通知書を作成し、議事録の日付、決議機関、承認内容と整合させます。通知書を省略すると、当事者間で「いつ承認されたのか」が曖昧になりやすいため注意します。
承認後、譲渡人と譲受人の間で株式譲渡契約(SPA)を締結します。契約書には、譲渡株式数、譲渡価格、代金支払日、表明保証、クロージング条件などを記載します。
中小企業の会社売却では、議事録がクロージング条件の一つになることがあります。つまり、議事録が整っていなければ、買い手が代金を支払わないという設計です。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。
最後に、譲渡人と譲受人が共同で会社に株主名簿の書換を請求し、会社が株主名簿を変更します。名義書換を怠ると、譲受人が会社に対して株主としての権利を主張する際に支障が出ます。
株式を譲り受けた事実と、会社の株主名簿上の表示は別の問題です。代金決済で安心せず、名義書換まで完了したか確認します。
会社売却では、議事録は社内用の記録にとどまりません。買い手、弁護士、司法書士、金融機関などが確認する可能性があります。後から見られる前提で整えることが大切です。
譲渡制限株式では、原則として会社の承認を得てから譲渡を実行します。そのため、承認決議日、承認通知日、株式譲渡契約日、代金決済日、名義書換日が、手続の流れとして自然につながっているかを見ます。
日付が前後していると、形式面で疑義が出ます。単純な入力ミスでも、決済前の確認では差し戻しの原因になります。
株式譲渡そのものは、会社の登記事項ではありません。そのため、株式を譲渡しただけで商業登記が必要になるわけではありません。
ただし、M&Aでは株式譲渡と同時に、役員変更、本店移転、商号変更、目的変更、定款変更が行われることがあります。この場合は、別途、変更登記が必要です。登記に使う株主総会議事録や取締役会議事録は、司法書士の確認を受けながら整えるのが安全です。
株主総会議事録は、本店で長期間保管する必要があります。支店がある会社では、写しの備置きが必要になる場合もあります。取締役会議事録も、会社の重要な記録として保管します。
株主から閲覧や謄写を求められる場面もあります。少数株主が残る会社売却では、承認手続の記録が後から確認される可能性を考えておきます。
株式譲渡の議事録は法務書類ですが、会社売却では税務とも無関係ではありません。譲渡価格が低すぎる、または高すぎる場合、親族間や関係者間の取引では税務上の問題が生じることがあります。
特に親族内承継や役員への譲渡では、単に議事録を整えるだけでは足りません。株価算定、譲渡益課税、贈与税リスク、役員間の利害関係まで見ておく必要があります。
ひな形は便利ですが、そのまま使うと自社の実態に合わないことがあります。最後に、次の点を確認します。
書類は一枚ずつ見るより、手続全体で見た方が不備を見つけやすくなります。会社売却を進める経営者にとっては、譲渡価格や買い手との条件交渉に意識が向きがちですが、こうした基礎書類の精度が決済の安心感を左右します。
株式譲渡議事録は、譲渡制限株式の承認を証明し、会社売却や第三者承継を円滑に進めるための重要書類です。承認機関、譲渡人・譲受人、株式数、決議文言を正確に残し、承認通知、契約、名義書換まで一連で確認することで、決済直前の手戻りや税務・法務上の不安を減らせます。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人