退職金にかかる税金について詳しく解説します。一時金と年金形式の税金計算方法、所得税・住民税の算出方法、退職所得控除の仕組み、確定申告による還付の可能性などを分かりやすく説明します。
目次
退職金にかかる税金について理解することは、将来の生活設計を立てる上で非常に重要です。退職金は、長年の勤務に対する報酬として支給されるものですが、税金の対象となります。ここでは、退職金に課される主な税金と、その基本的な仕組みについて説明します。
所得税は、個人の所得に対して課される国税です。退職金に関しては、通常の給与所得とは異なる特別な取り扱いがあります。
住民税は、地方自治体に納める税金で、市町村民税と都道府県民税から構成されています。
退職所得控除は、退職金に対する税金を軽減するための制度です。長年勤務した従業員ほど大きな控除を受けられるように設計されています。
この控除により、退職金の一部が非課税となり、実質的な税負担が軽減されます。
退職金にかかる税金は、これらの要素を考慮して計算されます。次のセクションでは、具体的な計算方法について詳しく解説していきます。
▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の税金)
退職金の受給方法によって、税金の計算方法が異なります。ここでは、一時金として受給する場合と年金形式で受給する場合の2つのパターンについて説明します。
退職金を一時金として受け取る場合、その税金は以下の手順で計算されます:
1. 退職所得金額の算出:(退職金総額 - 退職所得控除額)× 1/2
2. 所得税・復興特別所得税の計算:退職所得金額に応じた税率を適用
3. 住民税の計算:退職所得金額 × 10%
一時金での受給は「分離課税」が適用されるため、他の所得と合算せずに税額が計算されます。これにより、多くの場合、税負担が軽減されます。
退職金を年金形式で受け取る場合、税金の取り扱いが異なります:
年金形式での受給は、毎年の所得に応じて税金が計算されるため、一時金と比べて税負担が分散される傾向があります。
選択する受給方法によって税金の計算方法が大きく異なるため、自身の状況に合わせて慎重に検討することが重要です。
退職金に対する所得税は通常の給与所得よりも優遇されています。これは、長年の勤務に対する報酬という退職金の性質を考慮したものです。
株式譲渡の確定申告を適切に行うことで、節税につながる可能性があります。以下に主な節税のポイントを説明します。
以下の手順で行われます:
1. 退職所得金額の算出: (退職金総額 - 退職所得控除額)× 1/2
2. 所得税額の計算: 退職所得金額 × 所得税率 - 控除額
3. 復興特別所得税の計算: 所得税額 × 2.1%
退職所得金額に応じて以下のように変動します:
退職金に対する住民税の計算は、所得税と比べてシンプルです。
住民税は一律の税率が適用されるため、退職所得金額が大きくなっても税率は変わりません。ただし、退職所得金額自体が大きくなれば、納付する住民税の額も比例して増加します。
住民税は、退職した年の翌年の6月から翌年5月までの期間に納付することになります。通常、退職金を支払う会社が特別徴収(源泉徴収)の形で納付します。
住民税 = 退職所得金額 × 10%
この10%の税率は、以下のように内訳されています:
• 都道府県民税:4%
• 市区町村民税:6%
退職金を一時金として受け取る場合の税金計算について、具体的な手順を見ていきましょう。これらの計算は通常、退職金を支払う会社が行い、源泉徴収の形で納税されます。ただし、「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要です。
1. 退職所得控除額の計算
• 勤続年数20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
• 勤続年数20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
2. 退職所得金額の算出 (退職金総額 - 退職所得控除額)× 1/2
3. 所得税・復興特別所得税の計算 • 退職所得金額に応じた税率を適用 • 所得税額 × 2.1%(復興特別所得税)を加算
4. 住民税の計算 退職所得金額 × 10%
5. 総納税額の算出 所得税 + 復興特別所得税 + 住民税
退職金を年金形式で受け取る場合、税金の計算方法が一時金とは大きく異なります。
年金形式での受給は、毎年の所得に応じて税金が計算されるため、一時金と比べて税負担が分散される傾向があります。ただし、他の所得が多い場合は、高い税率が適用される可能性があるので注意が必要です。
1. 雑所得として扱われる
• 退職所得控除は適用されず、公的年金等控除が適用されます。
2. 公的年金等の雑所得の計算 年金受給額 - 公的年金等控除額
3. 総合課税の対象となる
• 他の所得と合算して課税所得を計算します。
• 所得控除(基礎控除など)を適用後、税率を決定します。
4. 所得税・復興特別所得税の計算
• 課税所得に応じた税率を適用
• 所得税額 × 2.1%(復興特別所得税)を加算
5. 住民税の計算 • 課税所得に応じた税率(通常10%)を適用
ここでは、具体的な数字を使って退職金の税金計算をシミュレーションしてみましょう。以下の条件で計算を行います。
• 退職金受給総額:3,000万円
• 勤続年数:37年5ヶ月(38年に切り上げ)
• 居住地:東京都
1. 退職所得控除額の計算 800万円 + 70万円 ×(38年 - 20年)= 2,060万円
2. 課税対象となる退職所得金額の算出 (3,000万円 - 2,060万円)× 1/2 = 470万円
3. 所得税・復興特別所得税の計算 (470万円 × 10% - 97,500円)× 1.021 ≒ 53,262円
4. 住民税の計算 470万円 × 10% = 47万円
5. 総納税額 53,262円 + 470,000円 = 523,262円
このシミュレーションでは、3,000万円の退職金に対して約52万円の税金が課されることになります。実際の手取り額は約2,947万円となります。
退職金の金額や勤続年数によって税金額は大きく変わるため、自身の状況に応じて計算することが重要です。
退職所得控除の5年ルールは、退職金の税金計算に大きな影響を与える可能性があるルールです。
1. ルールの内容
• 退職金を受け取る前年以前4年以内にiDeCoなどの老齢給付金を受け取っていた場合、退職所得控除を計算する際の勤続年数から、その重複期間が除外されます。
2. 影響
• 重複期間が長いほど、退職所得控除額が減少します。
• 結果として、より多くの税金を納めることになる可能性があります。
3. 回避方法
• 老齢給付金の受給後、5年以上経過してから退職金を受給すれば、重複期間は除外されず、退職所得控除を満額活用できます。
4. 注意点
• iDeCoや確定給付企業年金、確定拠出年金などの老齢給付金が対象となります。
• 公的年金(国民年金、厚生年金)は対象外です。
5年ルールは、退職金の受給時期を検討する際に重要な要素となります。特に、早期退職や転職を考えている方は、このルールを考慮して退職のタイミングを計画することが賢明です。税金面でのデメリットを避けるためにも、専門家に相談して最適な退職時期を決めることをおすすめします。
退職金に関する税金は、通常、源泉徴収によって納付されるため、基本的に確定申告は不要です。しかし、特定の状況下では確定申告を行うことで、税金の一部が還付される可能性があります。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合、以下のような状況が発生します。
• 退職金全額に対して一律20.42%の所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されます。
• この税率は、退職所得控除を考慮していないため、多くの場合、過大な納税となります。
このような場合、確定申告を行うことで、適切な退職所得控除を適用した正確な税額計算が行われ、過剰に納付した税金が還付される可能性があります。
重要なポイント
1. 退職時には必ず「退職所得の受給に関する申告書」を提出するよう心がけましょう。
2. 申告書を提出できなかった場合でも、確定申告により是正が可能です。
3. 確定申告は退職後5年以内に行う必要があります。
年の途中で退職し、その後再就職しなかった場合、以下のような状況が発生する可能性があります。
• 年末調整が行われず、所得控除が十分に適用されない状態で源泉徴収税額が計算されます。
• 結果として、本来よりも多くの税金を納付している可能性があります。
このような場合、退職所得を含めて確定申告を行うことで、以下のメリットがあります。
1. 適切な所得控除(基礎控除、社会保険料控除など)が適用されます。
2. 正確な課税所得に基づいて税額が再計算されます。
3. 過剰に納付した税金が還付される可能性があります。
注意点:
• 退職後5年以内であれば、確定申告による還付請求が可能です。
• 退職した年の収入状況を確認し、確定申告が有利かどうか検討することをおすすめします。
退職金に関する税金還付の可能性は、個々の状況によって異なります。不安な点がある場合は、税理士などの専門家に相談することで、最適な対応方法を見つけることができるでしょう。
退職金にかかる税金は、受給方法や個人の状況によって大きく異なります。一時金と年金形式の選択、退職所得控除の活用、5年ルールの考慮など、様々な要素が税金額に影響します。適切な方法を選択することで、税負担を最適化し、より多くの退職金を有効活用できる可能性があります。専門家のアドバイスを受けながら、自身の状況に最適な退職金の受け取り方を検討することが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事