退職金の税金計算|控除と税率から手取り額を求める方法

退職金の税金は、退職所得控除を引いた残額の原則2分の1を基に計算します。勤続年数別の控除額、所得税・住民税の税率、勤続30年・退職金2,000万円の具体例、役員5年以下の例外、申告書未提出時の対応、2026年からのiDeCo受取時期の注意点まで解説します。

目次

  1. 退職金の税負担が給与より軽くなりやすい理由
  2. 一時金の税額は3段階で計算する
  3. 勤続30年・退職金2,000万円の手取り例
  4. 2分の1課税が使えないケースを確認する
  5. iDeCoと退職金は受取順序で控除額が変わる
  6. 申告書の提出で源泉徴収を適正にする
  7. 年金形式では雑所得として計算する
  8. 会社売却で役員退職金を支給する際の判断
  9. まとめ

退職金の税金計算と控除方法|専門家が詳しく解説

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退職金の税負担が給与より軽くなりやすい理由

会社売却やM&A(合併・買収)で退任を考えるとき、「退職金にも給与と同じ税率がかかるなら、手取りが大きく減るのでは」と心配する経営者は少なくありません。実際には、退職金には長年の勤務への報償という性質があるため、通常の給与より税負担が軽くなりやすい仕組みがあります。

一時金で受け取る退職金には、所得税、復興特別所得税、住民税がかかります。ただし、給与などの所得とは原則として分けて計算する「分離課税」です。給与や不動産所得が多い年でも、退職所得を単純に合算して税率を決めるわけではありません。

税負担を抑える3つの仕組み

退職金が税務上優遇される主な理由は、次の3点です。


・勤続年数に応じた退職所得控除を差し引ける

・控除後の残額は、原則として2分の1だけが課税対象になる

・他の所得と分けて所得税を計算する


退職金が退職所得控除額以下であれば、一般に所得税と住民税はかかりません。控除額を超える場合も、原則として超過額の半分に税率を掛けるため、同額を賞与として受け取る場合より手取りが多くなりやすい仕組みです。

一時金の税額は3段階で計算する

退職金の税金計算は、式だけを見ると複雑に感じます。しかし、退職所得控除、課税退職所得、税額の順に進めれば整理できます。

第1段階 退職所得控除額を求める

勤続年数は、1年未満の端数を切り上げます。勤続19年1か月なら20年、勤続20年1か月なら21年です。


勤続年数が20年以下の場合

 40万円 × 勤続年数


ただし、計算結果が80万円未満の場合は80万円です。


勤続年数が20年を超える場合

 800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)


障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、通常の控除額に100万円を加算します。また、同じ年や近い時期に複数の退職金を受け取る場合は、勤続期間の重複調整が必要になることがあります。

第2段階 課税退職所得金額を求める

一般的な退職金では、次の式を使います。


  課税退職所得金額 =(退職金の支給額-退職所得控除額)× 1/2


計算結果の1,000円未満は切り捨てます。ここで求めた金額が、所得税と住民税の計算の基礎です。退職金全額に税率を掛けるわけではありません。

第3段階 所得税と住民税を求める

所得税と復興特別所得税は、次の式で計算します。


 (課税退職所得金額 × 所得税率-控除額)× 1.021


所得税率と控除額は、課税退職所得金額に応じて次のように変わります。


・195万円以下は5%、控除額0円

・195万円超330万円以下は10%、控除額97,500円

・330万円超695万円以下は20%、控除額427,500円

・695万円超900万円以下は23%、控除額636,000円

・900万円超1,800万円以下は33%、控除額1,536,000円

・1,800万円超4,000万円以下は40%、控除額2,796,000円

・4,000万円超は45%、控除額4,796,000円


1.021は、所得税額に2.1%の復興特別所得税を加えるための係数です。住民税は、原則として課税退職所得金額の10%です。標準的な内訳は市町村民税6%と道府県民税4%ですが、指定都市などでは内訳が異なる場合があります。

退職所得に対する住民税は、通常、退職金の支払時に会社が特別徴収します。翌年の給与にかかる住民税と同じ時期に納めるわけではありません。

勤続30年・退職金2,000万円の手取り例

計算結果を左右するのは、退職金の額だけではありません。勤続年数が長いほど退職所得控除が増えるため、同じ2,000万円でも勤続年数によって税額は大きく変わります。

ここでは、一般的な退職金として、勤続30年、退職金2,000万円のケースを計算します。

退職所得控除額

800万円 + 70万円 ×(30年-20年)=1,500万円

課税退職所得金額

(2,000万円-1,500万円)× 1/2=250万円

所得税・復興特別所得税

(250万円 × 10%-97,500円)× 1.021=155,702円

1円未満は切り捨てます。

住民税と手取り額

250万円 × 10%=25万円


所得税・復興特別所得税と住民税の合計は405,702円です。したがって、退職金2,000万円の概算手取り額は19,594,298円となります。実際には、同年に別の退職金を受け取っている場合など、前提によって計算が変わります。

2分の1課税が使えないケースを確認する

「退職金なら必ず控除後の半分だけに課税される」と考えるのは危険です。短期間だけ役員に就任し、報酬の多くを退職金に振り替えるような税負担の偏りを防ぐため、勤続年数が短い場合には例外があります。

役員等の勤続年数が5年以下の場合

役員等としての勤続年数が5年以下で、その期間に対応する退職金は「特定役員退職手当等」とされます。この部分には2分の1課税を使えず、退職金から退職所得控除を引いた残額がそのまま課税対象です。

会社売却に伴い代表者が退任する場面では、役員在任期間の数え方が重要です。従業員期間と役員期間が混在している場合は、退職金の区分ごとに計算が分かれることもあります。

役員以外でも勤続年数が5年以下の場合

役員等以外の勤続年数が5年以下の短期退職手当等では、退職金から退職所得控除を引いた残額のうち300万円を超える部分について、2分の1課税を使えません。300万円以下の部分は、原則どおり2分の1課税です。

短い勤続期間だから直ちに退職金が不利になるわけではありませんが、一般的な計算式をそのまま当てはめると税額を少なく見積もるおそれがあります。

iDeCoと退職金は受取順序で控除額が変わる

以前は「退職所得控除の5年ルール」と呼ばれる説明が一般的でした。しかし、2026年1月1日以後にiDeCoなどの老齢一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、確認期間は実質的に10年へ延びています。

2026年からのいわゆる10年ルール

会社の退職金を受け取る年の前年以前9年内に、2026年1月1日以後のiDeCoの老齢一時金を受け取っている場合、加入期間と勤続期間の重複部分を退職所得控除の計算から調整します。単に両方の控除を満額使えるとは限りません。

一方、会社の退職金を先に受け取り、その後にiDeCoの老齢一時金を受け取る場合は、前年以前19年内の退職金が重複調整の対象になり得ます。受取順序が逆になるだけで確認期間が同じになるわけではない点が、意外と多い落とし穴です。

受取時期だけで決めない

期間を空ければ常に有利とは限りません。運用期間、退職時期、会社の資金繰り、他の所得、社会保険、生活資金の必要額も合わせて判断します。複数の一時金を予定している場合は、受取前に時系列を整理することが大切です。

申告書の提出で源泉徴収を適正にする

退職金の計算が正しくても、必要な書類を出さなければ手取り額が一時的に大きく減ることがあります。支給を受けるまでに「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出することが重要です。

申告書を提出した場合

会社が退職所得控除や税率を反映して所得税・復興特別所得税を源泉徴収し、住民税も特別徴収します。通常はその時点で課税関係が完了するため、退職金だけを理由とする確定申告は原則として不要です。

ただし、医療費控除や寄附金控除などのために確定申告をする場合は、退職所得も申告書に記載します。

申告書を提出しなかった場合

退職金の支給額に対して20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。退職所得控除を反映しないため、本来の税額より多く引かれるケースは珍しくありません。

この場合は、確定申告で退職所得控除などを反映して税額を精算します。過大に源泉徴収されていれば、差額の還付を受けられます。「提出を忘れたら税金が確定する」という意味ではありませんが、還付まで資金を使えない点には注意が必要です。

退職した年に確定申告を検討する場面

年の途中で退職して年末調整を受けていない場合は、給与から引かれた所得税が戻る可能性があります。また、給与などから引き切れない所得控除があると、退職所得の税額にも影響することがあります。確定申告をする際は、退職所得を含めて全体を確認します。

年金形式では雑所得として計算する

退職給付を一時金ではなく年金形式で受け取ると、税金の計算方法が変わります。過去の勤務に基づいて会社などから支給される年金や一定の企業年金は、一般に公的年金等に係る雑所得です。

退職所得控除ではなく公的年金等控除を使う

年金形式では、原則として退職所得控除や2分の1課税を使いません。毎年の年金収入から公的年金等控除を差し引き、他の所得と合算して所得税と住民税を計算します。

毎年に分けて受け取るため、税負担が分散することはあります。ただし、役員報酬、不動産所得、公的年金など他の所得が多い年は、総合課税によって税率が高くなる可能性も。受取総額だけでなく、各年の所得見込みで比較する必要があります。

会社売却で役員退職金を支給する際の判断

M&Aによる会社売却では、株式譲渡代金とは別に、退任する経営者へ役員退職金を支給することがあります。退職金は税負担が軽くなりやすい一方、金額を大きくすれば必ず有利になるわけではありません。

株式譲渡代金と退職金を一体で比べる

役員退職金を支給すると会社の現預金が減るため、買い手が提示する株式価値にも影響します。経営者個人では退職所得として課税されても、株式譲渡代金が下がれば、最終的な手取り額が想定どおり増えないことがあります。

そのため、株式譲渡代金、役員退職金、各税額、会社に残す運転資金を同じ条件で並べ、手取り額を比較します。税率だけを見て配分を決めると、M&A実務ではここで判断がずれることがあります。

会社側では金額の妥当性も確認する

会社が支給する役員退職金は、一般に適正な金額であれば損金算入の対象になります。ただし、在任期間、退任時の報酬、功績、同業他社の水準などに照らして過大と判断された部分は、損金として認められない可能性があります。

また、実際に役員を退任したといえるか、株主総会など必要な決議をしているか、支給時期とM&A契約が整合しているかも確認が必要です。買い手との基本合意後に退職金額を変更すると、譲渡価格や資金決済の再調整につながります。

まとめ

退職金の税金は、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引き、原則として残額の2分の1を課税対象にして計算します。ただし、役員等の勤続年数が5年以下の場合や、iDeCoなど複数の一時金を近い時期に受け取る場合は例外があります。会社売却で役員退職金を組み込むときは、株式譲渡代金との合計手取り、会社の資金、金額の妥当性まで事前に確認することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人