個人へのM&Aも可能!そのメリット・デメリット、流れ、注意点は?

事業継続の選択肢としてM&Aを検討する場合、個人との契約も考慮に入れる価値があります。個人M&Aは近年注目され、一般的な手法となっています。この記事では、個人とのM&A契約が持つ特徴やメリット・デメリット、基本的な手順について解説いたします。

目次

  1. 個人M&Aとは?
  2. 個人M&Aの特徴
  3. 個人M&Aが普及している背景
  4. 個人M&Aに適している企業の特徴
  5. 譲渡企業側のメリット
  6. 譲渡企業側のデメリット
  7. 個人M&Aのプロセス
  8. 個人M&A利用時の注意点
  9. 個人M&Aのまとめ

個人M&Aとは?

多くの人が「M&Aは企業同士の取引だ」と考えがちですが、個人でも契約可能です。個人M&Aは、サラリーマンやフリーランスなどの個人がM&Aを実行するもので、契約相手は企業だけでなく、個人との締結も可能です。事業の譲渡を検討する際、個人と交渉することも選択肢の一つとなります。

個人M&Aの特徴

個人M&Aを適切に行うためには、その特徴を把握することが重要です。個人M&Aは、スモールM&Aとも呼ばれることがあります。これは、譲渡金額が企業間の契約よりも小規模なケースが多いためです。ですので、個人M&Aを行う際には、譲渡金額の目安を考慮しておくと良いでしょう。

個人M&Aが普及している背景

個人M&Aが広まっている背景には、いくつかの要因が存在します。以下に挙げるのは、そのいくつかの理由です。

 • 企業間の競争が激化し、事業継続が難しくなっている。

 • 個人が企業経営者として活躍するための環境が整ってきている。

 • 会社員から起業家への転身を目指す人が増えている。

今後も個人M&Aの普及が続くことで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。事業継続を検討する際、個人M&Aを選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。

副業として個人事業を始める機会が増加している

企業で働く従業員にとっても、副業が取り組みやすくなっていることが、個人M&Aが普及しつつある要因として考えられます。既に事業として確立された媒体を譲り受けることで、初期投資やリスクを軽減することができ、事業に参入する障壁が下がることで、今後も個人M&Aを利用する人が増えていくでしょう。

中小企業や小規模事業者のM&Aの現状と課題

中小企業庁の調査によると、中小企業や小規模事業者の事業承継問題は深刻化しており、2025年までに70歳を超える経営者が約245万人に上り、その内の約半数の127万人が未だ後継者が定まっていない状況です。それゆえ、後継者を外部から迎え入れるために、個人M&Aの数がこれからも増えていくと予測されます。

個人M&Aをサポートするマッチングサービスが増えている

M&Aを支援するマッチングサービスも、個人向けのものが増加しています。このような環境が整うことで、個人がM&Aについて相談しやすくなります。また、譲渡側にとっても、M&Aに興味を持つ人々に自分たちの事業をアピールできる状況が整っているため、交渉が順調に進むことが期待できます。

サーチファンドの登場

サーチファンドとは、企業の買収を検討している個人が投資家から資金提供を受け、買収先企業を探す方法です。買収後には譲渡によるキャピタルゲインを狙い、企業価値を向上させることを目指します。優秀な経営者と企業をつなぐ仕組みとして、サーチファンドは注目されています。

個人M&Aに適している企業の特徴

個人M&Aを検討する際には、自社企業がその仕組みに適しているかどうかを確認しておくことが大切です。ここでは、個人M&Aに適した企業の特徴について解説します。


 • 取引額が300~500万円程度の取引がメイン:

    個人M&Aの主な対象は、300~500万円程度で取引できる事業です。個人でも容易に資金調達ができる範囲でM&A

        取引が行われるため、利益重視ではなく、事業承継や事業継続を目的としたM&Aを計画している企業には適してい

        ます。譲渡側は、この取引金額の目安を把握したうえで、M&Aの交渉に臨むべきです。


 • 業種に制限がない:

    個人M&Aでは、契約できる業種に制限はありません。そのため、多様な業種でM&Aが検討されています。ただし、

        事業内容によっては、個人の資金力では譲渡金額を捻出できないケースもあるため、比較的安価で契約が可能な飲

        食業、美容業界、WebサービスなどのM&Aが一般的となっています。

譲渡企業側のメリット

個人M&Aを採用することで、譲渡側にはいくつかの利点が生じます。本節では、個人M&Aのメリットについて詳しく説明いたします。

後継者不足問題の解消

個人M&Aは、後継者不足に悩む企業にとって、解決策の1つとなります。企業間での契約がなかなかまとまらない場合、個人とのM&Aが検討されることがあります。特に、後継者が見つからず廃業が危ぶまれる際には、個人M&Aで救済策を取ることが有益となるでしょう。

従業員や取引先への影響が最小限に抑えられる

個人M&Aによって事業が続行できる場合、従業員や取引先への影響を最小限に抑えられることも、大きな利点です。事業の譲渡が実現されることで、従業員が退職に追い込まれることや、取引先との契約の打ち切りがなくなる可能性が高まります。

譲渡後の企業成長の可能性

個人M&A後も、事業は大きな成長を遂げることがあります。事業売却時には、将来の利益も考慮した価格での譲渡が期待できることがあります。

譲渡企業側のデメリット

一方で、個人M&Aにはデメリットも存在しています。以下では、具体的なデメリットについて説明いたします。

個人との交渉が難航することがある

個人M&Aの場合、事業経営に熟知していない人との交渉が多く見られます。このため、交渉がなかなか進まず、最終的に正式な譲渡に至らないまま計画が頓挫することも懸念される点です。このような状況を避けるために、仲介者を起用し、円滑な交渉が進むよう手助けをしてもらうことが重要です。M&Aの仲介会社を利用し、個人M&Aをスムーズに進めることを検討してみましょう。

企業価値の低下の危険性

個人M&Aによって、事業の価値が低下することもあります。個人へ譲渡したことが、「切羽詰まった状況での譲渡」と周囲から誤解される恐れがあります。万が一、誤解されたままM&Aが失敗すると、その後の経営に大変な影響が出ることも考慮されます。

個人がM&Aについて十分に理解していない場合もある

個人M&Aを行う際には、相手がM&Aについて正確な理解を持っているかどうかが重要です。個人同士のM&A交渉では、事前に十分な話し合いを重ね、信頼できる相手であることを見極めることが求められます。また、M&Aの基本概念や手続きの進め方について確認し、将来起こりうるトラブルを未然に防ぐことが大切です。

個人M&Aのプロセス

個人M&Aにおける手続きの流れは、企業M&Aと大差はありません。以下に、個人M&Aの基本的な契約手続きについて詳しく説明します。

M&A会社への委託

個人M&Aでは、マッチングサービスへの登録や仲介会社との契約が最初のステップです。それぞれの方法が持つメリット・デメリットを把握し、最も効果的な方法を選択することが重要です。また、複数のマッチングサービスや仲介会社が存在するため、比較検討に時間をかけることも大切です。

お相手(譲渡先個人)を探す

マッチングサービスや仲介会社を利用して交渉相手を探す際には、M&Aの目的(後継者確保など)を明確に設定しておく必要があります。もし、交渉相手が見つからない場合には、目的の変更や譲歩、またはサービス自体の変更を検討することも検討すべきです。

基本合意書の締結

自分の優先順位に従って、譲渡金額や譲渡時期などの条件交渉を進めます。経営方針や企業文化を正確に相手に伝え、基本的な条件をすり合わせることがポイントです。秘密保持契約を締結した後、会社の詳細情報を記した資料を確認し、最終的に基本合意契約を結びます。

最終契約の締結・クロージング(成約)

最終契約書には、譲渡価格や従業員の処遇などが盛り込まれます。デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を行った譲受側が、最初のドラフトを提示し、譲渡側が加筆修正して契約内容を調整します。最終的にクロージング(成約)日に譲受側が譲受代金を支払い、譲渡側は対象事業の引き渡しを行い契約が完了します。

個人M&Aにおいては、正確な理解と適切な手続きが必要です。相手が信頼できるかどうかを見極め、適切な手続きを行うことが成功への鍵となります。

個人M&A利用時の注意点

個人M&Aは、企業同士の合併・買収ではなく、個人との取引による合併・買収手法です。これにはいくつか注意すべき点がありますので、以下の内容を参考にして、個人M&Aの際に注意するべき事項を確認しておきましょう。

スモールM&Aの特性への理解

個人M&Aは、基本的に小規模な譲渡契約となります。これは、「スモールM&A」として取り扱われることが多く、その特徴や課題について事前に把握しておくことが重要です。具体的には、スモールM&Aに関する一般的な定義やメリット・デメリットを理解しておくことが求められます。

個人M&Aに強い専門家利用

個人M&Aにおいて、譲渡側にとっては個人との契約に関する不安がつきものです。例えば、交渉がうまく進められるか、譲渡条件に対して真剣に取り組むことができるかなどの懸念を抱いてしまうことがあります。このような不安を解消するためには、個人M&Aに強い専門家のサポートサービスを活用することをおすすめします。

個人M&Aのまとめ

個人M&Aは、企業と個人の間で行われるM&A取引であり、現在は個人でも参入しやすい環境が整いつつあります。それゆえに、企業経営者が個人を相手にM&Aを実行することも検討されるようになっており、マッチングサービスへの登録を通じて個人とのM&Aの計画を立てることも選択肢となります。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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