M&Aファイナンスとは、企業買収に必要な資金を調達するプロセスを指します。この記事では、買収を検討している経営者向けに、M&Aファイナンスの種類や方法、注意すべき点などを詳しく解説いたします。また、M&Aファイナンスの6つの重要なステップも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
買収(M&A)を成功させるためには、多額の資金が必要です。こうした資金を調達するための方法がM&Aファイナンスであり、しばしば「買収ファイナンス」とも呼ばれます。資金調達の対象となる企業は、主に金融機関や投資家から資金を借り入れます。本記事では、金融機関を利用したM&Aファイナンスについて焦点を当てて解説します。
M&Aファイナンスの目的は、自社だけでは不十分な資金力でも、企業買収を実現できるようにすることです。M&Aの実行が困難な状況であっても、M&Aファイナンスを活用することで買収のチャンスを実現することができます。
M&Aファイナンスに適した企業は、資金力が十分でない中小企業や個人事業主です。たとえ、「売却対象の企業の株式買取資金が十分でない」という現状があっても、M&Aファイナンスを活用することで、事業の成長を実現できるチャンスがあります。
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M&Aの資金調達方法は、コーポレート・ファイナンスとノンリコース・ファイナンスの2種類に分けられます。それぞれの特徴について以下で詳しく述べます。
コーポレート・ファイナンスとは、買収側の企業が主体となって資金を調達する方法で、自社の信用力を基に資金を借り入れます。一般的な設備投資や運転資金の調達方法と大差ありません。審査基準は企業の信用力に基づくため、審査が通りやすいことが特徴です。また、売却側の企業が信用度が高い場合でも、資金調達の際の金額や期間に影響はありません。
ノンリコース・ファイナンスとは、特別目的会社(SPC)が主体となって資金を調達する方法で、売却側の企業の信用力を前提とした資金調達が行われます。特別目的会社(SPC)は、特定の事業のために設立された会社を指します。買収側の企業の信用力が低くても、ノンリコース・ファイナンスを利用することで資金調達が可能です。ただし、コーポレート・ファイナンスに比べて、審査が通りにくいことがデメリットです。
この記事では、M&Aファイナンスの種類や手法、注意点を詳しく解説しました。これらの情報を参考に、買収を検討している経営者は、M&Aファイナンスを適切に活用することで、成功への道を切り開くことができるでしょう。
M&Aファイナンスは、企業買収や合併を目的とした資金調達手法で、主にシニア・ローン(シニアファイナンス)とメザニン・ローン(メザニンファイナンス)の2つの方法が活用されます。以下では、それぞれの特徴や利点、欠点を詳細に解説いたします。
シニア・ローン(シニア・ファイナンス)とは、負債による資金調達の形態で、一般的な融資と同じ仕組みが採用されています。与信審査が厳格であり、通常は担保の提供が必要となります。メザニン・ローンと比較して返済順位が高いことが特徴的です。次に、シニア・ローンの利点と欠点について説明します。
シニア・ローンの利点
• 金利が低い:メザニン・ローンと比較して、シニア・ローンの金利が低いため、借入者の金利負担を軽減できます。
• 返済の優先度:シニア・ローンは他の債権よりも返済が優先されるため、貸し手にとっても安心感があります。
シニア・ローンの欠点
• 厳格な与信審査:シニア・ローンは、借入者の信用力が非常に重要とされるため、審査が厳しいことが欠点です。
• 資金調達に時間がかかる:審査が厳格であるため、資金調達までに時間がかかることがあります。
• 担保の設定:担保の設定が必要であることも、借入者にとってのデメリットです。
メザニン・ローン(メザニン・ファイナンス)は、シニア・ローンだけでは資金調達が不十分な場合に利用される手法です。返済順位は株式よりは上ですが、シニア・ローンよりは下(劣後)であり、「劣後ローン」とも呼ばれています。以下では、メザニン・ローンの利点と欠点について詳しく述べます。
メザニン・ローンの利点
• 審査が緩い:シニア・ローンと比べて審査が緩やかであり、資金調達が容易です。
• 追加資金調達:シニア・ローンだけでは不十分な資金を調達できる点が魅力です。
メザニン・ローンの欠点
• 金利が高い:審査が緩やかな分、金利が高く設定されることが一般的です。
• 金利負担の増加:借入期間が長く、金利負担が大きくなる場合があります。
• 返済順位の劣後:返済順位が劣後となるため、貸し手にとっては回収リスクが高まります。
M&Aファイナンスでよく用いられるシニア・ローンを活用する場合のプロセスについて、以下で概説します。
M&Aファイナンスの手続きを進めるにあたって、まず最初の段階としてインディケーションレターを取得しましょう。インディケーションレターとは、金融機関から提案された融資を示す資料で、法的な拘束力は持ちませんが、金融機関がM&Aファイナンスの検討を行った結果、貸付が可能であると判断された場合に発行されるものです。
このインディケーションレターが取得できると、買収を検討している企業は金融機関に対して融資を申し込むことができます。その際、守秘義務契約が結ばれることになります。
インディケーションレターの取得と守秘義務契約の締結を経た後、次のステップとしてコミットメントレターを取得しましょう。コミットメントレターは、金融機関が融資を行う意思を示す文書で、融資条件が決定され、金融機関の内部決裁が通った後に発行されます。この文書には、融資実行の条件や期限などが明記されています。
コミットメントレターが取得できたら、次にタームシートへの合意を行いましょう。タームシートは、コミットメントレターよりも詳細な内容が記載された文書で、融資の前提条件や金利など、融資に関する詳細事項が含まれています。
タームシートは、弁護士などの専門家によって精査され、金融機関と買収を検討している企業が交渉を重ねて最終的な合意に至るものです。法的な拘束力はありませんが、タームシートに記載された内容は基本的に守らなければならないものとなります。
タームシートに合意した後、融資を受ける買収側の企業と金融機関の間でローン契約(金銭消費貸借契約)を締結しましょう。同じタイミングで、買収側の企業と売却側の企業との間でも買収契約が締結されます。なお、買収契約の内容はローン契約にも影響を与えるため、金融機関とも共有する必要があります。
買収契約とローン契約が締結された後、金融機関からは融資に際して担保設定や保証の差し入れが求められます。これは金融機関が債権回収を確実に行うための手段となります。担保や保証の具体的な内容は、融資条件に記載されており、その条件に従って進められます。担保対象は買収側企業の株式や不動産などの資産だけでなく、売却側企業の資産にも及ぶことがあります。
融資が実行された後は、ローンの返済が始まります。この段階で、金融機関によるモニタリングが行われることがあり、財務制限条項を含む誓約事項や財務諸表の提出、報告義務などが課せられることがあります。適切な債務管理を行いながら、ローン返済を進めていくことが求められます。
M&Aファイナンスを遂行する際には、ファイナンスアウト条項という非常に重要な条項を知っておく必要があります。ファイナンスアウト条項とは、買収企業が金融機関から融資を受けられることを前提に買収を行うとする条件を指します。このような条項は、買収企業が優位であったり、立場が対等である場合には、売却側の企業の不安定な状態を回避することができるため、融資に協力的になることが一般的です。
しかし、もし融資が受けられなかった場合には、買収が実現しないことになります。このため、ファイナンスアウト条項は買収企業にとって非常に大きなメリットがあると言えるでしょう。
M&Aファイナンスを行う際には様々な注意点が存在し、これらに目を光らせておくことが大切です。以下、M&Aファイナンスに留意すべきポイントを説明します。
金融機関から提案されるM&Aファイナンスの場合、その利益が主に金融機関に大きくある可能性がありますので、注意して取り扱う必要があります。自社にとって利益となるのか、自社の状況に適合するかどうかを見極めることが重要です。
M&Aの仲介会社を選ぶ際には、自社の要望に合わせた経験豊富な会社を慎重に選ぶことがお勧めです。仲介会社は専門知識やノウハウを持っており、それらを利用するメリットが大きいです。特に、税理士や会計士、経営コンサルタント等の専門家が多数在籍している仲介会社が望ましいと言えます。例えば、金融機関から紹介された会社の場合であっても、選択する前に入念に検討しましょう。
M&Aファイナンスは、M&Aで必要な資金調達を行うものであり、買収ファイナンスとも呼ばれます。M&Aファイナンスにはシニア・ローンとメザニン・ローンの2つの手法があり、それぞれにメリットとデメリットが存在するため、自社に適した方法を選択することが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画