休眠会社の売却は、許認可や社歴、資産、税務状況に価値があれば可能です。売却相場、廃業との比較、進め方、簿外債務・登記懈怠・繰越欠損金の注意点、買い手が評価するポイント、無料相談前に整理すべき資料を、会社売却を検討する経営者向けに解説します。
目次

▶目次ページ:第三者承継とは(小規模会社のM&A)
「もう営業していない会社だから、誰も買わないだろう」と考える経営者は少なくありません。実際、事業活動を止めた会社は、通常の会社売却より買い手が限られます。ただし、会社に引き継げる価値が残っていれば、休眠会社でも売却を検討できます。
休眠会社の売却で重要なのは、過去の売上ではなく、買い手が取得後に使えるものがあるかです。許認可、社歴、不動産、設備、取引口座、商号、資本金、繰越欠損金などが、買い手にとって価値になる場合があります。反対に、資産も許認可もなく、税務申告や登記も長く放置されている会社は、売却より清算の方が現実的なこともあります。
休眠会社という言葉には、法律上の意味と、一般的な意味があります。会社法上は、株式会社で最後の登記から12年を経過した会社を休眠会社と呼びます。法務省による整理作業の対象となり、期限内に必要な登記や届出をしないと、解散したものとみなされることがあります。
一方、実務で「休眠会社」と言う場合は、登記簿上は存続しているものの、長期間にわたり営業活動を止めている会社を指すことが多いです。株式会社だけでなく、合同会社なども一般的な意味では休眠会社と呼ばれることがあります。この記事でも、主に後者の意味で説明します。
休眠会社は、過去に事業を行っていた会社が休業している状態です。ペーパーカンパニーは、登記はあるものの、実体が乏しい名目的な会社を指すことが多く、税金逃れなどの文脈で使われることもあります。
言葉の印象は似ていますが、買い手からの見方は異なります。休眠会社でも、過去の営業実態、許認可、資産、税務申告の履歴が確認できれば、一定の評価につながります。逆に、実体や資料がほとんど確認できない会社は、買い手がリスクを警戒し、交渉が止まりやすくなります。
休眠会社の売却価格は、通常のM&A(合併・買収)のように、利益を基準に大きく評価されるとは限りません。休業中で収益がない場合、買い手は「その会社を買うことで、どの手間や時間を省けるか」を見ます。
特別な資産や強みがない一般的な休眠会社では、売却価格は10万円から30万円程度が一つの目安になることがあります。案件によっては3万円前後にとどまることもあります。これは、買い手にとって得られる価値が限られ、同時に簿外債務や税務リスクを引き受けるためです。
特例有限会社の場合は、現在は新たに有限会社を設立できないことから、社歴や対外的な見え方に価値を感じる買い手がいます。そのため、一般的な休眠会社より高く、20万円から50万円程度の価格帯が見られることもあります。ただし、これらは市場で見られる目安であり、売却を保証する金額ではありません。
価値のある許認可を持つ休眠会社は、数百万円から数千万円で検討される可能性があります。たとえば、宅地建物取引業、建設業、労働者派遣業、運送業などです。買い手が新たに許認可を取るには、要件確認、書類作成、行政手続、審査期間が必要になります。
買い手にとって、既に許認可を持つ会社を取得できれば、事業開始までの時間を短縮できることがあります。ただし、許認可は会社の状態、役員、専任者、営業所、財産要件などと結び付いている場合があります。株式を買えば必ずそのまま使える、という単純な話ではありません。ここは意外と多い落とし穴です。
休眠会社が不動産、設備、現預金、有価証券などを持っている場合、会社そのものより資産の価値が価格に反映されます。不動産を持つ会社では、不動産M&Aとして検討されることもあります。この場合、会社の株式を売るのか、不動産だけを売るのかで、税金や手取り額が変わります。
資本金が大きい会社や社歴が長い会社も、買い手によっては評価されます。金融機関、取引先、行政手続で社歴が見られる業種では、設立直後の会社より信用を得やすいと考える買い手がいるためです。ただし、社歴だけで高く売れるわけではありません。過去の事業内容や申告状況を説明できることが前提になります。
繰越欠損金とは、過去の赤字を将来の黒字と相殺できる税務上の仕組みです。休眠会社に繰越欠損金が残っていると、買い手が税負担の軽減を期待することがあります。
しかし、欠損金は自由に使えるわけではありません。原則として、青色申告をしていること、その後も申告を続けていること、繰越期間内であることなどが必要です。さらに、発行済株式等の50%超を取得するなどの特定支配関係が生じた後、一定期間内に旧事業を廃止して大規模な新規事業を始めるような場合には、欠損金の利用が制限されることがあります。
買収後も、休眠前に行っていた既存事業を再開し、事業再生として説明できる場合は、欠損金を使える可能性があります。ただし、休眠期間中も申告が続いていること、期限切れになっていないこと、帳簿や決算書で過去の赤字を説明できることが前提です。
申告継続の確認
欠損金を価値として示すなら、過去の申告書一式を確認します。申告が途切れている場合、買い手の税務メリットとして説明するのは難しくなります。
税負担の軽減だけを目的に、事業実態のない休眠会社を買い、まったく別の事業を始めるようなケースでは注意が必要です。税務上、過去の赤字の利用が制限される可能性があります。
つまり、「赤字が残っているから高く売れる」とは限りません。M&A実務では、ここで買い手の判断が止まることがあります。
休眠会社を残したままにしている経営者の多くは、「いつか使うかもしれない」「清算が面倒だ」と感じています。そのまま数年が過ぎているケースも珍しくありません。売却は、清算とは別の出口として検討できます。
会社を正式に廃業する場合、解散決議、清算人の登記、官報公告、債権者対応、清算確定申告、残余財産の分配などが必要になります。司法書士や税理士に依頼すれば、会社の状態によって数十万円以上の費用がかかることもあります。
休眠会社を売却できれば、清算手続を自社で進める必要がなくなります。売却価格が大きくなくても、清算費用や手間を考えると、経営者にとって合理的な選択になる場合があります。
休眠会社を売却すれば、株式や持分の譲渡対価を受け取れます。特別な価値がない会社でも、買い手が社歴や会社名、口座、許認可準備に価値を感じれば、数万円から数十万円の収入になる可能性があります。
もちろん、すべての休眠会社に買い手が付くわけではありません。売却収入を得たい場合は、会社の状態を整理し、買い手が安心して判断できる資料をそろえることが先です。
休眠中でも、法人は存在しています。税務申告、地方税の届出、登記管理、決算書の保存、金融機関や取引先への対応など、最低限の管理が残ります。自治体によっては、休業中でも地方税の均等割がかかることがあります。
長く放置すれば、みなし解散の対象になったり、役員変更登記の遅れによる過料の問題が出たりします。売却によって会社を引き継いでもらえれば、経営者はこうした管理から離れられます。特に、事業承継や新規事業の整理を同時に進めている経営者にとって、使っていない会社を残し続ける負担は見過ごせません。
休眠会社の売却で最も怖いのは、売った後に過去の問題が見つかることです。休眠中は取引が少ないため安全に見えますが、過去の未払金、税金、借入、保証、契約が残っていることがあります。
簿外債務とは、決算書に載っていない債務や、見落とされている負担のことです。未払の外注費、未納税金、社会保険料、借入金、リース契約、保証債務などが該当します。
これらを隠して売却すると、最終契約書の表明保証条項に違反するおそれがあります。表明保証条項とは、売り手が「会社の状態について説明した内容に大きな誤りがない」と保証する契約上の約束です。違反すれば、売却後に損害賠償や代金返還を求められる可能性があります。
登記懈怠とは、必要な登記を期限内にしていない状態です。役員変更、本店移転、商号変更、目的変更などを放置している場合、登記を直す必要があります。登記を怠っていた事実があると、過料が発生することもあります。過料は刑罰としての罰金ではありませんが、経営者にとって無視できない負担です。
また、最後の登記から長期間が経過している株式会社は、法務省の休眠会社整理作業の対象になることがあります。みなし解散の登記が入っていると、そのままでは売却しにくく、会社継続の手続が必要になる場合があります。売却前に履歴事項全部証明書を取り、最後の登記日と現在の登記状態を確認しましょう。
休眠中でも、原則として法人税や地方税の申告が必要です。休業届を出していても、申告義務が完全になくなるわけではありません。買い手は、過去の申告書、決算書、勘定科目内訳書、納税証明書を確認します。
申告漏れや未納税金があると、買い手は価格を下げるか、買収を見送ります。繰越欠損金を価値として説明したい場合も、毎期の申告が続いているかが重要です。休眠会社の売却では、税務資料の有無が価格交渉に直結します。
売却を考え始めたら、次の3点を確認してください。
株式会社、特例有限会社、合同会社では、売却の方法や必要な手続が異なります。特例有限会社は株式会社の一種ですが、株式譲渡や登記実務では確認すべき点があります。
許認可、不動産、設備、社歴、商号、繰越欠損金などがあるかを確認します。買い手が評価するのは、会社の名前そのものではなく、取得後に使える価値です。
最後に登記や税務申告を行った時期も重要です。ここが古いほど、売却前の整理に時間がかかります。
休眠会社の売却は、通常の会社売却より短く終わるとは限りません。事業が止まっていても、過去の状態を確認する作業は必要です。むしろ、資料が散逸している分、準備に時間がかかることがあります。
最初に、なぜ売るのか、いくらなら売るのか、売れない場合は清算するのかを決めます。あわせて、履歴事項全部証明書、定款、株主名簿、過去の確定申告書、決算書、納税証明書、許認可書類、契約書、通帳、借入資料を整理します。
この段階で、会社の強みと不安材料を分けておくことが大切です。強みだけを見せても、後から問題が出れば交渉は崩れます。休眠会社ほど、最初の開示姿勢が信頼につながります。
買い手候補は、M&Aの専門家、既存の取引先、士業の紹介、M&Aプラットフォームなどを通じて探します。小規模な休眠会社の場合、譲渡価格が大きくないため、候補先の数は限られることがあります。
許認可や不動産がある場合は、その許認可や資産を必要とする業種の買い手に絞る方が効率的です。単に「会社を売ります」と出すより、「何を引き継げる会社か」を明確にする必要があります。
買い手が見つかったら、会社の状態、譲渡価格、引継ぎ条件、過去の債務、許認可の扱いを確認します。休眠会社では従業員や取引先の引継ぎが少ない一方、過去の債務や税務申告の確認が中心になります。
条件が大きく合えば、基本合意を結びます。基本合意は、譲渡価格の目安、調査期間、独占交渉、スケジュールなどを整理する書面です。小規模案件でも、後日の認識違いを防ぐため、口頭だけで進めない方が安全です。
デューデリジェンスとは、買い手が会社の状態を確認する調査です。休眠会社では、売上や利益よりも、簿外債務、未納税金、登記懈怠、許認可の承継可否、株主関係、過去の契約が重点になります。
調査後、最終契約書を作成します。株式譲渡契約では、譲渡代金、株式の移転日、代表者変更、表明保証、補償条項、売却後に見つかった債務の負担者などを定めます。休眠会社だから簡単な契約でよい、とは考えない方がよいです。
クロージングでは、譲渡代金の支払いと株式・持分の移転を行います。あわせて、代表者変更、役員変更、本店移転、商号変更、事業目的の変更などが必要になることがあります。
買い手が許認可を利用する場合は、許認可ごとの届出や変更手続も確認します。ここを後回しにすると、買い手が予定していた事業を始められず、売却後のトラブルになることがあります。
休眠会社の売却では、買い手探しだけでなく、売れる状態に整える作業が重要です。価格が小さい案件ほど、準備不足のまま進めると、途中で買い手が離れてしまいます。
売却先を探したい場合は、M&Aの専門家やプラットフォームが候補になります。許認可や不動産がある場合は、その業界に詳しい専門家が役立ちます。契約書や簿外債務が不安な場合は弁護士、繰越欠損金や未申告がある場合は税理士の確認が欠かせません。
重要なのは、休眠会社の「売れる理由」と「売れない理由」を両方見てもらうことです。高く売れる可能性だけを聞いて進めると、後で税務や法務の問題が出て、かえって時間と費用がかかります。
休眠会社の売却では、価格だけにこだわりすぎると危険です。買い手が過去の債務を十分に理解していない、許認可の利用可否を確認していない、契約書が簡単すぎる、といった状態で売却すると、成約後にトラブルが起きやすくなります。
特に、数万円から数十万円の売却価格であっても、未納税金や隠れた債務が後から見つかれば、経営者の負担は売却代金を超えることがあります。休眠会社の売却は、少しでも高く売ることだけでなく、手離れよく終えることも大切です。
買い手が見つからない場合は、無理に売却を続けるより、清算や休業管理の継続を検討します。許認可が失効している、税務申告が長く止まっている、株主が不明、債務が多い、といった会社は、買い手が見つかりにくい傾向があります。
それでも、整理すれば売却できる会社もあります。最初から「売れる・売れない」を決めつけず、登記、税務、債務、資産、許認可を確認し、売却と清算のどちらがよいかを比べて判断しましょう。
休眠会社は、許認可、社歴、資産、繰越欠損金などに価値があれば売却できる可能性があります。一方で、簿外債務、未納税金、登記懈怠、みなし解散を整理しないまま進めると、成約後のトラブルにつながります。廃業と売却の費用、手取り、手離れを比べ、必要資料を整えて判断しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人