自己株式譲渡の3つの方法と活用メリット:企業価値向上の鍵


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自己株式譲渡の手続・税務とM&Aでの活用注意点を解説

自己株式譲渡は、会社が保有する自社株を第三者や株主、役員等へ処分する手続です。資金調達、M&A対価、インセンティブ活用、会社売却前の株主構成整理での使い方、決議、価格、会計・税務の注意点を経営者向けに解説します。

目次

  1. 自己株式譲渡の意味と扱いを整理する
  2. 自己株式を渡す目的は資金と株主設計
  3. 手続は募集事項から払込みまで順に進める
  4. 決議と価格決定で株主トラブルを防ぐ
  5. 会計・税務では利益ではなく資本で考える
  6. M&A・事業承継で使う前に確認する
  7. まとめ

自己株式譲渡の3つの方法と活用メリット:企業価値向上の鍵

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自己株式譲渡の意味と扱いを整理する

自己株式譲渡とは、会社が保有している自社の株式を、第三者、既存株主、役員、従業員などへ引き渡す手続です。実務では「自己株式の処分」と呼ばれることが多く、会社法上も新株発行と並んで「募集株式の発行等」として扱われます。

少し分かりにくい点があります。会社が自社株を誰かに売るので、普通の株式売買に見えますが、会社法上は会社が募集事項を決め、引受人を募り、割当てと払込みを受ける形で進みます。売買契約だけで済ませるものではありません。

自己株式とは何か

自己株式とは、会社が過去に発行した株式を自社で取得し、保有している株式です。退任した役員や相続人から会社が株式を買い取った結果、会社の手元に自社株が残ることがあります。

自己株式には、原則として議決権がありません。そのため、会社が保有している間は株主総会での議決権割合に影響しにくい一方、第三者へ譲渡すると、その株式に議決権が戻ります。発行済株式総数は増えなくても、実際の支配関係が変わることがある点に注意が必要です。

取得・処分・消却の違い

自己株式は、取得、処分、消却という3つの動きで整理すると分かりやすくなります。

取得は会社が株式を買い戻すこと

取得は、会社が株主から自社株を買い戻す手続です。少数株主の整理、相続対策、株主構成の見直しなどで使われます。ただし、会社財産を使って株式を買い取るため、財源規制やみなし配当などの税務確認が欠かせません。

処分は自己株式を社外へ出すこと

処分は、会社が保有する自己株式を社外へ出す手続です。本記事でいう自己株式譲渡は、主にこの処分を指します。資金調達、M&A(合併・買収)の対価、役員や従業員への株式付与などで使われます。

消却は株式を消滅させること

消却は、自己株式を完全に消す手続です。消却すると発行済株式総数が減ります。株主構成を変えるというより、株式数を整理する目的で使われることが多い方法です。

自己株式を渡す目的は資金と株主設計

自己株式譲渡は、会社に残っている自社株をどう使うかを決める資本政策です。資本政策とは、株主構成や資本金、株式数をどう設計するかという考え方をいいます。中小企業では、会社売却や事業承継を考え始めてから、過去に取得した自己株式の扱いが問題になることも少なくありません。

資金調達に使う

会社が自己株式を第三者や既存株主へ処分すると、引受人から払込金を受け取れます。新株発行と似た資金調達効果がありますが、既に発行済の株式を使うため、発行済株式総数は増えません。

ただし、自己株式には議決権がないため、処分後は議決権割合が変わります。「株式数は増えないから既存株主への影響は小さい」と単純に考えるのは危険です。誰に何株を渡すかで、支配権のバランスが変わるためです。

M&Aや組織再編の対価に使う

買い手企業が、現金の代わりに自社株式を対価として交付する場面があります。自己株式を使えば、手元資金の流出を抑えながらM&Aを進められる場合があります。

たとえば、株式交付や株式交換などでは、買収対象会社の株主に対して買い手企業の株式を交付することがあります。現金対価と比べると、売り手側が買い手企業の株主として残るため、M&A後の成長を一緒に取りに行く設計も可能です。

役員・従業員へのインセンティブに使う

役員や従業員に株式を持たせることで、会社の成長と報酬を連動させる設計もあります。ストックオプションや譲渡制限付株式報酬などの制度を使う場合、最終的に自己株式を交付するケースがあります。

ただし、役員や従業員に低い価額で株式を渡すと、給与課税や役員報酬の扱いが問題になることがあります。税務上の時価と会社法上の有利発行の両方を見なければなりません。意外と多い落とし穴です。

手続は募集事項から払込みまで順に進める

自己株式譲渡は、相手が決まっていればすぐに渡せる、というものではありません。会社法上は募集株式の発行等として進めるため、募集事項の決定、社内決議、通知または公告、申込み、割当て、払込みという流れを踏みます。

募集事項を決める

最初に、処分する株式数、払込金額、払込期日または払込期間、割当先、金銭以外の財産を受け取る場合の内容などを決めます。ここが曖昧だと、後で株主や引受人との認識違いが起きやすくなります。

特に中小企業では、株価算定の根拠が重要です。親族、役員、特定の取引先などに処分する場合、なぜその価額にしたのかを説明できる資料を残しておく必要があります。

社内決議を行う

公開会社では、原則として取締役会決議で募集事項を決めることができます。ただし、引受人に特に有利な価額で処分する場合には、株主総会の特別決議が必要になります。

非公開会社、つまり株式に譲渡制限がある会社では、原則として株主総会の特別決議が必要です。中小企業の多くは非公開会社ですので、取締役だけで決められると思い込まないことが大切です。

株主総会決議により、一定の範囲で取締役または取締役会へ決定を委任できる場合もあります。また、株主割当では定款の定めにより取締役会決議で進められる場合もあります。細かな設計は会社ごとに異なるため、定款と過去の議事録を確認してから進めるべきです。

株主への通知・公告を行う

会社法上、株主へ一定の情報を知らせる手続が必要になる場合があります。たとえば公開会社で株主総会決議を経ずに募集事項を決める場合、原則として払込期日の2週間前までに株主へ通知または公告を行います。

非公開会社でも、株主総会の招集通知や議案資料の形で、処分の目的、株数、価額、割当先を分かりやすく示しておくべきです。後から「知らされていなかった」と言われると、M&A前のデューデリジェンスで買い手から問題視されます。デューデリジェンスとは、買い手が契約前に会社の内容を調べる手続です。

申込み・割当て・払込みを行う

引受人が申込みを行い、会社が割当てを決めます。その後、引受人が払込期日までに金銭などを払い込みます。払込みが完了すると、引受人は自己株式を取得します。

登記の要否を確認する

自己株式だけを処分する場合、発行済株式総数は増えません。そのため、通常は発行済株式総数の変更登記は不要です。新株発行を併用して資本金の額が増える場合など、登記事項に変動があるときは、効力発生後2週間以内の登記が必要になることがあります。ここは司法書士にも確認したいポイントです。

決議と価格決定で株主トラブルを防ぐ

自己株式譲渡で失敗しやすいのは、手続そのものよりも「誰に、いくらで、なぜ渡すのか」の説明です。特に会社売却を見据えている場合、買い手は株主構成や過去の株式移動を細かく確認します。

有利発行に当たるかを確認する

引受人にとって特に有利な価額で自己株式を処分する場合、有利発行として追加の手続が必要になります。たとえば、時価よりかなり低い価額で役員や特定の第三者に渡す場合です。

この場合、取締役は株主総会でその必要性を説明する必要があります。説明が不十分だと、既存株主から不公平だと見られるおそれがあります。身内への承継や役員への付与ほど、形式を軽く見ないことが重要です。

株価算定の根拠を残す

非上場会社の株式には、市場価格がありません。そのため、純資産価額、類似業種比準方式、配当還元方式、将来収益を反映する評価など、目的に応じた算定方法を検討します。

税務上の時価とM&Aでの企業価値評価は、同じではありません。親族や役員への譲渡では税務上の時価が重視され、第三者企業との資本提携では事業価値や将来利益も見られます。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。

株主割当・第三者割当・対価交付を使い分ける

自己株式の処分方法は、大きく3つに分けられます。既存株主に渡すのか、特定の第三者に渡すのか、M&Aの対価として使うのかで、目的も注意点も変わります。

株主割当による処分

株主割当は、既存株主に対し、持株比率などに応じて引受けの機会を与える方法です。株主間の公平を保ちやすい一方、すべての株主が応じるとは限りません。株主が多い会社では、連絡や申込みの管理にも手間がかかります。

第三者割当による処分

第三者割当は、特定の第三者に自己株式を引き受けてもらう方法です。資本業務提携、安定株主の確保、後継候補への株式移転などで使われます。会社売却前に事業会社を株主として迎える場合、将来の譲渡先との関係づくりにもつながります。

一方で、既存株主の議決権割合は変わります。株主構成を大きく動かすため、価格と目的の説明がより重要になります。

M&A対価としての交付

買い手企業がM&Aの対価として自己株式を交付する方法です。現金を使わずに買収を進められる点が特徴です。ただし、売り手側は現金ではなく株式を受け取るため、その株式の換金性、配当方針、将来の株価変動リスクを確認する必要があります。

会計・税務では利益ではなく資本で考える

自己株式を処分すると、会社には払込金が入ります。ここで「売却益が出たから利益になる」と考えがちですが、会計と税務では通常の売上や固定資産売却益とは違う扱いになります。

会計上はその他資本剰余金で処理する

会計上、自己株式の処分対価と帳簿価額との差額は、損益計算書の利益や損失にはしません。差益が出た場合はその他資本剰余金を増やし、差損が出た場合はその他資本剰余金を減らします。その他資本剰余金とは、資本金ではないものの、株主からの出資に近い性格を持つ純資産の項目です。

処分差益の考え方

会社が帳簿価額より高い金額で自己株式を処分した場合、差額は自己株式処分差益です。ただし、営業利益や特別利益ではなく、純資産の中のその他資本剰余金として処理します。

処分差損の考え方

帳簿価額より低い金額で処分した場合、差額は自己株式処分差損です。こちらも費用ではなく、その他資本剰余金から減額します。その他資本剰余金で足りない場合は、繰越利益剰余金で補う処理が必要になることがあります。

法人税では原則として譲渡損益を認識しない

税務上も、自己株式の処分は資本等取引として扱われます。資本等取引とは、会社の資本そのものを増減させる取引です。そのため、自己株式の処分差益は益金に算入されず、処分差損も損金に算入されないのが基本です。

消費税でも、自己株式の処分による株式の引渡しは、通常は資産の譲渡等に該当しません。つまり、自己株式を処分して会社にお金が入っても、通常の売上と同じように消費税がかかるわけではありません。

取得段階のみなし配当にも注意する

自己株式の処分だけを見れば、法人側では課税所得が発生しにくい構造です。ただし、その前に会社が株主から自己株式を取得している場合は、株主側でみなし配当が発生することがあります。

みなし配当とは、形式は株式の売却代金でも、税務上は配当を受け取ったものとして扱われる部分をいいます。会社売却前に少数株主の株を買い取る場合、譲渡所得だけを見ていると手取り額を読み違えることがあります。

M&A・事業承継で使う前に確認する

自己株式譲渡は、単なる資金調達だけでなく、M&Aや事業承継の準備にも関係します。特に中小企業では、株主構成が整理されているかどうかで、買い手の見方が変わります。

会社売却前の株主構成を整える

会社売却では、買い手は誰が何株持っているかを必ず確認します。少数株主が多く、連絡が取れない株主や名義株の疑いがある株主がいると、買い手はリスクを感じます。

自己株式を取得し、その後の処分や消却を組み合わせることで、株主構成を整理できる場合があります。ただし、会社売却の直前に新たな株主を増やすと、かえって交渉が複雑になることもあります。処分するのか、消却するのか、保有したままにするのか。目的を先に決めるべきです。

役員承継と第三者承継を組み合わせる

親族や役員に一部の株式を持たせ、残りを第三者へ譲渡する形もあります。この場合、自己株式を役員や後継候補に処分し、経営への関与を強める設計が考えられます。

ただし、役員に株式を持たせると、その後の会社売却時に同意や価格交渉が必要になります。後継候補へのインセンティブとして有効な一方、出口戦略を決めずに株式を渡すと、将来のM&Aで調整が難しくなります。

買い手側のM&A対価として活用する

自社が買い手となる場合、自己株式をM&A対価として使うことがあります。現金を温存しつつ、売り手に自社の成長余地を共有してもらう設計です。

ただし、非上場会社の株式は簡単に換金できません。売り手が株式対価を受け入れるには、買い手企業の業績、将来性、配当方針、株式の売却可能性を丁寧に説明する必要があります。現金対価より交渉に時間がかかることもあります。

実務で確認したい項目

自己株式譲渡を検討する際は、少なくとも次の点を確認します。


・自己株式の取得経緯と帳簿価額が分かるか

・株主名簿と実際の株主が一致しているか

・処分後の議決権割合がどう変わるか

・処分価額の根拠を説明できるか

・有利発行に当たる可能性がないか

・法人税、消費税、株主側の所得税を確認したか

・会社売却や事業承継の全体方針と矛盾しないか

専門家に相談すべき場面

親族、役員、特定の取引先、買い手候補へ自己株式を処分する場合は、会社法、税務、会計、M&A実務が重なります。1つの観点だけで決めると、後から株主間トラブルや税務リスクにつながります。株式の動きは、会社の将来の選択肢に直結します。

まとめ

自己株式譲渡は、会社が保有する自社株を社外へ出し、資金調達、M&A対価、インセンティブ、株主構成の見直しに使う手続です。発行済株式総数は増えなくても議決権割合は変わります。会社売却や事業承継を見据える場合は、処分ありきではなく、取得・消却も含めて最適な方法を検討することが大切です。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人

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