優先株の活用で資金調達強化と事業承継M&A徹底解説
「優先株とは何ですか?」そんな疑問に即答します。優先株は普通株より配当や残余財産で優遇される特別な株式です。この記事では、その種類・権利・社債との違いをやさしく整理し、発行時に注意すべきポイントまで詳しく紹介します。
目次
▶目次ページ:親族内承継(種類株式)
優先株は、株主平等の原則を前提としつつ、定款で特別な取り決めを行うことで発行できる種類株式の一つです。普通株と比べ、配当や会社清算時の残余財産の分配を優先的に受けられるため、投資家にとってはリスクを抑えつつリターンを確保しやすい仕組みになっています。一方で、議決権を一部または全部制限する設計が多く、経営への影響は抑えられる点が特徴です。権利の強さのイメージは「劣後株<普通株<優先株」であり、社債よりはリスクが高いものの、普通株よりは保護される中間的な立場に位置します。
株式会社では、債権者の取り分を担保する目的で「分配可能額規制」が設けられています。債権者は弁済が優先されるため、株主は会社財産が残った場合のみに分配を受け取ることができます。優先株は、この原則のもとで「経営に関与せずとも安定して配当を得たい投資家」のニーズに応え、社債と普通株の中間的な選択肢として機能します。議決権を制限し、配当を優先する設計を採ることで、投資家は債権的な安定性を享受しつつ株式としての残余請求権も確保できます。
優先株はいくつかの軸で分類できます。代表的なのが「参加型/非参加型」と「累積型/非累積型」の二つです。どの型を選ぶかで投資家のリターンと企業の資金繰りに大きく影響するため、発行時には定款変更を含む緻密な設計が求められます。
参加型優先株は、あらかじめ定めた優先配当を受け取った後、普通株主と同等の立場で追加配当にも参加できます。つまり好業績期には普通株以上の配当総額が期待でき、投資家にとって有利です。
非参加型優先株は、一定額の優先配当を受けた後は普通株と同じ配当を受け取れません。上限があるため社債的な性格が強く、企業側は配当負担を予見しやすい一方、投資家は高い成長による追加リターンを享受しにくい点がデメリットです。
累積型では、業績不振で満額の優先配当を払えなかった場合、未払分を翌期以降に繰り越します。投資家は配当確保の安心感を得られ、企業も長期投資家を呼び込みやすくなります。
非累積型では、ある期に優先配当が不払いとなっても翌期以降に繰り越されません。企業は業績悪化時のキャッシュ流出を抑制できますが、投資家にとってはリスクがやや高まります。
優先株は株主総会の特別決議と定款変更を経て、柔軟に権利を組み合わせられます。代表的な権利を以下に整理します。
優先配当は、普通株より高い配当率や固定額を設定でき、投資家の安定収益を確保します。ただし設定が高過ぎると企業の財務負担を圧迫するためバランスが肝要です。
会社を清算した際、残った資産を普通株より優先的に分配されるのが残余財産優先分配権です。スタートアップやM&A後の出口戦略を想定する投資家にとって重要な保険となります。
取得請求権を持つ株主は会社に株式買取を請求できます。一方、取得条項を設定すると、会社が一定条件で株主から株式を取得可能です。これにより将来の株主構成を柔軟に調整できます。
種類株主総会で役員選任権を与えると、優先株主が特定人数の取締役を直接選ぶことができます。議決権を制限しながらも経営モニタリングを部分的に担保できる制度設計です。
重要な組織再編や定款変更などについて、優先株主の種類株主総会決議を必須とする拒否権を設定すると、経営陣が一方的に方針を変更するリスクを抑えられます。
優先株は「条件をカスタマイズできる株式」という強みを生かし、資金調達だけでなくガバナンスや株主間の利害調整に幅広く使われています。ここではM&A、事業承継、スタートアップという三つの典型的な場面での活用パターンを整理します。
M&Aで外部投資家が資本参加する場合、投資家保護のために優先株が発行されることがあります。たとえば、買収後に企業価値が上がった際のキャピタルゲインを、投資家の優先株にだけ先行配分する設計にすれば、投資家はリスクを抑えつつ高いリターンを得られます。結果として投資家の参加意欲が高まり、資金調達の実現可能性が向上します。
親族内承継や社内承継では、後継者に議決権を集中させつつ、非後継者にも公平な財産分与を行う必要があります。普通株を後継者へ、優先株を非後継者へ譲渡する方法を採れば、後継者は経営権を確実に握り、非後継者は安定配当を期待できる自社株を保有できます。こうした設計により、株式分散による経営混乱を避けながら円滑な承継を実現できます。
スタートアップは高い成長ポテンシャルと引き換えに失敗リスクも大きく、VCやCVCは投資回収を重視します。そこで累積・参加型の優先株を発行すれば、投資家は残余財産でも配当でも優遇され、出資ハードルが下がります。また、ストックオプションの対象を優先株に設定すれば、役員・従業員へ確実なインセンティブを付与でき、優秀な人材を引き付ける武器になります。
優先株は投資家と発行企業の双方に利点と課題をもたらします。ここでは視点を分けて整理し、活用時の判断材料とします。
優先株は設計の自由度が高い反面、法務・税務・ガバナンスに注意すべき点が多岐にわたります。検討初期から専門家と連携して進めることで、後戻りのコストと時間を削減できます。
配当率を高く設定し過ぎれば将来の資金繰り負担になり、低過ぎれば投資家の魅力が下がります。議決権制限も行き過ぎると出資を敬遠されるため、事業計画と資本政策を突き合わせ、適切なバランスを取る必要があります。
初めて優先株を発行する場合、株主総会特別決議と定款変更が必須です。招集通知や議案説明には法定期間があるため、資金調達のタイミングから逆算して十分な準備期間を確保しましょう。
優先株を一度発行すると、次回調達でも優先株に頼らざるを得ない場合があります。配当総額の上限や株主構成の変化が後々のM&AやIPOに影響するケースもあるため、中長期の資本政策をシナリオ別に検証しておくことが重要です。
優先株の配当設計は法人税法や所得税法とも関係し、取得請求権・取得条項は会社法上の手続を伴います。専門家に早期相談すれば、想定外の税負担や登記漏れといったリスクを未然に防げます。
優先株は普通株と社債の長所を組み合わせ、配当優先や議決権制限など柔軟な設計が可能です。M&Aや事業承継、スタートアップ資金調達で効果を発揮しますが、配当負担や手続コストも伴います。専門家と協議し、中長期の資本戦略と整合させた上で活用しましょう。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画