優先株式の特徴や活用方法、M&Aや事業承継、スタートアップでの利用法を詳しく解説します。メリット・デメリットや注意点も押さえ、効果的な優先株式の活用法を学べます。
目次
優先株式は、普通株式と比較して優先的な権利が付与された種類株式です。
この株式は以下のような特徴を持っています:
• 配当金の受取額が多い
• 会社清算時に優先的に資産を受け取ることができる
• 議決権に一部制限がある場合がある
• 普通株式よりも株価が高くなる傾向がある
優先株式は、普通株式と劣後株式の間に位置し、「劣後株<普通株<優先株」という順で権利の内容が異なります。この基本的な構造を理解しておくことは、優先株式の活用を検討する上で重要です。
優先株式は、様々な場面で活用されることがあります。主な活用方法として以下が挙げられます:
1. M&Aにおける活用
2. 事業承継における活用
3. スタートアップ企業における活用
これらの活用方法について、次に詳しく見ていきましょう。
M&Aの場面では、オーナー経営者とは別に資本参加した投資家がいる場合に優先株式が活用されることがあります。この場合、投資家の出資持分を優先株式とすることで、M&A後の売却収入(キャピタルゲイン)を投資家に優先的に配分する設計が可能となります。
これにより、投資家のリスクを軽減しつつ、M&Aの実現可能性を高めることができます。
事業承継、特に親族内承継や社内承継を進める際に、優先株式が活用されることがあります。この方法では、以下のような形で株式を分配します:
• 後継者:議決権のある普通株式を承継
• 非後継者:優先株式を承継
この方法を採用することで、以下のメリットが得られます:
1. 後継者による会社経営への支障を防ぐ
2. 非後継者に対しても、財産としての自社株を一部残すことができる
このような活用方法は、円滑な事業承継を実現するための一つの選択肢となります。
スタートアップ企業への投資は、ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などの投資家にとって大きなリスクを伴います。このリスクを軽減する手段として、優先株式が活用されることがあります。
優先株式を用いることで、以下のようなメリットが得られます:
1. 残余財産の分配面で有利になり、投資しやすくなる
2. ストックオプションの対象を優先株式とすることで、役員・従業員へのインセンティブ付与が容易になる
これらの活用方法により、スタートアップ企業は資金調達の幅を広げ、優秀な人材の確保にもつなげることができます。
▶目次ページ:親族内承継(種類株式)
優先株式には、様々な権利を付与することができます。主な権利には以下のようなものがあります:
1. 剰余金の優先配当
2. 残余財産の優先分配
3. 取得請求権・取得条項
4. 役員選任権
5. 拒否権
これらの権利の内容や範囲は、株主の合意があれば、ある程度自由に決定することができます。各権利の詳細は以下の通りです:
1. 剰余金の優先配当
• 普通株式の配当よりも多くの配当金を受け取ることができる権利
2. 残余財産の優先分配
• 会社清算時に、残った資産を優先的に分配される権利
3. 取得請求権・取得条項
• 取得請求権:株主が会社に対して株式の買い取りを請求できる権利
• 取得条項:一定の条件下で会社が株主から株式を取得できる権利
4. 役員選任権
• 種類株主総会において、役員の選任に参加できる権利
5. 拒否権
• 株主総会や取締役会の決議事項について、種類株主総会での決議を要求できる権利
これらの権利を適切に組み合わせることで、企業のニーズや投資家の要望に合わせた柔軟な設計が可能となります。
優先株式には、投資家側と発行企業側それぞれにメリットとデメリットがあります。これらを理解することで、優先株式の活用を適切に検討することができます。
投資家にとっての優先株式のメリットとデメリットは以下の通りです:
メリット:
1. 優先株式の優先配当と普通配当の両方を受け取ることができる
2. 一定の優先配当額が保証されるため、投資先企業の経営状態が悪化した場合のリスク軽減効果がある
デメリット:
1. 市場での売買銘柄が少なく、流動性が低い傾向がある
2. 非上場企業の優先株式は、経営状態が良好でも株価が大幅に上昇する見込みが低い
3. 売買による利益(キャピタルゲイン)の獲得が難しい
4. 短期間で売買を繰り返すような投資家には不向き
これらの特徴を踏まえ、投資家は自身の投資目的や戦略に合わせて優先株式の取得を検討する必要があります。
発行企業にとっての優先株式のメリットとデメリットは以下の通りです:
メリット:
1. 資金調達手段として有効
• 普通株式に比べて株価が高くなりやすい
• 最小限の増資で必要な資金調達が可能
2. 対外的な信用力が向上する
• 自己資本比率が向上し、融資を受けやすくなる
デメリット:
1. 企業イメージが悪化するリスクがある
• 「資金繰りが厳しい企業が行う」というイメージを持たれる可能性がある
2. 種類株主総会が必要になる
• 手続きが煩雑になる可能性がある
これらの点を考慮し、企業は自社の状況や将来の計画に照らし合わせて、優先株式の発行を慎重に検討する必要があります。
優先株式を効果的に活用するためには、いくつかの重要な注意点があります。ここでは、特に重要な2つの点について詳しく説明します。
優先株式の設計は、非常に慎重に行う必要があります。特に以下の点に注意が必要です:
1. 配当金の設定
• 低すぎると投資家にとって魅力が低くなる
• 高すぎると企業の財務負担が大きくなる
2. 議決権の範囲
• 制限をかけすぎると投資家にとって魅力が低下する
• 制限が緩すぎると経営の自由度が損なわれる可能性がある
3. その他の権利の設定
• 企業の状況や株価を十分に考慮する必要がある
これらの要素を適切にバランスよく設定することが重要です。しかし、時間をかけすぎると資金調達が間に合わなくなる可能性もあります。
そのため、優先株式の発行を検討する際には、弁護士や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、法的リスクや税務上の影響を最小限に抑えつつ、効果的な優先株式の設計が可能となります。
優先株式を一度発行すると、その後の資金調達の選択肢が狭まる可能性があります。以下の点に注意が必要です:
1. 将来の大型資金調達への影響
• 優先株式を発行すると、その後の大型資金調達でも優先株式に頼らざるを得ない状況が生じる可能性がある
2. 中長期的な視点の必要性
• 優先株式の発行は、中長期的な資金計画の一環として考える必要がある
3. 既存株主との関係
• 優先株式の発行により、既存株主の権利が相対的に弱まる可能性がある
4. 将来のM&Aへの影響
• 優先株式の存在が、将来的なM&Aの障害となる可能性がある
これらの点を踏まえ、優先株式の発行は慎重に検討する必要があります。短期的な資金需要だけでなく、長期的な企業成長戦略や株主価値の最大化を考慮した上で、優先株式発行の是非を判断することが重要です。
優先株式は、普通株式と社債の中間的な性質を持つ投資手段であり、経営者と投資家双方に利益をもたらす可能性があります。しかし、その設計や発行には慎重な検討が必要です。専門家のサポートを受けながら、優先株式の仕組みやメリット・デメリットを十分に理解し、経営戦略や投資、M&Aに効果的に活用することが重要です。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画