M&Aと地位承継:事業譲渡成功のカギとなる重要手続

M&Aにおける地位承継の重要性と手続について解説します。事業譲渡時の注意点や株式譲渡との違いなど、地位承継に関する重要な情報をわかりやすく説明しています。

目次:

  1. 地位承継の基本的な概念
  2. 事業譲渡時の地位承継について
  3. 事業譲渡における地位承継の必要性
  4. まとめ

地位承継の基本的な概念

地位承継とは、契約の当事者を変更し、その権利や義務を別の主体に移転させることを指します。M&Aの文脈では、売り手から買い手へ契約主体を移行させることで、会社や事業に関連する権利や義務を引き継ぐプロセスを意味します。

地位承継の主なポイントは以下の通りです:

1. 資産・負債・権利・義務の移転: 不動産、債券、債務などの様々な要素を別の主体に引き継ぎます。

2. 適用範囲: 事業譲渡だけでなく、相続による事業承継などでも行われる手続です。

3. 金融機関からの同意: 金融機関からの債務を地位承継する場合、当該金融機関の同意が必要となります。

例えば、不動産の賃貸借契約では、賃借人の地位を承継(名義変更)することがあります。これも地位承継の一例です。

M&Aや事業承継において、地位承継は非常に重要な手続となります。特に、店舗ビジネスのような立地が重要な事業の場合、地位承継ができないと事業譲渡自体が成立しない可能性があります。

適切な地位承継を実現し、トラブルを回避するためには、専門家のサポートを受けることが推奨されます。複雑な法的手続や契約関係の調整には、専門的な知識と経験が必要となるためです。



▶目次ページ:M&Aの種類・方法(事業譲渡)

事業譲渡時の地位承継について

事業譲渡は、M&Aの一形態であり、会社の事業の一部または全部を売買することを指します。事業譲渡には以下の2種類があります:

1. 一部譲渡:会社の特定の事業や部門のみを譲渡する

2. 全部譲渡:譲渡する企業の事業全体を譲渡する

事業譲渡の範囲には、有形・無形資産、負債、従業員などの人員、取引先との契約関係などが含まれます。

事業譲渡における地位承継では、譲渡する事業に関連する権利および義務を一つ一つ対象として買い手に移転させる必要があります。この過程で重要なのは、契約書や覚書を取り交わし、細かい条件を確認することです。これにより、売り手・買い手双方に損失をもたらすような齟齬が生じることを防ぐことができます。

最も警戒すべきトラブルは、地位承継ができず事業譲渡自体が実行できない(または譲渡は実行できたものの事業を承継できない)ケースです。このため、双方がしっかりと確認すべき事項となります。

覚書は、正式な契約書の締結前に合意事項や約束事を確認するために使用されますが、地位承継の内容や条件が明確に記載されていれば、契約書としての効力も発揮されます。

なお、事業譲渡と株式譲渡の違いについても理解しておくことが重要です。事業譲渡が会社の特定の事業や資産のみを譲渡するのに対し、株式譲渡は会社の経営権そのものを譲渡するものです。株式譲渡では会社の株式を譲渡するため、法人格の売買となり、事業に関わる権利をそのまま承継できることになります。

事業譲渡における地位承継の必要性

M&Aのすべてのスキームにおいて、地位承継が必ず必要というわけではありません。地位承継の必要性は、選択するM&Aのスキームによって異なります。

事業譲渡のスキームでは、事業の一部や全部を譲渡するために地位承継が必要となります。これは、譲渡対象の範囲を個別に定める必要があるためです。

一方、株式譲渡のスキームでは地位承継は実施されません。これは、株式譲渡では経営権そのものが譲渡されるため、事業譲渡のように譲渡対象の範囲を個別に定める必要がないからです。

したがって、M&Aの中でも特に事業譲渡において地位承継が重要な役割を果たすことになります。事業譲渡の規模が大きくなればなるほど、地位承継の手続も煩雑になります。不備がないよう進めるためには、専門的な知識が欠かせません。

地位承継を適切に行うことで、以下のようなメリットがあります:

1. 円滑な事業の継続: 必要な権利や義務を確実に引き継ぐことで、事業の継続性を確保できます。

2. リスクの軽減: 適切な地位承継により、将来的なトラブルや紛争のリスクを軽減できます。

3. 取引先との関係維持: 契約関係を適切に承継することで、重要な取引先との関係を維持できます。

4. 法的安定性の確保: 正しい手続を踏むことで、譲渡後の事業運営の法的安定性を確保できます。

これらの理由から、事業譲渡を検討する際には、地位承継の重要性を十分に認識し、適切な対応を取ることが不可欠です。

まとめ

地位承継は、M&Aにおいて重要な手続の一つです。特に事業譲渡では、関連する権利義務の移転が多く発生するため、適切な地位承継が不可欠となります。事業の規模が大きくなるほど手続は複雑化するため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。適切な地位承継を行うことで、円滑な事業継続とリスク軽減が可能となります。

著者|土屋 賢治  マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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