M&Aによる子会社化について、その定義や手法、メリット・デメリットを詳しく解説します。実際の買収事例も交えながら、子会社化のポイントを分かりやすく紹介します。
目次
▶目次ページ:第三者承継(M&Aの意味)
M&Aにおける子会社化を理解するためには、まず親会社と子会社の定義を把握することが重要です。ここでは、それぞれの定義と子会社の種類について詳しく説明します。
親会社とは、子会社の経営権を握っている会社のことを指します。会社法では、「株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」と定義されています。ただし、親会社の判別方法は様々あるため、定義が異なるケースがある点に注意が必要です。
子会社とは、株主総会や取締役会といった「自社の意思決定機関」を、特定の他社に支配されている状態の会社を指します。一般的には、保有する株式が50%超であることが基準とされていますが、50%以下でも実質的に支配されているとみなされる場合もあります。
子会社には、以下の3つの種類があります。
1. 完全子会社
親会社が自社の株式を100%保有している状態
メリット:経営方針の決定スピードが上がる、子会社の経営資源を100%活用できる
2. 連結子会社
親会社の連結決算の対象(連結財務諸表の対象)となる子会社
メリット:完全子会社と比べて、子会社の独立性をある程度維持しやすい
3. 非連結子会社
連結決算の対象にならない子会社
一般的に、親会社の支配が一時的である場合や、売上規模が小さい子会社などが対象
これらの定義と種類を理解することで、M&Aにおける子会社化の基本的な概念が掴めます。
M&Aによる経営統合の手段には、子会社化、グループ化、合併などがあります。これらの違いを理解することで、自社に適した方法を選択できるようになります。
子会社化とは、ある特定の会社の経営権を獲得することを指します。一方、グループ化は、企業同士が株式の持ち合いなどを通じて1つのグループを形成することを意味します。
子会社化の場合、親会社が子会社の経営に対して強い影響力を持ちますが、グループ化では各企業の独立性が比較的高く保たれます。
子会社化は、A社がB社の経営権を獲得することを指します。一方、合併は、A社とB社が1つの会社になることを意味します。
合併には「吸収合併」と「新設合併」という2つのパターンがあります。吸収合併の場合は、一方が消滅して1つの会社になり、新設合併の場合は、どちらも消滅して新しい会社が設立されます。
子会社化では、親会社と子会社が別法人格を維持したまま経営統合を図ることができますが、合併では完全に一体化した経営となります。
M&Aによる子会社化には、以下の4つの主要な手法があります。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。
株式譲渡とは、売り手が買い手に自社が保有する株式を譲渡することです。売り手が自社の株式を渡し、買い手はその対価として金銭を支払います。4つの手法の中で最も一般的に用いられる方法です。
メリット:
• 手続が比較的簡単
• 対価の柔軟性が高い
株式移転では、まず複数の会社で新たに親会社を設立し、親会社に自社の株式を移転させます。これにより、親会社・子会社という支配関係を築くことができます。
主な特徴:
• 事業規模の拡大や業界再編などを目指す企業に適している
• M&A(子会社化)で採用されることは稀少
• グループ内再編の手法として利用されることがある
株式交換は、親会社となる買い手が売り手の株式をすべて保有する手法の一つです。株式譲渡との大きな違いは、金銭ではなく「買い手の株式」が対価になる点です。
重要ポイント:
• 他社を完全子会社とする場合にのみ用いられる
• 売り手株主は親会社の株主になる
事業譲渡は、売り手の株式を譲り渡す代わりに、売り手の事業の一部または全部を譲り受ける手法です。
特徴:
• 厳密には子会社化ではない
• 承継する対象は、売り手・買い手双方の話し合いによって決定される
• 対価は売り手へ支払われる
売り手にとっては、採算の合わない事業をピンポイントに手放すことができる点がメリットです。
M&Aによる子会社化には、売り手にとっていくつかのメリットがあります。ここでは、主要な3つのメリットについて詳しく解説します。
子会社化されることで、親会社の持つ様々な経営資源を活用できるようになります。具体的には以下のような利点があります。
ノウハウの共有:親会社の業界知識や経営ノウハウを学ぶことができます
技術の活用:親会社の保有する特許や技術を利用できる可能性があります
ブランド力の活用:親会社のブランド力を活かした事業展開が可能になります
これらの経営資源を活用することで、事業の拡大や経営の健全化を目指すことができます。
親会社という強力な後ろ盾ができることで、経営の安定性を高められます。
資金面でのサポート:一般的に親会社は子会社と比べて資金力が高いため、必要に応じて資金援助を受けられる可能性があります
経営危機時の支援:経営が悪化した際に、親会社からの支援を受けやすくなります
信用力の向上:親会社の信用力を背景に、取引先や金融機関からの信用が高まる可能性があります。
子会社化されることで、従業員の福利厚生が充実する可能性があります。
企業年金の共有:親会社と同じ企業年金に加入できる場合があります
施設の利用:親会社が保有する保養所などの施設を利用できる可能性があります
研修制度の共有:親会社の研修プログラムに参加できるようになる場合があります
これらの福利厚生の充実は、従業員のモチベーション向上や人材確保にもつながる可能性があります。
M&Aによる子会社化には多くのメリットがある一方で、売り手にとっていくつかのデメリットも存在します。ここでは、主要な2つのデメリットについて詳しく解説します。
子会社は、親会社に対する世間の評価の影響を受けやすい傾向があります。
不祥事の影響:親会社が不祥事を起こした場合、子会社のイメージも同時に悪化する可能性があります
業績の連動:親会社の業績悪化が、子会社の評価にも悪影響を及ぼす可能性があります
ブランドイメージの変化:親会社のブランドイメージの変化が、子会社にも波及する可能性があります
これらの影響を最小限に抑えるためには、親会社との適切な距離感を保ちつつ、自社の独自性を維持することが重要です。
子会社化されることで、これまで築き上げてきた自社のブランド力が失われるリスクがあります。
ブランド名の変更:親会社の意向により、長年使用してきたブランド名を変更せざるを得なくなる可能性があります
製品ラインナップの変更:グループ全体の戦略に合わせて、既存の製品ラインナップを変更する必要が生じる可能性があります
マーケティング戦略の変更:親会社のマーケティング方針に合わせることで、これまでの自社独自のマーケティング戦略を変更しなければならない可能性があります
これらのリスクを軽減するためには、子会社化の交渉段階で自社ブランドの継続使用について明確な合意を得ることや、親会社とのシナジー効果を最大化しつつ自社の強みを活かす戦略を立てることが重要です。
M&Aによる子会社化は、買い手(親会社となる側)にとっても多くのメリットがあります。ここでは、主要な2つのメリットについて詳しく解説します。
子会社化することで、事業ごとの責任の所在を明確にすることができます。
事業別の利益管理:各子会社が独立した事業体として機能するため、事業ごとの利益責任を明確に管理できます
意思決定の迅速化:子会社ごとに権限を委譲することで、各事業における意思決定を迅速に行うことが可能になります
パフォーマンス評価の容易化:子会社ごとの業績を個別に評価することができ、より精緻な経営管理が可能になります
これらのメリットにより、グループ全体の経営効率を高めることができます。
子会社化することで、親会社と子会社の間で戦略的に利益を移動させることが可能になります。
内部取引の活用:親会社から子会社への業務委託など、内部取引を通じて利益を移動させることができます
税務戦略の最適化:グループ全体での税務戦略を最適化し、節税効果を得られる可能性があります
損失対策:子会社に損失が生じている場合、親会社からの支援を通じて対応することができます
ただし、これらの利益移動は法令や税制に準拠して適切に行う必要があります。
M&Aによる子会社化には買い手(親会社となる側)にとっても注意すべき点があります。ここでは、主要な2つのデメリットについて詳しく解説します。
子会社を持つことで、親会社には新たな負担が生じる可能性があります。
会計処理の増加:子会社の分も含めた連結決算を行う必要があり、会計処理が複雑化します
管理コストの増加:子会社の業績評価や内部統制の整備など、管理業務が増加します
人事・経理部門の負担増:親会社の人事部や経理部には、子会社関連の業務が追加されます
これらの負担増加に対応するため、効率的なグループ経営体制の構築が求められます。
親会社には、子会社の業績に対する責任が生じます。
赤字対応:子会社が赤字に陥った場合、親会社による資金援助や経営改善支援が必要になる可能性があります
経営戦略の見直し:子会社の業績不振が続く場合、グループ全体の経営戦略を見直す必要が生じる可能性があります
株主への説明責任:子会社の業績が親会社の業績に影響を与える場合、株主に対する説明責任が生じます
これらのリスクを軽減するためには、子会社の経営状況を常に把握し、適切なガバナンス体制を構築することが重要です。
M&Aによる子会社化の具体的なイメージを掴むため、実際の事例を紹介します。
2022年に、クラウド型ビジネスチャットツール「Chatwork」を提供するChatwork株式会社が、株式会社ミナジンを子会社化しました。
背景:ミナジン社は、クラウド型の勤怠管理システムや人事評価システムなど、人事労務関連の事業を幅広く手がける会社です
目的:双方のサービスを連携させることで、働き方改革の推進やコンプライアンスの強化を目指しています
期待効果:Chatworkの顧客基盤を活用したミナジン社のサービス拡大や、両社のサービス統合による新たな価値創造が期待されています
ドラッグストアチェーンを運営するウエルシアホールディングスが、沖縄県で展開するふく薬局を子会社化しました。
背景:沖縄県の人口の継続増加や全国一の出生率に着目し、同県での事業拡大を目指しました
目的:経営規模を拡大することで、業界での競争力をさらに高めることを目指しています
期待効果:ウエルシアの経営ノウハウとふく薬局の地域密着型経営の融合による相乗効果が期待されています
これらの事例から、M&Aによる子会社化が、事業拡大や新たな価値創造のための有効な戦略となりうることがわかります。
M&Aによる子会社化には、法律や税務などの専門知識が求められます。そのため、専門家のサポートを受けることが非常に重要です。
法律面のサポート:M&Aに関連する法的手続や契約書の作成など、法務面でのアドバイスが必要です
税務面のサポート:子会社化に伴う税務上の影響や最適な税務戦略の立案など、税理士のサポートが重要です
財務面のサポート:企業価値評価や資金調達など、財務アドバイザーのサポートが必要となる場合があります
また、以下のような点についても専門家の助言が有用です。
子会社化の手法選択:株式譲渡、株式交換など、最適な手法の選択
交渉戦略:相手企業との交渉における戦略立案
デューデリジェンス:子会社化対象企業の詳細調査
M&A仲介会社や専門のコンサルティング会社を活用することで、これらの専門的なサポートを一括して受けられる可能性があります。
M&Aによる子会社化は、企業の成長戦略として重要な選択肢の一つです。親会社と子会社の定義を理解し、適切な手法を選択することが成功の鍵となります。売り手・買い手双方にメリットとデメリットがあるため、慎重に検討し、専門家のサポートを受けながら進めることが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事