株式譲渡の手続とは?6つの流れと必要書類・税金を解説
株式譲渡の手続は、条件合意、譲渡承認、契約・決済、株主名簿の名義書換へ進むのが基本です。非上場会社で必要となる承認請求書や議事録、株式譲渡契約書などの書類、株券の有無による違い、個人・法人の税金、低額・無償譲渡の注意点まで分かりやすく解説します。
目次

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)
株式譲渡の手続は細かく見ると複数ありますが、経営者の目線では「譲渡条件を合意する」「会社の承認を取る」「株主名簿を書き換える」の3つで考えると整理しやすくなります。
株式譲渡は、株主が保有する株式を買い手へ移し、株式を通じて会社の経営権を引き継ぐ方法です。会社そのものは存続するため、M&A(合併・買収)による会社売却や第三者承継で利用されやすい手法です。
ただし、契約書を作って代金を受け取れば終わり、というわけではありません。定款の内容、株券発行の有無、株主構成などによって必要な手続が変わります。
非上場の中小企業では、定款で「株式を譲渡するには会社の承認が必要」と定めているケースが多くあります。このような株式が譲渡制限株式です。
譲渡制限がある場合、株主と買い手だけで売買条件に合意しても、会社の承認手続を飛ばすことはできません。そのため、会社売却を検討し始めた段階で定款を確認しておくことが大切です。
なお、会社法上の「公開会社」は上場会社と同じ意味ではありません。発行する全部の株式に譲渡制限を設けている会社は公開会社ではなく、一部でも譲渡制限のない株式があれば公開会社に当たる場合があります。
非上場会社の株式譲渡では、契約そのものに加えて社内承認と名義書換が重要です。一般的な流れを6つに分けて確認します。
なお、実際のM&Aでは、株式譲渡契約を締結してから譲渡承認を取得し、その承認を決済の条件にすることもあります。すべての案件が同じ順番で進むわけではありません。
売り手と買い手の間で、対象となる株式数、譲渡価格、決済日、支払方法などを整理します。
第三者への会社売却では、価格だけではありません。従業員の雇用、役員の退任時期、取引先との関係、金融機関からの借入れや経営者の個人保証なども重要な条件になります。
「いくらで売るか」に目が向きやすいところですが、経営者が譲渡後にどのような立場になるのかまで確認しておく必要があります。
譲渡制限株式では、株主から会社へ株式譲渡の承認を請求できます。
承認請求では、譲渡する株式数や譲受人の氏名・名称などを明らかにします。不承認となった場合に会社または指定買取人による買取りを希望するのであれば、その旨も請求内容に含めます。
法定の記載事項として、予定する譲渡価格が必ず必要というわけではありません。
また、株式を取得した人から承認を請求する制度もありますが、原則として名簿上の株主等との共同請求が必要になる場合があります。実際の取引では、誰がどの時点で請求するのかを契約内容と合わせて整理します。
承認するかどうかを決める機関は、原則として取締役会設置会社なら取締役会、それ以外の会社なら株主総会です。ただし、定款で別の定めを置いている場合があります。
会社は決定した結果を請求者へ通知します。会社が承認請求の日から2週間以内に一定の通知をしなかった場合には、原則として譲渡を承認したものとみなされます。
短い期間です。社内決裁や会議の日程を後から調整しようとすると、手続が慌ただしくなることがあります。
譲渡を承認しない場合でも、承認請求の際に買取りを求めていれば、会社自身または会社が指定した人による買取手続へ進むことがあります。
売買価格は当事者間の協議で決めますが、合意できない場合には裁判所へ価格決定を申し立てる制度もあります。通常の第三者への会社売却とは流れが変わるため、不承認となる可能性があるときは早めの準備が必要です。
また、発行会社自身が株式を買い取る場合は税務上の扱いにも注意します。売り手が個人であれば、受け取った金額の一部が通常の株式譲渡益ではなく「みなし配当」として扱われることがあります。法人株主でも同様に区分が必要になるため、会社による買取りでは通常の第三者売却と同じ税計算をそのまま当てはめないことが重要です。
株式譲渡契約書(SPA)には、対象株式数、譲渡価格、支払方法、実行日などを定めます。
第三者M&Aでは、表明保証、補償、解除条件なども重要です。表明保証とは、決算書、税務、契約関係などについて、売り手が一定の事実が正しいと約束する条項です。
たとえば、譲渡後に知らされていなかった債務や税務上の問題が見つかった場合、どこまで売り手が責任を負うのか。契約書は、その線引きをする役割も持っています。
親族内承継などでは、譲渡承認を得てから契約を結ぶ進め方も分かりやすい方法です。
一方、第三者M&Aでは、株式譲渡契約を先に締結し、譲渡承認や必要書類の整備を決済の前提条件にすることがあります。
大切なのは順番を一律に決めることではありません。承認日、契約日、決済日の関係が契約書や議事録の内容と矛盾しないように設計することです。
契約条件が整ったら、買い手が譲渡代金を支払い、売り手は必要な書類などを引き渡します。これがクロージングです。
株券発行会社の場合は、原則として株券の交付も必要です。決済直前になって株券が見つからないと、予定日に譲渡を実行できないことがあります。
昔から続く会社では、経営者自身が「株券を発行した記憶がない」ということもあります。定款と実際の発行状況を早めに確認しておきます。
株式取得後は、原則として譲受人と名簿上の株主等が共同で、会社に株主名簿の書換を請求します。
株券不発行会社では、株主名簿に譲受人の氏名・名称や住所を記載・記録しなければ、株式の取得を会社や第三者に対抗できません。
つまり、代金を払って契約が終わっていても、名義書換を後回しにしないことが重要です。
名義書換後は、必要に応じて株主名簿記載事項を記載した書面などを会社へ請求できます。
株式譲渡そのものを理由として商業登記を行う必要はありません。ただし、代表取締役などの役員変更を同時に行えば、別途登記が必要になる場合があります。
「株式譲渡には何種類の書類が必要なのか」と考える経営者は少なくありません。
しかし、必要書類を一律に何種類と決めるのは適切ではありません。取締役会を設置しているか、譲渡制限があるか、株券発行会社かなどによって変わるためです。
一般的には、次のような書類を中心に準備します。
・株式譲渡契約書
・株式譲渡承認請求書
・株主総会議事録または取締役会議事録
・譲渡承認または不承認の通知書
・株主名簿名義書換請求書
・名義書換後の株主名簿
・必要に応じた株主名簿記載事項証明書等
・株券発行会社の場合は株券
すべての案件で全部が必要になるわけではありません。自社の定款や取引条件に合わせて判断します。
実務で意外と多いのが単純な記載ミスです。
株式譲渡契約書では100株なのに、承認請求書では90株になっている。現在の会社名と旧商号が混ざっている。決済日と議事録の日付が合わない。このような不一致は、手続を止める原因になります。
対象株式数、当事者名、承認日、契約日、決済日を一つのスケジュールで管理しておくと確認しやすくなります。
株券不発行会社の株主は、会社に対して株主名簿記載事項を記載した書面等の交付を請求できます。
名義書換が終われば、会社が必ず自動的に証明書を渡すという手続ではありません。金融機関への提出などで必要になる場合は、会社へ請求します。
なお、株主名簿記載事項を記載した書面等の交付請求に関するこの制度は、株券発行会社には適用されません。
古くから続く会社では、定款上は株券発行会社なのに、株券の所在が分からないことがあります。
ここは意外と多い落とし穴です。
株券発行会社では、原則として株券を交付しなければ株式譲渡の効力が生じません。一方、株券不発行会社では株券の受渡しはなく、株主名簿への名義書換が重要になります。
そのため、株式譲渡を計画するときは「当社は株券発行会社なのか」「実際に株券を発行しているのか」「誰が保管しているのか」を確認します。
株券が見つからないからといって、古いひな形を使って新しい株券を作ればよいとは限りません。
株券の発行状況や紛失時の対応は会社の状態によって異なります。定款、株主名簿、過去の株券発行記録などを確認し、必要に応じて司法書士や弁護士などへ相談します。
クロージング直前に発覚すると日程へ影響するため、早めに確認することが大切です。
株式の価格は「高く売れればよい」とは限りません。
第三者M&Aでは買い手との交渉価格が中心になりますが、親族や役員・従業員へ株式を譲る場合は、税務上の時価とのずれが問題になりやすくなります。
親族への承継では、無償や低額で株式を渡すと贈与税などを検討する必要があります。
役員や従業員への承継では、株価が高ければ買い手本人が資金を用意できないこともあります。
第三者M&Aでは、会社の収益力、純資産、将来性、取引上のリスクなどを踏まえて価格を交渉します。
同じ株式でも、誰にどのような目的で譲るかによって、適切な価格の考え方は変わります。
個人から別の個人へ、時価と比べて著しく低い価格で株式を譲った場合、時価と実際に支払った金額との差額が贈与とみなされることがあります。
特に親族間では注意が必要です。
ただし、「時価の何%以下なら必ず贈与になる」と単純に決まるものではありません。非上場株式は評価自体が難しいため、価格を決める前に税務上の評価を確認します。
「0円で渡せば売却益も0円になる」とは限りません。
個人から法人へ無償または著しく低い価格で株式を移す場合には、一定の条件の下で時価で譲渡したものとして所得税を計算することがあります。
法人から個人、法人から法人への移転でも、それぞれ異なる課税関係が生じる可能性があります。
無償譲渡や低額譲渡では、譲る側だけでなく受け取る側の税金も確認することが大切です。
会社売却を検討する経営者にとって、譲渡価格と同じくらい重要なのが最終的な手取り額です。
株式を売ったときの税金は、売り手が個人か法人かによって計算方法が変わります。
個人株主は一般株式等の譲渡益に20.315%が基本
個人が非上場株式を第三者へ売却した場合、原則として譲渡益に20.315%の税率がかかります。
譲渡益は、一般に「譲渡価額-取得費-譲渡に直接要した費用」で計算します。
税率20.315%の内訳は、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%です。
たとえば譲渡益が1,000万円であれば、単純計算では税額は203万1,500円です。
ただし、取得費や譲渡費用に何を含められるかで譲渡益は変わります。株式を取得したときの資料や譲渡に伴う費用の領収書などは保管しておきます。
譲渡不承認などをきっかけに発行会社自身が株式を買い取る場合、個人株主が受け取る金額の一部が「みなし配当」として扱われることがあります。
その場合、受取額のすべてに20.315%を掛ければよいわけではありません。みなし配当となる部分と株式譲渡として扱われる部分を分けて計算します。
通常の第三者への会社売却とは税務処理が変わるため、会社による買取りが予定される場合は事前に確認しておくと安心です。
非上場株式を売却して損失が出ても、給与所得や事業所得などから自由に差し引けるわけではありません。
一般株式等の譲渡損失は、原則として同じ一般株式等の譲渡益とは通算できますが、他の所得との損益通算には制限があります。
また、上場株式等の譲渡損失に設けられている繰越控除と同じ制度を、非上場株式にもそのまま使えるわけではありません。
損失が出た場合も自己判断せず、申告方法を確認します。
法人が株式を譲渡した場合、譲渡益は原則として会社全体の所得計算に含まれます。
個人のように「株式譲渡益だけ20.315%」という仕組みではありません。他の事業から生じた利益や損失などと合わせて法人税等を計算します。
実際の税負担率は、会社の規模、所在地、所得金額などによって変わります。結果として30%前後から30%台になるケースもありますが、一律の税率として考えるのは避けた方がよいでしょう。
また、法人株主でも発行会社自身に株式を売却する場合には、みなし配当と株式譲渡損益を分けて扱うことがあります。
個人株主は、原則として株式を譲渡した年分について翌年に確定申告を行います。所得税の確定申告期限は通常3月15日ですが、休日等によって変わる年があります。
法人は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に法人税等を申告・納付します。
会社を売却して大きな金額が入金されると、その全額が自由に使えるお金のように感じるかもしれません。しかし、後から納税が発生します。
譲渡価格だけでなく、取得費、譲渡費用、税金まで試算し、最終的な手取り額を確認してから資金計画を立てることが大切です。
株式譲渡は、難しい契約条項よりも前提となる確認漏れで止まることがあります。
M&A実務では、ここで判断が止まることも珍しくありません。
定款では譲渡制限の有無と承認機関を確認します。
株主名簿では、現在の株主、住所、保有株数などを確認します。過去の相続や贈与が株主名簿に正しく反映されていない場合は、株式譲渡の前に整理が必要になることがあります。
株主総会や取締役会の開催日、株式譲渡契約の締結日、代金を支払う決済日を整理します。
第三者M&Aでは、契約締結後に譲渡承認を取ることもあります。その場合は、承認取得を決済の条件として契約内容に反映するなど、書類全体を整合させます。
実際には行っていない手続を、後から過去の日付で整えようとすることは避けます。
株券発行会社では、株券の交付が株式譲渡の効力に関わります。
クロージング当日に初めて探すのでは遅いことがあります。定款を確認するときに、株券の発行状況と保管場所まで一緒に調べます。
親族や従業員への承継では、税務上の株価だけでなく、買い手本人がその金額を用意できるかも重要です。
第三者M&Aでは、希望価格だけを基準にするのではなく、税金や譲渡に伴う費用を差し引いた手取り額で判断します。
会社を誰に引き継ぐかによって、価格、税務、資金調達の組み合わせは変わります。譲渡方法を決めてから税金を確認するのではなく、検討段階から一緒に整理する方が手戻りを防げます。
株式譲渡の手続は、条件合意、譲渡承認、契約・決済、株主名簿の名義書換を一つの流れとして管理することが重要です。特に非上場会社では、定款の譲渡制限、承認機関、株券の有無によって必要な書類や進め方が変わります。さらに、親族・従業員・第三者の誰へ譲るかで税務上の注意点も異なるため、価格と最終的な手取り額まで確認してから実行日程を固めることが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人