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株式譲渡手続の手順と必要書類を網羅し税務対策ポイントまで解説

株式譲渡の手続とは何でしょうか?答えは、承認取得から株主名簿の書換まで七つの段階を踏めば円滑に所有権を移せる、ということです。

目次

  1. 株式譲渡は会社の所有権を株式で丸ごと渡す方法
  2. 株式譲渡手続の全体像は承認確認から名義書換まで七段階
  3. 譲渡制限株式では承認拒否時に会社が買取るルートがある
  4. 株式を無償譲渡する場合は贈与扱いになり税務に注意
  5. 譲渡制限株式と公開会社株式の違いを理解してトラブルを回避
  6. 株式譲渡契約書に必ず盛り込むべき九つの重要条項
  7. 譲渡価格は第三者評価を活用し双方が納得できる水準に設定
  8. 株券発行会社では株券の交付が対抗要件になる
  9. 株式譲渡に潜む税務リスクは早期の専門家相談で最小化
  10. 株式譲渡に必要な書類は基本六種類と譲渡制限対応四種類
  11. 書類作成時の三つの実務ポイントでミスを防ぐ
  12. 株式譲渡手続の注意点は制限確認と価格決定に尽きる
  13. 株式譲渡益の税率と計算方法を具体例で確認
  14. 確定申告は必要書類をそろえ期限内に電子申告するとスムーズ
  15. 無償譲渡の税務はみなし譲渡所得と受贈益課税を二重に確認
  16. みつき税理士法人グループに無料相談し手続と税務を一括解決

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)

株式譲渡は会社の所有権を株式で丸ごと渡す方法

株式譲渡は、現在の株主が保有する株式を他者に譲り渡し、その株式を通じて経営権を引き継ぐM&A手法です。手続が比較的簡単で会社組織をそのまま維持できるため、中小企業の事業承継やM&Aで特に利用されています。譲渡側と譲受側、どちらにもメリットがある一方、譲渡制限や税務などの法的・実務的リスクを見落とすと大きなトラブルにつながります。まずは全体像を確認しましょう。

株式譲渡の特徴は手続が比較的簡単で経営を引き継ぎやすい

株式譲渡は合併や会社分割と異なり、資産や負債を個別に移転する必要がありません。譲渡代金を支払い株主名簿を変更するだけで所有権が移るため、取引先や従業員に与える影響も限定的です。中小企業にとって時間とコストを抑えながらスピーディーに承継できるのが大きな利点です。

株式譲渡手続の全体像は承認確認から名義書換まで七段階

株式譲渡の流れは大きく七つに分かります。①譲渡制限の有無確認、②譲渡承認請求、③取締役会・株主総会での承認、④承認結果の通知、⑤株式譲渡契約締結、⑥譲渡代金決済、⑦株主名簿の書換請求と証明書交付です。それぞれの段階で必要書類と期限が定められており、漏れがあると手続が無効になったり納税義務が発生したりするので注意が必要です。

譲渡制限の有無を定款と株主名簿で必ず確認する

最初に行うのは、譲渡対象株式に譲渡制限が付いているかどうかの確認です。非上場の中小企業では多くの場合、定款に「株式を譲渡するには会社の承認が必要」と定められています。株券を発行している会社では株券の記載も要チェックです。譲渡制限がない場合は次の承認請求を省略できます。

譲渡制限株式なら会社に承認請求書を提出する

譲渡制限があるときは、譲渡人と譲受人が共同で「株式譲渡承認請求書」を作成し、会社に提出します。請求書には譲渡株式数、譲受人の氏名または名称、予定価格を明示します。これがなければ譲渡手続は先に進めません。

取締役会や株主総会で承認可否を決定する

請求を受けた会社は、原則として取締役会、取締役会を置かない会社では株主総会で承認の可否を審議します。議案は「株式譲渡の承認」に関するもので、承認されれば次のステップへ、不承認の場合は会社が自ら買い取るか指定買取人を立てて対応します。

承認結果を株主へ書面で通知し期限を守る

承認または不承認の決定は、承認請求の日から二週間以内に書面で通知する必要があります。定款で短縮できるものの、通知漏れや遅延は後続の契約締結に影響し、トラブルの火種になります。

株式譲渡契約書を結び譲渡条件を明確にする

承認が得られたら、譲渡人と譲受人は株式譲渡契約書を締結します。契約書には譲渡日、価格、株式数に加え、表明保証や競業避止義務を盛り込み、後の紛争を防ぎます。価格の決め方に納得できない場合は、第三者評価を利用するのも有効です。

譲渡代金を決済しクロージングを完了させる

契約締結後、譲受人は原則として一括で代金を支払い、譲渡人は株券発行会社であれば株券を交付します。前提条件付き決済を採用する場合は、条件達成まで代金を留保することもあります。

株主名簿の書換請求を行い証明書を受け取る

最後に、両当事者が連名で会社に株主名簿の書換を請求します。書換が完了すると「株主名簿記載事項証明書」が交付され、譲受人が正式な株主であることを証明されます。ここまで完了して初めて手続が終了します。

譲渡制限株式では承認拒否時に会社が買取るルートがある

会社が譲渡を承認しない場合、会社自身または指定買取人が当該株式を買い取る制度があります。これは、経営権の予期せぬ流出を防ぐと同時に、譲渡制限株式でも株主が株式を現金化できる道を確保するためです。買取決定の通知や売買代金の供託など、各手続には会社法で定められた期間があるため、実務ではカレンダー管理が欠かせません。

会社が不承認なら指定買取人を決め通知し供託を行う

不承認決議がなされたら、会社は買取人を取締役会で選定し、請求者に通知します。通知後、会社または買取人は株券発行会社であれば株券を供託し、売買代金も法務局に供託します。これにより株式は会社側に移るため、請求者は供託金を受け取って譲渡益の計算を行います。

売買価格は協議で決め期限内に決済する必要がある

価格が折り合わない場合は協議となり、合意できなければ裁判所の決定に委ねられます。協議や決定には法定期間があるため、専門家を交えて早めに進めることが重要です。

株式を無償譲渡する場合は贈与扱いになり税務に注意

株式譲渡は通常有償ですが、親族承継や従業員持株制度などでは無償譲渡が行われることがあります。無償譲渡は民法上「贈与」に当たり、譲渡人にはみなし譲渡益課税、譲受人には受贈益課税が生じる可能性があるため、適正な株価評価が欠かせません。

親族承継や従業員持株で用いられ手続自体は同じ

手続の流れは有償譲渡と変わりませんが、契約書から価格条項がなくなり、贈与の意思表示を明示します。譲渡制限株式であれば承認手続も同様に必要です。

無償譲渡は契約書に贈与の意思を明記し適正株価を証明

税務署は「実質的には有償ではないか」と判断することがあるため、相続税評価や公認会計士による株価算定書を添付し、贈与であることと適正価額を示す資料を準備しておくと安心です。

譲渡制限株式と公開会社株式の違いを理解してトラブルを回避

株式の譲渡自由の原則に対し、定款で譲渡制限を付した株式は会社の承認がない限り第三者に移転できません。全ての株式に制限がある会社は「譲渡制限株式会社(非公開会社)」と呼ばれ、信頼できる株主だけに所有関係を絞り込めるため、中小企業で広く採用されています。一方、制限のない株式を含む会社は「公開会社」といい、必ずしも上場会社を意味しない点に注意が必要です。譲渡制限の有無で手続や所要期間が大きく変わるため、早い段階で区分を確認しましょう。

非公開会社では株主間の信頼維持がメリットになる

非公開会社は、株主が家族や少人数の幹部に限定されることで迅速な意思決定ができ、外部からの敵対的買収を防ぎます。ただし、株式を現金化しにくいというデメリットもあるため、譲渡手続の柔軟性を高める社内規程の整備が求められます。

株式譲渡契約書に必ず盛り込むべき九つの重要条項

契約書は後日の紛争を防ぐ盾です。①基本合意、②譲渡代金の支払方法・期日、③譲渡承認手続、④株主名簿の名義書換え、⑤表明保証、⑥契約解除、⑦損害賠償、⑧競業避止義務、⑨合意管轄の九項目を押さえましょう。特に表明保証は簿外債務など未知のリスクを洗い出す役割があり、譲渡後にトラブルが発覚した場合の責任範囲を限定できます。

表明保証違反が発覚したときは損害賠償条項が機能する

譲受側が経営権を取得した後、財務諸表に重大な誤りが見つかった場合などは表明保証違反として損害賠償請求の対象になります。契約段階で請求可能期間や賠償上限額を定め、経営の見通しを立てられる設計にしておくと安心です。

譲渡価格は第三者評価を活用し双方が納得できる水準に設定

譲渡代金は譲渡側と譲受側の交渉で決まりますが、価値観や将来見通しの違いでまとまりにくいケースが少なくありません。DCF法や類似会社比準法など複数の手法で算定した株価を参考に、専門家が評価書を作成すると、客観性の高い価格で合意しやすくなります。

条件付き価格やアーンアウト条項で将来リスクを調整

業績が大きく変動する業界では、譲受後の実績に応じて追加代金を支払うアーンアウト方式を採用し、リスクとリターンをバランスさせることも可能です。こうした柔軟な価格設定は、中小企業のM&Aで特に有効です。

株券発行会社では株券の交付が対抗要件になる

株券発行会社の株式を譲渡するとき、株券の引渡しが第三者への対抗要件となります。未交付株券がある場合は再発行が必要で、紛失時は公告・供託手続を経るため時間と費用がかかります。株券不発行会社なら株券自体がないので、株主名簿の書換えだけで足ります。

株券の再発行手続は計画に余裕を持って進める

再発行には公告期間と喪失登録が必要なため、少なくとも二カ月程度みておきましょう。クロージング日を逆算し、株券準備をスケジュールに組み込むことが大切です。

株式譲渡に潜む税務リスクは早期の専門家相談で最小化

株式譲渡益は個人・法人いずれも課税対象です。法人なら実効税率約30〜35%、個人なら20.315%の申告分離課税が課されます。非上場株式の大口株主には特例が適用される可能性がある一方、譲渡損失が発生しても他の所得と通算できません。また、無償譲渡の場合はみなし譲渡所得や受贈益が問題になります。

確定申告や税効果会計を見据え早めに準備する

個人は翌年二月十六日から三月十五日までに確定申告が必要です。法人は事業年度末で課税されるため、譲渡時期によってキャッシュフローが大きく変わります。株価評価費用や仲介手数料も譲渡経費に含められるため、領収書を保管し、税理士と相談して最適な納税計画を立てましょう。

株式譲渡に必要な書類は基本六種類と譲渡制限対応四種類

株式譲渡を滞りなく進めるには、あらかじめ書類を一式そろえておくことが重要です。基本となる六種類の書類は、株式譲渡契約書、株式名義書換請求書、株主名簿、株主名簿記載事項証明書交付請求書、株主名簿記載事項証明書、取締役の決定書です。ここでは目的と主な記載事項を整理し、作成手順の要点を確認しましょう。

株式譲渡契約書は譲渡条件を網羅し双方が保管する

目的は譲渡株式の数や価格、譲渡日を明示し合意内容を証拠化することです。必ず署名押印し、製本済み原本を双方が一通ずつ保管します。

株式譲渡契約書の条項ごとにチェックリストを作成すると便利

条番号を振った条文ごとに項目をチェックする表を用意しておくと、表明保証や解除条件の抜け漏れを防げます。チェック表はエクセル等で共有し、修正履歴を残すことで社内承認フローの短縮につながります。

株式名義書換請求書で会社に名義変更を正式依頼する

譲渡人・譲受人双方の氏名または名称、譲渡株式の種類・数、請求日を記載します。会社が電子化していない場合は紙で提出し、控えを受領しましょう。

株主名簿は最新情報を記録する会社備付の基本台帳

名義書換後ただちに更新することで株主推定効が発生します。住所変更や株数変化を見落とすと配当通知が届かなくなるため要注意です。

株主名簿記載事項証明書交付請求書で証明書の発行を申請

請求者情報と必要範囲を明らかにし、会社へ提出します。電子申請がない場合は代表者印の押印が必要となることが多いです。

株主名簿記載事項証明書は名義書換完了の公式エビデンス

取得後はファイリングし、金融機関との取引や行政手続で提出を求められた際に備えて保管します。

取締役の決定書は譲渡承認や役員変更を議事録形式で残す

取締役会議事録に代えて作成されるケースもあり、決議事項、決議日、出席取締役の署名押印が求められます。役員変更を伴わなければ省略可能です。

譲渡制限株式の承認には追加四書類で法定手続を補完

譲渡制限株式では、株式譲渡承認請求書、株主総会または取締役会招集通知、株主総会議事録または取締役会議事録、株式譲渡承認(不承認)通知書の四種類が加わります。手続の流れに合わせて作成時期を間違えないようにしましょう。

株式譲渡承認請求書は譲渡人と譲受人が連名で提出

株式数、譲受人情報、予定価格を必ず記載します。譲受人単独請求は例外的要件を満たす場合のみ認められます。

招集通知は開催日時・議題を明記し期限内に発送

議題は「株式譲渡承認の件」とし、法定の招集期間を守ることが無効トラブル回避の第一歩です。

議事録は出席者数と議決権数を正確に記録する

承認決議が取締役会か株主総会かに応じて様式を変え、議長と作成者の署名押印を忘れないようにします。

議事録作成時は決議要件と出席者比率を必ず確認

特に株主総会で特別決議が必要な場合、議決権の3分の2以上が賛成するかなど要件を満たさないと無効となります。開催前に議決権数を集計し、委任状を含めたシミュレーションを行っておくと安心です。

承認(不承認)通知書は決定を文書で確定させる

不承認時は理由を明示し、会社または指定買取人が買い取る旨を合わせて通知します。二週間の通知期限を超えないよう管理表でチェックすると安全です。

書類作成時の三つの実務ポイントでミスを防ぐ

第一に、日付と社名表記を統一し誤記をなくすこと。第二に、株式数の単位(株と口)を誤変換しないこと。第三に、押印に使用する印鑑を事前に合意し、代表印・認印の混在を避けることです。これらを徹底すれば、書類差し戻しによるスケジュール遅延を防げます。

確定申告前に譲渡経費を一覧表にまとめ漏れを防ぐ

仲介手数料や評価書費用は領収書をまとめて保管し、申告ソフトに入力する前に一覧表でダブルチェックします。経費計上漏れは税負担増につながるため、作業担当者と税理士でレビューする体制を整えましょう。

株式譲渡手続の注意点は制限確認と価格決定に尽きる

非上場会社の多くは譲渡制限を設けており、承認プロセスが手続のボトルネックになりがちです。また、譲渡価格の決定は価値評価の差異で紛糾しやすく、交渉コストが膨らむ原因となります。

譲渡制限を見落とすと承認拒否で日程が大幅に延びる

定款と株主名簿の初期チェックで制限有無を確定し、承認請求に必要な株主総会・取締役会の日程を早めに押さえましょう。

価格は第三者評価と条件付き価格の併用で合意形成を促す

価値算定とアーンアウト条項を組み合わせることで、将来リスクを折り込んだ公平な価格設定が可能になります。

株券発行会社は交付と再発行に要する期間を逆算する

株券再発行に二カ月程度、公告や供託にさらに日数がかかるため、クロージングまでのカウントダウンを常に意識することが重要です。

譲渡益課税のキャッシュフローを考慮した決済日設定が必要

法人は期末によって実効税率が変動し、個人は確定申告時期に納税資金が必要となるため、決済日を調整して資金繰りを最適化します。

株式譲渡益の税率と計算方法を具体例で確認

税率は法人と個人で異なり、個人は20.315%、法人はおおむね30〜35%です。ここでは原文の数値を用いてシミュレーションします。

法人が譲渡益1,000万円を得た場合の税額

実効税率を30%とすると、納税額は1,000万円×30%で300万円です。地方税率は地域によって変動しますが、目安として35%まで上昇すると、税額は350万円になります。

個人が譲渡益1,000万円を得た場合の税額

税額は1,000万円×20.315%で203万1,500円となります。復興特別所得税は所得税額の2.1%で自動計算されるため、計算式の抜け漏れに注意しましょう。

譲渡損失の繰越控除と確定申告のポイント

譲渡損失が生じた場合も確定申告が必要で、損失を最長三年間繰り越すことで将来の譲渡益と相殺できます。損失計上には取引記録や評価書など証憑類の保管が必須です。

確定申告は必要書類をそろえ期限内に電子申告するとスムーズ

個人の申告期間は譲渡翌年の2月16日から3月15日で、電子申告e-Taxを利用すると添付書類の省略が認められる場合があります。法人は事業年度終了日から二月以内に法人税等を申告納付します。

添付が必要な主な書類一覧を事前にチェック

株式譲渡契約書写し、取得価額を証明する購入契約書や払込証明書、仲介手数料領収書、株価評価書などです。

無償譲渡の税務はみなし譲渡所得と受贈益課税を二重に確認

無償譲渡では譲渡人にみなし譲渡益課税が生じ、譲受人には受贈益課税が課される可能性があります。評価額が適正でないと重加算税リスクがあるため、税理士のサポートを受け株価算定書を作成するのが安全策です。

親族間承継では相続時精算課税制度との比較検討が有効

一定条件を満たせば相続時精算課税制度を使い2,500万円までの非課税枠を利用できます。選択肢を整理し最適な税負担を計画しましょう。

みつき税理士法人グループに無料相談し手続と税務を一括解決

株式譲渡は法務・税務・経営の知識が交差する複雑な手続です。当グループは累計500件以上の支援実績を生かし、譲渡スキーム設計から株価評価、契約書作成、税務申告までワンストップで対応します。初回相談は無料ですので、譲渡を検討中の経営者の方はお気軽にお問い合わせください。

電子契約ツール活用で印紙税と郵送時間を削減

近年は電子契約が普及し、印紙税非課税や即日締結が可能です。ただし、株券交付など紙ベースの手続との整合を確認する必要があります。

まとめ

株式譲渡は七段階の手続と十種類の書類をそろえれば円滑に進められます。譲渡制限の有無確認と価格決定が最大の関門ですが、専門家の助言でリスクを抑えながら進めることが可能です。税務と承認プロセスを早期に整理し、安心して事業を次世代へつなげましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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