資産管理会社M&Aの使いどころを、不動産M&A、持株会社売却、清算回避の3場面から解説します。株式譲渡による手取り額、税金、買い手目線、事業承継税制、設立・維持コストまで整理し、会社売却や第三者承継を検討する際に確認すべき判断材料を分かりやすく示します。

目次
▶目次ページ:親族内承継(持株会社・ホールディングス)
資産管理会社M&Aは、「節税になるらしい」という理由だけで進めると失敗しやすい手法です。大切なのは、何を売りたいのか、誰に資産を残したいのか、会社を残す必要があるのかを先に決めることです。
資産管理会社とは、不動産、株式、現金、投資資産などを法人で保有・管理する会社です。M&A(合併・買収)では、その資産そのものを売るのではなく、資産を保有している会社の株式を譲渡する形で使われることがあります。物件売買や事業売却に見えても、実務上は「株式を売る取引」になる点が重要です。
資産管理会社M&Aの使いどころは、大きく3つです。1つ目は、不動産を保有する法人を株式譲渡で売却する不動産M&Aです。2つ目は、事業会社の株式を持つ持株会社を売却対象にする方法です。3つ目は、役目を終えた会社を清算せず、第三者に売却する出口戦略としての活用です。
どれも「法人を使う」という点では似ています。ただし、税金、買い手の見方、契約で確認するポイントは大きく違います。ここを混同すると、手取り額の試算だけが先行し、買い手が見つからないということもあります。
不動産M&Aでは、ビル、賃貸マンション、商業用不動産などを保有する法人の株式を譲渡します。不動産そのものを売買するのではなく、不動産を持っている会社の株主が変わる形です。
経営者側から見ると、不動産の個別売却よりも税務上の比較検討がしやすく、相続前の資産整理にも使えることがあります。買い手側から見ると、物件だけでなく賃貸借契約、管理体制、金融機関との関係をまとめて引き継げる可能性があります。
持株会社が事業会社の株式を保有している場合、M&Aで「事業会社の株式を売る」のか、「持株会社の株式を売る」のかにより、税負担と手取り額が変わります。
たとえば、持株会社が子会社株式を売却すると、売却益はまず法人の利益になります。その後、オーナー個人が資金を受け取るには、配当や役員報酬などの形を取るため、追加の課税が問題になります。一方、オーナー個人が持株会社株式を譲渡する場合は、一般に株式譲渡所得として約20%の分離課税で完結する可能性があります。
相続対策や資産保有のために作った会社でも、時間がたつと役目を終えることがあります。このとき、安易に清算を選ぶ前に、第三者へ売却できないかを検討する価値があります。
会社を清算して残余財産を株主に分配すると、税務上は配当と似た扱いになり、個人側で総合課税が問題になることがあります。反対に、会社株式を譲渡できれば、株式譲渡として課税関係を整理できる可能性があります。ただし、債務、税務リスク、管理が不十分な不動産がある会社は、買い手が慎重になります。売却できる会社かどうかの見極めが先です。
不動産を持つ会社をM&Aで売る場合、売り手が見るべきものは税率だけではありません。買い手は、物件の収益力だけでなく、会社の中に残っているリスクも買うことになります。
不動産M&Aでは、会社の株式を譲渡します。そのため、通常の物件売買のように不動産の所有者名義を変更する取引とは異なります。結果として、不動産売買で生じる登記手続、登録免許税、不動産取得税などの負担を抑えられることがあります。
売り手にとっては、複数の物件を個別に売るよりも、会社ごとまとめて譲渡できる点が魅力です。賃貸管理契約、入居者との関係、修繕履歴、金融機関との借入契約などを一体で説明できれば、買い手も判断しやすくなります。
資産管理会社の株主が個人である場合、株式譲渡益には一般に申告分離課税が適用されます。所得税、復興特別所得税、住民税を合わせた実務上の税率は20.315%です。高額所得者の総合課税と比べると、手取り額を予測しやすい点があります。
ただし、すべてのケースで有利になるとは限りません。会社の中に含み益の大きい不動産がある場合、買い手は将来その不動産を売る際の税負担を見込み、株価を下げて評価することがあります。売り手の税金が下がっても、売却価格が大きく下がれば、手取りの優位性は薄れます。
買い手は、会社の株式を買う以上、会社の債務や過去の税務処理も引き継ぐことになります。修繕義務、賃料滞納、敷金返還債務、借入金、税務調査リスクなどは、価格交渉で必ず確認される項目です。
意外と多い落とし穴です。売り手は「良い物件を持っている会社」と考えていても、買い手は「過去の管理体制が見えにくい会社」と見ます。資料が整理されていないだけで、買い手候補の検討が止まることもあります。
不動産は分けにくい資産です。複数の相続人がいる場合、共有になると管理、売却、修繕の意思決定で揉めやすくなります。資産管理会社の株式を売却し現金化できれば、相続人間で分けやすくなる場合があります。
ただし、相続税対策として設計した資産管理会社を売却すると、当初予定していた承継方針が変わります。相続、贈与、納税資金、家族間の合意を同時に確認しておくべきです。
事業会社を売るつもりで相談したところ、実は持株会社の株式を売った方が手取りが残る可能性がある。M&A実務では、こうした検討が必要になることがあります。
持株会社が事業会社株式を保有している場合、その事業会社株式を持株会社が売却すると、譲渡益は持株会社の利益になります。法人税等を納めた後の資金は、まだ会社の中に残ります。
オーナー個人がその資金を使うには、配当や役員報酬などで会社から外へ出す必要があります。その段階で個人課税が生じるため、法人課税と個人課税が重なり、最終的な手取りが小さくなることがあります。これが、資産管理会社を使ったM&Aで最初に確認すべき論点です。
持株会社が事業会社株式を保有している場合、その事業会社株式を持株会社が売却すると、譲渡益は持株会社の利益になります。法人税等を納めた後の資金は、まだ会社の中に残ります。
オーナー個人がその資金を使うには、配当や役員報酬などで会社から外へ出す必要があります。その段階で個人課税が生じるため、法人課税と個人課税が重なり、最終的な手取りが小さくなることがあります。これが、資産管理会社を使ったM&Aで最初に確認すべき論点です。
オーナー個人が持株会社株式を第三者に譲渡する場合、売却益はオーナー個人の株式譲渡所得になります。一般に約20%の分離課税で計算されるため、法人内で一度課税された資金をさらに個人へ移す形よりも、手取りが残りやすいことがあります。
短く言えば、何を売るかです。事業会社を売るのか、事業会社を持っている親会社を売るのか。この違いをM&Aの初期段階で検討しないと、基本合意後にスキーム変更が難しくなることがあります。
持株会社の中に現預金や投資資産が多く残っている場合、それを売却前にどう扱うかが問題になります。子会社から親会社への配当は、一定の要件を満たすと受取配当金の益金不算入制度により、法人税の負担を抑えられることがあります。
ただし、単に「無税で資金移転できる」と考えるのは危険です。保有割合、保有期間、配当の原資、グループ内の資本関係により扱いが変わります。売却価格、税金、買い手が望む資産構成を並べて検討する必要があります。
売り手にとっては持株会社株式の譲渡が有利でも、買い手がその形を受け入れるとは限りません。持株会社の中に事業と関係のない不動産、有価証券、貸付金、家族向けの取引があると、買い手は不要な資産やリスクまで引き継ぐことになります。
この場合、会社分割、配当、資産売却、役員貸付金の整理などを先に行い、買い手が取得したい範囲へ近づけることがあります。税務上は有利でも、買い手が買いたくない形ではM&Aは成立しません。
資産管理会社は、設立した時点では節税や相続対策に役立っても、将来ずっと必要とは限りません。子どもが不動産管理を望まない、投資資産を整理したい、法人維持の手間が重い。こういうケースは珍しくありません。
会社を清算すると、残った財産を株主に分配します。この分配は、税務上、みなし配当として扱われる部分が生じることがあります。個人株主の場合、配当所得として総合課税の対象になり、高額所得者では所得税、住民税を含めた負担が重くなる場合があります。
そのため、役目を終えた資産管理会社でも、清算だけが唯一の選択肢ではありません。第三者に株式を売却できれば、株式譲渡として税負担を整理できる可能性があります。
買い手は、会社を買う以上、保有資産だけでなく管理コストやリスクも見ます。そのため、純資産に近い金額で必ず売れるとは限りません。むしろ、買い手が引き受ける手間を考慮し、一定の値引きを求められることがあります。
それでも、清算した場合の税負担や手続費用と比べると、M&Aで売却した方が手取りが残るケースがあります。重要なのは、清算後の手取りと株式譲渡後の手取りを同じ前提で比べることです。額面の売却価格だけでは判断できません。
清算回避型のM&Aでは、買い手がその会社を買う理由が必要です。不動産の立地、賃貸収入、繰越欠損金、許認可、取引先、金融機関との関係などが候補になります。
ただし、繰越欠損金は法人税の欠損金の繰越控除として最長10年使える制度がある一方で、M&A後の利用には制限が問題になることがあります。欠損金だけを目的に会社を買う取引は、税務上の確認が欠かせません。
資産管理会社M&Aは、手取り額を増やす可能性がある一方で、実務上の制約も多い手法です。節税メリットを強調しすぎると、あとで買い手、家族、金融機関との調整が難しくなります。
資産管理会社の資金は、オーナー個人のお金ではなく会社のお金です。生活費、家族への支払い、個人的な投資に自由に使うことはできません。個人へ移す場合は、役員報酬、給与、配当、貸付金の返済など、税務上説明できる形を取る必要があります。
この感覚の違いは大きいです。個人で不動産を持っていた時は自由に使えた収入でも、法人化後は会社の会計処理と税務申告を通さなければなりません。
資産管理会社を設立すると、登録免許税、定款作成、司法書士報酬、税理士報酬、会計ソフト、決算申告などの費用がかかります。法人住民税の均等割は、赤字でも原則として発生します。
節税効果が年間で数万円から数十万円しかない場合、法人の維持コストで効果が消えることがあります。M&Aを前提に作る会社であれば、設立前から出口まで含めて試算すべきです。
事業承継税制は、中小企業の後継者への株式承継を支援する制度ですが、資産管理会社では慎重な確認が必要です。資産保有型会社や資産運用型会社に該当すると、制度の適用が制限される場合があります。
親族内承継を考えていた会社を、途中からM&Aに切り替える場合も注意が必要です。過去に贈与、相続、株式移転を行っていると、譲渡前に確認すべき税務論点が増えます。
資産管理会社M&Aでは、株価評価、不動産評価、含み益、借入金、役員貸付金、配当、清算課税、消費税、登録免許税、不動産取得税などが関係します。1つの税目だけで判断できません。
また、買い手はデューデリジェンスで、過去の決算書、税務申告書、賃貸借契約、金融機関との契約、株主構成を確認します。資料の不備は価格の減額要因になりやすいです。M&A実務では、ここで判断が止まることがあります。
資産管理会社M&Aは、準備が早いほど選択肢が増えます。売却直前に税務スキームを考え始めても、株主構成や資産移転の履歴を変えられないことがあるためです。
最初に決めるべきことは、節税、会社売却、相続対策、清算回避、後継者問題のどれが主目的なのかです。目的が曖昧なまま専門家に相談すると、税務、相続、不動産、M&Aの話が混ざり、結論が出にくくなります。
相談先は、税理士、会計士、司法書士、不動産の専門家、M&A支援会社などです。資産管理会社を売却する場合は、税務とM&Aの両方を理解している専門家に早めに相談する方が安全です。
次に、会社が保有する資産の時価を確認します。不動産であれば、収益還元、路線価、固定資産税評価額、近隣取引事例など複数の視点が必要です。株式や投資資産であれば、時価、取得価額、含み益、流動性を見ます。
同時に、借入金、未払税金、敷金、保証債務、役員貸付金、役員借入金も整理します。見た目の純資産が大きくても、買い手が引き継ぎたくない負債や関係者取引があると、譲渡価格は下がります。
株主がオーナー1人なら話は比較的進めやすいですが、家族、親族、従業員、過去の共同出資者が株式を持っている場合は注意が必要です。少数株主がいると、株式譲渡の同意、売却価格、代金配分で調整が必要になります。
会社の定款に譲渡制限がある場合、取締役会や株主総会の承認も確認します。M&Aでは、税金よりも先に株式を本当に売れる状態かを見ます。
不動産を保有する資産管理会社では、借入金が残っていることが多くあります。株式譲渡後も借入先が同じとは限らず、金融機関の承諾や条件変更が必要になることがあります。
オーナーが個人保証をしている場合は、M&A後に保証を外せるかも重要です。買い手が借入を引き継ぐ場合でも、保証解除の手続を契約条件に入れておかないと、売却後も保証だけが残るおそれがあります。
資産管理会社M&Aの手法は、株式譲渡だけではありません。事業会社株式の譲渡、資産譲渡、会社分割、配当、自己株式取得、清算などを比較し、自社に合う方法を選びます。
税率が低い方法が、必ず最適とは限りません。買い手が買いやすい形、金融機関が承諾しやすい形、家族が納得しやすい形、税務調査で説明しやすい形を合わせて考える必要があります。
最終的に株式譲渡契約を締結する場合、譲渡価格、支払方法、引渡日、株式名義の変更、役員交代、借入金、個人保証、未払税金、簿外債務、表明保証を確認します。表明保証とは、売り手が会社の状態について一定の事実を保証する条項です。
資産管理会社では、保有不動産の瑕疵、賃貸借契約、過去の税務処理、関係者への貸付などが表明保証の対象になりやすいです。ここを軽く考えると、売却後に損害賠償請求や価格調整の問題が生じることがあります。
まだ資産管理会社を設立していない場合は、株式会社と合同会社のどちらにするか、出資者を誰にするか、資本金をいくらにするか、決算月をいつにするかを決めます。株式会社では登録免許税だけでも最低15万円が必要です。合同会社は設立コストを抑えやすい一方、将来のM&Aや株式設計では株式会社の方が説明しやすい場合があります。
資本金を1,000万円以上にするかどうかは、消費税の判定にも影響します。家族を株主に入れる場合は、将来の贈与税、相続税、議決権、配当の受け取り方も検討します。最初の設計を誤ると、売却時に直せないことがあります。
資産管理会社M&Aは、不動産、事業会社株式、役目を終えた法人の出口を整理し、手取り額や承継の選択肢を広げる方法です。ただし、税率だけで判断すると、買い手が負うリスクや事業承継税制、資金使途の制限を見落とします。売却対象、株主構成、保有資産の時価を早めに確認し、自社に合う出口を専門家と検討しましょう。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人