会社売却のメリットと相場や税金、従業員保護のポイントを解説

会社売却の相場は、純資産(時価)+営業利益3~5年分が目安となり、税金は譲渡益に対し20.315%課税されます。会社売却により後継者問題の解決やリタイア後の資金確保が可能になる一方、会社経営や従業員への影響など注意点もあります。この記事では、会社売却の方法やメリット・デメリット、従業員の雇用維持、実務の流れなどを分かりやすく解説します。

目次

  1. 会社売却とは
  2. 会社売却の相場と価格算定の考え方
  3. 会社売却のメリットとデメリット
  4. 会社売却による税金の仕組み
  5. 会社売却後の従業員の取り扱い
  6. 会社売却の基本的な流れ
  7. 会社売却を成功させるポイント
  8. まとめ

会社売却とは

会社売却とは、株式会社の場合、会社の株式を第三者へ譲渡し、経営権を引き渡すことです。非上場企業であれば、株式を保有する株主と代表取締役が同一人物であることが多いため、「社長が会社を売る」という感覚を持たれるかもしれません。しかし、実際には株主が株式を譲渡することで会社を売却する形となり、代表取締役の地位だけをもっていても株式を所有していなければ会社を売却できません。

株式会社の所有者は株主という考え方は古くから存在しますが、過去に「モノ言う株主」が話題となった頃から一般にも広く浸透し、株主こそが会社の実質的な持ち主だと理解されるようになってきました。売却時は、株主が譲受企業(買い手企業)との間で株式譲渡契約を交わし、その契約に従って会社を譲渡していきます。

なお、「会社譲受(買収)」「M&A」「合併」「事業譲渡」「事業承継」といった用語は一見似ていますが、それぞれ指す対象や手法が異なります。会社売却(株式譲渡)は株主が株式をすべて第三者に譲り渡すことで会社全体を譲り渡すものですが、事業譲渡の場合は会社の一部事業のみを売却するなど、取引スキームや法的効果も大きく変わります。

M&Aとの関係

M&A(Merger and Acquisition)は、直訳すると「合併と譲受」を意味し、株式譲渡(会社売却)を含む広い概念です。合併や会社分割、事業譲渡など多種多様な手法を指し、そのうち株式譲渡を選んで会社を売却することもあれば、合併によって会社を統合するケースもあります。たとえば、大手同士の大規模再編もM&Aですし、譲渡企業(売り手企業)が中小規模であってもM&Aの範疇に含まれます。

M&Aという言葉だけでは、具体的にどの手法を取るのか判然としないことも多いです。会社売却を検討する上では、株式譲渡と他の手法(合併や事業譲渡など)の違いを理解するのが大切です。

会社売却と会社譲受(会社買収)の違い

「会社売却」は株主から見た呼び方であり、「会社譲受(買収)」は譲受企業の視点から見た呼び方です。どちらも同じ株式のやり取りを別の立場で表現しているに過ぎません。ただし「合併」とは異なり、会社売却(株式譲渡)の場合は会社自体が消滅せず存続します。一方の合併では、少なくとも一方の会社は消滅するため、手続後の存在形態が大きく違う点に注意が必要です。

また、事業譲渡では会社全体ではなく特定事業だけを譲り渡します。譲渡する事業の資産・負債を個々に移転する必要があるため、株式譲渡とは別の法的手続や段取りを踏むのが通常です。事業を継続していく目的で会社を丸ごと売りたい場合には、株式譲渡による会社売却がシンプルな方法となります。

会社売却の相場と価格算定の考え方

会社売却の相場を一概に断定することは難しいですが、比較的よく用いられる目安として、「純資産(時価)+営業利益の3年~5年分」が挙げられます。これは「年買法(年倍法)」と呼ばれる方法で、たとえば純資産が2億円、毎年の営業利益が1億円ある会社の場合、2億円+1億円×3年~5年=5億円~7億円が相場の目安になります。役員報酬が非常に高額で実態にそぐわないケースでは、過剰な報酬部分を利益に加算して会社価値を再計算することも多いです。

会社売却の代表的な評価手法

実際の売却価格の決定には、年買法(年倍法)以外にも複数の評価手法があります。非上場企業は株式市場で株価が定まっているわけではないため、買い手企業と売り手企業(譲渡企業)の間で交渉して値決めする必要があるのです。主な評価手法としては次の3つのアプローチが挙げられます。


1.コストアプローチ

コストアプローチは、会社が保有する資産と負債を基準に算定する方法で、簿価純資産法や時価純資産法、年買法(年倍法)などが含まれます。帳簿上の数字をもとに算定する簿価純資産法は簡単ですが、含み益や含み損が大きいと実態と乖離しやすいのがデメリットです。対して時価純資産法は、資産や負債を時価に置き換えて計算するため、実態に近い評価となりますが、将来的に生まれる収益力までは直接反映できません。

年買法(年倍法)は、時価純資産に加えて営業利益の数年分を評価額に上乗せする方法です。たとえば将来3年間分の利益をあらかじめ買収価格に組み込むことで、会社が今後も利益を継続して生み出す力をある程度織り込めることが特徴です。

2.インカムアプローチ

インカムアプローチは、会社が将来生み出すであろう利益やキャッシュフローを割り引いて現在価値を算定する方法です。代表例としてDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)があり、今後数年の事業計画を作成してフリーキャッシュフローを予測し、リスクに応じた割引率を用いて現在の価値へ換算します。事業計画の最終年度以降はターミナルバリュー(継続利益)を加算して評価を行うため、より将来性を重視した算定が可能です。

ただし、DCF法は事業計画の精度や割引率の設定などに恣意性が入りやすい点には留意が必要です。中小企業では経営者個人の能力や取引先との関係性など、売り手企業独自の要素が強いため、計算結果が大きくぶれるケースもあります。

3.マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、類似する上場会社の株価指標や、同業種での過去の譲受事例(買収事例)などをベースにして会社の価値を推定する方法です。いわゆるマルチプル法(EV/EBITDA倍率など)が代表的で、上場会社が持つ時価総額と利益水準から倍率を算出し、それを非上場会社に当てはめて評価します。


EV(Enterprise Value)=株式時価総額+純有利子負債

EBITDA=営業利益+減価償却費

EV/EBITDA倍率=(株式時価総額+純有利子負債)÷(営業利益+減価償却費)


例えばEV/EBITDA倍率が10倍の上場会社が複数見つかれば、売却対象会社のEBITDAに10を掛け合わせて一つの参考価格を出すわけです。ただし、比較に用いる上場企業の選定が不適切だと大きく値がずれてしまう点にも注意しなければなりません。

会社売却のメリットとデメリット

会社売却には、経営者のリタイア後資金の確保や経営負担からの解放、大手グループ入りによる事業規模拡大など多くのメリットがあります。一方で、競業避止義務によって同業の新会社を立ち上げにくくなる、一定期間ロックアップ条項によって拘束されるといったデメリットも存在します。ここでは主なメリットとデメリットを順に見ていきましょう。

会社売却のメリット

リタイア後の資産形成

会社を売却すれば譲渡益を得ることができます。特に営業利益が大きい会社では数億円単位の資金を確保できる可能性もあり、経営者にとってはセカンドライフの充実や別の新規事業への投資がしやすくなるでしょう。また、譲渡益の税率が一律20.315%(個人の場合)であることも魅力の一つです。

従業員の雇用維持

会社を解散・清算すれば従業員は職を失うことになります。しかし株式譲渡による会社売却であれば、基本的に雇用契約はそのまま継続されます。大企業グループの傘下に入る場合などは、コンプライアンス体制や福利厚生が充実する可能性も考えられます。

個人保証(連帯保証)からの解放

中小企業の経営者には連帯保証(経営者保証)を金融機関から求められているケースが多いですが、会社売却で融資を買い手側が引き継ぐ形になれば、連帯保証を外す交渉も行いやすくなります。これにより、経営者自身の財産リスクを大幅に軽減できます。

経営負担やプレッシャーの軽減

経営者には常に重責がのしかかっています。会社売却によって経営そのものを譲り渡すことで、この負担やストレスから解放され、新しい人生を歩む余裕が生まれるでしょう。

会社の存続と更なる成長

解散してしまえば会社の歴史は途絶えますが、買い手企業の資本やノウハウを得て継続する道を選べば、会社が将来にわたり存続できるだけでなく、シナジーによるさらなる事業拡大も期待できます。


会社売却のデメリット

同種事業の経営禁止(競業避止義務)

会社売却の際、買い手企業と競業避止義務を結ぶことが一般的です。これは譲渡企業側(売り手)が同業の会社を新たに設立しては、買い手企業の利益が損なわれる可能性があるためです。そのため、同業種で再起したい場合には契約上の制約を受けることがあります。

売却後の一定期間拘束(ロックアップ)

買い手企業によっては、会社売却後しばらく経営陣に残ってほしいと要望されることがあります。従業員へのスムーズな引き継ぎや取引先との関係構築などの目的があるためです。すぐに経営から解放されたい人にとってはデメリットに感じる部分ですが、ロックアップ期間中は役員報酬が支払われるなどの面もあり、一概に悪い話ではありません。

リタイア後の喪失感

長年会社を率いてきた経営者ほど、会社売却によって経営を離れた後に強い喪失感に襲われるケースがあります。しかしこれは一般的なサラリーマンが定年を迎えたときの感覚にも近く、第二の人生を有意義に過ごす準備をしておくことで軽減できるでしょう。

会社売却による税金の仕組み

会社売却によって譲渡益を得た場合、基本的に「個人」と「法人」のどちらが株主なのかによって税金の計算方法が異なります。とくに中小企業では、代表取締役兼株主である個人が株式を保有しているケースが多いため、個人の譲渡益課税が中心的な論点となります。

個人が株主の場合

個人が保有する株式を売却する場合、所得税・住民税・復興特別所得税を合わせた合計20.315%が課税されます。これは、売却価格から株式の取得費用やM&A仲介会社等への手数料を差し引いた残り(譲渡益)に対して一律に課税される仕組みです。

たとえば、10億円で会社を売却した場合を考えます。設立時の出資金が1000万円、売却に要した仲介手数料等の費用が5000万円あるとすると、譲渡益は10億円-1000万円-5000万円=9億4000万円です。これに20.315%をかけると約1億9096万円が納税額となる計算です。金額は大きいですが、他の所得との合算は行われず、株式譲渡益だけを切り離して算定する「分離課税制度」が採用されます。累進課税の対象になる給与所得などと異なり、どれほど高額でも税率が一定のため、売却益を大きく確保しやすいのが特徴です。

法人が株主の場合

法人が株主として株式を売却する際は、個人譲渡益のような一律20.315%ではなく、法人全体の所得に対して法人税(約30%など)を課す「総合課税方式」が取られます。さらに利益が大きくなれば地方税なども加味されるため、最終的な実効税率は法人ごとに異なります。

また、法人が保有する子会社株式を事業譲渡など別の形で売却するケースもありますが、法人格を残したまま特定事業のみを切り離す手法を選ぶ場合には、後述の事業譲渡や会社分割など、手法ごとに異なる課税関係を検討する必要があります。

事業譲渡による税金

事業譲渡は、会社の株式ではなく個々の事業資産や負債をまとめて譲渡する方法です。この場合、譲渡対象とする資産によっては、消費税や法人税なども発生します。たとえば、のれん代(営業権)には消費税が課税されるため、譲渡金額に占めるのれん部分が大きい場合はかなり高額な税負担となることもあります。

一方、株式譲渡では消費税がかかりません。事業譲渡のほうが不要資産を切り離して買い手企業に迷惑をかけずに売却できるメリットはありますが、税務面や手続面は複雑です。どの手法を選ぶかは、会社の経営状況や今後の方針、専門家のアドバイスなどを踏まえて総合的に決定します。

会社分割など他の手法と税負担

会社分割を利用する場合、一定の要件を満たせば消費税が課税されないなどのメリットもあります。ただし、不要な契約や簿外債務をまとめて引き継いでしまうリスクがあるため、会社分割前にしっかり調査・整理を行わなければなりません。

いずれにしても、会社売却に伴う税負担は高額になりやすいことから、事前に税理士や公認会計士と相談して最適な形を検討することが望ましいです。

会社売却後の従業員の取り扱い

会社を売却しても、従業員は会社と雇用契約を結んでいるので、通常は地位に変動はありません。これは、株式譲渡なら会社がそのまま存続するため、従業員との労働契約もそのまま継続されるためです。代表者が誰になったとしても従業員への法的影響はほぼありません。

従業員にとっての3つのメリット

1.大企業グループの一員となる可能性

会社を買収する側は、大手企業や上場企業など規模の大きい会社であることが一般的です。そのグループ会社の一員となることで、信用力が高まり、取引先や金融機関との関係が円滑になる可能性があります。従業員にとっては、これまで以上に大きなプロジェクトへ参加できる機会が増えたり、福利厚生などの待遇が向上したりする点がメリットです。

2.コンプライアンス体制・福利厚生の充実

大企業グループには、パワハラ・セクハラ防止体制や内部通報制度など、コンプライアンスが整っているケースが多くあります。会社としての社会的信用が向上するだけでなく、従業員の就労環境も整備されやすくなるといえます。また、大企業の福利厚生制度がグループ会社に準拠されれば、従業員の働きやすさが高まることも期待できます。

3.取引規模の拡大によるキャリアアップ

買い手企業の傘下に入ることで、売り手企業の取引先や事業領域が大きく広がる可能性があります。これまでの規模では経験できなかった分野にチャレンジできるため、モチベーション向上やキャリアアップにつながることが多いです。


従業員が気をつけるべき点

買い手の経営方針による変化

会社売却後は経営方針が変わることで、人事評価の基準や社内ルールが変わったり、リモートワークに対する考え方が厳しくなったりする場合もあります。従業員としては、新しい経営体制がどのような働き方を求めているのかを早めに把握することが大切です。

条件交渉の余地

株式譲渡では基本的に雇用契約がそのまま継続しますが、経営方針上の組織再編や配置転換が行われる場合、就業規則に変更が生じることもあり得ます。売り手企業の段階で従業員の処遇をしっかり交渉しておくことで、大幅に不利益な改定が行われるリスクを抑えることができます。


総じて、従業員の雇用は保たれやすいものの、会社が新たな体制に移った後の働き方や条件が変わる可能性はゼロではありません。経営者側も従業員の意向を無視しないように、買い手候補との条件を整理しておくとスムーズです。

会社売却の基本的な流れ

会社売却を検討する際は、次のようなステップで進むのが一般的です。全体的に時間や費用を要するため、早め早めの準備が重要となります。

STEP① 買い手候補を探す

初めに行うべきは、どのような企業に買い取ってほしいかという希望条件の整理です。たとえば「従業員の雇用を必ず守ってほしい」「役員が一定期間残ること」「売却後は経営に関与しない」など、自社にとって譲れない条件を優先度順に挙げておきます。そのうえで、M&A仲介会社や金融機関などのネットワークを通じて買い手候補を募集し、交渉へと進みます。

STEP② M&A仲介会社等との契約

買い手候補を探す方法としては、M&A仲介会社に相談するか、自社でマッチングサイトに登録するかなどがあります。中小企業の売却では、専門家のサポートを得たほうが条件交渉や書類作成でトラブルを避けやすいです。仲介会社を選ぶ際は、着手金や成功報酬の算定方式、テール条項など契約内容を事前にしっかり確認しておく必要があります。

STEP③ 買い手候補との面談

M&A仲介会社を通じて買い手候補が見つかれば、トップ面談などを通じてお互いの考え方や企業文化をすり合わせます。この段階では、まだ具体的な売却価格や条件交渉に入らないケースが多く、あくまで「顔合わせ」として相手企業がどのようなビジョンを持っているかを確認する段階となります。

STEP④ 基本合意書の締結

面談を経て両者が大筋で合意できそうだとなったら、基本合意書(LOI)を結びます。この時点で売却価格や譲渡スケジュールなどが概ね固まりますが、あくまで最終契約ではないため、条件変更の余地がゼロというわけではありません。ただし、一度価格を提示すると後から増額に持ち込むのは難しいため、売り手としては慎重に考える必要があります。

STEP⑤ デューデリジェンス(DD)

デューデリジェンスは、買い手企業が売り手企業の財務や法務などを詳細に調査し、リスクや簿外債務の有無を確認する作業です。売り手企業側は、資料提供や経営陣へのヒアリングに協力します。ここで問題が見つかれば、売却価格の見直しや再交渉に進む可能性があるため、事前に自社の状態を整理しておき、明確に説明できるよう準備することが大切です。

STEP⑥ 最終契約書の作成・交渉・締結

デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な譲渡価格・支払条件・表明保証条項・違約金など細部にわたる交渉を行います。通常、買い手側が契約書案を作成し、売り手側が修正意見を提出して擦り合わせる形となります。ここは法的に極めて重要な場面であり、後日のトラブルを防ぐためにも弁護士や公認会計士など専門家との連携が必須です。

STEP⑦ クロージングと取引完了

最終契約の締結後、契約書の定めに従って代金の支払いと株式の譲渡手続を実行します。ここをクロージングと呼び、クロージングが完了すれば、会社売却の取引自体は成立です。しかし、最終契約書で定めた表明保証の内容によっては、後から隠れた債務などが発覚した場合に売り手の責任が問われることもあります。事前の調査と弁護士のサポートが重要です。

会社売却を成功させるポイント

会社売却には多くの手続や交渉が伴うため、スムーズに進めるためにはいくつかの重要なポイントがあります。

売却の目的や条件を明確化する

「なぜ会社を売りたいのか」「譲れない条件は何か」をはっきりさせておくことが大前提です。たとえば、後継者不在で早急に事業承継したい場合と、新たな資本を取り入れてさらなる拡大を狙いたい場合では、買い手となる企業の選定基準も異なります。経営者自身のリタイアプランや従業員の雇用維持など、優先順位を整理しておきましょう。

タイミングを逃さない

会社売却のタイミングを誤ると、想定よりも低い価格で譲渡せざるを得なくなる可能性があります。業績が上向きで将来性を見込める時期や、業界内でM&Aが活発化しているタイミングなどを見極め、早めに動き始めることが重要です。また、経営状態が悪化してしまうと売却価格が下がるだけでなく、買い手が見つからなくなることもあり得ます。

会社の魅力を「磨き上げ」する

買い手に対して「この会社を買いたい」と思わせるためには、財務内容を整え、不必要な負債や簿外債務を整理し、強みを明確化する作業が必要です。社内ルールを整備したり、有能な従業員が定着しやすい環境を整えたりしておけば、買い手にとって魅力的な買収対象となりやすく、譲渡価格も高まりやすくなります。

専門家への依頼を検討する

仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)、弁護士、公認会計士、税理士など、M&Aの専門家のサポートがあると、買い手探しから契約書面のレビューまでスムーズに進められます。特に書類の作成やデューデリジェンス対応、表明保証条項の検討など、専門知識が不可欠な場面が多いため、早期から信頼できる専門家に依頼するのが望ましいです。

周囲への影響を考慮する

会社は従業員とその家族、取引先、地域社会など多くのステークホルダーとかかわりながら活動しています。会社売却によるオーナー個人のメリットだけに集中しすぎると、従業員や取引先との関係性が損なわれる恐れもあります。相手企業との交渉では「雇用維持を最優先とする」「重要取引先との契約を維持する」といった条件を取り決め、必要に応じて書面に明記しておくことがトラブル回避のポイントです。

赤字企業や不採算事業でも可能性を探る

会社の経営状態が悪化していても、売却後に買い手企業が再生を図れると判断すれば取引が成立するケースがあります。赤字企業の売却では、事業譲渡や会社分割などを駆使する方法もありますし、「将来の成長余地がある」と買い手が見込むならば高値での譲渡につながる可能性もあります。早めに情報開示し、財務状況や不透明な取引の整理を進めることが肝要です。

まとめ

会社売却は、後継者不在の解決やリタイア後の資金確保、経営負担からの解放など大きなメリットをもたらします。その一方で、競業避止義務やロックアップなどの条件、従業員や取引先への周知対応など注意すべき点も多くあります。会社の価値を高め、売却のタイミングを誤らず、専門家と連携して進めることで、満足度の高い会社売却を実現しやすくなるでしょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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