事業承継とは主な3類型承継の流れ失敗と成功の5大要点を徹底解説

事業承継とは会社を次世代へ引き継ぐ大切なプロセスです。本記事では3つの資源の承継や承継先の選択肢、税金対策などを詳しく解説します。承継を成功させるためのポイントや実際の事例を交えながら、円滑に事業を進めるための方法を一緒に学んでいきましょう。事業承継が社会問題化する背景にも触れ、早期準備の重要性や公的支援制度まで幅広くカバーします。

目次

  1. 事業承継とは何か
  2. 3つの資源の承継
  3. 3つの承継先と事業承継の方法
  4. 事業承継が社会問題化する背景
  5. 事業承継のプロセス
  6. 事業承継で関わる税金
  7. 公的制度の支援
  8. 事業承継が失敗する主な理由
  9. 事業承継を成功させるポイント
  10. 早期準備と事業承継計画
  11. 事業承継でよくある事例
  12. まとめ

事業承継とは何か

事業承継とは、会社を経営する権利や経営資源を、次世代の後継者へ引き継ぐことを指します。中小企業庁でも「事業承継」という用語を用いており、会社の株式や代表者の地位をはじめ、事業運営に関わる多くの要素を円滑に次の経営者へ移転していく必要があります。

一方で「事業継承」という言い方もありますが、両者は実質的に同じ意味で使われる場合が多いです。会社全体の経営を引き継ぐうえでは、単なる権利の移転にとどまらず、経営理念や会社の想いを含めた幅広い「資源」の承継を考慮することが大切です。

事業承継がなぜ重要なのか

中小企業では、経営者本人が事業のノウハウや取引先との関係などの重要な情報を一手に握っているケースが少なくありません。そのため、後継者へスムーズに引き継ぎを行わないと、企業としての強みや信用が失われる恐れがあります。

また、日本では経営者の高齢化や後継者不足が深刻化しており、円滑な承継ができずに廃業を余儀なくされる企業が増えています。そこで、早期に準備を進め、専門家の協力を得ながら、継続的に承継の戦略を検討することが重要です。

3つの資源の承継

事業承継では、「ヒト(経営)」「資産」「知的財産(知的資産)」といった3つの要素をどのように後継者へ引き継ぐかが大きなポイントです。これらは会社を動かす重要な原動力であり、いずれかが不足していると、事業の継続や発展に支障をきたします。

ヒト(経営)の承継

ヒト(経営)の承継とは、経営権そのものを後継者へ移すことです。代表取締役や社長が持つ経営権はもちろん、取引先や金融機関との人脈、従業員との信頼関係などが含まれます。

特に中小企業においては、現経営者自身が長年築いてきた取引先や業界ネットワークが大きな強みとなっている場合が多いです。後継者の選定・育成には時間が必要なため、5年から10年といった長期的な視点で計画を立てておくことが望ましいです。

資産の承継

資産の承継とは、事業運営に欠かせない株式や設備、不動産、運転資金などの物的資源を後継者へ移転することです。

会社形態であれば、企業の価値は株式で表されるケースが多いため、まずは「自社株式」の承継が重要になります。しかし株式の贈与や相続では、多額の税金が発生する可能性があるため、早期に専門家に相談し、贈与税・相続税の対策を行うことが大切です。

知的財産(知的資産)の承継

知的財産(知的資産)は、経営理念や企業のノウハウ、技術、ブランド力、従業員のスキル、取引先とのネットワークなど、数値化しにくいものを含む重要な経営資源です。

帳簿には計上されていない要素であり、継承が不十分だと、企業の強みが一気に失われるリスクが高まります。そのため、現経営者が「どんな想いで経営してきたのか」「どのようなビジョンを持ち、何を大切にしてきたか」を可視化し、後継者と共有することが肝心です。

3つの承継先と事業承継の方法

事業承継には、大きく分けて「親族」「社内(役員・従業員)」「第三者(社外)」の3つの形態があります。これらを整理し、自社に合った選択肢を検討することが重要です。

親族への承継

親族に経営を引き継ぐ場合、会社の所有と経営を一体的にスムーズに引き継ぎやすい点が特徴です。家族が経営者になれば、長期的な視野で事業を運営しやすく、金融機関や従業員などの関係者からの理解も得やすいです。

しかし、親族内に候補者が存在しない場合や、そもそも経営者としての資質・意欲をもつ人材がいない場合は難航します。さらに相続人が複数いる場合には、誰が事業を承継し、どのように株式や財産を分けるかを早期に話し合い、他の親族の理解を得る必要があります。

社内(役員・従業員)への承継

親族外の役員や従業員が後継者となるケースです。すでに会社の業務や経営方針を理解しているため、後継者教育の負担が比較的少なく、従業員や取引先から受け入れられやすいという利点があります。

一方、社内後継者が株式取得のための資金をどのように調達するか、現経営者の個人保証をどう解消するかなど、経営を円滑に進めるために解決すべき課題もあります。

第三者への承継(M&A)

外部の企業や個人に承継する、いわゆるM&A手法です。後継者不足や親族内での合意が難しい場合に活用されることが多いです。広く後継者候補を探せるメリットがありますが、会社の方向性や後継者の経営理念が合わないと従業員や取引先の混乱を招く可能性があります。

事業承継が社会問題化する背景

日本の中小企業では、経営者の高齢化と少子化に伴う後継者不足が深刻な問題になっています。実際に後継者が見つからず、そのまま廃業に至る企業も少なくありません。

後継者不足が深刻化

東京商工リサーチのデータでは、2023年度の後継者不在倒産は負債1,000万円以上の企業だけでも456件にのぼったと報告されています。親族に承継を勧める旧来の流れが弱まったことや、子ども世代が別の道を選択するケースが増えていることが背景にあります。

さらに、2023年度中小企業白書によると、中小企業は日本の企業数の99.7%を占め、従業員数は全体の約70%を支えています。その大部分の経営者が高齢化しており、後継者が見つからなければ事業が途絶えてしまう事態につながります。

人材不足の影響

少子高齢化による労働力不足が、日本の中小企業全体を悩ませています。大手企業よりも人材確保が難しく、さらに後継者となり得る人材を見つけることが困難になっているのです。特に特有のノウハウや技術を持つ企業にとっては、その技術を引き継ぐ人材を育てることが急務といえます。

事業承継のプロセス

事業承継は、単に「引き継ぐ相手を決める」だけでなく、企業の状況や将来ビジョンに基づいた入念なプロセスを踏む必要があります。一般的には、以下のような流れで進めることが多いです。

現状把握と課題整理

自社の株価や経営状況、収益性などを分析し、事業承継の課題を洗い出します。経営者個人が持つ強みや弱みも含め、どこを補強すれば後継者への引き継ぎをスムーズに行えるかを整理する段階です。

企業価値を高める

経営効率の向上や不要な在庫の削減、財務状況の改善といった施策を行い、企業価値を高めます。後継者が経営を引き継いだ後も、業績を安定させやすい体制を整えるために重要なステップです。

事業承継計画の策定

親族内か社内か、それともM&Aで外部の第三者に譲るのか、企業のビジョンや経営状況に合わせて方向性を定めます。どのタイミングでどのような形で株式や経営権を移転するのかを事前に計画することで、余裕をもって準備を行うことができます。

事業承継の実行

株式の相続・贈与を進めたり、第三者とのM&A契約を締結したりする段階です。ここでは資産や許認可、従業員との雇用関係などを整理し、円滑に移行できるよう手続を実行します。

事業承継後の体制フォロー

後継者が新たな経営体制を固めていく過程で、従業員や取引先への説明や社内システムの再構築を行います。M&Aの場合はPMI(経営統合)も大きな課題となるため、専門家のサポートが必要です。

事業承継で関わる税金

事業承継には、相続税や贈与税、株式譲渡に伴う所得税・法人税など、様々な税金が関わってきます。事業運営を継続しつつ承継を進めるためには、税金の負担をできるだけ抑える工夫が求められます。特に次のような点に注意が必要です。

親族内承継の相続税・贈与税

親族に株式を譲る場合、相続や贈与の形をとることが多く、その際には相続税や贈与税が発生します。相続税は被相続人が亡くなった時点の財産価額に応じて課され、贈与税は生前に後継者へ株式を移した場合にかかる税金です。相続税の算定には税率区分や基礎控除などの要素が、贈与税には暦年課税と相続時精算課税という2種類の方式が存在します。どちらを選ぶかは、後々の計画に大きく影響するため、早めに税理士などの専門家へ相談することが大切です。

M&Aの株式譲渡に伴う所得税・法人税

事業承継をM&A(第三者譲受)で行う場合、譲渡する側が個人株主であれば株式譲渡益に所得税・住民税が課されます。法人が株式を保有しているケースでは譲渡益に法人税が課せられます。譲受側には基本的に税金はかかりませんが、譲渡側の株主構成や企業形態によっては納税額が大きく変わるため、やはり早期からの試算や対策が欠かせません。

事業譲渡に伴う税金

事業譲渡を行う場合には、譲渡側は譲渡益に対して法人税(または個人事業主であれば所得税)が発生します。また、土地や有価証券を除いた資産の譲渡には消費税もかかる可能性があります。譲受側は、通常はその消費税を譲渡側に支払い、後の申告で処理を行う流れです。

公的制度の支援

承継時の資金繰りや税負担を軽減するために、国や自治体は複数の支援制度を設けています。これらを上手に活用することで、後継者の大きな経済的負担を抑え、計画的な事業承継を進められます。

事業承継税制

非上場株式などを対象に、相続税や贈与税の納税を猶予・免除できる制度です。平成30年度の税制改正により「事業承継税制の特例」が整備され、要件を満たせば相続や贈与で100%納税猶予が可能になりました。計画的に「特例承継計画」を策定することで、贈与税・相続税の負担を実質的にゼロに近づける事例もあります。とくに株式価値が高い中小企業においては非常に有用です。

経営資源集約化税制

一定の要件を満たした中小企業が計画に基づいてM&Aを実行する場合、設備投資減税や損金算入の特例が適用される制度です。取得した株式の一部を損金に算入し、一定期間後に分割して益金に戻す方法が認められています。

事業承継・引継ぎ補助金

後継者への交代やM&Aによる事業再編などを後押しするため、国が交付している補助金です。Ⅰ型とⅡ型の2種類があり、承継や再編に際して発生する経費の一部を補助します。自治体独自の支援策として、条件を満たした際に費用補助や低金利での融資を受けられるところもあり、事前に行政の窓口へ問い合わせると良いでしょう。

事業承継が失敗する主な理由

いざ事業承継を進めても、うまくいかないケースがあります。経営をバトンタッチする過程では、多くのステークホルダーの意向調整や法務・税務の対策が必要です。特に以下の点に注意しなければ、事業承継が滞ったり失敗するリスクが高まります。

後継者の選定・育成が遅れる

親族や社内に後継者の候補がいても、その人の経営能力や意欲が不十分だったり、育成に十分な期間をかけなかったりすると、経営の引き継ぎ後に混乱が生じる恐れがあります。早期に候補者を決め、事業の実務や経営手腕を身につけさせることが大切です。

相続争い・財産分配問題

親族内承継の場合、相続人が複数いると株式や財産をめぐってトラブルが起きる可能性があります。特定の後継者に株式を集中させると、不平等だと感じる相続人が出るかもしれません。十分な話し合いを行い、全員が納得できるルールを事前に整備しておく必要があります。

情報漏洩や社内周知の不足

とくに上場企業のM&Aでは、外部に情報が漏れると株価変動を招いたり、従業員が動揺して退職してしまうリスクがあります。また周知不足により社員が不安定になる場合もあり、事業承継のタイミングで業務が滞ってしまうケースもあります。

事業承継を成功させるポイント

事業承継を滞りなく進め、承継後の経営を安定化させるためには、以下のようなポイントをしっかり押さえる必要があります。

できるだけ早期に準備を始める

事業承継には5年~10年以上の長い準備期間が必要とされます。後継者の育成や株式の移転対策、税金のシミュレーションなどを、経営者が元気なうちから進めることが重要です。早めに取り組むことで、想定外のトラブルに備える余裕も生まれます。

相続トラブルへの対策

親族間で相続に関する見解が一致しないと、後継者の選定すらままならなくなるケースがあります。あらかじめ「どのような形で株式を分けるのか」「他の相続人への財産分配をどうするか」などを検討し、コミュニケーションを取ることで紛糾を回避できます。

資金や税金対策を行う

贈与税・相続税・所得税・法人税など、多岐にわたる税金をどのように最小化するかを考えることは不可欠です。国や自治体の補助金や事業承継税制を活用しながら、後継者が過剰な負担を負わないスキームを整備しましょう。

専門家のサポートを受ける

税理士や弁護士といった専門家は、相続税対策や契約関連のアドバイス、株式評価、スキーム策定など幅広く関与できます。特に中小企業では、顧問税理士が財務状況や会社組織をよく理解しているため、早期から助言を得ることで無駄のない承継計画を作成できます。

早期準備と事業承継計画

事業承継を成功に導くためには、何よりも「計画的な準備」が鍵を握ります。中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」「事業承継マニュアル」などを活用しつつ、以下の流れで計画書を作成してみましょう。

現状分析

自社の経営状態を可視化し、強みと弱みを明確にします。自社株価の算定や借入金の確認、資金繰りの状況、事業の競争力などを洗い出して、承継の際に生じ得る課題を把握します。

方向性と承継時期の検討

親族内、社内、第三者という三つの承継形態のうちどれを選択するかを検討し、最適な時期を判断します。後継者候補が誰なのか、複数いる場合はどうやって選ぶのかも重要です。

目標設定と具体的アクション

事業継続や業績拡大の目標を掲げ、それを実現するための具体的な行動計画を策定します。後継者の役割や承継ステップ、従業員への周知方法、金融機関との調整など、やるべきことをリスト化しスケジュールを組み立てます。

課題解決のための専門家活用

税理士や弁護士、M&A仲介会社など、必要な専門家のサポートを受け、法的・税務的リスクを事前に洗い出します。公的支援制度も含めた資金計画を立て、実務レベルで実行に移せる体制を作ります。

事業承継でよくある事例

事業承継の際には、様々なケースが存在します。以下は実際によくある悩みや事例をまとめたものです。

自社株問題 A社の例

長年続く老舗メーカーで、社長が保有する株式の評価額が高く、贈与や相続で多額の税金が発生する見込みに悩んでいました。そこで、事業承継税制の納税猶予制度を活用し、贈与税の大半を猶予または免除できる形で次世代へ株式を移転。社長の精神的負担も軽くなり、業績アップへの取り組みに集中できたという例があります。

株式分散問題 B社の例

過去の相続税対策で株式を多数の従業員や親族へ分散していた結果、会社の意思決定がスムーズにいかなくなりました。そこで持株会社を設立し、株式を集約。贈与税の納税猶予を同時に活用して、結果的に後継者が安定的に経営権を維持できる体制を築き上げました。

後継者不在 C社の例

靴の小売店を営む経営者が高齢に差しかかり、後継者を見つけられずに困っていました。そこで番頭的存在の店長を役員に登用し、親族外の承継に舵を切ることを決断。長年の実務経験を評価された店長がスムーズに経営を引き継ぎ、店舗運営の継続を実現しました。

後継者が頼りない D社の例

海外にも拠点を持つ下請企業で、社長が自分の息子に会社を任せようと考えていましたが、息子の経験値が十分でなく不安を抱えていました。社長の健康面もあり、まずは株式の承継だけを早期に相続時精算課税制度を使って行い、経営はしばらく二人体制で支える形をとりました。

後継者の選定難航 E社の例

90歳を超える社長が2人の息子のどちらに事業を任せるか決められずにいました。そこで経営を守るため、「黄金株」(拒否権をもつ株式)を設定し、社長が最終的な重要事項に拒否権を行使できるスキームを採用。息子たちの意見調整がうまくいくよう、専門家の助言を得ながら進めることで、後継者問題の深刻化を防ぎました。

また、知的資産経営報告書や事業価値を高める経営レポートを作成し、会社の「強み」や「経営理念」、「無形資産」を後継者と共有する取り組みも、事業承継を成功させるうえで役立ちます。現経営者と後継者が一緒にこれらを作成することで、意識のすり合わせやコミュニケーションが進み、お互いの想いを理解する機会となるからです。

まとめ

また、知的資産経営報告書や事業価値を高める経営レポートを作成し、会社の「強み」や「経営理念」、「無形資産」を後継者と共有する取り組みも、事業承継を成功させるうえで役立ちます。現経営者と後継者が一緒にこれらを作成することで、意識のすり合わせやコミュニケーションが進み、お互いの想いを理解する機会となるからです。

まとめ

事業承継とは、会社の経営資源や理念、ノウハウを次世代に引き継ぐ重要なプロセスです。後継者の選定や税金対策、公的支援の活用など、多角的な視点で準備を進めることが求められます。早期の段階から専門家を交えながら計画を立て、経営者と後継者双方が同じ方向を見据えれば、スムーズな承継と企業の継続的な成長が期待できます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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