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M&Aの成功のポイントを失敗例から学ぶ戦略的アプローチ

M&A成功ポイントはどこにあるのでしょうか?その疑問に対し、失敗例を交えながら税理士が戦略的アプローチを分かりやすく解説します。

目次

  1. M&Aの基本知識と目的を理解する
  2. 状況別アプローチで成功確率を高める
  3. M&A実施のメリットを売り手買い手双方で整理
  4. 代表的な5手法を比較して最適な選択をする
  5. 失敗事例から学ぶリスク回避のポイント
  6. タイミングと準備期間が成否を左右する
  7. 専門家とともに進めることでリスクを最小化
  8. M&A手法選択の判断基準と注意点
  9. M&A価格算定と企業価値評価の基礎
  10. 税金とコストを理解してトラブルを防ぐ
  11. 補助金活用でM&A負担を軽減する
  12. 成功への実践チェックリスト
  13. まとめ

M&Aの基本知識と目的を理解する

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業の合併や買収を指します。複数の会社が統合することで、それぞれが抱える経営課題をまとめて解決し、事業拡大や新規市場への参入、技術獲得などの成果を期待できます。近年は中小企業にとっても重要な成長戦略として注目されており、正しい知識と段取りが成功への第一歩です。

M&Aとは企業の合併や買収で経営課題を解決する方法

M&Aは単に会社を「売る」「買う」行為ではありません。売り手と買い手が相性の良い相手を選び、相乗効果(シナジー)を発揮することで、双方の売上や利益を伸ばすことを狙う総合的な経営手段です。事業承継、規模拡大、人材や技術の獲得など、目的は多岐にわたります。

M&Aの主目的は事業拡大と経営課題の解決

売り手側は後継者問題の解消や創業者利益の確保、雇用維持が大きな目的です。一方、買い手側は市場シェア拡大、事業多角化、弱点補強を図ります。どちらも「企業を持続的に成長させる」点で利益が一致しています。

M&Aの一般的なプロセスを10段階で進める

M&Aは次の10ステップで進行します。


  1. 目的と方向性の明確化
  2. 専門家・仲介会社への相談
  3. 市場調査と戦略具体化
  4. 候補企業選定と交渉
  5. 基本合意の締結
  6. デューデリジェンス(企業調査)
  7. 最終条件の交渉と契約締結
  8. クロージング(取引完了)
  9. 統合プロセスの実行
  10. M&A後の情報開示


各段階で適切な準備と専門家の助言を受けることが、リスクを最小化し成功確率を高める鍵です。

初期段階での目的設定が成功の土台になる

最初に「何を達成したいのか」を具体的に決めることで、相手先選定や条件交渉がぶれません。目的が曖昧なまま進むと、期待したシナジーが得られず失敗に終わる恐れがあります。

状況別アプローチで成功確率を高める

M&Aを成功に導くためには、計画段階・交渉段階・統合段階の三つのフェーズで要点を押さえる必要があります。

事前準備で自社分析と市場調査を徹底する

売上、採算性、強み、課題を洗い直し、業界動向を調べることで最適なタイミングを逃さずに済みます。準備不足は買い手探しの長期化や条件不利につながります。

条件交渉はデューデリジェンスと信頼構築が鍵

買収監査で財務や法務リスクを洗い出し、互いに誠実な情報開示を行うことが信頼関係を育みます。柔軟に歩み寄る姿勢がWin-Winの合意をもたらします。

統合後は従業員ケアとシナジー可視化が重要

従業員の不安を解消し、取引先紹介やクロスセルなど成果を具体的に示すことで統合効果を社内外に示せます。特にコミュニケーション不足はトラブルの温床となるため注意が必要です。

キーパーソンとの対話が統合スムーズ化の鍵

現場で信頼される社員と早期に対話し合意形成を図ることで、組織文化の軟着陸が可能になります。

M&A実施のメリットを売り手買い手双方で整理

M&Aは売り手・買い手双方に具体的な利益をもたらします。対象のニーズを理解することで交渉が円滑になります。

売り手の主な利点は承継解決と経済的利益確保

後継者不在を解消し、従業員や取引先を守りながら企業価値に見合った対価が得られます。長年築いた事業を存続させられる安心感も大きな魅力です。

買い手は迅速な事業展開と弱点補強が可能

既存事業を取得することで時間を節約し、売上シェア拡大、コスト削減、新規市場参入を一気に進められます。技術や人材を即時に取り込めるため、自社の弱点補強にも役立ちます。

代表的な5手法を比較して最適な選択をする

M&Aには株式譲渡、株式交換、合併、会社分割、事業譲渡の五つの主要手法があります。それぞれメリットとデメリットが異なるため、自社の状況や目的に合わせた選択が必要です。

株式譲渡は手続きが簡便で会社の独立性を維持しやすい

売り手は債務者保護手続が不要で、買い手は従業員と再契約が不要という利点がありますが、簿外債務を引き継ぐリスクには注意が必要です。

株式交換は資金負担を抑えて完全子会社化を実現

買い手は現金を用意せずに経営権を取得でき、売り手は配当を受け取る権利を得ます。ただし非上場株を受け取る場合の流動性には課題が残ります。

合併は権利義務を包括承継しシナジー発揮が早い

吸収合併や新設合併では、すべての資産・負債や契約が存続会社または新設会社に移るため、従業員の雇用や取引関係をそのまま保てます。譲受資金の準備も不要ですが、システム統合や企業文化の融合に時間がかかる点は覚悟が必要です。

会社分割は特定事業だけを切り離して承継できる

株主総会の特別決議が必要ですが、譲受資金負担が小さく、不要資産を除外しやすい点が特徴です。譲受側は許認可の再取得や簿外債務リスクへの対策を怠らないようにしましょう。

事業譲渡は必要な資産を選択しやすくリスクの引継ぎを抑制

売り手は株主総会の承認が要るものの、赤字事業やノンコア事業だけを切り出して売却することで経営改革が図れます。買い手は不要な負債を避けられますが、契約や不動産移転には手続と税負担が伴います。

手法選択は目的・コスト・スピードの三軸で判断

手続簡便さ、税コスト、従業員の雇用維持、資金調達余力を照らし合わせ、専門家の助言を踏まえて決定することが失敗を防ぐ近道です。

失敗事例から学ぶリスク回避のポイント(概要)

成功談だけでなく、失敗事例を学ぶことでリスクを事前に潰せます。ここでは売り手・買い手が陥りやすい典型的なミスを整理します。

売り手は情報漏洩と簿外債務隠蔽が致命傷になりやすい

秘密情報が漏れると取引先の離反や従業員の退職を招き、交渉そのものが決裂します。また未払い給与や偶発債務を隠した場合、買い手との信頼は一瞬で崩れ、更なる賠償問題にも発展しかねません。

誠実な情報開示と限定的な関係者管理が必須

情報管理体制を整え、関係者を最小限に絞りながら、正確な資料を提供することが成功への王道です。

買い手は過度な期待と調査不足でシナジーを逃す

「とりあえず買ってから考える」姿勢は危険です。異業種を買う場合は特に、業界知識と現場のマネジメント方法を理解しないまま高値で買収すると、PMI段階で目標を達成できなくなります。

現実的な計画と多角的デューデリジェンスでリスクを抑える

財務・人事・法務・税務の各専門家を巻き込み、十分な時間をかけて検証することで想定外の負債や文化摩擦を減らせます。

売り手メリットの具体例

  • 事業承継問題の解決で会社を存続させられる
  • 従業員の雇用と取引継続で地域経済に貢献できる
  • 株式譲渡対価を得て創業者利益や相続資金を確保できる

買い手メリットの具体例

  • 稼働中の事業を取り込み時間を短縮
  • 規模拡大によるスケールメリットでコスト削減
  • 人材・技術・ブランドを獲得し弱点を補強
  • 多角化により経営リスクを分散

これらの利点は、売り手・買い手が互いの期待を正直に共有することで最大化されます。価格だけでなく「従業員の処遇」や「会社の発展ビジョン」も交渉材料に含めることが、長期的な成功には欠かせません。

タイミングと準備期間が成否を左右する

M&Aは「ちょっと早いかな」と感じる時期から動き出すことで、業績が好調な間に高い評価を得られます。親族承継や社内承継と並行してM&Aを検討し、数年単位のプレDD(事前調査)で企業価値を高めておくことが望ましいとされています。

業績が良いうちに動くことで評価額が上がる

景気が良い、または自社の成長が続く局面で売却準備を始めると、買い手は将来の利益も見込んで高値を提示しやすくなります。

業界再編や好条件オファーを見逃さない

同業他社の再編が進み始めた時期や、魅力的な買い手からの打診があった時期は好機です。情報収集を怠らず外部アドバイザーのネットワークも活用しましょう。

プレDDで弱点を洗い出し改善する

2〜5年の中期視点で財務内容と内部管理体制を磨き上げることで、買い手との交渉力が高まり条件面で有利になります。

専門家とともに進めることでリスクを最小化

未熟なアドバイザーを選ぶと相手探しから契約まで全工程が停滞します。税理士や会計士を中心に、経験豊富な仲介会社を選び、FA形式か仲介形式かを自社の事情に合わせて決めることが重要です。

仲介形式は中小企業の主流でマッチング力が高い

買い手と売り手双方を支援し成約確率を高める仲介会社は、中小規模の案件で特に有効です。幅広いネットワークで最適な候補を提示してくれます。

FA形式は大型案件や利害が複雑な場合に有効

片側専任で交渉力を最大化するFAは、上場企業や多方面のステークホルダーがいる案件に向きます。手数料体系やサポート範囲を比較し適切な専門家を選びましょう。

M&A手法選択の判断基準と注意点

実務では「どの手法が自社に最適か」を判断する基準づけが欠かせません。

コスト・スピード・リスクを三軸で比較する

  • コスト
    登記費用や税負担、許認可の再取得費用を含めた総コストを試算します。
  • スピード
    株式譲渡は最短で完了できますが、従業員説明やPMI計画の準備時間も考慮します。
  • リスク
    簿外債務承継リスクの度合い、許認可の喪失リスクなどを洗い出します。


これら三軸のバランスが目的と合致する手法を選ぶことが失敗回避につながります。

専門家によるデュアルチェックで思い込みを排除

最初に選択した手法が本当にベストかどうか、税理士・弁護士・FAなど複数の視点で再確認すると思わぬ落とし穴を防げます。

組み合わせ手法で柔軟に設計するケースも増加

たとえば「株式譲渡で子会社化→数年後に吸収合併」という二段階シナリオを組むことで、初期の統合負担を下げつつ最終的なシナジーを最大化する事例が増えています。

M&A価格算定と企業価値評価の基礎

価格交渉の土台となる企業価値評価(バリュエーション)は、取引成立後の満足度を左右します。

時価純資産+営業権法は簡便に資産価値を示す

資産と負債を時価修正し、営業権(のれん)を上乗せして計算する方法です。中小企業で情報が限られる場合に重宝しますが、将来の成長性は反映しにくい点に留意しましょう。

EBITDAマルチプル法は類似企業比較で相場感を掴む

上場企業や取引事例の倍率を用いて計算するため、交渉の指標として納得感を得やすい手法です。過度に高い倍率を採用すると買い手の負担が大きくなり、PMIのプレッシャーが増すため注意が必要です。

DCF法は将来キャッシュフローを現在価値に割り引く

中堅・大企業や急成長スタートアップでは、DCF法で将来の収益性を精緻に評価します。前提となる事業計画を慎重に作り込み、資本コスト(WACC)を妥当な水準で設定することが信頼性向上の鍵です。

規模別に評価手法を使い分け合理性を高める

  • 中堅・大企業
    DCF法を主軸、EBITDAマルチプル法を補助
  • 中小企業
    EBITDAマルチプル法と時価純資産法を組み合わせ
  • ベンチャー
    DCF法とEBITDA倍率を併用し、マイナスシナリオも加味

三つのアプローチ併用で価格レンジを設定

インカム、コスト、マーケットの三アプローチを併用し、重ね合わせ領域を「交渉レンジ」として提示すると双方の納得感が高まります。

税金とコストを理解してトラブルを防ぐ

税負担と手数料はキャッシュフローに直結するため、事前把握が不可欠です。

株式譲渡は個人20.315%、法人約29.74%が目安

個人株主の譲渡益には所得税・住民税が分離課税20.315%で課されます。法人株主の場合は法人税等29.74%前後になるため、個人⇔法人いずれが譲渡主体かで手取りが大きく変わります。

事業譲渡は法人税+消費税など多重に発生

譲渡益に法人税等29.74%がかかり、課税資産には消費税10%も発生します。売り手は不動産取得税・登録免許税・印紙税などの付帯コストも把握しておきましょう。

買い手はPMI後の税務影響と繰延税金まで計算

のれん償却や繰延税金資産の回収可能性を見積もり、数年後の利益計画に反映します。適切な税効果会計を行わないと、想定外の税負担でシナジーが相殺される恐れがあります。

仲介・FA手数料は成功報酬型が主流

着手金ゼロでも成功報酬に最低額(例:2,000万〜2,500万円)が設定される場合が多いため、予算を確保しておきます。デューデリジェンス費用や株価算定費用もプールしておくと手続が滞りません。

補助金活用でM&A負担を軽減する

中小企業の場合、国の補助制度を活用すれば資金面の負担を抑えられます。

専門家活用枠は仲介手数料やDD費用に使える

事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)は、買い手支援型・売り手支援型があり、仲介会社への成功報酬やデューデリジェンス費用に充当できます。

経営革新枠でPMI後投資を支援

M&A後に設備投資や新サービス開発を行う場合、経営革新【Ⅰ型】【Ⅱ型】【Ⅲ型】の各枠を利用して最大1/2〜2/3の補助を受けられる可能性があります。

公募スケジュールをM&A進行と合わせて計画

補助金交付決定日から実績報告日までの期間にクロージングが間に合わない場合は再応募も検討できます。仲介会社と事務局に早めに相談し、無理のないスケジュールを組みましょう。

成功への実践チェックリスト

目的と戦略を明確化したら、次のチェック項目で準備状況を自己点検します。

売り手チェック項目

  • 後継者不在・財務安定・雇用維持など目的を整理したか。
  • プレDDで簿外債務・未払い残業代を洗い出したか。
  • 株主構成を整理し、意思統一を図ったか。
  • 主要取引先・従業員への開示タイミングをシミュレーションしたか。

買い手チェック項目

  • シナジーの源泉(販路・技術・人材)を具体的に定量化したか。
  • DCFやマルチプルで無理のない評価を提示したか。
  • PMI計画をデューデリジェンス段階から練り込んだか。
  • 融資や自己資本比率など調達計画を確定したか。

共通チェックリスト

  • NDA・基本合意・最終契約の条項を専門家と精査したか。
  • 価格以外の条件(従業員処遇、役員退職金、競業避止義務)を合意したか。
  • 交渉中の情報漏洩対策を実施したか。


適切にチェックを行い、未整備項目があれば速やかにアクションを起こすことで成功確率を高められます。

まとめ

M&A成功の鍵は「目的の明確化」「早期準備」「適切な手法・価格・税務対策」「信頼ある専門家との協働」です。売り手・買い手が真摯に情報を開示し、従業員や取引先を尊重しながら統合を進めることで、シナジーを最大化し持続的な成長を実現できます。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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