M&Aの基礎知識から成功のポイント、メリット、主要な手法、そして失敗事例まで詳しく解説します。企業の成長戦略としてM&Aを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
▶目次ページ:第三者承継とは(M&Aの注意点・成功ポイント)
M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略称で、企業の合併や買収を意味します。近年、経営戦略の一環として注目を集めているM&Aですが、その成功には正確な知識と適切な進行が不可欠です。
M&Aの主な目的は、複数の企業が統合や買収を通じて、それぞれが抱える経営課題を解決することにあります。例えば、事業拡大、新規市場への参入、技術獲得などが挙げられます。
M&Aのプロセスは通常、以下のような流れで進行します:
1. M&Aの目的と方向性の明確化
2. M&A仲介業者等への相談
3. 市場調査とM&A戦略の具体化
4. 候補企業の選定と交渉
5. 基本合意の締結
6. デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の実施
7. 最終条件の交渉と契約締結
8. クロージング(取引完了)
9. 統合プロセスの実行
10. M&A後の情報開示
このプロセスを理解し、各段階で適切な対応を取ることが、M&Aの成功につながります。特に、初期段階での目的の明確化や、デューデリジェンスにおける詳細な調査が重要となります。
M&Aの成功には、各段階での適切な対応が不可欠です。ここでは、状況別に成功のポイントを解説します。
M&Aの実施が決定したら、迅速な行動が鍵となります。最適なタイミングを逃さないよう、早期に準備を開始しましょう。具体的には以下の点に注力します:
1. 自社分析:売上高、採算性、強み、課題など、自社への理解を深める
2. 説明準備:相手企業からの質問に対し、明確に回答できるよう準備する
3. 市場調査:業界動向や競合他社の状況を把握する
これらの準備により、買い手企業の探索をスムーズに進めることができます。
条件交渉を成功させるポイントは、以下の通りです:
1. デューデリジェンスの徹底:買収監査・企業調査を確実に行い、リスクを把握する
2. 信頼関係の構築:売り手と買い手の双方で信頼関係を築く
3. 柔軟な姿勢:互いの要望を尊重し、win-winの関係を目指す
特に、デューデリジェンスは重要です。財務状況や法的リスク、知的財産権など、多角的な視点から調査を行うことで、予期せぬ問題を回避できます。
M&A完了後も、成功に向けた取り組みは続きます。以下の点に注意しましょう:
1. 従業員との関係構築:従業員の不安を取り除き、新体制への理解を促す
2. キーパーソンとのコミュニケーション:信頼される従業員との積極的な対話を心がける
3. シナジー効果の可視化:取引先の紹介やクロスセルなど、具体的な成果を示す
特に、従業員間のトラブルを防ぐため、コミュニケーションには十分な配慮が必要です。また、シナジー効果を明確に示すことで、M&Aの成果を社内外に示すことができます。
M&Aには、売り手と買い手それぞれにメリットがあります。ここでは、両者のメリットを詳しく見ていきます。
売り手企業にとって、M&Aは以下のようなメリットをもたらします:
1. 事業承継問題の解決
o 後継者不在の課題を解消できる
o 事業の継続性を確保できる
2. 雇用と取引の維持
o 従業員の雇用を守ることができる
o 取引先との関係を継続できる
3. 経済的利益
o 企業価値に見合った対価を得られる
o 株主への利益還元が可能になる
特に、中小企業にとって事業承継は大きな課題です。M&Aを通じて、長年築いてきた事業を存続させることができるのは大きなメリットといえるでしょう。
一方、買い手企業にとっても、M&Aは様々なメリットをもたらします:
1. 迅速な事業展開
o すでに稼働している事業を獲得できる
o 市場参入にかかる時間を大幅に短縮できる
2. 事業規模の拡大
o 売上高や市場シェアを即座に拡大できる
o スケールメリットによるコスト削減が可能
3. 事業の多角化
o 新規事業や新市場への参入機会を得られる
o リスク分散につながる
4. 自社の弱点強化
o 不足している経営資源を補完できる
o 技術やノウハウを即座に獲得できる
特に、新規事業立ち上げに比べ、既存事業を取得することで、迅速な事業展開が可能になるのは大きな利点です。また、相互の強みを活かしたシナジー効果も期待できます。
M&Aには様々な手法がありますが、ここでは代表的な5つの手法について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。
株式譲渡は、株式の売買により会社の経営権を買い手に移行する手法です。
メリット:
売り手:債務者保護手続が不要、会社の独立性維持が容易
買い手:従業員との再契約が不要
デメリット:
売り手:全株式売却の場合、株主全員の同意が必要
買い手:不要な資産や簿外債務を引き継ぐリスクがある
株式交換は、完全子会社となる企業の株式と、完全親会社の株式を交換する手法です。
メリット:
売り手:買い手の配当金受領権を得られる
買い手:譲受資金の準備が不要、経営統合が進めやすい
デメリット:
売り手:親会社が非上場の場合、取得した株式の現金化が困難
買い手:株式交付により株主構成に影響がある
合併には「吸収合併」と「新設合併」があります。
メリット:
売り手:従業員の雇用契約も買い手に引き継げる
買い手:シナジー効果を早期に発揮できる、譲受資金の準備が不要
デメリット:
売り手:会社が消滅する
買い手:システムや企業文化の統合に時間がかかる
会社分割は、事業の権利義務の全部または一部を分割して承継する手法です。
メリット:
売り手:特定の事業のみを切り離せる
買い手:譲受資金の準備が不要、シナジー効果を早期に発揮できる
デメリット:
売り手:株主総会の特別決議で3分の2以上の合意が必要
買い手:簿外債務を引き継ぐリスクがある、許認可の再取得が必要な場合がある
事業譲渡は、売り手の事業、資産、権利などの一部を選んで売買取引を行う手法です。
メリット:
売り手:譲渡対象の資産が少額の場合、手続が容易
買い手:必要な資産のみを対象とできる、簿外債務引継ぎのリスクが低い
デメリット:
売り手:株主総会が必要、従業員や取引先への対応が必要
買い手:資産の所有権や契約の移転手続が必要、不動産移転の場合は税金が発生
これらの手法は、各企業の状況や目的に応じて選択する必要があります。
M&Aは慎重に進めなければ、失敗に終わる可能性があります。ここでは、売り手と買い手それぞれの失敗事例を紹介し、その教訓を学びます。
売り手企業の主な失敗事例には以下のようなものがあります:
1. 情報漏洩によるトラブル
o 問題点:M&A検討中の情報が漏洩し、取引先や従業員に不安を与える
o 影響:取引先の離反、従業員の退職、M&A交渉の決裂
o 対策:情報管理を徹底し、関係者を限定する
2. 簿外債務の隠蔽
o 問題点:未払いの給与・残業代などの簿外債務を隠す
o 影響:買い手との信頼関係の破綻、M&A後のトラブル
o 対策:すべての債務を正直に開示し、透明性を確保する
これらの失敗を避けるためには、誠実な対応と徹底した情報管理が重要です。特に、簿外債務の隠蔽は法的問題にも発展する可能性があるため、絶対に避けるべきです。
買い手企業の主な失敗事例には以下のようなものがあります:
1. 期待したシナジー効果が得られない
o 問題点:M&A後に想定していた利益や相乗効果が創出できない
o 原因:事前の調査不足、過度な期待、異なる企業文化の統合失敗
o 対策:
徹底した事前調査(市場分析、財務分析、組織分析など)
現実的な期待値の設定
統合計画の綿密な立案と実行
2. 異業種企業の買収失敗
o 問題点:自社とは異なる業種の企業を買収したが、うまく経営できない
o 原因:業界知識の不足、経営ノウハウの違い、シナジー効果の過大評価
o 対策:
買収前の十分な業界研究
経営陣の留保や段階的な権限移譲
外部専門家の活用
3. デューデリジェンスの不備
o 問題点:買収後に予期せぬ負債や問題が発覚する
o 原因:デューデリジェンスの不徹底、時間的制約による調査不足
o 対策:
財務、法務、税務、人事など多角的な調査の実施
必要に応じて専門家の協力を得る
十分な調査期間の確保
これらの失敗を回避するためには、慎重かつ綿密な事前調査と、現実的な期待値の設定が不可欠です。また、M&A後の統合プロセスにも十分な注意を払う必要があります。
M&Aは企業の成長戦略として重要な選択肢ですが、その成功には綿密な準備と適切な実行が不可欠です。基本的な知識を身につけ、各段階でのポイントを押さえることが重要です。また、専門家のアドバイスを積極的に活用し、リスクを最小限に抑えながら、メリットを最大化する努力が求められます。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事