タイミング、年齢、平均年齢、中小企業、引退後、引退時期、引き際
このコラムでは、経営者の年齢変化と事業承継の相関性について詳しく説明します。これから間違いなく直面するであろう事業承継問題の一つの参考資料として、皆さんの役に立てることを願っています。
中小企業庁によると、経営者が60歳~70歳の間で引退するケースが最も多いです。10年という広い範囲ではありますが、従業員数によって傾向が異なることがわかります。
「従業員別、経営者交代による経営者年齢の変化」
このグラフから読み取れるのは、従業員数が少ないほど経営者の引退年齢が高くなるという傾向です。従業員数が少ない企業では、社長の引退が経営に与える影響が大きく、自分がいなくなると経営が立ち行かなくなるという考えから、なかなか決断ができず引退時期が遅れることが多いです。
一方で、従業員数が少ない企業では、社長交代後の経営者年齢が若くなることが多いです。これは親子間での事業引き継ぎがよく見られるケースで、企業規模が小さいほど家業として継続する事例が多く、それが統計で明らかになっています。一方で、企業規模が大きくなると、交代後の経営者年齢も上がりますが、親族以外の従業員が多いため後継者候補が豊富で、じっくりと引継ぎや人材育成に時間をかけられることが、このような数値に表れています。
「経営者の平均年齢の推移」
出典:東京商工リサーチ 全国社長の年齢調査(2019年12月31日時点)
▶目次ページ:事業承継とは(事業承継の問題・課題)
先のグラフを見ても分かるように、経営者の年齢は年々上昇しており、2019年には過去最高齢を更新し、平均年齢は62.16歳となりました。
このように経営者年齢が上昇しているのは、引退を決断できないだけでなく、後継者がいない、育成が不十分、後継者に適切な人材が見つからないなど、企業ごとにさまざまな事情があると考えられます。
「年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布」
さらに、2000年~2015年のグラフでは、特定の年齢層で引退する経営者が多いことがわかります。それに対して、2020年のグラフでは、経営者年齢の高い層が「60歳~64歳」、「65歳~69歳」、「70歳~74歳」に分散しており、グラフがなだらかな形になっています。これは、事業承継(廃業を含む)が早期に完了した経営者と、時間がかかったり、高齢になってから事業承継に着手した経営者が存在していることを示しています。また、70歳以上の経営者の割合は2020年でも上がっており、経営者の年齢上昇に伴って事業承継を行った企業と行っていない企業が二極化していることが見て取れます。
「経営者年齢別、増収企業の割合」
中小企業庁が発表したデータを元に、経営者の年齢が経営にどのような影響を及ぼしているかについて考察してみましょう。
30代以下の企業経営者は、増収割合が約60%と高い一方で、80代以上の経営者が率いる企業はわずか40%程度に留まっています。これは、経営者の年齢が上がるにつれ、増収企業の割合が低下していることしています。
また、経営者の年齢別の取り組み内容に関するデータも興味深いです。
• 年齢層が若い経営者ほど新しいことに挑戦し、投資活動を積極的に行っている
• その結果、増収につながっている傾向が見られる
• 一方で、同じ経営者が長期間在籍することで安定は保たれるものの、新規事業や投資に対して消極的になり、
伸び率が低下したり減収につながる場合がある
ただし、この傾向は一概には言えません。時代の変化に合わせて経営方針をアップデートする柔軟性を持つ経営者にとっては、年齢は必ずしも問題とはなりません。しかし、現実的には、自分の考えや方針が最善であると信じて疑わない高齢の経営者も多く、それが実際の業績に影響していることがデータからも読み取れます。
「経営者年齢別、設備投資の実施状況」
「経営者年齢別、新事業分野への進出の状況」
どの規模の会社であっても、社長の平均引退年齢は60代となっていますが、本来は何歳頃が引退の適齢期なのでしょうか。
会社の都合や本人の希望によっても異なりますが、引退する年齢として理想的なのは一般的に50〜55歳頃だと言われています。理由としては、経営者としてのピークの兼ね合いや、事業承継の準備に時間がかかることが挙げられます。一見若すぎるように思えるかもしれませんが、社長を引退した後も多くの選択肢があります。むしろ、まだ体力のあるうちに後継者にその座を譲ることで、また新たなことに挑戦する余裕を残すことになるでしょう。
社長ができるだけ早めに引退する、あるいはその準備を進めるべき理由をさらに詳しく解説していきます。
まず1つ目の理由として挙げられるのは、深刻化する後継者不足です。
以前の日本では現社長の子ども、またはその他の親族が後継者となることが当たり前の風潮がありましたが、現代においてそのような文化はなくなりつつあります。
こちらも2021年の中小企業白書のデータですが、以前は経営者となる経路として最大の割合を誇っていた「同族承継」は年々減少しています。
それに伴い、「内部昇格」の割合が徐々に大きくなってきています。
上図は2020年までのデータですが、最新の事業承継においては親族を除く社内からの昇進が主流になっていると言えるでしょう。
ただ、親族以外で目ぼしい後継者を選出するのも決して簡単なことではありません。
経験や実績だけでなく、他の従業員からの人望も重要であるため、適切な後継者を選出するためにも早めに事業承継に取りかかることが望ましいです。
後継者を選出できたとしても、すぐに新社長に就任できるわけではありません。
仮に1人の従業員として著しい成果を上げてきたとしても、経営者としての素質があるかは別であり、社長として全従業員を導くことができない可能性もあります。
どの承継方法でも同じことが言えますが、長く健全な経営を続けるために、数年〜十数年かけて後継者としての自覚を育み、適切な能力を身に付ける必要があります。
事業承継を成功させるためには、社内や身内だけでなく、取引先や顧客といった周囲の説得にもある程度の時間を要します。
従来の親族内承継であれば、社長の子どもということで周囲からも受け入れられやすいというメリットがありましたが、近年増加している親族外承継などではそう簡単にいきません。
中には後継者の選出に不満を抱く関係者が出てくるリスクもあるため、後継者の育成と並行し、周囲の説得にも時間をかける必要があります。
事業承継において、度々大きなハードルになり得るのが資金調達です。
仮に親族ではない社外の人物が後継者になる場合、先代の社長から経営権を引き継ぐためには、多額の株式を買い取る必要がありますよね。
しかし、一社員がそのような多額の資金を用意するのは困難であり、融資や補助金といった、様々な対策を講じる必要があります。
士業や事業承継の専門機関に相談する時間が必要になることもあり、準備に時間がかかる理由の1つになっています。
最後の理由として挙げられるのは体力の衰えです。
心身共に充実し、経営者として最も力を発揮できるのは40〜50代と言われていますが、60歳を超えると徐々に衰えを感じ始めます。
実際のところ、「事業承継は予想以上に大変だった」「もっと若いうちから取り組んでおくべきだった」という声を上げる経営者は多くいらっしゃいます。
これまでに、社長職を引退する際の注意点や手続きについて解説してきました。しかし、引退後の生活も長くなるため、そのライフプランについても考慮する必要があります。では、具体的に社長職を引退した後の人生設計はどのようになるのでしょうか?
社長を引退した後も、会社の運営に関わり続ける役職に就くことを選択するケースは珍しくありません。具体的な役職については、個々の事業や企業の状況により異なりますが、特に親族間での事業承継や社内での承継の場合、元社長は会長として後任の社長をサポートする役割を担っていることが一般的です。また、企業の買収や合併(M&A)を通じた承継の場合でも、譲渡企業のリスクを軽減するため、引き継ぎ期間の設置が求められます。この期間中、元社長は会社に残り新たな経営陣と協力して引継ぎを行うことがよく見られます。
さらに、若い年齢で社長職を引退する場合、まだ働く余力があることから、引き続き重要な役職を担いながら企業の業務に従事することが多いです。
社長職を引退し、会社との縁を切る場合、人生の新たなステージが幕を開けます。家族との時間を大切にするか、長期間の旅行を楽しんでリフレッシュを図るか、さまざまな選択肢があります。また、会社の売却益を利用して別の事業に挑むケースも存在します。
高齢で引退する社長の中には、過去の経営活動でプライベートな時間を失ってきた方も多くいらっしゃいます。そこで、退職後には好きなことに専念することを望むことで、充実した余生を送ることができます。一方、若い段階で引退し会社に残らない選択をする社長もいて、新たな挑戦に打ち込むライフスタイルが確立できます。
社会の高齢化や少子化の影響を受け、経営者の高齢化や後継者が見つからない問題は深刻化しています。成功する事業承継や廃業を余儀なくされる企業は後を絶ちません。経営者が自分がまだやっていけると考えたり、交代するにはまだ早いと感じたりすることはもちろんありますが、新型コロナウイルスのような予測不可能な出来事が起こる可能性もあります。何が起ころうとも、事業の維持ができるように、事前の準備や検討が大切だと言えます。
私たちの会社では、後継者が見つからない企業やM&Aに関する無料相談を行っております。お気軽にお問い合わせください。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画