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経営者の引退年齢は何歳?社長交代を決める4つの実務基準

経営者の平均引退年齢は68歳前後ですが、年齢だけで社長交代を決めると準備が間に合わないことがあります。健康、後継者、市場変化、周囲の状況という4つの基準から引き際を判断し、親族内承継、従業員承継、M&Aまで含めて準備時期と退任後の役割を解説します。

目次

  1. 経営者の引退年齢は68歳前後が一つの目安
  2. 社長を退く時期は4つの基準で判断する
  3. 引退予定日より先に承継方法を決める
  4. 50代から準備すると選択肢を残しやすい
  5. 引退後の役割と生活も先に設計する
  6. 引き際を誤らないために会社側の課題を整理する
  7. まとめ

中小企業経営者の引退と退任後を見据えた理想の引き際とは

経営者の引退年齢は68歳前後が一つの目安

「社長は何歳で引退すべきか」と聞かれても、会社員の定年のような一律の答えはありません。オーナー経営者は、健康で会社を動かせる限り、60代や70代になっても経営を続けられます。

一方、実際に社長が交代した年齢を見ると、60代後半が一つの目安です。帝国データバンクの2025年調査では、社長の平均年齢は60.8歳で、50歳以上が全体の8割を超えています。交代前の社長の平均年齢は68.5歳でした。

経営者の高齢化は続いています。後継者が決まらず、引退したくても退けない社長が増えていることも、平均年齢が上がる一因です。

平均引退年齢まで待ってよいとは限らない

68歳前後という数字は、引退準備を始める年齢ではありません。実際に交代が行われた時点の平均です。

たとえば、67歳で後継者を探し始めても、後継者の育成、取引先への紹介、株式の移転、金融機関との調整まで終えるには時間が足りないことがあります。平均年齢に達していないから大丈夫、と考えるのは安全ではありません。

年齢だけで引退を判断するのではなく、今の健康状態や会社の準備状況から逆算する必要があります。

中小企業の社長は引退を先送りしやすい

中小企業では、営業、資金繰り、採用、主要取引先との関係が社長個人に集中しやすいものです。

「自分が抜けたら会社が回らない」

こう感じる経営者は少なくありません。しかし、その状態こそ事業承継の準備が必要な合図です。社長への依存を残したまま年齢を重ねるほど、後継者や買い手が引き継ぎにくくなります。

突然の体調不良で準備が中断すれば、利益が出ている会社でも廃業せざるを得ないことがあります。いわゆる黒字廃業です。後継者がいない会社ほど、早い段階で複数の選択肢を持っておく必要があります。

社長を退く時期は4つの基準で判断する

社長の引退時期は、カレンダーだけで決めるものではありません。実務では、健康状態、後継者の状況、市場環境、周囲の動向という4つの基準を組み合わせて判断します。

4つのうち一つでも大きな不安があれば、すぐに退任しない場合でも、承継準備を始める段階に入っています。

1.健康状態と経営を続ける体力

経営者に必要なのは、長時間働ける体力だけではありません。重要な契約を判断する集中力、資金繰りへの緊張に耐える気力、問題が起きたときに素早く対応する行動力も必要です。

健康診断の数値に問題がなくても、重要な判断を先送りする、出張や会食が負担になる、以前より疲れが抜けにくいといった変化は見逃せません。

社長が短期間入院しただけで、支払や契約が止まる会社もあります。年齢に関係なく、社長不在でも会社が動く体制を作ることが重要です。

2.後継者の選定と育成の進み具合

後継者候補がいることと、実際に経営を任せられることは別です。

後継者には、決算書を読む力、従業員をまとめる力、取引先や金融機関と信頼関係を築く力が求められます。候補者が社内で働いていても、社長がすべての判断を続けていれば、経営者としての経験は積めません。

部門の予算、採用、設備投資、取引条件など、失敗しても会社全体を揺るがしにくい範囲から決裁権を渡します。その判断を一緒に振り返ることが、実践的な育成につながります。

市場や技術の変化に対応できているか

デジタル化、人手不足、原材料価格の変動など、経営環境は短期間で変わります。長年の経験は大きな強みですが、過去の成功方法にこだわると、新しい顧客や人材を逃すことがあります。

市場の変化は分かっていても、自ら先頭に立って対応する負担が大きいと感じるなら、若い世代へ経営を渡す時期かもしれません。

代表権を譲った後も、会長や顧問として経験を伝える方法があります。経営判断は後継者に任せ、先代は人脈や業界知識で支える形です。

同業者や経営者仲間の動向

同業者や経営者仲間の引退は、自分の将来を考えるきっかけになります。ただし、「知人の社長が70歳まで続けたから、自分も大丈夫」とは限りません。

会社の規模、後継者、借入、株主構成が違えば、必要な準備期間も異なります。周囲の引退年齢は参考にとどめ、自社で社長が1か月不在になった場合、何が止まるかを確認してください。

止まる業務が多いほど、承継準備の緊急度は高いといえます。

引退予定日より先に承継方法を決める

「65歳になったら辞める」と退任日だけを決めても、誰に何を引き継ぐかが曖昧では計画になりません。

引退準備では、退任年齢より先に、親族、従業員、第三者の誰へ会社を託すのかを検討します。承継方法によって、必要な期間、資金、税務や法務の手続が変わるためです。

親族内承継は本人の意思を早く確かめる

子どもが会社で働いていても、必ず継いでくれるとは限りません。家族だから話しにくいまま先送りし、引退直前になって断られるケースもあります。

本人の意思、経営者としての適性、配偶者など家族の理解を早い段階で確かめることが大切です。承継する場合は、育成計画と自社株式の移転を並行して進めます。

株式を贈与や相続で渡すのか、後継者に買い取ってもらうのかによって、税負担や資金計画は変わります。代表者だけを交代し、株式を先代が持ち続ける方法もありますが、経営権がどちらにあるのか分かりにくくなることがあります。

従業員承継は株式取得資金が課題になる

社内に信頼できる幹部がいる場合、従業員承継は有力な選択肢です。ただし、経営能力のある従業員が、自社株式を買い取る資金を持っているとは限りません。

経営者になる意思があっても、多額の借入や個人保証への不安から辞退することがあります。株式取得資金、経営者保証、他の役員との関係まで含めて確認が必要です。

肩書だけ社長にして、株式と重要な決裁権を先代が握り続けると、社内の指揮命令が二重になりやすくなります。新社長に何を任せ、先代がどこまで関わるのかを明確にします。

第三者承継は相手探しと条件調整に時間がかかる

親族や社内に適任者がいない場合は、M&A(合併・買収)による第三者承継を検討します。

会社を買い手企業へ譲ることで、従業員の雇用、取引先との関係、技術や商号を残せる可能性があります。経営者は株式の譲渡代金を受け取り、引退後の生活資金を確保することもできます。

ただし、買い手が見つかれば終わりではありません。譲渡価格、従業員の処遇、社長が会社に残る期間、個人保証の解除、会社の将来方針などを調整します。

健康上の理由で期限が迫ってから相手を探すと、条件を比較する時間が不足します。経営が安定しているうちに検討を始める方が、自社に合う相手を選びやすくなります。

50代から準備すると選択肢を残しやすい

50代や60代前半は、必ず引退すべき年齢ではありません。健康や気力があるうちに承継方法を比較し、会社の課題を直せる準備期間です。

事業承継は、手続だけなら短期間で終わる場合があります。しかし、後継者選び、育成、自社株式の整理、取引先への引継ぎまで含めると、少なくとも3年程度、一般には5年から10年ほどかかることもあります。

実際に引退する年齢と、準備を始める年齢は分けて考えなければなりません。

引退時期から逆算して準備を進める

10年前から5年前は候補者と会社の課題を確認する

この時期は、親族、従業員、第三者承継の可能性を一つに絞り過ぎず、広く比較します。

決算書、株主名簿、借入、個人保証、主要な契約を確認し、社長に集中している仕事も洗い出します。自社の利益や財産だけでなく、後継者が安心して経営できる状態かどうかを見ることが重要です。

後継者候補を一人に決めつけない

長男や専務を後継者と考えていても、本人の意思や家庭事情が変わることがあります。

複数の選択肢を持つことは、候補者を信用していないという意味ではありません。会社を止めないための備えです。親族内承継を第一候補としながら、従業員承継や第三者承継の可能性も確認しておきます。

5年前から3年前は経営の実務を渡す

後継者候補に、事業計画の作成、金融機関との面談、主要顧客への提案などを任せます。

先代は答えを先に示すのではなく、候補者がどのような根拠で判断したかを確認する役割へ移ります。経営判断を任せなければ、後継者はいつまでも部下のままです。

株式と借入を別々に考えない

代表者を変えても、株式が先代や親族に分散したままでは、新社長が重要事項を決めにくくなることがあります。

銀行借入に先代の個人保証が付いている場合は、金融機関との調整も必要です。経営、株式、借入、保証を一つの承継計画として扱います。

3年前から退任までは社内外へ段階的に示す

取締役や管理職へ役割分担を伝え、主要取引先や金融機関には適切な時期に後継者を紹介します。

社長交代の発表だけを先行させず、後継者がすでに実務上の判断をしている状態を作ることが大切です。取引先も、実際に対応している後継者の人柄や能力を見て安心します。

緊急時の代行体制も決めておく

正式な退任前でも、社長が急に入院する可能性があります。

支払、契約、労務対応、主要顧客への連絡を誰が担うかを決め、必要な情報と権限を共有します。緊急時の体制づくりは、そのまま事業承継の予行演習になります。

70代からの着手は時間の制約が大きい

70代からでも事業承継は可能です。しかし、体調の変化や不測の事態によって、後継者育成や買い手選定を急がざるを得ないリスクが高まります。

準備の途中で経営者が判断できない状態になれば、重要な契約や株式の移転が進まないことがあります。従業員や取引先が将来を不安視し、会社から離れるかもしれません。

黒字であっても、後継者がいないという理由だけで廃業する会社があります。廃業を決める前に承継の可能性を調べれば、会社を残せる余地が見つかることもあります。

引退後の役割と生活も先に設計する

経営者が引退を決められない理由は、会社への責任だけではありません。

「退任後に何をすればよいか分からない」

「収入がなくなるのが不安だ」

こうした悩みも、引退を先送りする原因です。退任後の役割や生活を具体的にすると、社長を退く時期を現実的に考えやすくなります。

完全に会社を離れる

十分な引継ぎを終えた後、役職を持たず、経営から完全に離れる方法です。

家族との時間、趣味、旅行、地域活動、新たな事業などへ時間を使えます。会社との関係を明確に切り替えられるため、新社長も自分の方針を打ち出しやすくなります。

一方、生活費や医療費を含む長期の資金計画が必要です。株式の譲渡代金、役員退職金、個人資産、年金を整理し、税引き後に使える金額を確認します。

会長や顧問として一定期間残る

取引先との関係や特殊な技術が社長に集中している会社では、会長や顧問として一定期間残ることがあります。

第三者承継でも、買い手企業から数か月から数年の引継ぎを求められる場合があります。急な交代による取引先や従業員の不安を抑えられる点がメリットです。

ただし、先代が日常の判断へ口を出し続けると、新社長の権限が弱くなります。残る期間、担当業務、決裁権、報酬、出社日数を事前に決めておくことが重要です。

「主要顧客を半年間引き継ぐ」「重要な相談を受けるだけにする」など、役割を具体化すると社内の混乱を避けやすくなります。

新しい事業や社会活動へ移る

50代や60代前半など、体力と気力がある時期に退任すれば、別の会社への投資、創業支援、社外役員、地域活動などへ経験を生かせます。

引退は、仕事を一切やめることだけを意味しません。経営責任から離れ、次の役割へ移る選択でもあります。

重要なのは、退任後の予定を会社の都合だけで決めないことです。本人と家族が望む生活を言葉にし、その実現に必要な時期と資金から逆算します。

引き際を誤らないために会社側の課題を整理する

引退年齢を決める前に、会社が社長なしで動ける状態かを確認します。

経営者本人が元気でも、会社側の準備が遅れていれば退任は先送りになりがちです。反対に、権限や情報が整理されていれば、経営者は希望する時期に引退しやすくなります。

社長に集中している仕事を見える化する

主要顧客との価格交渉、銀行対応、採用の最終判断、支払承認など、社長だけが行っている仕事を書き出します。

そのうえで、代わりに担当できる人を決めます。マニュアルを作るだけでなく、実際に代行させ、どこで判断が止まるかを確かめることが重要です。

会社の規模が小さいほど、社長への依存は強くなりやすいものです。ただし、小規模だから承継できないわけではありません。仕事を分け、後継者や買い手が理解できる状態に整えることで、引継ぎやすさは高まります。

株主構成と自社株式を確認する

代表者を交代しても、株式の整理が終わっていなければ事業承継は完了しません。

親族や元役員へ株式が分散している場合、譲渡や買取りの同意を得るまで時間がかかることがあります。株主名簿、過去の株式移動、株券発行の有無などを確認し、誰が何株を持っているかを明確にします。

親族内承継、従業員承継、第三者承継のどれを選ぶ場合でも必要な作業です。株式の整理は、相手との交渉が必要になるため、早めに着手します。

決算書と契約関係を説明できる状態にする

役員への貸付金、社長個人と会社の資産の混在、長期間動いていない在庫、口頭だけの取引条件があると、後継者や買い手は会社の実態を判断しにくくなります。

数字に誤りがあることだけが問題ではありません。第三者に分かるように説明できない状態も、承継を難しくします。

引退直前にまとめて直すのではなく、毎期の決算ごとに整理します。会社の実態が見えれば、親族や従業員は引き継ぐ覚悟を持ちやすくなり、第三者承継でも譲渡条件を検討しやすくなります。

引退の希望条件に優先順位を付ける

「価格は高くしたい」

「従業員は守りたい」

「早く退任したい」

「社名は残したい」


これらの希望をすべて同時に実現できるとは限りません。絶対に譲れない条件と、相手によって調整できる条件を分けます。

引退年齢を決めるとは、単に社長室を出る日を決めることではありません。誰に会社を託し、何を残し、自分はどの責任から離れるかを決めることです。

平均引退年齢を待たず、選択肢が残っているうちに準備を始めることが、納得できる引き際につながります。

まとめ

経営者の実際の引退年齢は68歳前後ですが、その年齢まで待って準備を始めるのでは遅い場合があります。健康、後継者、市場変化、周囲の状況を基準に、50代から60代前半で承継方法を比較し、株式、保証、権限移譲を整えることが重要です。親族や社内に後継者がいないときは、廃業を決める前に第三者承継の可能性も確認し、自社と引退後の生活の両方を守れる道を選びましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人