いつm&aすべき?最適な売却タイミングと好条件を得るコツ

会社や事業を第三者に承継するm&aでは、タイミングの良し悪しが譲渡価格や交渉の結果を左右します。この記事では、M&A・会社売却を検討する経営者の方に向け、タイミング選定の重要性や好条件を得るためのポイントをわかりやすく解説します。

目次

1.M&Aと会社売却の現状
2.M&A・会社売却のメリット
3.タイミングが重要な理由
4.いつが「売り時」か?
   4-1. 会社の業績が良いとき
   4-2. 経営者の体力や意欲が衰え始めたとき
   4-3. 業界再編や好況期など外部環境の変化
   4-4. 自社の強みが評価されるタイミング
5.好条件を引き出すためのコツ
6.業績が悪い会社のM&A
7.タイミング以外のM&Aでの注意点
8.会社売却の手段(株式譲渡・事業譲渡・会社分割)
9.まとめ

M&Aと会社売却の現状

M&Aや会社売却を検討する企業は、近年ますます増えています。後継者がいない、事業拡大に必要な資金やノウハウを十分に持てないなど、経営上の課題を解決するためにM&Aを選ぶオーナー経営者も多いです。

特に、経営者の高齢化に伴う事業承継問題が深刻化しており、「廃業するしかない」と諦めてしまう前に、第三者への承継としてM&Aを検討する例が増えています。

さらに、経済状況や業界動向も手伝い、M&Aの件数は上昇傾向にあります。事業の継続や拡大を目指すうえでM&Aが救済策となることもあり、今後も活発化が続く見通しです。

一方で、M&Aを成功させるためには、事前準備や交渉がスムーズに進むよう、ある程度の時間と手間、そして戦略が必要となります。M&Aが成立するまでに1年から数年かかる場合も珍しくありません。そのため、「いつ動き出すか」というタイミングは非常に重要となります。

M&A・会社売却のメリット

会社を第三者に譲渡するM&Aや会社売却には、次のような多くのメリットがあります。


廃業を回避できる

もし経営継続が厳しくなってしまうと、廃業にともなう手続や清算費用が大きな負担となります。しかし、M&Aや会社売却により適切な譲受企業が見つかれば、事業を存続させつつ必要な費用や負担を大幅に減らせます。


後継者問題を解決できる

オーナー経営者に後継者候補がいない場合、M&Aにより第三者が会社を引き継ぐことで事業の承継が可能となります。社名や従業員を守れるため、経営者の安心感にもつながります。


資本力やノウハウを活用できる

規模が大きい企業や同業他社のグループに入ることで、これまで不足していた資本・ノウハウを活用できます。事業を拡大するチャンスになり得るでしょう。


経営者のプレッシャーから解放される

オーナーとして会社を率いる責任から解放され、個人保証や連帯保証などの負担も譲受企業に引き継いでもらえることが多いため、経営者自身は新たな人生を選びやすくなります。


まとまった対価を獲得できる

廃業や清算では手続費用だけがかさむ可能性がありますが、M&Aの場合は会社を譲受企業へ引き渡す際に対価を得られます。その資金を新たな事業や老後の資金に充てられる点も大きなメリットです。

タイミングが重要な理由

M&Aや会社売却を検討する際、ただ思い立ったときに実行すればよいわけではありません。ベストなタイミングを逃すと、十分な譲渡価格が得られなかったり、譲受企業との交渉が難航したりする可能性が高まります。

特に景気が良い時期には譲受企業が積極的に動きやすく、譲渡企業に有利な条件が提示されることが多いです。逆に、タイミングを誤ると、買い手が集まらず価格や条件が悪化してしまうこともあります。

また、経営者の体力や事業の成長度合い、業界再編の動向などもタイミングを図るうえで欠かせない要素です。準備を始めるのが遅れると、体調不良や経営環境の変化によって売却の機会を逃し、結果的に会社の価値を下げるリスクがあります。

いつが「売り時」か?

ここからは、具体的に「M&Aや会社売却を検討すべきタイミング」を、いくつかのパターンに分けて解説します。

1.会社の業績が良いとき

会社の売却価格は、基本的に業績が良好なほど高くなりやすいです。営業利益が高く、将来の成長が期待できると判断されれば、複数の譲受企業からオファーが集まるかもしれません。競争が生じれば、自然と譲渡条件も有利になります。

また、会社の数字が良い状態であれば、譲受企業側としても安心して譲受を検討しやすいです。したがって「まだ元気なうちに売るのはもったいない」と考えずに、売上が伸びているタイミングでM&Aを選択するのも1つの戦略となります。

2.経営者の体力や意欲が衰え始めたとき

オーナー経営者の健康状態やモチベーションが低下すると、いろいろな意思決定が後手に回りがちです。M&A交渉は時間と労力が必要なうえ、成立後の統合(PMI)にも一定の労力がかかります。

体力があるうちに準備を始めておかないと、経営者自身の疲労や病気などで取引がスムーズに進まなくなるリスクがあります。「今ならまだ頑張れる」という段階でM&Aを考え始めるのが好ましいです。

3.業界再編や好況期など外部環境の変化

同業界で多くの企業が譲受や統合を進めているタイミングは、会社を譲り受けたいという需要も高まります。需要が高い時期ほど、譲渡条件が有利になる可能性が高いです。

また、全体の景気が上向きであれば、多くの企業が投資やM&Aに積極的になるため、複数の候補先からオファーが集まりやすくなります。ただし、好況期がいつまで続くか分からない点には注意が必要です。

4.自社の強みが評価されるタイミング

立地やブランド力、技術力、取引先ネットワークなど、自社独自の強みが大いに注目される時期は、売却に適したタイミングです。

例えば、立地が強みであれば、地域開発や好景気に伴い地価や周辺の価値が上昇したタイミングを逃さないようにしましょう。企業の強みが市場や買い手のニーズと合致したときこそ、好条件でのM&Aが成立しやすくなります。

好条件を引き出すためのコツ

M&Aや会社売却で譲渡企業にとって納得のいく条件を得るためには、タイミング以外にもいくつかのポイントがあります。以下の点を意識しておくと、スムーズに交渉を進めやすくなるでしょう。


早めに準備を進める

M&Aの準備は時間と手間がかかります。会社の財務資料の整備や事業内容の見直し、譲渡条件の希望などは早期にまとめておく必要があります。特に高齢の経営者の場合、体力や時間に制約があることが少なくないため、可能な限り早い段階から情報を整理することが大切です。早めの準備を行えば、自然と「いつ売るべきか」を判断する幅も広がります。


会社の業績を維持し、将来性を示す

業績が良ければ、M&Aにおける譲渡価格や条件交渉を有利に進めやすくなります。さらに、借入金の返済や営業体制の強化など、会社の将来性を感じさせる施策を進めることで、譲受企業からの評価が高まるでしょう。業績の下支えと同時に、将来に向けて伸びしろを示せるかどうかが大きなポイントです。


欲張りすぎない

複数の譲受企業が現れそうなときは、さらに条件の良い相手を求めたくなることがあります。ところが、過度に欲を出して交渉を長引かせてしまうと、タイミングを逃して最終的に条件が悪化する可能性も。譲受企業とのマッチングは「ベストな相手に巡り合う」ことが重要であり、「誰でも良いから少しでも高く売りたい」という考え方は危険です。適度なラインを意識しながら、納得できる相手かどうかを見極めましょう。


M&Aの目的を明確にする

M&Aに踏み切る理由が「後継者不在」なのか「他事業への集中」なのかによっても、譲渡時の条件や交渉スタンスは変わります。なぜM&Aを選ぶのかをはっきりさせたうえで「譲れない条件」と「譲歩できる条件」を整理すると、交渉をスムーズに進められます。例えば、今後も一定期間経営に関わりたいのか、あるいは完全に引退したいのかなども、事前に明確にしておくと良いでしょう。

業績が悪い会社のM&A

会社の業績が悪化している状況でも、M&Aによって活路を見いだせる場合があります。すでに売上や利益が下がり、経営者自身が体力的・精神的につらいと感じているなら、早めにM&Aを検討してみるのも選択肢の一つです。


経営意欲が低下している場合は早めの決断を

もし業績回復が難しく、経営者の意欲も落ちているなら、できるだけ早期に譲受企業を探すことをおすすめします。業績が落ち込むほど買い手はつきにくくなり、買い手が見つかっても譲渡価格がさらに下がる可能性が高いです。早い段階で専門家に相談し、会社の強みを洗い出して譲受企業を探したほうが得策でしょう。


経営意欲が残っている場合は多様な選択肢を検討

業績は悪くても、自力で経営を再生したいという意欲が強い場合、資本提携や業務提携など、M&A以外の手段もあり得ます。M&Aを選択するにしても「会社の中核人材として残る形」にするなど、売却後の働き方を柔軟に決めることが可能です。業績不振に陥っているからといって一概に諦めず、多角的な可能性を探ることが重要です。


強みをアピールする

業績は悪くても、技術力やノウハウ、立地条件などの魅力がある場合、譲受企業にとっては大きな価値になります。業績不振が続いていても、その要素をうまくアピールすることでM&Aを成立させ、会社の継続や改善につなげられる可能性があります。

タイミング以外のM&Aでの注意点

M&Aでは売却するタイミングだけでなく、情報漏洩や従業員への対応など、実務面での注意点も多く存在します。以下に代表的なポイントを整理します。


情報漏洩対策を徹底する

M&Aの手続が進んでいることが外部に知られてしまうと、交渉が破談になるケースがあります。従業員や取引先への情報解禁は最終合意契約を結んだ後に行うのが一般的です。秘密保持契約を締結したうえで、仲介会社が社内に出入りしていることを周囲に悟られないよう十分に注意しましょう。


ロックアップや競業避止義務の存在

M&A後も旧経営陣が一定期間会社に残る「ロックアップ」や、同業での競合事業を行うことを規制する「競業避止義務」などが契約で定められる場合があります。経営者がM&A後に同業種で再起を図ろうとしている場合は、会社売却の手段や契約内容を慎重に検討する必要があります。


従業員とのコミュニケーション

M&Aによって従業員が大幅にリストラされるのではないかという不安を抱えないよう、報告のタイミングと説明の内容を吟味することが欠かせません。従業員の不安が募ると早期退職やモチベーション低下につながり、業績にも悪影響を及ぼす恐れがあります。


M&Aの専門家に相談する

M&Aを検討する際には、税理士や行政書士などの専門家、M&A仲介会社などのサポートを受けることがおすすめです。特に会社売却に慣れていないオーナー経営者にとって、どこから手を付ければ良いのか分からない場合が多いからです。早い段階で専門家に相談すれば、自社に合った売却方法や、最適なタイミングをアドバイスしてもらえます。

会社売却の手段(株式譲渡・事業譲渡・会社分割)

M&Aや会社売却と一口に言っても、実際には複数の方法があります。代表的なものとしては「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」が挙げられます。


株式譲渡

経営者が持つ株式を譲受企業に売却する方式です。比較的手続が簡単で、会社の権利や義務がそのまま譲受企業に受け継がれます。経営体制を大きく変えずにスムーズに引き継げる反面、簿外債務などのリスクまで含めて譲受側が負担することになるため、デューデリジェンスの過程で慎重に調査を進めます。


事業譲渡

会社の特定事業や資産のみを譲受企業へ渡す方法です。譲受企業は必要な部門や事業資産だけを取得できるので、効率的にシナジーを狙える一方で、手続が煩雑になりやすい面があります。譲渡対象以外の部分は元の経営者が保有し続けるため、会社全体を手放すことに抵抗がある場合などに検討されるケースが多いです。


会社分割

会社を組織的に分割し、一部を別会社に承継させる方法です。従業員や取引先、特許などの権利関係を特定の事業単位ごとに整理できるメリットがあります。法律上の手続はやや複雑ですが、事業譲渡と似た特徴を持ちつつ、法人格の移転がスムーズに行える場合もあります。


いずれの手段も、会社の状況や買い手のニーズによって向き不向きがあります。税制面での負担や手続の難易度も異なるため、どの方法が自社に最適かは専門家と相談しながら決定すると良いでしょう。

まとめ

M&Aや会社売却は、後継者不在問題の解消や企業の成長、経営者自身の将来設計にとって有効な手段です。特にタイミングは売却価格や条件面に大きく影響します。会社の業績が良いとき、経営者の体力に余裕があるとき、業界再編や好景気の波が来ているときなどを逃さないよう、早めに準備を進めることが重要です。また、情報漏洩への注意やロックアップなどの契約条件を考慮しながら、専門家の力を借りてスムーズなM&Aを目指しましょう。会社の特徴や強みを生かし、将来につながるベストな選択を実現してみてください。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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