M&Aの各段階で必要な書類について詳しく解説します。選定段階から最終段階まで、重要な契約書や条項の内容、作成のポイントを紹介。M&Aを成功させるために押さえるべき書類の基礎知識を学べます。
目次
M&A(合併・買収)の選定段階では、いくつかの重要な書類を準備する必要があります。これらの書類は、M&Aプロセスを円滑に進め、関係者間の信頼関係を構築するために不可欠です。ここでは、M&A選定段階で用意すべき4つの重要書類について詳しく説明します。
アドバイザリー契約書は、M&Aをサポートする仲介業者と交わす重要な契約書です。この契約書の主な役割は、以下の点を明確にすることです。
• 仲介業者の業務範囲と責任
• M&Aサポートに対する具体的な報酬体系
• 免責事項
• 秘密保持の内容
アドバイザリー契約書を作成する際は、弁護士のサポートを受けることも検討しましょう。
ロングリストとショートリストは、M&Aの対象候補となる企業を整理するためのリストです。
1. ロングリスト
o 一般的に10社以上の候補企業をリストアップ
o M&Aの目的に合致する企業を幅広く選定
2. ショートリスト
o ロングリストからさらに条件を絞り込み、数社程度に絞ったリスト
o より詳細な条件設定を行い、最適な候補を選出
これらのリストを作成する際は、M&Aの目的を明確にし、それに合致する企業を慎重に選定することが重要です。
ノンネームシートは、売り手企業の匿名性を保ちながら、買い手候補企業に基本情報を提供するための書類です。主な特徴は以下の通りです。
• 売り手企業名を匿名化
• 最低限の情報のみを記載(例:エリア、業種、売上高など)
• 情報漏洩のリスクを最小限に抑える
ノンネームシートを使用することで、M&Aの成立可能性が不透明な段階でも、安全に情報交換を進めることができます。
秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)は、M&Aプロセスにおける機密情報の保護を目的とした重要な契約書です。主な必要性と条項は以下の通りです。
1. 必要性
o 機密情報の外部流出を防ぐ
o M&A検討の事実自体を秘匿する
o 取引先や従業員への悪影響を防止する
2. 主な条項
o 秘密情報の定義
o 秘密保持義務の内容と期間
o 情報の使用目的の制限
o 違反時の罰則規定
秘密保持契約書は、売り手と買い手が具体的な情報交換を行う前に必ず締結しましょう。これにより、両者の信頼関係を構築し、安全な情報共有環境を整えることができます。
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M&Aの交渉段階では、より具体的な情報交換や条件交渉が行われます。この段階で必要となる主要な書類について説明します。
企業概要書(インフォメーション・メモランダム、IMとも呼ばれる)は、売り手企業の詳細情報を記載した重要な書類です。作成のポイントは以下の通りです。
1. 記載内容
o 企業名、所在地
o 事業内容の詳細
o 財務状況(過去3期分の決算書など)
o 組織形態と人員構成
o 主要取引先情報
o 市場での位置づけや競合状況
2. 作成上の注意点
o 客観的かつ正確な情報を提供する
o 必要に応じて図表やグラフを活用し、理解しやすく工夫する
o 秘密保持契約を締結した相手にのみ開示する
企業概要書は、買い手が企業価値を評価する重要な判断材料となるため、慎重に作成する必要があります
意向表明書は、買い手がM&Aを実施する意向を表明するための書類です。主な内容と提出のタイミングは以下の通りです。
1. 主な記載内容
o 希望する買収価格の範囲
o 資金調達の方法
o M&Aの目的
o 想定するスケジュール
o デューデリジェンスの実施希望
2. 提出タイミング
o 企業概要書の内容を検討した後
o 具体的な交渉に入る前
意向表明書は法的拘束力を持たないものの、交渉をスムーズに進めるための重要な材料となります。
基本合意書は、M&Aの実施に向けて双方が合意した基本的な条件を記載する書類です。主な重要性と記載事項は以下の通りです。
1. 重要性
o 交渉の大枠を決定する
o 今後の進め方を明確にする
o 双方の認識を一致させる
2. 主な記載事項
o M&Aの基本条件(譲渡対象、譲渡価格の概算など)
o 守秘義務の内容
o 今後のスケジュール
o 独占交渉権の有無
o 契約締結までの諸条件
基本合意書も法的拘束力はありませんが、その後の交渉の指針となる重要な書類です。
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、買い手が売り手企業のリスクを詳細に検討するプロセスです。必要な書類の例は以下の通りです。
1. 財務関連
o 決算書、確定申告書(過去3期分)
o 月次試算表
o 固定資産台帳
o 固定資産税納税通知書
2. 法務関連
o 商業登記簿謄本
o 定款
o 株主総会議事録、取締役会議事録
o 株主名簿
3. 不動産関連
o 不動産売買契約書
o 不動産登記簿謄本
4. 人事労務関連
o 組織図
o 従業員名簿
o 雇用契約書
o 就業規則、退職金規程などの各種規程
5. 事業計画関連
o 経営計画書
これらの書類を適切に準備し、買い手に提供することで、円滑なデューデリジェンスの実施が可能となります。
M&Aの最終段階では、取引を法的に確定させるための重要な書類を作成します。ここでは、最終契約書とその重要な条項について説明します。
最終契約書は、M&A実施における双方の権利・義務を規定する最も重要な法的文書です。M&Aの手法によって、契約書の名称が異なります。
1. 株式譲渡契約書
o 株式の売買によって経営権を移転させる場合に使用
o 主な内容:譲渡株式数、譲渡価格、決済方法など
2. 事業譲渡契約書
o 事業の一部または全部を譲渡する場合に使用
o 主な内容:譲渡対象資産・負債、譲渡価格、従業員の処遇など
3. 吸収合併契約書
o 2つ以上の会社を1つに合併する場合に使用
o 主な内容:存続会社と消滅会社、合併比率、合併期日など
これらの契約書は、弁護士や税理士などの専門家のアドバイスを受けながら慎重に作成する必要があります。
最終契約書には、特に重要な3つの条項があります。これらの条項について詳しく説明します。
競業避止義務条項は、M&A成立後に売り手が競合する事業を行うことを一定期間禁止するものです。
1. 目的
o M&Aの目的達成を保護する
o 買い手の利益を守る
2. 主な範囲
o 禁止される競業の具体的内容
o 地理的範囲
o 期間(一般的に3~5年程度)
3. 注意点
o 合理的な範囲内で設定する必要がある
o 過度に広範囲な条項は法的に無効となる可能性がある
キーマン条項(ロックアップ条項とも呼ばれる)は、売り手の主要人物がM&A成立後も一定期間、買い手企業に留まることを定めた条項です。
1. 意義
o 事業の円滑な承継を確保する
o 重要な取引先や従業員の維持を図る
2. 設定方法
o 対象となるキーマンの特定
o 留任期間の設定(一般的に1~3年程度)
o 報酬や職務内容の取り決め
3. 注意点
o キーマンの意向を十分に確認する
o 過度な拘束にならないよう配慮する
表明保証条項は、売り手が買い手に対して企業の状態を保証する条項です。
1. 重要性
o デューデリジェンスで把握しきれないリスクを軽減する
o 買い手の安心感を高める
2. 主な内容
o 財務諸表の正確性
o 重要な契約や資産の状況
o 法令遵守の状況
o 訴訟や紛争の有無
o 知的財産権の所有状況
o 環境関連の法令遵守状況
3. 注意点
o 具体的かつ詳細に記載する
o 重要な事項の漏れがないよう注意する
o 表明保証違反の場合の補償条項も併せて検討する
これらの3つの条項は、M&A取引の安全性と円滑な事業承継を確保するために非常に重要です。各条項の内容や範囲については、両者の利害を適切にバランスさせながら、慎重に交渉・設定する必要があります。
M&Aの実施には多岐にわたる専門知識と経験が必要です。そのため、専門家の支援を受けることが非常に重要です。ここでは、M&A専門家の活用についてご説明します。
M&A専門家は、M&Aのプロセス全般をサポートし、円滑な取引の実現をサポートします。主なサービスと特徴は以下の通りです。
1. 主なサービス内容
o M&Aの戦略立案
o 候補企業の選定と評価
o デューデリジェンスの実施支援
o 交渉の代行や助言
o 各種契約書の作成支援
o クロージング(取引完了)までのフォローアップ
2. 特徴
o 豊富な経験と専門知識を活用できる
o 中立的な立場で交渉をサポート
o 複雑な法務・税務の問題にも対応
o 幅広いネットワークを活用した候補企業の紹介
3. 費用体系
o 完全成功報酬制を採用する場合が多い
o M&Aの規模に応じて報酬が決定される
M&A専門家を活用することで、以下のようなメリットが得られます。
• M&Aプロセスの効率化
• リスクの低減
• より有利な条件での取引実現
• 時間と労力の節約
ただし、専門家の選定に当たっては、実績や評判、専門分野などを十分に確認し、自社のニーズに合った専門家を選ぶことが重要です。
M&Aの実施には、各段階で適切な書類の準備が不可欠です。選定段階ではアドバイザリー契約書や秘密保持契約書、交渉段階では企業概要書や意向表明書、最終段階では最終契約書など、重要な書類を慎重に作成・検討する必要があります。また、競業避止義務条項やキーマン条項、表明保証条項など、特に重要な条項については十分な注意を払いましょう。
M&Aの成功には、これらの書類や条項を適切に管理し、専門家の支援を受けながら進めることが重要です。
著者|竹川 満 マネージャー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事