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中小企業M&A向け書類準備から作成の重要ポイントを解説

中小企業がM&A書類を整えるには何から始めれば良いのでしょうか?本記事では選定段階でのロングリスト作成から最終契約書の条項確認まで、税理士がわかりやすく解説し、失敗しない手順を示します。

目次

  1. M&A書類準備の全体像を理解する
  2. M&A選定段階で準備する書類一覧とポイント
  3. M&A交渉段階で必要な書類と作成の注意点
  4. M&A最終段階で作成する最重要書類と三大条項
  5. M&A実施における専門家活用のコツ

▶目次ページ:株式譲渡(株式譲渡の流れ)

M&A書類準備の全体像を理解する

M&Aでは、譲渡企業・譲受企業ともに段階ごとに異なる書類を揃えながら手続を進めます。準備不足は情報漏洩や条件交渉の行き詰まりを招き、交渉力を下げる恐れがあります。まずは「選定」「交渉」「最終契約」という三段階の流れを押さえ、それぞれで登場する主要書類と役割を整理しましょう。書類の性質を理解していれば、プロセス全体の見通しが立ち、専門家への相談も効果的に行えます。

M&A選定段階で準備する書類一覧とポイント

選定段階は「どの相手と交渉するか」を絞り込むフェーズです。ここで整える四つの書類が、その後の交渉スピードと信頼構築を左右します。

アドバイザリー契約書は仲介業務範囲と報酬を明確化する

アドバイザリー契約書は、M&Aを支援する仲介者との最初の取り決めです。

業務範囲
候補先探索、資料作成、交渉同席など具体的タスクを列挙し、漏れや重複を防ぎます。

報酬体系
着手金の有無、成功報酬率、最低報酬額を数値で示し、追加請求を避けます。

免責事項
仲介者が負わない責任を明記し、トラブル時の対応範囲を可視化します。

秘密保持
依頼中に得た情報の扱いを定め、情報漏洩の法的リスクを抑えます。

弁護士の同席による条項チェックを行えば、後工程で費用トラブルが生じる可能性を下げられます。

ロングリストとショートリストで候補を段階的に絞る

ロングリストは10社以上の候補を幅広く並べ、業種・地域・規模など大枠条件に当てはまる企業を可視化します。次にショートリストで2〜3社ほどに絞り込み、譲渡価格帯やシナジーの有無といった詳細条件を精査します。

作成時の注意

  • M&Aの目的(新市場進出、人材確保など)をあらかじめ文章化し、判断基準をぶらさない
  • 公開情報だけでなく、仲介者の業界知見を取り入れ客観性を高める
  • リスト更新日を記録し、情報鮮度を管理する

ロングリスト→ショートリストの流れは、市場調査からトップ面談までの時間を短縮し、交渉早期化に寄与します。

ノンネームシートで売り手情報を安全に提示する

ノンネームシート(ティーザー)は、売り手の社名を伏せたまま基本情報を提示する一枚ものの資料です。

記載内容
事業内容、所在地(都道府県レベル)、売上高レンジ、従業員数、譲渡理由など最低限

目的
買い手候補に関心度を確認しつつ、外部への噂拡散を防ぐ

作成ポイント

  • 数値はレンジ表記とし、特定を避けつつ事業規模をイメージさせる
  • 譲渡理由はポジティブな表現(後継者問題の解決等)で記載し、ネガティブ印象を排除

この資料を経て関心を示した譲受企業とは、秘密保持契約書を締結したうえで次段階の資料提供に進みます。

秘密保持契約書で機密情報流出を防止する

秘密保持契約書(NDA)は、機密情報の外部流出を防ぐ最重要書類です。

秘密情報の定義
財務諸表、顧客名簿、M&A検討事実など具体例を列挙

義務期間
交渉終了後も数年間保持する旨を設定し、後日の情報拡散を抑止

使用目的
M&A評価以外への転用を禁止し、競業利用リスクを回避

違反時の措置
損害賠償や差止請求を明記し、抑止力を確保

NDAは交渉開始前に必ず締結し、情報漏洩リスクを最小化してから詳細資料の授受へ移行します。

M&A交渉段階で必要な書類と作成の注意点

候補が絞られたら、いよいよ具体的条件を擦り合わせる交渉段階です。ここでは「企業概要書」「意向表明書」「基本合意書」「デューデリジェンス関連資料」という四種類の書類が中心となります。

企業概要書は買い手の評価判断を支える核心資料

企業概要書(インフォメーションメモランダム)は、売り手企業の実像を詳細に伝える冊子形式の資料です。

主要記載項目

  • 企業名・所在地・沿革
  • 事業内容と収益構造を図表で整理
  • 過去三期分の財務情報と主要指標
  • 組織図・人員構成・主要取引先
  • 市場ポジションと競合比較

作成時の工夫

  • 図表・グラフを多用し、経営実態を視覚化
  • 将来計画をシナリオ別に示し、成長可能性をアピール
  • NDA締結済の譲受企業にのみ配布し、情報拡散を抑制

正確かつ客観的な概要書は、買い手の企業価値評価を支え、過度な価格交渉を避ける盾となります。

意向表明書で買い手の本気度と条件を提示する

意向表明書(LOI)は、譲受企業が譲受価格帯や資金調達方法を記し、取引意欲を示す文書です。提出タイミングは企業概要書の検討後が目安です。

記載内容
希望価格レンジ、譲受目的、想定スケジュール、デューデリジェンス範囲など

特徴
法的拘束力は持たないが、交渉の道筋を共有する効果が大きい

注意点
提示額は「上限◯億円」等レンジで示し、デューデリジェンス結果による調整余地を残す

意向表明書が複数集まれば、譲渡企業は条件比較により最適な相手を選定できます。

基本合意書で交渉の大枠と独占期間を定義する

トップ面談後、双方の方向性が一致したら基本合意書(MOU)を締結します。

主な記載事項
譲渡対象、概算価格、独占交渉権の期間、守秘義務、今後のスケジュール

法的効力
一般条項は原則として拘束力を持たないが、独占交渉や守秘義務は拘束力を持たせるケースが多い

メリット
交渉の迷走を防ぎ、関係者のコミットメントを高める

基本合意があることで、デューデリジェンス実施中の横やりや情報流出リスクを抑えつつ、詳細協議に集中できます。

デューデリジェンスに必要な書類を網羅的に把握する

デューデリジェンス(DD)は「企業の健康診断」に例えられます。買い手は財務・法務・人事労務など多面的な観点で売り手を調査し、潜在リスクを洗い出します。円滑なDDには、下記五領域の資料を漏れなくそろえ、フォルダ構成やファイル名を統一しておくことが不可欠です。

財務関連
決算書・確定申告書(過去3期分)、月次試算表、固定資産台帳、固定資産税納税通知書など。金額が一致しない場合は注記を添付し、買い手の再計算作業を減らします。

法務関連
商業登記簿謄本、定款、株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿など。変更履歴を含め最新版を提示し、組織再編や定款改定の経緯を説明します。

不動産関連
不動産売買契約書、登記簿謄本。所在地と面積を一覧化し、担保設定の有無を明示することで調査時間を短縮します。

人事労務関連
組織図、従業員名簿、雇用契約書、就業規則・退職金規程など。提出前に最新の規程であるか確認し、未署名の契約書は署名捺印を完了させてから提出します。

事業計画関連
経営計画書、投資計画、予算実績管理表。将来予測の根拠となる前提条件を添付し、数字の算定プロセスを透明化します。

事前に社内で「資料提出チェックリスト」を回覧し、各部門が責任を持ってアップロードすれば、DD対応による業務停滞を回避できます。

M&A最終段階で作成する最重要書類と三大条項

交渉が最終合意に近づくと、法的拘束力を持つ契約書を作成し、クロージングに備えます。この段階でのミスは取引全体を白紙に戻すリスクがあるため、条項ごとの意図と影響を丁寧に整理します。

最終契約書の種類と特徴を理解し使い分ける

M&A手法により契約書の名称と記載内容は異なります。

株式譲渡契約書
株式売買により経営権を移転。譲渡株式数、譲渡価格、決済方法、クロージング条件を中心に記載します。

事業譲渡契約書
事業の一部または全部を譲渡。譲渡対象資産・負債、従業員の承継方法、取引先の承諾取得方法などを列挙します。

吸収合併契約書
複数社を一社に統合。存続会社・消滅会社の記載、合併比率、合併期日などが主要項目となります。

いずれも弁護士・税理士のレビューを受け、条項間の齟齬を排除することが重要です。

競業避止義務条項は譲受企業の事業価値を守る盾

競業避止義務条項は、売り手がM&A後に同業で直接競合する行為を一定期間・地域で禁じるものです。

期間設定
一般的に3〜5年が目安。長すぎると公正取引の観点で無効となる恐れがあります。

地理的範囲
事業エリアに合わせて都道府県単位など具体的に記載。

対象行為
製品やサービスを明確にし、抽象的文言を避けます。

合理的な範囲で設定すれば買い手のブランド保全が可能になり、売り手も将来的な新事業構想を描きやすくなります。

キーマン条項で事業承継後のノウハウ流出を防ぐ

キーマン条項(ロックアップ条項)は、経営の要となる人物が一定期間会社に残ることを定めます。

対象者特定
代表者だけでなく主要役員・技術責任者なども含めます。

留任期間
一般的に1〜3年。短すぎると実務移行が不十分となり、長すぎると退任意欲を削ぐ恐れがあります。

報酬設計
役職手当や成功報酬を明示し、モチベーションを維持します。

キーマンが安心して残留できる環境を提示すれば、従業員と取引先の信頼維持につながります。

表明保証条項でデューデリジェンスの限界を補完する

表明保証条項は、売り手が企業の状態について事前に「事実である」と保証する宣言です。

典型的記載項目
財務諸表の正確性、重要契約の有効性、訴訟の有無、税務申告の妥当性、知的財産権の帰属、環境法令遵守など。

違反時の補償
損害賠償額の算定方法や賠償範囲を具体的に示し、後日の紛争を抑制します。

情報更新義務
クロージングまでに新たな重大事象が発生した場合、速やかに通知する旨を設定します。

買い手は条項内容を評価して残存リスクに見合った価格調整を行い、売り手は過度な保証を避けることで責任範囲を適正化できます。

M&A実施における専門家活用のコツ

書類作成から交渉、クロージングまでを安全に完了させるには、各フェーズで専門家の知見を借りることが近道です。ここでは専門家が提供する具体的サービスと、選定時に確認すべきポイントを整理します。

M&A専門家のサービス内容とメリットを具体的に理解する

戦略立案
シナジー分析・譲渡価格レンジの試算を行い、根拠ある意思決定を支援します。

候補先選定
ロングリスト・ショートリスト作成を代行し、独自ネットワークを使って非公開案件を探索します。

デューデリジェンス支援
資料収集の指示書を作成し、部門横断での情報整理をサポートします。

交渉助言・代行
価格交渉やリスク条項の落とし所を第三者視点で提案し、感情的対立を防ぎます。

契約書レビュー
弁護士・税理士が条項の法務適合性と節税効果を同時に確認します。

クロージング後フォロー
PMI(統合プロセス)の手順書を提供し、統合初年度の混乱を抑制します。

これらをワンストップで受けられる点が専門家活用の最大メリットです。

専門家選定のチェックポイントを押さえる

実績件数と業界フィット
自社と同業種・同規模での成約経験があるかを確かめます。

報酬体系の透明性
着手金の有無、成功報酬率、最低報酬額、追加料金条件を一覧で提示してもらいます。

担当者の資格と人柄
公認会計士や弁護士資格の有無、コミュニケーションスタイルを面談で確認します。

守秘義務体制
機密保持契約の雛形や情報管理フローを開示してもらい、データ保護への姿勢を見極めます。

ネットワーク範囲
買い手・売り手双方へのアクセスチャネルが豊富かを質問し、候補不足リスクを回避します。

これらを総合評価し、自社の目的と価値観に合う専門家と契約すれば、書類面・交渉面の負担を大幅に減らせます。

まとめ

M&Aを成功させるには、段階ごとに適切な書類を準備し、条項の意味を理解して交渉を進めることが要です。特に最終契約書の三大条項はリスク管理の核心となるため、専門家と連携しつつ慎重に検討しましょう。

著者|竹川 満 マネージャー

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関への経営支援等に従事

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