M&Aと会社法の関係|会社売却で必要な手続と注意点を解説

M&Aでは、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割などの手法ごとに、取締役会・株主総会の承認や株主・債権者の保護手続が異なります。会社売却を検討する経営者向けに、会社法上の重要な手続と、実行前に確認すべき注意点を分かりやすく解説します。

目次

  1. M&Aで会社法を確認する理由
  2. 会社売却の手法ごとに異なる会社法手続
  3. M&A実行前に整理すべき社内承認と保護手続
  4. 手続不備が招く会社法上のリスク
  5. 会社法以外に確認すべき法律と専門家の役割
  6. まとめ

M&Aにおける会社法の役割と手続の実務や特別委員会まで解説

▶目次ページ:M&Aの種類・方法(のれん、法務)

M&Aで会社法を確認する理由

会社売却を考え始めると、経営者の関心は「いくらで売れるのか」「従業員や取引先はどうなるのか」に向きがちです。しかし、売却条件がまとまっても、必要な承認や通知が欠けていれば、予定した日に取引を実行できません。

会社法は、会社の設立、株式、役員、株主総会、決算、組織再編などの基本ルールを定める法律です。M&A(合併・買収)では、誰が意思決定をするのか、株主や債権者をどのように保護するのか、どの書類をいつ準備するのかを判断する基準になります。

会社法は関係者の利害を調整する

M&Aは、経営者同士が売買条件に合意すれば終わる取引ではありません。経営権が移り、株主、取締役、従業員、金融機関、取引先などの立場にも影響が及びます。

そのため会社法は、経営者だけで重要な変更を決めるのではなく、必要に応じて取締役会や株主総会の承認を得ること、反対する株主や債権者を保護することを求めています。

中小企業では、オーナー経営者が大半の株式を持ち、取締役も少人数というケースが多くあります。それでも、定款に株式の譲渡制限がある、名義上の株主が残っている、過去の議事録が不足しているといった問題は珍しくありません。

買い手の調査で問題が見つかれば、売却条件や実行日にも影響します。

M&Aに関係する会社法の範囲

会社法は8つの編で構成されています。M&Aで特に重要なのは、株式会社の株式や機関運営を定める第2編と、合併、会社分割、株式交換、株式移転などを定める第5編です。

株式譲渡や事業譲渡では、主に株式の譲渡制限、株主総会、取締役会、株主名簿などの規定を確認します。

合併や会社分割では、組織再編契約、反対株主の株式買取請求、債権者保護、事前・事後の情報開示なども問題になります。

会社売却の手法ごとに異なる会社法手続

「M&Aなら株主総会が必要」と一律に考えるのは適切ではありません。必要な手続は、株式を売るのか、事業を移すのか、会社そのものを再編するのかによって変わります。

主なM&A手法は、契約によって権利を移す株式譲渡・事業譲渡、会社法上の組織再編である合併・会社分割・株式交換・株式移転、新株を発行する第三者割当増資に分けられます。

株式譲渡は譲渡制限と株主名簿を確認する

株式譲渡は、経営者などの既存株主が保有する株式を買い手へ譲渡し、会社の経営権を移す方法です。中小企業の会社売却では、よく利用されています。

会社の法人格は変わらないため、会社が持つ資産、負債、契約関係、従業員との雇用関係は、原則としてそのまま残ります。個別に資産や契約を移す負担が少ない一方で、会社内にある簿外債務や法的リスクも買い手へ引き継がれます。

譲渡制限株式の承認機関を定款で確認する

多くの非上場会社では、定款に株式の譲渡制限が定められています。この場合、株主と買い手が株式譲渡契約を結ぶだけでは足りず、会社から譲渡の承認を受けなければなりません。

承認機関は、取締役会設置会社では原則として取締役会、それ以外の会社では原則として株主総会です。ただし、定款に異なる定めが置かれている場合もあります。

会社売却の検討を始めた段階で、定款と登記事項を確認し、必要な議事録や承認通知を準備することが大切です。

株主名簿の書換えまで手順に含める

株式を取得した買い手が会社に対して株主としての権利を主張するには、一般に株主名簿の名義を書き換える必要があります。

代金の支払、株式の譲渡承認、株主名簿の書換えなどを同じ日に完了できるよう、決済日の手順を組み立てます。株券発行会社では、原則として株券の引渡しも必要です。

株主名簿と実際の株主が一致しているか

中小企業では、株主名簿が長年更新されていないことがあります。名義上の株主と実際の権利者が異なる場合、経営者が全株式を売却できないおそれも。

株主名簿だけでなく、過去の株式取得資料、相続関係資料、増資や株式譲渡に関する議事録も確認します。

事業譲渡は承認決議と個別の移転手続が中心になる

事業譲渡は、特定の事業に属する資産、負債、契約、従業員などを選び、買い手へ移す方法です。不要な事業やリスクを切り分けやすい一方で、移転する対象を一つずつ特定し、必要な同意や名義変更を行います。

重要な事業譲渡では特別決議が原則

会社が事業の全部を譲渡する場合や、事業の重要な一部を譲渡する場合などは、原則として効力発生日の前日までに株主総会の特別決議が必要です。

一般に、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席した株主が持つ議決権の3分の2以上の賛成を得る必要があります。ただし、定款の内容や取引規模などによって、決議要件や承認の要否が変わる場合があります。

契約や許認可は自動的に移らない

事業譲渡では、取引先との契約、賃貸借契約、借入金、従業員との雇用契約などが、自動的に買い手へ移るわけではありません。一般に、契約相手や従業員の同意が必要です。

「事業を譲渡すれば契約も一緒に移る」と考えて交渉を進め、最終段階で主要取引先の同意を得られない。意外と多い落とし穴です。

重要な契約や許認可を引き継げるかは、基本合意を結ぶ前から確認します。

組織再編は包括承継と法定手続が特徴

組織再編には、合併、会社分割、株式交換、株式移転があります。契約上の地位や権利義務を、法律の効果によってまとめて承継できる場合がある一方、会社法上の手続は株式譲渡より複雑です。

合併と会社分割

合併は、複数の会社を1つに統合する方法です。既存の会社へ統合する吸収合併と、新しい会社を設立して統合する新設合併があります。

会社分割は、事業に関する権利義務の全部または一部を別の会社へ承継させる方法です。既存の会社に承継させる吸収分割と、新しい会社に承継させる新設分割があります。

会社分割では、分割契約や分割計画に記載した資産、負債、契約上の地位などを、原則としてまとめて承継できます。

株式交換と株式移転

株式交換は、既存の会社が別の会社の発行済株式の全部を取得し、完全親子会社の関係をつくる方法です。

株式移転は、1社または複数の会社が新たな完全親会社を設立し、その会社に既存会社の発行済株式の全部を取得させる方法となります。

これらの組織再編では、原則として株主総会の承認、反対株主への対応、事前・事後の書類備置などが必要です。債権者保護手続が必要かどうかは、選ぶ方法や対価の内容などによって異なります。

第三者割当増資は会社へ資金を入れる方法

第三者割当増資は、会社が新しい株式を発行し、特定の買い手に引き受けてもらう方法です。払込資金は既存株主ではなく会社に入るため、成長資金の確保と資本提携を同時に進めたい場合に利用されます。

ただし、新株の発行によって既存株主の持株比率は下がります。発行する株式数によっては、経営権が買い手へ移ることもあります。

非公開会社か公開会社か、発行価格が特に有利な価格に当たるか、支配株主が変わるかなどにより、取締役会または株主総会の決議、株主への通知・公告などが必要です。

株式譲渡では売却代金を経営者などの株主が受け取りますが、第三者割当増資では会社が資金を受け取ります。この違いは、M&A手法を選ぶうえで重要です。

M&A実行前に整理すべき社内承認と保護手続

会社法上の手続は、契約締結の直前に確認すればよいものではありません。株主への通知期間や債権者が異議を述べる期間があるため、後から必要性が分かると、M&Aの実行日を延期することになります。

取締役会と株主総会の承認

取締役会設置会社では、重要な財産の処分や譲受け、多額の借入れなど、重要な業務執行について取締役会決議が必要です。M&A契約の締結がこれらに当たるかは、取引規模や会社の状況に応じて判断します。

事業譲渡や組織再編では、会社法に基づく株主総会の承認が必要になる場合があります。

少数株主がいる会社では、決議に必要な議決権を早めに確認し、招集通知、株主向け資料、議事録などの準備期間を含めて日程を組みます。

名義株主や相続未了の株式を確認する

古い会社では、設立時の名義借りや相続手続の未了により、株主名簿と実際の権利者が一致していないことがあります。

経営者が「自分の会社」と認識していても、法的にすべての株式を持っているとは限りません。

株主名簿、株式の取得資料、相続関係資料、過去の議事録などを確認し、株式の権利関係を明らかにします。

反対株主の株式買取請求に備える

事業譲渡や組織再編に反対する株主には、一定の要件の下で、会社に対して保有株式を公正な価格で買い取るよう請求できる権利が認められています。

会社は、効力発生日や取引の概要を、法律で定められた方法によって株主へ通知または公告します。

通知の時期や、株主が反対の意思を示す手続を誤ると、想定外の資金負担や株主との紛争につながる可能性があります。

債権者保護手続には1か月以上を見込む

合併や会社分割などでは、会社の財産や債務関係が変わるため、債権者が不利益を受けないようにする手続が設けられています。

一般に、官報への公告と、会社が把握している債権者への個別催告を行い、異議を述べる期間を1か月以上設けます。定款で定めた公告方法などによっては、個別催告を省略できる場合もあります。

金融機関の同意は別に確認する

会社法上の債権者保護手続を行っても、借入契約上必要な金融機関の承諾を得たことにはなりません。

借入契約には、株主や経営者の変更、合併、会社分割、重要資産の譲渡などについて、金融機関への事前通知や承諾を求める条項が置かれていることがあります。

個人保証や担保の解除も含め、早い段階で金融機関との調整を始めます。

事前・事後の情報開示書類を備え置く

合併、会社分割、株式交換などでは、契約内容、対価、計算の考え方などを記載した書面や電磁的記録を、効力発生前から本店に備え置く手続があります。

効力発生後にも、手続の経過などを記載した書類を、法律で定められた期間にわたって備え置きます。

契約書を作成しただけで完了と考えず、書類の作成、備置開始日、株主や債権者からの閲覧請求への対応、保存期間まで管理することが重要です。

手続不備が招く会社法上のリスク

中小企業のM&Aでは、事業内容や収益力に大きな問題がなくても、議事録の不足や承認漏れによって、買い手の判断が止まることがあります。

会社法上の問題は、取引価格だけでなく「予定どおりに会社を売却できるか」にも直結します。

手続の不備は差止めや無効の訴えにつながる

株主総会の招集、決議、公告、催告、書類の備置などに重大な不備がある場合、組織再編の差止めや無効の訴えが問題になることがあります。

手続に不備があれば、直ちにM&A全体が無効になるとは限りません。しかし、実行日の延期、追加手続、損害賠償、株主や債権者との紛争につながる可能性があります。

買い手はリスクを避けるため、最終契約書で法定手続の完了を決済の条件にしたり、売り手に表明保証を求めたりします。

表明保証とは、会社や株主が、契約書に記載した事実が正しいと約束することです。手続不備の内容によっては、譲渡価格の減額や、売却後の補償義務につながることもあります。

取締役には善管注意義務と忠実義務がある

取締役は、会社のために必要な注意を尽くして職務を行う義務を負います。

十分な情報を集めず、合理的な検討をしないまま、会社にとって著しく不利な条件でM&Aを決定すると、善管注意義務や忠実義務への違反が問題になる可能性があります。

特に、経営陣が買い手となるMBO、支配株主が関係する取引、少数株主が残る取引では、価格や手続の公正性が厳しく見られます。MBOとは、会社の経営陣が自社の株式を取得するM&A手法です。

企業価値算定、複数案の比較、交渉の経緯、専門家から受けた助言などを記録に残し、取締役会が合理的に判断した過程を説明できるようにします。

特別委員会が必要となる場面

特別委員会は、一般的なM&Aで会社法上必ず設置する機関ではありません。

主に上場会社のMBOや支配株主による買収など、経営陣や大株主と一般株主の利害が対立しやすい取引で、公正性を確保するために活用されます。

独立社外取締役や外部専門家などが、取引の必要性、価格、交渉過程を検討し、取締役会へ意見を述べます。

一方、オーナー経営者が全株式を保有する通常の中小企業売却では、特別委員会を設けないケースが一般的です。株主構成と利益相反の程度に応じて判断します。

デューデリジェンスで確認される会社法書類

買い手は、デューデリジェンスで、対象会社が会社法に沿って運営されてきたかを確認します。デューデリジェンスとは、買収前に行う会社の調査です。

主に確認される資料は、次のとおりです。


・定款

・登記事項証明書

・株主名簿

・株主総会議事録

・取締役会議事録

・株式の発行や譲渡に関する資料

・決算書

・役員や株主との取引に関する資料


書類がないことだけでなく、実際の会社運営と書類の内容が食い違っていることも問題です。

過去の増資が株主名簿に反映されていない、役員選任の議事録がない、役員との利益相反取引について承認記録がないといった場合は、原因と影響を調べ、必要に応じて是正します。

会社法以外に確認すべき法律と専門家の役割

会社法上の手続を守れば、それだけでM&Aを実行できるとは限りません。取引方法、会社規模、業種、上場の有無によって、労務、競争法、金融規制、税務、許認可なども確認する必要があります。

労働契約承継法と雇用契約

会社分割では、労働契約承継法に基づく従業員への通知や、異議申出への対応が問題になります。

事業譲渡では、雇用契約を買い手へ移すため、原則として従業員本人の同意が必要です。

株式譲渡では、雇用主である会社自体は変わりません。ただし、M&A後に給与、勤務地、職務内容などを変更する場合は、労働法上の問題を別に検討します。

独占禁止法・金融商品取引法・業種別規制

一定規模以上の企業結合では、独占禁止法に基づき、公正取引委員会への事前届出が必要になる場合があります。

上場会社が関係する取引では、公開買付け、インサイダー取引、情報開示などについて、金融商品取引法や証券取引所の規則への対応も必要です。

建設業、運送業、介護事業などでは、許認可をそのまま引き継げるかが、M&A手法によって異なります。

株式譲渡では法人自体は変わりませんが、株主や役員の変更について届出や承認が必要な業種があります。事業譲渡では、買い手が許認可を新たに取得しなければならない場合もあります。

税務・会計は手取り額と実行可能性を左右する

同じ事業を引き継ぐM&Aでも、株式譲渡、事業譲渡、会社分割など、選ぶ方法によって課税関係と会計処理が変わります。

経営者個人の手取り額、会社に残る資金、消費税、繰越欠損金、のれんの処理なども含めて比較しなければなりません。

法的には実行できても、税負担や資金繰りの面で不利になる方法があります。反対に、税務だけを優先すると、契約承継や許認可の負担が増えることも。

法務、税務、会計を別々に検討するのではなく、同じ条件で比較することが重要です。

専門家へ相談する前に整理しておく資料

M&Aの初期段階では、少なくとも次の資料を揃えると、適切な手法と必要な手続を判断しやすくなります。


・最新の定款と登記事項証明書

・株主名簿と株式の取得経緯が分かる資料

・直近数年分の株主総会・取締役会議事録

・主要な取引契約、借入契約、担保・保証の資料

・許認可、届出、行政対応に関する資料

・直近3期程度の決算書と税務申告書


弁護士は会社法、契約、許認可などの確認、公認会計士や税理士は企業価値、会計、税務、手取り額などの検討、司法書士は登記手続などを担当します。

案件全体の日程と論点を管理する担当者を決め、各専門家の確認事項を一つの工程にまとめると、手続漏れを防ぎやすくなります。

まとめ

M&Aでは、選ぶ手法によって、必要な社内決議、株主への通知、債権者保護、書類の備置などが変わります。会社売却を予定どおり進めるには、価格だけでなく、定款、株主構成、契約、借入れ、許認可を早い段階で確認することが重要です。法務、税務、会計の専門家と手法を比較し、必要な手続から逆算して実行計画を整えましょう。

著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー 

野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事

編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人