家族間の株式譲渡には、贈与・売買・相続の3つの方法があります。上場株式と非上場株式で異なる手続、贈与税・相続税・譲渡所得税、低額譲渡のみなし贈与、自社株評価、事業承継税制を整理し、親族承継を進める判断軸まで分かりやすく解説します。
目次

▶目次ページ:親族内承継(株式の譲渡)
家族に株式を渡す方法は、贈与、売買、相続の3つです。どれも株主を変更する点は同じですが、必要な手続や税金、株式を渡す時期は大きく異なります。
「家族だから名義だけ変えればよい」と考えるのは危険です。契約や会社の承認、株主名簿の書換、税務申告が不十分だと、後から贈与税を指摘されたり、株主としての権利を行使できなかったりすることがあります。
最初に整理したいのは、株式を渡す目的です。単なる資産移転なのか、自社の後継者へ経営権を渡すのか、経営者が譲渡代金を受け取りたいのかで、適した方法は変わります。
上場株式は、証券市場で日々価格が付いているため、非上場株式より時価を把握しやすい株式です。贈与や売買では、証券会社を通じて家族の口座へ移管します。
相続の場合は、証券会社へ死亡の届出を行い、遺言書や遺産分割協議書などを提出したうえで、相続人名義の証券口座へ株式を移します。必要書類や手数料は証券会社ごとに異なるため、事前確認が必要です。
非上場株式には、証券市場で確認できる株価がありません。相続税や贈与税を計算するときは、会社の規模、利益、配当、純資産、株主構成などを基に評価します。
同じ会社の株式でも、株式を取得する人が経営を支配できる株主か、少数株主かによって、税務上の評価方法が変わる場合があります。
また、中小企業の株式には譲渡制限が付いていることが多く、売買や贈与の前に会社の承認が必要になることも。税金の計算だけでなく、定款や株主名簿の確認も欠かせません。
贈与、売買、相続には、それぞれ利点と注意点があります。税金が最も少ない方法だけを選ぶのではなく、後継者の資金、経営権、家族間の公平、実行時期を合わせて判断することが大切です。
実務では、株式の一部を生前贈与し、残りを相続させるなど、複数の方法を組み合わせることもあります。
贈与は、経営者が元気なうちに家族へ無償で株式を渡す方法です。自社株を後継者へ段階的に移しながら、経営の引継ぎを進められます。
一方、評価額が高い株式を一度に贈与すると、受け取る家族に多額の贈与税が生じる可能性があります。後継者に納税資金があるかも確認しなければなりません。
暦年課税では、1年間に受けた贈与の合計額から110万円を控除し、残額に贈与税率を掛けて税額を計算します。税率は贈与額などに応じて10%から55%です。
毎年110万円以下の贈与なら、通常は贈与税がかかりません。ただし、最初から複数年にわたって一定数の株式を渡す約束をしていると、各年の贈与ではなく、まとめて贈与する契約と判断される可能性があります。
贈与する年ごとに意思を確認し、契約書を作成することが重要です。
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫などへ財産を贈与するときに選べる制度です。
年間110万円の基礎控除に加え、累計2,500万円までの特別控除があります。特別控除を超えた部分には、一律20%の贈与税がかかります。
ただし、贈与者が亡くなったときには、この制度で贈与した財産を相続財産に加えて相続税を計算します。一度選ぶと、その贈与者からの贈与を暦年課税へ戻せないため、将来の相続税まで試算して選ぶ必要があります。
贈与では、贈与者と受贈者の氏名、対象となる株式、株数、贈与日、贈与する意思などを記載した贈与契約書を作ります。
契約書を作るだけでは不十分です。上場株式なら証券口座を移管し、非上場株式なら株主名簿を書き換えます。配当の受取りや議決権の行使も、株式を受け取った家族が行う状態にします。
名義だけを子に変え、親が配当を受け取り続けていると、実質的には親の財産であると判断されるおそれがあります。
売買は、家族が代金を支払って株式を取得する方法です。株式を売る経営者は代金を受け取れるため、老後の生活資金などを確保できます。
無償で株式を渡す場合よりも、他の家族に取引の公平性を説明しやすい点も利点です。一方、買う家族には株式の買取資金が必要になります。
借入で資金を用意する場合は、後継者の役員報酬や配当だけで無理なく返済できるかを確認します。返済負担が大きいと、承継後の生活や会社経営に影響しかねません。
個人が株式を売って譲渡益を得た場合は、原則として所得税、復興特別所得税、住民税を合わせて20.315%がかかります。
譲渡益は、売却額から株式の取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費が分かる契約書や払込資料を紛失していると、想定より税負担が増えることもあります。
相続は、株主である経営者の死亡によって株式を家族が引き継ぐ方法です。遺言書があれば、原則としてその内容に従います。遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行います。
相続税には、次の基礎控除があります。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続財産の合計が基礎控除を超える場合は、株式だけでなく、預貯金、不動産、保険金なども含めて相続税を計算します。税率は課税される金額に応じて10%から55%です。
相続の大きな注意点は、発生時期を選べないことです。後継者が決まらないまま相続が発生すると、株式が複数の相続人に分かれ、会社の意思決定に時間がかかることがあります。
遺言書を作り、株式を取得する後継者と、他の財産を取得する相続人を整理しておくことが大切です。
家族間の株式譲渡では、税金を計算するだけでなく、名義変更まで終える必要があります。特に非上場株式では、定款、株主名簿、株券の発行状況を確認してから進めます。
贈与では贈与契約書、売買では売買契約書を作ります。その後、証券会社所定の移管依頼書を提出し、株式を受け取る家族の証券口座へ移します。
受け取る人が証券口座を持っていない場合は、先に口座を開設します。証券会社によっては、同じ会社内の口座間でなければ移管できない場合もあるため、手続方法を確認しましょう。
上場株式の贈与税評価は、贈与日の終値だけで決まるとは限りません。贈与日を含む月などの株価を比較して評価するため、株数が多い場合は事前に税額を試算します。
証券会社へ死亡の届出を行い、戸籍関係書類、遺言書または遺産分割協議書、相続人の本人確認書類などを提出します。
株式を相続する人の証券口座へ移管した後、相続財産の合計額に応じて相続税の申告と納付を行います。
非上場会社では、定款に「株式を譲渡するときは会社の承認を受ける」と定めていることが多くあります。このような株式を譲渡制限株式といいます。
譲渡制限株式を売買するときは、株式を売る人などが会社へ譲渡承認を請求します。贈与も株式の譲渡に当たるため、無償で渡す場合でも承認が必要になることがあります。
承認する機関は、原則として取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会です。ただし、定款に別の定めがある場合は、その内容に従います。
売買では株式譲渡契約書、贈与では贈与契約書を作成します。
株式譲渡契約書には、対象株式、株数、譲渡価格、支払日、名義書換の方法などを記載します。家族間の売買でも、代金を実際に振り込み、その記録を残すことが重要です。
会社が株式譲渡を承認した場合は、取締役会議事録または株主総会議事録を作成し、承認結果を請求者へ通知します。法律上、会社が請求から2週間以内に通知しないと、原則として承認したものとみなされます。
売買や贈与が完了したら、会社へ株主名簿の書換を請求します。
株主名簿に新しい株主の氏名、住所、保有株式数などが記載されていなければ、原則として会社に対して株主であることを主張できません。
契約書を作っただけで終わらせず、株主名簿記載事項証明書などを受け取り、書換が完了したことを確認します。株券発行会社では、株券の交付も必要です。
家族間取引では、価格や支払方法を柔軟に決めやすい反面、税務上の根拠が曖昧になりやすい傾向があります。
「家族だから安く売っても問題ない」「毎年110万円以下なら必ず節税になる」と思い込まず、取引前に税額と資金の動きを確認しましょう。
家族へ株式を時価より著しく低い価格で売ると、時価と売買価格の差額を贈与したものとみなされ、買った家族に贈与税がかかることがあります。これを、みなし贈与といいます。
例えば、税務上の時価が3,000万円の株式を500万円で子に売った場合、差額の全部または一部が贈与と判断される可能性があります。
個人間の低額譲渡には、「時価の2分の1以上なら安全」という一律の基準はありません。株価の算定方法や取引事情を踏まえて判断されます。
身内だから安く渡したいという気持ちは自然です。しかし、根拠のない価格設定は、売買を選んだ意味を失わせることがあります。
非上場株式の相続税・贈与税評価では、一般に類似業種比準方式、純資産価額方式、これらの併用方式などを使います。一定の少数株主には、配当還元方式を使う場合もあります。
一方、第三者へ会社を売却するときの価格は、会社の純資産だけでなく、将来の利益、技術、顧客基盤、人材、買い手との相乗効果なども踏まえて決まります。
そのため、税務申告に使う株価と、M&A(合併・買収)で第三者が提示する価格は一致しないことがあります。どの目的で算定した株価なのかを明確にしましょう。
暦年課税で行った生前贈与のうち、相続開始前の一定期間に贈与した財産は、相続税の計算へ加算される場合があります。
2024年1月1日以後の贈与から制度が変更され、加算される期間は相続が発生した時期に応じて、従来の3年から段階的に7年へ延びます。
毎年110万円以下の贈与であっても、相続税の計算に影響することがあります。暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは、財産の総額、経営者の年齢、株価の見通しなどによって変わります。
贈与税や相続税は、原則として株式を受け取った家族が現金で支払います。株式の評価額が高くても、株式自体からすぐに現金が生まれるとは限りません。
売買の場合も、後継者がどこから代金を用意するかが問題になります。会社から不自然に資金を移すと、役員給与や配当など別の税金が生じる可能性もあります。
誰が、いつ、いくら支払い、返済や納税に必要な現金をどう用意するのか。株式を動かす前に、資金の流れまで書き出しておくと判断しやすくなります。
自社株の移転は、財産を渡すだけではありません。会社の方針を決める議決権と、経営責任を後継者へ渡す手続でもあります。
税金が少ない方法を選んでも、後継者が十分な議決権を持てなければ、承継後の経営が不安定になることがあります。
相続人全員へ株式を均等に分ける方法は、一見公平に見えます。しかし、株主が増えると、役員の選任や重要な投資などを巡って意見が分かれる可能性があります。
自社の経営を安定させるには、一般に後継者へ議決権を持つ株式を集め、他の相続人には預貯金や不動産など別の財産を渡す方法を検討します。
ただし、相続人には遺留分という最低限の相続権があります。後継者だけに株式を集中させる理由を説明し、他の家族とのバランスを取ることも欠かせません。
法人版事業承継税制は、一定の要件を満たす非上場会社の株式を後継者が贈与または相続で取得した場合に、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
特例措置を利用する場合、2026年7月時点では、特例承継計画を2027年9月30日までに都道府県へ提出し、原則として2027年12月31日までに贈与または相続が行われる必要があります。
事業承継税制は、最初から税金がなくなる制度ではありません。要件を満たしている間、納税を猶予し、一定の場合に免除される仕組みです。
適用後も、都道府県への報告や税務署への届出が必要になります。後継者が株式を手放すなど、要件を満たさなくなると、猶予されていた税金と利子税を納めなければならない場合があります。
制度を使えるかだけでなく、承継後も要件を守れるかを確認しましょう。
家族間で自社株を移すときは、少なくとも次の資料を確認します。
・定款
・最新の株主名簿
・直近3期程度の決算書
・株式を取得したときの契約書や払込資料
・家族関係と相続人が分かる資料
・遺言書
・会社借入れの個人保証に関する資料
・経営者から会社への貸付金に関する資料
資料が不足している場合は、株主や取得費を確認するところから始めます。名義株や所在不明株主が見つかることもあり、意外と多い落とし穴です。
後継者候補がいることと、実際に会社を引き継げることは別です。
本人に継ぐ意思がない、株式の買取資金を用意できない、経営者保証を引き受けられない、経営を任せる準備が整っていない。こうした事情により、親族内承継が進まないケースは珍しくありません。
親族承継にこだわり続けると、経営者の年齢や会社の業績によっては、選べる方法が少なくなることがあります。後継者候補と早めに話し合い、難しい場合はM&Aによる第三者承継も比較しましょう。
第三者へ株式を譲渡できれば、会社と従業員の雇用を残しながら、経営者が譲渡代金を受け取れる可能性があります。
ただし、親族間で使う税務上の株価と、第三者が会社を買うときの価格は同じではありません。自社株の税務評価、後継者の資金力、第三者へ売却した場合の想定価格と手取りを並べて検討することが大切です。
家族間の株式譲渡は、贈与・売買・相続の税額だけでなく、株価評価、会社の承認、名義変更、後継者の資金、経営権の集中まで一体で考える必要があります。特に非上場株式は、低額譲渡や株式分散が将来の負担になりやすい分野です。必要資料をそろえて各方法を比較し、親族承継が難しい場合は第三者承継も含めて早めに方針を決めることが大切です。
著者:竹川 満 マネージャー / M&Aアドバイザー
野村證券にて、法人・個人富裕層の資産運用を支援した後、本社企画部署では全支店の営業支援・全国の顧客の運用支援、新商品の導入等に携わる。みつきグループでは、教育機関・介護施設等へのM&Aを含む経営支援に従事
編集:M&A事業承継アドバイザーズ 編集部|運営:みつき税理士法人