家族間で進める株式譲渡方法と税務戦略、相続贈与の重要ポイント

家族間で株式を承継する方法には、相続・贈与・有償譲渡など複数の選択肢があります。どの方法を選ぶかで税金や手続が変わるため、事前の計画が肝心です。相続税や贈与税、所得税などへの対策をしっかり行い、スムーズな承継を実現しましょう。ここでは、各方法のポイントから税務面の注意点、メリット・デメリットまでわかりやすく解説します。

目次

  1. 家族間での株式移転における基本的な考え方
  2. 家族間で株式を移転するメリット
  3. 家族間で株式を移転するデメリット
  4. 株式の相続手続の進め方
  5. 株式の贈与手続の進め方
  6. 株式の売買手続の進め方
  7. 株式移転時の税務上の取扱い
  8. 株式移転時の税負担を軽減する方法
  9. 税金面で注意すべきポイント
  10. まとめ

家族間での株式移転における基本的な考え方

家族間で株式を移転する方法は、大きく分けると「相続」「贈与」「有償譲渡(売買)」の3つです。どの方法を使うかによって、必要となる手続や税負担が変わってきます。例えば、相続を選ぶときには相続税、贈与を選ぶときには贈与税、そして有償譲渡(売買)を選ぶときには譲渡所得に対する所得税や住民税が関わってきます。

さらに、家族間での株式移転には「相続人間の合意が得やすい」や「相続税や贈与税の特例を活用できる」といったメリットがある一方、資金負担や遺産分割協議などの課題が生じる可能性もあります。特に中小企業の後継者問題では、円滑に株式を承継できるかどうかが、会社の安定した経営に大きく影響します。経営者や後継者の意向を踏まえ、最適な移転方法を慎重に選ぶことが大切です。

家族間で株式を移転するメリット

家族間で株式を承継するメリットは、移転方法ごとに異なる特徴があります。以下では、相続・贈与・有償譲渡それぞれの代表的なメリットを整理します。

相続による承継のメリット

自動的な権利移転

被相続人(亡くなった方)の死亡と同時に株式の権利が相続人へ移るため、あらためて売買契約を結ぶ必要はありません。遺言書があれば、そこに指定された内容に従って株式の承継を行えます。

税務上の優遇措置

相続税には基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)があり、一定額までの相続には税金がかかりません。さらに、「事業承継税制」が適用できる場合は、要件を満たすことで相続税の納税猶予や免除も期待できます。

贈与による承継のメリット

計画的に進めやすい

生前に無償で株式を移転する方法です。贈与者(株式を渡す人)が健康なうちに後継者を育成しながら、段階的に株式を渡すことができるため、経営の引き継ぎをスムーズに行いやすいといえます。

節税のチャンス

暦年課税では年間110万円までの贈与税の非課税枠を利用できます。また、相続時精算課税制度(60歳以上の親から20歳以上の子への贈与が対象)を選択すれば、2,500万円まで贈与税がかからない特別控除も活用可能です。

有償譲渡(売買)のメリット

譲渡対価が得られる

譲渡する側(譲渡企業の経営者など)は、株式を売却することで資金を手にすることができます。老後の生活資金に充てたり、新しい事業の資金として使ったりする選択肢が広がります。

公正な取引によるトラブル回避

適正な価格で株式を譲渡すれば、ほかの相続人からの不満を抑えたり、贈与税の追徴リスクを下げたりすることができます。買う側(譲受企業側)が責任を持って事業を承継する姿勢を示しやすくなる点もメリットです。

家族間で株式を移転するデメリット

一方で、家族間の株式移転には以下のような課題もあります。後々のトラブルを避けるために、どの方法を選ぶ場合でも欠点やリスクを把握し、適切な備えをしておく必要があります。

相続のデメリット

相続人間の争い

株式を承継する相続人が複数いる場合には、「誰が経営権を持つか」「どのように株式を分配するか」を巡って意見が対立し、争いが生じるケースがあります。遺言書があっても、内容に納得できない相続人との衝突が起きる可能性も否定できません。

遺言書関連のリスク

遺言書が法的要件を満たしていないと、せっかく作成していても無効となることがあります。また、遺言書がない場合は遺産分割協議を行う必要があり、協議が長引くと、会社経営に支障をきたすおそれがあります。

贈与のデメリット

贈与税の負担

年間110万円を超える贈与には贈与税が課税されます。さらに相続時精算課税制度を利用する場合は、2,500万円を超えた部分に一律20%の税率がかかる点に注意が必要です。

生前贈与加算の対象

現行制度では、贈与後3年以内に贈与者が亡くなると、贈与した分が相続財産に加算され、相続税の計算対象になってしまいます。2024年からは加算期間が7年に延長されるため、一層計画性が求められます。

有償譲渡(売買)のデメリット

まとまった資金が必要

株式を買う側に資金力がない場合は、金融機関の融資を受けるなどの手段が必要になります。借入金の返済負担が経営を圧迫しないよう、十分にシミュレーションすることが大切です。

適正価格の算定リスク

著しく低い価格での取引は、実質的に贈与と見なされるおそれがあり、追加の贈与税が課されるリスクがあります。逆に高すぎる価格での取引は、買う側の資金負担が大きくなりすぎる可能性もあるため、公正な株価評価を行う必要があります。

株式の相続手続の進め方

家族間の株式移転で相続を選んだ場合、遺産分割協議や名義変更などの法的手続が必須となります。円滑に手続を進めるために、以下のポイントをしっかり押さえておきましょう。

相続人の決定方法

遺言書がある場合

遺言に従い、どの相続人が株式を承継するかを決めます。遺言執行者が指定されている場合は、その人が具体的な手続をリードします。

遺言書がない場合

法定相続人全員で遺産分割協議を行い、株式を誰が引き継ぐかを話し合います。ひとりが株式をまとめて相続するか、あるいは複数人で分割するかなど、柔軟な方法を検討することが可能です。

株式の名義変更手続

上場株式の場合

まず相続人名義の証券口座を開設し、被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本など必要書類を準備して、証券会社で名義変更を依頼します。

非上場株式の場合

会社に直接、株主名簿の書換申請を行います。相続税の申告時には株価評価を行う必要があり、会社の業績や類似業種の株価などを踏まえて評価額が決まるため、専門家のサポートが望ましいです。

株式の贈与手続の進め方

家族間で株式を贈与する場合、贈与者と受贈者の意思をはっきり示す手続や、名義変更などの事務作業が必要となります。ここでは、具体的な進め方を整理してみましょう。

贈与契約書の作成方法

必須記載事項

  • 贈与者(株式をあげる人)の氏名と住所
  • 受贈者(株式をもらう人)の氏名と住所
  • 贈与する株式の種類や数
  • 贈与を実行する日
  • 贈与の意思や目的
  • 贈与の実行方法(名義変更など)

作成時の注意点

口頭での贈与契約も法的には有効ですが、後日のトラブルを避けるため、書面(贈与契約書)で取り交わすのがおすすめです。贈与契約書には、贈与する意思が明確に示されている必要があり、後で税務署から確認を受ける可能性もあります。しっかりと書式を整えることで、スムーズな株式移転と正確な税務申告につなげやすくなります。

株式の名義変更手続

上場株式の場合

受贈者が証券口座を持っていない場合は、新規に開設します。

贈与契約書のコピーなど、証券会社が指定する書類一式を用意します。

移管手数料など必要な費用を確認し、証券会社に名義変更を依頼します。

非上場株式の場合

発行会社に対して贈与の手続を申請し、株主名簿の書換を行います。

必要な場合は株券の発行手続を行い、書類に不備がないか注意します。

贈与税の申告・納付を忘れずに進めます。特に相続時精算課税制度を利用するなら、確実な手続が重要です。

手続時の留意点

証券会社や発行会社の指定要件

株式移転の事務処理は各社ごとにルールが異なります。必要書類や手数料などをしっかり確認しましょう。

税務申告のスケジュール

贈与税の申告期限は、通常、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。期限内にきちんと申告しないと、ペナルティが科される可能性があります。

将来の相続との関係

生前贈与の後に贈与者が亡くなると、生前贈与加算(現行では3年、2024年から7年に拡大)により、贈与分を相続税の計算に含める場合があります。計画的に贈与を行うことが大切です。

株式の売買手続の進め方

家族間でも有償で株式を譲渡(売買)する場合は、契約締結や譲渡承認請求などの段取りが必要です。低額での取引が実質的に贈与とみなされるリスクもあるため、公正な手続をしっかり踏みましょう。

譲渡承認請求の手順

譲渡制限株式がある場合

非上場企業などで定款に「株式の譲渡には会社の承認が必要」と定められていることがあります。この場合、譲渡承認請求書を作成し、会社に提出しなければなりません。

承認請求書に記載する内容

  • 譲渡先の情報(買い手の氏名・住所)
  • 譲渡する株式の種類や数
  • 譲渡する価格(譲渡価額)
  • 譲渡理由(なぜ売買するのか)

提出時には定款や取締役会の規則などを確認し、書類に不足がないように注意しましょう。

株式譲渡承認の決議方法

承認機関

原則的に取締役会を設置している会社であれば、取締役会が株式譲渡を承認するかどうかを決定します。取締役会を設置していない会社であれば、株主総会で決議する場合もあります。

決議の選択肢

  • 譲渡を承認する。
  • 承認しない場合には、会社や第三者に株式を買い取ってもらう方法を提示する。

承認通知の送付手続

承認結果の通知期限

決議後2週間以内に通知しなければならないと定められることが多いです。もしその間に通知がなければ、譲渡承認があったものとみなすルールを定款で定めている会社もあります。

変更が必要な場合

当事者双方の合意があれば、通知期限を柔軟に決めることも可能です。書面のやり取りを迅速に行い、円滑に手続を進めましょう。

譲渡契約の締結方法

契約書の記載事項

  • 譲渡する株式数や金額
  • 表明保証事項(株式の状態や権利関係など)
  • 譲渡完了までの日程
  • 決済方法や支払時期
  • 双方の署名・捺印

家族間とはいえ、売買契約書をしっかりと作成することで、将来的なトラブルを防ぎやすくなります。

株主名簿の書換手続

手続の流れ

  • 株式譲渡が承認されたら、株主名簿の書換請求を行います。
  • 不発行会社の場合、売り手と買い手が共同で書換請求をする必要があります。
  • 発行会社の場合は、売り手からの単独請求で進められることが多いです。

株主名簿の書換が完了すると、正式に買い手が新株主となり、株主としての権利(議決権など)を行使できるようになります。

株式移転時の税務上の取扱い

家族間で株式を移転する際には、相続税・贈与税・所得税といった多様な税金が絡む可能性があります。それぞれ計算方法や申告期限が異なるため、事前に把握しておくことが大切です。

相続税の計算方法

課税価格の算出

  • まず課税遺産総額(被相続人が残した遺産の合計)を計算します。
  • 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を差し引いた金額に、各相続人に応じた税率をかけます。

注意点

相続が発生した時点の株価評価がポイントです。非上場株式の場合は、類似業種比準方式などで算定するため、専門家の協力が欠かせません。事業承継税制の適用要件を満たせば、納税猶予や免除の可能性もあるので、会社の状況に合わせて検討しましょう。

贈与税の計算方法

暦年課税の場合

  • 贈与税の基礎控除額は年間110万円です。
  • (年間の贈与額 - 110万円)に一定の税率をかけ、控除額を差し引いて計算します。

相続時精算課税制度の場合

  • 一人の贈与者から2,500万円までは贈与税がかかりません。
  • 超過した部分には一律20%の税率がかかります。
  • 後日、相続が発生した際に、すでに贈与された分が相続税の課税対象に加算される仕組みです。

所得税の計算方法

有償譲渡で得た譲渡益への課税

家族間であっても、有償譲渡(売買)により利益が出た場合、売り手側に譲渡所得が発生します。

  • 譲渡益 = (譲渡価額 - 取得費 - 譲渡にかかった諸経費)
  • 税率 = 20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

低額譲渡リスク

もし実勢より極端に低い価格で売買したと認定されれば、その差額は贈与とみなされる場合があります。贈与税の課税リスクを避けるためにも、株価評価を適正に行うことが重要です。

株式移転時の税負担を軽減する方法

税金の負担が大きいと、後継者の資金力や会社のキャッシュフローを圧迫する可能性があります。そこで、家族間での株式移転では、以下のような制度を駆使して税負担を和らげる方法がよく検討されます。

事業承継税制の活用方法

適用要件

  • 中小企業(要件を満たす非上場企業)であること。
  • 2018年1月1日から2027年12月31日までの間に特例承継計画を提出し、承継を行うこと。
  • 後継者が代表者となるなど、一定の要件を満たすこと。

税制上の優遇措置

相続税や贈与税の納税猶予・免除が認められ、雇用維持などの要件を満たせば、大幅に税負担を軽減できます。

注意点

承継後も一定期間、事業や雇用を継続するなど、継続要件を満たす必要があります。途中で要件を満たさなくなると、猶予税額の一部または全部を納付しなければなりません。

生前贈与の活用方法

暦年贈与の利用

贈与税の基礎控除額110万円を有効活用し、毎年少しずつ株式を移転していく方法です。相続税対策の一環として計画的に行うのが一般的です。

相続時精算課税制度の利用

  • 60歳以上の親(贈与者)から、20歳以上の子(受贈者)への贈与が対象。
  • 2,500万円までの特別控除を受けられるため、一度に大きな金額の株式を移転できます。
  • 将来の相続時に、この贈与分が課税対象に含まれる点に注意が必要です。

税金面で注意すべきポイント

家族間で株式を移転する際に見落としがちなのが、複数の税金が重複して課税されるケースです。相続税や贈与税、そして譲渡後に株式を売却した場合の所得税・住民税など、それぞれの仕組みを理解したうえで最適な方法を検討しましょう。以下では、具体的な注意点を挙げます。

予想外の税金が発生しないか

  • 相続が発生したときに相続税がかかるのはもちろん、基礎控除を超えるかどうかをしっかり把握する必要があります。
  • 贈与を選択しても、110万円を超えた分には贈与税が課されるため、移転する株式の評価額に注意が必要です。
  • 家族間の株式売買で利益が出た場合は、所得税・住民税が課される可能性があり、特に大きな譲渡益が出たときは要注意です

生前贈与加算のリスク

  • 生前贈与を行ってから一定期間内(現行3年、2024年から7年)に贈与者が亡くなると、贈与分が相続財産に加算されるルールがあります。計画的に生前贈与を活用しないと、節税効果が薄れる可能性があります。

低額譲渡や無償譲渡と見なされる可能性

  • 有償譲渡の価格があまりにも低いと、実質贈与と判断されて追加課税されるおそれがあります。家族間だからといって、常識を逸脱した価格設定をするとリスクが高まるので注意しましょう。
  • 無償譲渡そのものは贈与扱いとなり、贈与税の対象です。株式の評価額をきちんと把握し、必要な手続や申告を確実に行うことが重要です。

複数の税金をまたぐ総合的な検討

相続税・贈与税だけでなく、所得税や住民税も含めてトータルの税負担を検討しましょう。

短期的な節税だけでなく、会社や後継者の資金繰り、将来の相続を見据えた総合的な対策が求められます。

税理士への相談で安心感を

税金は制度変更が行われることも多く、特に相続や贈与、事業承継などの分野は複雑です。

適切な時期に専門家に相談しながら進めることで、余計な課税リスクや手続上のミスを防ぐことができます。

まとめ

家族間での株式移転には、相続・贈与・有償譲渡という大きく3つの方法があり、それぞれが税務面や手続の進め方で異なる特徴を持っています。株式の移転を円滑に進めるには、経営者の思いや後継者の意向、そして会社全体の将来設計を見すえた計画が必要です。相続税や贈与税、所得税などの負担を軽減するには、事業承継税制や生前贈与の制度を上手に活用しましょう。家族間での譲渡だからこそ、相続人同士のトラブルや低額譲渡に伴う課税リスクにも配慮することが大切です。ぜひ、税理士など専門家のサポートを活用し、会社の未来と家族の関係を守るための最適な方法を検討してみてください。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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