ロングリストショートリストで学ぶM&Aリスト作成のポイント

ロングリストとショートリストの違いや記載項目、それぞれの作成ポイントを解説し、M&Aで最適な相手探しをサポートします。本記事ではM&Aリストの概要から作成手順まで詳しくご紹介。ロングリスト・ショートリストの重要性を知り、候補企業選定に役立てましょう。

目次

  1. M&Aにおけるロングリストとショートリストとは
  2. ロングリストとショートリストの違い
  3. リストへの記載項目
  4. ロングリスト・ショートリストの作成方法
  5. 2つのリストの活用シーンと流れ
  6. お相手候補リスト作成のポイント
  7. まとめ

M&Aにおけるロングリストとショートリストとは

M&Aでは、「譲渡企業」と「譲受企業」とがそれぞれ最適な相手を探し出す必要があります。その際、自社が定めた条件に合う候補対象企業を最初に幅広くリストアップし、そこからさらに優先度の高い企業に絞り込む作業を行うのが一般的です。

このとき最初に作られるリストが「ロングリスト」、そこからさらに有力候補だけを厳選したリストが「ショートリスト」と呼ばれます。ロングリストは数十社から百社前後の候補対象企業を、ショートリストは5~10社程度の企業を記載することが多いです。

ロングリスト・ショートリストを作成する目的は、大きく以下の2つに分けられます。


  • 自社の条件に合う譲渡・譲受の相手を探す(能動的に候補を洗い出す)
  • 候補が多すぎる場合、より具体的に優先順位をつけて効率的に交渉を進める


特にロングリストは網羅的に候補を拾い、ショートリストはロングリストに掲載された企業の中から自社にとって高いシナジーが見込める相手を抽出するために作られます。こうした2つのリストを上手に活用することで、M&Aの初期段階で効率的に候補企業を洗い出せるようになるのです。

「ロングリスト」と「ショートリスト」の違い

ロングリストとショートリストはいずれも「候補対象企業をリストアップする」という点で共通していますが、その役割や作られるタイミングが異なります。ここでは具体的な違いを整理し、リストの作成意図がどう変わるのか見ていきましょう。

ロングリストの役割

ロングリストは、自社のM&A戦略に合う可能性がある企業を「とにかく広く網羅する」のが大きな役割です。

例えば、譲渡企業の場合であれば「譲受候補企業をできるだけ多くリストに載せる」、譲受企業の場合であれば「譲渡候補企業を幅広く洗い出す」といった具合です。掲載企業数は数十社から百社程度に及ぶことも多く、漏れがないように意識して作ることがポイントです。

ショートリストの役割

ショートリストは、ロングリストで洗い出した企業の中から、自社の経営戦略や事業に合う相手をさらに精査して選ぶリストです。

こちらは5~10社程度に絞り込まれることが多く、譲渡企業・譲受企業のどちらの立場でも、「本格的に打診してみたい、あるいは交渉を進めたい企業」を選んだリストとも言えます。

ショートリストの目的は、優先度の高い相手を見極めてスピーディにアプローチし、M&A実行につなげることです。そのため、企業の詳しい情報や期待できるシナジー(相乗効果)などもロングリストより詳しく記載する傾向にあります。

リストへの記載項目

ロングリスト・ショートリストを作成する際には、リスト内にどんな情報を書くべきかを決める必要があります。ここでは一般的に記載される項目例を見ていきましょう。

ロングリストに記載される情報

  • 企業名
  • 代表者名
  • 所在地
  • 売上高
  • 主要業種

ロングリストは「網羅」することが第一目的のため、基本的には企業の基本情報が掲載されます。大枠の条件だけで絞り込んでいる段階なので、情報もシンプルになりがちです。一方で、網羅的に企業を拾う必要があるため、広い視野をもって調べることが肝心です。

ショートリストに記載される情報

  • 候補対象企業の強み・弱み
  • 候補企業のM&A実績
  • 技術力やブランド力などの特徴
  • 自社とのM&Aによって期待できるシナジー


ショートリストでは、すでに「本格的に交渉したい企業」を厳選している段階です。そのため、それぞれの候補対象企業が持つ個別の特徴や、M&Aの実現可能性、売却・譲受後に見込めるプラス要素などを可能な限り詳しくまとめることが大切です。

譲渡企業から見れば、どの企業に譲渡することで自社の事業や従業員が一番安心して働けるか、譲受企業から見れば、どの企業を譲受することで事業拡大や技術獲得などの効果を得られるか、といった詳細な検討材料をまとめるわけです。

ロングリスト・ショートリストの作成方法

ここからは、具体的にロングリストとショートリストをどのように作成するのか、その手順や注意点を詳しく解説します。自社のM&A戦略と整合性がある候補対象企業を能動的に探すためには、しっかりした準備と計画的な情報収集が欠かせません。

ロングリストの作成手順

自社のM&A戦略や候補選定条件の整理

まずは、自社がM&Aを検討する目的や、譲渡・譲受の方向性をはっきりさせましょう。売上高や業種、地域、事業内容など、候補となる企業に求める条件を整理することが大切です。


  • 譲渡側なら「従業員の雇用継続が望めるか」「自社の企業文化を尊重してくれるか」
  • 譲受側なら「事業エリアや顧客層を拡大できるか」「技術やブランド力を得られるか」

といった視点が例として挙げられます。


情報収集

条件を整理したら、該当しそうな企業の情報を幅広く集めます。ウェブサイトやニュースリリース、信用調査会社のデータなどを活用するほか、非上場企業の場合は情報が少ないことも多いです。そのため、M&A仲介会社や金融機関、M&Aアドバイザーといった外部の専門家に協力を仰ぐことも検討しましょう。


企業リストへの落とし込み

集めた情報をもとに、数十社から百社程度の候補をリスト化します。ロングリストでは基本的に、企業名・所在地・売上高・業種などの基本情報を中心に記載し、網羅性を重視して多めにピックアップする点がポイントです。


リストの見直しと完成

ロングリストを作り終えたら、条件に大きく外れている企業が含まれていないかなど、最終チェックを行います。ロングリストは「その後の絞り込みを前提に、とにかく候補を落とさず盛り込む」役割が大きいため、無理に候補を減らしすぎないようにしましょう。

ショートリストの作成手順

ロングリストの精査

ロングリストをもとに、それぞれの企業が自社のM&A戦略に合致しているかを検討します。ロングリストに載せた基本情報だけでは判断しきれない部分は、追加調査も行います。例えば、譲受側であれば「その企業の強みは何か」「譲渡後に発展が見込めるか」といった詳細を調べ、優先度をつけていくのが大切です。


企業の強み・弱みやシナジー要素を分析

ショートリストに載せる企業の数は5~10社程度が目安です。候補企業ごとに、経営者の考え方や財務状況、保有している技術や商流などを調べ、自社とのシナジー(相乗効果)がどれだけ期待できるかを分析・比較します。


  • 強み・弱みの具体例: 主要取引先やブランド力、技術力、人材力など
  • シナジーの具体例: 顧客層の拡大、コスト削減、新商品・サービス開発など


優先順位づけと決定

譲受側の場合は「まず優先的にアプローチしたい相手はどこか」を明確にし、ショートリストの企業を格付けしたり順番を決めたりします。譲渡側の場合は「できれば事業を大切にしてくれそうな企業」「従業員が安心して働ける可能性が高い企業」を優先することが多いでしょう。


ショートリストの完成

絞り込みを終え、詳細情報を盛り込んだ企業リストがショートリストです。ここには主要な取引先や銀行、直近の財務データ、M&Aによって想定されるメリットなどを詳しく記載するケースが多いです。ショートリストが完成すると、具体的な打診や交渉をスタートしやすくなります。

2つのリストの活用シーンと流れ

ロングリストとショートリストは、M&A全体の流れの中でどのように活用されるのでしょうか。ここでは作成から交渉までのシーンを、時系列に沿って見ていきます。

1.M&Aの目的整理と条件策定

まず、M&Aによって何を成し遂げたいのかを明確にします。ここをしっかり固めないと、のちほど候補企業を評価する際に「どう判断していいか分からない」という事態が起こりがちです。


譲受側

新商品・新技術の獲得、販路拡大、同業他社の取り込みなど


譲渡側

後継者不在への対応、経営者の高齢化、事業の安定運営など

2.ロングリスト作成

M&Aの目的と選定条件に合う企業を幅広く洗い出し、ロングリストを作成します。このとき、企業名を伏せて相手へ打診する場合もありますが、それはM&Aアドバイザーなどが仲介して情報をやりとりするためです。

3.ショートリスト作成

ロングリストに基づき、自社の条件をより厳密に当てはめながら、優先度が高い企業を厳選していきます。譲渡側であればノンネームシートを使って相手の反応を見ることが多く、譲受側であれば経営陣の考えや財務指標などを掘り下げて確認し、「最終的に接触したい企業」をショートリストにまとめます。

4.優先順位に基づく交渉開始

ショートリストが完成したら、リストの上位から順に交渉を進めるのが一般的です。候補全社と同時並行で進める場合もありますが、企業ごとの条件や事情を考慮しながら優先度をつける方がスムーズに進むことが多いです。

お相手候補リスト作成のポイント

M&Aを円滑に進めるためには、ロングリストとショートリストの両方を丁寧に作り上げる必要があります。ここではリスト作成における主な注意点やポイントをまとめました。

M&A戦略や求める条件の明確化

自社のM&A戦略や、相手に求める条件(事業内容・地域・売上高など)が漠然としていると、せっかくロングリストを作っても「本当に必要な候補」を取りこぼす恐れがあります。逆に条件が曖昧すぎると、必要のない候補まで混在し、絞り込みに余計な時間がかかることにもつながります。

はじめに「何のためにM&Aをするのか」「必要とする業種やエリアはどこか」など、戦略や条件を具体化することがとても大切です。

情報漏洩に十分注意する

ロングリストやショートリストは、自社の戦略や事業内容を反映した重要な書類です。もし外部に情報が漏れてしまうと、従業員や取引先を不安にさせる要因になりますし、場合によっては企業価値の低下を招く恐れもあります。特にM&A検討の初期段階では、絶対に漏洩しないよう入念に管理しましょう。

シナジー効果(相乗効果)の明確化

ロングリスト・ショートリストを作成する際は、単に売上高や利益率だけを基準にするのではなく、「譲渡後、あるいは譲受後にどんなプラス効果が得られるか」を重視することも大切です。

  • 双方の強み・弱みが補完し合えるか
  • ノウハウやブランドが活用できるか
  • 新規事業の開拓や既存事業の拡大が見込めるか

こうしたシナジー効果を明確にできれば、譲受側も交渉の成果をイメージしやすく、譲渡側も「自社の将来がより安定する」と判断しやすくなります。

M&A仲介会社や専門家の力を活用する

自社だけで企業情報をすべて集めるのは難しいケースも多いでしょう。特に非上場企業は情報が十分に公開されていないことが多いため、外部の仲介会社や金融機関、税理士法人などの専門家の支援を得ると、情報不足を補いやすくなります。

  • 仲介会社: 多数のM&A事例やネットワークを持つ
  • 税理士法人・公認会計士: 専門的な税務・会計の知識を提供
  • 金融機関: 地域企業の情報などを幅広く把握

専門家の協力を得れば、リスト作成の精度が上がり、候補企業との交渉も効率化する可能性が高まります。

4ステップで進めるロングリストとショートリストの作成

ロングリストやショートリストを作成する流れを4つのステップとして紹介しています。ここまでの内容と重なる部分もありますが、改めて確認しておきましょう。


1. 自社のM&A戦略を策定する

何を目的にM&Aを行うのか、どんな効果を期待するのかを固めます。業種や事業規模、立地条件など、企業選びの基準も明らかにします。


2. 情報収集してロングリストを作成する

先に決めた条件をもとに、対象となり得る企業を幅広くピックアップします。各種データベースや信用調査会社、専門家からの情報提供など、あらゆる方法を総動員して候補をリストアップします。


3. 絞り込み条件を設定し、ショートリストを作成する

ロングリストに載った企業の中から、さらに自社が求める条件に合う候補を5~10社に厳選します。必要に応じて追加情報を取り寄せ、より詳しい企業評価を行います。


4. ショートリスト内の候補企業に優先順位を付ける

ショートリストに入った企業のどれから交渉に進むのかを決めることで、M&Aの検討を効率的に進めます。

M&Aリスト作成時に能動的なソーシングが必要な理由

M&A仲介会社や金融機関などから、外部の第三者としてM&A案件が持ち込まれるケースもあります。しかし、そのような持ち込み案件が自社のM&A戦略と必ずしも合うとは限りません。

受け身で案件を待つだけではなく、自社に合った譲渡・譲受の相手を「能動的に」探しにいく姿勢が大切です。ロングリスト・ショートリストを活用すれば、積極的に候補を検討できる体制を整えられるでしょう。


  • 譲受側は、目的に応じて技術力やブランド力を持つ企業を探し出しやすくなる
  • 譲渡側は、会社の将来を託せる相手を見つけやすくなる


こうした「自分から探す」ソーシング活動を行うためにも、ロングリストやショートリストの作成は非常に有効な手段と言えます。

まとめ

M&Aで最適な相手を探すうえでは、幅広い候補企業を網羅的にリスト化するロングリストと、優先度の高い企業に絞り込むショートリストの両方が欠かせません。ロングリストをしっかり作ることで重要な候補を見落とすリスクを減らし、ショートリストで本当に接触したい企業に集中することで、効率的に交渉を進められます。

情報不足を補うためにM&A仲介会社や専門家の力を活用したり、企業の強みやシナジー効果を分析したりしながら、ぜひ自社に合ったM&Aリストを作成してください。目標や条件をはっきりとさせ、リストの作成手順を丁寧に実践していけば、より充実したM&A検討が実現しやすくなるでしょう。

著者|土屋 賢治 マネージャー

大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画

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