M&Aのプロセスにおいて最適な候補対象企業を見つけるためには、まず候補対象企業のリストアップが不可欠です。これは、自社で条件を設定して網羅的に作成されるロングリストと、そのロングリストから絞り込んで作成されるショートリストという2種類のリストを作成することになります。この記事では、ロングリストとショートリストの概要、記載項目、作成時のポイントなどについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
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M&Aにおける最適な候補対象企業を見つけるためのリストとして、ロングリストとショートリストが存在します。それぞれのリストの意義や役割について説明し、M&A候補対象企業検討の際の参考にしていただきます。
ロングリストとは、自社で候補対象企業のリストアップ条件を設定し、網羅的にリストアップしたリストのことを指します。譲渡側が作成する場合は譲受候補企業を、譲受側が作成する場合は譲渡候補企業をリストアップします。
自社のM&A戦略に沿って業種や所在エリアなど自社で定めた条件をもとに、数十社から百社程度の候補対象企業をリストアップすることが一般的です。条件に合った候補対象企業の漏れがないよう網羅的な作成が求められます。
一方、ショートリストとは、作成したロングリストをもとに5~10社程度の候補対象企業に絞り込んだリストのことを指します。ショートリストでは、自社のM&A戦略実現に向けてシナジーが期待できる候補対象企業に優先順位を付けて絞り込みます。これにより、効率的な候補対象企業へのアプローチが可能となります。
候補対象企業のリストアップという点では両リストとも共通していますが、M&Aの検討フローにおいてはそれぞれ異なる目的があります。ロングリストとショートリストのそれぞれの違いについて解説し、M&Aの候補対象企業検討の際の参考にしていただきます。
ロングリストとショートリストは、それぞれ異なる役割があります。ロングリストの目的は、自社で設定した条件により候補対象企業を選定し、候補対象企業としての可能性がある企業を網羅的にリストアップすることです。
候補対象企業の検討を様々な角度から実施するため、網羅的に作成することが重要です。一方で、ショートリストの目的は、ロングリストから自社のM&A戦略実現に向けてシナジー効果が期待できる候補対象企業に絞り込むことです。自社のM&A戦略に適した候補対象企業と出会うためには、両リストの完成度が重要となります。そのため、それぞれの作成目的を理解した上で作成に取り組むようにしましょう。
譲渡側・譲受側共に、最初に、候補企業を総合的にリストアップしたロングリストを作成いたします。このロングリストを基に、シナジー効果が期待できる候補対象企業に絞り込んでショートリストを作成することが求められます。
譲渡側がショートリストを作成するタイミングとしては、ノンネームシートという、対象会社の簡単な概要を記載した書面を作成し、社名などは開示せずに譲受候補企業の興味度合いを確認した上で絞り込む方法が一般的であります。一方、譲受側がショートリストを作成するタイミングは、ロングリストをもとに、自社のM&A戦略を実現するためにさまざまな条件を考慮し、譲受対象候補企業の優先順位を割り当ててリストを作成いたします。
M&Aにおいて、リスト作成時に適切な情報を記載することが欠かせません。ロングリストおよびショートリストの一般的な記載項目について以下で解説いたします。これらの情報を活用し、完成度の高いリスト作成を実現してください。
ロングリストに記載する項目に決まりはありませんが、基本的な企業情報だけが記載されることが多いです。自社のM&A戦略に基づいて、候補対象企業に求める内容が異なるため、記載項目は作成する企業ごとに異なることがあります。しかし、以下に一般的な記載項目の例を紹介いたします。
• 企業名
• 代表者名
• 所在地
• 売上高
• 主要業種
ショートリストについても、ロングリストと同様に記載項目に決まりはありません。ロングリストでは網羅性が重視されますが、ショートリストでは自社のM&A戦略を迅速に実現するためにシナジー効果が期待できる候補対象企業に絞り込むことが求められます。そのため、ロングリストよりも詳細な情報が記載されます。以下に一般的な記載項目の例を紹介いたします。
• 候補対象企業の強み・弱み
• 候補対象企業のM&A実績
• 候補対象企業の技術力やブランド力などの特徴
• 自社とのM&Aで期待できるシナジー
M&Aにおけるリスト作成方法は、自社のM&A戦略に沿った形で行うことが重要です。M&A戦略の実現に向け、様々な観点から候補企業をリストアップすることが求められます。以下では、リスト作成方法について詳しく解説していきます。
まずは、ロングリストの作成について説明します。自社のM&A戦略に基づいて必要となる条件や項目を決定します。その後、ウェブサイトや調査会社を活用して、決定した条件や項目に適合する企業の情報を集めていきます。なお、自社だけでは対象企業の情報収集が困難な場合には、M&A仲介会社や専門家に相談することができるでしょう。
次に、ショートリストの作成方法について解説します。ロングリストをもとに、自社のM&A戦略に適合する企業を選び、M&A実施後に事業が継続可能かどうか等、求める条件に照らし合わせて候補を絞り込んでいきます。精度の高いリストとするためにも、対象企業の情報をできる限り収集することが大切です。
ここでは、M&A検討の全体的な流れの中で、ロングリストやショートリストがどのように活用されるかを説明します。全体の流れを把握した上で、リスト作成のタイミングや内容の検討ができるようになりましょう。
M&Aを通じて獲得したい目的に応じて、候補対象企業を選ぶ基準が変わってきます。M&Aの目的を明確に設定できないと、M&A実施後の効果を検証することができないため、自社でM&A戦略を練り上げ、候補対象企業を選ぶ基準を決めていくことが重要です。
自社で候補対象企業を選ぶ基準が決まったら、それに沿って企業情報を収集し、ロングリストを作成していきます。この段階では、企業名を伏せて打診することもあるでしょう。
ロングリストから、自社のM&A戦略実現に向けてシナジー効果が期待できる企業に対し、優先順位を付けて絞り込んでいくことで、ショートリストが完成します。ショートリストの候補企業数が多すぎると、検討や調査に時間がかかってしまうため注意が必要です。また、M&A実施までの時間を短縮するためにも、ショートリストの完成度が重要になります。
M&Aの交渉では、ショートリストで絞り込んだ優先順位が高い企業から交渉を進めるのが一般的です。優先順位の高い候補対象企業との交渉がうまくいけば、自社のM&A戦略実現へと近づいていくことができます。なお、候補対象企業とのコンタクトを図る際は、自社だけで行うのではなく、M&Aアドバイザーを通じて行うことが一般的です。
ロングリストとショートリストは、それぞれ異なる目的で作成されるため、必要な情報も変わってきます。以下では、それぞれのリスト作成において重視すべきポイントについて説明します。どちらのリストの精度も、M&Aの成功に向けて非常に重要な要素となりますので、参考にしてください。
候補対象企業の条件やM&A戦略が明確でないままロングリストを作成すると、選定に時間が掛かりすぎたり、相性のよい企業を見落とすリスクが高まります。そこで、まずは条件やM&A戦略を明確にすることが重要となります。
ロングリストやショートリストは、自社のM&A戦略に基づいて作成されるため、譲渡側・譲受側双方にとって非常に重要な自社の秘密情報となります。M&Aに関するリストの漏洩によっては取引先との関係が悪化したり、従業員の離職に繋がる危険性もあるため、M&A検討が完結するまで、リストの取り扱いに関しては細心の注意を払うべきです。
ロングリストやショートリストは、自社のM&A戦略に基づいて作成されます。そのため、候補対象会社とのM&Aによってどのようなシナジー効果が期待できるかを、譲受側・譲渡側双方が検討する必要があります。以下に示す要件を考慮してリスト作成を進めましょう。
• 双方の強みや弱みが補完関係になるかどうか
• 候補対象企業が持つノウハウが自社に転用できるかどうか
• 事業エリアの拡大や売上増加が期待できるかどうか
自社だけでリスト作成を行うと、情報不足や偏ったシナジー想定などで候補対象企業選定が狭まったり、重要な候補企業が見逃されることがあります。リストの完成度を向上させるために、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談することがお勧めです。
アドバイザーが持つ、普通では入手できない情報を活用することで、M&Aがスムーズに進行しやすくなり、更に大きなM&A効果を得られる可能性が高まります。ロングリスト作成の段階から専門家にアドバイスをもらうことを検討してみてください。
M&Aの成功には、適切な候補対象企業との出会いが非常に重要となります。ロングリスト作成をM&A候補企業選定の第一歩とし、ショートリスト作成により効率的にシナジー効果が期待できる候補対象企業との交渉を進めていくことが求められます。
著者|土屋 賢治 マネージャー
大手住宅メーカーにて用地の取得・開発業務、法人営業に従事。その後、総合商社の鉄鋼部門にて国内外の流通に携わる傍ら、鉄鋼メーカーの事業再生に携わる。外資系大手金融機関を経て、みつきグループに参画